∴縺:王様謁見前講習でした!
投稿頻度が遅くなっており、申し訳ございません。
仕事が落ち着きましたらまた早くしていきます!
たくさんのブックマークありがとうございます!!
久々にやってきた湖の街、そして会うのはあの貴族でした。
さて、時刻は太陽が真上に登ったちょうど昼時だ。馬車にユラユラと揺られながら、俺は売られ行く牛の様にどこぞの街へと出荷されていく。
というのはもちろん冗談で、簡単に言えば現在貴族の屋敷へと向かっているわけだ・・・その貴族とは誰だと言えば、いつも懇意にしているウェルシュバイン様・・・ではなく、ならばサテラと繋がりのあるヴォルドス・レェベン騎士爵・・・でもない。
では一体誰なんだと言えば、俺が関わった貴族といえばもう一人しかいない・・・ガラガラと車輪の立てる音を耳にしながら、馬車の窓を開け放って外の景色を見る。
そこから見えるのは大きな街とそれを凌駕する広大な湖。キラキラと光り輝く湖を見やれば、どれだけ水質が綺麗なのか、これだけ離れているというのに魚の群れが見える。
湖の上を行く漁師達は、網を投げ入れる前に小さく合掌して何かに祈りを捧げるようにしてから漁を再開する。それを側でジッと見つめる誰かの姿に、恐らく漁師は気づいていないのだろう。獲った魚をポイポイと10匹ほど湖に投げ入れる精霊の悪戯に漁師は気付く事なく、漁を行っている・・・聞く所によれば、この街の漁師達の七不思議の中に、『魚が大量に取れた日は決まって不漁』なんていう矛盾した物があるらしいけど・・・うん。その原因は十中八九あれだろう。
こんな綺麗で広大な湖のある場所は俺の知る限りでは一つで、ここにいる貴族といえばもう一人しかいない。帝都の隣国である『フェグズム国』の一つ、湖畔の街『チェルスレイク』を治め、精霊より祝福を賜った猛烈な親バカ貴族『ニーディリア伯爵』その人だ。
では何故、俺がこんな所に来ているかと言えば簡単なことだ。
俺は先日帝都の王様に招待されてしまった。王様に招待されたのは二週間後で、さすがに王様の呼び出しを断る事も出来る筈がなく、その招待を受けた・・・までは良かったのだが、アドルフから一言言われたのだ『あ、そう言えば、王様に会うとなると其れ相応の礼儀作法が必要だよ』との事。
そんな貴族に対する礼儀作法なんて俺が知っている筈もなく、焦った俺はウェルシュバイン・・・アンネを至急呼び出して聞いてみれば『私は成り上がり貴族だから、それは専門の人に聞いたほうがいいわね・・・誰かいないの?』って言われてしまった。
そんなのある筈がない・・・と言おうとした所でエリーザさんの顔が思い浮かび、そういえば帝都に行った時お隣さんの国に行ってとんでもない貴族がいた事を思い出した。
それだと思い至り、エリーザさんと連絡を取って、エリーザさんの仲介を元にとんでもない貴族・・・もとい、ニーディリア伯爵とコンタクトを取って貰ったのだ。
『拝啓ニーディリア伯爵様におかれましては如何お過ごしでしょうか・・・・・・・・・ ニーディリア伯爵の娘様に似合うエルフ特製の髪飾りがあるのですが、お父上からそれをプレゼントされれば娘さんはさぞかし喜ばれるのではないでしょうか? あ、ついでに王様と謁見する時の礼儀作法もお伺いしたく思います』
という手紙を送ったら、娘の惚気が100行に渡って書かれ、最後に惚気のついでの様に快く迎えてくれるという旨の手紙が返って来た。
既にエルフの髪飾りは郵送で送っていて、ちょうど良いタイミングだったのか娘さんの誕生日にその髪飾りを渡せたそうだ。その際の娘の喜びよう再度手紙として送られて来ていて、惚気が250行書かれた壮絶な文章だった。
因みにその髪飾りはデシスエルフと里のエルフとの合作で、保有している魔力の濃度によって髪飾りの色がいろんな色に変わる特別製だ。
丘の上に建てられた邸宅の前に馬車が止まり、中から初老の執事がやってきて俺の顔をちらりと伺う・・・ギルドカードの準備をしていたが、執事は俺の顔を覚えていた様でニコリと微笑むと中へと迎え入れてくれた。慎ましやかではあるものの調度品の数々は緻密な装飾が施されており、門から少し進んだ場所にある花壇には前に来た時とは違う花が咲き誇っており、綺麗で美しい花弁が少量の魔力を練りこまれた水を吸収して活き活きとしている。
っと、水の中から小さな精霊が顔を出した。キョロキョロと辺りを見回して俺の姿を認めると驚いた顔をしている。
まぁ、肩に乗って花壇を楽しんでいるディーレを見つけたんだろうな。
『やっぱりここはいいわね。ちゃんと私達に対して礼を尽くし、自然を大事にしているのがわかるわ』
水の最上位精霊であるディーレも上機嫌になる。ディーレの笑顔を見れただけでここに来て良かったと思うけど、これから恐らく聞かされるであろう娘自慢を思い出すとちょっとげんなりともしてしまう。
取り敢えず、最低限の準備はしないとダメなんだよな。王様に会うのには其れ相応の準備が必要となる・・・俺はよくわからないけどドレスコーデから始まり、受け答えの作法、その場その場のルール等々、特にそれが王様の前ともなればかなり厳しく見られるのだそうだ。
今回招待されたのは褒美を受け取る・・・つまりは謁見の間と呼ばれる場所で、王様と会うことになるのだ。つまり謁見のまでのルールとなるわけで、アドルフ曰く『ルールは一番厳しいんじゃないかな?』等と他人行儀で話していた・・・後で周りの精霊にお願いして悪戯を行使させて水浸しにしてやったのは秘密だ。
「ようこそ。我がニーディリア領へ」
「お久しぶりです。ニーディリア伯爵」
「ハハハ、そなたと私の仲じゃないか、そんな畏る必要はない」
執事に促され邸宅の中へ入ると、玄関先にはすでにニーディリア伯爵が立っていた。応接室で待っていると思って・・・あぁ、成る程、何故ニーディリア伯爵がそこに立っているのかが嫌でも理解できてしまった。
ニーディリア伯爵の手には大きな画板が持たれており、そこには娘さんの絵・・・正確に言えば髪飾りをつけて微笑んでいる娘さんとニーディリア伯爵の二人が描かれている絵があった。
「見てくれこの素晴らしい絵を門前にある花壇の前で描いてもらったのだが、花の美しさと娘の美しさが見事に相成っているとは思わないかね? いや、そうじゃないな。娘という太陽がいるからこそ花が映えると考えた方が良いかもしれん。この季節に咲く一番美しい花のペルーデも娘の美しさでは霞のごとく薄らいでしまうとは本当に娘は罪作りなものだ。この前も帝国との同盟会の最中に娘に群がる小蝿の様な男と、無駄に着飾って化粧でツラを隠した女達がいたが、やはりうちの娘がその場にいるだけでそんな魑魅魍魎の場を彩れていたのだ。あの男に嫁に行くという時は舌を噛み切って自害しようかとも考えていたが、娘の幸せそうな顔はいつもよりそれはそれは美しいものであのとき舌を噛み切って死ななくて良かったと今なら心の奥底から思えるな。フェグズムでも指折りの絵師に描いてもらったこの絵はそんな娘の幸せそうな表情が、それでいてどこか恥じらった表情までもが緻密に描かれているのだよ。嗚呼、しかし娘の全ての美しさはやはり描ききれていない。うちから滲み出る聖母の如き優しさが感じられないのだ。最高の絵師、最高のインク、最高の紙に描かせても、娘の美しさを表現しきれないとは、美しさというのは本当に罪なものだ。そこで、再度行う機会があればファッションショーに娘を出してみてはいかがだろうか?いや、それでも娘の美しさを表現するには足りぬかもしれないが、それでも・・・」
止まらない、巨大な画板に描かれた自分の娘自慢を語り始め、一つずつ娘の可愛いポイントを指で指し示しながらまるで滝の様に伯爵の口から言葉が流れ落ちてくる。
こんな長文を一言も噛まずに、こんな娘の褒め殺すような文章が一瞬で浮かぶ伯爵は見事というより他ないだろう。
普通最高の絵師に描いてもらったというのであれば、その絵に描かれた『内容』を誇るのでなく、絵という『存在』を讃えるのが貴族というものだろうけど、そんな事はお構い無しと伯爵の口からは惚気が迸る。自分も描かれているはずなのに自分の事など放っておいて、娘の話しかしない。
・・・おぉう。しかも、この絵に関しては一度書き直させてるらしい。なんでも絵師が気を使って伯爵の絵に気合を入れてしまったそうで、娘がおざなりに描かれたと伯爵が一度それに激昂したが、絵師が『このインクでは娘様の美を描ききれない』という苦し紛れの一言に、伯爵は気を良くしたと同時に一壺で中くらいの家が買える程の超高級インクを与えたらしい。
そんなにか・・・。
「・・・以上で娘の素晴らしい点の2割程は話し終えたな。まだまだ話し足りないがこのくらいにしよう・・・それはそうと、遠路遥々ようこそユガよ」
「その節はどうも・・・いつも通りお変わりないようですねニーディリアさん。娘さんも相変わらずお美しい限りで」
はっはっはそうだろうそうだろう! と機嫌を良くした伯爵は奥の応接室へ俺を通した。手紙で内容は伝えてあるし、おそらく伯爵なら問題ないだろう。
応接室へと入ると・・・そこには一つの人影があった。席に着いたその人影は俺を見つけると椅子を立ち一度腰を折る・・・その姿はどこかで見たことがあり、少し考えたのちに誰かがわかった。
成る程、今日の相手には一番適任の人だろう。
「やぁ、久しぶりだねユガ君。その節は本当に世話になった。あの時はドタバタしていたからね、改めて名乗らせてもらうよ。『シュライン・ベツァン・アインツ:プライツァ』だよ。今日は宜しくお願いする」
そこにいたのはあの時の貴族様だった。ニーディリア伯爵の娘さんと結婚を果たした帝都の貴族だ。騎士であり貴族でもある彼・・・シュラインさんであれば帝都の礼節には詳しい筈、ニーディリア伯爵はそれを見越して呼んでいたのだ。
シュライン様は今では帝都の一角を担う大きな貴族家の長子であり、その名を継ぎ『フェグズム』と『帝国:ヴォーゼニス』とを繋ぐ架け橋となっている。
「本当ならマナーを教える執事や教育係をよこしても良かったのだけれど、君にはちゃんと筋を通しておかないといけないし、そして何より王のお客人の為となればこの身で向かってもいいと考えたんだ・・・っていうのは建前でね、ファッションショーを開いたのがユガさん達だって聞いて、また会えたらと思ってそんな折にニーディリア伯爵からお声を貰ったんだよ」
爽やかイケメンのシュライン様はあははと笑いながらそう告げる。後ほど知った事だけど、どうやら帝都で行われたファッションショーにはシュライン様も共同出資者として名乗り出ていたらしく、魔族のイメージアップは貴族の間でも行われているらしかった。
今や帝都でも魔族に対するものの見方が変わっており、またカナンからやってきた魔族達がやけに人との接触が多く、決めのいい連中が多いと噂になっている。
帝国としてはあまりよろしくないことだけど、カナンの噂を聞いた魔族が帝国からやって来て人間の理解を深めるという良い循環を齎している。地道にではあるけれど、魔族のイメージアップを果たせていると言えるだろう。
「ファッションショーの二回目を希望する声も多くてね。エリーザのところも今は商品の注文が数倍にも増したそうだよ。前に比べて生産スピードが早くなっているのはいいことだけど、体調を崩さなければいいね・・・彼・・・彼女?は帝国にとっても重要な人物だからね」
あのエリーザさんを『彼女』と言い直したシュライン様に賞賛の拍手を送りかけたが、ぐっと我慢して頷くに止める。
生産のスピードが上がっている・・・それもその筈、デシスエルフたちの技術を取り入れた最新式の魔道具、そして忍蜘蛛達から絹のような糸が齎される事で生産のスピードが上がり、商人ギルドに属したことによって今まではなかった人員の確保も出来る様になったのだ。その中には俺の配下の鬼の女子達も数名参加している。
ファッションショーの二回目についてはまだ考えていない。というのも、前回のは帝国・・・『ヴォーゼニス』が誇る最強と謳われる騎士の一人が賛同してくれた事と、たまたまそれが王様の耳に入ったから実現しただけであって奇跡の様なものだ。
・・・そういえば、全く関係ないけど最近やたら帝国からアイスとうどんの注文が多い気がするな。
「あぁ、ごめんごめん。どうしても癖で話し込んでしまったね。えっと・・・王の前でのマナーだったよね?確か謁見の間でのお目通りなら、簡単に言えば、王の眼前に行くまでの歩幅を常に一定を保ち、王から一度も視線を外さない事、そしてもちろん背筋を伸ばしたままかな? そして王の前まで行った後は右膝をついて、左手を心臓の位置に当てて右手を地面に着く。そして王の許しが出るまで決して頭を上げない事、そして許しが出た後は頭だけを上げて王としっかり目を合わせる事、その後は言葉を賜って、また許しが出るまで自分から発言しない事。許しが出れば自分から発言してもいいよ。王の呼び方は『ガーランド殿下』、貴族位はない・・・というか名前其のモノが貴族位だから呼ぶ時は絶対に噛んだり間違えたりしない様に。言葉遣いは常に丁寧に心掛けてね・・・それと一番重要なのは余計な事を言わない事なんだけど、正直ここに関しては『貴族』にたいしてだからあまり注意する必要はないけれど、一つでも悪い言質を取られて仕舞えば即刻極刑もありえるからね。ドレスコードについてはニーディリア伯爵様から何着かお借りする予定だよ。後は今言った一つ一つにもっと詳しい所作を身につけてもらうからそれは広間を借りて練習してみようか?」
おぉ・・・やる事は山ほどありそうだ。
しかし、俺の頭の中はそう言った所作のことではなく・・・『悪い言質を取られれば即刻極刑』だ。え、なに、王様ってそんなに強い人なの?
ファッションショーに乗り気になってくれるくらいだからもっと陽気な人か、気のいい人なのかと思っていたのに言質取られてしまっただけで極刑って。
礼節もマナーも全く知らない俺にとっては極刑コースしか見えないんだけど・・・いや、それを回避するための特訓なんだけど、王様のイメージが全く浮かばない。
「あ、あの、王様ってどんな人なんですか?」
「んー・・・どんな人って言われると、僕ら貴族の目線で言えばとんでもなく恐ろしい人だよ。『渇血』と呼ばれる程の冷徹さ、親類血縁を容赦なく排除して今の帝国を築き上げた帝王だからね。周辺諸国からも恐れられるくらいには凄い人だね・・・けれど民衆の信頼は非常に厚いよ。いつも笑顔を絶やさず、民衆の太陽であり続け、誰よりも帝国の民を大事にする賢王って言われているよ。貴族にとって非常に恐ろしい人ではあるけれど、それと同時に心より尊敬して忠誠を誓える王だと僕は思うよ」
「・・・な、なるほど」
つまり、非常に怖いと。
俺、殺される気しかしないんだけど。
あぁ、こんな事ならサテラの話をもっとちゃんと聞いておくんだった。
俺は殺されないように、最後の抵抗としてシュライン様の教えをしっかりと頭に叩き込んだ。
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side ニーディリア伯爵
目の前で必死に礼節やマナーを覚えようとする魔族・・・ユガに見入る。貸した服は無論上等な物だが、着慣れていないからか『着ている』というよりかは『着られている』と言える。
それにしてもあの『渇血』が唯の客人としてユガを迎え入れるわけがない。あの狡猾な奴の事だ・・・間違いなく、ユガは利用される事になるだろう。あれは自国の事にしか興味がなく、自国の発展のためならばどんな事でも手を尽くす者だ。
王にとって一番重要である『取捨選択』の判断がこれまで見てきたどの貴族、どの王よりも上手いのはもうわかってしまっている。必要なものは取り込み、必要のないものは排除する。
そして、今回はあれにとってユガが有益であり必要でるから気に入り利用しようと画策している・・・そう思っていると同時に、あの王にしては回りくどいやり方をしていると疑問にも思っている。
あれならば、強引な手を使ってでも自分の懐に取り込んでもおかしくはない。だが、今回に関しては正規の手順を踏んで、まるで自分が下かの様に振舞ってユガに取り入っているのだ。
最初それは、単なる思い過ごしかと思ったが・・・今回の一件、それと私の義理の息子とはいえ、シュラインを貸し出した事に驚きを隠せなかったのだ。
他国の者に貴族が関わる事をあまり良しとしないあれが、二つ返事で寄越したとあって私は驚いた。無論、渋るようであれば様々な対策を行使しただけのことではあるが、あれがそこまで入れ込む存在だとは思いしなかった。
・・・あれが、ユガに何を見出しているのかはわからないが、あの男のことだ。恐らく間違いや酔狂なんて事はない。
私とユガの個人的な取引はウェルシュバインを通して行っているが、フェグズム王に打診してこちらも国を絡めてユガと交流をはかった方が良さそうだ。
・・・さて、ユガとあれがどの様な駆け引きをするか、楽しみにさせてもらおうじゃないか。
ハーピーの観察日記
ラミアの長『シューシュ』より、本当の主人はユガ様であると明言。
反発者多数、されど先の戦闘においての説明を行うと全員口を噤む。
ラミア族は主人に謝罪する準備を進めている様子。
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
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