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∴縺:二枚の書状でした!

本当にたくさんのブックマークありがとうございます!!


人と魔族、撃鉄が今鳴り響かん。

 side ソウカイ


 土鉱人の集落。その一つに客人用の屋敷が一軒建っている。その場所は土鉱人と交易を行う商人の為にと作られた大きな屋敷であり、現在我々はそこに滞在している。

 ここを取り仕切る商人、オルク・ユベルタス殿と交わした契約には鉱山の安全の確保・・・つまりは鉱山に巣食う魔物の討伐を任されている。当初契約にあった第一坑道から第五坑道の魔物は一掃し、安全の確保は保たれたが追加の依頼として別件を一つ請け負った。それは魔物の出現したとされる新たな坑道の調査、これにかなり難航して今に至る。

 なんせ地図も設備も通っていない、魔物だらけの坑道を手探りで進んでいるのだから当然だろう・・・坑道で道や方向感覚を失い迷って出られなくなった者も少なくない。しかし、魔鉱石の数や質は第一から第五坑道のものと比較できないくらいに良い。

 調査に乗り出し大体を把握し終えた矢先に、ワシでも倒せないあのゴーレムの存在を発見し負傷者は多数出てしまった。それ以来そのゴーレムとの戦闘を何度か続け、あれの弱点もようやくつかんだ。後はその弱点を伝え、ヨウキ嬢とコクヨウが出張れば直ぐにでも方がつく筈だ。


 ・・・そして、坑道の制圧まで後一歩と言うところで、ハンゾーから招集が掛けられた。

 鼻筋を伝うピリリとした何かに嫌な予感は覚えていたが、それがいままさに現実となろうとしていた。


「集まったな。ハンゾー、火急の報せとはなんだ?」


 長机の席には、ナーヴィ様とユキ様、コクヨウ、ショウゲツ、ヨウキ、ルリ、そしてワシが座っている。

 そして、その机の上には一匹の小さな蜘蛛・・・ハンゾーの姿があり、じっとこちらを見上げていた。


 ハンゾーが手に持った幾重にも束ねた糸に魔力を流し込むと、それはまるで意思を持っているかの様に空中を舞い、何かを縫い合わせるようにシュルシュルと蠢くと、それは一枚の紙となって机の上に舞い降りた。


 ハンゾーがそれを拾い上げ、ワシに見るようにと目で伝え、ワシはそれを拾い上げて目を通す。


「シロタエからか・・・これは」


 ザワッと空気が揺らぎ、思わず漏れ出た殺気に周囲から息を飲む声が聞こえる。

 ハッと我に返り、深呼吸を繰り返して気を静め、殺気を抑えながら手元にある一枚の手紙の内容に目を這わせていく。

 そこに書き連ねられていた内容はハンゾーが火急の報せと言ったことが重々わかるものであった。


 メルデッサにて聖都より使者の来訪が有り、シロタエ達と予期せずして邂逅してしまった。使者たちは我々魔族に終始挑発的な態度を取り続け・・・そして、使者が我々の配下であるハーピーに危害を加えた。ハーピーは奇跡に的に無事でったそうだが、彼方側の過失は明白。


 最後の文にはたった一言『聖都への警戒を』との事だった。

 サテラ嬢から聞き及んでいた聖都の危険性・・・常に魔族を敵視し、国では奴隷として扱うほどの徹底的な人間至上主義。

 人間が築き上げた国の中でも王都と並んでトップに立つ国であり、軍事力・国力が強大な国。大戦時の鉱石より、こと魔物や魔族への問題事には治外法権が認められている国。


「ソウカイ爺、どうした、何があった?」


 ワシの殺気を受けたコクヨウがじっとワシの瞳を見つめながら告げる。


「メルデッサに向かったシロタエ嬢からの書状だ。聖都の人間と接触したらしい・・・推測ではあるそうだが、その聖都の者達が我々の配下であるハーピーに負傷を負わせたそうだ」


 ザワリと空気が揺れ動く・・・空間が軋み上げるような冷たいさっきが迸るが、ユキ様が尻尾を小さく床に叩きつける音で皆が我に返った。


「ユキ様、お手を煩わしてしまい申し訳ありませぬ」

「・・・ソウカイさん、その聖都の物が我々に危害を及ぼしたのは何故だ? あれらは魔族と人間との和平以来、そこまであからさまに突っ掛かって来る事はないと聞いた筈なのだが」


 さっきをにじませながらも松月は冷静にワシにそう問うてくる。

 確かにそこまで直接的な態度をとってくるのは不審だ・・・何かの思惑があるのではないかと、シロタエたちも調査に動き出しているらしい。


「それは今調査中だそうだ・・・ハンゾー、これがここに来るまでにかかった日数は如何程かわかるかの?」

「恐らく七日半程であると思われる。何せメルデッサからこちらまで距離がかなり開いているからな」


 成る程・・・しかして、聖都の者達がこの様な行動に出るということは何かしらの意図があるのだろう。人間は策を弄するのが非常に上手い・・・それに相手は軍の所属と名乗ったと言う事は個人の無為な行動とも思えず、恐らくは国単位で何かしらの事をしている。

 それが魔族に対する調査であればいいが・・・どうも、自分の勘がそうでないと告げている。


 ここは早い事ケリをつけて里に戻ったほうがいい。書状には我々の方で契約が完了次第直ぐ様里に戻り、警戒体制に当たるようにとの言葉も添えられていた。

 忍蜘蛛の手配は既に完了しているらしく、ハンゾーも聖都の調査に出向くらしい。


「ヨウキ、コクヨウ・・・さっさと方を付けるぞ。その後、我々は直ぐに里に戻り警戒体制を敷く・・・嫌な予感がするの」

「わかったぁ・・・それにしても、聖都の連中、私達の仲間に手を出した事許せないわね」

「・・・直ぐにでも里に戻りたいが、契約も反故にできない以上やるしかないな。聖都の思惑はわからないが、今はそれに集中するしかないな」


 鉱山に潜むゴーレムの討伐・・・ヌシの討伐さえ終えてしまえば、それで契約は終わりだ。


 そしてゴーレムの討伐に乗り出そうとした瞬間、扉が無造作に開け放たれた。強く開け放たれた扉は壁に当たり、その先には髭をたっぷり蓄えた土鉱人の姿があった。

 息を切らした土鉱人は言葉を話すこともろくにできず、ワシの姿を見つけるとよろよろとしながらワシの元まで歩み寄り、服を掴み引っ張る。


「は、はや・・・く、来るだど!」

「一体何があったというのだ?」

「紙・・・がワシら、全員、あんたらも・・・とにかく、早く!!」

「・・・・・・・・・ただ事ではなさそうですな。ユキ様、ご同行お願い願えますか?」


 土鉱人の目には強い光が伺える・・・間違いなくかなり逼迫した状況に陥っているのは確かだろう。ヒューヒューと漏れる息の隙間から漏れ出た声から察するに我々にも何かが起きているのだろう事はわかる。

 ワシとユキ様は席を立ち、土鉱人についていく。コクヨウとショウゲツにその場を託し、街の外へと出る。


 道を進み、土鉱人は額から大量の汗を流しながら、乱れた息を正す様にしてゆっくりと深呼吸を繰り返す。

 呼吸が落ち着いて事を確認してワシは口を開いた。


「何があったのか聞いてもよいかな?」

「・・・あぁ、すまん。本当なら話してやりたいが、取り敢えず街の中央にある集会所でお願いするど。事が事なだけに人目につかない場所で・・・」


 そのまま連れらるようにして集会所へ移動する。街の中央に位置する少し大きめの家屋の前で立ち止まると、ワシらをここまで連れてきた土鉱人は扉を叩き、その中から野太い声で「誰だど」と問う声が聞こえる。


「ワシだ。ドドゥだど!! ソウカイ殿らを連れてきたど!!」

「・・・入ってもらえだど」


 中に進むと、背丈の低いずんぐりむっくりな土鉱人たち数人が円卓を囲むようにして座っている。その中には土鉱人達を纏めるドォゥルダの他に、それぞれの分野のトップの土鉱人達が席についていた。

 そして、その土鉱人達の顔には焦りの感情が浮き上がり、中には怒りや憎しみと言った感情を出す者や悲壮な顔を浮かべるものまで様々だ。


 そんな彼らが囲む円卓の中央には一枚の書状と、恐らくその書状が入っていたであろう華美な封筒が無造作に破り捨てられていた。


「・・・ソウカイ殿とユキ殿であるな。お忙しい最中、ご足労ありがとうだど。とりあえずそこに座ってもらっていいだどか」

「・・・一体何があったのか、お聞きしてもよろしいか?」


 空いていた席に座りそう告げると、土鉱人達は一様に円卓の中央にある書状へと視線を集中させる。

 その書状へと手を伸ばしその中の文字に目を通していく


『聖都聖王軍より、聖王様から勅命が下された。我々聖王軍は人間の権利を唯一たらんものとする為、人の住まう国より魔族を排斥・隷従させることとする。この書状を受け、我々聖都聖王軍は三つの剣を持ちてそれに従わぬものの排除へと乗り出すことする。人の世に栄光あらんことを』


 最悪の事態が動き出した。

 シロタエの懸念が、今ここに実現してしまった。せめてもう少し早く手紙が届いていたのなら対策も取れていたが、後手に回ってしまった以上、事態は非常に深刻だ・・・。


 口を噤み、その書状をゆっくりと机の上に戻す。聖都がワシらの排除に動き出したということか・・・今現在里には誰もいない。主君は帝都に赴くと報告が上がり、今現在里にいるのはエルフやラミア、他の種族や十数人の人間達しかいない筈だ。

 ここでワシらがグズグズしていれば間違いなく、聖都に攻め込まれてしまう・・・そうなればひとたまりもない。


 聖都には魔を滅する力を有している者が多く、その力は掠っただけでチリさえ残らず消滅させてしまう程に強力なものであり、人間であれどワシら魔族と同等に戦えてしまう力を持っている。


「・・・・・・ご報告感謝する。我々は直ぐにでも」

「ソウカイ殿・・・その手紙に書いている魔族には我々ドワーフも含まれるのです。奴らは亜人であっても『魔族』と称するのです。つまりドワーフも対象となっているのです」


 ワシの言葉を遮り一人の土鉱人が口を開いた。


「・・・成る程。それで、それを話してどうしようというのだ?」

「勝手だということはわかる。我々に手助けしてくれんか・・・我々ドワーフには戦えるだけの力がない」

「つまり、人間とやりあおうというのですかな?」

「あ、当たり前だど!! 我々ドワーフが隷従を強いられるなど許容できるはずがないど!!」

「しかし・・・とは言っても我々に国相手に戦えるだけの力はないのだど」


 土鉱人は亜人であり、魔族と人との中間に位置するとされる種族だ。力の強さだけをみれば岩山をも砕くと言われる程の常軌を逸した力を持つものの、速さといった点では彼らの身体を見た通りわかる・・・非常に鈍重であり、人間と魔族との大戦時では不干渉でいた理由も足の遅さ故に戦うことも逃げる事もできなかったから、両者に武器や防具といったものを提供していたのだ。


 土鉱人は亜人・・・聖都からしてみれば、大戦時に魔族にも物を提供したとして、魔族扱いされても仕方がない。

 このまま何もしないでいれば確かに土鉱人は戦いか隷従かの二つを迫られる事となるだろう。


「ワシらにも仲間がいる。それらを捨て置けないのでな・・・一度里に戻り、救援を」

「無理だど・・・恐らく商人からこの場所が漏れ出てしまったのだど。既に聖都の連中が此方に迫ってきているのだど、お願いだど・・・我々ドワーフを助けて欲しいだど」

「甘えないで」


 土光人達が悲嘆な顔をする中、凍える冷気を孕んだ声が響いた。その声の先にいたのはユキ様だった・・・白髪を後ろに流し、しなやかな手足にまさに雪の如く白い肌をしたユキ様が放った一言に場がシンと静まり返った。


「私達にも愛すべき配下がいるの。それらを見捨てる事なんてできない。勝手に赤の他人である私達に助けてくれだなんて言わないでくれるかしら? 私達はあくまで契約を交わしてここにいるだけなの」


 冷たく思えるその一言、暗に土鉱人を見捨てると放たれたそれに、全員がうなだれた。


「ど、どうするど? このまま戦っても嬲り殺されるだけだど。魔族の方に助けを呼ぶことはできないのかど?」

「不可能だど。聖都が絡んでるとなれば魔族も動けないだと思うど・・・それに、もう魔族との交易を絶って長いど。結局は隷従させられるだど」

「こ、このままではあれらが来てしまうど」


 室内が怒声に包まれる。

 小僧に駆られながらも様々な案が出るが、そのどれもが現状を打破する事の出来る要素たり得ていない。次第に話し合いは分裂していき、戦う選択肢を取るか隷従の道を取るかの二つの派閥にわかたれる。

 戦えば確実な死、戦わねば尊厳と権利の死・・・どちらを取っても結末は同じだ。


 パシンッ


 と小さく床を鳴らす音が響く。

 それに再び場に静寂が戻り、皆が皆ユキ様の方へと振り返った。


「私達には愛すべき・・・守るべき配下がいる。なら、貴方達も私達の配下に、ひいてはアルジ様の配下にならないかしら?」


 その言葉にざわざわと土鉱人達がざわめき始める。


「そ、それはどういう事でしょうか?」

「私達はこのソウカイを始め、アルジに命を捧げ、配下になっているの。だから貴方達もアルジの配下になればいいのではないかしら?」

「しかし、それも結局は隷従に」

「えぇ、その通りよ。けれど、私達を見て、少しでも嫌な顔をしているものを見たことはあるかしら?」


 その言葉に一斉に土鉱人達が口を噤んだ。


「私達はアルジの言葉には絶対服従、忠誠を誓い命をも掛けるわ。けれど、アルジはそんなことを一度たりとも望んだ事はない。私達から危険を遠ざけようといるも前へ前へと進み出てくださる素晴らしい方。人間と魔族とが互いに平和に暮らせる様にと尽力されているような方よ。そんな方の配下になれば、私達も守ってあげなくはないわ」

「「「・・・・・・」」」

「ここで貴方達を見捨てることもできる。けれど、きっとアルジはそれを望まない。なら貴方達が私達の配下になりなさい。そうすれば守ってあげるわ」


 土鉱人達は迷い、互いに目配せし合いながらどうするかを決めかねている。


「・・・すまないど。少し考えさせてくれだど」

「時間に余裕がないから、返事は明日明朝には出して」


 ユキ様はそれだけを告げると、席を立つ。わしもそれに続いて腰を上げ、部屋の外へと足を進めた。


「ユキ様、さすがに御座いますが、里の方はどうされるつもりなのでしょうか?」

「既にアルジ様が向かっているわ」

「ッッッ!? それは真に?」

「えぇ、私の魔法の念話でアルジに告げたわ。既に聖都の件を知っていたみたいで、もう里に向かっているわ」

「そ、それは」

「貴方の思っているとおりよ」


 ・・・ユキ様はそれを既に知っていて、土鉱人達に配下になれば守ってあげると嘯いたのか。

 ニヤリと微笑む顔に、ワシは感嘆せざる得なかった。土鉱人達をあえて追い込み自分達の配下になる様に持ち掛けたのか・・・。


「けれど、安心してはいられないわよ。守ると言った以上、私達は此方に向かってきている聖都を撃破しなければならない。アルジは人との和平を望んでいる・・・けれど、間違いなく戦闘になるわ。覚悟しておきなさい・・・責任は総て私がとるわ」

「・・・アルジ様もきっとわかってくださいます。その時はワシも責を負いましょう」


 ユキ様とワシは、その胸に覚悟を刻み、宿舎へと戻っていった。






 かくして、人の世に嵐が舞い降りた。

引き続き、土鉱人の街の話となります。


ハーピーの『土鉱人』観察日記

土鉱人は髪はボサボサで整えようとはしない。

髭の手入れは数時間掛けることもあり、『髪型』はなく『髭型』がある。

手の力は岩を粉々に砕く程の力があり、握力は大型の魔物の顎程の力がある。


宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!

遠慮なくこの物語を評価して下さい!!


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。

(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)

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