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テンプレ異世界事情

 

 スラムの連中に解体を頼むが、その報酬は肉の食べ放題。

 それで希望者はわんさか現れ、今、その準備の真っ最中だ。

 ガキ達はそれを手伝う事で権利を得る事になっていて、屋台の経験を生かして肉は彼らが焼く事になっている。


「いいか、オレらが優先だからな」

「うん、分かってるよ」


 意地汚いと言うなかれ、彼らも滅多に無い大仕事なのだ。

 火蜥蜴大量解体なんて仕事は滅多になく、大勢で一気に

 やったから大量の素材と共に肉もわんさかなのだ。

 こんな機会はもう二度と無いと、皆は嬉々として解体しまくった。


 オレも支援すべしと、酒屋にエールを大量に発注し、スラムに配達を頼んだ。

 それと共に肉だけでは何だと、焼いて食える野菜や穀物の類も発注し、ついでに料理人も派遣しておいた。


 今頃、皆で楽しく焼肉パーティかな。


 ◇


 何で来なかったのかと後日、スラムの連中に言われたものだ。


 はぁぁ、ボッチ気質は辛いな。


 大勢で食べるってのはどうにも合わなくて、つい行きそびれたんだよ。

 ちなみに火蜥蜴の肉は少々失敬してあり、工房で美味しくいただきました。


 宴会とかは自分のペースで飲めないし、また食べれない。

 そういう強制が嫌なので、そういう機会はなるべくパスしてきた。

 それはかつても同様で、営業なのにとよく言われたものだ。


 どうしても断れない宴会も稀にありはしたが、そういう時には仕事と割り切って参加はしたものの、顔で笑って心で泣いてと、当時は本当に辛かった。


 あれは拷問だと思っていたよ。


 だから会話のほうにリソースを振り切って、飲まず食わずで何とかやりきろうと努力したものだ。

 飲んだ振りして床に捨てたり、食った振りして隣の皿と交換したり。

 もうあんな機会は無いだろうし、あってもらっては困る。

 だから有名にはなりたくないんだから、ギルドの連中が欲しいなら、名誉も栄誉もやるからよ、オレには実利だけくれれば良いのさ。

 そうしてパーティとかは好きに行けばいいし、だからオレにそんなのは寄越すなよ。


 強制されたら引っ越すぞ。


 ◇


 引越しか。


 もしオレが引っ越したら、権利はどうなるのかな。

 あれはこの町に住むカイトという人物に対しての権利委譲なので、他の町で違う名前でやると更新されちまうんだ。

 つまり権利登録は魔力波紋で成されているから、違う名前で更新すれば今までの契約は消えちまうんだ。


 オレも伊達に図書館で調べた訳じゃないよ。


 別に賢いとかそんな自覚は無いけど、腐っても営業畑だったんだし、そういう契約の抜け道はそれなりに知っているつもりだ。

 だから万が一の保険としてそういう罠は拵えてある。

 なので、権利でオレを縛ったとか、増長するんじゃないぞ。


 いやね、急にじゃないんだ。


 領主がさ、家の次は工房とばかりに、人の事を何だと思っているのか。

 そんな事になったらあの工房は、単なるトイレと風呂のモデルハウスになっちまうだろ。

 それが狙いかとギルドの連中も疑いたくなるぐらい、逆らえないから諦めろと言ってくるんだ。


 まるで不動産で縛って子飼いにしようと狙っているみたいだけど、本当に他意は無いんだろうな。

 ギルドの連中もオレが東門近くに住むのがありがたいみたいにしているけど、オレは何時でも契約を切れるんだが、それを分かっているのかな。

 辺境から来た田舎者と侮っていると、そのうちどうなるか。


 まあ、今はまだいいよ。


 領主に石鹸を売りに行くのを止めた。

 もうね、あいつの稼ぎに貢献するのは止めたんだ。

 だって要らない事ばかりするんだもん。


 折角伝授してやった農法なのに、その礼が要らない家だし、今度は要らない工房と来たもんだ。

 そのうち要らない嫁さんになったりして、困るんだよ、そういうのって。


 その手の欲は専門の店があるんだし、そこで祓えば良いだけだ。

 それにオレもさすがに異世界に来てまで所帯を持ちたいとは思わんよ。


 ◇


 この国の文字って、『カ』と『サ』がそっくりなんだ。


 唐突に何だと思ったかな。


 役所で改名の手続きを取り、工房の登録を更新した。

 それと共に全ての権利に付いても更新しておいた。


 今日からオレは『サイト』です。


 あの工房はしっかりとモデルハウスになっちまい、今では東門近くの工房に引っ越しました。

 そうして次に住む場所の選別を開始して、引越しの準備に入ったのです。

 こうなる事は分かっていたが、止めようが無かったとも言える。


 本当にテンプレな領主様だったな。


 爵位とか誰が望んだよ。


 おまけに親族にとか、誰が望んだよ。


 目指せ国外逃亡。


 ◇


 ギルドは世界に広がる組織なので、国ごとに本部があり、そうして総本部が別にある。


 そんな訳で次に目指すのは南の国になる。


 ちょうど海岸線の街道を進んでいくと1ヶ月で到達するらしく、途中に小さな村や町がいくつもあるらしい。

 それらは皆、塩田の作業員の為の場所なので、宿はたくさんあるはずだ。

 歩きで1ヶ月なら魔導バイクで短縮も可能と、家財道具をバイクに詰めると共に、残っている石鹸も全て詰め込んで宿の契約を切りました。


 女将さんには田舎に帰ると告げての契約解除だけど、寂しくなるねと言ってくれました。


 実は来月にも見合いがあるそうで、既に結婚は決まっているそうです。

 顔も見た事の無い相手なのですが、12才年上って何かの因縁でしょうか。


 そんなにお貴族様って偉いのか。


 勤労に対する報酬がトンチンカンなんだよな。

 いかにもくれてやるだけありがたいと思え、的なナニカなんだけど、あれで喜んでいると本当に思っているなら救われないぞ。


 それはまるで裸の王様の如く、皆は喜んでいるという幻想を抱いて、周囲に迷惑を振りまく存在ってか。

 今まで誰も指摘もせずに長い物に巻かれてきたのか。

 じゃあそろそろ指摘しても良いかな?


 君の行為はありがた迷惑だと。


 大体さぁ、12才年上って完全な行き遅れだろ。

 そんなのを報酬に寄越すって人を舐めてないか。

 貴族階級なら何でも良いだろうと言わんばかりの結婚は、

 完全な政略だから仮面になるだけだ。


 最初から別居になるだろうから、見合いの必要も無いと言ったのに、顔ぐらいは見ておけと、相手もそのつもりらしい。

 つまり、繋がりの為と明言している訳で、相手も平民と暮らすつもりは無いらしい。

 となると当然、夜のお勤めも無い訳で、子孫は要らないと言っているようなものだ。

 当代の知恵のみが必要で、使えなくなったら捨てると言っているのも同じ。


 頭だけ欲しいから胴体は捨てるね。


 それじゃ死ぬだろ。


 主に心がさ。


 ◇


 あの町の騒ぎなど知らないとばかりに、街道を南に移動中。


 いきなり使えなくなった権利だけど、無視して使うかな?

 そんな事をしたら隣の国から提訴するからさ、その時はよろしくな。

 輪栽式農法も権利取得しているし、その名前はサイトになっている。

 領主様自ら権利侵害ですか、良い度胸ですね。


 オレのプライベートスペースに侵入するのがいけないんだ。


 望んでない事を押し付けておいて、ありがたがれと言っても付き合いきれないさ。

 やっぱり異世界って暮らし辛いな。

 テンプレだと思っていたけど、そんなもんじゃなかったよ。


 現実はもっと酷かった。


 封建社会を甘く見てたよ。


 あれが当たり前の常識になっている環境とか、文章では読み取れなかったけど、現実にはこんなに合わないものだとはな。

 確かに元の世界でもそういうのはあったけど、それでも逆らうだけの自由もありはした。

 なのに断ったら投獄もありとか聞かされてはもう、やっていける訳が無い。


 報酬を断ったら投獄とか、どんな環境だよ。


 ◇


 無事に隣国に到達しました。


 もう工房とかは止めて、地味に静かに暮らすつもりだ。

 下手に何か出したら、すぐまた以前のようになるに決まっている。

 どのみち遊んで暮らせるぐらいの資金は貯まっているんだし、これから死ぬまで悠々自適に過ごしてやるさ。


 だからもう、オレにちょっかいを出して来るなよな。


 町外れに小さな家を買い、寝室に貴重品ボックスを据えました。

 盗られるなら命も同時だろうし、そうなったら諦めるだけだ。

 工房は作らないけど、手慰みの工作は続けるつもりだ。


 そうしてトイレと風呂は改装しました。


 予備にもらっておいた洋式便器と、見よう見まねの浴槽作成魔法で。

 ちょっと表面がざらついてはいるが、一応は浴槽になったしな。


 これからは自炊にはなりはするものの、元々そうだったんだからあんまり苦には思わないさ。

 週に1度、買い出しに出かけるのは魔導バイクなので、繁華街から外れていても問題無いさ。

 それに別に外食って手もあるし、のんびりとスローライフを今度こそ楽しむさ。


 でもな、ちょっかいを出したら遠慮なく殺るから、それだけは覚えておいてくれ。


 命が軽いのもテンプレだからさ。

 

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