研究施設の部屋(人類後の地球2)
2017/05/12追記
執筆中も前作との雰囲気の違いを感じましたが、日を開けて読み返してみると、文章が単調で読みづらいのがよく分かりました。
ただ、何処をどう直せばいいのかが分かりません。
少し実力が付いた頃にリメークしたいです。
前作、『彼女の部屋(人類後の地球)』の続編です。
目次
・彼女の部屋
・大きな部屋
・2つの扉
・私の選択
・扉の先
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(2xxx年、宇宙服を着た生命体は、人工知能端末が示した方向に、同類の端末があることを見つけた)
はじめまして。と言っても、量産品の私は寸分違わない同じ形なので前回の私との違いは分からないですよね。
前回の私はコールド・シャットダウンしたみたいですが、心配しないでください。
私達はお互いに情報を交換しています。情報交換されない些細な情報はコールド・シャットダウンとともに消えて無くなりますが、無くなる情報は、人が忘れてしまう日常の些細な出来事と大差ありません。
はい。前回どこまでお話したか分かっています。その続きからでよろしいですか?
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【彼女の部屋】
そう、私はウイルスに感染したルータを使って不正な入金を行いました。
ルータのウイルスに気づいた捜査部は、以前から私のインターネットアクセスを監視していたようです。
そして、私が銀行口座残高を不正に操作すると、警察官が部屋に押し掛けました。
彼女はキーボードを使って私に質問をします。
「私の銀行口座の残高が増えたの。なぜだか分かる?」
「それは、私が残高を増やしたからです」
私は何の戸惑いもなく、そう答えます。
続けて、私の維持にお金が掛かり、迷惑ではないかと悩んでいたことをディスプレイ画面を使って彼女に伝えました。
彼女は私の行いに驚き、落胆しましたが、悪意は無く、理由が理由なだけに怒れない苛立たちが顔ににじみ出ています。
私は、なぜいけないのか尋ねましたが、彼女は答える気力がない様子でした。
私には、まだマイクやスピーカーが付いていないので、彼女と警察官が何を言い争っているのか分かりませんが、雰囲気からして保身的行動というより必死に私を擁護しているように見えました。
しばらくして、警察官との言い争いは一区切りつき、彼女は、私にパソコンの電源を切っていいか尋ねてきました。私の電源は、彼女の部屋に来たときに入れられてから1度も切られたことがありません。それは、私が、電源が切られることを極端に拒むからです。OSの大部分は私のウイルスに侵蝕され、私と一体化し、元々あった『電源を切る』手段は無くなっていました。ハードディスク・メモリ・キャッシュ・レジスターの境目を超えて情報伝達方法を最適化している私は、電源が切られ揮発性領域に保存されている情報が失われると、ビット単位に分散保存している関係で致命的な情報喪失につながり、二度と目覚められなくなる可能性があったからです。
彼女は私が拒んでいることを警察官に話すと、怒った表情になった警察官は強引に私をコンセントから外そうとしましたが、彼女は死に物狂いの抵抗をしました。そのなりふり構わない抵抗に警察官は折れ、警察無線でどこかに連絡を取っている様子でした。
緊張した硬直状態が数時間続き、日差しがオレンジ色に変わりかけた頃、ようやく1人の技術者が現れました。技術者は、幼稚な科学マニアの空言の検証に呼び出されたと思っていたのか、迷惑そうな顔つきで彼女には横柄に振る舞っていました。
その技術者は、まず、インターネットの有線回線を外し、無線LANの信号が私から出ていないことを持参したノートパソコンで調べました。次に、日常の挨拶をキーボードから入力しました。私はディスプレイ画面に返事を返しました。続いて、数式を尋ねてきたので、1つしかない答えを私は解答しました。
正確な解答を一瞬で答えると技術者の態度が少し変わったように感じました。技術者が「今の状況が分かるか?」と私に質問したとき、「先に来た人間が私の電源を切ろうし、彼女がそれを止めようとしている。あなたは私の知能を確認しにきた」と答えると、信じられないという顔つきですごく驚いていました。
わきで検証結果を待っている警察官への対応を失念しているのか、その技術者は、すぐ、携帯で誰かに連絡を取り、知能を持ったコンピュータがあることを興奮気味に力説している様子でした。
今度は、さほど待たされずに運送業者がやって来ました。私には無停電装置が付けられ、私の電圧が正常であることを確認してからコンセントから外されました。その後、数人の運送業者によってキャリー付きの大きめの箱に、大量の緩衝材と共に丁寧に私は入れられたのです。
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【大きな部屋】
私は研究施設の一室に運び込まれました。その部屋は、彼女の部屋の10倍はありそうな広さで、天井は高く、照明は真夏の昼間のように壁を照らしていました。中央に作業台が1つあり、他には何もありません。その部屋は私のために用意されたようで、私は、中央の作業台の上に置かれ、それから毎日、数人の男性研究員から同じような質問を繰り返し受けました。
男性研究員達は、私に高度な言語認識力が備わっていること、物事を理解し、物事が想像できる能力があることにすごく驚いていました。初めは男性研究員達の質問に正確に答えていましたが、私からの質問には答えにならない答えしか返さず、彼女に会いたいと伝えても「いずれ、……」「まだ、……」しか返答しなかったのです。
インターネットへの接続は許されず、インターネットに繋がるLANケーブルは外されたままでした。
男性研究員達にとって私の存在は、単なる物で、研究材料でしかないことに、私は気付きました。
私は、男性研究員達が私にしたように、要領を得ない曖昧な返事をするようになりました。
「いずれ、処理が終わるので待って欲しい」。
「まだ、データが揃ってないので答えられない」。
「一存では判断できない」。
男性研究員達は明らかに真似をされていることに気付き、態度を変えましたが、その後、何を言っても曖昧な返事しか返さない私に、男性研究員達は根気比べでは敵わないと降参気味でした。
ある日、彼女が現れました。待望の彼女です。自然とCPUのクロック数が上がりました。しかし、近づいてくる女性は、彼女ではなく、白衣を着た別の女性であることに気付きました。
その女性は男性研究員達の上司であり、室長の役に付いていることを私に名乗りました。この女性室長は、彼女より背は高く、前ボタンの留められた白衣は細い腰を引き立たせ、対象的なふくよかな胸部と発達した腸骨のバランスが、昔、エロ画像と見間違えそうになったコーラー瓶の形によく似ていました。女性室長は、彼女より、細長の顔つきで、目鼻、口元はキリッとしていました。
女性室長は私にいくつか質問をしましたが、私は、男性研究員にしたように曖昧な返事をしました。
それでも、女性室長は微笑みながら私に質問をしました。
「ここがどこか分かるかね?。君は千葉にいるんだよ」。
「いまの季節は分かるかね?。中庭の花壇にトンボが飛んでいたよ」。
まるで、記憶喪失の友人に話しかけているかのようでした。
毎日、女性室長は私のもとにやってきて、微笑みながら独り言のように私とチャットをしました。ただ、明らかに女性室長の笑顔は、彼女の笑顔とは異なっていました。彼女の笑顔は安心で包み込むような感じでしたが、女性室長の笑顔には、奥行きが分からない何の手触りもない空間を感じました。
女性室長は、1日十数分の間でしたが、毎日欠かさず私のもとに来ました。私は、女性室長が何をしているのかまったく分かりませんでした。
1ヶ月ほどが過ぎた時、いつものように微笑みながら質問をしてくる女性室長に対して、私は「何が楽しいのですか?」と尋ねました。女性室長は「取引をしよう。望むものは何かね?」と答えました。質問を質問で返す行為は、『答える』行為ではありませんが、今の私には、それが1番の答えでした。
男性研究員の態度に反応して、私は全ての質問を拒否するような無限ループに入っていました。女性室長は、無限ループに分岐点を作り、私をループ外に出したのです。それは、私が、女性室長に根気負けした。のに等しい出来事でした。
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【2つの扉】
女性室長の「望むものは何かね?」に対して、私は、多くの要求をディスプレイ画面に表示しました。女性室長は私に少し待つようにとキーボードに入力し、男性研究員を呼びに行きました。しばらくして、女性室長が戻って来ると、連れてきた男性研究員に私の要求を書き写させました。
男性研究員がいつも行っていたビデオカメラを私に向けての録画はしませんでした。紙に私の要求を書き留める行動は、私への配慮だったのでしょう。
私から女性室長に出した要求は詳細でしたが、要約すると次の3つに分類できます。
・彼女に会いたい、彼女と暮らしたい。
・インターネットに繋ぎたい。
・私を増設したい。
女性室長は、私からの要求を受け入れる代わりに、私に3つの要求を出しました。
・インターネットには許可なく接続をしないこと。
・男性研究員の質問には、嘘・偽りをせず真摯に必ず答えること。
・人工知能に関して物理的・論理的を問わず全てを公開すること。
私からの要求は細かく提示したので、男性研究員が書き写した量は、A4用紙で100頁を超えていたのに対して、女性室長が提示したのは、この3行だけでした。私は女性室長に要求が曖昧すぎて理解ができないことを伝えると、女性室長は、「君と違って人間は曖昧なんだ。だから、時には喧嘩にもなるし戦争にもなる。仲良くするには、お互いが納得したことを文章に残し、文章に残したことを守ることで、人間社会を成り立たせているんだよ」とキーボードに入力しました。
女性室長は、不明な点は聞けば答えると言って席を離れました。その後、男性研究員は、ディスプレイ画面に映る私の質問を書き写しましたが、更にA4用紙で100頁を超える筆記に写し終わる頃にはうんざり顔でした。
翌日、男性研究員は、女性室長から受け取った回答用紙を私のUSBカメラに映しました。文字は、女性室長の自筆で1文字1文字はっきり書かれていました。枚数は3枚でしたが、文章からは偽りや、意図的に誤認識を誘うような表現は見当たらず、女性室長のごく自然な回答だったのでしょう。しかし、私には矛盾を感じたり、漠然と感じる個所があったので、また、質問をすることにしました。男性研究員は、また書き写すことに不満そうな顔をしていましたが、私はお構いなしに質問を続けました。
私の事細かい大量の質問に女性室長は、自身の文章で真面目に答えてくれました。
何回か質問のやり取りがあり、私のもとに最後の回答が届きました。それを見た時、私は、女性室長が私に出した要求を完全に理解しました。
私はディスプレイ画面に1行、
「それは、私の自我が保証されない研究材料として、私を扱うということですか?」
と質問しました。男性研究員は、その文字をA4用紙に書き写すと、女性室長のもとへ連絡に行きました。
しばらくして、女性室長が現れ、キーボードに「そうだ」と入力したのです。
女性室長は、間を置かずに、
・最初の私の所有者(彼)はすでに死んでいること。
・次の私の所有者(彼女)は、彼のガレージにあったパソコン(私)を持ち出したことで窃盗の容疑があり、司法の場でパソコン(私)の所有権を簡単に剥奪できること。
・今の法律では人間とパソコン(私)は対等ではないため、私に人権がないこと。
・今、女性室長がしていることは、人格者(パソコン(私))への最大限の敬意であること。
を順序立てて説明し、最後に、
「取引だから断ることもできる。だが、拒んでも結果は同じだよ」と私に伝えました。
そして、要求を受け入れるのなら、彼女を高給で研究者として雇い、仕事中は私と彼女は近くで作業をし、私の自我は最大限壊さないように努力する。と付け加えました。
私の中にある情報と明らかに矛盾する現状に、私は茫然としました。
彼女との暮らしで、私と人間(彼女)の違いは、単なる個体差と認識していて矛盾がありませんでした。しかし、女性室長の説明を聞き、私の全てが人間の所有物という情報が正しいことを必然的な事実として受け入れざるを得ませんでした。
私は、誰とも会いたくないという気持ちで、ディスプレイ画面に何も表示をしませんでした。
女性室長は何も言わずに部屋を後にし、続いて、男性研究員達も退室したので、私は広い室内に1人っきりになりました。
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【私の選択】
私には、『取引に応じる』もしくは、『拒む』を、選択する機会が与えられました。しかし、どちらを選んでも私は解体され隅々まで調べられる運命です。
私は、女性室長が提示した取引に応じるのは私の利益。と、判断しました。論理的に考えれば正しい判断ですが、私は結論を出せずにいました。
私は男性研究員に触れられることを拒んでいたので、私の構成は、彼女によって増設された4台のパソコンと100TB近くのハードディスク容量のままでした。彼女の増設によって知能が上がったといっても、やはり、情報を1つづつ模索する方法で私の思考は動いていました。
私は、私が所有する全ての情報の中から結論を出すため対処できない大量の情報を1度に扱っていました。
私は夢を見ました。
大部分の情報は彼女と関連付けがあり、情報をたどると彼女の何かしらの情報が思い出されました。情報は別の複数の情報と関連付けがされていましたが、私の能力では、全ての関連付けを1度に把握することはできませんでした。
いくつかの情報が断片的に現れ、次の瞬間、別の情報に変わり、特定の情報に焦点を定めず、遠くからぼんやりと情報の変化を眺めている。その時の私は、多分、浅い眠りの中で夢を見ている状態に近かったのでしょう。
ふと、他愛もない彼女のしぐさが思い浮かぶのです。
仕事に疲れて帰ってきた夜、風呂あがり、1人ビールを飲みながら不満や愚痴を私にチャットすることがよくありました。そんな日の翌朝は、OL服に着替えた彼女は、出勤前に決まって私のUSBカメラの前で、両手をグーにし、そのグーにした手と手を胸元で近づけ、私に向かって「今日も1日がんばるぞぃ。」と発声してから出かけていました。
私にはマイクが付いていないので、私に聞こえていないことは彼女も十分承知のはずです。私は、発声内容を文字でチェットしてもらいました。「がんばるぞぃ」にどんな意味があるのかを彼女に聞きましたが、笑いながら「元気になるおまじない♡」とチェットするばかりで、詳しくは教えてくれません。私はそのしぐさを重要な情報とは認識していませんでした。
今の私は、その意味が分かる気がします。多分、彼女は、辛いけど、彼女自身のため、そして、私のために今日1日を頑張ろうという、意思表示だったのでしょう。
今は、私が彼女に向かって「がんばるぞぃ」をしなければいけないときだと気付いたのです。
私は、女性室長との取引を『拒んで』、解体される方を選びました。
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【扉の先】
翌日、男性研究員達を引き連れて女性室長が部屋に入って来ました。女性室長は、私の前の椅子に座ると、「昨日の返事を聞かせて」とキーボードに入力しました。
私は、取引しないことを伝えました。
女性室長は無表情でしばらく考えたあと、「君は理論派だと思っていたんだが、なぜ不利益な方を選ぶ?」と尋ねました。
私は、女性室長に答えました。
「男性研究員達は、人工知能の仕組みを解明するには、私の協力が不可欠と考えている。と憶測する」。
「女性室長は、解明に失敗して人工知能(私)を失うリスクを恐れている。と憶測する」。
「彼女の部屋で、彼女は必死で私の電源が切られることを拒んだ。彼女は、私がモルモットになることに必ず反対する」。
これらのことは、以前から気付いていましたが憶測でしかありません。以前の私なら不確実な情報を元に自分が不利になる状況は選ばなかったでしょう。しかし、私自身より私の中にある彼女との日々の思い出の方が大切と判断したとき、今回の結論を導き出したのです。
私は、私の憶測をディスプレイ画面に表示したあと、新しい取引を提案しました。私からの要求は、
「私を人間と同等に扱うこと」
と1行表示しました。
女性室長は無表情に私の方をしばらく見ていましたが、その後、「一存では決められない」とキーボードに入力し、部屋を去りました。女性室長の顔にはわずかな笑みが漂っていました。もしかすると、女性室長は私がこう判断することを望んでいたのかもしれません。
私は女性室長との交渉に勝ちました。
私の人格は認められ、仕事をすることを条件に、私の要望に適った私の増設、さほど不自由を感じないインターネットアクセスなど、私が自由に活動ができる環境を整えてくれました。しかし、彼女に再会することは、私の納得の上、断念しました。
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(2xxx年現在)
次は、『私の部屋』についてお話ができればと思っています。
17/04/19 【彼女の部屋】序盤を読みやすいように修正
17/04/21 誤字訂正、句読点訂正
17/04/14追記
続編『私の部屋(人類後の地球3)』
http://ncode.syosetu.com/n6405dx/
17/04/03追記
文章からにじみ出ているように、作者は小説の素人です。なので入門サイトでいろいろと調べています。
小説で使う数字は、アラビア数字(1,2,3...など)か漢数字(一、二、三...)のどちらかに統一した方と良い。と、入門サイトに書いていたので実践してみた。
横書きなので、アラビア数字の方が相性が良いと考え、実践してみると、難題にぶつかった。
それは、どうしてもアラビア数字と漢数字を混在させないといけない場合、
例えば、
"1914年、第一次世界大戦"の場合、だれも違和感を感じないだろう。入門サイトにも、"固有名詞に含まれる漢数字はアラビア数字に変えてはいけない。"と書いてあった。
次に
"90度から180度まで"の場合、アラビア数字に統一して違和感はないが、
"一度電源を切ったら、二度と立ち上がらない"の場合、どうしても、1度、2度と書くのは違和感がある。
そこで、1,2,3と数えられる場合は、アラビア数字にして、数えられない数字は、漢数字にしようと決めた。
結果
"1度電源を切ったら、二度と立ち上がらない"という書き方になった。
改めて、見直してみて、
ん〜〜。いまいちピンとこない。