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∴縺:港街メルデッサでした!

たくさんのブックマークありがとうございます!!


※ハーピーの観察(報告)日記の時系列・内容を一部変更致しました。


時は遡り少し前、メルデッサの港街にて魔物の討伐に派遣されたシロタエ達の一幕です。

 side ユルバーレ副長:シロタエ


 時は少し前に戻る。

 ギシリと軋みをあげる床、決して高級とは言えない宿の一室で、粗末な机の上に書類を広げてペンを走らせる魔族が一人いた。

 いや、ペンが走っていたのは途中までであり、今は机をトントンとペン先で叩くばかりでいる。書類とジッと睨み合いをすること十数分、そこに書かれた内容に頭を悩ませ、どうしたものかと様々な策を講じていくがその何れもが有効となり得ない。経験が少なすぎるのだ。


 夜の闇を吸収した様な美しい黒髪が紙の上にパサリと落ち、それを払い除ける仕草は女性らしさを感じさせ、もしも男がこの場にいたのであれば間違いなくドキッと心臓が高鳴っているだろう。


 真っ赤な瞳が虚空を泳ぎ、一度瞼を最後まで閉じる。


「ふぅ」


 小さく溜め息を吐き、眉間に寄っていた皺を揉み解す。正直に言えばここ数日で疲れがピークに達しているが、今はそんなことをいっている暇ではない。

 契約の履行が行えない現状に危機感を抱き、この書類に書かれた内容をどうにかするまで安心して夜も眠れないでいるのだ。


 常人離れした美貌を持つ彼女をそこまで悩ませるものとはなんなのか、その書類には何枚にも渡って事細かにある事柄についての詳細がびっしりと書き連ねられている。

 それは、港町メルデッサを長年に渡って蝕み続けたそれであり、海中と海上を脅かす多数の魔物の報告書だった。


 メルデッサは昔から漁業が盛んな港町であり、周辺諸国の港町に比べても漁獲量はトップクラスであった。

 しかし、5年程前から漁獲量が減少し始め、それを不振に思った漁師達が確認に行ったところ・・・5隻合った船は1隻しか戻らず、それもまたボロボロで今にも沈没しそうなものであったと言う。


 辛うじて生き残った船員が見たのは多数の魔物の群れ、それが魚を食い荒らしており、それに気付いた漁師達は直ぐ様引き返そうと船を転進させたが時既に遅く、魚だけでは食い足りなかった魔物達は漁師達に牙を剥いた。


 それからと言うもの魔物に怯えながら漁をすることを強いられ、漁獲量トップクラスだった港町は今ではワーストにまで落ち込んでしまった。

 そして、決定的なことがつい最近になって起こってしまったのだ・・・そう、魔物達が縄張りを広げ始めたのだ。

 奇跡的に漁師達に被害はでなかったが、漁場を奪われては漁師達の仕事がなくなってしまう。


 そんな時に現れたのが商人ギルド『カッツァ』であり、彼らは自分の漁場を分け与えることを約束し、取り敢えずの仕事を分け与えたのだ・・・しかし、その漁場と言うのは元は別の港町の漁場であり、漁師達は余所者として嫌われており肩身の狭い思いをして仕事を行っていたのだ。


 そして、もう1つの契約だった魔物の討伐は、当然あんな口先だけの連中に履行できる訳もなく、先延ばしに先延ばしを重ねて遂には魔物の討伐を諦めて隣の港町と併合しようとしてしまった。

 それが不況を買って私達・・・オースエルの傘下になった一番の要因だったわけだ。


 カッツァは魔物の討伐は冒険者に任せればいいと考えていたが、その目論みは甘過ぎるとしか言いようがない。

 人は陸の上では脅威であるが、海上に出れば単なる餌でしかない。BやAランク相当の実力者であればなんとか討伐できるかもしれないが、それは魔物が少数だった場合の話だ。


 水の中を自由自在に泳ぎ回る魔物達にとって海と言う場所は最高の環境だ。それに対し、人は水の中ではまともに身体も動かせず力も振るえず、船の上で歯噛みすることしか出来ない者達だ。

 魔物が少数でそれであれば縄張りを持っており、漁場が狭められる程の勢力の魔物達をどうこう出来る筈がない。


 そして、そんなことを当然知っている冒険者達はそんな依頼を受ける筈もなく、カッツァの連中は受けない冒険者達は腰抜けだなんだとのたまうことしか出来ないでいた。


 そして、今度は此方の出番と1度交戦を交えたが・・・想像以上に敵は厄介だった。


『縄張り』を持っている魔物共の群れともなれば、そこには必然的に『ヌシ』の存在がある。漁師達の話を聞いた限りでは、5年前までは魔物こそいたものの群れと言うほどではなかったらしい。

 しかし、今となっては統率のとれた一個の群れであり、漁場を荒らしながらどんどんと人間達に近付いている。


 シロタエ達を乗せた船は計6つ・・・そこから三つに分けて左右真ん中と別れて進行を開始して直ぐ様魔物との交戦に入った。

 筆頭はハルウ、モミジ、シロタエ、フゲン、コトヒラ、キクの六人・・・過剰戦力ともとれるそれである。実際、海中から多数の魔物達が襲い掛かってきたが最初の手合いでそれら全てを凪ぎ払い、襲い掛かってこずに海中に潜んでいた魔物は、ハルウが海上を駆け回り海水ごと空に抉り上げて力任せかに粉砕していった。


 上空から報告書を作成していたハーピーによれば、魔物の数は大凡100匹近く目視されており、その9割の撃滅に成功した。

 ・・・しかし、異変は直ぐ様訪れた。残っていた数少ない魔物達は一様に海中深くに潜り、不気味なまでの静けさに包まれたのだ。


 そして、ハーピー達から齎されたの危険を知らせる笛の音。声が届かないほど上空に飛んでいたハーピータチに持たせていた笛は三つ、撃滅が完了した時の笛、大型の魔物を確認した時の笛・・・そして、危険を知らせる笛の三つだ。


 轟いた笛の根にすぐさま船を転進させようと指示を飛ばしたが時は既に遅かった・・・フゲンの乗っていた船が下から突き上げられる様にして大空を舞ったのだ。空中でバラバラにされた船に乗っていた配下を含めた乗員達はそのまま空に投げ出されて落下し始めた。


 船を大空に突き上げたのは青い鱗を身体中に纏った巨大な竜・・・長い身体を一本の剣の様に大空へと伸ばし、赤い瞳をぎょろりとこちらに向けたその姿はまさに魔物の王と呼ばれる威厳と風格を兼ね備えた存在であった。

 ギラリと輝く銀色の牙、金色の髭が空にたなびき、青い鱗はまるで鋼の鎧化のごとく陽光を反射させ会場にその煌めきを落としていく。空へ羽ばたく程の巨大な羽ではないが、巨大な水かきを担うであろう羽が長い身体に等間隔に連なっており、海中の中であればこの魔物は恐ろしいまでのスピードで泳ぎ回れるであろう。


 その存在に対してのシロタエ達の対処は迅速だった。大空に吹き飛ばされた船から投げ出された乗員達の回収に動いたのだ。

 シロタエは自身と仲間達が乗員する船の周りの海上を一部氷漬けにし足場を形成すると、船から踊り出て氷を足場に大空へと駆ける。


 風の魔法を利用して回収しきれない乗員達を他の船まで弾き飛ばして、配下の者達へと投げ渡した。


 ハルウ達もそのシロタエの意図に気付いて乗員達を救助し、船へと戻っていく。


 だが、フゲンだけは大空に投げ出されながらも竜を睨みつけ、技の準備へと入っていた。


「・・・相手の竜に一撃を加えさせ傷を負わせることには成功したのね。でも、そのせいで相手は此方に対して警戒してしまったわ」


 フゲンの放った一撃は竜の硬質な鱗を粉砕してその奥にある身体へと強烈な一撃を叩き込んだ。鮮血が海上に降り注ぎ、くの字に折れ曲がった竜の身体は海中にあるというのに押し流され、咆哮をあげながらそのまま海中へと姿を消した。


 怪我人はコトヒラに任せ退却した。


 ハーピー達からの報告によればその大きさは空にあるというのにはっきりと確認できてしまうほどに巨大であり、突然海中に現れた巨大な影に笛の対処が遅くなったのが原因だった。


 配下達は数名が負傷、その船の所有者であり乗員であった人間達は命に別状こそないものの重傷者が出てしまった。コトヒラによって怪我は治ったが、シロタエ達には不信感が募っただろう・・・シロタエはそう考えどうにかあの魔物に対処する方法を模索していた。


 現地調査によるとあの魔物は間違いなくヌシであることがわかった。400年程前に現れたとされる伝説の魔物『海竜』と報告書にあるその容姿が酷似していた。

 海竜は漁場の魚を食い荒らし、自分の縄張りへ侵入した人間たちを無差別に襲ったとされその被害は、たった一匹で数百名の被害者が出たらしい。

 しかし、その時は高名な冒険者が名乗りを上げ、多くの冒険者と共に海竜『撃退』することに成功した。海竜は大怪我を負い、遠くの海域に姿を消したとされている。


 ・・・恐らく、傷が癒えた事をきっかけにその報復に訪れただろう。多くの人間達にやられたことによる仕返しとばかりに魔物を引き連れ、無差別な攻撃を行わず計画的な行動を行っているようにも見える。

 その名を


「海竜:リヴァイアサン・・・厄介な相手ね。あれから何度か私を含めて海に出ているのに姿を現そうとしない。私の魔法では海中に潜って戦うことはできない。ユキ様と私ならどうにかなるかもしれないけれど・・・」


 報告書を纏め上げた後は、もう一枚の紙を取り出して今後の魔物討伐の計画書を書き上げる。当初は文字を書くことすらも出来なかったが、ユリィタに教えられたおかげで今ではスラスラと文字を書くことができる。


 すると、トントンと扉が叩かれる音がする。

 シロタエはいったん手を止めてドアへと視線を向ける。扉の叩き方や位置からして、配下の者やハルウやフゲン達でないことはわかった。


「『セイブ』でございますシロタエ様」

「あぁ・・・『ジェン』だ嬢ちゃん」

「入っていいわ」


 筆を置いて椅子に座ったままドアの方へと体を向ける。ドアががちゃりと音を立てて開き、そこから綺麗なタキシードに身を包んだ白髪の老人と漁師服と呼ばれる衣服に身を包まれた巨漢の男が現れる。

 巨漢の男は扉を屈んでくぐり、一見すれば執事にしか見えないその容姿をした老人がしっかりとした足取りで部屋へと入った。

 漁師服の巨漢・・・『ジェン』はこの街の漁師達を纏める漁場の長だ。魔物たちへの縄張りまでの船や乗員の手配を行なった者だ。

 そして白髪の老人・・・『セイブ』は一見すれば執事にしか見えないその容姿ではあるが、この者は一介の執事ではなない。メルデッサのギルドを纏め上げるギルド長であり、大昔海竜を討伐したとされる冒険者の子孫だ。今となっては老いて全盛期の力を振るえはしないが、その佇まいは未だ現役のそれを感じさせる風格が漂っている。


「何か用なの?」

「ほっほ、あまり無茶をなさいませぬようにと、休憩にお誘いした次第で」

「あぁ、俺達の為にやってくれてるってのはわかるけどよ・・・その、なんだ、ちょっと一息つかねぇか?」

「申し訳ないけれどお断りさせていただくわ。まだあれを討伐する算段を立てれていないの。それと、私達は貴方達のためではなく契約を履行する為に力を振るっているだけです」


 シロタエはジロリと二人を見つめると、そう言って一蹴する。取りつく島もないとジェンは頭をガシガシと掻き、セイブはホッホと笑う。


「無理したっていい作戦も立てれねぇだろ? その様子だと・・・ここ数日碌に寝てねぇんだろ? あんたらんところの配下も誘って近くの酒場で飲まねぇか?」

「お心遣いは感謝いたしますが、まだ仕事が残っていますので」


 そう告げるとシロタエは机に向かい直し、書類に筆を走らせていく。

 ジェンは打つ手なしとばかりにセイブの顔を覗き込んで、どうにかしろと睨みつける。セイブは余裕の笑みを浮かべてコクリと頷いた。


「ほっほ、今の其方の姿を見れば、主人様とやらはどう思うのかのう?」


 ピタリとシロタエの筆が止まる。セイブは綺麗に整えられたひげを右手でさすりながら、シロタエの表情を伺う。

 セイブはカナンのギルドからこのシロタエ達の情報をしっかりと仕入れている。シロタエたちが何を一番優先に考えるかや何を持って事をなすのか等も全て分かっている。


 全ては彼女ら原動力でもある『主人様』の存在だ。

 ユリィタ曰く、それに絡めれば大抵は言うことを聞くとのことだが


「・・・しかし、これをしなければ、私達は不興を買い」

「んなわけねぇだろう。他の漁師の奴らも全員お前らに感謝こそすれ、恨んだりすることなんかねぇよ」


 シロタエはジェンの顔をちらりと伺う。ジェンはそのシロタエの顔を見てバツの悪そうな顔を浮かべる・・・まあ、それも仕方ない。

 そう彼女が考えるのは自分たちのせいなのだから。初めてシロタエ達がこの街を訪れた時、魔族という事だけで漁師達は彼等を避け、魔物の縄張りへの船の手配も猛反対していたのだ。


 それはそうだろう。漁師達は唯でさえ先の商人ギルドに裏切られたも同然だというのに、次に契約を施したギルドが送ってきたのは人間ではなく魔族・・・そんな者達を全面的に信用しろと言う方が無理な事だ。


 しかし、そんな漁師達もシロタエ達の働きに次第に心を動かされたのだ。

 なるべくメルデッサの港に被害がいかないようにと綿密に何度も話し合いを行い、討伐に向かうまでは各々の魔族達が漁師達の船に護衛として乗り込み、漁場の空には絶えずハーピー達の姿が伺えた。

 そこまでしているシロタエ達を一方的に忌避することなど出来ず、魔物達の縄張りまで船を手配することを了承し、そこまで向かった。


 結果は大半の魔物たちを倒すことはできたものの、ヌシは討伐できなかったということで、船も一隻壊されてしまい乗員にも怪我人が出た。


 ・・・ただ、シロタエ達は乗員の命を最優先に考え、怪我人の治療を即座に行い、船の弁償も申し出たのだ。その後は我々の船を借りるだけに留め人間は乗せずに自分達だけで縄張りに向かうようにした。

 そんな真摯な態度を見て、漁師達が考えを改めない方がおかしい。


「俺達はあんたらに感謝してる。だからこそ、そのリーダーであるあんた無理はさせたくねぇんだよ」

「・・・・・・」


 シロタエは何かを考え込んだ様子であったが、1度目を伏せてふるふると首を振った。


「それでも、私達は契約の履行を優先します。もう主人に迷惑をかけれない・・・私達だけでできるようにしないと、主人がいつまでたっても楽になれないの」

「な、なら、俺達に何かできることはないか? 俺達漁師は全員お前らに協力するぞ」

「ふむ。我々メルデッサの冒険者もできうる限りの支援をさせていただこう」

「いいえ、貴方達人間の手は借りないわ。あの魔物は人間にとっては相性が悪すぎる。海の中では人はあまりにも無力過ぎる。貴方達は私達に任せていればいい」


 そんなシロタエの言葉に二人は顔を見合わせて大きくため息をつく。確かに人間が幾らシロタエ達に協力を訴えかけても海の上の戦闘では足手纏いにしかならないだろう。

 それに先の戦闘をこの目で見たジェンはシロタエ達が並外れた力を持っている事も知っている。海上を走るあのハルウとかいう魔族に関しては漁師全員で呆然としたものだ。このシロタエにしても、海にどでかい穴を開ける程の魔法で魔物どもを討伐していて、フゲンと言われていたあの男に関してはあの海竜に怪我を負わせた・・・全部俺達人間ではできないことだ。


 ジェンとセイブは仕方がないと顔を見合わせ部屋を出ようとする。


「ありがとう」


 小さく・・・本当に小さく消え入りそうな声で、シロタエがそう呟いた。二人が扉を締め切るほんの一瞬のタイミングで呟かれたその言葉はしっかりと二人の耳に入っていた。


「「・・・・・・」」


 二人は部屋の前で無言で視線を交わし、目で言葉を交わすと・・・コクリと頷いたのだった。

ハーピーのメルデッサ報告日記

船の修理費の見積もりを行いました。

引き続きリヴァイアサンの調査を行います。

漁師の方から舟盛りをいただきました。


宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!

遠慮なくこの物語を評価して下さい!!


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。

(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)

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