∴縺:帝国の剣でした!
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帝都にやってきたユガ・・・そして相見える帝国の剣。
鉄錆の匂いが街を包み、多くの冒険者と魔族が行き交うこの通りを見るのも、三回目となれば流石にそろそろ慣れてくる。
前に来たときはもうちょっと殺伐とした雰囲気があったが、今は露店から響く威勢のいい声や通りを行き交う人々の表情から見ても非常に明るい雰囲気が感じられる。
なんでも、つい最近敵国から大規模な進軍があったそうだが、それに快勝したとかなんかで人々の不安も払拭され、それに輪をかけてあのファッションショーを開いたせいもあってか街は非常に活気付いている。
よくよく見てみれば、魔族と人とが一言二言、言葉を交わす光景も垣間見えることから、両者の関係も幾分か良い方向に向かっているのだろう。
さて、そんな帝都に来ているのだが、俺の心は非常に穏やかでなく夏でもないのに大量の汗が・・・粘液が吹き出して大変なことになっている。
緊張のあまり身体がガクガク震えて、頭の中はシュライン様から叩き込まれた礼節やらマナーやらでいっぱいいっぱいになってしまっている。
ニーディリア伯爵から借りたタキシードだというのに、俺の粘液で既にビシャビシャという非常に申し訳のない表情で、そんな俺を苦笑しながら見守っているシュライン様はずっと「リラックスだよリラックス」と言ってくれているが、そんなこと出来る筈もなくもう顔面蒼白だ。
ディーレは俺の肩に乗りながらお腹を抱えながらずっとクスクスと笑い続けていて、目の端からは涙が出ている・・・笑いすぎだ!!
「わ、笑い事じゃないよディーレ」
『これが笑わずに入られるのかしら? フフフフフフフフッ』
くそ! やっぱり最上位とは言っても精霊は精霊・・・他人の不幸は蜜の味とでも言う様に笑い続けている。
サテラも結局帰ってこなかったし、サテラがいればまだマシな筈だったし、ちょっと俺がミスしても手助けや援護してくれていただろうが今回は俺一人しかいないし、ソウカイもシロタエも魔物の掃討が長引いているとかで戻ってこず、アンネは「成り上がり貴族は、他の貴族から嫌われるのよ。帝都にとっても、王国にとっても良い事はないの」と算盤を弾いてさも今思いついたとばかりにそんな言葉を並べた。・・・単にリスクとリターンを秤にかけてリスクが上回ったから逃げたな。
馬車に揺られること数分、車輪音がピタリと止まると体が少し前に引っ張られ、馬車が静止したことがわかった。まぁ、窓から外の景色を見ていると何となくわかってしまったのだが、十中八九目的地に辿り着いてしまったのだろう。
窓から見えていた景色はついさっきまでは露天やら冒険者が入り乱れる大通りであったが、今となっては豪華な家が立ち並び帝国の旗が門前に掲げられているような以下にもな家が立ち並んでいたのだ。最初のうちは豪華と言ってもまだ小さかったが、馬車が停まった今、外に立ち並んでいるのは非常に豪華で大きな建物なのだ。
馬車の扉が開かれ御者が見えると、仕方がないと観念して馬車の外へと出る。
するとそこには・・・予想通り、超巨大な城が見えた。
星型に築かれた石壁で囲まれた国、その中央に聳える超巨大な城・・・いや、要塞。岩で作られた城壁の側面には幾つもの穴が開いており、そこからは小さな民家一つと大差ない程の大きさを誇る大砲が数十門顔を覗かせている。
城壁の上には見回りの兵士数名が外と中とを監視しており、城の外堀には水が張り巡らされており、濁った水の中から何か不穏な気配が数十も漂っている・・・周囲掌握で見てみると、まさか魔物が放たれているとは思いもしなかった。『ラットシャーク』平均ステータスは100前後だけど、人間にとって水の中での戦闘となればステータスなんて関係ないだろう。まずそこいらの冒険者じゃ太刀打ちできないだろう。
そして、周囲掌握を発動してわかった事は、どうやら城壁には幾重にも魔法が張り巡らされており、恐らく俺が全力で攻撃したとしても、ちょっとした穴を開けるくらいしかできないだろう。
城壁の上にいる兵士達も平均のステータスは400前後と普通の人間よりは高め、門前にいる兵士に至っては550前後と上にいる兵士と比べて強い。
城に繋がった橋の向こう側には、鉄でできた巨大な門扉・・・帝国の紋章が彫られておりその意匠は、帝国の力強さを物語っている。空に向かって立ち昇る龍に槍と剣が刺されている紋章、龍の瞳は赤く輝いておりそれは血の涙の様にも見える。
初代帝国の王が槍と剣を用いて、帝国を滅ぼさんとやってきた龍を単騎で屠ったという伝説に基づき、力の象徴として帝国ではこの紋章が使用されているらしい。
そんな門に続く橋を渡っていると、兵士が俺とシュライン様の姿に気づき、急いだ様子で此方へと走り寄ってくる。
「シュライン・ベツァン・アインツ:プライツァ、国王が命により、客人ユガ様をお連れした」
「お待ちしておりました。プライツァ騎士爵、並びにユガ様。王は今少々お勤めが長引いていらっしゃるようで、待合室にて今暫くお待ちいただけないだろうか?」
「承知した。勤めご苦労、客人は私が送ろう」
兵士は丁寧に一礼すると急いで門へと戻って行った。
少し待った後に、龍の瞳に当たる部分が一瞬眩く光り輝くと、門が重厚な音を立てながらゆっくりとその戸を開いていく。ゴゴゴッと地面を割り砕く様な音を残し、完全に門が開かれるとその中へと通される。
シュライン様に促されて俺もそれについていく。そして門の中、要塞と見紛う城の敷地内へと足を踏み入れる・・・そこには。
広大な庭園が広がっていた。千紫万紅の花壇が一面に広がっており、その花壇はただ乱雑に咲き誇っているのではなく、花一本一本に至るまで長さや色合いが調和するよう計算されており、景観が見損なわれない様に細心の注意を払って全てが完璧に管理されている。
見る者を魅了する花壇のグラデーションに思わず見惚れてしまい、田舎者の様に口をポッカリ開けながら呆然としてしまう。
「あはは、どうだいユガ君、本当に美しいだろう?」
「いや・・・なんていうか、圧倒されてしまって」
『本当に綺麗ね・・・ここまで美しいとは思わなかったわ。人間もたまには殊勝な事をするものね』
『おぉ、すごいすごい!』
『あー、気持ちいねぇ』
『・・・ん、凄い』
自然をこよなく愛する精霊・・・ディーレだけでなく、自然の気配を感じ取ったのか勝手に出来てきた精霊トリオもこれほどまでに美しい自然を見た事がないそうだ。
「確か、いつも窓から見える景色が鉄と岩と兵士だけじゃつまらないだろうって、第3代の王が正妃のプレゼントに窓から見える一面の花畑を贈ったんだそうだよ。それが今でも受け継がれて綺麗に保たれているんだよ」
王族のプレゼントのスケールが桁違いだよ・・・旅先で見つけた安物のアクセサリーとか食べ物を里の皆んなにプレゼントする俺なんかとは格が違うな。
精霊四人衆の花壇についての談話を聞きながら、城までの道を歩いていると一つの花壇に思わずオォと声が出てしまった。
それは花弁を幾重にも纏わせた色とりどりの花だ・・・鮮やかで花弁が中心から外に向かって咲き乱れる様な、そんな派手な花が花壇一面に咲き誇っており、その美しさは他の花壇より群を抜いて目立っていた。
と、その花壇の中心に一人の姿がうかがえる。
じっと花を見つめながら変わったハサミを使って庭の手入れをしているその人は、くすんだ青い髪に青い瞳、口元に微笑を讃えながら花の手入れを行っている。
そろそろインフレしてきた爽やかイケメンの中ではそこまでかっこいい部類ではない。頬についた泥や作業着などを見ると、せっかくの爽やかイケメンが台無しになっている様にも思えるが、これがギャップ萌えという奴なのだろうか妙に合っている様にも思える。
すると、じっと見ていた俺に気づいたのか、遠くから俺に向かってニコッと微笑んだ。花壇の手入れをしている使用人か何かかと思ったが・・・美しい花々が咲き乱れる花壇とは場違いの男が、彼の側へとやってきた。
重厚な鎧を見にまとい、遠くから見ていてもわかる程の巨体をのっしのっしと揺らしながら歩み寄ったその男は眉間に皺を寄せ、花の手入れをしていた男に何かを告げていた。
巨体の男の纏う雰囲気は強者のそれであり、周囲掌握によって浮き出たそのステータスから見ても一介の兵士とは比べ物にならない程の実力を持っているのだろう。
・・・さっきと同じように周囲掌握を起動しかけたが、なんとか思いとどまった。ここは既に城の中で、シュライン様に言われた事を思い出す。
城の中は一見すれば唯の王城にしか見えないが、中は多重に魔法結界が張り巡らされており、宮廷魔術師クラスの人間が数十人集まっても突破できない防御障壁や探知魔法を使った人物を逆探知できる魔法などが幾重にも掛けられているそうだ。
流石に城の外までその魔法は及んでいないみたいだけど、ディーレから伝わってくる感覚からして、おそらくもう俺達は何某かの魔法の下にいることがわかっている。
「・・・!! ・・・く・・・!!」
と、巨体の男が怒った様な表情で声を荒げている。何を喋っているかまではわからないけど、額に青筋を立てていることからかなり腹を立てていることはわかる。爽やかイケメンの使用人っぽい彼は苦笑した表情を顔に讃えて、何かを告げているがそれが機に食わないのか音はなおも声を荒げて詰め寄っている。
「だから貴様は・・・・・・・・・だというのだ! どち・・・・・・わかる・・・!!!」
すると、その巨体の男も俺に気付いたのか何処か忌々しげに俺を睨みつける。咄嗟に目を逸らして、別の花壇を見ているふりをする・・・どうやらあまり歓迎されていないみたいだけど大丈夫なのかな?
それにしても
「なぁ、ディーレ、あれどっちが強いと思う?」
『あまり興味はないわ・・・けれど、あの青い髪の男でしょうね』
うん、やっぱりか。巨体の男からひしひしと伝わるプレッシャーは確かに強者のそれであり、今まで見てきた冒険者と比べてみてもその強さは比較するだけ無駄と言えるだろう・・・しかし、あの一見すればちょっとイケメンな庭師の様な青紙の彼に関しては・・・底が知れない。
恐らく自分の力を隠すのが上手い一番厄介なタイプで、実力を隠せる程の力と巨体の男を目の前にしても一切動じない余裕、底冷えする気配を漂わせる彼の方が強いだろう。
花を手入れする為に持たれた鋏が陽光を反射して不気味に光りを放つ・・・彼が一体何者なのかはわからないけど、恐らく・・・。
花壇に佇んだ二人の事を考えていると、城の方から二人の人影が歩いてくる。
一人は見覚えがあり、二つの細剣を背中に背負い二つの細剣を腰から下げ、長い紫色の髪を後ろで一本に縛った魔族・・・帝国七爪、第二騎士団隊長の『アルベタス・カート・レヴィリアル』様の姿だ。眉間に皺を寄せながらどこか疲れた様子で歩いていて、それに気づいて眉間のシワを揉みほぐしながら俺の姿を認めるとフリフリと手を振った。
その隣に立っているのは、カートさんよりは頭一つ分背の小さい、緑の髪に緑の瞳、前髪を短く切り揃え、後ろ髪を肩口で同じ様に綺麗に切り揃えメガネを掛けた女性がいた。
「やぁ、久しぶりだね? 今日は王の呼び出しに応じてくれてありがとう・・・あぁっと、こいつは」
「お初にお目に掛かります、ヴォーゼニス帝国、第5宮廷魔術師隊長『リーレン・エリシュ・オルメイツァ』と申します。本日は我が王の招待に応じていただき感謝致します。謁見の場所へは私と・・・いえ、私が案内致します」
「ねぇ、エリー、俺の顔を見てから案内を言い直すのやめてくれないか? 同じ七爪同士仲良くしようよ」
「貴方の事を同士と思ったことはないわよニャート」
「ニャートって言うにゃ・・・あ・・・」
地面に這いつくばるニャート・・・カートさんを尻目に、リーレンと名乗った女性が俺とシュライン様の前へと歩み寄る。
シュライン様は深く一度お辞儀をし、俺もそれに続いて礼をすると、エリシュさんはニコリと微笑み俺に視線を向ける。切れ長の目は一見すれば気の強そうな印象を抱くが、その微笑みは非常に温和な表情であり、俺たちに続いて腰を折って礼をする。
「リーレン様は帝国の宮廷魔術師であり、帝国七爪という大変名誉ある方なんだ。帝国の魔法の発展、帝国の強さの起源はリーレン様だという声も多いんだよ」
「シュライン騎士爵、それは買い被り過ぎですよ。私だけでは今の帝国を築き上げることなんてできていません。シュライン様や他の騎士の方々・・・認めたくはありませんが、彼処に這っているニャートが前に立っているからこそ私が光る事ができるのです」
なるほど・・・この女性も帝国七爪だったのか。華奢な体からは戦いには向いていない様に見えるが、肩に乗ったディーレが彼女を真剣な表情で見ている。
すると、ディーレが俺の肩の上に立つと、一度腰を折る・・・何をしているのかと思えば、彼女もそのディーレに習ってもう一度腰を折った・・・え?
「え、見えて・・・」
「えぇ、私は精霊使いではありませんが、精霊の姿は見えるのです。魔族の方で精霊と契約している方を見るのは初めてですが、精霊は心の清き者としか契約を結ばないと聞きます・・・正直に申せば、魔族の方と王を謁見させるのは少し不安であったのですが安心しました」
どうやら、ディーレは彼女が自分の姿を見ていることを感じ取っていたようだ。精霊を見える人間は非常に少ない・・・そして、見える人間は総じてその能力が極めて高く、彼女の場合は恐らく魔力の保有量が人よりも多いのだろう。
『その考えは間違ってはいないけれど、彼女はそれだけじゃないわよ。内包している魔力が人なんて比べものじゃないわ。魔族と同等かそれ以上あるわね・・・とても人間と思えないわ』
ディーレからそう言葉が漏れる。彼女の保有する魔力は人間と比べるレベルではなく、魔法に秀でた魔族と比べた方がいいのだという。
それはまさに英雄や勇者のレベルであるらしく、冒険者であればSランクに匹敵するほどの力を持っているのだろう。
ではこちらへ、と彼女に促されて王城の中へと案内される。さっきの花壇へと目を向けると、そこにはもう誰もおらず綺麗な花畑が広がっているばかりだった。
そして、俺とシュライン様は城内へと入っていった。
城の庭園に咲き誇った花壇の中、青く咲いたローアの花が俺の背中を静かに見送っていた。
ハーピーの『報告』日記
海上より報告:魔物過半数の討伐に成功。ヌシの存在を発見。
鉱山より報告:坑道に潜む魔物の討伐を開始、坑道にて迷子者多数。
カナンより報告:魔族と人との交流順調。引き続き、ファンクラブを利用します。
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遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
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