テンプレ異世界転移
ちょっとおバカな主人公と、それを取り巻く善良な人々。
性善説を地で行くような話ですが、それでもよろしければお付き合いください。
こんなんネーヨと思う方は、そのままブラウザバックをお願いします。
このご時勢に押し売りとか、流行らないとは分かっているが、こちとら倒産品を捌かないとメシもおちおち食ってられん。
先日、会社に行ったら『当社は倒産しました』とか冗談じゃないよ。
食い下がったら退職金が出ると思えば現物支給とかさ、金が無いからと泣かれて仕方なく、受け取ったのがたんまりある。
確かにバッタ屋に売ればいくらかにはなるが、元々安価な石鹸とか、単価15円での引き取りとか売らないほうがましだ。
定価200円の石鹸なのに、足元見すぎだろ。
こちとら卸価格の半値換算での受け取りなのに、15円とか赤字もいいとこだ。
6掛け120円の半値の60円換算で、退職金60万円での石鹸1万個なんだよな。
馴染みの奴らにそこそこ売れて、当座のメシ代は確保したものの、これから先は初対面での押し売りしか手が無い状態だ。
それでも何とか半分は処分したものの、残りの5000個がどうにも捌けない。
当座のメシ代と思っていた金も、アパートの家賃の延滞を全て払ったらいくらも残らなかったから、なんとしてもこれを捌かないと飢え死にだ。
「ありがとうございました」
何とか泣き付いて風呂屋に20個納品。
定価200円のところ、150円で何とか売れました。
やれやれ、これでメシが食えるな。
◇
次の仕事も見つからないままに、石鹸は残り5000個弱、それをでかいリュックを購入し、石鹸を目一杯詰めてみる。
それと言うのも来月分のアパート代が払えないんだ。
つまりは夜逃げですな。
元々、敷金やら礼金やらは別の奴が払っていて、又貸し状態になっていた部屋。
なのでオレが急に消えても元の奴に請求が行くだけだろうし、そいつに払ってもらえばいいさ。
もっとも、そいつは今、行方不明になっているから、探すのが先だけどな。
でかいリュックに3000個も詰めたら相当に重いが、それでもこれがオレの財産だ。
後は旅行カバンに衣服と少しの生活用品、それに残りの石鹸を詰めて夜明け前の路地に出る。
長らく世話になったアパートだけど、いよいよ出る羽目になっちまったな。
これからどうしようか。
重い荷物を担いでカバンを押して歩く。
背中に3000個でカバンに1350個とか、どうにもまともに売れそうにない。
ぼんやりと歩いていたら、何故か急に眩暈がした。
おっかしいな、メシはきちんと食っていたんだがなぁ。
◇
路地を抜けると見覚えの無い通り。
おっかしいな、アスファルトの地面が石畳になっているぞ。
それに電柱が1本も無いし、妙に空気が重いというか変な感じだ。
建物も木造とレンガ造りになっていて、今風な住宅が1軒も無い。
それにやけに静かなんだ。
この時間帯ならもう始発が動いている頃なのに、そんな物音は全くしないし、近くにあったはずの幹線道路からの騒音も全く聞こえないって、こんな町なのにまるで山奥の村のような佇まいを見せている。
近くにあったはずの公園が見つからず、仕方が無いので建物の壁を背にして座り込む。
背負いカバンを横に置いて、その上に旅行カバンを置いて、ひとまず一服しようか。
カチッ……シュバッ……スー……ハァァァ……
貧しても止められなかったタバコだけど、もう本当に止めないとな。
つい先日買ったばかりのカートンだけど、尽きたら禁煙しようと思う。
てかさ、周囲を見るんだけど、本当におかしな町並みになっているんだけど、これが今まで住んでいた町とか、絶対に違うぞ。
どうなったんだ、これは。
◇
人通りが少しずつ増え始める中、少し混乱しているオレ。
これっていわゆるアレなのか?
じゃああの眩暈が切欠なのか?
確かに将来に不安はあったけど、異世界って不便なのが相場だよな。
家電製品も無いしトイレも水洗じゃないだろうし、銭湯ももちろん無いんだろう。
てかさ、無一文だから何とかしないと……待てよ。
テンプレだと生産チートとかあるよな。
オレはあんまり手に職は無いけど、ここにおあつらえ向きの商品がある。
そう、テンプレ製造よりも品質の高い、元の世界産の石鹸だ。
巧い事売れれば、一財産になるかも。
もし、石鹸が高級品なら、それよりも品質の高いと思しき品なら、更なる高級品認定になるかも。
そうでなくても数が数だし、それなりで売れればかなりの儲けになりはしないか?
そうと決まれば商業系の役所を探さないと。
◇
やっぱりありました、商業ギルド。
会話に困るかと思ったけど、不思議と通じるこちらの言葉。
日本語を話しているつもりだけど、通じるって事はチートなのかな?
まあ、ラッキーと。
中に入って商品を売りたいと話す。
石鹸と言えば通じるって事は、既にそれはあるって事だ。
売価を聞くと大銀貨1枚だと言う。
それがどれぐらいか分からないが、安くはないと言うからにはそれなりの価値なのだろう。
こういうのもテンプレだけど、使いかけの石鹸を見本にして、試しに使わせてみたんだ。
そうしたら泡立ちが良くて香りも良くて、汚れがよく落ちて泡切れもよいと、かなりの絶賛を受けました。
これなら売れると太鼓判を押され、従来のでかい石鹸よりも性能が高いと言われ、通常卸売り価格大銀貨1枚なそれと、量が少なくても釣り合うからと、大銀貨1枚での引き取りになると言われた。
手持ちの石鹸は、普通のサイズより小さめの石鹸だ。
だから需要が少なくて倒産したんだろうが、そうじゃなかったら3000個も背負えないさ。
辺境から来たので通貨が分からないと言うと、そういう人達も多いのか、詳しく説明してくれました。
もちろんギルドのメンバーになると言うのが条件だけどね。
晴れてギルド員となれば、色々な説明のついでに通貨区分も教えてくれて、小銅貨・銅貨・大銅貨・小銀貨・銀貨・大銀貨・小金貨・金貨・大金貨って区別になっているらしい。
果実が大銅貨1枚前後で買えるらしく、それを100円相当として考えると、大銀貨1枚は10万円相当って事になる。
石鹸1個が10万ってやけに高いけど、貴族なんかは当たり前のように使うらしい。
足元を見ている可能性もあるが、当座の資金としてカバンに入っている内の100個を手始めに売り、金貨9枚と小金貨9枚と大銀貨10枚を受け取る。
これでざっと1千万円相当とか信じられない話だ。
それでも当座の資金って訳で、ギルドお勧めの高級宿屋を紹介してもらい、そこに長逗留する事にした。
1泊銀貨1枚の宿らしく、1か月分として大銀貨3枚を支払った。
朝晩の食事込みの価格なので、元の世界の都会の宿よりリーズナブルだな。
もっとも、風呂が無いみたいだし、安いとは言えないか。
部屋にリュックとカバンを置こうとしたら、貴重品入れってのを見つけた。
なんでもこれに入れておくと、誰かが入っても盗られる心配が無いらしく、掃除の為に人を入れても安心との事。
こういうサービスがあるのもギルドお勧めの宿屋だからのようで、良い所を紹介してくれたものだ。
貴重品ボックスに石鹸をつらつらと並べて入れておこう。
4250個の石鹸が今のオレの財産だし、これが無くなるまでに何かの仕事を見つけないと。
それでも元の世界のようなカツカツじゃないので、この調子なら何とか暮らしていけそうだ。
とは言うものの、冒険者とかは無理だから、やっぱり商業系の何かになるだろう。
手持ちの資産が尽きる前に、世界の物産の状況とか調べて、こちらに無い物で作れそうな代物とかを見つけて、それを開発して利権を売るとかも面白そうだ。
良い事ばかりじゃ無いだろうけど、どうせ飢え死に寸前だったんだし、ダメ元でやればいいさ。
これからどうなるかなんて、やってみないと分からないし、なるようにしかならないさ。
見直したはずなのに、誤字って尽きないものなのですね。