∴縺:鉱山と土鉱人でした!
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ソウカイに訪れる暗雲・・・そして、忍び寄る足音
side ソウカイ
コツコツと音を反響させる岩畳を歩く。目を瞑れば己の眼前には完全な闇が拡がる・・・コツコツと反響し他音だけがあらゆる場所に纏わり付き、自然とそれがそこに何があるのか何が起ころうとしているのかを教えてくれる。
目を開けてみれば、自分の手には人間が作り出したカンテラを携えており、小さな日が必死にともしびを揺らしながら闇を照らし出している。
カンテラの日によって照らし出された周囲に散らばるのは土塊と石や岩、塵と埃が地面に堆積しているところ考えるに此処へは暫くの間誰も来ていないのだろう。
しかし、妙だ。カンテラを高く掲げれば、その壁にはキラキラと光り輝く鉱石の数々が壁一帯に埋め込まれており、その中には普通では手に入らないような希少な鉱石までもが埋め込まれている。鉱石の他にも、宝石や水晶の類なんかも見て取れるそれには誰も一切手出ししたような痕跡はなく、この場所が長い間人目に晒されていなかった事も如実に物語っている。
コツ・・・ッ
自分の立てた足音に雑音が混じる。まだまだ奥へと続く道の先、カンテラを掲げど闇は色濃く視界には何一つとして映らない。
フゥと一息吐いてカンテラを下げ、数歩進んだ先でまるで流水の如く穏やかに、されど苛烈に己が腰に携えた一刀を抜き放ち左右に蔓延る闇を切り裂いた。
その動作には一切の無駄がなくブレも無い。証拠に、手にしたカンテラのともしびは全く揺れることなく、上へ上へと自身の炎を伸ばすばかりだ。
ただウォーミングアップがてらに振り抜いただけでは決してない。地面を確かに踏み締めて三歩進む・・・と。
ガラガラガラガラ・・・ズンッッッ!!
と両脇から土塊と岩の塊がまるで土砂崩れの様に坑道に流れ込んだ。しかし、それは唯の土砂ではなく、何かの形を模していた様な崩れ方で散乱した土砂はまるで人の形のように広がっている。
そして、その土砂の中心には小さくフルフルと震える赤いツルツルとした水晶の様な物が転がっており、それは一瞬の後にパキリッと小気味のいい音を立てて真っ二つに切り裂かれた。
それを確認もせずにさも当然とばかりに歩みを進める。
そのまま数十メートルをゆったりとした足取りで歩み・・・ある場所でぴたりと静止する。
抜き身の小太刀がカンテラの光を照り返し、刀身に落ちた塵が短かなそれを滑り落ちる。滑り落ちた塵はカンテラの光に照らし出されキラキラと光を放つが、それはカンテラだけの光でない。
カンテラの火を弱めると、辺りには闇の帳が落ちる・・・事はなく、壁に埋まっている鉱石、そして壁そのものが微かに光を放ち、闇に包まれていた道を照らし出していた。
奥へ続けば続く程に光量を増すその鉱石と坑道の壁は、まるで幻想の世界に迷い込んでしまったかの様に錯覚させる程に美しい。
黄金色に光り輝く壁は高純度の魔力を秘めており、壁に埋め込まれた鉱石はその壁よりも純度の高い『魔鉱石』だ。その一つ一つが魔導具職人にとっては垂涎の品物であろう・・・内包されている魔力はそこいらの魔鉱石が葛井氏に見えてしまうほどに濃密だ。
そんな宝の山が壁に大量に埋め込まれている坑道だが、それに手を出して掘り起こすことは叶わない。壁から突出した魔鉱石は少し力を入れて引けば簡単に取れてしまいそうだが・・・それは壁と完全に一体化しているかのようにびくともせず決して取り出すことはできない。
そして・・・もしも、壁を掘って魔鉱石を取り出そうとすれば。
「ここらでよいか」
火を消したカンテラを腰の留め具にくくりつけ、小太刀をもう一刀引き抜き魔鉱石が埋め込まれた壁と相対する。
軽く息を吐いて小太刀を軽く前と後ろに構え、片足を小さく後ろに引く。
「スキル:『転刀輪廻』」
軽く後ろに引いた足に力を入れ、前方に踏み込み跳躍する。身体の軸を左に変えながら足に込めた力を変動させていけば、それに伴って体が一瞬で回転の姿勢へと入る。体を小さく縮めると回転の勢いは増し、それに合わせて両手に持った小太刀も体に沿わせる。
そして回転が極地に達すると一気に小太刀を元の状態に構えて回転しながら対象を切り刻み続ける。目にも留まらぬ速さで回転しながら小太刀を振り乱し、坑道の壁を切り刻み続け魔鉱石の周りを掘り起こさんと攻撃を加えていく・・・。
ドクンッ
すると、壁が脈動する。
それは心臓の脈動の様に坑道の中を走り抜け、傷つけられた壁の中心でぴたりと静止すると・・・それはようやく姿を現した。
キラキラと輝く壁が・・・『傷つけた壁の元へと集まっていく』、それはまるで壁を覆っていたコーティングが石を持っているかの様だった。輝きを放っていた壁のコーティングは剥がれ落ち、傷つけた壁の元へと集まると・・・まるでスライムのように粘液質のそれへと変わっていく。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!
坑道の壁が傷つけた壁を起点に収縮していき、壁から突出した魔鉱石がまるで濁流に揉まれて行くかの様に粘液質の輝くコーティングの元へと集まっていった。
魔鉱石が粘液質のそれに触れた直後、それはグニャリグニャリと形を変え、出来損ないの人の形をとっていく・・・手、足、胴、首、そして頭が形成され、頭部に七色に輝く鉱石が埋め込まれたゴーレムが誕生した。
もはや粘液質であったそれは見る影もなく、金剛石の如くゴーレムの身体は硬質なそれに変貌しており全身から淡く光りを放つ。様々な色の混じり合った半透明のガラスの様なゴーレムは壁を傷つけた本人をギロリと睨むかの様に前傾姿勢になる。その巨体は小太刀を持った自分の身体の大凡四倍近くはあろうかと言う程の巨体。腕一本で自分の身体の二本分もあるそれが、ゆっくりと高々に頭上に掲げられていく。
そして、振り下ろされたそれは・・・自分が今しがた立っていた場所を正確に捉え、凄まじい破砕音を鳴り響かせる。周囲には自分の頭部ほどもある岩を数え切れない程弾き飛ばし、腕に振り下ろしをバックステップで避けた後、その岩を小太刀で全て切り刻んでいく。
「まぁ、楽しませて貰おうかのう」
今大岩が弾丸のように弾け飛んでいるさなかを疾駆する・・・迫り来るそれらはまるで水の如く動く自分を捉えきれずに無為に後ろへと流されて行く。
無防備になったゴーレムの腕を足蹴に駆け上がり、七色に輝く鉱石がはめ込まれた頭部に躍り出ると、まずは片手に持った小太刀を思いっきり振り回して鉱石に直撃させる。硬質な音が鳴り響き傷一つついていない鉱石にもう一刀小太刀が重ねられていく。
「スキル:猩々交叉」
ガキィィィィィン・・・・
青白い火花が周囲に迸り、交差した小太刀が七色に輝く鉱石に刃を突き立てる・・・が、それも暖簾に腕押し、擦り傷だけを鉱石に残して体を蹴って宙を舞いゴーレムから距離を取った。
そして苦労してつけた擦り傷は、体を形成する半透明のそれの一部が粘液質に変わると擦り傷をコーティングし・・・まるで傷がなかったかのように回復してしまう。
「ふむ。やはりこの攻撃ではきかなんだな」
距離を取られたことに気づいたゴーレムはじっとこちらを見据え・・・次の瞬間頭部の鉱石から七色の光線を放ってきた。
不意を突かれたそれを避けようとするも光線より早く動ける筈もなく、放たれた事でそれに気づいた時にはもう遅い。
光線に貫かれた『自分』は坑道に霧散し、ゴーレムの首元に二刀の小太刀を当てる。
「エクストラスキル:『抜首刎刃』」
ゴーレムの首筋に当たる小太刀が陽炎の如く揺らめくと、バキンッと音を立ててゴーレムの首元に小太刀が突き刺さった。小太刀に静かに纏わり付いた途轍もない量の魔力は、空間を歪めて捻じ斬ってしまう程の力を内包している。しかし、そのエクストラスキルでもってなお、小太刀が沈み込んだのはたったの数センチ・・・自分の持つスキルの中でも断トツの威力を誇る技を持っても倒せないとなるとこれ以上の戦闘は無駄だ。
まばゆい鉱石の破片が辺りにパラパラと飛び散り、突き立った小太刀を横に倒して引き抜くと小石程度の鉱石がバラバラと周囲に飛び散った。
「ふむ。深くに行けば行くほど硬度を増す・・・か。後はヨウキ殿にでも任せるとするか・・・む?」
ゴーレムの体がルビーの様に真紅色に染まる。体から突き出る魔鉱石が強く発行しまばゆい魔力の光が漏れ出る・・・ゴーレムの体の中を魔力の奔流が暴れ狂い、そのステータスが数倍以上に引き上げられる。
「ゴーレムはコア付近に危険が迫った事を感知すると、自身の魔力を一定時間暴走させてステータスを向上させる・・・だったな。人間の知恵というものは本当に役に立つ、あれらとは密に交流を深めなければいけないな」
ゴーレムが動き出す前にその場を後にする。ステータスが引き上げられたゴーレムと戦って勝てる見込みは現状ない・・・もしも戦闘が始まって仕舞えば、ステータス差を考えて逃げ出すことも不可能だろう。
そうなる前に一度退いて今回の成果をデシス達に伝えなければな。
そうして、一人の老躯が・・・ソウカイが坑道の闇の中を駆け抜けて行った。
高い山々が連なる山岳地帯・・・その内の一つに、この鉱山は含まれる。此処は元来ある種族が治めている土地だったのだが、それを偶々通り掛かった旅の商人がその種族と話をつけて交易を行い、商人はそれをきっかけに大成し大商人となり今でもこうして取引を行っている。
その種族というのが
「ソウカイ殿、お疲れだど。どうだったど?」
「ワシではどうにもならんな、ヨウキ殿であれば或いわ」
「ソウカイ殿でダメなら、わしらにゃどうしようもないど」
ずんぐりむっくりな身体、地面すれすれにまで伸びた髭、小さいながらに腕や足についた不釣り合いなほどに発達した筋肉、人間の様で人間でない亜人種・・・土鉱人達だ。
土鉱人は亜人種の中でも一番人に近いと言われ、その職人気質な性格から気難しい種族とされているのが一般的だ。武器防具を作らせれば右に出るものはおらず、こと魔道具においてはエルフたちとは違った観点から産み出されるそれらは無骨ながらも機能美を重視して作られるそれら人間からも高い評価を得ている。
土鉱人は職人気質・・・そうまで言われる理由は、類稀な集中力や特殊な力にある。武器・防具に留まらずどのようなことでも事『造る』『生産』する事に生きがいを感じる彼らの創り出すものは全てが高品質であり、人間が作り出すものとは比較にならないないとまで言われる程だ。
そして、何より土鉱人達は生まれながらにして特殊な『力』を持ち、それは物の『声』を聞き取ることができるという。その声が聞こえたものを生涯を掛けて作っていくことになるのだそうだ。
大戦時は魔族として分類されていたが、今となっては亜人と分類されて人間と交易を行い、人間とほぼ大差ない暮らしを送っている。
土鉱人は大昔の大戦には参加することなく唯自分達の趣味である『生産』を行っており、人や魔族達が大戦中に使っていた武器で、名剣や名鎧等と呼ばれる殆どが土鉱人が作り出したモノだとまで言われていた。故に魔族も人も彼らには手を出しづらかったのだろう。
とは言え、大戦の戦火を完全に受けなかった事はなく、もともと数の少なかった土鉱人達はその数を更に減らし、今では各地に小さな里や村を作って転々と点在しているくらいであるらしい。
それと比較してもこの場所は土鉱人の町と称される程の大きな場所だ。
大凡数百人の土鉱人が暮らすこの町にソウカイ達一行は訪れている。理由は鉱山から溢れ出た魔物達の討伐、およびその出現地点の調査と安全の確保だ。
土鉱人は気難しく当初ソウカイ達がやってきた時は見向きもされず無視を決められていた・・・が、あることでそれは一変した。
土鉱人は自分達が生産するものの他にもう一つ目がないものがある。それは『酒』・・・彼らは生産と酒に生きると言われるほどの無類の酒好きであり、この町にやってきた商人は大層な酒飲みであったらしく、土鉱人と張り合えるほどの酒豪で土鉱人と信頼を結んだのだそうだ。
ソウカイが持っていた特注の酒・・・エルフと人間とで作り上げた『火酒』を振る舞い、この町の領主である土鉱人と酒の飲み比べで圧勝したことによってソウカイたちは信頼を得ることに成功した。
因みに余談だが、そんな火酒を樽ごと飲み干したユキ様やヨウキ殿は土鉱人の間で女神と称されている・・・どうやら土鉱人は見た目の他にも酒を飲む量によって美醜が決められるようだ。
「ソウカイ殿らのおかげで、やっと作業ができたど。まだまだゆっくりしていけだど」
「『ドォゥルダ』殿、そうしたいのは山々なのだがな、我々もいつまでも里を留守にしておくわけにはいかないのだ。大体の調査は先ほどの偵察で終わった。後はデシスとヨウキ殿に任せておけば三日もしない内に討伐される事だろう。わかってくだされ」
「・・・残念だど。ヨウキ神とユキ神が行ってしまうだど・・・」
やはりそれが本音か・・・とは言葉に出さずにいつもと変わらぬ微笑を讃えながら土鉱人を見る。この者の名は『ドォゥルダ』、一応この町の責任者らしいが治世などはほとんど行わず好き勝手にしている。土鉱人は自分の興味のあること以外は全て適当に済ます傾向があり、ドォゥルダは町一番の防具職人として他の土鉱人から押し付けられ・・・もとい、推薦されたのだそうだ。
この者達との交易も既に済んだ。土鉱人達は金には困っていない・・・なんせ自分達が作ったもののほとんどが高額で即買い叩かれるのだ、なので交易は金などでは行えず難航したが、デシスエルフ達がそれを解決した。
デシスエルフ達は魔道具について土鉱人と同レベル、或いわそれ以上の知識を示した。それに土鉱人達は食いつき、デシスエルフ達の知識や共同作業を行わせること、デシスエルフたちが作った魔道具の解体・解析の権利と引き換えに交易を行える運びとなった。デシスエルフ達にとっても土鉱人との交流は非常に有益になるそうで、どちらも損をしない理想な交易を結ぶことに成功した。
それもこれも、我が主君の慧眼故なのだろう。ここまで見通していたとは恐れ入った・・・この身この魂、既に主君に忠誠と共に捧げているが、それに増して更に深く忠誠を誓ってしまった。
「ソウカイ殿のコダチ?・・・はどうだど?」
「・・・うむ。ましにはなった」
「ましには・・・一体なんなのだどな?」
「ワシにもわからん。されど、其方らにもこの違和感がわかるのだろう?」
「わかるど。その小太刀は何か伝えたがっているど」
そんな会話を交わす。
小太刀を引き抜き、じっと目を凝らす・・・刃の曇り、柄を握りこむと、えも知れぬ違和感が手を伝い、腕を伝い、そして肩を這う。
・・・このようなことは初めてであった。ワシの生体武器として生まれ出で幾年月苦楽を共にした小太刀が、なぜか自分の手に馴染まなくなってしまった。
本来なら此方にヨウキ嬢が来る筈であったが、土鉱人の存在を知り『声』が聞こえる彼らに小太刀を見て貰う為にここに来たが、何かを伝えたがっているとはいったいなんだ?
生体武器は鉱石でできたものではなく、土鉱人であっても声を完全に聞き取ることは漠然とした『何かを伝えたがっている』としかわからなかった。
「もう一度、『ゾォイ』に会うど?」
違和感を少しでも払拭させる為、ドォゥルダ殿の兄・・・ゾォイにこの刀を調整して貰った。
無口な土鉱人であるが、腕は確かで違和感を幾分かは払拭できた。
「そうさせていただこうか・・・誰だ?」
不意に気の流れを感じ、そちらに目を向ける。殺気を滲ませた気迫を気の流れが乱れた方向へ投げ掛けると、気配を隠すのをやめて地面に現れたのは忍蜘蛛を取りまとめるハンゾーだった。
「ソウカイ殿、火急の報せが・・・ユキ様もナーヴィ様も既に集まられております。急ぎご足労を」
「・・・わかった。ドォゥルダ殿、すまないが所用ができてしまった。また後日ゾォイ殿に小太刀を任せたく思います」
そう告げるとドォゥルダと別れる。ハンゾーが告げた火急の報せ・・・ハンゾーから発せられたその言葉からは何か大事が起きていると暗に告げている。
空に暗雲が立ち込める最中、小太刀の柄を一度強く握りしめ宿へと歩を進めた。
ハーピーの観察日記with鉱山
土鉱人の調査を開始。
物の『声』が聞こえる種族。
職人気質が多く、気難しい人が多いが一度心を許すと大らかな人柄。
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)