開拓:黒翼VS傭兵団③でした!
今回は豪華二本立てでお送り致します!
例によって見直しが出来ていません・・・誤字脱字がありましたらお手数ですが報告お願い致します。
エラーで正常な投稿ができず、こちらが三分遅れての投稿となりました。申し訳ございません。
次話投稿は一週間以内です!
薄ぼんやりと照らし出された道に冷えた空気が通り抜ける。ピチャンと時折、天井からは冷たい水が落ち、心を落ち着ける静かな音色を周りに響かせる。
しかし、そんな静かな音色に似つかわしくない雑音が混じる。
人が地面を蹴り抜く音が壁に反響し、通路全体に広がる。
通路を全力で走ってきたのであろう、激しい息遣いの中にはヒューヒューと鳴る呼吸音も混じっている。
それでも尚、彼は暗い通路の中を全力で駆け抜けるのだ。
「アレ」のいる部屋へと。
「なんだってんだよ!?アイツは!!」
男の名はゲデイン。
現役のBランク冒険者である。実力は確かであり、二つ名「ボーバルパニッシャー」の異名を持つ彼が得意とする戦い方は、大斧を振り回し、圧倒的な破壊力の下に相手を一撃で屠るものだ。
しかし、今の彼は大斧を携えていない。
鉄の胸当てに無骨なガントレット、指には力を微量上昇させる魔道具を装備しているだけである。
ゲデインは集まりの後、部下を引き連れアンデッドを控えさせている場所までやってきていたのだ。
アンデッド達が静かに鎮座しているこの場所は、この地下の中でも二番目に広い場所であり、多くのアンデッドが全て収まる程である。
ゲデイン達がここに来たのは、アンデッドの維持のためである。このアンデッド実は完全なアンデッドではないのだ。
「腐明の呪水晶」によって生み出されアンデッドには定期的に、水晶から生み出されるオーラを供給しなければならないのだ。
供給が止まり、一定の期間が開くと自壊して、灰となってしまうのだ。
「アレ」には十分なオーラを注ぎ終わっているが、このアンデッド共にはまだ供給できておらず、黒翼のボス「デイドリッヒ」にオーラを注いでくるように任じられたのだ。
ゲデインは面倒臭そうな顔を隠そうともせずに、デイドリッヒに目を向けるが、デイドリッヒはそれを居にも介さず要は伝えたと早々と部屋を出て行ってしまったのだから仕方ない。
外で待機していた部下を引き連れ、地下通路を進む。
部下の装備は弓や剣、斧といった統一性のないものだが全員がDランクの冒険者であり、ダンジョンや魔物との戦闘を充分にこなしてきた者達である。
ゲデインの背中には「ボーバルパニッシャー」の二つ名の語源ともなった大斧が鈍色の光を放ち、主人の背中で自分の出番を静かに待っている。
部下に命じてアンデッドにオーラを注ぐ。
紫に淡く光、ドロっとした液体の様な物が水晶からアンデッドへと滴り落ちる。
アンデッドは奇妙な呻き声を上る。すると、その空虚な瞳に赤い光が灯り、命令があればいつでも暴れまわるであろう危険な雰囲気を体に纏わせる。
そして最後の一体にオーラを注ぎ終え、ゲデインへと渡した直後だった。
「あらあら?何をしているの?」
唐突に空中から声が響いたのだ。
その声は透き通り、無防備だった全員の心の中にするりと入り込む。
部屋の中心へとストンと降り立ち、優雅に微笑む女に全員が呆気にとられる。
黒い髪を艶やかに後ろに流し、この辺りでは見ない異国の衣服を身に纏っている。顔立ちは非常に整っていて、誰がどう見ても美人である。誰もが息を飲む程の美女。
街で出会ったのなら迷わず声をかけるであろうが、ここは地下であり、黒翼のアジトである。地下の空気が、彼女を不気味に映し出す。
「・・・?何をしているのでしょうかと問うているのですが?」
ゲデインはやっと現実へと引き戻される。弾かれた様に後ろへと飛び、背中に携えた大斧を引き抜く。
それに釣られるようにして部下達も漸く、剣を抜き、斧を手に持ち、矢をかけ弓を引き絞り、女へと向ける。
それに女は不気味に笑い、その瞳に灯る光を強める。
「女性に武器を向けるのは感心しませんが・・・それが答えですね?」
「殺れ!!」
ゲデインの号令で部下達は一斉に女へと攻撃を仕掛ける。
弓から放たれた矢は一直線に女へと迫る・・・しかし、女に矢が突き立つ直前、矢が急に静止する。
何が起こったのか分からず、一瞬隙を晒してしまう。
「お返ししますね?」
その瞬間、矢が反転し矢を放った部下へと放たれる。それは弓によって引き絞られ放たれるよりも早く、突き進む。
当然、為す術もなく部下の頭部に矢が突き刺さる。いや・・・突き刺さり、爆ぜた。
辺りに濃密な血の匂いが広がり、地面に臓腑が撒き散らされる。
それだけでは収まらない、矢は未だ中空に漂っているのだ。
つまり・・・まだ女の攻撃は続くのだ。
「フフフ・・・まだまだ行きますよ?」
「矢を叩き潰せ!!」
矢は縦横無尽に広場を駆け巡る。その矢はアンデッドだけを巧みに避け、部下達へと襲い掛かる。
部下達もやられまいと、奮闘するがそれも無駄・・・矢は剣に当たることなく腹を抉り、頭を穿ち、腕を吹き飛ばしていく。
放たれた矢は四本・・・広場に留まっていたのは三本?
「ッ!?」
ゲデインの体に悪寒が走る。
勘が叫ぶままに、大斧を振るう。すると高質な音が響き、地面から飛び出した矢が弾き落とされる。
冷や汗が流れ、顔を歪める。横目に女を見やると、女は不敵に笑い。「まだまだですよ?」と呟く。
「舐めやがってぇぇぇ!!!」
大斧を振り乱し、遠心力を利用した重い斧撃が放たれる。
広場を駆け回っていた矢がまたいっぽん落ちる。
部下が一本落とし、最後の一本となった矢は女の下へと戻っていった。
女は矢を手に取り、ペキッと自分で折り
「お遊戯はこれくらいでいいでしょう?さぁ、始めましょうか?」
そう言って、女は指を部下へと向ける。
「火弾」
豪炎が巻き起こり、部下三人が炎に包まれる。
魔法使い・・・女は今の俺達では対処しきれない相手である。
「やるしかねぇか!! アンデッドを起動させる・・・お前らは囮になってくれや」
そう言ってゲデインは、部下に背を見せ駆け出す。
部下は一瞬何を言われたのかが分からず硬直する。そして、言葉の意味を理解した瞬間、部下達は一斉に顔を青くさせる。
だが無情なことにアンデッドの瞳には、生者に対しての憎しみの炎が灯っているのだ。
このアンデッドは水晶を持つ者の命令一つでそれに添って行動する。しかし、単純な命令にしか対応できず、敵味方の区別がつかないため、水晶を持っていない者全てに襲い掛かるのだ。
骨の軋む音が広場に鳴り響き、アンデッドが上げる奇声に恐怖心が掻き立てられる。
そして己の拳を、剣を振り上げ、無差別に斬り掛かる。
「・・・少しまずいわね。唯では逃がしませんよ?」
女の指から巨大な火の弾が放たれ、アンデッドを巻き込みながら通路の奥に逃げ去るゲデインへと迫る。
ゲデインはそれに一度舌打ちし、背中に背負った大斧を火の弾に向かって投げつける。
大斧は真っ直ぐに火の弾へと投げられ、衝突した瞬間燃え上がり灰となる。
だが、それだけでは終わらない。
その後も幾つもの魔法が飛び交い、あるものは地面を凍りつかせ、あるものは地面を炸裂させる。
寸でのところで避けてはいるが、ゲデインも無傷では済まなかった。
すると、やがて魔法は止み、後ろを振り返ってもあの女の姿は見えない。ゲデインは通路の奥へと逃げることに成功した。
間違いなく俺の部下達は死んでいるだろうが、替えなんて幾らでも効くんだ。
俺の命は・・・一つだけだ。
あのクソ女が、女風情に尻尾巻いて逃げる羽目になるとは思いもしなかったぜ。だが「アレ」なら、幾ら高ランク冒険者の魔法使いであっても勝てるわけがない。
水晶によってあれは普通のアンデッドよりも格段に強化されているからな
流れる汗を腕で拭い、勝ったという笑みを浮かべる。
通路の奥へと、あの女魔法使いを撒いてから未だに走っているのは「アレ」がいる場所へと向かっている為だ。
もし万が一不測の事態が起こった場合は、即時「アレ」の解放を行う手筈になっている。
どう考えてもさっき俺の目の前に降り立ったのはAランクの魔法使いで間違いない。見たことのない魔法であったが、Aランクの魔法使いであればあのくらいの芸当そつなくこなしてしまうだろう。
つまり俺達の計画はギルドに漏れていたという事だ。
しかし・・・この計画は今朝アイツ等に伝えたはずだ。アンデッドやアレの件に関しては直前になるまで俺やグリストにまで隠していた程なのだ・・・ブラッハは言うまでもない。
俺はその計画を知らされてからは酒も絶ったし、グリストの野郎が漏らすはずもねぇ・・・一体どっから漏れたってんだ?
デイドリッヒがアンデッドの収集の段階でヘマをしたのか?
なんにせよAランクの冒険者があそこまで侵入してるってのがまずい。
グリストもブラッハも、デイドリッヒも他の冒険者に襲撃されてる可能性もある。ブラッハに関しては大丈夫であろうが、グリストには少し不安が残る。デイドリッヒ・・・あいつは搦手が上手いが戦闘に関してはからっきしだ。
それに・・・「アレ」がいる場所を制圧されちまったら終わっちまう。
そうして、アレの部屋まで後少しというところで、向こうの通路から誰かが走ってくる音が聞こえる。
数は二つ・・・一人は足音から察するにかなりの戦士なのは間違いない。もう一人はそういった経験がないのかドタドタと走っている感じだ。
ゲデインは眉を顰め、立ち止まる。
腰に万が一に備えて装備していた短剣を抜き、アイテムバッグから取り出した毒瓶の栓を切る。短剣に垂らした毒は、ヌラヌラと闇の中でもうっすらと光を反射させ、短剣の存在を一層に際立たせる。
そして通路の奥から姿を現したのは・・・
「なんだ・・・お前か」
「ゲデインか・・・お前も会ったのか」
「あぁ・・・ありゃなんだ。高ランクの冒険者は王都に向かっている筈だってのに・・・おっと俺が漏らしたなんて思うなよ。酒も絶ったし、間違っても漏らしたなんてことはない。賭けてもいいぞ」
グリストの目に宿った猜疑の視線を受けたゲデインはすぐに否定する。
実際グリストも酒好きのゲデインが、作戦を伝えられた後に酒を飲んでいる姿を見たことはない。ゲデインではないか。
そしてゲデインは隣でゼハーゼハーと大きな息を吐く、人間に目をやる。
顔は大きく晴れ上がり、肌が露出している場所には紫や青色の痣が無数にできている。
歯も数本折れており、顔は憤怒の色に彩られている。
誰だ?何があった?、と目でグリストに問いかけるが、目を背け大きなため息を一つ吐く。
「クソガアアアァァァ!!あ、あ、あ、あの女は絶対に殺してやる!絶対にだ!!」
突如、わなわなと身を震わせていた人間が耳障りな怒声を上げる。通路に響き渡るそれに、ゲデインは若干イラつきながらも、その声をどこかで聞いたことがあるなと思い出す。
歯が抜けているせいか、どこか間抜けな声に聞こえるがその声の持ち主は間違いなく・・・
「デイドリッヒ・・・か」
「あぁ・・・一応俺がおやっさんの所に向かったんだが・・・少々遅かったみたいでな」
怨嗟の言葉をこれでもかと吐き散らすデイドリッヒは、貴族街に並ぶ自身の家にて召使・・・奴隷の女を抱こうとしていたらしい。
しかし、どうやらそこで何か問題があったらしい。まぁ十中八九俺達が体験したものと同じだろうがな。
グリストから聞いた話によれば、デイドリッヒは集まりの後直ぐに自宅へと戻り、奴隷の女を呼びつけたらしいのだが返事がなかったそうだ。
恐らく逃げ出したのだろうと、腹を立てていた所に・・・自宅に客が訪れたそうだ。
それが異国の人間であろう大層美人な女だったらしい。
デイドリッヒ程、裏社会に影響力のあるものならば・・・女の一人や二人やっちまったとしても全く問題はない。
そして自宅に招き入れ、応接室まで連れ込み無理やりに押し倒そうとした所・・・手酷い反撃を受け、命辛々地下へと逃げ出し、今に至るというわけだ。
「こっちは女の魔法使いだな。部下もアンデッドも全員やられた。なんとか俺だけは逃げ切れたが・・・あれには勝てんよ」
まぁ、囮にして逃げたんだがな。結局全員死んでいるだろうし、嘘も突き通せば真実になるんだ。ここで俺の株を下げるわけには行かんのでね。
グリストは何かを考える素振りをしていたが、「そうか」とだけ呟いて、険しい雰囲気を漂わせる。
どうやら、グリストもかなりご立腹の様だな。普段は冷静なグリストだが、鋭い目つきに時折尻尾がピクピクと動いていることからかなり腹が立っているのが分かる。
「俺の方はここいらじゃ見かけない魔族だ。剣も一般的な冒険者が所持しているものじゃなかった・・・相当な業物だ。恐らくAランクの冒険者・・・いやそれ以上だったかもしれんな」
「そんなもの!!アレを解き放てばいい話だろう!!!」
デイドリッヒが叫ぶ。
確かに、あれを解き放てばあの女魔法使いも、グリストにそこまで言わせる冒険者でも苦戦を強いられることは間違いない。それどころか、倒せる可能師だってある。
幸いアレは水晶によって、アンデッドの弱点を克服し、尚且つ平常時と比べてステータスも上がっている。
Bランクの冒険者が束になってかかったとしても難なく屠ってしまうだろう化物だ。
つまり、アンデッドと化したアレは今や、Aランクにも匹敵しうる力を持っている・・・いや、Aランクのパーティーでさえ倒してしまうだろう力を持っている。
「そういえばブラッハは・・・」
「今頃、あれらとやりあってるんじゃないか?流石にブラッハが負けるなんてことはないだろうよ」
あいつらがいくら強くてもブラッハに勝てるわけがない。俺でさえ手も足も出ないあの化物に勝とうと思うのなら、Aランクの冒険者で束になってかかるしかない。
あいつの持ってるスキル・・・いや、エクストラスキルが発動されたならAランクの冒険者であってもひとたまりもないだろう。
聖騎士を襲った時に一度だけ見たことがあるが・・・あれは人間業じゃなかった。
グリストもそれが分かっているのだろう。一度頷き、「それもそうか」と口にする。
「さぁ・・・『アレ』を解き放つぞ。あのクソ女諸共、すべてを根絶やしにしてやる。水晶を寄越せ!!」
持っていた水晶をデイドリッヒに渡し、部屋の前へと行く。
そこの通路だけは、「アレ」が通れるように広く作られており、部屋もそれに合わせて大きくしている。
扉は飾りとばかりに適当な木の扉を備え、アレを解き放つ時には扉など関係なしにぶち破って一気に地上へと駆け出す作戦だ。
そして、扉に手を掛け開ける・・・その時だった。
パキッ
何かが割れる音が妙に耳に響く。
俺、グリスト、デイドリッヒと全員が通路の奥へと目をやる。
するとそこには・・・
「スライム?」
「・・・チッなんだ驚かせやがって。デイドリッヒあんなの準備してなんになるn」
「知らん!あんなの知らんぞ!!」
異様な雰囲気を放つスライムがユラユラとそこにいたのだ。
デイドリッヒは知らないと叫ぶが、こんな地下に魔物を呼び込めるのはデイドリッヒしかいないはずだ。
一応グリストにも目を向けるが、知らないと首を振っている。
街の門を魔物が潜り抜ける事なんて出来る訳がないし・・・誰かが連れ込まない限りはこんなところにスライムが侵入するなんて有り得ない。
例え、スライムが街中に入れたとしても一瞬で見つかって即処分されるのが落ちだ。
と考えた時だった。
そのスライムの後ろから先程見た女が現れる。
そう・・・魔法使いの女だった。そしてその傍らには頭に二本の角を生やした女の魔族と耳を生やし異様な剣を携えた男の魔族が現れる。
そして向かいの通路からは、長い黒髪をした異国の美人・・・女魔法使いよりも美しいであろう唇は仄かにピンク色、整った顔立ちと澄んだ瞳が麗しい。
しかし、それも肩に掛けた槍の様な武器がその女を物語っている。
「おぉぉぉまああぁぁええぇぇぇぇぇ!!!」
デイドリッヒが叫ぶ・・・どうやら、あの女がデイドリッヒを甚振った奴らしい。
デイドリッヒの顔がみるみる赤く染まり、持っている水晶が割れるのではないかと思わせる程に手に力が入っている。
女は顔に明らかに侮蔑の色を含ませ、興味なさげに通路の向かい・・・スライムへと目を向けている。
すると、その女の後ろからダボったいローブを着た者達が現れる。
通路を塞ぐようにして立っていることからして、俺達は退路を絶たれた・・・いや、最初から俺達を誘い込むつもりだったのだろう。俺たちはまんまとこいつらの策に引っ掛かってしまったのだ。
「ヒッ!?」
「嘘だろ・・・」
「信じられん・・・」
そして、俺達は気づく。二本の角を生やした女魔族の肩に何か担がれている事に・・・。そして、何が担がれているのかを視認した直後一気に汗が噴出する。
「ブラッハ・・・」
いつもの様に力強く雄々しい姿はそこになく、手足は力なく垂れ下がり、顔は血に染まっている。毛布で包まれているその姿は笑いさえこみ上げてくるが、その毛布の下から血が滴っていることに気づくと、顔を青褪めさせるよりほかない。
そして俺達は悟った。
こいつらは化物だ・・・恐らく世界に数人としかいないSランク冒険者も中に含まれているに違いない。
そうしていると、スライムがこちらへと近づいて来る。
デイドリッヒは後ろへと隠れ、俺は短剣を構え、グリストは槍を構える。
通路は異様な空気に包まれる。
俺達を散々弄んだ張本人達は先程からピクリとも動かない。まるで自分達の仕事はもう済ませたとでも言うような顔で・・・だ。
そして、その中を悠然と這いずる最下級の魔物・・・スライム。
場違いにも程がある・・・周りをこんな化物に囲まれているというのにコイツだけは最下級?
だが、俺の勘が告げている・・・コイツには何かがある。それはグリストもわかっていたらしく、最大限の警戒を向けている。
スライムは一定の距離まで詰め寄ると、ピタッと止まる。
なにか仕掛けてくるかと身構えた途端、スライムは急に上へとせり上がり、徐々に人の形へと変貌する。
呆気にとられ、それから目が離せない。
スライムの粘液が、足を、胴体を、手を、顔を、髪を形取っていく。
「お前は!?」
「どーも、『ちいせぇガキ』です」
そこにいたのはチンチクリンのガキ、もといサミエルとパーティーを組んだ野郎がそこにいた。
そう、あの時のガキがそこに立っているのだ。
「知っているのか?」
「孤高の魔法剣士とパーティーを組んだ野郎だ」
顔に微笑を湛え、後ろに化け物どもを従えたまま奴がゆっくりと口を開く。
「交渉しないか?ここでおとなしく投降するなら良し、しないなら・・・」
女魔族が肩に担いでいたブラッハをこちらへと放り投げる。
女魔族は眉根を寄せて、手を合わせ「ごめんねぇ」と小さな声で呟く。
デイドリッヒはそれにヒィッと小さく悲鳴を上げるが、まだ憎悪のほうが勝っているのだろう、女を睨みつけている。
「少々手荒な事をせざるを得ないんだけど?」
そして、ガキは一度溜息をつき、目を開く。
「それとも『アレ』を使う?」
「っのガキ!!」
どこまで知ってやがるんだ!?
冒険者として何年もやってきている俺が・・・この俺が、こんなチンチクリンのガキの底を計る事ができない。
どこまでも余裕を感じさせる笑みと佇まいは、一流の冒険者のそれと殆ど変わりがない。
しかし、あの時のガキからはそこらの雑魚と同等の気配だったってのに、一体今俺の目の前に立っているこいつは・・・。
「ふ、ふざけるな!!お、お、お前らといえでもアレに適うはずがない!!」
デイドリッヒがそう叫ぶと、ガキは何かを考える素振りをして、ブツブツと何事かを呟く・・・それは誰かと喋っているようでもあったが、後ろに控えている奴らが反応することはなかった。
すると、ウンウンと頷きガキは目を開く。
「うん。じゃ、アレを倒したら流石に投降するよね?」
その言葉に、俺達はポカーンと惚ける。
このガキが何を言ったのかが理解できなかったからだ。倒す・・・アレを?
「ハハッ・・・ハハハハハハハ!!ブラフだ!!お前達はアレが起動することを恐れているんだな!?だから如何にもな態度を取り、我々に投降するように言ったのだ!!お前達は全て知っているようで、この部屋の中のモノまでは知らないんだ!!」
デイドリッヒは額に青筋を浮かべ、口の端から泡を吹き出しながら叫ぶ。
「いいだろう。解き放ってやろう!!お前達を殺し尽くす化物を!!」
デイドリッヒは水晶を掲げる。
その瞬間、膨大な量の闇のオーラが解き放たれる。全てを飲み込まんと通路全体に放たれのたうち回る闇は、やがて扉の隙間へと吸い込まれてゆき、その先に存在する何かに注ぎ込まれていく。
GUUUUU……………。
扉から身の毛もよだつ唸り声が響く。
尚も、水晶からはオーラが溢れ出す。オーラからは幾つもの人の叫び声が混じっている。聴く者が聴けば、発狂してしまうだろう。
しかし、俺達の目の前に立つ、このガキと他の物達は身動き一つ取らない。
それが不気味であり、俺達の不安を誘う。
アレでもこいつらには適わないんじゃないか?
頭を振り、そんな事は有り得ないと考えを追い出す。
この先にいるのは普通の状態であっても俺達じゃ手も足も出ない化物なのだ。それが、アンデッドとして生まれ変わり、それも水晶で強化されているとなれば勝てるわけがない。
OOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!
通路の壁からゴガンッという音が響き、『アレ』が姿を現す。
腐壁から突き出した手からはゴポゴポとあぶくを吹き出し、異臭を発する。
やがて、通路の壁が完全に崩落すると、「アレ」はゆっくりと姿を現した。
顔は全てが骨であり、体からは所々骨がむき出しとなっている。
巨大な体躯で、額からは幾本もの角を生やし、喉からは紫色の炎の様な物が揺らめいている。
命の輝きを感じさせない化物が通路へとゆっくりと歩みを進める。俺達を守るかの様に前へと歩みを進めるが、その瞳からは俺達を守るなんていう感情が一切見受けられない。
瞳には赤い光が灯り、生者を見つけ、憎しみと憎悪の雄叫びが地下を震え上がらせる。
骨の顔は軋みを上げ、体中から吹き出すオーラと腐った体液が周囲へと飛散し、壁に付着すると紫色の煙を吹き上げ、ドロドロと溶け始める。
「フハハハ!!絶望せよ!!腐命の呪水晶によって生み出された魔獣。『アンデッドベヒーモス』だ!!」
アンデッドベヒーモス・・・これがカナンを死の街へと変える魔獣だ。
クライマックスに向けて邁進中です!!
『アレ』の正体はアンデッドベヒーモスでした!!(あれ?でもベヒーモスって・・・)
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!!
※活動報告がどうやったら見れるのかわからなかったと読者様から聞き及びました。
方法は一番上にある?「作者:砂漠谷」の名前を押していただくと、私は左上に出てきました。
わからないことがございましたら、どんな些細なことでも構いませんので質問送ってください!!