∴縺:氷獄と聖騎士でした!
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土鉱人の街・・・そこには以前とは違う世界が広がっていた。
side 聖都聖王軍『滅剣』所属:第三聖隊 隊長
無数の蹄鉄が闊歩する音が草原を駆け抜ける。蹄鉄によって補強された強靭な足に込められるのはただひたすらに命令通りに前へと進む力のみであり、大地は抉り取られ、時折石を蹴り上げる音と石を踏み砕く音が響き渡る。
背に人を乗せた無数の馬達が草原をただ前へと進み、馬達が去った場所は乾いた砂埃が舞い上げられ、後には砂塵がたなびいている。
太陽の光が大地に降り注ぎ、いつもであればただただ草原を映し出すだけのそれが、馬に跨り規則正しい列を組み上げた人間達が着込む鎧によって乱反射され、その場所だけが無用に明るさを増していた。
多くの傷が刻まれた銀色の鎧には無駄の汚れなどはなく、一つ一つが丁寧に磨き上げられており、その鎧は美術品の様な美しさを醸し出している。
腰から下げられた剣は鎧と触れ合う度に、金属同士がぶつかる鈍い音を響かせる。そんな剣に刻まれた盾と剣が交差した簡素な紋様が刻み込まれ、その意匠には様々な意味が込められている。
一つ、その意匠を刻まれた武器を所持している者は聖都の人間であり軍に所属しているということ。二つ、その意匠を刻み込まれた武器には聖なる力が宿っていること。三つ、魔族に対しての物事には治外法権が適用されるという事等だ。
つまり、馬に跨ってこの草原を馬に跨り進軍している者達は聖都の軍であるという事だ。
聖都の軍隊・・・多くの聖騎士達の間からは若干名が聖都の旗を掲げ、自分達の存在を周囲に知らしめている。
そして、そんな聖騎士達の中央には他の聖騎士達が跨る馬とは違い、白い毛並み・馬専用の防具をつけさせた重装備の白馬がある。
そんな白馬の上に跨っていたのは重装鎧に身を包んだ人間であり、兜を外したその顔は不健康そうな顔つきであり、目の下には深々と黒いくまが刻み込まれている。くすんだ金色の髪に、腰には一本の細剣が吊り下げられている。
とても白馬の王子様とは呼べないその人物こそ、この聖王軍の部隊を率いる将である。
商人達から受け取った情報によれば、人間と魔族が『悪徳』な取引を行っているらしく、人間に通常よりも高額な値を付け売り払っているとの事だった。
それを聞いた聖王軍『滅剣』は直ちにその魔族の隠れ潜む街へ送られることとなったのだが、この様な小事に聖将が出るまでもないと、この男は自分の隊を引き連れて先行していた。
「おい、隠れ潜んだ魔族の集落へはまだつかんのか?」
「もう少々だとは思われます。なにぶん、隠れていたというだけあって少々僻地にございますゆえ」
「さっさと隷従させて、ラッセル様にご報告をしなければ・・・先ずは100人程殺せば、あの魔族どもも付き従うより道はないと悟るだろう」
「私もそれに賛同したいところでありますが、あまり被害を出さない方がよろしいかと。相手は利用価値もありますので、聖都直轄の労働奴隷として働かせればより一層聖都の力を高めることができる・・・と、聖機卿様方から言伝を伺っております」
その道中、一向に見えてこない街の姿にイライラとした男は隊の者に話しかける。
今向かっている魔族の街は、多くの土鉱人が暮らしているらしいが、その程度であればこの人数であれば簡単に隷従させられると男は考えていた。
実際、聖都の軍は訓練の過程で多くの魔物達と戦い、戦闘経験は他国の兵士よりも多く練度は高い。尚且つ、聖王軍が持つ光の力は魔の者にとっては脅威となる力だ。土鉱人程度であれば一捻りで潰すことはできるだろう。
数十人殺して脅せば方はつく。
そう告げた男に隊の者が反論する。その言葉に、男は眉を顰め侮蔑の篭った表情で視線を返す。
だが、男も隊のものにそのような視線を送っても仕方がないと目を伏せ、前方へと向け眉を顰めたまま口を開いた。
「労働奴隷か・・・あの様な汚らしい魔族を聖都に踏み入らせる等考えたくもない」
「賛同にございます。しかし、聖機卿の言伝でございますので」
「ふんっ、わかっているわ」
悪態をつきながらも、その言葉が聖王軍を統括する存在の言葉とあればそれは神の代弁に等しいものとして扱われ、男達は聞き入れることしかできないのだ。
そのまま草原を進む・・・すると、今まで燦々と降り注いでいた太陽は突如として現れた無数の雲に覆い隠され、草原には巨大な影が落ちる。
それと同時に、肌寒い風が向かい風となって吹き荒び、馬の脚が遅くなる。鎧の隙間から侵入する隙間風が肌を撫で一度身震いする。
「このように肌寒い場所だとは聞いていないぞ・・・」
「ここいら一帯は山が近くにありますので、気候の変化が激しいのではないかと・・・しかし、確かに冬期の様な風が吹いている様に感じます・・・さすがに暖具も持って来てはおりません」
「チッ! 魔族の様な者が住むような土地だ。この様な事が起こるものなのだろう。劣等種族が住むには良いところだ」
イライラを隠そうともしなくなった男は悪態をつき馬を進めていく。
しかし、そんな男の感情と逆撫でするかの如く、どんどんと吹き荒れる風は強くなり、異常な程の冷気が聖騎士達へと襲い掛かった。これは山間部だからだとかそんな事が原因ではない程の異常さだ。
「一体どうなって・・・」
「『シュティル』様!! ど、土鉱人の街が見え・・・て」
「ようやく見えた・・・・・・か?」
そして、その目の前に広がった光景に聖王軍のものたちは唖然とし、馬の歩みを止めさせて遠くからその街へと・・・いや、その街だったものへと目を向ける。
吐く息が白く染まり、大気中を白い靄の様な物が渦巻き、馬達が踏みしめていた大地には薄い霜が張り付いている。
ガタガタと震えだす聖騎士達の身に付ける鎧からはガチャガチャと音が鳴り響き、草原を吹き抜ける冷たい冷気を含んだ風が土鉱人の街から吹いている。
そう・・・そこに広がっていたのは、巨大な氷に覆われた街だった。分厚い氷が城壁のように街の周囲を取り囲み、外から中の様子が伺えない程のその氷壁には侵入者を拒む様に巨大な棘が外へとむき出しになっている。
「ここが土鉱人の街だというのか?」
「そ、その筈ですが、これは」
男・・・シュティルと呼ばれたこの隊を纏める将は驚きに唯呆然と、巨大な氷に包まれた街を見つめる。
情報では土鉱人達が住む街は巨大な鉱山の下に作られた街であり、鉱山から齎される資源によって人間と交流を行っていた街だった筈だ。
鉄錆の匂いが充満し、街からは徹夜鉱石を叩く音が響き渡り、街の中を土鉱人達が歩き回っている。
しかし、今目の前に広がっている街は、とてもではないが生き物が住んでいるとは思えない。街から離れているというのに鎧が肌に張り付くかのような冷気を孕んだ風が吹き荒び、それどころか・・・鉱山ですら凍てついている。
「・・・全員、聖魔法で体温を維持しろ! 街にいるであろうドワーフを隷従させるぞ」
馬に跨った聖騎士達は一瞬白い光の繭に包まれると、聖騎士達の周りの草原に降りていた霜が溶け、体の震えが取れる。
吹き荒ぶ風も聖騎士達の元へ吹き付ける時には暖かな風に変貌している。
「部隊ごとに分かれ等間隔に並べ! まずはあの氷の壁をどうにかする・・・全員炎系の魔法をあの氷の壁の中央に放て!!」
馬を歩ませ、巨大な氷の壁から少し離れた場所で馬から降りる。全員が手を前方に掲げ魔力を込める・・・手のひらに収束する魔力の塊は徐々に轟々と燃え盛る炎へと変貌する。
その炎は光を含み白く光り輝く煌炎となり、人間の頭大の炎塊となり徐々にその大きさを増していく。
「撃て!!」
聖なる炎が掌から解き放たれた・・・巨大な氷の壁と対比すれば、小さな小さなその炎塊は氷壁の一点に放たれ直撃する。
その直後、光り輝く煌炎が大爆発を引き起こし、氷壁の表面を轟々と燃え盛る炎で覆い尽くした・・・吹き荒れる爆風は周囲を焼け焦がす程の熱を孕み、氷壁を打ち砕き溶かそうと猛威を振るう。
当然その爆風は聖騎士達の元にも返る・・・しかし、爆風は聖騎士たちの元へと降り注ぐ前に、その猛威を一瞬にして消失させただの強風へと姿を変えた。
まるで神の加護が働いたかの様に聖騎士達へは何の被害もない・・・だが、その周辺に生えていた雑草や植物は爆風に吹き散らかされ、熱風に身を焦がして灰へと変わっている。
立ち上る水蒸気が氷壁を包み込み、誰もが氷壁を溶かし大穴を穿った・・・そう確信していた。
「・・・・・・ッなんだと!?」
「ばかな!!」
「あ、あれを防いだのか!」
口々に叫ばれるその声に、シュティルは表面が少し撫でらかになった氷壁を見上げ驚愕した。
先程の爆発を物ともしなかったのか、氷壁は表面が少しだけ溶けただけで聖騎士達を嘲笑うかの様に鎮座し、何事もなかったかの様に冷気をあたりに振りまいている。
そして呆然とする聖騎士達の中、突如として異変が訪れる。
氷壁の一部がまるで生き物か何かの様に蠢くと、ただの氷壁だったものが突如として巨大な氷の城門へと変貌すると、ゴゴゴッと音を響かせながら聖騎士達を中に誘うかの様に開かれる。
主ティは額に青筋を浮かべ、目を血走らせながら開ききった氷門を睨み付ける。
「バカに・・・バカにしやがって! 全員抜剣許可! 土鉱人共は交戦の意思有り、排除しろ!!」
聖騎士達は馬に跨り城門に向かって疾駆した。腰に下げた剣を抜き放ち、氷門を潜り抜け中へと入る。氷門の先には凍りついた白銀の世界・・・そこには街があったであろう痕跡があり、数多くの建物が凍りつき屋根からは幾つもの氷柱が伸びている。
一面氷の世界だというのに空からは一切の雪は降っておらず、先程まで外を吹き荒れていた風は止み、身を裂く様な冷気だけが街をしめている。
聖騎士達の魔法により冷気で凍り付く事はないがその冷気は魔法をつき抜け、生起した地に寒さを感じさせる程だ。
中は不気味なほど静寂に包まれており、土鉱人達の気配は一つとしてなく生物が生きているであろう気配はやはりない。建物に紛れて幾体もの氷像がそこいらに置かれているが、それがまたより一層この街の不気味さを引き出している。
「・・・魔族共は一体どこに行ったんだ!? あんな挑発をしてきやがったからには絶対にここにいるはずだ!! 草の根分けてでも探し出せ!!」
シュティルはそう告げると凍りついた家屋の扉を蹴り破る・・・当然家屋にも一切の気配はない。
聖騎士達は散開し、周囲の家屋へと無遠慮に侵入して隈なく捜索するが誰も見つからない。あるのは凍りついた家具だけであり、暖炉の火は氷へと変わり冷たい室内が広がっているだけだ。
「ちくしょう!! 魔族どもが・・・この俺をコケにしやがって!!」
シュティルがとうとう細剣を構え、その細剣に聖気を流し込み始める。すると、細剣が脈動を始め、白煙をあげながらその刀身を陽炎の様にゆらゆらと蠢かしていく。
細剣に刻み込まれた盾と剣の紋章が光り輝くと、その周辺に白い文字が浮かび上がり。その文字が刀身から離れると空気中に円を描く様に並び始め、文字をつなぐようにして円状に線が描かれていく・・・まるで魔法陣のようになったそれにシュティルは細剣を無造作に突き入れると準備は完了する。
「聖技:穿ちし聖孔!!!」
家屋の直ぐ側にあった氷像に細剣を突き入れる・・・すると、氷像には人一人が余裕で通り抜けられるほどの巨大な穴が形成され、爆音を響かせながら続く三件先の家屋にまで大穴を穿ったのだ。
氷片がそこかしこに飛び散り、家屋がパキパキと氷の割れ砕ける音を響かせながら倒壊する。
シュティルの持つ剣は聖武器と呼ばれる特殊なものであり、聖剣とは呼べないまでも聖なる力に反応して特殊な技を放つことのできる武器だ。
その力はエクストラスキルにまで匹敵すると言われるほどの強さであり、シュティルの使ったスキルは城壁を裏側まで突き破る程の力がある。
「さ、さすがにございます」
「くそ・・・ドワーフ共、どこにかくれやがッッッ!?」
細剣を鞘に収めようとしたその時、大地が揺れ動く。
グラグラと揺れ動く大地に一体何事かと周りを見渡すと、家屋に紛れて立っていた氷像が不自然な脈動を繰り返していた。
シュティルが貫いた氷像二視線を落としてみれば、そこには唯の氷の断面ではなく・・・白色に光り輝く何かの断面が見て取れる。
「い、いったい」
すると氷像が突如としてどろりと溶け落ち、街にある氷像全てがどろりと溶け落ちる。それはまるでスライムのようにもぞもぞと蠢き始めると、出来損ないの人間の形へとその姿を変えていき・・・巨大なゴーレムが三体現れた。
シュティルが貫いたはずの氷像も周囲に散った氷像の破片が一箇所へと集まり、最後の一体のゴーレムが形成され、合計四体のゴーレムが氷の街に姿を表した。
「ご、ゴーレム!!」
「ただのゴーレムだ!! 全員でやれば奴ら程度倒せるだろう!! コアを壊してやれ!」
シュティルの命令を受け、聖騎士達は剣を抜き放ちゴーレムへと向かっていった。聖王軍は練度も高く非常に強い・・・特に『魔』の存在に対しては特攻とも言える聖なる光の力を備えている。
そして、聖騎士達が持つ武器も国から支給された一級品の装備であり、ただの魔物であれば光の力を使わずとも両断できるほどの業物だ。
ゴーレムであれどそれは変わらない。光の力を使えば岩をも砕く剛剣となるそれを聖騎士達は武器に纏わせ、ゴーレムに切りかかっていった。
ただの魔物のゴーレムであればその剣で直ぐ様切り裂かれ、暴走する前に容易にコアを潰される・・・しかし、今聖騎士達が相対しているゴーレムは・・・ただのゴーレムではなかった。
数人の聖騎士達がゴーレムへと切り掛かり、その刃をゴーレムの足元へと突き立てた・・・が、その剣は硬質な音を立てて弾かれ、聖騎士たちは予想外の事態に次の反応が遅れてしまった。
足を斬りはらい、身動きの取れなくなったところでコアを潰す方法はゴーレムを倒す上での基本・・・だというのに、ゴーレムの足を切り払うことができなかったのだ。
光の力を纏った剣は大気中に粒子を霧散させ・・・そして剣は聖騎士達と共に空中へと吹き飛ばされていった。
ゴーレムの巨腕によって逆に薙ぎ払われた聖騎士達は仲間を巻き添えにしながら、十数メートルもの距離を飛ばされ意識を失った。
「な、何をしている!! さっさと、あのゴーレムを・・・な、なんだ?」
聖騎士達が斬った部分には小さな切り傷ができており・・・そこから七色の光が漏れ出している。
シュティルは他のゴーレムと交戦した聖騎士たちの方へと目を向け、聖騎士達がゴーレムに切り掛かった部分に目をこらす。やはり、そのゴーレムにも有効打を与えることはできず、弾かれた場所からは七色の光が漏れている。
「まさか!! ファイアーボール!!」
シュティルが放った炎の玉がゴーレムへと炸裂した瞬間・・・ゴーレムの表面を覆っていた霜が溶け、ゴーレムの全貌が現れる。
半透明のガラスのような体を持ち、頭部に七色の鉱石が埋め込まれた作られた『特異種』のゴーレムがじっとシュティルを見下ろしていた。
「こいつらは普通のゴーレムではない! 特異種のゴーレムだ!!」
そう叫んだのもつかの間、聖騎士達は光の力を纏わせても砕くことのできない水晶の体に阻まれ、ゴーレムに成す術もなく薙ぎ払われていった。
「お前たち、あのゴーレムの動きを死んでも止めろ!! 俺が奴のコアを破壊する」
シュティルが剣にありったけの聖なる力を込める。再びあのスキルを放たんと込められたありったけの聖なる光、それに呼応するように揺れ動く細剣がゴーレムへまっすぐに向けられた。
そして、地面を踏みしめ跳躍するかのように七色のゴーレムへと駆け出した。
頭部に光る七色の鉱石へと一直線に走り、細剣を構えて駆けるシュティル、ゴーレムはそれを阻止しようと巨腕をなぎ払うが、聖騎士達はそうはさせじと巨腕を数人がかりで受け止め活路を作り出した。
七色のゴーレムの前方にたどり着いた瞬間、シュティルは地面を強く蹴りコアへと細剣を突き出した。
「聖技:穿ちし聖孔!!!」
ガィィイィィィィイィィィンン!!!!
細剣は全ての光の力をゴーレムの頭部で七色に光り輝く鉱石へと注ぎ込み・・・ゴーレムの頭部を弾き飛ばした。
七色のコアの残骸と水晶でできた体の破片がそこいらに散乱し、空中をキラキラと舞い散るそれ幻想的な光景を映し出す。
そして、誰もがコアを破壊することに成功した・・・そう思った直後だった。
GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!
「な、な、ぐぅっ!!!!」
ゴーレムの身体がルビーの様に真紅色に染まり、腕を止めていた聖騎士達ごとシュティルを薙ぎ払ったのだ。
周囲のゴーレム達もそれに連鎖するかのようにルビーの色に染まっていき、ガラス状の体は血の様な紅に染まり、聖騎士達をジロリと見据えたのだ。
コアを貫いたはずのゴーレムの頭部は当然ながら、先程の家屋や氷像の様に穴が穿たれており、『そこにコアがあったならば』ゴーレムは破壊されているはずだ。
しかし、頭部にあった筈のコアはいつの間にか心臓部へと移動していたのだ・・・かろうじて見えたそのコアはまるで心臓のようにドクンドクンと脈動し、そのコアからは真紅の魔力が溢れ出しゴーレムたちを染め上げていったのだ。
「コアが移動している・・・!? 退却だ・・・全員退却しろ!! 特異種のゴーレムの暴走に勝てるはずがない!!」
シュティルはそう叫ぶと一目散に氷門へと走り出した。他の聖騎士達には見向きもせずに逃げ出すと、それに連なって他の聖騎士達も必死の形相で逃げ出した。
だが、それを黙って見ているゴーレムではない・・・ステータスが倍にまで引き上げられたゴーレム達は逃げ遅れた聖騎士達に襲い掛かる。
巨大な体から繰り出されるタックルをまともに食らった聖騎士達は、身に纏った鎧をボコッと凹ませ体の形状を人間とは思えぬ物に変貌させながら空中へと投げ出されていった。
振るわれ巨腕に捕まったものはそのまままるで果物のように握りつぶされ、薙ぎ払われた者の中には胴体と下半身が泣き別れになった者もいた。
ゴーレムの足で潰されたものはグシャッという音とベキベキという骨がへし折れる音を残しながら大地と同化していった。
そして・・・先頭を走っていたシュティルは異変に気付く。
氷門がしまっているのだ。
「ち、ちくしょう!!聖技:穿ちし聖孔!!!」
必死に駆け抜けながら細剣を構え、聖なる力を注ぎ込みそのまま氷門へと突き出した。
あのゴーレムの身体をも突き通した刃だ・・・シュティルは氷壁に大穴が空くだろうと確信し、そのまま走り抜け外に止めてあった馬に乗り、こちらへ向かっているであろう聖将『ラッセル』にゴーレムの存在を伝えようとしていたのだ。
だが・・・その願いは届かなかった。
ベキィッ!!!
細剣は・・・氷壁に大穴をあけることなく、間からポッキリと折れたのだ。それに驚愕の表情を浮かべたのもつかの間、そのまま氷壁へと追突し鈍痛が全身を支配する。
「ぐ・・・あ・・・な、なぜ、は、発動しなかったのか!?」
確かに発動した。スキルは発動し、その効力を氷壁に発動したが・・・その氷壁にはびくともしなかったということだ。
そうして気付く、氷門を前にしてようやくその巨大な人間には到底考えもつかないとてつもない膨大な魔力によって作られた堅牢な城塞であるのだということを。
そして・・・シュティルに影が落ちる。
後ろから聞こえていた悲鳴はもはや聞こえない。何かをなぎ払う音も、何かを踏み潰す音も、何かが駆けてくる音も。
ゆっくりと後ろへと振り返る・・・
「ひ、ヒィィィィィィィィ!!!」
そこには、四体のゴーレムがじっとシュティルを見下ろしていたのだ。
四体のゴーレムのコア部が赤色の光を強くする・・・すると、全てのコアが頭部へと集まり顔を出す。真紅に染まったコアの中央に膨大な魔力が集まり、その魔力が氷門の前で蹲るシュティルへと向けられていた。
「だ、誰か・・・助け・・・た・・・す」
シュティルの命乞いは虚しく、虚空に消え・・・ゴーレムのコアから赤い閃光が放たれた。
ハーピーの観察日記
ユキ様の計画を実施
ヨウキ様・ナーヴィ様は鉱山へと向かわれました。
ドワーフの方々の避難を開始
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)