開拓:探索と共同作業でした!
主人公はちょっとばかしゆっくりしていただきましょう。
次話投稿は一週間以内です!
森を燦々と照らし出す陽光に、森の木々を縫うようにして駆け抜ける風、人の足を一度も受け付けなかったのであろう柔らかい土、元の世界では決して味わえないような大自然が眼前に広がっている。
この世界に来てからの俺はスライムとして生まれ周りの景色だとかを見る余裕がなかったが、今となってはゆったりと森の中を歩けるようになっている。
いや、最近は歩いていないな。
ハルウの紺色の毛並みに包まれながら、背中にダラーッと体を預け、眠気にうつらうつらとしているのが俺である。
陽光によって温められたポカポカの毛は天然の毛布になっていて実に心地いい。歩みを進めることで、揺り篭の様にユラユラとしていて、より一層眠気を感じられずにはいられない。
ん?ハルウは人型になったんじゃないかって?
その通りである。進化したハルウ達は人型になってしまい、俺のオアシスは無くなってしまったのである。
しかし、今朝方妙なモフモフ感に包まれていると思い、目を覚ましてみると・・・。
そこにはモフモフのオアシスが出来上がっていたのだ。おかげで、体中を包むモフモフの毛に包まれて幸せな気分に浸って朝を迎えることができた。
ハルウ達が起きた後、事情を聴いてみると、どうやら意識して体に力を入れると前の姿に戻れるらしい。
厳密に言ってしまうと、前の姿と全く一緒ではなく、体が少し縮んでいる。しかし、ステータスは前よりも、こちらの方が随分と高いのである。
人型と魔物型を使い分けて戦うことが出来るのだろう。
そして、いつもどおりハルウの背に揺られながら、チラと後ろを見てみると、俺についてきているのはヨウキとフゲンである。
二匹は・・・二人は俺の後に続いてゆっくりと歩みを進めているわけだが、その肩には大きな木の丸太が担がれている。
腰にはオーク達が持っていた棍棒をさげ、葉っぱで作られた臨時の服を着ている。
二人共背が大きいためにこちらが見上げる形となるわけだが、今でも本当にあのホブゴブリンなのかと少し疑っている。
あの、小さくて緑色の肌をしたゴブリンから、人に角が生えた感じの魔物?になっているんだから違和感がすごい。
「しゅじんさまぁ、どうかぁされましたぁ?」
そう間の抜けた感じで俺に問いかけてくるのはヨウキ。
ショウゲツに聞いてみたところ、ホブゴブリンの時からのんびり屋だったそうで、大鬼になった今でも喋り方や行動がかなりゆっくりとしていてマイペースなのだ。
因みに、ここに来る前に胸にダイブさせてもらってもいいか尋ねたところ、フワ~ッとした笑顔で自分から抱きしめてくれた。
モニュモニュした感触、暖かい人肌、トクントクンと耳に届く心臓の音がこれまた気持ちがいいのだ。
一生に一度訪れるかどうかも分からない、大きな胸に包まれた感触は俺は絶対に忘れないだろう。
そういえば、抱きしめられている最中、妙に背中に嫌な汗が流れて、俺の直感が何かやばい信号を伝えてきていたのだが・・・なんだったんだろうか。
「ん。何でもないぞ。丸太重くないか?」
「しゅじさまはぁ、やさしいですねぇ。ヨウキは力持ちだからぁ、大丈夫ですよぉ」
そう言うと、空いている方の手で力こぶを作ってみせる。流石「鬼」であり、物理方面ではかなり頼りになるな。
「我が主人様、今日は天気もよろしいことですし、寝てしまわれても構わないのですよ。エルフの集落に着く少し前にはこのフゲンが起こしましょう」
「うーん、まだ時間もあるし、一眠りしようかな?」
「それがいいよぉ。ポカポカしてるときはぁ、身を任せちゃったほうがァ、気持ちいですよぉ」
「そっか、じゃぁ遠慮なく」
俺はハルウの背中に埋もれながら、ゆっくりと目を閉じる。・・・よくよく考えてみると、ウリボーの背中に引っ付く猿のようになっているのだが、気持ちいいんだから仕方がない。
今俺達がしているのは、エルフの里の復興である。
オークに荒らされたせいで、樹が折られたり、傾いたりして住居として使えなくなったものが多く。部屋の中が荒らされて、衣類やら食料やらが根刮ぎなくなっており、エルフ達だけじゃかなりの時間がかかってしまう。
衣類だけなら、エルフ特有の魔法によって葉っぱから作ることも可能であるのだが、食料となると森の中に入るとあって非常に危険なのだ。特にオーク達の進行によって縄張りを荒らされてしまった現状、多くの魔物たちが殺気立って縄張り争いをしているのだ。
住居の方もこれまた難しい。樹の上にできているだけあって、そこに掛ける橋や、樹をくりぬくことも難しいのである。
橋の材料である丈夫な蔦は南部と西部の近くにあるらしく、南部には出没しない少し強力なモンスターも出るというのだからエルフには荷が重いのであろう。
なんでこんなにも面倒な樹の中に家を作ったんだと思うのだが、昔からの伝統だそうで変えることはできないらしい。
新居を建てる際はどうしているのかと聞けば、エルフの数が少ないので作る必要がなく、生活用品は衣類等以外では先代からの使い回しだそうで、古くなるとその都度作るそうだ。
蔦の補修なども精霊魔法でどうにかできるらしい。
まぁ、1000年近くもこの里を守ってきた結界が張ってあるはずのこの里に、魔物が来るなんて予想できるはずもなく、当然蔦の材料や新居を作る材料の蓄えなんてない。
てことで、そうした材料を集めるのを俺たちが手伝っているわけだ。
橋や住居を作ることはできないが、材料を集めてくることなど今の俺達では造作もない。
例え西部のモンスターが大挙してこようとも今の俺達なら難なく殲滅できるだけの戦闘力がある。
でだ。俺とハルウ、ヨウキ、フゲンは家の中の家具を作るための木材の調達に西部の森へ来ていて、他の配下達はそれぞれ蔦の材料であったり食料であったりと各地に走らせている。
あぁ、それにしてものどかだなぁ。
こんな日がいつまでも続けばいいのにと思ってしまう。
一生この森の中で細々と配下達と一緒に暮らすというのもアリかな、などと思い始めている。
流石にまた命懸けで戦闘するなんてこともないだろうし、今のこの平穏を大事に過ごしていこう。
などと考えていると、ゆっくりと俺は眠りについた。
我が主人の背中について行き、森の中を一向進む。
主人はご機嫌なようで、周りを見渡しながら目を閉じて鼻歌を歌っている。
俺がフゲンの名を貰ってから幾日たっただろうか?
初めにリーダーが主人を連れてきた時は唖然としたものだが今となっては仕えて良かったと胸を張れる。
まさか俺がここまで進化を遂げるとは思ってもいなかった。
何時だったかもう忘れてしまったが、当時ゴブリンだった俺がホブゴブリンへと進化した時も大分驚いたものだが、まさか魔物の中でも上位へと位置する「人型」へと到れるとは思ってもいなかった。
曰く、魔物の姿としての位階は、動物型、化物型、怪物型、亜人型、人型、魔型、聖獣・魔獣の順に強くなると言われている。とは言っても、「動物」に位置する魔物であっても上位のものを凌ぐ者もいる。
この位階は単純に成長率や知能、扱える技能などが関係している上に成り立っている。つまりは必ずしも上位の物が下位に勝るとは限らないのだ。
ゴブリン、ホブゴブリンは「動物型」に分類されている魔物ではあるのだが、中には俺達の様に「リーダー」を率いて集団での行動を行うゴブリン達もいる。
そして、一つの集団になると「化物型」へと分類される。
魔物は集団となることで知性や理性などが生まれるわけだが、よくよく考えたのだが他の部族の者達・・・主人様配下の犬共を除いて、ここまで知能があったものを俺は知らない。
何故かと言われても、そうなっていたのだから、そうなっていたんだ。
俺みたいな戦闘馬鹿が幾ら考えたって仕方ないし、一旦思考を打ち切る。
「長閑だねぇ」
「そうだな。主人に出会うまで俺達に余裕などなかったというのにな」
「・・・主人様はぁ、きっと、本当にこの森の神様だと思うんだよねぇ。優しいしぃ、強いしぃ、かっこいいしぃ。今まであんな他部族見たことないよぉ」
「同感だ。主人の様に強くなれるとは到底思えないが、何時かは辿り着くとは言わない。唯、一生を終えるまでその後ろに付いて行きたいな」
「付いて行けばぁ、いいじゃない?」
「・・・そうだな」
今の俺達の境遇は全て主人様によって用意されたもので、決して俺達が掴み取ったものではない。
今を長閑に過ごせるのも、体に流れる一種異様な力も、全てが俺達の神様である主人が用意したものなのだ。
そんな、おんぶに抱っこの状態の俺達では、この先主人に付き従っていくことなどできやしない。
いや、恥を感じずに、唯主人に寄生するだけならば付いていくことはできる。しかし、それによって主人が俺達に失望して見放してしまったら。
当然の如く俺達は生きていくことなど出来やしない。
だから俺は強くならなければいけない。主人の背後を任せられるまでに強くならなければいけない。
当然あの犬臭い連中に負けることなどあってはならないのだ。
横で主人に気遣われてにへらにへらと間抜けな笑みを浮かべているこのヨウキの様にはならないぞ!
おっと、主人様が眠そうにしておられるここは一つ俺が頼れるところを見せなければ。
「我が主人様、今日は天気もよろしいことですし、寝てしまわれても構わないのですよ。エルフの集落に着く少し前にはこのフゲンが起こしましょう」
ん、そうか?と返答してくる主人に胸を張って、ここは任せてくださいと手で胸をどんと叩く。
ハルウ様の身から乗り出して、偉いなぁと頭を撫でて貰うと、これがまたすごい気持ちがいいのだ。つい顔を緩んでにへらと・・・はっ!?
いかんいかん、俺がしっかりせねばならんのだ、決して、決してヨウキの様にはならんぞ!!
自分の心と格闘していると、ハルウ様の背中からスゥスゥと穏やかな寝息が聞こえ始める。
ヨウキはそれに近づいて、また間の抜けた顔でにへらと笑って顔を赤く染めている。かわいいぃ~と言いながらクネクネとしている様に大きくため息が漏れ出る。本当に緊張感のないやつだ・・・・・・・・・後で俺も拝見させて頂こう。
さて、主人様が眠りに付いておられるのだ。
主人様が快適な睡眠を保てるように俺がしっかりと護衛せねば!
腰に吊るした棍棒の位置を整え、ハルウ様のすぐ右後ろへと付く。
ヨウキはその逆へと移動し、その顔からは想像しにくいだろうが、しっかりと周りの気配を探っている。
・・・信じたくはないのだが、ヨウキは力だけでは俺よりも優れているのだ。
それはついさっきこの丸太を持ち帰るときのこと。
森の中を歩いていると、丁度家具などに良さそうな木が一本たっていたのだ。叩いてみると、しっかりと中身が詰まっている音が聞き取れ、腐っていたり虫が食っていたりしていないのが分かる。
それを俺は持っていた棍棒でへし折ったのだ。しかし、俺は計三回叩き込んで漸く折れたのだ。
そして、その木を運ぼうとしたのだが、でかくて持ち運びには不便だった。それを適当な長さに分断しようとしたところ、ヨウキが一撃で半分に叩き折ってしまったのだ。
これには俺も主人も驚かされたわけだが、当の本人は自分がかなりすごいことをやったのに気付いた様子がなく。主人に撫でられてにへらと笑うだけであった。ちなみに俺も撫でてもらった。
ハルウ様は主人の頭撫では気持ちがいいだろう?と言わんばかりに胸を張って誇らしげにしている。
そういえば、言い忘れていたが俺達。大鬼、犬神、ハルウ様達を含めた主人様の配下には序列があるのだ。
最上位に位置するのは、ハルウ様でありこれは最初に配下になられた順序から取っているのだが、主人様は特にハルウ様方を気に入っておられ、コボルドですらあの人達にはしっかりとした礼節を持って接している。
俺達には礼節など使う必要もないとばかりに悪態をついてくるのだがな。
ナーヴィ様はかなり大雑把な方である。俺たちの配下である鬼達からもかなり評判がいいのだ。
当然の如く犬共からも評判は良く、よく話しているのを目にする。
戦闘力で言うのならば、主人様配下の中でかなりの実力を持っているのは明白であった。
ウルフであった頃でも、道行く魔物を殲滅するお姿は、俺達の憧れとなっている。
モミジ様はいつも周りを気にされる方で、犬共との諍いが起きると直ぐ様駆けつけてその場を収めてしまうのだ。
何故だかモミジ様に諫められるとなんだか喧嘩するのが申し訳なくなってしまうのだ。
戦闘ではサポートを常に担当しており、モミジ様がいれば戦闘が優位に進んでいく。
ユキ様はあまり他の者達との交流を持たず、あまり人となりを知ることはできない。しかし、気づくと近くにいるということが多く、その見た目もあって男の連中にはかなりの人気がある。
曰く、戦闘中に彼女の姿を見つけると、決して敵が優勢に立つことがないとまで言われている。
そして我らがハルウ様であるが、配下の中では二番目の地位におられる方である。
天狼の方々を纏められており、戦闘、サポート、は完璧。主人様の信頼が最も厚く、いつも主人様の傍に使えている。
その地位から犬共や俺達とはあまり接点がない。しかし、戦闘の最中には一番頼れる存在となり、ソウカイと並んで指揮を執る。
ハルウ様が配下の一番じゃないのは、ハルウ様でさえ辿り着けない程の領域であられる「ディーレ様」がいらっしゃる為である。
普段のお姿は妖精の様な小ささであるが、戦闘なると内なる力を解き放ち、偉大なるお姿で地に降臨なされるのだ。
その美貌、その力、主人様と並んで力を振るわれる姿から、「戦神の御魂」と言われている。
自分ではその地位に立つことなどまだまだだと自覚してしまい、深い溜息を一つつく。彼らの様に主人様に信頼される存在になれる気がしない。
そうして、もう一度溜息をついたとき。俺とヨウキは周りの空気が変わったことに気がついた。
・・・魔物だ。
木々の隙間から、縄張り争いから気が立っているであろう魔物の群れが姿を見せる。ジャイアントマンティス、ジャイアントワーム、総勢八匹の魔物が現れる。南部だというのにこいつらがいるってことは・・・。
「かなり勢力圏が変わってるねぇ」
「こいつらがここに出るのか・・・主人様が眠っていらっしゃるというのに無粋な奴らだな。やるか」
「言うまでもなくぅ」
相手の出方を待ってやる必要などない。
丸太をその場に置き、腰に吊るした棍棒を引き抜き、その膂力でもって加速された身体はジャイアントマンティスへと肉薄する。
持ち前の鎌を振り上げることもできずに、棍棒がジャイアントマンティスの頭部を叩き潰す。
棍棒を振り抜いた際の遠心力を活かし、頭部を失ったジャイアントマンティスへと廻し蹴りを放つ。その巨体は横に居たジャイアントワームを巻き込み、30m程離れた木の幹へと激突し、その体を爆ぜさせる。
「しまった・・・あの魔物も素材にできるとエルフは言っていたな・・・」
あの魔物の羽や鎌は、エルフの作る服などに利用できるようで、その体から取れる部位は薬としても使えるのだが・・・破砕させては使えない。
失敗したと頭を掻く。
チラと横を見ると、ジャイアントマンティス二匹をダブルラリアットで地に沈めているヨウキの姿が写る・・・。
それに苦笑しながら、戦闘においてはヨウキに負けているなと思う。
しっかりと自分の力量を把握していて、俺のように力が有り余ってオーバーキルをすることもない。
いつもは締まりのない行動ばかりだが、自分に益がある事、主人に益がある事となると途端にいつもの間の抜けた雰囲気はなくなるのだ。
俺も負けてはいられないと、鎌を振り下ろすジャイアントマンティスの脇を抜ける。すれ違いざまに胴体へと掌底を放っている。内臓が破裂した感触の後、後ろでジャイアントマンティスが倒れる音を聞きながら、次の目標へと駆け寄る。
こちらが眼前へと迫ると同時に、ジャイアントマンティスは鎌を振り下ろす。
棍棒で受け止めたそれを押し返し、顎の部分へと掌底を放ち、頭部を吹き飛ばす。
頭部を吹き飛ばされたジャイアントマンティスは数秒の後地面へと倒れ伏す。
丁度ヨウキもそれに合わせて決着がついたようで、ジャイアントマンティスの首を持ち、片手で握りつぶしていた。・・・唯の力馬鹿なような気がしてきたのは俺だけであろうか?
「う・・・ん? 何かあったのか?」
「いえ、何もなかったですよ。安心してお眠りください」
「そうか?じゃぁ、おやすみ」
「ごゆっくりぃ」
眠りから目覚めてしまった主人だが、何事もなかったと伝えると、もう一度眠りに就いた。危ない・・・もう少しで主人の安眠を邪魔してしまうところだった。
ハルウ様は周りの気配をしばらく伺っていたようだが、何もいないことがわかると、ジャイアントマンティスの鎌を二つ咥え、歩みを進める。
持てる数に限りがあるので、軽いものを腰に下げた袋にいれ、丸太を持ち、片方にはジャイアントマンティスの羽と鎌を持ち、また歩みを進める。
戦闘などなかったかの様に、服に一切の汚れもつかせず、エルフの里への道を踏み出した。
大鬼となったお二方の無双は如何でしたか?
お次はミリエラさんとサテラさんと主人公が・・・
次話も乞うご期待です!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になり、筆が踊りますので気軽にどうぞ!!
※活動報告がどうやったら見れるのかわからなかったと読者様から聞き及びました。
方法は一番上にある?「作者:砂漠谷」の名前を押していただくと、私は左上に出てきました。
わからないことがございましたら、どんな些細なことでも構いませんので質問送ってください!!
皆様が快適に読んで下さるよう誠心誠意努力します!