現状:エルフに迫る異変でした!
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真っ暗な暗闇の中、私の意識は深く沈んでいる。
五感の全てが閉ざされていて自分が何処にいるかもわからない。
手を伸ばそうと暗闇を弄り、体を動かそうと試みる。
しかし、自分の体からは何の反応もない。
ただ、そこに自分が居るという感覚だけが自身を支配している。
動かそうとしても動かせず、考えようとしても考えが纏まらない。
そんな空間にただ存在してどれくらい経過したんだろう。
私を支配する暗闇は唐突に終わりを告げる。
暗闇に亀裂が生まれ、そこから光が漏れ出す。
やがてその亀裂は私を取り囲む全ての闇に齎される。
闇はミシミシという音が響いているような様相を見せ、やがて崩れ去る。
光が広がっている・・・しかし、闇もまた存在する。
光と闇・・・知覚できないはずの私に一つ理解できたのは、こちらを見ている? 違う。こちらにある何かを見ている?という感覚。
私の前に、不定形の形をした何かが現る。
光と闇の両方がそれを認識し、光は激しく瞬き、闇はより深く色濃くさせていく。
光と闇の境目。その奥に揺らめく何かに向けて不定形な物は歩いていく。
私が腕を伸ばすとそれは霧散し、あたりを何色もの光が覆い尽くす。
私の体もそれに包まれ、どこかへと押し流される。
だけど、霧散したはずの不定形の物が再び後ろに現れ私を支える。
そして何事かを呟くと、私を包んでいた全ては消え去り、私を現実へと引き戻した。
「変な夢でしたね」
開口一番出てくるのはそんな言葉。
エルフが見る夢というのは昔から、何かが起こる象徴とされている。
普通のエルフであればそんなことはないのだけど、私は他の皆よりは血が濃い。
里の長からは非常に強い先祖返りと言われているけれど、私はよくわからない。
小さい頃から精霊や妖精に好かれる体質ではあったけれど、なにか特別なモノを感じたことなどは全くない。
たまには変な夢を見るもの。
そう割り切って、気怠い体を起こして寝惚け眼を擦りながらベッドから降りる。
顔を軽く洗い、蔦でできた階段を降りると、長とサテラが会話している。
サテラは私と違って頼りになって、里の皆からも信頼されている。
自身の鍛錬を欠かさず行っていて、人族とは粗野だと教えられていたけどサテラは礼儀正しい。
誰かが困っていると放って置けないらしく、自ら手を差し伸べる。
里の皆も最初こそ近づこうとしなかったけど、今ではエルフの一員とでも言うようにサテラと楽しく会話するまでに至っている。
皆が仲良くなっていくのに族長様は難しい顔をしていたけれど、サテラの人柄を見て特別にと許している。
打って変わって私は長の娘だというだけで、別に大したことはない。
サテラの様に何でもできるわけじゃない。
スラっとした体型、程よく付いた筋肉、整った顔立ち、切れ長の目。
大人の魅力を持った彼女に私はいつも憧れる。そういえば、サテラはたまに私を見て悔しそうにしたり、溜息をつくのだけれどなぜかしら?
そんなことを考えながらサテラの方をじっと見ているとこちらに気づいたようで、軽く手を振ってくる。
お祖父様も私の姿を見ると、優しく微笑んでくれる。
「おはよう、ミリエラ」
「おはよう、サテラ」
何故こんなにも朝早くからサテラがここにいるのか。
基本的にエルフの里に他種族を招いてはいけない。ましてや、一晩里に留まる事など本当はダメ。
だけど昨日のあの出来事を里の皆に話すと、そうも言ってはいられなくなってしまった。
サテラと私は詳しい話を伝えるために一晩中その出来事を話していた。
里の長老の意見や質問攻めを受けて昨日はへとへとだった。
「ミリエラ、起きて早々悪いのだが、昨日の話を纏めたい。よいか?」
「はい。お祖父様」
そう。昨日起きた出来事。
緑のスライムと泉の精霊さんの話。
サテラと一緒に妖精歌を歌い、精霊達と遊んでいた時の事。
別に普段と変わりなく、いつもの場所で楽器を弾いていると現れた緑のスライム。
初めは敵かと思って詠唱まで行ったのだけれど・・・あのスライムは普通のスライムじゃなかったんだよね。
「俄かに信じ難いが本当に人間・・・亜人のような行動をした。は、拍手で意思疎通を行ったのだな」
「はい、お祖父様。間違いありません」
拍手の強弱で意思疎通をする。そう聞くと単純で簡単なモノのように思える。
だけど緑のスライム、つまり魔物では意思疎通を行うなどまず有り得ない。かといって、亜人でない最弱種スライムが知性を持った魔族に該当するなんて聞いたことない。
見間違いや幻術魔法の類では? という意見も出たが、泉の周辺にいた精霊達に聞くと、確かに居た。そして、幻術魔法の使用もなかったそう。
そうなると、そのスライムは異例ではあるが魔族ということになる。
人族と魔族両者から距離を取っているエルフ族としては見逃せることではない。それも、魔族は特に傲慢であり自分の欲望を満たす為ならどんなことでもする種族だ。
大戦が終わってからは魔族はめっきり見られなくなったが、この森に出たとなると目的は私達エルフという可能性が高い。
しかし・・・。
「言葉は喋らなかったですし、必要以上の接触はしてきませんでした」
言葉を喋らない・・・魔族というものは全種族が言葉を介することができる。
だけど、あのスライムはどうも理解していないように思えた。
油断させるために、私たちを陥れようとしているのではないか? という意見もあった。
でも、それなら精霊達が嫌がるはずだし、私達が近づいた時に襲撃すれば良かった。
それを踏まえるとあの緑のスライムが、何を目的としているのかがさっぱりわからない。
何かの陰謀なのか、それとも本当にただ賞賛しているのか・・・。
「私も冒険者稼業を続けていて初めて見ましたよ。魔族自体もそうですが、その・・・スライム型の魔族などとは・・・」
魔族というのは大体が亜人型であり、魔物型は少ない。
いないことはないのですけど、魔物の中でも上位に存在する者が魔族となる。
決してスライムのような最弱種族が魔族などになれるはずもない。
だけれど、あの緑のスライムは私達に友好的であり、剰え体に触れさせた。まるで懐いているペットのような魔物。
それだけで十分に驚く程の事であるけど、事態はそれだけに留まらない。
「泉の精霊。泉の中から他とは違い、圧倒的な存在感を放っている精霊が現れました。そして、緑のスライムへと吸い込まれるように消えていきました」
昨日の夜の大部分はその精霊について、様々な議論が巻き起こった。
私自身このユガではあんな精霊を見たことはない。
楽しい事をただ追求する精霊や妖精とは違い、自分の自我を持っている。
顔立ちや立ち姿から、永きに渡ってそこにいた上位精霊を思わせる貫禄があった。
その、「美」そのものを体現したかのような泉から現れた精霊は、『面白そう』そう言ってスライムに吸い込まれていった。
上位精霊に興味をもたれ、愛される。
里にいる全エルフの中で上位精霊を見たのはお祖父様を含めた三人程。
会話なんて出来るわけがない、と言っていた。
でもあの泉の精霊は『いつも素敵な演奏をありがとう。私はあなた達が大好きよ』と私達に向けて言った。
上位精霊に褒められるなんて、私達エルフからすればとんでもない事。
あの時は頭の中が真っ白になって気づいてなかったけど、今考えると夢じゃなかったのかと思ってしまう。
「はぁ・・・わからないな。亜人と意思疎通ができて、上位精霊に愛される。エルフの歌を聞いて、素直に賞賛し、無防備にも撫でられて喜ぶペットの様な魔物。全く、最近この森はどうなっているのやら」
できることならもう一度会いたいのだけれど、きっとまた来てくれるはず。
あのスライムからは敵意も感じなかったし、私達にすごく懐いてくれたし。
なにより・・・可愛い! すっごく可愛かった。
ちょっとばかしニュルっとするけど、あの無邪気に絡み付いてくるスライムちゃんをギューってしてあげたい。
「可愛かったよね」
「・・・そう、ね」
あの時、サテラは警戒していたようだけれど満更でもなさそうだった。それどころかサテラも結構スライムちゃんの可愛さにやられていた。
私を引っ張って帰ろうとした時に、ぷるぷる震えるスライムちゃんに頬を染めて頭をブンブン振っていたもの。
スライムちゃんが見えなくなってからも、手をワキワキさせていたのを私は知っている、サテラ、あなたも可愛いものに目がないはずです。
「もう一回私達の妖精歌を聴かしてあげたいな」
「そ、そうね。少しくらいなら・・・いいかも、ね」
「二人共程々にの」
スライムちゃんを思い出しながらウキウキしていると、サテラも少し喜んでいる。
楽器の手入れが終わったら今日も泉に行きたいな。
話はそれから数分くらい続いて、お祖父様は長老の人達に呼ばれて部屋を出ていった。
それから、私とサテラはいつも通り他愛もない会話をして、昨日のスライムの事や精霊の話。今日の夢の話なんかを始める。
楽器を片手に手入れしながら、サテラと二人で今日することを話し合うのはいつもの事。こんなに朝早くからは初めてだけど、この時間は本当に楽しい。
引っ込み思案で友達がいない私だったけれど、今はサテラが居る。
じっとサテラを見ているとそれに気づいて、何? と首をかしげてこちらに視線を向ける。なんでもないよと首を振る。
楽器の手入れが終わり、二人で家を出る。木から生えた蔦で編まれた橋を渡って、同じように蔦で作られた階段を下り、里の出口へと向かう
今日は夕方頃にはサテラが人族の街へと戻ってしまうため、少し早めに里を出た。
陽の光が木々の影を大地に刻む中を進んでいく。目的地はもちろんスライムちゃんと会ったあの泉。
いつもと同じように精霊達が泉の周辺へと集まっている。
私達の姿を見つけると、皆ワクワクしたような視線を向けてくる。
私はいつもの岩の上でミルトを膝の上に載せる。風の精霊達がミルトに純粋な精霊力を送りこむ。すると、周囲に魔力の波が広がり、ミルトが淡く光り始める。
サテラはパルラを肩に担ぎ直し、弾く準備を整える。
ミルトから優しい音色が流れ出すと、それに合わせてサテラの指で弾かれるパルラの弦からは優しくも強さのある音色が流れ出す。
楽器を奏でていると、時が経つのを忘れてしまう。
精霊から漏れ出る光が尾を引いて、空中という大きなキャンバスに多彩な絵を描き始める。
楽器から漏れ出る精霊への捧げ物が音と共に送られる。
・・・どれくらいたっただろう。結構な時間弾き続けていたけれど、まだスライムちゃんは来ていないみたいね。
長く弾き続いていた妖精歌が終わる。
辺りを見回してみるけれど緑のスライムちゃんはいない。サテラも探しているようだけれど、やっぱりいない。
昨日来てくれたし、今日もなんて思っていたけれどそんなに上手くはいかないよね。
よくよく考えたら結界を張っているこの場所に魔物が入り込めるなんて有り得ない事だった。
それに、スライムちゃんにだって生活あるだろうし・・・そもそも魔物に家族なんているのかしら。
この森では普通に凶暴な魔物も現れるし、私達の様な亜人でも生活するという事に置いては厳しい世界だし・・・スライムちゃん大丈夫かな。
そんなことを考えながら、二曲目を弾いているとサテラが大丈夫? と目で問いかけてくれる。
大丈夫だよと頷くと、少しの間こちらを見た後、楽器に意識を向け直した。
そんなこんなで、二曲目が終わった後にはサテラと私は帰路に着く。
まだ日は昇っているが、暗くなると魔物が活性化してしまうので、日の出ている内に帰らなければ危ない。サテラなら大丈夫だろうけど、念の為に早く帰るように言った。
里まで私を送ってくれたサテラはその足で、人族の街へと帰っていった。
次はいつ来れるかわからないらしいけど、近い内にまた来てくれるらしい。
古い仕来たりなんて無視してこっちに住んじゃってもいいのに・・・昔に何かあったらしいけど、昔は昔、今は今じゃないのかな。
特に何事もなかった今日はそのまま寝ることにした。
翌日も翌々日も別に変わったことなんてなかった。
いつも通り泉に向かって、いつも通りミルトで奏でる。
相変わらずスライムちゃんも来ることはなかった。私のこと忘れちゃってるのかな・・・。
もう一度撫でてあげたいんだけどなぁ。
ただ、最近ユガの森に異変が起きている。
妙に精霊達に落ち着きがなく、私が妖精歌を奏でて歌っている最中にキョロキョロしている子も出てくるし、落ち着かなくソワソワする子もいる。
どうしたのって聞いても、わかんないって返ってくる。
体を何かピリピリしたのが包んでいて落ち着かないって言ってた。
南部より上の森で魔物達の抗争が合ったらしく、精霊達が南部に逃げてきている。
その抗争から逃げてくる魔物が里の方へ来ないようにと、巡回しているエルフは警備を強めている。
そしてその巡回の最中に見かけた魔物の動きも不穏だと言う。
なんでも魔物の動きが慌ただしく、縄張りを抜け出て争っていたり、縄張りから逃げ出したり、「主」と呼ばれる魔物がいなくなったりと森の変動が激しいらしい。
案の定、西部や東部から南部へと流入する魔物も出てきている。
そういえば、紫色や赤色が体の一部に入ったウルフを見かけたって聞いたけど・・・皆見間違いだって言ってたし大丈夫だよね?
一体この森に何が起きているのでしょうか。
何か嫌な予感がするのだけれど、きっと気のせいよね。
「・・・私なんかが考えてもしょうがないよね。それにしても、スライムちゃん大丈夫かしら」
ちょっぴり芽生えた不安をかき消すように私は部屋で一人呟く。
思えば最近は変な事ばかり起こる。里の結界が弱まったり、魔物が頻繁に目撃されるようになったり・・・。
そのおかげでサテラと出会えたりもしたんだけど、やっぱり怖いわね。
そんなことを考えながら、その日は眠りについた。
翌日、変わらず森に出かけ精霊達に妖精歌を歌い聴かせる。だけれどやっぱり皆ソワソワしていて私の歌に聴き入っていない。
「ねぇ、皆どうしたの・・・。私の歌どこか良くなかった?」
「チガウノ。ナニカヘンナノ。カラダガピリピリシテイルノ。イヤナヨカンガスルノ。」
「嫌な予感・・・。最近、森の様子がおかしいし、今日は早めに帰ろうかな」
「ソノホウガイイトオモウ。ボクラモヤドリギニカエル。」
森の変化に敏感な精霊達も何らかの異変を感じ取っているようで、精霊達も住処へと早々と帰って行った。
ミルトから流れ出る魔力も風に乗りづらく周囲にあまり響かなかったし、精霊達の集まりも悪かった。
普段フワフワと飛んでいる妖精達も姿を見せず、残滓を残すだけで妖精歌を聴きに来ることはなかった。
緑のスライムちゃんも来なかったし、まぁこんな調子なら仕方ないわよね。
「一体何が起こっているのかしら・・・。サテラ早く帰ってきて」
早めに切り上げて里に戻ると、少し様子が変。いつもは静かで、木の実や魚やらを表に出して、他の物と交換しているエルフ達の姿が見えない
そして、大人達が慌ただしく動いている。
すると、里の狩猟隊を任されているリーダー、マクイルさんが駆け寄ってくる。
「これはミリティエ様、ご無事で何よりです!!」
「えっと。どうかしたのですか?」
「えぇ、西部に調査に出かけたエルフ三名が戻らないのです。本当に何が起こっているのか・・・。とにかく、ミリティエ様がご無事でよかったです」
「はい、精霊達がいつも以上に落ち着きがなくて早めに帰ってきました。」
「そうですか、私の所の精霊も何かに怯えているようで魔法がおぼつきません」
「マクイルさんの精霊もですか・・・。調査に向かっていたエルフさん達は大丈夫なのでしょうか」
「こちらも把握しかねております」
森の調査に出たエルフさん達も行方知れずになっているなんて、大丈夫なのかしら。
森に何かの異変が起こっているのは間違いないようね・・・。
「そう・・・わかりました。マクイルさんなら大丈夫だとは思いますが、お気をつけて」
「族長様の孫娘殿に言われるとは、感激ですな!」
マクイルさんは里の中でも一番の腕利きで、ここいらの魔物であれば大丈夫だとは思うけど、今この森は変だしもしもということもある。
最後に充分に気をつけてくださいねと念を押し、家へと帰った。
拭いきれない不安が体中を包み込む中、里の大人達は原因を突き止めるべく夜遅くまで集会を開いている。
原因はなんなのか、できることなら些細なことであってほしい。その日は夜遅くまで寝付けず、不安な夜を過ごした。
そして、翌日。
森の異変は南部にまで迫って来ていた。
ゆっくりと静かにやってくるその恐怖に、私達は気づくことができず、翌朝になって思わぬ形で発覚した。
私はこの日を二度と忘れることができないと思う。
私達の運命をガラリと変えたこの日を・・・。
翌朝、私が森に出かける準備をしていた時に里に一報が齎された。
里に駆け込んできたのは親友であるサテラだった。
息を切らして里まで全力で駆けてきた彼女の姿はボロボロで、彼女の言った一言に里の皆は凍りついた。
「オークが・・・大群でこ・・・この森に向かって・・・来てる。エルフ・・・がやられていた・・・」
そう告げて、彼女はゆっくりと倒れた。
オークの大群。その言葉に私は頭の中が真っ白になった。
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読者の皆様、私が書いた稚拙な文章ですがいつも読んでいただき本当に感謝です!
これからも頑張りますのでよろしくお願い致します!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
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