テンプレ異世界物産
誤字の呪いが……
工房が出来上がるまでに準備をしようと、市場の品をあれこれ調べていく。
それと共に工房の名前を考えているんだけど、さすがに元の名前を使うのもな。
実は異世界という事で、元の名前を捨てて新しい名前でやろうと思い、趣味だった凧揚げからカイトと名乗っています。
まあ、趣味と言っても市販の凧を使って揚げるだけだったんだけどね。
さすがに手作り和凧とかまではやる気にもなれず、西洋凧をひたすら高く揚げるのが好きだっただけだ。
何時だったか、糸のロッド全てを使い切った時に、追加で足そうと思ってうっかりと手が離れ、まさに糸の切れた凧状態になった事がある。
あれは何と言うのか、妙に物悲しくなったものだ。
あれで凧揚げをしなくなったんだったか。
まあ、仕事が忙しくなったから、それっきりになったとも言うが。
ああそうそう、うちの会社はいわゆる下請けみたいなもので、ひたすら石鹸ばかり作っていたんだ。
大手からの発注量が減っていたのにも関わらず、また増えると当ても無く信じていたようで、生産力のままにひたすら製造した挙句、にっちもさっちもいかなくなったって自業自得だよな。
だから倉庫には売れない石鹸が山のようにあり、退職金もそいつで支払われる事になったんだ。
さすがに1万個とか持ち帰るのにも苦労するからと、持てるだけ持って後は郵送してもらったんだ。
悲しくも着払いでな。
◇
商品アイデアはいくつか確保だな。
この世界にはかつて他の日本人は来てないようで、テンプレ生産物は全く見かけなかった。
となると、一番のテンプレなリバーシのアイデアも使えそうだし、もちろん将棋や囲碁、チェスも使えそうだ。
その代わりと言うか、トランプに該当するカードがありはしたが、どうにも使い道が分からなかったんだ。
いやね、一応教わったよ。
だけどさ、それって本引きじゃないのかな。
まるで博打の花札みたいに、カードに丸い印がいくつか書いてあり、その数での勝負らしい。
それがトランプぐらいの大きさなので、トランプと花札を足したような感じになっていた。
そこまでは良いんだけど、あちらみたいに9がトップじゃないんだね。
かと言ってエースがある訳でもなく、一番でかい数字ってのが決まってないとか。
その辺りで分からなくなったんだけど、最初に数を決めて、次からは勝った奴が持っていた数がトップになるとか、しまいには最大数になるじゃないかよ。
しかも、妙な役っぽいのがいくつもあり、語呂合わせかと思えば、かつての勝利の年数とか、何かの記念の数とか、そういうのがまるで地方ルールのようにいくつもあるとかで、まともに覚える気にもならなかった。
そんな本引きと大富豪を足して2で割ったような代物より、トランプのほうが受けるんじゃないかな。
ただ、印刷が未熟なので、大量生産には向いてないのが残念だけど、1枚1枚型を作ればやれない事もないだろう。
早い話が52個のスタンプを作れば、そこからは早いと思うんだけど、そこまでやる気力がなぁ。
ふむ、見本作ってネタ売りが無難かな。
◇
覚えている農法かぁ。
ノーフォークとか名前しか知らないし、四……なんだっけ、いかん、農法が分からないぞ。
肥溜めは10年寝かして毎日混ぜないといけないとか言うし、精々が森からの腐葉土ぐらいだろう。
そういや近畿の辺りの昔の地名の……何とかクワ……と、とにかく、先が3つに分かれているクワな。
備中? ああ、多分そうだ。
ギルドで聞いてみると、見せてくれたのが2又クワだった。
どうやら元はただの丸太に木の棒を2つ括り付けた代物だったらしい。
意外と博学なおっちゃんのようで、これでも洗練されたんだと言う。
なのでもう一声とばかりに、3又はどうかと聞いてみる。
「採用されたらいくらか謝礼が出るぞ」
まあ、元々2又はあるんだし、3又で儲けとかは無理だろうから、謝礼ぐらいが関の山か。
ついでとばかりに千歯こきも言ってみるが、どうやら収穫率がかなり低いようで、馬に使うブラシで取っているとの事。
ブラシと言っても櫛っぽい代物のようで、あれもでかい櫛と言えばそうなので、まとめてやれるから良いかも知れない。
それも採用されたら謝礼が出るそうだ。
唐ミノとかもあったはずが、名前しか分からないからどうにもならない。
テンプレな話では、回転がどうとか、風がどうとかって書いてたが、想像が付かなかったんだよな。
精米のゴミを飛ばす装置みたいなつもりで読んだけど、合っていたのかどうかは知らないんだ。
あ、今、頭に浮かんだ。
輪栽式農法ってのが浮かんだんだけど、これって確か、小麦→豆類→牧草→家畜が食う、とかじゃなかったっけ。
どうにも生兵法だし、アイデアを出すにしても、大した儲けにならないような気もするが、確立させた奴は大儲けしそうだな。
こんな事になるのなら、もっと真面目に勉強しとくんだった。
◇
農業が怪しいので、他の産業に付いて考えてみる。
幸いにも近くに海があるので、漁師に話を聞けるから、漁具に付いてのあれこれが出せるかも知れない。
とは言うものの、サビキとかソコビキアミとか、どうにも拙いな、これも。
となると、塩の生産に付いてのアイデアを出すとして、崖に引き上げて流してどうのこうの……いかん、分からん。
確か笹か何かに流して風を当てて、乾燥させてどうのこうのだったはずだ。
どうにも不確かで困るな。
焼いた貝殻粉から生石灰を作るってのは聞いた事があるが、生石灰って何に使うんだったかな。
セメントだったかなぁ、それとも石鹸に使ったのかなぁ。
確かにうちは石鹸を作ってはいたけど、オレは営業だったから製法は知らないんだ。
だから倒産品も今までのお客様に少し無理を言った、押し売りみたいな感じで買ってもらったんだ。
あれで50万せしめたのに、滞納家賃が49万8000円とか言われて、もう少し待ってくれって言うのに訴えるとか言われて仕方なく……あれでどうにもならなくなったんだったな。
話が逸れたな。
テンプレは良いけど、肝心の現代知識があやふやでどうにもならないぞ。
こうなったら玩具で少し考えてみようかと思い、いくつか思い付くままに……
コマ……確か見た事無いからいけるとは思うが、あんな物で遊ぶのかなぁ。
竹とんぼ……肝心の竹が無い。
紙飛行機……ごわごわした紙のうえに、高いらしいから無理だな。
凧が無難かなとは思うが、丈夫な糸が無いらしいな。
いや、ある事はあるんだけど、それもまた安くはないらしい。
服自体が庶民は中古と相場が決まっているようで、糸も布も遊び事に使うには惜しい代物らしい。
この辺りには居ないけど、山のほうに行くと鳥みたいな怪物が出るとかで、それと間違えられたら大変らしく、空を飛ばす玩具は没になりそうな勢いだ。
それって魔物とかだよな。
魔物が居るなら武器を考えてみるか。
◇
武器屋で色々見てみるが、弓はでかいのと小さいのしかない。
いわゆる長弓と半弓だろうが、他に無いって事はもしかして、やれるんだろうか。
クロスボウとか売り物になりそうだけど、これまた作り方が分からない。
後は弓本体の上下に滑車を付けたのってあったよな。
確か弓弦が3本になっていて、大きさの割りによく飛ぶとか、そんな感じだったはずだ。
コンボジットはまた他の方式だったはずで、弓の反りに逆らうように補強をして、威力を増す方法とか?
どうにもあやふやなのは変わらないようで、一般市民に武器は敷居が高いのかも知れない。
そういや、手ぬぐいでミカンを飛ばしている奴を見た事があるけど、あれって投石器の真似だよな。
あれは簡単な構造だからと思えば、簡易な武器として既にあるそうで、残念至極だ。
ブーメランに付いて聞いてみたところ、興味を持たれたけど、使い物になるかどうか、聞かれても分からんぞ。
大体、正確な製法とか知らないし。
武器が思い付かないので防具屋に移動する。
盾をつらつらと見てみるが、下に杭の付いた物は無い。
地面に叩き付けて、衝撃緩和の役割でと説明してみたが、重くなるだけで使い勝手が悪いと一蹴された。
盾だけ並べて立てておけるから、偽の軍隊とかやれそうなのに、そういう想像も付かないらしい。
どのみちこんな話は、どっかの王子様が権力と財力にあかせて実装しないとやれそうにないし、1枚だけじゃそれこそ、重いだけになってしまいそうだ。
それでも手頃な盾の下に、槍の穂先を左右に付けてもらう事にした。
「こりゃなんて名の盾だ」
ええと、何だっけ。
分からないからまだ決めてないと言うと、杭盾とか、そのものズバリなネーミングがなされてしまう。
興味が出たのか、それを店に置いてやるからと、買い取らなくても良くなった。
そればかりか、槍の穂先とかは滅多に取り替える仕事も無い割りに入手が簡単なので、盾とセットで売れるならありがたいと、売れるたびにリベートをやると言われた。
「そうだな、1つ売れるごとに2割やろう」
おお、太っ腹だ。
◇
さすがに異世界と言うべきか、スラムなんてのが当たり前のようにあるんだね。
もっとも、海外の国にはあるらしいから、日本に無いだけかも知れないが。
テンプレだと裏社会とか悪いイメージだけど、単なる流民の集合体らしい。
すなわち、金が無いから宿にも泊まれず、土地を借りようにも税金が払えない。
だからそういう人達の為の救済措置として、家賃も税金も要らない区域を提供しているってのが実情らしい。
なのでスラム街と言うより、領主の慈悲町と言うべきか。
その代わり、建物はいわゆる日曜大工の作品のようで、元は更地だったらしい。
隣の建物に寄りかかるような造りをしているので、片方から押したら全て倒れそうな町並みだ。
どうやら柱1本に付き税金がいくらか必要なようで、だからスラムの建物には柱が無いのだとか。
ただ、更地だった頃に領主様が、中心部分にでかい柱を建て、これに寄りかかるように作れと伝えた話が残っているらしい。
そんな訳で、寄りかかった建物に更に寄りかかる建築法の結果、全てが寄りかかるようになっているらしい。
ただそれだと通りも何も作れないので、アーケードみたいな建物もある。
それも含めて雑多な造りなスラム街だけど、住んでいる人がまともで良かった。
もちろん、皆貧乏なのでそれなりに欲もあるようだけど、それでも犯罪行為は通常の市民よりも罪が重くなるとかで、あえて侵そうってのは居ないらしい。
それでももちろん、お貴族様が遊びに行ったりすると、反感を買ってしまうって話だけど、当たり前だよな。
なので迷い込んだ場合、誰かに道を聞こうにも、皆逃げるらしいな。
ちなみにオレの場合は旅人扱いになるかと思えば、あちら産の服のせいか貴族扱いかよ。
ううむ、皆逃げちまったな。
生活環境の調査をしようと思ったのに、巧くいかないものだ。
仕方が無いので他の場所に向かおうとしたら、子供が近付いてくる。
「何かな」
「お貴族様よぅ、こんな所に何しに来たんだよ」
「ただの旅人だけど」
「お貴族様じゃねーの? 」
「違うよ」
何かの合図が成されたと思えば、バラバラと人が表に出て来る。
なんかさ、まるで災害か何かのように、お貴族様を恐れているみたいだね。
生活はやっぱり貧しいようで、仕事さえ見つかればと、それが一番欲しいらしい。
そう言う事なら伝手を付けておこうと、手持ちの金を渡しておく。
「おお、小銀貨だ」
済まんな、手持ちと言ってもあんまりないんだよ。
ギルドカードからいくらか下ろしておかないとな。
そのうち仕事があるからと、少年を含む、その気のありそうな奴に渡しておく。
「仕事、決まったら言ってくれよな。すぐやるからよ」
人員確保かな。
◇
工房でやる事が決まったら、何人か雇い入れようと思う。
その為の伝手作りは一応成功なのかな?
それでも流民なので、また何処かに流れる可能性もある。
まあ、まだ作りたい物も決まってないんだし、急ぐ事は無いか。
さて、少し下ろそうか。