幕間:女子会でした!
一周年の景気づけに幕間ではありますが、もう一作出しちゃいます!!
感想もお待ちしておりますので、お気軽にどうぞ!!
陽はすっかりと沈み、辺りには夜の闇が満ちている。
闇から聞こえる虫達の奏でる音色が、夜の不気味さを幾分か和らげ、木の所々では眠りにつく精霊達の姿が伺える。
勿論眠りについているのは精霊達だけではない。
昼間散々動き回り、疲れた身体を横たえて眠る人やエルフの姿・・・そして魔族達の姿もある。
里にやって来た人間に、どう接するべきかと当初はやけによそよそしさがあったが、一人の人間が振る舞ったスープと呼ばれる物のお陰で大分打ち解けたと言っていい。
細かい物事の捉え方の差異や、文化の違いから悩まされる事やすれ違いが、未だに見受けられるがそれも時間の問題だろう。
エルフ達が住む木に出来た家の連なりの中、人が住む場所もまた木に出来た家となる。
人間はここに訪れた時、感嘆の溜め息を漏らした。
自然に育まれ、愛された種族、エルフ達の住む場所は人間にとって信じられない物だったらしい。
エルフ達の認識も変わったようだ。
当初の認識では、自然を破壊し、自らの欲望の為に知恵を働かせる野蛮な種族・・・とされていた。
里の長老達はそれを人間に言うか、言うまいかを悩んでいたようだ。
実質この里を管理・維持し、自分達の命の恩人である主人が連れてきた客人に、その様な事を言っては無礼ではないか・・・と。
悩みに悩んだ長老達は、意を決して人間達に自然を破壊しないでほしいと嘆願したのだ。
すると、人間達の反応は
「そんな事するはずがない。こんなに美しい自然を伐採するなんてとんでもない」
と言うものだった。
即答された長老達はキョトンとして、人間達を呆然と見つめていたが、やがて握手を交わし、お互いを認めあう間柄となった。
そんなこの里は、今も尚発展し続けている。
帰ってくる主人の為に、少しでも居心地のいい場所へと成すために。
自由と平等、そんな言葉を私達に告げた主人の為に。
しかし、そんな平穏な場所で、薄っすらと明かりを灯された部屋が一室。
自由と平等の名を振り翳し、貪欲に一つのモノを求める為だけに設置された一室である。
入っていいのは主人に仕え、序列三位のそれも女性のみ・・・または、その部屋に君臨する一位が認めた者だけである。
魔法の光を中心に円を描いて鎮座する者の顔に笑顔はない。
どれも修羅場を潜った、まさに修羅の姿がそこにあった。
「さて、今回も始めるよ」
一つの声が部屋に響く、澄んだ声が反響し、細められた視線からは艶やかな印象が見受けられる。
ほんのりとピンク色を宿した肌が姿を現し、ピンク色の唇が魔法の光に照らし出されて妖艶に輝く。
その場にいた全員が首を上げ、この部屋の序列一位の元へと視線を向ける。
「まずは、報告」
「はい」
見た目は少女と言っても通じるであろう女が立つ。人ともエルフとも違うのは、臀部から生えた尻尾と頭部から覗く犬耳を見ればわかる。
「主君は食べ物が好き・・・後、人間も好き」
「ふーん。食べ物が好きなの・・・」
その言葉はその場にいた殆どの者の頭の中に刻み込まれた。
「人間に攻撃したり、食べ物が美味しくないと悲しむ・・・逆に、人間に優しくしたり、美味しい食べ物を食べるとご機嫌になる」
「ふーん・・・やっぱり、人間というのは何かしら特別なものなのね」
その言葉もまた、殆どの者の頭の中に刻み込まれた。
誰もが言葉に耳を傾け、ともすれば目を血走らせんばかりの力強さでもって、その話に食いつく。
「そうね。大人しく傍にいれば、大体撫でてくれるわ」
「いつもの事ね」
「唯、人の身であるとあまり撫でてくれないわね。だからいつもの姿でいたいのだけれど、アルジは人の身でいる私達に嬉しさを感じているわ」
「くっ・・・難しい選択ね」
そんな、会話が幾度となく繰り返されているその場所で、女魔族がザワザワと話し始める。
今回の遠征でわかった主の好きなもの、好きな事を、序列一位が纏め上げ、ゆっくりと首を持ち上げる
「さて、静かに」
その一言で、ザワザワとしていた者達が一斉に静かになる。
そして、ある方向に視線を向けると、そこには大きな木の面を被った女性と見受けられる女が三人、立っていた。
人とエルフ。
木の面から出た耳の長さから、エルフ1・人間2であろう。
内一人は短剣を腰に携え、その場にいる二人とは漂う雰囲気が違う。
恐らく、今まで色々な者と戦い続けた、歴戦の証というモノが滲み出している。
「今回もまた協力者を呼んでいる。そして、今回は非常に強力な人材もいるわ」
いつもなら、エルフの女性が一人か二人呼ばれるだけなのだが、今回は人族が里にやってきて初の会合というだけあって、人族も呼ばれている。
エルフ達から聞いた話によれば、人間は情熱的であり、恋というモノに純粋であり且つ貪欲であるらしい。
中でも吟遊詩人が唄い上げる詩というモノには、恋というものを主体としているものが数多くあり、人間が如何に恋に貪欲かを示している。
そんな人間代表に・・・いったい誰が呼ばれたのだろうか。
「私が直々に頼み込んで、任意で来てもらった」
「執務室に配下を引き連れて、半ば強制連行された記憶があるのですが?」
「・・・さて、我々の目的は唯一つ。主人に好いてもらう・・・それだけ」
仮面の女は一つ大きな溜め息を吐き、処置なしといった様子で首を横に振る。
良くも悪くも、目の前にいる魔族の女達は、内側を開けてみれば少女なのだ。
恋という言葉も知らない生娘、どうしようもなく不器用で、どうしたらいいか右往左往する様な子供。
そんな彼女達はエルフの女性を片っ端から任意・・・強制連行し、自分達の主人に気に入られる為に、日夜研鑽を続けている。
「今の話を聞いて、私達はどうすれば良いと思う?」
「そうですね・・・」
正直に言えば、エルフ達が作ってくれた執務室に戻り、ギルドとこの里に流入する資材の報告書を纏め上げたい・・・だから、帰らして欲しい。
というのが本音だ。
しかし、彼女たちの思いも無下には出来ないのだ。
これが浮わついた気持ちでの、所為お遊びの青臭い話なら歯牙にもかけないのだが、彼女達は本気なのだ。
恋人のその先まで考えているくらいに本気なのだ。
キクちゃんは、「アタイ」って呼び方をエルフの女性に指摘されて「私」に変えた。
ユキちゃんは、本当は主人に思いっきり甘えたいそうなのだが、それもエルフの女性に止められてクールを装っているそうだ。
・・・まぁ、言えるのは一つ。
エルフに教えられたのが間違いだと思う。
エルフと言うのは、精霊と人間から生まれた種族だと言われている。
精霊は悪戯好きであり、エルフ達にもそう言った節が見え隠れしていて、彼女達はこの少女達で少し遊んでいる様子が見受けられる。
完全に間違いとは言えないが・・・もっと根本的な面が彼女達には不足しているのだ。
「貴方達無しでは生きられないようにしてあげれば良いと思いますよ」
「・・・無理ね」
そう言って、全員が俯いて溜め息を漏らす。
考えていることは何となくわかる。
「主人は強い。私達の方が、主人がいないと生きられない・・・」
「違います」
「?」
否定の言葉に全員が頭をあげる。
まさか、ここで否定が飛んでくるとは思ってもいなかったのだ。
それでも暗い表情は携えられたまま、何かに縋る様にこちらをじっと見つめてくる。
「確かに力量では及ばないでしょう。知恵もあるし、一見完璧に見えるでしょう。でも違います」
痛いくらいの視線が浴びせられる。
力量では及ばないと言う現実が、彼女達にかなり深く刺さっている様だ。
しかし、男にはない女の武器と言うものは、何も外見だけではない。
「そのために私も犠牲sy・・・助っ人を呼びました」
「覚えてなさいよ・・・」
同じく後ろに控えていた、木の面を被った女が歩みでる。
彼女はウェルシュバイン家の令嬢アンネ様である。
彼女は今では貴族の身分ではあるが、元は商人であり、跡継ぎでなかった為に、家事や炊事等はお手の物、商人として身嗜み等もしっかりしており、女性としての魅力に関しては性格を除いてはほぼ完璧であろう。
残念ながら長年冒険者として生き続けた一介のギルド職員に、女性らしさなんてものは持ち合わせていないのだ。
書類捌きだけは負けない自信はあるのだけど。
「はぁ、まぁいいわ。貴方達・・・今から行うのは苦行の数々よ。それでもやると言うのね」
「勿論、覚悟しているわ」
全員がゴクリと喉をならす。
命を懸けてでもと全員の瞳に決意の色が浮かぶが、所詮やることは女の子らしさを獲得するための、所為花嫁修行の様なものなのだ。
「それじゃあ、明日から始めるわ。今日は英気を養ってちゃんと眠ること、いいわね?」
「「「「「はい」」」」」
上手いこと、話を切り上げることに成功したようだ。
さて、明日はどうなることか・・・。
翌日、里のある一室で、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。
「うわあああぁぁぁ、火が!火が!!」
「うぅ、指切った」
「これって何の野菜だっけ?」
「とりあえずぅ、鍋にいれればぁ、いいんだよぉ」
「人間って生で肉を食べないの?」
「包丁よりも剣で・・・」
昨日のメンバーを集めて、第一回目の花嫁修行を行っていたはずなのだ、一体全体何が起こっているのだろうか。
巻き起こる悲鳴に、呆気に取られるアンネは事態の収集をどうつけようかと、頭の中を整理している所であった。
男は胃袋を掴めば一発で落ちると、声高らかに宣言したアンネは、森から少し離れた場所で料理を教えていた。
そして、少し目を離すとこうなっていた。
手伝いとして、人間とエルフの主婦を数名置いているのだが、彼女らが巻き起こす珍事に対応が遅れているのだ。
やる気が空回って、地獄絵図を作り出している。
しれっと花嫁修行に参加していた、ユリィタと天狼のユキだけは一人離れた場所で黙々と作業をこなしている。
「あぁ、もう!!」
そこからのアンネの行動は迅速だった。
エルフの精霊魔法で火を鎮火させ、念のために連れてきておいたコトヒラに治療を任せ、野菜の名前を言い、鍋に放り込もうとしていた生肉を取り上げ、食べないと声を張り上げ、眉間に肘鉄を加える。
一連の動作を流れるようにして行い終えたアンネは一息吐く。
「ご免なさいねぇ、どうしてもこの子達を止めれなかったわ」
「若いっていいわねぇ。直ぐに張り合ったり、じゃれあったりするんだもの」
惨状を作り出した者達を正座させ、事情聴取を開く。
大体なんでこうなったかはわかるが、一応の弁解を聞いておこう。
「ルリ姉がシロタエ姉と張り合った」
「キ、キクも張り合っていたはず!」
「ルリがエルフに誉められて調子に乗ったのが悪い」
「私は普通に作っていただけだ!張り合ったのはシロタエだ!」
「わたしはぁ、ふつうにぃ、作ってたよ?」
それぞれが言い訳を話始める。
浪武犬と鬼も大体そんな感じであった。
「言い訳は無用よ」
「頭に乗るn」
「貴方達のご主人様に里の支援を頼まれてるのだけれど?」
「むぅ」
全員が俯いて不貞腐れてしまった。
しかし、こう言う時の対応も、貴族であり商人であるアンネであれば、手玉にとることも出来る。
「あーあ、ユガ君に今日の事言ったらどうなるのかなぁ?」
「それは、ダメ」
「うぅ」
「それだけは本当にダメだ」
「また、主人に怒られるのはやぁ」
全員が項垂れる。
強さで言えば、人間より何倍も強い魔族をアンネは、手中に収めてしまった。
力で勝てないのなら口で勝て、そう父から教えられてきたアンネの、口上に勝てるはずもない配下達は、徐々に勢いを失いしゅんとしてしまう。
そしてここで。
「何も悪い事ばかり話す訳じゃないわ。今から頑張ったら取り戻せるかもしれないわねぇ」
アメを与える。
すると、全員大慌てで持ち場につき、再び料理を始める。
不器用ながらも必死に頑張る姿は魔族も人間も何ら変わりはない。
ウェルシュバインが統治するカルウェイは差別などは殆どない。
しかし、一歩外へ踏み出せば迫害の対象となる。
帝都付近は実力主義が根付いているため問題ない。しかし、聖都近辺では魔族は奴隷階級であり、普通の感覚を持ち合わせている人なら、恐れるの当然の事だ。
・・・でも、何かに必死になったり、努力したり、失敗したりする所は人間のそれと変わりない。
人間と比べて強大な力を持ち、人間とは異なった常識の中で生きる。
魔物と同じで人間にとっては脅威の存在として認知されているが、いざ蓋を開けてみればこの通りだ。
「きゃっ、虫が!!」
「む?」
ダンッという音と共に、まな板の上で蠢いていた虫が、包丁で貫かれる。
女らしさを獲得するには、まだまだ勉強が必要な様だ・・・。
そんなこんなでどたばたしていた料理実習は終わりを迎えた。
「うん。まぁ、普通に美味しいね」
「人間というのはいつもこんな事をしているのか・・・」
「つかれたぁ」
皆結構頑張ったようで、ヘトヘトになっている。
慣れないことをしたせいで、手に少し怪我をしていたり、料理の方は中の具材の形が歪だったりしている。
「これでは、主君に食べさせるわけにはいかないな・・・」
その言葉に全員が俯いて自分の料理を見下ろす。
でも・・・。
「昔、世界中を回った偉大な料理人が、残した言葉があるわ」
ニコッと微笑んで全員を見渡す。
「料理は愛情・・・ってね。どれだけ下手でも頑張って作ったなら、絶対喜んでくれるわ。手を傷だらけにして頑張ってるんだから、あんた達のご主人様は泣いて喜ぶわよ」
皆が自分の料理に目を落とし、暗い表情だった顔に笑顔が溢れ出す。
「人間・・・これからも世話になる」
「はいはい、喜んで」
どうやら、私は商談役兼女の子らしさ指導役に任命されたらしい。
女子メンバー、女子力アップに奮闘中。
裏話
シロタエが虫を殺した瞬間、周りに潜んでいたハンゾー率いる配下の忍蜘蛛全員、森に散り散りになって逃げています。
コトヒラはニコニコと微笑みながら、脇の方で楽しんでいます。
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!!
※活動報告がどうやったら見れるのかわからなかったと読者様から聞き及びました。
方法は一番上にある?「作者:砂漠谷」の名前を押していただくと、私は左上に出てきました。
わからないことがございましたら、どんな些細なことでも構いませんので質問送ってください!!




