第五話 『伸館生の進路』
気づくと、目の前に広がる光景は先ほどまでの講堂から最初に入った教室に変わる。
「タイキ、急がんとやばいって!!」
どれだけ急いでいるのか、その場でランニングマンがごとく足踏みをしながらタクミがせかしてくる。
「よし、そろそろ行こうか」
特に慌てることもなく俺は答える。
こちらの教室にも誰もいない。それもそのはず、次の時間は俺たち伸館生にとっては最も重要な意味をもつ時間だからだ。普段の講義は適当にしか受けていない館生たちもこの時間だけはちゃんとみんないく。
「なんでそんなに余裕なんだよっ、今日こそ適性が出るかもしれないだろっ?」
「んなわけw」
バカなのか演技なのかわからないが、こいつは今日こそは適性が出ると信じているようだ。そんなはずはないのに。想定外の言葉にすこし俺はにやけてしまう。
「もう俺先いっとくけん!!」
そういうとタクミは一目散に相談室へと駆け出して行った。俺を待った意味はあったのか。
「あーあ、だるいなぁ」
誰ともなしに俺はつぶやいてしまう。なにせ結果はもう見えに見えているんだから。
俺たちの通っているこの伸館なんだけど、まぁぶっちゃけ問題児の寄せ集め場所みたいなものだ。あらゆる分野に才を見いだせるような子もいれば、あらゆる分野に才を見いだせない子がいるのも当然の話だろう。この伸館という施設は、そんな子たちが少しでも何らかの才を開花させることができるように、それさえもできないのであればせめて才のある者の下でうまく働けるように様々なことを経験させるという施設なのだ。
中には、才があると見出されていたがどうしても気にいらなかったためやり直し的なことで来ているものもいる。俺からすれば、気にくわない奴だ。
そんな施設なものだから、カリキュラムはほかの教育機関とは全く異なっていて、人間関係の構築や、基礎教養の講義くらいはあるものの、残りの時間はほぼ遊びのようなことをして過ごしている。遊ぶことで、眠っている才能を刺激する狙いがあるらしいが、効果は不明だ。でも、ほとんどのものが才を見出されるようになっているのだから、それなりの効果はあるのだろう。
で、そんな適性がみいだされなかった子たちが、伸館で1年を過ごし、その結果としてなんらかの才が見出されたかどうかを発表し、新たな進路が決定するのが今日という日なのだ。そのため、みんな興味津々である。
伸館生というのはどうしても社会からの評価は低く見られがちだ。遊びながら過ごす生活はそれなりに楽しいものの、やはり皆それでも伸館から他の施設へ移ることを望んでいる。
普通であれば、期待こそすれ、俺ほどくらい雰囲気にはならないはずなのだが、俺にはそうなる理由があった。別に伸館から出たくないとかそういうわけではない。どちらかといえば出たいくらいだ。
いや、結構出たい。伸館は恥ずいっす。
まぁあるわけないよなと淡い期待すら抱かず俺は、相談室へむかう。その足取りはゆっくりしたものだ。
てくてくと階段を下りて、廊下の角を曲がると目的の場所が見えてきた。相談室の前には軽い人だかりができている。発表を待つ、伸館生たちだ。みんな期待と不安をいだいてドキドキした表情を浮かべている。一人でせかせかと歩きまわっている者もいれば、発表なんて気にしないよという様子で友達と話している者もいる。まぁどんな行動をとっていても、内心は心臓バックバクなのは一目でわかる。どことなく話しているようで心ここにあらずといった様子なのだから。
あーあ、寝たい。
タクミはどこいったのかなと伸館生の群れの中に俺も潜ると、あたりを見回す。タクミはどこにいるのかわからなかった。けれども、そこにはタクミよりももっと嬉しい人物がそこにいたのだ。
「あ、お兄ちゃーん!!」
俺を一目見るや否や、パァっと表情を明るいものに変え、手を振りながら俺に駆け寄ってくる愛しの妹がそこにいた。




