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第十四話  『遭遇』

「な、なんでゼロフォースがこんなところに…?」


 俺は驚きのあまりつい声を漏らしてしまう。しかし、その身は陰に隠したまま表に表すことはしない。普段の俺であれば、大好きなアイドルを見つけたファンのように飛びついていっただろう。しかし、状況が状況である。そんなお気楽な真似は取れない。


 俺は息を潜めたままゼロフォースの様子を物陰からうかがっていると、徐々にその距離を近づけてくるのが分かる。その綺麗な歩行姿勢は自信に溢れている。ただしあまりにも整いすぎているその動作は、まるで機械のようだ。


 しかし、何よりも俺の目をつかんで離さないのは、彼の右手に握られていたモノだった。全くもって重さを感じさせないそれこそが、先ほどから聞こえていた音の正体。それは――――――






―――――人だった。






 俺には人類の守り手たるゼロフォースがなぜそのようなことをしているのか全く分からない。人を引きずって歩くなんて普通に考えてまともな状況じゃないだろう。しかし、相手はあのゼロフォースだ。それがさらに事態を複雑化させる。


 今日は本当に変なことばかり起こる。タクミが突然号泣し始めたかと思ったら、今度はハルナまでゼロを否定する。挙句の果てには、ゼロフォースが夜中に人を引きずってい歩いているときたもんだ。


 もう俺の頭は処理能力の限界だった。普段は何も考えずに生きてきたのだ。そんな風に気楽に生きてきた自分が少々恨めしい。


 しかし、そんなことを考えていても現実は変わらない。


「ハ、ハルナ………どうする?」


 もうどうしていいのか分からなくなった俺は、ハルナに問いかける。ハルナなら何かしらの答えをくれる、そう思って俺はハルナの答えを待つが、ハルナはじっとゼロフォースの方を見つめるだけで俺に振り返ってくれもしない。


 くそっ、どうしたらいい。


 ゼロフォースは味方なのか敵なのか全く読めない。普通に考えたら、ゼロフォースは味方以外の何物でもない。ゼロフォースは全人類の守り手なのだから。しかし、その手で引きずっているモノ。それが俺のその思考を妨げる。


 頭の中がごちゃごちゃする。


 そんなごちゃごちゃした俺の脳裏にひとつの推測が浮かんだ。最近起きている謎の失踪事件。それがゼロフォースの仕業だったとしたら?


 失踪事件が起きているのに、その犯人や原因がいるまでたっても究明されないことには疑問を覚えていた。ゼロが公式にそう発表していたので、その場は流していたが。


 もし、ゼロフォースがその誘拐を行っていたとしたらその疑問は解消される。そして、それを裏付けるような今目の前に広がる光景…。


 しかし、そんな自分の考えを俺は即座に否定する。そんなことありえないだろう。それはこの世界の根本から揺るがすような事態なのだから。そんなことはあるはずがない。つまらない空想物語の世界の話だ。


 でも現状は…。


 もはや何を信じていいのか分からない。ハルナの手を握っている俺の手はもうびしょびしょだ。自分の頭で考えるのはきつい。嫌だ。もう考えたくない。考えたって分かるはずがないのだから。そして考えたら考えるだけ今まで自分が立っていた揺るがない強固な地盤がまるで虚像だったように奈落の底に落ちていくような気がする。


 だから、俺は…


 ハルナを連れて物陰から飛び出した。


「え?お兄ちゃん!?」


 ハルナが驚いたような声を上げる。しかし、その表情は見えない。なぜなら、俺の視界に入っているのは目の前に立つゼロフォースだけだから。


「すいませんっ!!」


 俺は特に何を考えるでもなく、ゼロフォースに呼びかけた。そこに、温かい対応が返って来ると期待して。もう考えることを放棄した俺は、常識に従うことにした。常識とは、正しいからこそ常識なのだ。


 しかし、俺が期待したような対応は返ってこなかった。


 そこにあったのは、しばしの沈黙。


 そのゼロフォースは無表情を貫こうとしているのだろうか、突然の俺の登場にも何の反応も示さない。しかし、完璧に己の感情を隠し通せているわけではなさそうだ。その目はカッと見開かれ、その瞳に浮かぶのは不可思議な物を見たとでも言わんとばかりの驚嘆だけ。


 やはり、ここは飛び出したらまずいところだったのか。


 俺は、選択を誤ってしまったかもしれないと思うと自然と身がすくんでしまう。ハルナの手を握る右手は手汗をかきすぎたのだろうか、もはやその熱を失っている。今も手汗は止まらないというのに、その手は冷え切っている。


 俺は何かを口にできるわけでもなく、俺たち3人は時が止まったかのように見つめあっている。


 そんな状況で先に行動を開始したのはゼロフォースだ。


 ゼロフォースはその顔を俺たちからわずかにそむけると、誰かと連絡を取り合うように話し始める。


 夜の静かな通りだからだろう、その感情を一切感じさせない機械のような声がこちらまでよく聞こえてくる。


「いや、指示通りのルートを進んでいたのですが、何者かと遭遇し……。いえ、確かにここにいるのです。男一人に女一人です。……。はい。どうしますか?……」


 その音色に含まれているのは困惑だろうか。何者かと連絡を取り合っているらしい。


「す、すいません。どうかしたんですか?俺たち、たまたま通りかかって…」


 俺は再び声をかけてみる。しかし、またしても答えは返ってこない。しかし、ゼロフォースとその何者かの会話は進んでいたようで、ゼロフォースの言葉を最後に会話は終わる。その声は氷のような冷たさをもって俺たちのもとに届く。


「分かりました。二人を拘束して、指令のあった標的と共に連行いたします」


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