テンプレ異世界料理
結局、凧は商会に権利を売りました。
それと言うのも大量に注文が来て、とてもじゃないけど個人生産じゃやれなくなったからです。
手持ちの32枚はあっさりと売れて、追加に何百枚とか言われてもな。
そんな訳で製法と権利を込みで商業ギルド経由で募集したところ、何件かの申し込みがあり、一番高い額を提示した商会に売る事になった。
その代わり、個人で使う以外は売れなくなった訳だけど、どのみち凧は看板の意味だったので構わないさ。
それにしても、凧の原理と材料と権利、これだけでかなりの額になったんだけど、本当に良かったのかな。
◇
凧で大儲けしたので、スラム街にてこ入れをする。
早い話がスラム街の建物をしっかりしたのを建てるお仕事を、彼らに発注した訳だ。
自分達が住まう住居を建てたら住めるうえに金がもらえるとあって、企画には大勢の参加者が出た。
それを聞き付けた領主様が、そう言う事ならと区画整理をして大勢が住めるようにするという。
そうして端から建て直していき、住民は雨漏りのしない住居に大満足の様子。
本当は領主様もスラム街の改革を考えてはいたんだけど、予算が出ないから二の足を踏んでいた案件だったとか。
確かにかつての領主様は柱を建てて終わったが、そんなご先祖様に不満を持っている今の領主様は何とかしたいと思っていたらしい。
確かに非課税の土地へのてこ入れは市民の不満になるだろうけど、領主様としてはそれならスラムに住めばどうだと、そういう考えらしい。
早い話がスラムに住むと言う事は市民のステータスを捨てるような振る舞いで、それでも構わないなら好きに住めば良いらしい。
その代わり、盗難に遭っても犯人探しはしてくれないし、何かに利用されても補填はしてくれない。
そういう市民が持つ特典が無意味になる土地なので、皆はあえて税金の必要な土地に住んでいる訳だ。
大体、スラムに商会作っても信用とか皆無だしな。
そうしてこの町の税金は他より安いらしく、そのせいで予算が少ないせいで、尚更改革がやれないんだとか。
なのであの石鹸も実は予算の足しにと、王都で上級貴族と王族に向けて販売されており、倍以上で売って済まんなと言われた。
ああ、やっぱりそうなんだ。
あり得ない高額と思ったけど、大銀貨5枚ぐらいで売っているっぽいな。
それでも一度売り渡した品なので、お気になさらずと答えておいた。
どのみちオレにはそんな伝手は無いんだし、ある者がある所に売るだけの話だ。
こういうのは営業畑では当たり前の事なので、特に不満には思わないのさ。
◇
凧問題が片付いたと思ったら、タコの問題が発生した。
何を言っているのか分からないって?
つまりだね、海にタコみたいな生物がいるらしいんだ。
そいつはオクトンと言うらしく、オクトパスと何か関係があるのかな?
日本人は来てなくても外国人は来た事があるのかも知れない。
そのオクトンだけど、困っているらしい。
確かに食える事は食えるんだけど、食べ方が分からずに安価で売られているけどあんまり需要が無いらしい。
その癖、たくさん獲れるのでスラムの連中の常食になっているとも聞いた。
あいつらはあれをぶつ切りにして、串に刺して焼いて食うんだとか。
何も付けないから味が無いけど、腹の足しになるから仕方なく食べているとか聞かされては、日本人として黙ってはいられない。
まずは鍛冶屋と相談だ。
たこ焼き鉄板を作らせようと、金に糸目を付けずに発注をする。
直径4センチぐらいの球が半分埋まるぐらいのへこみをつらつらと作ってくれと伝え、金貨2枚の前払いで請け負ってくれた。
2千万円相当? それがどうした。
食に関しては妥協は無しだとばかりに、市場で似た品を探してみる。
ソースらしき代物が見つからないので、串肉屋と相談して肉を焼いた時に出る汁を集めてもらうように交渉し、高く買い取る事で合意。
キャベツっぽい野菜を発見したが、スバロ菜と言うらしいな。
スバロという国の特産品で、こちらにも種が流れてきて栽培するようになったとか。
これも付け合せにするぐらいで、単体で食べるのはスラムの連中ぐらいだとか。
青海苔はさすがに無いかと思えば、海草乾燥粉末ってのを見つけた。
緑色の粉なのが気になるけど、もどきと思えば問題無い。
削り節じゃなくて、干した魚を更に乾燥させカラカラになったところで粉末にした代物があるらしい。
そいつはスープの元になるらしく、野営の時のスープに使ったりするらしい。
削り節もどき、ゲットです。
◇
鉄板が完成したので運んでもらいました、スラムに。
よく行くのでオレ用の廃屋みたいなのをもらっており、中で一服したりするんだけど、そこに魔導コンロを持ち込んで、今日はたこ焼きもどきです。
ギルドで皿やら串やらを買ったのも持ち込んで、いよいよ作業開始です。
鉄板を魔導コンロに載せて、まずはそのまま焼きます。
程良く焼いたところで冷まし、油を塗って再度焼きます。
しばらくそのまま焼いた後、一度冷ましておきます。
というか、準備していたら自然と冷めるよな。
ケインが来たのでこれから面白い物を作ると伝えておく。
「何が面白いの? 」
「面白い食べ物だ」
「それ、食っていいの? 」
「もちろんさ」
「やったね」
小麦粉を溶いてロット鳥の卵を入れて混ぜておく。
魔導コンロスイッチオン……
へこんだ鉄板の部分に油を付けて流し入れ、オクトンの足を細切れにして入れる。
後はスバロ菜のみじん切りを入れて、適時に反転させる。
何度か回転させてまんべんなく焼いた後で皿に載せ、串肉の汁のソースを塗って海草乾燥粉末を振りかけ、魚肉乾燥粉末を振りかけて完成になる。
ああ、懐かしい、たこ焼き……もどき。
串を渡して食ってみろと告げる。
「はふはふ……んめぇ」
ふむ、軽く試作品でやった時はそれなりに食えたが、オクトンをただ焼いたのよりはましだろ。
「これ、なんて食べ物なの? 」
「オクトン焼きだ」
「嘘だろ、あれがこんなに旨くなんのかよ」
「作り方は分かったか」
「うん、大体」
「何度か作るからよく覚えて、みんなにも教えたら屋台で売れそうだろ」
「つまりは仕事だね」
「どうだ、こういう仕事は」
「良いかも。お腹空いたら食べられるし」
それから何度か作り、魔導コンロと鉄板と材料を預け、皆に作り方を教えるように伝えておく。
後々それが仕事になるなら良いし、オクトンの美味しい食べ方として定着すれば更に良い。
ああ、良い仕事をしたな。
◇
耳が早いのは商売人の秘訣なのか、商業ギルドに行くとたこ焼きの話をされた。
どうやら変な鉄板を発注した事を聞き付け、何に使うのか興味津々だったらしい。
そうしてスラムで作っていたのを見たとかで、旨そうな匂いがしていたとか、諜報員でも潜んでいたのかよ。
油断がならないな。
町で消費に困っているオクトンの新しい料理法と踏み、それに使う道具が変な鉄板と思ったらしく、もう既に大量発注しているんだとか。
気が早すぎだろうとは思うが、そう言う事ならそのまま投げても良いかな。
つらつらと材料を話し、作り方も簡単に説明しておく。
またぞろアイデア料の他に、製法なんかの権利とかも込みで、更には町で困っていた問題を解決した事による、領主からの褒美があるとか何とか。
まあそういうのはそちらに任せると、全ての権利の譲渡になるところが、スラムの連中の商売にしたいから、優先的に売り子を雇って欲しいと言うのを条件にした。
どのみち売り子は必要なので、今作り方を伝授しているから売り子には最適と斡旋し、何とか受け入れられるようだった。
そりゃ今から教えるより既に知っている奴を使ったほうがお得だし、オレはもう実演はしないつもりだ。
となると聞きかじった作り方から試行錯誤するより、スラムの連中ならすぐさま作れる訳で、雇うには最適のはずだ。
ついでとばかりに、焼いたオクトンにカラシを付けて食べると美味いと伝えておく。
「カラシか、安くはないが、美味いのならば試してみるか」
「鍋で煮込んでも美味いぞ」
「それもカラシか、うむ、楽しみだな」
おでんもそのうち広めよう。