∴縺:帝国と運命の選択でした!
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発動した運命の選択、向かう先は何方も闇・・・しかし。
「貴卿、以下貴卿の配下達を帝国に迎え入れたいと思うがどうだ?」
その言葉を理解するのに少し時間を要したが、つまり俺達を帝国に迎え入れたいってことなのだろう。正直なところ人間との融和の為にはもっと交流を密にしないといけないとは思っていた。
現在カナンでは俺の配下達やギルドの人達が積極的に魔族との交流を行っているが、それでも限界というものがあるわけだ。広い街とはいえ、国全域をカバーできるわけがないし、今やファンクラブが人間に魔族との融和を説く役割を担っているが圧倒的な人手不足が否めない。
そんな折にこの提案は願ったり叶ったりだ。帝国の一員となれば前のファッションショーの時以上に全面的に協力を願えるかもしれない。
そうなれば人と魔族の溝に何本もの橋を建て、果ては鉄の橋を築きあげて融和をより磐石なものにすることも可能な筈だ。
二つ返事でOKを出そうとした時、それを一瞬にして思い止まらせる事態が発生してしまった。
"受け入れますか? YES/NO"
毎度お馴染み、運命の選択さんの出番である。これが発動すると言うことは、俺の発言によって今後の展開が大きく左右し、はたまた命運を分かつ選択になり得るものなのだ。
OKと出掛けた言葉をゴクリと飲み込み、ガーランド殿下の蒼い双眸をじっと覗き込む。先程と変わらない微笑みを讃えたその顔は、優しく慈愛の籠った表情で、まるで既に俺が帝国の臣民であるかの様なそれであった。
しかし、なにか引っ掛かる。俺の頭の中の直感が目の前に座る王に騙されるなと叫んでいる。
こうなってしまえば、後の判断は運命の選択に委ねられる。
・・・それではまず、YESから。
”本当ですか?”
や、やっぱり!
もしあの時、運命の選択が発動していなかったら俺は今頃運命と言う坂を転がり落ちていたところだろう。
一度この運命の選択に逆らってみたらどうなるかと考えたこともあるけど、それが自分や配下達に危害が加えられる結果となることを考えるととてもではないがそんな真似はできない。
『本当ですか?』と出てしまったからには選択を変えなければいけないわけだけど、俺の予想だとNOでも・・・。
”本当ですか?”
ですよねぇ。ガーランド王からの直々の申し出を断るなんて真似は普通できないし、それを断るって言うことは敵対意思と取られても文句は言えない。
いや、帝国に迎え入れたいという事だから、敵対意思とまでは行かないだろうけど、ファッションショーの一件で助けて貰った恩を返していない状態で断ってしまえば、厚かましく恩義を無下にすると思われて交流が途絶えてしまう可能性もある。
なら、第三の選択肢を提示する必要があるけど、国の王を勤める人物に先程の問いかけの代替案を・・・しかも、満足の行く案を出せると思えない。
つまり、万事休すだ。
後ろにいる三人の救援は見込めないばかりか、サテラもいないしアンネもいない。シロタエとソウカイもいない俺は実に無力だ・・・王様に対価となるものを提示できなければ詰む。
もう、判断を迷っている暇もない。であれば、直感に任せてまだましなNOを選択するしかない。
そう思って口を開きかけた時、ふと肩の重みがなくなっていることに気付いた。重みと行っても肩がこるほどのそれでなく、最近はいつもそこにあった適度な重みが俺から離れていることに気付いた。
そして、その重みを与えていたモノが、俺の眼前・・・王様と俺の間にパタパタと飛びながらジッと王様を見つめていた。
『少し任せなさい』
途端に身体の中から外側に向かって魔力が抜かれる。かなりの量を持っていかれたそれは、いつも戦闘時にディーレをこちら側に呼び寄せる時に使う魔力量とほぼ同じだった。
つまりディーレがその魔力を俺からとっていったと言うことは・・・もしかして、俺の代わりに王様を説得してくれるってことか?
城には多くの結界魔法が張られており、魔法を使用するとそれが兵士や城にいる者全てに伝わってしまう。
しかし、俺とディーレは一心同体であり、魔力の受け渡しに関しては『魔法』の使用ではなく身体のある部位から別の部位に移動させたのと同じだ。つまり魔法のしようではないわけで、精霊顕現に関しても一定の魔力量を渡すと精霊が魔力を通して見えるようになるという『現象』だ。
さて、ここで問題です。『精霊顕現』はただの現象であり、普通に現れようとればその場所に何の変化もなく唐突に姿を見せることができます。
しかし、それがディーレだった場合、どうなるでしょーか。
・
・
・
うん、正解。答えは・・・
高級な深紅のカーペットからまるで葉っぱに垂れる朝露の様な水滴が現れ、それが徐々に空中へと上がっていく。密閉された空間であるにも関わらず何処からか風が吹き、城内の涼を取る為と設置された水路の水がその流れを止めて逆方向へと流れ始める。
何もない空中から魔力を媒介にして大量の水飛沫が飛び散り、それが広間を渦巻く風に乗って大きな渦を成して、王と俺との間に巨大な竜巻を形成する。
王の白銀の髪が風に靡き、カーペットの橋がはためいて天井からぶら下がったシャンデリアが右へ左へと円を描くようにして揺れる。
暴風渦巻く広間は最早立っている事さえ困難な筈だが、カーペットの側に立っていた兵士たちはその暴風を物ともせずに行動を起こす。直ぐ様腰に携えた剣を引き抜いて、風を切り裂くようにして王の側まで走り抜ける。
そんな一連の事が成されていると言うのに王は一切動じずに俺の瞳を覗き込んでいる・・・その眼光はひときわ鋭さを増し、俺の心の中を見通さんとするかの様で・・・いや、俺の心を射殺そうとするかの様な鈍色の光が宿っていた。
やがて風に運ばれていた水の飛沫が風の軌道から外れ一つの形を形成する。透き通った透明の雫で形成されたのは人の手足・・・当然であるが曇り一つない透明な水によって形成された手足には淀み一つなく、シャンデリアから降り注がれる光を一様に反射している。
次に水路の水が浮き上がり、手足へと続く胴体を形成していく・・・女性らしさの象徴と言えるそれら全てを詰め込んだ様なスタイル。不定形の水がまるで人肌に感じられる程のそれに変形していくと、さすがの王といえどそれに視線を流すしかなくなった。
自らの前に立ち塞がった人型のそれに、顔のそれが浮かび上がり、長細い水が頭部から生え揃った直後・・・人型のそれから大量の水しぶきが謁見の間に飛び散った。
兵士達は王の前に進み出て水飛沫を討ち払わん剣を振り払う・・・剣からはゴウッという音が響き、水し引きが払われた・・・俺? 勿論全身ずぶ濡れだけど?
そして、振り払われた水飛沫の中から・・・絶世の美女が姿を現した。深海を思わせる深蒼の髪は波のようにゆらゆらと空中を揺蕩い、左右に分かれた髪から覗かせる顔は全てが調和の取れたいわば美術品の様な端正な顔、開かれた目からは瑠璃色の鮮やかな瞳がじっと王を見つめている。
そんな髪と瞳の色とは違って、薄い青のローブがシャンデリアの光を反射してまるでオーロラのようにその色を変えながら彼女の体を覆い尽くしている。胸元から覗かせる鎖骨部分には銀製のペンダントが掛けられており、そこには決して効果とは言い難いくすんだ宝石がはめ込まれている。
そんな彼女に息を飲んだ兵士たちだったが、ここは王の御前であり目の前に突如として現れたそれは不振人物の何物でもない。
彼らが剣を振りかざし斬りかかろうと体制整える・・・それにはさすがの俺も焦って腰を浮かしかけたが、ディーレの足が一度カーペットをトンッと叩き、俺に何もするなと伝えてくる。
そして、それが何故だったのかは直ぐに判明した。
「ぐっ、なんだこれは!?」
思わず出たその呻き声に、何があったのかと彼らを見ると・・・彼らの膝下まで地面から伸びた氷が覆っておりその動きを完全に抑制していた。
完全に出遅れたと察した兵士達は持っていた剣を槍のように振りかぶる、瞬時の判断でそこまで行き着くというのはさすがと言いたいが、恐らくディーレであればその程度は身動ぎ一つすることなく防いでしまうだろう。
「やめろ」
そんな戦闘の最中、身を切り裂く様な殺気を迸らせた一言が紡がれる。
決して大きくないその声は不気味な程に謁見の間に響き渡り、あの出来事がまるで嘘だったかのような静寂に包まれた。
その殺気は俺がかつて感じたことのない程の尋常でない殺気・・・常人に向けられていたならば一瞬に指摘をやっているであろう殺気は・・・俺とディーレには一切向けられていなかった。
「貴様ら、誰にその剣を向けている? その場で跪き、首を掻き斬れ。死んでその罪を詫びろ」
先程の微笑みを讃えていた王とは思えないその一言、暗く澱んだ殺意が滲み出したその言葉に兵士達は息を飲んだ。その顔に現れた焦燥は一体自分達がどこで間違ったのかと言う問い掛け、眼前に立つ美女が一体何者なのかという問い掛けだ。
しかし、王から齎された命令はこの場所にいる兵士達には絶対遵守するべきそれ、兵士たちは自らの剣を持ち上げて首元へと突きつける。
すると、王が立ち上がりディーレを見つめ直し腰を折った。
その姿を見て兵士達は驚愕に目を見開き、後ろにいた三人の息を飲む音も耳に届いた・・・。
王様がディーレに対して先に立ち上がり、腰を折るなんていうのは自分は貴方よりも下手ですと捉われかねない事なのだ。
「初に目に掛かる。ヴォーゼニス帝国が王、ヴェドモンド・アーデレリアル・ガーランドと申す」
「・・・水の精霊、ディーレよ」
その言葉に兵士達は再び驚愕し、自分達が侵したミスを知った。
「我が兵達が働いた無礼、この者共の命を持って償おう」
「・・・そうね。私にとってはそんな人間の命はどうでもいい・・・けれど、不快ね」
「・・・・・・」
「測りかねているという顔ね? どうでもいいと言っていたのにどうして不快なのか・・・答えは私の契約主のユガよ。人も魔族もまとめて大切にする彼の前で、なぜ彼らの血を見せようとしているのかしら?」
「そうであったか。命令は撤回するとしよう。お前達剣を収めその場に跪け」
ディーレが兵士達の足を拘束している魔法を解除しようと手をあげようとするが、王がそれを制止する。
王は一度小さく指を鳴らすと、兵士達の足の氷がドロドロと溶けていった。しかし、その足には見るも痛々しい凍傷が残っており、その痛みに耐えながら兵士達はその場で直ぐ様跪き比例を詫びるように頭を下げた。
その遣り取りをただ呆然と見守ることしかできない俺は、ディーレにそのまま任せることにする。
「貴卿らに不敬を働いた事を詫びよう。しかし、言葉だけというわけにはいかない。此方でできる事があれば期待に添えるよう尽力しよう」
「・・・そうね。ではこの国が欲しいわ」
なあああぁぁぁに言ってんのおおおおぉぉぉ!!!!!
冷や汗が止まらない俺はもう絶句することしかできず、あの帝国の王様相手に何てこと言うんだとディーレに任せたことを後悔した。
「わかった。貴卿らにした不敬がその程度で償われるのであれば帝国の領地を割譲しよう」
「はぁ、国の王というのは冗談も通じないのかしら? そんなものいらないわよ・・・けれど、私は『知っている』のよ? けれど、それを問い質すことはしないわ・・・面白そうだけれど」
「感謝する」
・・・じょ、冗談か・・・っていうかディーレ肝が座りすぎじゃないか?
相手は帝国の王様で、その歴史は血塗られた戦争の歴史によって築かれている・・・つまり、俺たちが何か間違ってしまった場合、俺達の森が帝国に攻め込まれる可能性もある。だと言うのに、そこまで強気にデラルディーレが素直に凄い。
でも、腑に落ちないのがあの王様の態度だ。今まで王としての態度だったそれが、ディーレを前にして一瞬にして下手に出るようになってしまった。
確かに最上位精霊のディーレは凄いっていうのはわかるけど、そこまで王様が下手に出る様なレベルだったの?
「では、さっきの問いは断るという事でいいのだな」
「いいえ、完全に断りはしないわ。貴方達は私の契約者、以下配下達に対する利を与えた・・・それはユガにとって喜ばしい事で、こちらも非常に助かったの。帝国の技術と初めての国との関わり・・・それをこのまま終わりにするのは惜しいわ。ユガ人間達との交流をもっと密に持ちたい私に伝えていたわ・・・そこで提案なのだけれど、私達と『友誼』を結ぶのはどう?」
「友誼・・・か」
「残念だけど、私達は国じゃないわ。貴方たちと対等の関係は築けそうにないから同盟とは言えないけれど、お互いの利点だけを結びつけて少量の取引を結ぶ唯の『友誼』なら、私達にとっても貴方達にとっても利点がある筈よね? 勿論『友誼』だから、簡単に断ってくれても構わないし、そもそも取引を行う必要もない」
ディーレとガーランド王の話についていけてないが、簡単にいえば同盟と言えないまでも友達の様な軽い関係を築きましょうって事なのかな?
でも、それなら強い後ろ盾として帝国にいてもらったほうがいいんじゃないのか?
「わかった。此方側としてはそれでよい。貴卿らと行う取引は後程行うとしよう」
「それがいいわ。もう私も疲れちゃったし・・・今日はユガと私を呼んでくれてありがとう。鉄くさい街はあまり好かないのだけれど、あの庭園と精霊への敬意は素晴らしかったわ」
そう告げると、ディーレは空中ヘ泡の様に溶けて消えていった・・・。
その後に、俺が視線の集中砲火にあったのは言うまでもなかった。
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side ガーランド王?
ふぅ・・・と、一つ大きく息を吐く。
誰もいなくなった・・・否、信の置ける者しかいなくなった謁見の間で、王としての仮面を外す。玉座に肘をついて頬杖をしながら、眼下に跪く二人の姿を見下ろした。
一人は4本の剣を帯刀した猫の魔族、一人は眼鏡を掛けた緑髪の女・・・その二人こそ自分が最も信頼のおける帝国の剣、帝国七爪の二人だ。
自分のもう一声がかからない限り二人が頭をあげて発言することはない・・・俺と十数年歩んできてこれらの忠誠心には感服するしかないが、こう言う所は少し融通を利かせて欲しいものだ。まぁ、しかし、この俺が『渇血』でなければ二人もここまですることはなかったのだろうな。
「もういい。カート、リーレン、二人とも顔をあげろ・・・発言を許可する。礼儀もいらん」
「はっ」
「あいよ」
リーレンはいつも通り礼を少し省いての略式の返事をし、カートはいつも通り礼も何もない簡素な返事を返した。それにリーレンがギロリと睨むが、俺の許しがあったそれを咎めるわけにもいかず口を噤んでいる。
こんな、一見すれば仲の悪い二人であるが、今までこの二人を同じ戦線に投入し、突破できなかった場所はただの一つとてないのだから不思議で仕方ない。
そんな二人を見下ろしながら、一息をついて話し始める。
「あぁ、それにしても、初めてガーランド王が押されているのを見たね。確かに気圧されはしたけど、まさかあんたが立って腰を折るほどとは思わなかったさ・・・何かあったんだろう?」
カートに視線を向ける。この様な無礼を他者が働こうものなら即座に切り捨てにあっても文句は言えないが、他ならぬ帝国七爪であるカートだからこそ言えることであり、尚且つカートの言っている通りであるから何もいないな。
まさか、あれほどのことをしてくるとは思わなかったが、正直ユガの事を吐かれていなかった自分に悔しさが滲む。
今回に関しては敗北とは言わないまでも、試合に『勝たされて』勝負に『負かされた』の一言に尽きるだろう。自分がこのようなミスをするなど思ってもいなかったが、それもユガが相手ならと納得してしまった自分もいることに辟易している・・・少々近づきすぎたな。
「リーレン、カートに説明しろ」
「・・・わかりました。あの男、『ユガ』ですが、私も測り損ねました」
その一言に今まで苦笑を浮かべていたカートも真顔に戻って黙り込んでしまった。帝国の参謀であり、宮廷魔術師であるリーレンが測りかねる程の相手という事はさすがに予測できていなかったのだろう。
それほどまでに今日の相手は強大だった。
「さすがのカートも、陛下の言葉の意味・・・『帝国に迎え入れたいと思う』がどういうことかは理解しているでしょう?」
「あぁ・・・まぁ、率直に言えば『傘下に加われ』、酷い言い方をすれば『属国』になれっていうことだろう?」
「えぇ。流石に相手もそれには気づいたでしょうけど、それに対しての対処があるとは思わなかったわ」
と言うと? とカートが首をひねり続きを促す。
そう・・・それに対しての答えは二つしか用意されていなかったのだ『はい』か『いいえ』の二つであり、『はい』の場合は属国と言わないまでも我が帝国の為に利用するつもりでいたのだ。利用というのもぬるい気はするが、あの里の魔族とこの帝国が結びつけばより強固な帝国の『城壁』を築き上げることもできたであろう。無論それは、この城を取り囲むだけの城壁ではない。
帝国の属国となれば、こちら側から与えるのは地位と名誉、あちら側からは資源と人材を得ることができた。それをユガに勘付かれない様にする算段も立てていた。
しかし、そんなものは簡単に気付かれてしまうだろう。だが、ユガはそれをできないでいたのだ・・・我々から受けた恩を返すしかなかったからだ。
要求を一方的に突っぱねるようなことをすれば我々帝国の不況を買う事は明白。もし、申し出を拒否するならば、国でもって圧力を掛けて帝国に縋る事しかできないようにするつもりでいた。
王国をが手を伸ばすことは間違いなくない。あの国の貴族達は自分の地位が脅かされることを非常に嫌い、他所の者を毛嫌いする輩が殆どだ・・・それが魔族ともなれば貴族が過剰に反応しユガらを突っぱねる事は間違いなかった。あのバカ貴族達ならば利用するというのも考えんだろうしな。
それでユガ達を手に入れれば申し出を受け入れた時よりも、多少手荒に扱っても文句一つ言えない状況を作り出すこともできたのだ。
里に、『シロタエ』も『ソウカイ』も『サテラ』さえいなかったことは知っていた。ウェルシュバインは王国の貴族であり、成り上がりの身分であれば、貴族社会の知恵を身に付けていない筈で、ユガが身動きを取れなくしていたはずだった。
隣国も既に同盟関係にある今、外堀を埋めて完全に帝国の一部にするしかない・・・申し出を受けざるを得ない現状を、密かに作り上げていた・・・しかし、それが一気に覆されてしまったのだ。
そのきっかけはたった一つの計算違いだ・・・そう、たった一度の計算違い。それがこの計画が一気に瓦解する原因だった。
ユガが契約していた精霊が、自分とリーレンの計算の枠組みから遥か遠くまで外れる程のとんでもないものだったということだ。
「リーレンの報告では彼女は、中級程度の精霊と言うことだったが・・・」
「申し訳ございません・・・恐らく、魔力量を制御できる、上位の精霊であったようです」
「いや、あれは上位以上だろう。人の前に姿を表す精霊など聞いた事も見た事もない・・・」
「・・・」
「内包する魔力量を底が知れないのは俺が人の身であるからして当然だが、それ以上にあの知恵・・・そして、自分のことを『ディーレ』と名乗っていた事が・・・な」
そして、もうひとつ想定外だったことは。
「複数の精霊の確認・・・だったな。リーレン?」
「えぇ、謁見の間に数体確認いたしました・・・巧妙に姿を隠しており、姿は確認できませんでしたが確かに存在しておりました。姿や力の根源を隠せるほどの力からして中級〜上級だと思われます」
「ははは・・・只者じゃないとは思っていたけど、それほどとは思っていなかったな」
あの謁見の間で、リーレンは俺に合図を送っていた。
それは精霊が数匹いるという信じられない情報だった。
まずは、帝国の剣である七爪の前で、そして帝国の王たる俺の目の前で、その力を知らしめた。中位の精霊が一体いるだけで一軍に匹敵するとまで言われているそれを、数匹・・・それも上位〜最上位クラスの精霊を有しているとあれば我々帝国であっても甚大な被害を被る可能性がある。
七爪全員で掛かったとしてもユガ一人を倒せるか否かというレベルだ・・・ユガを倒せたところで控えているのはあの魔族達だ。
利用を間違えては・・・あれらは毒にもなりえてしまう。
そして、やってしまったのだ。近衛兵達は俺を守らんが為に・・・俺の目の前に立った『人物』に剣を向けた。それは、決してやってはならないことだったのだ。
あれが単なる不審人物であったのならば、賞賛されるべきことだったのだが、あれはユガの『肩にずっと乗っていた』精霊だったのだ。俺自身は見えていないが、リーレンの報告にあった以上そこには確かにそれがいた。
それに近衛兵達が切り掛かったとあれば・・・完全にこちらの落ち度だ。近衛兵達にこの事を伝え、事前に準備を怠っていなければ、その様な失態を行うこともなかった。
この時点で我々が帝都で行った恩が一つ消失してしまった・・・いや、敵意と剣を向けてしまった事を考えれば、それだけで済むとは思えない。カナンへの兵士派遣も剣を向ける無礼と比べれば、全て返されてしまう程だ。
それに・・・あの精霊は私の企みを全て見破っていた。
自分達が築き上げた包囲網をスルリとすり抜けた・・・。
そして、力関係でさえも全て把握して、俺の目の前に立ったと言う事は・・・俺が下手に出るしかなくなるわけだ。
あれらが全て計算されてのことだとすれば・・・俺とリーレンの目を掻い潜れる程の策謀家だとすれば、とてもではないが俺たちには対処できない。
とんでもない存在を敵に回しかけたが、最後の最後に帝国も自分達も利を得る為に『友誼』を結ぶ・・・か。なんともユガらしいというかユガの配下らしいというか・・・。
「にしても、さすがというかそんなことしてたんだな。我が王は・・・ただ遊んでいるだけだと思っていた」
「遊んではいたさ。あの場にいるのは『アドルフ』だったからな。しかし、ここにいるのはアドルフと『王』を持った存在だ。少しでも帝国の利を追求し、帝国に死力を尽くす。それが友であってもな・・・まぁ、それも全て失敗したわけだがな」
しかし、友誼であっても帝国の有利な外交を行う事はできる。直ぐ様、俺とリーレンは取引の書類の作成を行った。
そして、後日・・・帝国に一枚の書状が届き、帝国に激震が走る事となった
ハーピーの観察日記
海上より報告:ヌシがリヴァイアサンだと発覚。
鉱山より報告:金剛ゴーレムに攻撃が通じない・・・一時退却。
カナンより報告:ファンクラブより、魔族グッズの売り上げを検討。
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)