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第二話  『伸館』

「それでタクミ、今日は何をしてたんだ?」


 うわっ、やっと来たなどと言いながら俺の右隣に座っている俺の一番の友人たるタクミは慣れた様子で説明してくれる。これも一日の日課だ。


「え?あぁ、今日はね……えっとなんだっけ?ああそうやった、コミュニケーションをいかにうまくとるかっていう話で…」


「あー、そういう感じのやつか。おけおけ」


 コミュニケーションについて本当に学べているのならこんなにオドオドしたような話し方にはならないと思うんだけどな。

 

 なんてことを思いつつ講義のほうに話に耳を向けてみると、今日の講師が熱くコミュニケーションについて語っている。


「人に何かをしてほしいと思うのなら、何かをしてほしいと思ってはいけません!!そう思う限りは誰も何もしてくれないんです。大事なのは自分自身が……」


 うん、意味わからん。何かしてほしいのに何かしてほしいと思ったらいけないってもう話が矛盾してないすか?


 やばい、興味が失せると睡魔が…。


 いかんいかん、ここで寝てしまうと講義の後にハルナに怒られちゃうんだよな。なにか楽しいことでも考えよう。


 もう俺は完全に講義を放棄して、夢想の世界に浸ることにする。


 俺が珍しく伸館の中でも好きな講義がある。それは、基礎教養と呼ばれる講義だ。人間として生きていく上で必要最低限な知識を教えてくれるものなのだが、そのなかでも俺が特に好きなのは近現代史。


 人類はほんの少し前まで、信じられないことだが人類が人類を治めていたらしい。これはバカとしかいいようがないと思う。結果は案の定、統治する立場の者が己の利益を優先して、被支配者から富を搾り取ったり、自分のやりたいようにするようために武力を行使したりしていたのだと。


 そりゃあ、俺だって俺が統治する側になったらろくなことする気はしないしな。しかもさらに酷いのが昔の地球は指導者が国によってそれぞれいて、それをまとめる存在はなく権力が国々にわたって分散、全くまとまった組織として地球が機能していなかったという。


 その結果皆が皆、自分の国の利益だけを考え始めた。他の国と利益が一致すれば協力することもあったようだが、そんな事例はほとんど残っていない。それどころか、ほとんどが自らの利益のために他国を蹴落としたりその技術や富を奪い取ったりするようなことばかり起きていた事例が多く残っている。


 まさに蛮族の時代である。その結果引き起こされてしまったのが第三次世界大戦だったというのだ。それ以前にも第一次、第二次と世界大戦は勃発しておりそのたびに反省して国際◯◯という組織を作って平和活動を試みたようだが、結果はお察しである。結局は無駄に終わってしまった。第三次世界大戦は現に起きていのだから。


 俺からすれば、まぁそりゃそうなるでしょうねといったところだ。先ほども言ったように、人類を人類が統治するという前提からしておかしな制度、その上地球全体をまとめる統治者たるものが不在というまとまりもクソもない状態、これで争いを起こすなというほうが無理な話なのだから。


 そう考えると俺は今の時代に生まれて本当に良かったと思う。前世の奴らは心の底からドンマイとしか言いようがない。この優越感に浸れることがこの講義が好きな理由かもしれないのは秘密だ。


 話を戻すと、そんな終末郷かと言いたくなるような悲惨な人類だったが、第三次世界大戦を機にようやく、ようやくこのままじゃまずいと気付いたみたいだ。


 当時の世界のトップに立つ者達は、人工知能による全人類の管理を行おうと決めた。それこそが、今も全人類を管理し続けている全人類管理型人工知能ゼロ。ここから人類は始まったといっても過言じゃないと思う。


 ゼロがない世界とか考えられない。ゼロは二人の天才科学者によって生み出された。その二人の科学者は…。


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