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テンプレ異世界体験

 

 ギルドで工房に付いて聞いてみた。


 資金さえあれは持てるらしく、手頃な空き家を工房に改装するのが手っ取り早いと言われ、候補を色々と案内してもらう。

 こちらの手持ちを知られているので、限度額金貨9枚だろうと思われているようだけど、石鹸はまだまだあるんだし、足りなきゃ追加で売れば良いだけだ。


 どのみち1人で住むのなら、でかい屋敷は要らない。


 なのでこじんまりとした家を買う事になり、1階を工房に改装する事になる。

 そう思ったんだけど、治安は確かに悪くはないが、工房に住むのはあんまりよろしくないらしい。

 それと言うのも財産がある場合、宿なんかは貴重品ボックスで防げるけど、あれはかなり高額の魔導具らしいのだ。

 確かにそれを買うという手もありはするが、大金貨数枚とか、ちょっともったいないって言われた。

 しかもそれを担いで逃げられたら終わりなので、宿のように担いだら確実にバレるような環境じゃないと、設置するだけ無駄になると言われた。


 そうなると通いって事になる。


 今の宿に不満は無いので、通える範囲で小さな物件を教えてもらった。

 2階建てではあるものの、2階は小さな部屋が1つと後はベランダになっており、洗濯物が干せるようになっていて、元は老夫婦が住んでいたらしい。

 そうして2階は孫が住んでいたんだけど、数年前に揃って王都に引っ越したらしい。

 子の夫婦に呼ばれたとか、詳しい事情は要らないけど、ともかくそういう訳で空き家になっているらしい。


 宿屋から歩いて数分なので、ここに決めようと思う。


 他は倍以上の敷地しか無いと言われたらもう、他を見て回る気になれないよ。

 そんな訳で中を見せてもらうと、土間が少しで部屋が2つあるだけで、2階も確かに小さな部屋だ。

 トイレは小さな裏庭にあり、裏口を出るとすぐにある。


 つまりこれはトイレの為の裏口なのね。


 中はやっぱりボットンのようで、ああやっぱりなと、そう思うだけだった。

 もっとも、宿のトイレも同様なので、今更って感じだけどな。


 でもさ、改装してくれるんだよね。


 それなら下水道にそのままボットンじゃなくて、水で流せるようにしてくれないかな。

 だってさ、下水道がトイレの便器から見えるとか、ネズミさんいらっしゃいって感じだろ。

 それにさ、うっかり物を落としても、水洗もどきなら拾う余地があるからさ、下水道に探しに行くなんて事をしなくて済むだろ。

 そりゃ小銀貨落としたら諦めても、大金貨落としたら探しに行くに決まっている。


 だったらその対策は必要だろ。


 幸いにも水を出す魔導具はあるそうで、トイレの便器の形状を伝え、特殊な焼き物を拵えてもらう事にした。

 経費は掛かるもののその工夫に驚かれ、このアイデアは売れると、妙に興奮しているおっちゃん。

 特に領主様に受けそうだと、アイデアと権利を高く買うから、その代わりにモデルケースって感じに、必要で見学体験させてくれと言われた。

 どのみちこちらも工房のトイレなので不都合は無く、晴れて仮契約になったのでした。


 そんな訳で修繕と改装費用はその中から抜くと言われ、手出し無しでの改装になる。


 ああ、ちなみにトイレの形状だけど、親戚の家が新築になった時に、少し手伝わされたんだ。

 そいつって日曜大工に傾注しててさ、なるべく自作でやるって聞かなくてさ、その癖人出が欲しいからと、折角の休日なのに来いと言われてさ、行ったらそんな話だろ。


 もちろん給与はもらいました。


 その時にちょうどトイレの便器の取り付けって話になっていて、その形状はしっかり頭にある。

 だからそいつを設計図っぽい感じに書いて、作ってもらう事になったんだ。


 一応、洋式です。


 後はそうだな、細い管に水が流れるようにして、魔道具を稼動させればお尻を洗ってくれるとか。


 お、また興奮しているな、おっちゃん。


 よし、ならばついでにお尻洗いの水を温める魔導具も足しちゃおうか。

 なんせ改装費用は相手持ちなので、しかもモデルケースとまで言われるんだし、ここは目一杯拘ってやるぜ。

 便座を温める魔導具も足して、お尻を乾かす魔導具も足して、晴れてここにあちら風洋式トイレもどきの設計が完成したのでした。


 いやぁ、懲りすぎたかな。


 ◇


 2階のベランダは板張りになっていて、少し端のほうが朽ちていたので、これもチェックを入れておこう。

 おっちゃんがトイレ前で色々思案している間に、あちこちの修繕チェックをやってます。

 どうやらあの設計がかなり気に入ったらしく、ギルドで大々的に製造販売をやりたいらしい。

 つまりギルドのトイレを改装したいんですね、分かります。


 切れたりしたら大変ですもんね。


 特に冬場の長丁場は、しゃがむより座るほうが楽なのは確かだし、長丁場になりがちな、女性組合員にもきっと受けますよ。


 よし、チェック終わりと。


 後は工房に必要な道具のあれこれも注文して、こんなもんかな。


「おっちゃーん、終わったで」


 ちょっとカンサイ入りましたが、関西人ではありません。

 てか、今は異世界人になるんだなぁ。

 おっちゃんはハッと気が付いた様子で、済まん済まんとやっている。

 チェックリストを確認して、これならそこまで時間は掛からないだろうと言われ、トイレの改装に3ヶ月ぐらいは必要だろうと言われた。

 それと言うのもオレの概略図と説明のあれこれを聞いて、専門職と相談して作るらしく、ある意味試行錯誤になるっぽい。


 もし、どうしても分からなくなったら聞きに行くと言われ、これ以上はこちらも分からないが、必要なら構わないと告げておいた。

 そうしてトイレ以外は1ヶ月もあれば終わるので、使うのはそれからになるだろうが、トイレの件もあるから人の出入りは我慢してくれと言われた。


 ちなみに概算で大金貨は確実らしい。


 ひょんな事から儲け口を手に入れた訳だが、石鹸はまだまだあるんだよな。

 そうなると生産意欲も湧かないから、宿屋でのんびりしながらまったりスローライフといきますか。


 後は税金の話だ。


 土地は皆、国からの借り物になるらしく、家の代金だけ支払えば良いらしい。

 土地の使用料は小さな家なので年額金貨1枚らしい。

 小さくても年額100万円相当ってやけに高いと思うんだが、こんな物なのだろうか。

 ちなみにでかい屋敷だと、年額大金貨何枚も必要とかで、貴族の中でも下位の人達はそれの捻出に汲々としているとか。


 だよな、高いもんな。


 その代わりに家を持てば自動的に市民権が得られるらしく、わざわざ市民権獲得の手続きが不要になるのはありがたい。

 聞けばどっかの組織に所属したうえで、その組織からの所属証明書を書いてもらって役所で手続きをするんだけど、収入証明とか納税証明とか、色々な証明が必要になるとかで、それぐらいならと皆家を持っての市民権獲得をやるらしい。

 更に言うなら市民権獲得したら年額でいくらか納める必要があるようで、それも含んでの額なので高いのだろう。


 そんな訳で家の代金と土地の税金と修繕費用と改装費用は全て、トイレの仮契約からの契約料で天引きにしてくれた。

 いやね、仮契約でも今更他に話を流されては困ると、契約料として大金貨で支払うとか言うんだよ。

 どれ程の儲けを目論んでいるのかは知らないが、そんなに出して採算が取れるんだろうか。

 確かに今までに無い画期的なトイレだろうから、国中のトイレが対象になる訳だし、貴族連中にも受けそうな話ではある。

 しかも金に余裕のある者達なら、この手の便利グッズみたいな代物は気に入るだろうと思われるけど、本当にそこまでするんだろうか。


 商業ギルドの陰謀。


 いや、悪い意味じゃないけど、いかにもそんな感じだよな。

 世界に広げよう、洋式トイレの輪……ちょっと臭い話だな。

 まあ、やりたいなら勝手にやれば良いだけの話だし、こちとらアイデアを出してそれに見合う金がもらえたら、後は好きにしてくれと言うだけだ。


 ◇


 ところ変わってここは商業ギルド内。


 本契約に際して、1件に付き5パーセントのリベートがもらえるらしく、その為にもギルド口座を作ってくれと言われた。

 ちなみに商業ギルドでは銀行業務もやっていて、ギルドカードで町の買い物がやれるらしく、資金はそれに入れておくのを推奨された。

 しかも、商業ギルドのある町なら何処の町でも使えるらしく、巷の商人達も愛用しているとの事。

 ただ、利息は付かないんだけど、そいつはギルドの稼ぎ分になるようだし、預かってくれるだけありがたいって話だろう。

 ギルドカードの取得に際し、魔力波紋とか、個人個人で異なる文様が現れる魔導具に触れて、その文様を登録する必要があるようだ。

 これにより、他人の成りすましを防ぐらしく、落としても安心なうえに、他人が使おうとするのは重罪らしく、即座に捕縛されて重い罰則を受けるようだ。

 その代わりにギルドに届けると金一封がもらえると認識されていて、大抵は届くらしい。

 それはスラムの者達も変わらないらしく、金一封に加えて食事券を渡す場合もあるとか。

 なんだかんだ言っても、彼らの事は皆気にしているんだなと思わせる話だった。


 ◇


 翌日、追加で石鹸を売って口座に入れておこうと、朝食を食べた後でカバンに石鹸を500個詰め、商業ギルドへと赴く。


「ああ、来ました来ました、あの方です」


 うっ、間が悪かったか。

 妙に偉そうな感じの……

 まさか、お貴族様とか?


「おぬしがあの石鹸の売り手か? 」

「ははっ、さようでございます」

「あれはまだあるのかの」

「はい、ございます」

「うむ、なればそれを出すがよい」

「いかほどご利用になられますか? 」

「あるだけじゃ」


 と、言われてもな。


 500個も詰めて来たんだけど、まさかこれ全部買うの?

 やっぱり足元見られてないか?

 でもなぁ、10万円相当って派手にぼったくりだとは思うんだけど、本当はもっと高いものなのかな。


「500個あるのですが」

「なんと、それ程にもあったか」

「いかがなさいますか」

「構わぬ、全て寄越すがよい」


 ギルドの人に聞くと、どうやら領主様らしく、従来の石鹸よりも小さいけど、泡立ちと洗浄力と泡切れなんかが気に入ったらしく、屋敷での使用を切り替えたいと言われ、ギルドに売った石鹸のうち、いくらかを見本として渡したのが良かったのか、こうして直接購入に来ていただいたとの事。

 そうして残っていた品を全てお買い上げになられ、追加でもっと欲しいと言われていた最中だったらしい。


 領主様へは大銀貨2枚で販売したらしい。


 やれやれ、いきなり倍で売るとか、やっぱり足元見られていたんだな。

 本当は隠したかった裏の内情だけど、買い手がすぐ近くにいる以上、下手に隠しても意味が無いので、この際と明かす事にしたらしい。

 その代わり、直接取引になるんだけど、仲介手数料を支払う事で合意した。


「1割で」


 それはぼったくりとは言わないか?


 ◇


 でかい組織には勝てないのは世の常だな。


 しっかり1割の仲介手数料は取られたものの、領主様には500個の石鹸が売れました。

 1つ1つが厚い紙の箱に入っているのも気に入ったようで、お使い物にもなりそうだと言う。

 確かに引き出物にも使えそうだけど、知らない文字が入っていても構わないものなのかな。


 ただの日本語だけど。


 異国からの交易品で通じるらしく、そういうのも珍しくないとか。

 そんな訳でギルドカードには、900000000の文字が記された。

 単位があるのかと聞いてみると、メソと言われる。


 ペソみたいだな。


 それはともかく、しっかりと1割抜かれているようで、ただの仲介で1億儲けた事になるギルド。

 やれやれ、1割とかやっぱり暴利だろうと思いはするが、9億メソとかとんでもないな。

 お貴族様なのに妙にフットワークが軽いようで、直接ギルドに来るぐらいだし、直接売りに行っても良いらしいんだけど、さすがに残り3750個ありますとか言えないよな。


 なのでまた入荷しておきますと告げて、円満取引完了となる。


 押し売りに必須だと思って用意した腹巻だけど、そこに財布を入れるのがちょうど良い。

 なんせスリとかも多いようで、ポケットだと抜かれる事もあるらしいし。

 そんな訳で財布にギルドカードを入れようと思い、使わない紙幣を出したところで。


「おお、なんと言う精緻な」


 元々少し入っていたあちらの通貨は、異国の紙幣って売れました。

 精緻な模様が珍しいとかで、別に売る気は無かったのに目ざといギルドの人に見つけられ、どうしても欲しいからと粘られて、仕方が無いから売っちゃいました。

 元々、大して持っては無かったんだけど、万札が1枚に千円札が6枚はギルド職員の物になっちゃいました。

 他にも500円玉と100円玉も、使用金属が珍しいと言われ、更にはアルミニウムがレアメタルらしく、1円玉も高く売れちゃいました。

 そうなればシンチュウもついでに売れとばかりに、5円玉も売れたのでした。

 ちなみに10円玉だけど、大銅貨と同額換算になると言われたので、それだけは売らずに置いてます。

 どのみち2枚しかないんだし、それぐらいは元の世界の物として持っていても構わないだろう。


 仲介手数料で引かれた分は、しっかりと取り返しました。


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