現状:少女たちの出会いでした!
主人公の出番がない・・・
彼女たちの演奏はまだ鳴り止まない。
そもそも「妖精歌」に終わりは無い。
精霊と妖精が飽くまで無限にループし続ける。
一節では大昔に大規模な妖精歌が行使され、一年歌い、演奏し続けたという物まであったのだ。
それは精霊王、妖精王を降臨させるための儀式だと言い伝えられている。
彼女たちは小規模な儀式を行っていると言っていいのだがそうではない。
単純に精霊が好きで、精霊が彼女らを愛しているが故に歌えと急かすのだ。
彼女らは微笑を浮かべながら、互いに顔を見合わせ歌い続ける。
その周りを精霊と妖精が飛び交うことでその場だけが外の世界を切り離されたような幻想的な風景を演出する。
光が彼女を取り巻いて、彼女たちの美しさをより一層際立たせる。
綺麗な金の髪を後ろに流した、碧眼、タレ目のエルフ族の彼女の名前は「ミリティエ・ラースィ・パーミラ」
親しい者達からは「ミリエラ」と呼ばれている。
彼女はエルフ族の中でも特に精霊に愛された者である。
エルフ族はその昔、妖精と人の間に生を受けたものと言われている。
その理由は誰もが精霊や妖精に好かれることから起因している。
生まれながらに精霊魔法、妖精召喚などの土台が既に組みあがっており、妖精歌を歌えるようになるとその力を遺憾無く発揮できるようになる。
生まれながらにして精霊と妖精に愛された者はそのエルフ族の次代長の権利を得る。
彼女もその一人である。生まれながら精霊と妖精に愛された少女である。
紅髪を一本に三つ編みにして前に垂らした、鳶色の切れ長の目の人族の彼女名前は「サテリフィト・ラウル・ミシェラ」
親しい者達からは「サテラ」と呼ばれている。
歳は14。
彼女は人族であり、ある理由から冒険者となっている。
彼女の腰に吊るされた一本のロングソードは装飾こそ少ないが、見る者が見れば業物だとわかるであろう。
彼女は新人の冒険者であり、まだまだ魔物との戦闘には慣れていない。
それでも彼女の剣技は目を見張る物が有り、新人とは思えない身のこなしだ。
彼女は魔法も嗜んでおり、下級の魔法であるならば「火」、「水」、「風」の基本的な魔法なら使用できる。
ミリエラと付き合い始めてから精霊、妖精とも交友を深めている。
かといって、彼女は精霊魔法を使用できない。
精霊魔法は精霊歌を歌えるだけでは行使できず、精霊魔法の基礎原理を理解し初めて行使できるものなのだ。
しかし、彼女は新人とは言え魔法剣士、その戦力は無視できないものである。
しかし彼女は一人で冒険を行っている。その理由は誰も知らない。
彼女は魔法剣士として現在研鑽中の冒険者である。
そんな彼女達が初めて会ったのがユガの大森林南部の中央付近でのこと。
私「サテリフィト・ラウル・ミシェラ」は新人の冒険者。
本来私は冒険者などとは程遠い者だったのだが今は触れないでおきたい。
思い出したくもない記憶だから・・・
新人と言っても二年は冒険者として活動している。
そんな私が今でも新人と呼ばれる理由はパーティーを組まないから。
普通冒険者はパーティーを組み依頼を受けるものであるのだが、先の事情で私は人を避けないといけない。
パーティーを組むこと自体は簡単なのだけど・・・。
なぜなら、私は数少ない「魔法剣士」だから。
ギルドに登録しているという点でもパーティーを組むことは問題ないのだけれど。
私の職業柄引く手は数多なのだ。
「魔法剣士」とは剣と魔法を使える者の呼称である。
「魔法」は裕福な家庭の者、生まれながらにして何らかの「魔」の才能を持つ者にしか行使できない。
冒険者の割合は、物理攻撃系統の職業が9割を占める。魔法系統の職業が1割しかいない。
私は攻撃魔法はもちろんのこと、回復魔法も行使できる。
つまり私は、ほかの冒険者からすると喉から手が出るくらい欲しい人材なのです。
しかも、その魔法職の私がソロとなるとあの手この手で仲間に引き入れようと躍起になる。
今はまだ直接的な行動をとっては来ないが、ほかのパーティーとのにらみ合いが崩れると同時に何らかの手段に講じることが予想できてしまう。
だけど負ける気はしない。対人戦に関しては小さい頃に叩き込まれた。
そこらにいるただの冒険者では一対多数でも負けることはない程に剣技は上達している。
なのになぜ、私が未だに新人なのか。
魔物は意外と手強いのだ。
ギルドには冒険者ランクというものがある。
私は現在Eランクに所属している。
ギルドにはA、B、C、D、E、Fランクがあり、駆け出しの冒険者は皆Fからスタートする。
ギルドの依頼にはその難易度によってランク分けされている。
討伐、採取、精製、その他多種多様な依頼が見受けられる。
その中でもFランクは比較的安全な場所での薬草採取や下級アイテム精製、一般家庭などの依頼などがほとんどで、討伐系依頼などFランクにはまず出ない。
Eランク昇格の試験にて初めて討伐依頼を受注することになる。
相手はスライム、ウルフ、ゴブリンが大半を占める。
一見簡単そうな依頼に見えるだろうが生存確率60%の関門。
そもそも普通魔物には一対多数で戦うことが定石なのだ。
私がイレギュラーなだけで冒険者の8割はパーティーを組んでの行動が常となっている。
それでもソロだって極小数だけどいることにはいる。
しかし、ソロは不利であることはわかっている。
パーティーでの魔物戦闘は「前衛職」、「中衛職」、「後衛職」と分かれて戦う。
前衛職は「剣士」、「槍士」など、中衛職は「狩人」などの投擲方、後衛職は「ヒーラー」、「魔法使い」となっている。
魔法使いやヒーラーがいない場合はパーティーの誰かが道具での回復を担当する。
ソロはそれをすべて自分でやってのけねばまず勝てない。
私はここまで地道に研鑽を積み、2年かけてつい最近Eランクになったばかりなので、魔物との戦闘にまだ慣れていない。
そして現在、私が引き受けている依頼は採取系の依頼で、ユガの大森林南部に群生する薬草を10束納品するという簡単な依頼だ。
しかし、簡単であると高を括ってはならないのが冒険者の掟。
弱い魔物しか出てこなく、遭遇率が低いとは言ってもここには死もある。
油断は禁物と自分に言い聞かせる。
警戒しながら、奥へと進んでいく。
やがて、広い泉が向こうの方に見えてきた。
今探している薬草は水辺に群生することが多い。
案の定泉の側には大量の薬草が見て取れる。
よく見るとかなりの上品質。いや、最高品質なのが分かった。
実はというと結構森の奥へと進んでしまっていたらしい。こんな場所は見たことがなかった。
私は眉を顰める。
ただの泉の側に最高品質の薬草がある。それも群生しているなど有り得ない。
薬草に限らず全ての物には等級がある。
素材では品質「最低級」、「低級」、「中級」、「上級」、「最上級」となっている。
薬草などは私達人族がどんなに手を尽くして育てても「中級」にしかならないのが分かっている。
高濃度の魔力を帯びたり、聖域などの特殊環境でない限り「最上級」が育つなど有り得ないのだ。
まず後者はありえない。なぜなら此処は駆け出しの冒険者なら絶対に通る道なのだから。
「聖域」とは本来人が踏み込んでいい場所ではない。いや、踏み込めない場所になっている。
出現する魔物は全てが危険度B~の魔物。そして聖域の守護獣は災害級である。
この世界の魔物の強さは「位階」と呼ばれている。
上から順にA、B、C、D、E、Fである。そして「位階」で表記できないものは災害級、もしくは名持ちと呼ばれている。
F~Cまでは能力の変化はまだ微々たるものなのだが、その上となってくると飛躍的に危険度が上昇する。
一般的な冒険者ならばC級のモンスターに3人で掛かり勝てる。しかしB級には勝てないどころか、傷を付けれるかさえ怪しい。
称号持ちの冒険者を一人でも含んでいるのならなんとか勝てるというもの。
つまり聖域にはそれ以上に恐ろしい化け物が潜んでいるはず。
したがって、此処ユガの大森林南部では有り得ない。
ということは前者ということになる・・・
恐らくは此処の森の主なのだろう。早々と薬草を集め撤退に入らなければ危険だ。
しかし、丁度薬草を積み終わったところだった。
「キャアアアァァァ!!」
森の中から女の子の声が響き渡った。
声の質からして私と同じくらいだろうか。
冒険者なのかな?
この森は私が拠点としている街よりも距離は少々離れている。したがって誤って子供が入ることはありえない。
つまり、この声は冒険者なのだろうと結論づける。
冒険者として生き抜くための教えを昔聞き及んだことがある。
「冒険者が死にそうになってもパーティーでないなら助けるな、自分の命を優先しろ。助けてやりたいなんてことは自分の力を見極めてからにしろ」
この言葉に従い私はその場を立ち去ろうとする。
「##&%?>>*‘!!」
しかし、女の子の声を聞いた瞬間、私の足は意に反してピタッと停止する。
「亜人族」だと確信したのだ。
人族の発する言葉じゃない。助けを呼んでいるであろう女の子は半狂乱になって何の言葉を喋っているかがわからない。しかし、所々に出る独特の発音から「エルフ」
ではないかと考える。
冒険者ではない。民間人の可能性も出てきたのだ。
ただ自分には力量がない。敵を倒せるような自信がないのだ。
Eランクに昇級する際に魔物との戦闘があった。
今でも覚えているのが、一日だけ昇級試験として組んだ私を含めた5人のパーティーの内、生き残ったのは3人だった。
その試験の最中、自分は仲間が魔物に殺されるのを見ている。
その時の恐怖を思い出してしまう。
自分にとって無縁だった死が目の前に迫った瞬間は今でも忘れることはできない。
こんな臆病者の私では駄目だ。誰かほかの人を呼んで・・・
そんなことをしても女の子は助からないだろう。
はぁ。私は何を悩んでいるんだろうね。
・・・助ける。逃げてはダメだ。
私は「サテリフィト・ラウル・ミシェラ」。助けを求める者を見捨てるくらいなら、死ぬほうがまだましよ!!
私は声のする方に走った。
途中木の枝や葉っぱなどで肌に切り傷が入るが気にしない。
自分が立ち止まることで助けを求める女の子は死んでしまうのかもしれない。
無我夢中で走り抜く。
薄暗い森の中に響く声と、私の足音が周囲に木霊する。
『ハヤクハヤク』
『タスケテアゲテ』
何か声が聞こえる気がする。
恐らく疲れているのだろう。こんな調子で女の子を救えるかはわからないがやってみせるしかない。
森の木々は自分に味方することなく、行く手を阻む。
『キガジャマ?』
『キガジャマ!』
『モリサンドイテ!』
またおかしな声が聞こえた気がするが気の所為だと頭を振る。
するとなぜだろう。先程まであれだけ邪魔だった木々や草花が不自然に体に傷をつけなくなった。
まるで自分から避けているような・・・
目の前に開けた場所が見えてくる。
いた!
ウルフに囲まれているの!?
綺麗な金の髪の耳の長い少女がウルフに囲まれている姿が目に入る。
ウルフは威嚇を繰り返し、少女に飛び掛かろうと隙を伺っている。
少女は両手で短杖を携えているが。涙目になり腰が引けている。
エルフ族は聞いた限りでは精霊魔法を行使する。その魔法力は人族が用いる魔法よりも威力の高いものだそうだ。
だが分が悪いだろう。
精霊魔法に詠唱は必要ない。しかし、魔力を練る必要があるのだ。
精霊魔法は魔力を練るだけで発動できるため、非常に使い勝手がいい。
しかし、魔力を練ることはかなりの集中力を要する。
魔法は詠唱に魔力をのせて、簡単に魔力を練ることができるのだけれど、精霊魔法はそうはいかない。
つまり、魔法は精霊魔法より簡単に発動することができる
相手は群れなのである。一体は倒せても、次の襲いかかる魔物を前にして平静を保つことは難しいだろう。
いや、彼女は今でも動揺している。
ウルフたちは精霊魔法を警戒しているようだが、実質精霊魔法を行使することはできないだろう。
一刻の猶予もない状況なのだ。
私はウルフに向かって飛び出した。
私「ミリティエ・ラースィ・パーミラ」はエルフ族。
好きなことは精霊、妖精と歌うこと。
エルフ族の長の孫であり、精霊に愛されているそうです。
今日は朝起きてからお祖父さんに頼まれごとをしました。
薬草の備蓄がそろそろなくなっているそうで取ってきて欲しいとのこと。
近くの泉の側にたくさん生えているので私にとっては好都合なのです。
「分かりました。お祖父様。」
楽器と籠を持って泉まで向かう。
その泉は精霊が多く住み着いていて、村の皆からは精霊の神様が住み着いていると言われている。
そこで私が持ってきた楽器「ミルト」と妖精歌で精霊達と歌う事ができる。
初めこそ村の皆に止められたけど、今はいつものことと何も言ってこなくなった。
森の木々や草花は私に道を作ってくれる。
青く綺麗な花も緑の活き活きとした草も、まっすぐに空に向かって伸びている木々も、私の姿が見えると自然の音楽を奏でてくれる。
そして風が彼らの声を運んできてくれるのだ。
『ミリエラコナイ?』
『ハヤクコナイカナ?』
『キットクルヨネ!』
『マッテルヨ!!』
そんな声が聞こえて、微笑んだ時だった。
突然、ウルフが群れで襲い掛かって来た。
「キャアアアァァァ!!」
思わず叫んでしまった。
ウルフ達は私を取り囲み、威嚇の声を発する。
「誰か!誰かいないの!?」
私も気が動転して半狂乱になって叫ぶ。
しかし、周りには森が広がるばかりで人の気配一切ない。
このままじゃやられてしまう。
私は腰の短杖を抜き構える。でも、私が使える精霊魔法は初級で尚且つ、発射速度が遅い。
精霊に愛されてはいるが魔法の行使は苦手なのだ。
私はここで死んでしまう。そんな時だった。
木々の隙間から精霊の加護を受けた人族の少女が飛び出して来た。
彼女は腰に帯びた剣を抜き放ち五匹いたウルフの内の一匹に斬りかかる。
ウルフは急に起きた出来事に反応できず、彼女に切り裂かれる。
彼女は勢いそのままに私の前に躍り出る。
紅の髪が私の視界いっぱいに広がる。
細い体に革の胸当てを着けて、手には鈍く銀色に光るロングソードを持っている。
紅の髪の彼女はこっちを見て何かを言っているようだが言葉がわからない。
そうこうしている内にウルフの一匹が彼女に牙を剥く。
私は咄嗟に少しの魔力を練り上げ、風の玉を前に打ち出す。
ウルフはそれに直撃し、地面に落とされ呻いている。
咄嗟に魔力を練りこんだので、倒すまでには至っていない。
彼女は地面に落ちたウルフに迷いなく一刀を振るう。ウルフはそこで息絶えた。
残る3匹を彼女は見据えている。
すると手を前に突き出し、何やら詠唱している。
魔法の詠唱をしているのだと気づいて、自分も魔力を練り上げる。
突如彼女の手から、私が出した風玉の2倍程の大きさの火球をウルフに打ち付ける。
ウルフは回避も許されず直撃し、丸焦げになって絶命する。
仲間をやられて怒り狂った二匹がこちらに突撃してくる。
彼女は防御の姿勢をとるけど、間に合わず諸に直撃する。
後ろに居た私には彼女がなんとか踏ん張ったお陰で被害はない。
「ウィンド!」
その間に、今度はちゃんと魔力を練った風球を突進してきたウルフに放つ。
ウルフは避けようと横に回避するが、精霊の力が宿った魔法は対象を捉え、飛ぶ方向を修正し直撃させる。
残るウルフは一匹だけとなったが、油断していた。
恐らくリーダーであろうウルフは、私の至近距離まで迫ってきていたのだ。
大きく開いた口に光る牙が私の体に突き立つ・・・ことはなかった。
紅髪の彼女がタックルで突き飛ばしていたのだ。
そして、彼女はウルフを押さえ込みロングソードでウルフを切り裂いた。
その日から私達はこうして仲良く、遊んでいる。
エルフ族と人族はあんまり仲が良くないが、エルフ族の少女を救ったとあれば里の人達も私を受け入れてくれた。
私が冒険者だということで最初は警戒していたけれど、今ではなんてことはない。
なんでも、私は精霊に好かれているそうだ。
でなければ森に貼った結界を超えてくることはできないそうなのだけど、結界を通った覚えなど全くない。
確かに彼女を助けるときに声を聞いたような気がしたとは思っていたが精霊だったとは・・・
エルフ族の少女「ミリエラ」とはこうしてよく会っている。Eランクではこの森で取れる薬草の採取依頼が山程あるのでこうして依頼と同時に遊びに来ている。
最初は言葉が通じなかったが、エルフの族長様の精霊魔法「翻訳」で私達は普通に喋れるようになっている。
ミリエラは物腰が柔らかく箱入り娘であることが分かった。よほど大切に育てられたのがよくわかる。
私よりスタイルがいい事が悔しい。
なんで同い歳でこんなに差が出るのよ!
彼女とは暇なときは妖精歌に合わせて楽器を弾いている。
私が得意なのは五本の弦がある楽器で「パルラ」と呼ばれている。
今日も依頼を受けて、ミリエラと待ち合わせした場所に行く。
泉の側にある岩の上で彼女はニコニコとしながら楽器を準備している。
「ミリエラ。ごめんね、遅くなっちゃった!」
「私もまだ来たばかりですよ。サテラ大丈夫だった?」
ミリエラは私の姿を見るとパッと明るい笑顔を振りまいて私に言った。
私もミリエラに大丈夫と告げて演奏の準備に入る。
私は背中のパルラを肩に掛け、弾き始める。
そして途中、休憩を挟みつつ踊る精霊と妖精を見ながら演奏していた時だった。
突然茂みの中からガサガサという音が響いた
エルフの里の周辺では、今まではあまり魔物は出現しなかったそうなのだが、最近になって魔物がよく出没するようになっているらしい。
「ミリエラ!武器を構えて!」
すると、観念したかのように一匹のスライムが姿を現した。
彼女達の詳細です!
次回はいよいよ主人公パートです!
次話は一週間以内に投稿します。
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想などもどしどし送ってくださいね!