∴縺:招かれざる使者でした!
たくさんのブックマーク・評価ありがとうございます!!
平穏は訪れない、物語の歯車はゆっくり・・・されど着実に、動いていた。
side シロタエ
暗闇の最中、薄っすらと意識が表層に浮かび上がってくる。自分が何処にいるのか分からない程に混濁した意識、しかしどんどんとはっきりとしていくそれに合わせて今自分が柔らかなベッドの上に寝かされている事がわかった。
一体自分が何故こんな場所に寝かされているのかを考えようとした瞬間、体をジクジクとした痛みが覆っていることに気付いた。
「ッッッ!?」
少し身動ぎしただけで襲い来るその痛みにゆっくりと深呼吸をつく・・・少しばかり落ち着いてきた痛みにホッとしながら、未だに呪魔の副作用に苛まれている事に眉根を寄せる。
自分の力量が拙いばかりに情けないことね・・・こんな有様、主人様に見せるわけにはいかないわね。
片腕をあげると袖がずり下がり、そこに呪魔の副作用を抑える護符が何重にも巻かれていた。コトヒラが巻いてくれたであろうそれに、フゥと息を吐くとチラッと上に視線を向ける。
「ハルウ様を呼んで来て」
「ギョイニ」
天井に張り付いていた忍蜘蛛に命令すると、忍蜘蛛の気配が遠くに消えベッドに寝かされた私だけが残る。質の良いふかふかのベッドから察するにココは私達が泊まっていた宿ではない。自分の上に被さっている布団は非常に軽く、それでいて暖かい。
部屋に設えられた調度品も全て手の込んだつくりが施されており、一般的な人間たちが持っている家具と比べればそれは見事なものだろう。
すると、扉が音もなく開く。扉の奥から現れた姿に身を起こして礼の姿勢を取ろうとするが、片手を上げてそれを制止し、私を見下ろすようにベッドのそばに立つ。
「無事か?」
「はい。ご迷惑おかけしますハルウ様」
「主人の為を思い、その身を犠牲にしてまであれを打倒したんだ。誇っていい」
ハルウ様は私に労いの言葉を掛ける。恐らくあの場に私達がいなければハルウ様はたった一人でもあれを倒せた筈・・・それの足を引っ張ってしまったのが私達だ。不甲斐ない。
「あれは人間達で言うSランク相当の魔物・・・いや、『神獣』クラスも有り得るな。あれ程の重傷を負いながら俺達の攻撃をその身で防ぎ切り、あれだけの攻撃を行えたのだ。もしも奴が万全の状態であったなら俺と同等だったかもしれないな」
「それ程・・・ですか」
ハルウ様の話を聞く限り、私は三日間ほど眠っていたらしい。
あの後リヴァイアサンの素材はギルドと漁師達が総出で回収し、気を失った私はコトヒラに看病されながら、ギルド長の家に運び込まれたそうだ。
配下達やフゲン・コトヒラ達はその間、人間達の手伝いを行いながらリヴァイアサンがいなくなったことによる漁場の確認、残った魔物の掃討を行っていたらしい。
ハルウ様とモミジ様は人間達と最後の交渉や契約関連の簡単なやり取りを行っていて、今現在は報酬や今後の交易の話などを行っているのだそうだ。
ほとんど交渉自体は終わっており、残すは商人ギルドとの最終調整・・・そして私達ユルバーレとの私的な取引を行って私達の存在を少しづつ周知していく事に努めればいい。既にカナンでは成功を納め、次はこのメルデッサで問題ないだろう。
鉱山の方ではソウカイが向かっている事からも安心できる。
「ジェンとセイブ様はどうしていらっしゃいますか?」
「シロタエが起きる少し前に急用ができたと外に出たきり戻らないな。モミジはそれについていった」
・・・ハルウ様がそう告げると、少しだけ顔をしかめる。それについて散ったというだけでなぜそこまで顔をしかめるのかと疑問に抱く。
するとハルウ様はそんな私の表情に気付いたのか口を開く。
「モミジは場を読む事に非常に長けている。漂う気配を察知するのは俺達がアルジの従僕となる前から抜きん出ていたからな。あの時もモミジはアルジの事に気付き、まずいと俺達に伝えていた。今となっては気配だけでなく気の流れや魔力の匂い、空気の違いだけでほとんどの状況を察知できる。そんなモミジがあれらに付いていき、纏う気を戦闘時と変わらぬそれに変えたのがな・・・」
「つまり、この街で何かが起きる・・・と? リヴァイアサン絡みでしょうか? まさか漁港から魔物が」
「いや、それはないだろう。配下やフゲン達が海に潜んでいる魔物は大半蹴散らしている。そして、あれらが向かったのはメルデッサの通用門だ」
モミジ様が何かを察知した?
リヴァイアサンを倒して縄張りが解放されたことによって、魔物達の縄張り争いが活発化して人間の港に攻め込んでくる・・・その可能性もあった。私達のユガ大森林でさえヌシ一匹が倒れればその縄張りを求めて様々な魔物達が動き始める・・・それはこの海であっても例外はなく、それを防ぐ為にフゲンやコトヒラ達は海に出て『此処は人間の縄張りだ』と主張する為に領海に侵入した魔物達を一蹴している。
しかし、モミジ様が察知したものはそれではない?
モミジ様が感知した違和感・・・それは、ジェンと西武様が向かったこの町の通用門から感じ取ったのだという。
・・・ゾクリッと私の中を冷たい何かが走り抜ける。リヴァイアサンの時よりも恐ろしい何かが起ころうとしている予感・・・それが私の中を走り抜けた。
「・・・向かいましょう。私も嫌な予感が致します」
「待機してくれとのことだったがいいだろう。アルジから全権はシロタエに委譲されているからな」
ハルウ様の手を取ってベッドから起き上がる。身体中を走る痛みは歩ける程度にまでは回復している・・・戦闘は少しの間難しいが、このくらいならできる。
そして・・・今私が向かわなければならないそんな予感がする。
セイブ様の屋敷から外に出る。時刻は昼・・・陽射しが燦々と降り注ぎ私の身体を照らしだす。
いつも通りの街並み・・・私達が此処に来た頃から変わらないその街並み。町全体を覆う潮風と海の匂い、海に向かえば向かう程漂う魚の生臭さは匂いが濃ければ濃い程、露天に並ぶそれらの鮮度が良いとされている。
そしてその匂いが漂うことこそこの街の繁栄の証とされている。
そんな街中を漂う空気がピリピリとした何かを含んでいる。街の人間達がざわざわとざわつき、何事かを話し合っている・・・何かあったのは間違いない。
そしてそんな人間達が私の顔を見やると、何処か慌てた様に目を逸らす。
ハルウ様もその空気を感じ取ったのか、眉根を寄せながらキョロキョロと辺りを見回す。
通用門に向けて足を進め少し・・・ゾクリと寒気が走った。先ほど館の中で感じたそれと同じ寒気・・・そしてそれが断続的に私の体の中を駆け巡る。
通用門に近づく旅にそれはどんどんと強くなり、額から汗がツゥと伝う。
「・・・通用門に近づく度に、悪寒が強まります」
「・・・・・・俺もだ。脚が重いただ事ではないな」
通用門に近づくと、街の人々が駆け出すかの様に通用門に走り寄って行く。そして、通用門の前には多くの人だかりができていて、その人だかりの輪の中心からは人と人とが言い争っているかのような怒声が響き渡ってくる。
私とハルウ様は互いに視線を合わせて人だかりに駆け出した。周りにいた人間は私達の姿に気付くと、その道を開けて輪の中心へと誘う。
既にこの街では私達の名前は知れ渡っている・・・ギルドの職員として働いている私や配下達、片やAランク冒険者パーティーユルバーレとして街に溜まっていた依頼を片っ端から片付けていった為、街の住人達からは一定の信頼は得ている。
人垣が割れた先、そこには武装した数人の人間とジェンとセイブ様・・・そして、武装した人間に刃を向けられているモミジ様の姿だった。
「テメェら!! 幾ら・・・の人間だからって、こんなことが許されるわきゃねぇだろうが!!」
「その行い・・・さすがに、メルデッサのギルドを預かる者として見過ごせませんな」
刃を向けられたモミジ様を引っ張り、その前に二人は進み出る。武装した人間達はニヤニヤとした笑みを浮かべており、その目は侮蔑の色に染まっている。
ジェンとセイブ様の奥にいるモミジ様に視線を移すと、途端に怨みの篭った表情を浮かべ、刃を握った手に血管が浮かび上がる。
武装した人間の装備は傷跡が幾重にもつけられており、身体を覆っていた鎧は人間との争いでついたものとは考えにくい刀傷や矢傷ではなく、爪痕や噛み跡、炎に焼かれた跡などが目立っている。
そして、その武装した装備の一つ一つには盾と剣が交差した紋様が刻み込まれている・・・。
傷だらけの防具とは裏腹に綺麗に磨かれた鋭利な刃・・・黄金に輝く柄、長く伸びるロングソード独特の長い刀身、人であっても魔物であっても斬り伏せられてしまうその剣はただのそれではない。
刀身から漂うのは殺気・・・そして光が焼くような白く光り輝く『聖なる力』だった。ギラギラと輝くそれが武装した人間達の腰に下げられた剣全てから漂っている。
その力の本流がほんの少し肌を撫でた直後・・・今まで感じたことのない寒気が全身を覆った。全身から冷や汗が吹き出し警鐘が発せられ、本能があれには関わるな・・・あれは自分達の側にあってはいけないものだと叫んでいる。
「・・・」
ハルウ様の表情が険しくなる。先ほどまでそんな刃をモミジ様の鼻先に突き立てていた人間たちを睨むようにして視線を向け、ぐつぐつと煮えたぎるような殺気を内に秘める。
モミジ様があの武装した人間に何かした?
・・・いや、それはあり得ないだろう。モミジ様は例えアルジ様が貶されようとも微動だにしない・・・無論それは誰よりも忠誠心が厚い為に・・・だ。
主人様から伝えられた言葉は人間に危害は加えるな・・・友好的にあれという言葉。私達は主人様が貶され侮辱されればその人間をただじゃ済まさない。例え主人様の命令であってもそれだけはなんともし難い・・・けれど、ハルウ様方四人だけは違う。誰よりもアルジ様を慕い、誰よりもアルジ様を愛するが故に、アルジ様の命令は絶対遵守する。
憎悪と怒りと殺気を押し殺して、いつか内に秘めた牙を喉元に突き立てんと心に誓う事で、その怒りを鎮めることができる。まぁしかし、アルジ様を前にして侮辱されたのなら容赦はしないと思いますが。
そんなモミジ様が剣を向けられている理由がわからない。モミジ様は人間に対しても非常に温厚的で、剣を向けられるようなことは決してしない・・・そう言い切れる。
「ふん。あれが私に近づいたから剣を向けただけのことだろう。そう吠えるでない」
・・・・・・近づいた?
ただそれだけで剣を向けたというの?
ただそれだけであれほどの殺気を放ったというの?
「シロタエ。落ち着け・・・お前が取り乱してどうする」
「・・・・・・・・・申し訳ございません。ハルウ様」
一瞬体の痛みも忘れて魔力を練り込もうと殺気を放出しかけた私に、ハルウ様がそう告げた。こういった所がまだまだ足りていない・・・いつも冷静でなくては正常な判断を下せない。
今の私は主人様からユルバーレを託された身・・・私が取り乱してはいけない。
人ごみの中から一歩踏み出し、ハルウ様とともにその騒ぎの中心へと悠然と歩く。
そして口を開き告げる。
「何をしているのでしょうか?」
その言葉に全員が私の方へと注目する。
何時もと同じ様に心を落ち着け、私は一歩一歩前へ前へと歩みを進める。
「私の『配下』が何か粗相を致しましたか?」
「じょ、嬢ちゃん・・・おめぇさん、怪我は」
「シロタエ様・・・」
二人が心配そうに私を見つめてくるが、私はそれに少しばかりの罪悪感を抱きながらも目もくれず、奥に佇む武装した人間達の数歩前の辺りまで歩む。
近づいたことが気に障ったのならこのくらいの間合いがちょうどいいでしょう。
「粗相・・・そうだな。そこの臭くてたまらん魔族風情が私に近づいたのだ。だから剣を向けただけだ」
「そうですか・・・私は、冒険者ギルド職員兼、冒険者パーティーユルバーレの代表代理、『シロタエ』と申します。以後お見知り置きを」
そう口上を告げ、頭を下げる。ギルド長に対してあの様な態度を取り、今現在行っている会話の口調から察するに対面する剣を向けたこの男は人間で言う所の『貴族』ないし、何かしらの役職を持っている『高位』の存在である可能性が高い。
その場合はこちらが激昂しようものなら上手く絡め取られて利用されてしまう・・・先の商戦でそれは嫌という程味わった。
サテラにそういった存在との交渉の方法を簡単に教わったけど・・・人間とは本当に面倒くさく、そして腹立たしい。
そして男は口を開き告げた。
「私は聖都聖王軍『滅盾』所属、『ラーカ』と申す」
目前に立つ人間達は・・・魔族を忌み嫌い、この世界から滅ぼさんとする国からの使者だった。
ハーピーの観察日記
シロタエ様意識不明・・・ハーピー部隊で看病を開始。
人間達の交流会を実施。ハーピー輸送便のテスト。
ハーピー達と漁師の協力漁業をテスト。
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)