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落書きの恐怖

作者: 松本祐一

 とんでもない恐怖体験をしたよ。それこそ身の毛がよだつ体験だ。


 ほくの実家が山深いところにあって、その家業が和紙作りという古式ゆかしいものなのは、何度か話していると思う。バスが一日二本しか通らないような場所だよ。

 この前実家に帰省した時、ちょっと年の離れたうちの姉が子供をつれて遊びにきてたんだ。あらかじめ言っておくけど、その中に座敷わらしが混じってたってオチじゃないからね!


 イタズラ盛りの子供が、古い大きな家に来たもんだから、そりゃあ大暴れさ。そしてぼくは「若いんだから体力あるでしょ?」とおいっこ、めいっこの遊び相手を押しつけられた。

 体の小さな子供たちにとって、見知らぬ大きな家は冒険の対象だ。ましてや、和紙の保管のため、照明が設置されていない離れの納屋は、大人でも怖いぐらいの暗さと静けさだ。

 懐中電灯とスマホのライトを頼りに、納屋の中を子供たちと探索したさ。


 納屋の中にはB級品とでもいうべき、得意先に納品できないが、捨てるほどでもない品質の和紙が桐の箱にしまわれ、大量に保管してあった。

 好きに使っていいと両親に言われていたので、日の光が届く納屋の入り口まで何枚か引っ張り出して、子供たちに落書きさせていた。

 真っ暗な納屋の奥からいきなり明るいところに出てぼくの目がおかしくなったせいか、はたまた気が遠くなるほど長い間保管されているうちに和紙が霊性を得たのか、子供たちが描いた落書きの生き物が踊っているように見えた。

 子供たちが狂喜乱舞している様子から、ぼく一人の目や頭がいかれたわけではないようだ。

 自分の五感が疑わしい時は、道具に頼るのが一番。ぼくはスマホで落書きたちが動く様子を動画で撮影し、そのままストリーミングでネット上に公開した。

 めいが描いた、さほど上手ではない、犬や猫が和紙の上でぱたぱた動き回る。

 子供たちは熱心に落書きを続け、ぼくはそれをスマホで撮影しながら見守っていた。見守りながらも「もし子供たちが得体の知れない人食いの怪物を描いてしまったら……」と不安に襲われていた。

 姉からあずかった子供たちである、まかり間違って、危険な目にあわせてはまずいと考え、ぼくはそろそろ落書きをやめて、別の場所を探検しようと提案した時、めいは描いてしまった。


 身の毛がよだち、足がすくんだ。脂汗がじっとりと出てきた。


 めいは紙の上へ描いてしまったのだ。ネズミを。世界一有名な、黒い体色をもち、赤いズボンをはいたネズミを。


 ぼくはあわてて撮影をやめた。ストリーミングで公開していたのを死ぬほど後悔した。もしあのネズミが描かれていることを、ネットの住民が○ィズニーに報告でもしたら、アメリカの容赦ない弁護士軍団が黙ってはいないだろう……。


 とんでもない恐怖体験をしたよ。それこそ身の毛がよだつ体験だ。


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