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第十話  『昼休みⅢ』

「なんてねっ♪」


 今までの真剣な態度が嘘のように、無邪気な笑顔になるとハルナはニコリと微笑む。


「こんなことを言ったらお兄ちゃんがそういう反応になるのは分かってたよ。でもね、ハルナが本当はこう思ってるってことだけは知ってほしかったんだー」


「え??」


 そりゃあ、あんな事を言われたら普通にこういったリアクションしか取れないと思うのだが。あれがハルナの本心だったとは驚きだ。


 ハルナは全て分かっているとでも言うように、穏やかな声で囁いた。優しさが溢れんばかりに込められたその声はすっと心の中に滑り込んでくる。どこまでも深く、その声は俺の体に浸透していくように感じた。


「今は分からなくても大丈夫だよ。お兄ちゃん。でも、きっと分かる時が来るってハルナは信じてるからね。そしてその時は、きっとお兄ちゃんならどうすればいいのか分かるはず!!…」


「そ、そうか?まぁでも、ハルナがそう言うのなら、そうかもしれないな…」


 すると、ハルナは俺の少し暗くなった雰囲気を察したのだろうか、急に明るい冗談めかした雰囲気になると


「そうだよ、そのうちハッと気づいて『あー、ハルナが合ってた』とかって言うんだから!!」


 表情まで作り込んだやけに上手な俺のモノマネを披露する。そのクオリティは驚愕に値するものだが、残念なことに披露する相手が俺くらいしかいない。


「めっちゃ似とうやん!!」


 と、俺はつい感動して軽く笑ってしまう。ハルナが俺のモノマネをすると、俺の口調まで可愛く思えてくるから不思議だ。


「でしょ?毎日お兄ちゃんを見て研究してるからね!!他にもあるよー」


「ほー、どんなの?」


「『お、おうっ』」


 今度は、あまりのクオリティに俺は噴き出した。そして自分でもそんなことを言っていたなということが思い当たり、それがさらに笑いを誘う。しばらくは笑いが止まりそうにない。


「そんなに面白かった?お兄ちゃんったら返事する時こればっかりなんだもん」


「クッソわろたwwww確かにそれは言ってるな」


「ほかの返事の仕方も考えておいたほうがいいよ?」


「ww、んー…思い付かないな」


「全くもうっ。だからマネされちゃうんだよ?」


 そんなことを言いながら俺たちは、昼食のサンドイッチを食べ進める。


 俺はついつい美味しすぎてペロッと食べ終えてしまうのだが、ハルナはよく噛んで食べているのだろう、俺が食べ終わった頃にもまだ自分の分を1つ残していた。


「……」


 俺はとりあえず無言で欲しいアピールしてみると、ハルナは即座にそれに気付いてくれた。俺がそういった行為に出ることまで予想済みだったかもしれないが。。

「えー、またハルナの分が欲しいの?」


「ほ、欲しいっす」


「しょうがないなぁ、じゃあ一口だけあげるっ」


 そう言うと、ハルナは残っていた最後のサンドイッチをつまむと俺の方へ向けてくる。


「はい、じゃあ一口かじって」


 目の前にはハルナから差し出されたサンドイッチ。ここは男らしくワイルドにいくべきだろう。


 俺は、獲物を捕らえるワニのごとく口をあんぐりと開くと、がぶっという効果音が聞こえそうなぐらい豪快にかぶりつく。半分は持って行ってやったぜ。


「お、お兄ちゃん、もう半分も残ってないよ!!」


 口に出された言葉こそ残念そうなものだが、反面ハルナの様子は嬉しそうなものだ。頬を赤らめて少しにやけている。


 やはり、ワイルドにいって正解だったみたいだ。ハルナは俺によって半分以上かじり取られたサンドイッチを丁寧に丁寧に食べている。その表情は何故か真剣なものだ。


 俺は口の中に含まれた大量の物をモグモグと噛んでいくことで消化する。少しして、最後の一口を食べ終えたハルナは、ふぅとため息をつく。


「いやー、ハルナの作ったサンドイッチは最高だな」


「いやー、そういってもらえるとハルナも最高だよっ!」


「じゃあそろそろ戻ろうか」


「そうだね、戻ろっ」


 そう言うとハルナは、てきぱきと弁当箱を片付ける。その手つきは慣れたものだ。


 そして、俺たちは中庭から教室にむけて歩を進める。あのベンチは教室からそう遠いところにあるわけでもないので、少し歩けばすぐに俺たちの教室へ到着する。


 教室を見渡すと、友達同士で歓談しているもの、VR空間にインしているもの、ARコンテンツを楽しんでいるものと様々だ。


「お昼ご飯食べた後だからって寝ちゃダメだよ?じゃあ、お兄ちゃんまた後でね!!」


「お、おう。あ、また言ってしまった。まぁいいや、じゃあまた後で」


 しばしの別れの言葉を交わしあった俺たちは、それぞれVRグラスを装着すると、それぞれの仮想現実空間へとダイブしていった


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