商戦[終章]:魔族と人とが治める街でした!
仕事が忙しく投稿遅くなってしまい申し訳ございません・・・。
たくさんのブックマークありがとうございます!!
終章、そして始まりの影・・・物語は終わりに向けて歩き始める。
side:人の街に流れ着いた魔族
青空がどこまでも続き、雲一つない晴天が顔を出して目には見えない光の雨を持って街を染め上げる。
光の影響を受けてかは知らないが、カナンの街が一つのお祭り騒ぎと言っていい程に盛り上がっている。活気が溢れてはいたが、どこか暗い影を落としていた露店街も、今となっては一つとして暗い影の落ちるところがない。
商人達の威勢の良い声に連られ、どんどんと客足も増え今やこの街は大きな噂を産み出した最近話題の街として有名になったのだ。
そんな街の一角で
「いらっしゃい! 今日のおすすめは鮮度抜群の海の幸、シャックウェールの煮付けなんてどうだい?」
「お、おう、んじゃそれ頼む」
「あいよ! お兄さん、良い目付きだね、代金はちょいとばかし負けておくぞ!」
「そりゃありがてぇが・・・お、おっさん、俺達ぁ魔族だぞ?」
それは店の主人も知っている。顔は普通の人間であるが、腕やら足やらには獣のような茶色の毛が覆っており、その手は熊の様に肉球やら爪やらが生え揃っている。
その側に付き添っていたもう一人の男に関しては、亜竜人であり顔も手足も人・・・というよりも蛇に近いそれだ。
互いに不干渉、それが魔族と人族の間に引かれた境界線だというのに、この店の主人は・・・いや、この街の住民は皆が皆、魔族に対しても人に対しても同じような振る舞いをとっている。
それがこの魔族達にとっては非常に不可解なのだ。
「あんたら、この街の噂を聞いてきたんじゃないのか?」
「は? いや、知らねぇが・・・噂?」
「あぁ、そんじゃ仕方ねぇわな。ここは魔族と人とが治める小さな街カナンだ。つい最近ここら一帯を取り仕切っていた商人ギルドの連中がいてだな、そいつらが無茶苦茶やっていてだな・・・それが王都の騎士に目をつけられて捕縛されたのよ。なんでも奴隷売買を裏で取り仕切っていたとかだそうだ。で、まぁ今はここら一帯の管理をギルドと新しい商人ギルドが管理してんだよ」
「それと、俺らになんの関係があるんだ?」
「あぁ、それはだな・・・お、ちょうど来た! おーーーい、ハーピーの嬢ちゃん達ーーー!!」
店主が空に向かって大声を上げる。長年商売をしていたその声は非常によく通る、空高くを飛行していたその魔族達は店の主人の声を聞き、空から滑空しておりてくる。
風を切って滑空してくる手が翼の魔族は地面と激突する瞬間に一度大きく翼をはためかせると、今までの速度が嘘かのように空中で一度静止し、三本の鋭い爪を生やした足で持って大地を踏みしめる。
その魔族・・・ハーピーは人間である店主に臆することもせず何かあったかと小首を傾げ言葉を紡ぐ。
「何かあった? 問題があれば私達は主人様に報告するけれど?」
「あぁ、巡回中にすまんな! この魔族さん達、ここに来たのは初めてらしくてな、ここを紹介してやってくんな!!」
小柄のハーピーは魔族達に視線を送ると、何かを考えるように一度目を空に向けて、アッと口を開くと一度ペコリと頭を下げて懐から一枚の紙切れを取り出した。
「ここはカナンの街です。人と魔族が盃を交わし、昼夜を問わず言葉を交わす街。商人ギルド『オースエル』、カナンギルド本部サンタナ様より、魔族との密接な交流を打ち出しております。また、『すぽんさー』?の我らが主人が魔族・人族の皆様の意見を聞いて回り、より良い街づくりをしていきます。もし何かございましたら、空を巡回中のハーピーかギルド本部にて窓口を担当する魔族課(仮)までお越しください。尚、ハーピーは巡回警備を担っている為、緊急時には皆様のお声が届かない事もあります。また、空高く飛行している為、お声が届かない時がございます。その際は最寄りの露店を営んでいる方にお声掛けいただけますと、元気なお声か支給された笛を持ってハーピーを呼んでくださいます。以上となります。新生カナンをお楽しみいただけますよう、我々一丸となって頑張りますので、どうぞ心ゆくまでゆったりとお過ごしください」
紙に書いてある口上を読み上げると、何か疑問はございますかとばかりに首を傾げる。一方自分たち魔族はそのハーピーの言葉にぽかんとして、現実味のないその言葉を頭の中で必死に反芻する。
店主がハーピーに「ありがとうな」って伝えると氷に浸された魚を一匹ハーピーに投げ渡し、ハーピーはそれを器用に足でキャッチして嬉しそうに空へと羽ばたいていった。
「どうだ、お前さんらわかったか?」
「わ、わかったが・・・ほ、本当なのか?」
「あぁ、本当さ。こうやってお前さんらと俺が話しているのが証拠だろう? まぁ、それと運がいいわな。俺は特に魔族とは良く関わってんだ。前はスープ屋をやってたんだが、さっきハーピーが話してたスポンサーってのをやってる魔族に気に入られてな。魔族はちょいと気性が荒いがそこらの人間の冒険者と変わらねぇってわかったんだよ。街にはまだ魔族に対して余所余所しい奴もいるが、そういう奴等には笑いながら喋りかけてくれや。んじゃ、商売を続けっから行った行った!! もし、いろんなところを見てーってんならギルドに行ってみな。今日は名物のギルド嬢が働いてるはずだから損はねぇぜ・・・あぁっとでも口説こうとしても無駄だからな。既に数十人近くが物理的にも精神的にも切られてるからな!!」
魔族達は呆気に取られていたが、なんとか意識を取り戻すと店主に礼を告げ街を見て回ることにした。ギルドを目指しながら、周囲を観察する。
多くの人族達が街中を行き交い、露天に並べられた商品を吟味し、あるものはどこかに向かう予定でもあるのだろう露店を横切って何処かへと歩み去っていく。
・・・普通の人が治める街であれば、そこで終わっているだろうがこの街ではその人に比例して魔族も街中を歩いている。夕暮れ時、人が少なくなった街を行き交う者が殆どの筈の魔族達は、こんなまだ日が昇って少しの時間・・・日中に出歩くことなどない。しかし、この街では日中であっても多くの魔族たちが街中を行き交い、店に並べられた物を見定めている・・・それに対して商人たちも積極的に話しかけており、人間と魔族たちとが話し合っている姿が多く見受けられる。
「一体なんなんだここは・・・」
「フシュルル・・・俺たちに疑問を持っていないってのか?」
そんな街中をキョロキョロと見回しながら歩いていると、歩いている方向からやってきたそれに俺たちは気づくことができないでいた。
ドンッと小さな衝撃と共に足元にわずかな衝撃を覚える。小さなアッという声と共に、続いてドスンと何かの音が聞こえる。
驚いて足元を見てみると、小さな人の子が尻餅をついて道に座り込んでいた・・・どうやら前を見ていなかったヒーマと同じくして前を見ていなかった人の子がぶつかってしまったようだ。
子供は驚いた表情で上を見上げると、そこには魔族であるヒーマの顔を見えた・・・こう言ってしまってはなんだが、ヒーマの顔は非常に怖い。俺たち魔族からしても魔物の龍に似ているその顔はかなりおっかない・・・そんなヒーマと人間の子供がぶつかったとなれば、もう結果は見えているだろう。
「・・・す、すまない! 無事か」
焦った亜竜人の『ヒーマ』は尻餅をついた子供に、自分も同じ目線となる様に視線を下げる・・・あぁ、それは逆効果だ。
「うわあああぁぁぁん!!」
大声で泣き始めた子供に俺もヒーマもどうすればいいのかわからずにオロオロとする。周りにいた人も魔族も何事だと振り返り、余計にパニックに陥った俺達は、目を合わせてどこかに逃げ込もうと、一歩後ろに足を引く・・・すると、頭にフヨンッと柔らかい感触が襲い、何だと背後を振り返る。
そこには自分達を優に超える大きな体躯に額から一本の鋭利な角を生やした魔族が立ち塞がっていた。ギロリと見下ろされたその視線から、ここで俺達は死ぬんだと恐怖がこみ上げて一歩も動けなくなってしまう。
恐らくは女の魔族・・・自分達が頭に感じた柔らかい感触は、服から山のように張り出したその魔族の胸だった。
その魔族は手に持った荷物を地面においてこちらへと歩み寄る・・・死を覚悟した俺達は目を瞑り歯をくいしばる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
しかし、幾度待とうと何もやってこない。うっすらと目を開くとそこにはその魔族はおらず、しかしその魔族が置いていったであろう荷物だけは置いてある。
「おーよしよしぃ。痛かったんだねぇ・・・大丈夫だよぉ。あのお兄さん達は怖い人たちじゃないよ。ほーらトカゲさんだよぉ」
背後からどこか間の抜けた声が聞こえ、後ろを振り返るとニコニコと笑った大きな女の魔族が泣いてた人の子を抱きかかえてユーラユーラと揺れている。
子供はその魔族に抱きかかえられ、泣くのをやめてもう一度ヒーマを見る。
「ほーら、怖くないよぉ。お姉さんもついてるからねぇ。あのトカゲさんも優しいから大丈夫だよぉ。君達もけがはない?」
「お、俺たちもけがは・・・ッおぉ・・・」
パニックに陥っていた脳内が冷静さを取り戻す・・・怪我はないかと問われて、大丈夫だと返そうとしてそこで初めて女魔族・・・いや、彼女の顔を見た。
美しい・・・今までに見たことのない様な美しさだ。
額から生えた一本の角は陽光を反射してキラキラと光り輝いき、彼女の大きな瞳はじっとこちらに注がれている。大きな体躯から伸びる手足はムチっとしていて、その大きな大きな胸に抱かれた子供の沈む具合から察するにそこら高級クッションよりも柔らかいであろう。
にこりと微笑んだ口元、その佇まい・・・恐ろしい程の包容力、俺とヒーマは開いた口が塞がらなかった。
頭に当たった感触を今更になって脳内で反芻し、異常なまでの心地良さを感じた事を思い出す。
「気をつけなきゃだーめ。ここは、いっぱい人が通るからね。君達も覚えておくようにぃ」
「え、あ、はい」
「フシュー・・・わ、わかった」
子供は完全に泣くのをやめ、その胸の中でウトウトとし始めている。それから間も無く完全に目を閉じて、寝入ってしまった。
「あ・・・寝ちゃった? ど、どうしよう・・・」
「ヨウキ様!! 我々にお任せを!!」
どこからかズザザッと大勢の人間と魔族が現れる・・・すると、彼女は胸に抱いていた子供を一人に任せて「お願いするねぇ」と告げて、そこに現れた人と魔族達は『御意にッ!!』と告げると各方面へと散らばっていった。
最後に彼女は俺達の後ろにあった荷物を持つと、バイバーイと手を振ってその場を後にした・・・。
・・・・・・いったい、なんだってんだ。
「・・・」
「・・・」
「お二人さん。呆然としてるところ悪いんだがちょっと来てもらうよ」
ぼうっと彼女の後姿を眺めていると、突如後ろから声をかけられ路地へと引っ張りこまれてしまった。
薄暗暗がりに佇む一人の人族の男に、よろけながらも剣を引き抜いて人族の男に突きつける。
「て、テメェは誰だ!?」
「フシュウゥゥ・・・なんのつもりだ?」
「あぁ、いやいや、ごめんごめん。ちょっとした・・・まぁ勧誘だよ」
男の人族はヘラヘラと笑う・・・人族の男はにやにやと笑いながら『勧誘』という言葉を告げる。
「あの人はヨウキさんっていうんだよ・・・言うなれば、我々の母なる神なんだ」
「な、何言ってやがる?」
「頭に感じただろう・・・神の象徴を、そして君達はもう知ってしまった筈だ。彼女の包容力に」
「フシュゥ、ふざけたこt」
「俺は彼女の親衛隊でね、素質のある人たちに声をかけてもらっているんだ。今この街にはいろいろな派閥があってだな。俺は素質のある人物に声をかけているんだ・・・それが人であっても魔族であってもね。そこで君達にも我々ヨウキさん親衛隊に入らないかと・・・勧誘しに来たってわけだよ」
訳のわからないことを口走る男に、ヒーマと目を見合わせて逃げる算段を取る。そして、足に力を入れて逃げ出そうとした瞬間、男から一言紡がれた。
「ヨウキさんの役に立てば、さっきの子供のように・・・いや、それよりも熱く抱きしめて貰えるんだ。我々はそれが忘れられなくてね。ヨウキさんの役に立ち、褒められる善行を重ねれば・・・目一杯抱きしめて貰えるんだよ・・・俺は既に三回それを経験している」
「「・・・」」
言葉を失った・・・。
男は俺たちの変化に気づき、いやらしく口角を上げる。
「詳しく聞きたくないかい? 彼女の親衛隊に入り、彼女の包容力に包まれたくはないかい? 残念ながら彼女の一番はあのお方に取られてしまったが、まだ二番の席は空いているはずだ・・・さぁ、くるのだ・・・此方側へ」
自然と足が出る・・・一歩、また一歩と吸い寄せられる様に、男の元へと俺とヒーマは足を踏み出してしまった。
小さく・・・そして、小さく男がつぶやいた。
「ようこそ。カナンへ」
俺とヒーマはその日『ヨウキ親衛隊』へと入っていた。
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side ???
豪華なシャンデリアに照らし出されたその一室・・・円卓を囲う様に配置された椅子に着く人物達は、皆年老いており、顔に刻まれた皺の数は彼らが長い年月を生きていた証だ。
そんな一室で催された話し合いは、昼間から始まっているにも関わらず今や陽は沈んでおり、世闇が周囲を包んでいるのだ。
「それでは今回もいつも通りでいいのだな」
「いいじゃろうて、奴らが少しでも苦痛と感じるならばそれで良いのだ」
「老公・・・ここは、強く出るのが得策ではないか? 此方からも幾らか手配しようではないか」
「フェッフェッフェ、そう急くなて・・・奴らをじわじわと弱らせていけばよい」
「じゃが、近年あの者共は調子付いておる。『三聖将』共の下っ端もやられたであろう? ここは一度痛いめを見せるというのも」
「まてまて、あの手紙を忘れたとは言わせんぞ、次にしくじったとなれば奴等に付け入る隙を与えかねないぞ」
そんな議論が黙々と続けられる。その老躯は全身をすっぽりと包むローブに包まれており、胸元には彼らが聖印と呼んで止まない紋章が刻まれている。金糸の刺繍がいたるところに施されており、それぞれには色とりどりの宝石が埋め込まれている。
その老公達の直ぐ側には様々な形状の杖が置かれており、木で作られた杖だけでなく青銅で作られたものも、あるものは金やら宝石やらでゴテゴテと装飾を施した杖までがあった。
そして、議論が終盤を迎え、いつも通りの結末を迎えようとした時、コンコンコンと小さく扉が叩かれる。老公達は議論をぴたりと止め、今この瞬間にこの部屋にやって来るであろう人物を考える。
国家の重鎮である自分達が開いている重要な会議に水をさせるとあれば・・・それは、数える程度しかおらず、またこのタイミングで扉がノックされるということは面倒事である可能性が高い。
老公達は一斉に口を噤む中、扉の向こう側から声が届く。
「ウォルトヘイムでございます」
「・・・ふむ。その場で発言を許可する。中に入ることは許さん・・・して何様だ?」
「はっ、今しがた我が『駒』が戻った次第なのですが・・・少々問題が発生しておおります」
「フンッ貴様らで解決せよ。我々は・・・」
「その者はこう述べておるのです」
男が次に発した言葉に老公たちにどよめきが走る。
「・・・それは、誠か?」
「真偽を確かめていただきたく・・・しかし、『駒』に無かった力が芽生えているのも事実。そして、聖剣が呼応致しました」
オォ・・・と老公達から声が漏れる。
「経緯はまた聞けていませんが、その志は我々に匹敵するものだと思われます」
「では・・・」
「はい・・・。大至急、準備を進めます。しかし、今一度確認の方をいただければ」
それを告げると、扉の向こう側に立っていたウォルトヘイムと名乗る男の気配が遠のいた。
そして、ウォルトヘイムから齎された吉報は老公達を歓喜させるのに充分であったのだ。沸きに沸いた・・・ようやく彼らの悲願が成就するときが来たのだ。
老公達は一斉に天へと祈りを捧げ、側に立てかけていた杖を持ち最大級の感謝を捧げる。そして口々にこう告げたのだ。
「我ら聖徒に祝福を。業深き魔の者に粛清を」
余談
俺(熊の魔族)とヒーマ(トカゲの魔族)がギルドに行っていたら、ギルド嬢親衛隊に入ってしまっています。
ハーピーの裏観察日記・派閥帳
依存値(高)・・・ヨウキ親衛隊:ご褒美『包容』
依存値(高)・・・ギルド嬢親衛隊:ご褒美『冷たい瞳』 ボーナス:『時折見せる笑顔』
依存値(尊)・・・ルリ親衛隊:ご褒美『激励の言葉』
依存値(マニア)・・・キク親衛隊:ご褒美『ヨシヨシ』
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
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