第十一話 『放課後』
「あぁ、やっと終わったー」
俺はVR空間から戻ると、VRグラスを外してグっと背伸びをして肩を回す。こうすると、何かやりきった気分になるのだ。今日のワークはVR空間を使ったフリークリエイティング。
これは、VR空間における無限のリソースを使って、自分の好きな物を製作するワークだ。そこで作った作品はデジタルデータとして保存され、その気になればプリンターから印刷することもできる。しかし、その材質によってはその価格は非常に高額なものとなる。
以前のプリンターは二次元の物しかプリントできなかったという話を、基礎教養の講義で聞いた時には驚かされたものだ。プリンター無しで、どうやって物を作っていたというのか。昔の人の技術というのもあなどれないものがある。
などと考えていると、後ろの方から元気な女の子の声がかけられた。
「お兄ちゃんの今日の作品すごかったねぇ!!あんなにリアルなレーザーブレードなっかなか作れないよ!!」
俺をお兄ちゃんと呼ぶ人物は一人しかいない。その声をかけてきた女の子は、俺の自慢の妹であるハルナだ。まぁ、俺に声をかけてくる女子がハルナしかいないということもあるのだが。
「ども。まぁ、なんかああいう武器って俺好きなんだよ」
「ハルナは女の子だからそういうのはよく分かんないけど、お兄ちゃんの作った武器ならハルナ欲しいかも!!」
「なら、あれプリントする?」
俺は冗談めかして言ってみる。
「えへへへ、さすがにそれは無理だよお兄ちゃん。それをするなら、二人のお年玉をあと10年分くらい貯めないとっ!!」
「それはノーチャンだなwまぁレーザーブレードなんて、現実世界だったら使う機会もないしな」
「そうだね、武器を使うのなんて仮想現実世界くらいだよ!!今も現実世界で使われている武器って、対宇宙人兵器くらいしか無いんじゃないかな?」
ゼロ以前の時代は国によっては国家が対国家兵器をそれぞれ所有していたみたいだが、ゼロの統治が始まって以来それらの兵器はほとんどが解体処分されてしまった。しかし、今もその一部が対宇宙人兵器として使われているらしい。
宇宙人の襲来ってそんなSFでもあるまいし…と思うのだが、これもゼロの決定だというのだから正しいのだろう。この辺が俺に何の適性も示されない原因かもしれない。
「なら宇宙人が攻めて来たら、あのレーザーブレードプリントするしかw」
「そんな時が来たら大変だよー。確かにお兄ちゃんは剣の扱いは上手だけど、あれはゲームだってことを忘れちゃダメだよ!!お兄ちゃんがもし死んじゃったら、もうハルナ生きていけないからっ」
「分かってる、分かってる。もし宇宙人が攻めてきたら俺は真っ先に逃げるから、そこは安心してくれたまへ。そういう俺だってハルナがいない世界とか軽く死ねるわww」
「えへへ…。そう言ってもらえるとハルナ嬉しいなっ」
パァっとハルナの表情が明るいものになる。
「俺たち兄妹はどっちが欠けてもダメってことだ。二人で一人。よし、そろそろ帰ろうか」
「うん!!ハルナはいつでもお兄ちゃんと一緒だよ!!」
それだけ話すと、俺たちは教室を後にする。タクミは結局帰ってこなかったのだが、どうしたのだろうか。
なんて思いは目の前に浮かぶハルナの笑顔の前に消え去ってしまう。すまぬタクミよ、ハルナの笑顔には勝てんかった。
外に出ると、辺りはもう暗くなりつつある。日が暮れないうちに早く帰ろうと、俺たちはタイミングよく停車したLRTに乗り込んだ。
「?」
ハルナはどうしたのかLRTに乗り込むや否や急に後ろを振り返る。
「ん、どうしたんだ?」
俺も振り返ってみるが、特に何もない。
「いや、何でもないみたい…。ごめんねっ。あ、あそこ空いてるよ!」
そう言うとハルナは丁度二人分の席があいている場所を指さす。
確かに二人分の席が空いている。
するとハルナは、その小さいが温もりを感じる手で俺の手を握ると、先ほど指さした場所へ歩みだした。
「お、おう」
俺はハルナに引っ張られるようにして、ついていく。そして俺たち兄妹は仲良く隣の席に着席した。
俺たちを乗せたLRTは物音ひとつ立てず静かに走り出す。出発とはこうも静かなものなんだなぁと柄にもなく感傷的なことを思ってしまうのだった。