∴縺:リヴァイアサンの討伐でした!
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海竜討伐に向かうシロタエ一行・・・しかし。
慣れない潮風に身を晒し、潮の匂いが鼻腔を擽る。船から巻き上げられた錨は磨き上げられたばかりの綺麗な鉄の色をしている。
戦隊に刻まれたユルバーレの文字に目を這わせ、漁港に停泊する他の船よりも一回りも二周りも大きな船に、他の漁師達も作業の手を止めてあんぐりとそれを見上げていた。
たった数日で組み上げられたその船は戦闘用に造られた物であり、砲列甲板が二層に設けられ、そこから覗く砲門は鈍色の光を放っている。殆どは現地で調達した大砲であり、大砲を放つよりも自分達が手を下した方が早い。しかし、艦首に設けられた大砲だけは自分達で改造を施した『魔導砲』だ・・・もしもの為にと連れてきていたデシスエルフ三人に突貫の依頼を申し出て今朝方完成したそれは、予め用意した専用の砲弾に魔力を詰め入れる事で、途轍もない破壊力を秘めた砲弾を放つことができる。
用意できた砲弾はたったの一発・・・それでも、デシスエルフ達が保有する魔力全てが注ぎ込まれており、研究室には説明書と魔力欠乏によって倒れ伏したデシスエルフ達の姿があった。
船の建造は自分達と船の設計士達と協力して創り上げ、ガレオン船の様なそれはちょっとやそっとじゃ沈まない様にとモミジとシロタエが練り上げた防御魔法を纏っている。
船に乗るのはハルウ、モミジ、シロタエ、フゲン、コトヒラ、キクと数名の配下達だ。配下にはつい最近進化を果たした『剣刃犬』と『闘岩鬼』達だ。戦力として申し分はない・・・しかし、敵は自分達の手の届かない海中に潜んでおり、それを相手にするのは相当骨が折れる。
しかし、今回こそは失態を見せるわけにはいかない。
他の配下達には万が一の為に波止場の監視、ハーピー達は空中から常に海上・海中の観測、そしてシロタエ達はリヴァイアサンの討伐を第一に行う。
ついに決着をつける時が来た。
「準備は?」
「もう終わってる。後はリヴァイアサンを潰すだけだ・・・あの野郎、次は仕留めてやる」
「あはは、フゲン兄は気合が入っているね。まぁ、僕もリヴァイアサンには興味があるね、あれの中身がどうなっているかを一度見てみたいよ」
シロタエの言葉にフゲンは答える。フゲンから殺気が立ち上り、手に備えられた手甲がミシミシと音を立てる。
コトヒラは仏刀と読んでいるそれを引き抜いて、ニコッと微笑む。薄く開けられた目には不気味な光が灯っている。
リヴァイアサンの調査資料に目を通す。
現在の問題は相手が此方側を警戒して海中から出て来ないということだ・・・それを引き摺り出す算段はもうできている。
リヴァイアサンは血の匂いに非常に敏感で血の匂いを嗅ぎ付ける事で理性を失う・・・無論、理性を失う事によって引き起こされるステータスの上昇は脅威と言えるだろうが、この面子ならばそれをいなすことも可能だろう。
数十個の酒樽にはいった魚の血・・・海に血の匂いを漂わせるのならこれだけの量があれば十分だろう。
「それでは行きます。全員、リヴァイアサンとの戦闘に備え、作戦の確認を行う様に」
シロタエの号令に全員が頷き、船は潮騒を背に出航した。
そして・・・それを見つめるもう一つの影が、じっと船を見つめていた。
海が昏い青になったことを確認する。周りを見渡してみるものの、目印となるものは一つとしてない・・・しかし、ここがつい先日自分達が戦闘行った海域であることをハーピー達が知らせている。それを見つめて、私はハーピー達に向かって、軽く魔力の火を灯らせて彼女たちに確認したと意思表示する。
ハーピー達は習性で自分達がどちらを向いて飛んでいるのか、どれくらいの距離を飛んでいるかを殆ど誤差なく感覚で知る事ができる。
そして、そんな彼女達が空高く旋回を始めたのはここが先日戦った場所だと私達に知らせる合図、それに伴って配下達に船に積んだ酒樽の中身を海へと投じさせる。
辛うじて差し込む日差しで光っていた海上が、どす黒い血の色に染まっていく。深海の様に黒く染まっていく海にじっと目を凝らし、油断なく辺りを見渡して波の一つ一つに異常がないかを確認する。
集中力を研ぎ澄まして会場に漂う魔力の流れにも注視する・・・私達が戦ったあの日、ここいらの魔力は荒れに荒れたけれど、今はそんな事もなく魔力が波と同じように一定の方向へと流れている。
そして、どんどんと海に広がっていく赤に船に乗っている全員に緊張が走る。
「・・・来ないね」
「油断すんじゃねぇ。前みたいに下からってのもあり得る」
コトヒラの呟きにフゲンは海に視線を向ける。
数十秒経過する。既に海には青が現れており、血の色に染まっていた面影もなく、メルデッサに来てから幾度となく見たいつもと変わらぬ穏やかなそれが広がっている。
血が波に流されてリヴァイアサンの元まで辿り着かなかったか・・・はたまた、情報自体に間違いがあったのか。
「何も起こらぬな」
「な、なんだ、失敗か」
配下達がそんなことを口走る。しかし、海の中に自分達に向けられていない何かが・・・海上に漂う不気味な気を感じ取る。
静寂に包まれた海が今か今かと爆発を待っている・・・配下達の緊張が薄れかけたその時、艦首で佇んでいたハルウ様とモミジ様が動いた。
「来る」
「下だよね」
ハルウ様が艦首を蹴り、空へと飛び上がる。モミジ様は両手を交差させて船の外・・・海上へと手を掲げる。
ハルウ様は空中に対空したままフゲンとキク、コトヒラへと視線を交わす。
それを受け取った三人は即座に行動に出る・・・敵が下から来るのは想定内だ。
フゲンは一度深く呼吸を吐き、肺の中身を全て出し切ると同時に大気中に漂っている魔力を一気に吸い上げる。
キクはフゲンの横に立ち、同じ様に一度深呼吸をして体内に魔力を巡らせた。
「それじゃ行くよ・・・身体強化一ノ型、『スキル:轟纏』」
コトヒラが床に仏刀を突き立てると、フゲンとキクの二人の下に魔法陣のようなものが刻み込まれて紋様から高密度の魔力が溢れ出る。
それが二人の腕に絡みつき、刺青のような魔力紋を施すと、フゲンとキクは共に船の右方に向かい、何もない空中を思いっきり殴りつける。無論、空中を殴りつけるだけで此方に向かってくる何かに有効的な攻撃を繰り出す事はできない。
ただ、振り切った瞬間、猛烈な風が二人を中心に吹き荒れ船が横方向へと吹き飛ばされた。そのままでは船が海に没してしまう・・・しかし、モミジ様の掲げられた手から巨大な魔法陣が形成されるとそれが船全体を包み込み、吹き飛ぶ船の速度を完全に押し殺しそのまま海上にゆっくりと着水する。
目標を失った海中にいる何かは海上の直ぐそこまで来ており、少しでもタイミングがずれていたならそれの突き上げにいくら防御魔法をかけている船であっても一撃で大破していた筈だ。
突如として視界から消えた船に、しかしリヴァイアサンは止まることなく海上へと飛び出た。
船はそこにない・・・けれど、そこにはハルウ様がいる。
重力に引かれて落ち始めたハルウの眼前にリヴァイアサンが迫る。目を血走らせ、理性を失ったリヴァイアサンはそのまま空中で舞い踊るハルウへと襲い掛かる。
「早くアルジの元へ帰りたいんだ。眠れ」
片手が獣のそれと化し、ハルウは空中で回転して勢いを付ける。バチバチッと帯電した腕が唸りを上げ、巨大なリヴァイアサンへと襲い掛かった。
巨大な体がビクッと跳ねると同時、青白い雷がリヴァイアサンの巨体を包み込み、ハルウを中心に広範囲に渡って稲光が空中を暴れまわりその稲光はまるで鋭利な剣の様にリヴァイアサンを刺し貫いていく。硬質な雨露を物ともせずにその間をすり抜け体内へ入り込み穿っていく雷は壮絶な激痛を齎らし、リヴァイアサンの絶叫が広い海にこだまする。
雷がおさまると、大気中に雷の残滓と柱の様に空に立ち昇ったリヴァイアサンを残して、ハルウが海上へと降り立った。
鱗の隙間から蒸気を発し、血飛沫を出しながら鱗の間を鮮血がダラダラと流れ落ちていく・・・あのハルウ様の一撃を受けてもまだリヴァイアサンの瞳からは闘志の色は消えなかった。満身創痍な姿で尚、その瞳はギラギラと輝き海上に降り立つハルウへと向けられている。
しかし、ハルウがその視界から消えた瞬間、リヴァイアサンの目には陽光を反射させる何かが写り込む。遠くにあるそれは一直線に自分へと向けられており、その傍らには艦首に立つ片腕を上げたシロタエの姿。
陽光を反射させるそれはとてつもない魔力の塊を内包している・・・長い年月の間慣れ親しんだ海の魔力の上に、自分を喰らおうと今か今かと魔力を涎の様に垂れ流す砲身が自分へと向けられていた。
リヴァイアサンの体はとうに動かない。ハルウの与えたダメージはそれだけでリヴァイアサンの致命傷にまで至っている。それに加えてあれを打ち込まれようものなら、さすがのリヴァイアサンでも凌ぎ切れるわけがない。
そして、シロタエのあげられた手が降ろされた直後、視界を焼く閃光と共に海を真っ二つに割ろうかというほどの威力を持ってそれは射出された。
瞬き一つのうちにそれはリヴァイアサンの胴体に突き刺さり、リヴァイアサンの鱗を捩じ斬りながら巨大な身体に風穴を形成する。中身を抉り取りながらリヴァイアサンを突き抜け、遥か遠くの水平線にまで砲弾は貫通し放たれたのだ。
リヴァイアサンの体はついに傾き、バシャンと大きな水柱を上げながら海中へと没していった。身体から流れ出る血が海に広がり、その場所には巨大な渦潮が形成されリヴァイアサンは海底深くまで沈んでいった。
「お疲れ様です、ハルウ様」
海水を蹴り、ハルウ様が船へと戻ってくる。
ハルウ様は首をコキコキと鳴らして、つまらなそうにリヴァイアサンのいた方向へ向き直った。
そこにはリヴァイアサンの撒き散らした血の海が広がっており、鉄錆の匂いを辺りに撒き散らしていた。
「お疲れ様です、ハルウ様」
「あれで終わりだ。手応えはあった・・・後はアルジに」
そこまで言いかけて、ハルウ様がピタッと止まる。人の姿をしていたハルウ様は狼の姿に戻り、リヴァイアサンが沈んだ場所へと耳をそばだたせる。
モミジ様もハルウ様の横へと移動して、じっとその場所へと視線を向ける。その表情は真剣そのものであり、じっと一点を見つめる瞳からはまだ戦闘が終わっていないかの様なそんな気配が滲み出ていた。
ゴポッとリヴァイアサンが沈んだあたりから巨大な血の泡が浮き上がり破裂した。それがただの体内に溜まっていたガスだというのならそこまで警戒する必要もない・・・・・・しかし、その泡が破裂した瞬間、泡の中から濃密な魔力の波動が吹き出した。
「まだ終わっていないのですね」
「・・・油断するな。あれは強い、全員俺の後に続け」
「「「「・・・」」」」
ハルウ様がはっきりと『強い』と告げる。ハルウ様達は私達の対処に負えない何かと対峙した時にしか前に出ない・・・基本は私達の後ろから戦闘を見つめ、私達に指導を施す側の方達だ。そんなハルウ様が俺の後ろに続けと言った・・・それはリヴァイアサンが私達の手に負えない何かに変貌したという事。
首筋から伝う汗と早鐘を打つ心臓に、海中に潜む何かに本能的に恐怖していることがわかる。
ピィィィィィィィィィィィ!!!!!!
ハーピーに持たせた笛の音が轟く。血の色をした泡がボコボコと海上に現れそれが山の様に膨れ上がる。泡がはじけるたびに魔力が吹き荒れ、主人様が気に入ってくれた黒く長い髪が魔力の風に宙に乱れ舞う。
一つの泡が弾ける。山のように盛り上がった泡の集合体、そのうちの一つの泡がはじけた瞬間、そこからは深紅の色を宿した鱗が現れる。同じ深紅の海水が鱗を伝い落ち、連なったもう一枚の鱗へと滴が滴り落ちる・・・しかし、その滴が再び深紅の鱗を伝うことはなく一瞬にして蒸発する。
海上からは湯気が昇り、膨れ上がった泡の周辺からはボコボコと音を立てて海水が沸騰する。
バンッッッッ!!
そして、それは突如として訪れた。一斉に泡が弾け飛び、その中からは深紅の色に身を包んだ海竜が現れた。瞳は金色の色に輝き、闇を一身に蓄えた漆黒の結膜、ギラリと輝く牙にどす黒い魔力の奔流を放つそれは、先程まで私達の一方的な攻撃を受けて死んでいったものとは思えない。
紅く染まった海竜が現れた。
体を取り巻く魔力の粒子が海竜を取り巻き、身体の下半分はまだ青い鱗に覆われてはいるものの、それは徐々に徐々に赤く染まっていっている。
間違いなくこれは・・・『進化』だ。
あれは、恐らく私達が知っている『リヴァイアサン』ではもうない。
此方を真っ直ぐ捉えた瞳、一瞬金色の瞳が細くなった直後、それは恐ろしい速度で海上を『駆けた』。泳いだなんてものではなかった・・・目にも留まらぬ速度で、殺気を隠そうともせずに殺意と憎悪を持って此方の船を沈めんと、そこから巨体をうねらせ海を縦に引き裂きながら迫り来る。
「全員、ハルウ様の援護に当たりなさい!!!」
モミジ様は船の前方に多重の防御魔法陣を築き上げ、フゲンとキクはその身体に纏う魔力がどんどんと体内に取り込まれて行きエクストラスキルの準備に入っている。
私はモミジ様に合わせて船全体を覆い尽くす結界を張る・・・妖力を限界まで練りこんで張ったそれだけど、あの海竜相手にどれだけ持つかは未知数だ。
ハルウ様はそんな海竜を前にしても微動だにしない。人型に戻ったハルウ様は所々が狼の様相を残しており、臀部から生えた尻尾、体のいたるところに生えた蒼い毛並み、顔に走った紫色と蒼色の線がハルウ様の内包する魔力に合わせて光り輝く。その姿はハルウ様が本気で敵対するときの形態でありまだ主人様にも見せていない。
『ワーウルフ』のそれに似た姿ではあるが、バチンバチンッと音を立てて体毛に闇色と青色に爆ぜる雷が走るそれはワーウルフとは違う。
そして、ハルウ様がその腕を前に突き出して膨大な魔力を練り上げる。海竜に負けじと込められた魔力は手のひらに蒼と紫が混ざり合った雷の球体を生み出した。地獄の雷の様なそれは周囲に残滓を撒き散らし、残滓が降り注いだ周辺は雷の魚が暴れ回る。
「エクストラスキル:『獄雷』」
海竜に打ち出された雷の弾丸は、目にも映らぬ速さで此方へと迫るそれに激突した。海水を天高くまで打ち上げ、紅い鮮血が此方にまで飛びかかってくる。
爆風だけだというのに結界はミシミシと音を立て、練り込んだ魔力が爆風で押し流されていき、結界に魔力を注義直そうと手を組みなおす・・・その瞬間、爆風の中から血にまみれた海竜が未だ此方に向かって猛進を続けていた。
速度は落ちることなくむしろ早くなっていて、身体に纏う魔力も先ほどよりも増してしまっている・・・どういうことだと驚愕する。
「ッッッ何故!」
そう問いかけて、海竜の姿を見てハッと気づく・・・まさか、自分の血液で『狂乱』を発動しているの?
そうだとすれば、次の一撃で止めなければ間違いなく船は大破する。
船を動かして一度町に避難をすれば・・・・。
「霧・・・ハーピー達と連絡が取れない」
海竜の発する熱が海上に霧を生み出し空を覆い尽くしていてハーピー達の姿が見えず、町までの方角がわからない。
つまり、一戦交えてこの海竜をもう一度くだすしかない。
「コトヒラ、貴方は私とキク、フゲンに全ての力を注ぎ込みなさい。それとキク、フゲン二人は全力を持って海竜を押し返しなさい。私も全力を出すわ・・・それができなければ、私達に勝機はないわ」
「わかったよ」
「おうよ」
「ん」
コトヒラは船の床板にガリガリと削りながら紋様を描き、その中心に佇むと仏刀の刀身を一度撫でる。すると刀がそれに呼応するかの様に振動し始めると、刀身から光輝く文字が無数に浮き上がり紋様へと配列されていく。大小様々な文字は紋様に綺麗に並べられて行き、最後の一文字が刻まれた直後紋様から魔力が吹き荒れる。
それを見たコトヒラは仏刀を空中に放り投げる・・・立ち上った魔力が仏刀へと吸い込まれ、全てを吸いきった仏刀はコトヒラの上でピタリと静止し滞空する。
「エクストラスキル:『呪妖:靭練御霊乃陣』」
コトヒラがそう唱えた直後、滞空していた仏刀が落下し紋様の中心へと突き刺さる。
仏刀から濁流のごとく溢れ出た膨大な魔力が私とフゲン、キクの体を包み込む。身体の奥底から湧き上がる魔力と力の本流に額に伸びる双角がビキビキと長く硬くなっていく、牙が魔物のそれの様に尖り、目が充血し黒く染まっていく。
指をピンと天空へ掲げると、爪の先から球体が浮かび上がりそれは船全体を覆う程の大きさへと変貌する。純粋な破壊の魔力を込められたそれは周囲の大気を飲み込みながらドクンドクンと心臓の鼓動に合わせて脈打つ、ドロリとした怨念の様な闇色の魔力が込められたそれから発せられる力は外に逃れようともがき、それを抑えあげるシロタエの額から汗が伝う。
抑えている間にもどんどんと窮地アニマ力が集まって行き、球体はどんどんと巨大に膨れ上がっていく。
そして、限界を迎えた時、シロタエが指を海竜へと向けた。
「高位妖術:『掻き毟る紅鬼之邪爪』」
指先から解き放たれると、球場にとどまっていたそれに亀裂が入り・・・弾ける。そこからドス黒い魔力が指を向けた方角へと一直線に発射される。まるで巨大な爪が周囲を乱雑に書き蒸しているかのように空間を切り刻み、海をも掻き毟りながら海竜へと直撃する。
海竜の鱗は掻き毟られ、切り落とされ、身体中に傷跡を残しながら鮮血を迸らせる。闇色の邪爪は尚も海竜の体を桐木編み続け、鱗を剥ぎ取り中の皮膚を抉り取り骨にまで浸潤すれど、その痛みを物ともせずに海竜は突進を止めようとしない。
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!
海竜が咆哮をあげると爪は振り払われ、ますますスピードが増した。いったい何処からその力が湧いて出てきているのか・・・無尽蔵の体力を持つ海竜に、次は二人が対峙する。
「いくぞ」
「ん、わかった」
キクとフゲン、二人が静かに腰を下ろし、右手と左手を引いた。不思議なことに、琴平から受け渡された魔力が一切二人からは漏れておらず、しかし身体の内側には信じられないほどの魔力が渦巻いていることがわかる。
二人のうちを渦巻く魔力が一瞬波打つとその全てが右手と左手へと集約されていく、二人の呼吸に合わせて行われるそれは里で何度も何度も訓練していた『気』の操作なのだろう。
気の練り込みが最大限にまで高まると、二人は一歩を踏み出した。それだけ船の上に衝撃波が広がり船が上下に揺れる・・・二人の身体からは今だに一切の魔力が漏れ出していないが、その内側に目を向けてやればそれは嵐の前の静けさであり、もう爆発寸前であることがわかる。
そして、海竜が船へと突進する。その距離は最早目と鼻の先、あと数瞬の内に海竜はこの船へと激突する。
海竜が船首へと激突する瞬間、二人の姿が光の中に消えた。
「エクストラスキル:『殲衝鬼鐡撃』」
「エクストラスキル:『神衝號儚爪』」
二人から放たれたそれは閃光となり海竜に激突する。振り抜いた腕が海竜に激突し、海竜と拳との間に衝撃の迫り合いが展開される。海竜の巨体が小さな二人のたったの一撃で止められ、バキバキと音を立てながら海を縦に割っていく。
爆風が轟々と吹き荒れ、衝撃波に立っていることすらままならなくなる。
「チッ・・・こいつ!?」
「・・・んっ!?」
船が押し流されていく。海竜の体が徐々に船を押し、キクとフゲンの腕が押されて曲がってしまい力が徐々に弱まっていく。魔力の限界も近づき、海竜の力は衰えることなく二人を食らわんと襲い掛かる。
ミシミシと軋みをあげる船体にモミジ様が防御魔法を重ねがけする・・・しかし、海竜の衝撃は船体を蝕、限界を迎えた船がバキッと音を立てる。
「散れ!!」
ハルウ様のその声に全員船から海へと飛び移る。なけなしの魔力を振り絞り会場に氷の足場を形成してそこへと着地する。
海竜が船体に激突した直後船はバラバラに砕け散り、中にあった砲弾が一斉に爆発する。しかし、それだけで海竜には傷一つつけることはできず、海竜は船をバラバラに砕くと方向を変え少し進んだ先で静止する。此方を横切る時に向けられた殺気のこもった視線にゾクリと体の奥底から恐怖が湧き上がる・・・けれど、その程度の恐怖で堕ちるほど私は落ちぶれていない。
海竜の体は傷がない部分は一つもなく、大砲によって穿たれた穴もまだあった。海竜は満身創痍であり、あと一押しで倒せそうだ・・・とはいえ、此方も魔力は尽きかけており、あれに有効な魔法を放つことは難しい。
「ハルウ様・・・如何しましょう?」
「海竜もあの姿だ・・・有効な一撃さえ叩き込めればいいが、俺の『ユニークスキル』はお前達が近くにいる時点で行うのは不可能だ。さっきので魔力も大半を失っている」
「・・・」
あれに有効な一撃を与えるのはもう魔法しかない・・・この足場ではキクとフゲン、ハルウ様の力を出し切ることは不可能。私とモミジ様、コトヒラもほとんど魔力が尽きかけている状況であれに何か一撃を加えることは・・・。
海竜が此方へと向き直る。そして・・・
「・・・まさか、そうきますか」
海竜が開いた口腔の中、とてつもない魔力が渦巻いている。蒼白く輝く炎の様な魔力の揺らめきが口腔内に球体状に渦巻き、それは竜種であれば誰もが持っている必殺の一撃だ。
「ブレス・・・か。シロタエ、もっと下に氷を貼ることは可能か?」
「今の魔力では不可能です。ハルウ様の一撃に耐えうる足場を形成するのはモミジ様と協力しても・・・」
「・・・手段を選んでいる時間はないか。モミジ・シロタエ防御魔法を最大出力でかけろ。恐らくそれでも耐えられんとは思うが・・・ユニークスキルを使う」
・・・それしか方法無さそうですね。恐らくハルウ様のユニークスキルを使えば、私達とてただでは済まない、けれどあの海流に全員やられるくらいならば、ハルウ様を残して私達が犠牲になる方がまだマシだろう。
主人様はお怒りになられるだろうけど、それも仕方ない。
海竜のブレスが吐き出される直後、ハルウ様が口を開く・・・そして
汽笛の音が鳴り響いた。
ハーピーのメルデッサ観光日記
刺身に味をしめたハーピーたちで観光を開始。
商店区の人達からお土産をいただきました。
ハーピー達でささやかななお礼を企画中。
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)