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商戦:商人ギルド『オースエル』でした!

読者の皆様は夏休みに突入されたのでしょうか?

今週は本当に多くのブックマークをいただきました!

評価もいただきありがとうございます!


次話で終章となります!


商人ギルドVS商人ギルド

side 商人ギルド筆頭:ベルモンド


 長机を挟んだ向こう側・・・ニコニコと微笑みを讃える商人の男が机に肘をついて此方を見据えている。対する我々は今日この日に会合を設定したばかりに商人ギルド全員がそこに座らされている。


 対面する男の顔には見覚えがある。最近めきめきと頭角を現し、我々商人ギルドの中でも度々名前を聞くことがあった男だ。貴族出身のボンボン貴族が次々と商売に手を出しその全てを成功に収めている・・・と。

 その男が最近商人ギルドを立ち上げたとは知っていたが、我々の商売圏には一切手を出さず、規模も危険視するほど大きいものでもなく、ノーマークだったせいで事前の情報が一切ない。


 そんな商人ギルドが我々の商館に何の連絡もなくやって来るとは・・・普通なら無礼者と追っ払うところだが、その男の背後で目を光らせている者達のせいでそれができずにいる。

 騎士の鎧に身を包み、その鎧の胸元には頭部から剣を生やした馬の紋章を刻み込まれている・・・王都に少しでも関わりがある物ならそれが一体何を示しているのかがわかる。間違いなく『レェベン』騎士爵の物だ。そして、それだけに留まらず、横にいるのはクマの横顔の様な紋章を鎧に刻んだ騎士の姿、つまりは『ヴォルドス』騎士爵の者達までいる始末だ。


「お初にお目にかかります。私は商人ギルド『オースエル』に属しております、ツェーク商会のシュークエル・アイン・カンツォエルと申します。以後お見知りおきを」

「あ、あぁ、商人ギルド『カッツァ』の取締役、ダリウス商会、ルーテンブルク・ベルモンド・バルメルクだ」


 噂には聞いていたがやはり貴族・・・相手が平民での商人であれば高圧的に出られたが、奴も同格の商人貴族であるならこちらは対等に話し合いをせねばならない。

 あの役立たず共は帝都の騎士に怯えて表に出てこようとはしないため、力で脅すこともできない・・・いや、いたとしても王都の騎士爵がバックにいると分かればさすがの奴等も身動きが取れんだろう。


 ・・・いったい何の目的でこちらに来たというのだ。騎士爵を引き連れてまで此方にやって来たという事は穏やかな商談と言うわけにはいかないだろう。

 しかし、大方の見当はついているのだ。恐らく、魔族に対する不遇措置の取り下げを求めるのだろう。王都は表向きは魔族との友好関係を築く為の人魔共生の政策を行っている・・・この街はそれに反しているも同然だからな。


 もしもそれが議題であるのならば、此処はいったん規制を緩和してやろう・・・だがしかし、後は使用人に魔族のごろつきを雇わせ、人を襲わせて怪我でもさせてやれば、規制が緩んだせいだと言い掛かりをつけてまた魔族を冷遇してやればいい。

 ・・・だが、もし、そうではなく王都で行ったあれについての事を問われたのなら・・・いや、そんなわけはない、あれだけ貴族に金を横流しして口を封じたのだ。それを流すことはあの貴族達にとっても自分の首を絞める事となる。


「突然の訪問申し訳なく思うけど許してほしい。少々ルーテンブルク様にお聞きしたいことがあってですね」

「なんだ?」

「いえいえ、カッツァ商会に置かれましては、さすがと言うべきか色々なお声が聞こえてきまして、やはり大手商人ギルドの方々と言うのはかなり儲かっている様子ですね」


 この糸目の男・・・シュークエルの心理が読めない。

 我々に対して商談を仕掛けてくるのか、それとも何らかの事柄を糾弾してくるのか。

両脇に立つ騎士は凛と立ったままその場から動こうとせずに、言葉を告げる男に視線を落としている。


「その売り上げについてなのですが、メルデッサの港に貴方様の商館があると聞き及びました」

「あぁ、そうだな。あそこの港は我々カッツァが8割を所有している港だ。漁場の融通と航路の確保、物資の運搬などは主に我々が行っている」

「えぇ、そう聞いております。カッツァ商会の運営力の高さは、私達オースエルも見習いたい所がありますね」


 ニコニコと笑いながら告げるシュークエルの言葉に港の管理を任せている商家の者達がフフンッと得意げに鼻を鳴らす。

 メルデッサ港は王都での商売が軌道に乗った頃に漁場を買い取ったのだ・・・それまでいた港の協会の者達は多くの漁場を持ってはいたが造船技術が低く、魔物が多発する地帯が多い事に頭を悩まされ港を運営する資金も徐々に減って来ていたのだ。そこを我々が買い取り、安定した収穫量の望める漁場を確保し、造船に関しても我々カッツァの物資を用いて丈夫で多くの魚を収穫できる船を作り上げていた。


「えぇ、その港ですが、私達オースエルが所有することとなりました。此方がその契約書となります」

「な、なんだと!?」

「そんな馬鹿な! ふ、ふざけるな!!」


 シュークエルから奪い取る様にして契約書を受け取ると、その内容に一言一句漏れが無い様に何度も目を這わす。


『メルデッサ港における、漁場の所有・船籍の維持・物資の確保・他領への搬入をカッツァよりオースエルに委譲する。また、当該契約における漁場の所有(漁場の確保)についての人件費・物資・手数料等はオースエルが全額負担することとする。販路等の確保はオースエルに属する商家の者のみとする』


 目を疑った・・・。我々カッツァが長年請け負ってきたメルデッサの所有権全てをオースエルに・・・この男に全権を乗っ取られ他ということが簡潔に書かれていたのだ。

 王都での一番の財源がなくなったことによって、我々カッツァの一番の収入源はメルデッサ港での物資の遣り取り・・・つまり交易や海産物の仕入れなどが主になっていたのだ。


 それがなくなるという事はこの商人ギルドの存続が危ぶまれる程に状況は逼迫する・・・いや、それだけでは済まされない。メルデッサ港には我々がかねてより交易を行っていた各地方の様々な交易品が到着する・・・それは海産物だけにとどまらず、生活必需品、衣服等に用いられる綿、建築や武器防具の生成に必要な鉱石や木材、娯楽品の数々などを輸入していた。

 そこが閉ざされた今、我々はそれらを受け取れなくなってしまった・・・それを受け取るには馬車での交易となるが海と馬車とでは掛かり、費用が数倍単位で変わってくる。また、費用だけではなく、掛かる時間に関しては数十倍にも及ぶだろう。


 中小の商家であればそれでもまだ持ちこたえられるだろうが、大きく膨らんだ我々にとっては時間の消失と費用の出費は首を括るしかなくなるわけだ。

 そんな馬鹿らしい契約は直ぐ様解約すればいいが、商人の手順として書類のやり取りだけでは済まされない。解約するだけでもそれは数ヶ月単位での時間がかかる・・・それに掛かる費用は、とんでもない損失になることは目に見えている。


 こんなことが・・・こんな事が許されるはずがない!!


「馬鹿も休み休み言え!! 我々商人は契約を重んじなければならないのは貴様もわかっているであろう!! こんな一方的な破談は商人としての格を落とし、方々から白い目で見られることは間違いないのだぞ!! 貴様がこれから行う商売行為の契約は全て流される!! 何せ貴様と契約したところで全てがこのように破断されるのだからなぁ」


 冷や汗を垂らしながらもなんとか反論に成功する。そう・・・この世界では契約こそが全てなのだ。契約を破るという事はそれ即ち信用の全てを失うと同義であり、商人がしてならないことの最も上に君臨するルールなのだ。

 それをこの男は一方的に破談してきたのだ・・・これから先奴が取り零した契約を拾って行けばまだ立て直しは測れるはずだ。


「いやぁ、まさにその通りだと思います。商売を行う者達にとって契約とは命であり、それを裏切ることは商売人としての生命をも切る事になる。それは私も心に刻み込んでいます・・・故に、私は破談したなどということは一切ございませんよ。証拠と言えるかどうかはわかりませんが、あなた方の契約書を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

「おい!! 金庫から契約書を持ってこい!!」


 傍でおどおどとしていた使用人に怒鳴りつけ金庫へと走らせる。金庫の中にはこれまでに行った契約書の数々を保管しているのだ。

 そこにはメルデッサ港のものだけでなく、今まで行った契約書全てを保管しているのだ。


 しかし、どたどたと息を切らしながら戻ってきた使用人の手には・・・何も持たれていなかった。


「る、ルーテンブルク様、契約書が、契約書がい、一枚も見当たりません!!」

「そ、そんな馬鹿な!!」


 契約書がない・・・そんなわけが、そんなわけがあってたまるか!!

 契約書は命の次に大切なものであり、その金庫はダイヤル式に輪をかけて魔法の厳重なロックを幾重にも張り巡らせた一つの要塞のような金庫だったはずだ。

 解除できるのはこの商人ギルドでは私にしかできないはずだ・・・使用人にも教えてはいるが、奴は奴隷であり命令には絶対忠実だ。もしも鍵の情報を流そうものなら一瞬にして体が爆発四散する様な重い奴隷契約を交わしている。それは如何なる状況であっても、例え精神系統を汚染する魔法を使用されたとしても発動するはずであり他者に情報が漏れることなどあり得ないのだ。


「あぁ、すまない。契約書はそちらは持っていなかったね・・・これで間違い無いかな?」

「そ、それは!?」


 シュークエルの懐から取り出された書類・・・それは王都で行った商売が記載された書類だった。今それがその場に出るという事は我々が行ったあの商売が・・・『奴隷売買』が明るみに出るという事だ。

 その書類に両脇に立つ騎士たちが目をその書類に下ろそうとした直後、俺の体は自然と動きその書類を破り棄てようと机から身を乗り出し手を伸ばしていた。


 人差し指が触り慣れた紙の感触を撫でた直後、不敵な笑みを浮かべていたシュークエルの顔が一瞬にして消失し、視界いっぱいを黒い何かが覆い尽くした。

 次いで何かが手の甲を伝う・・・暖かいそれはツゥっと手の甲を這うと一瞬擽ったい感触を齎したが、次いできたのはジンジンとした痛み、その痛みは止まる所を知らず増え続け自然と目の端から涙が溢れる。歯をガチガチと打ち鳴らし、一体何が起こったのかと視界を覆った存在へと目を向ける。


 そこには額から二本の角を生やした魔族の姿があった。異様に細い刀身の剣を何かに突き立て、その柄の部分に手を当てがって剣を固定している。

 その魔族が持つ剣からだんだんと視線を下げていくと、そこには机を貫いた剣・・・いや、机ごと自分の手の甲を刺し貫いた剣が姿を現した。


 両側に立っていた騎士達はシュークエルを守る様に前に歩み出て腰の剣に手をかけている。


「ぎ、ギィィヤアアアアアアアァァァァ!!!!」


 痛みが許容値を超えた。脳がバチバチと痛みの信号を手へと送り、それを逃れようと模索するが縫いとめられた腕は逃げる事も痛みに逆らう事もできず、叫び声をあげることしかできない。

 魔族の男は刀をそのまま刺し込み続け、柄の部分が手の甲に当たるまで剣を差し入れた・・・皮膚が切り裂かれていく痛み、血管が鋭利な刃にブツンブツンと断たれていく耐え難い苦痛、その痛みに目の前がチカチカと点滅する。


 魔族の男は机に置かれた書類をシュークエルが手に持ったのを確認すると刀を引き抜いて、机から後ろへと飛んで床へと着地した。

 引き抜かれた際に再び切り裂かれた痛みが襲い掛かり、もう片方の手で傷口を抑える。脂汗が止めどなく溢れ、佛々と血が頭に登っていくのを感じる。


「うん、よくやったな。コクヨウ」

「あれくらい造作もないことでございます。主君」


 いつの間に部屋に入ってきたのか、人間の男がシュークエルの後ろに立っていた。


「ルーテンブルク様商談中に契約書を奪い取ろうとするのは感心しませんね」

「だだ、黙れ!! それは我々の契約書」

「なるほど・・・お認めになるということでよろしいのですね? おやおや、おかしいですね。王都では奴隷の売買は禁止されているというのに、それにまさかカッツァの商人ギルドが関与しているとは・・・この契約書は偽造かと思っていたのですが、なるほどなるほど。これは貴方達のものだったのですね」


 しまった。そう思った時には遅かった・・・自分の口からそれは、我々商人ギルドのものだと口走ってしまったのだ。

 両脇に立つ騎士達の耳に、間違いなく今の言葉は届いていた。


 このままでは商人ギルドが潰れてしまう・・・いや、王都で行った数々の奴隷売買が知られてしまえば死罪もあり得る。

 どうすればいい、どうすればこの状況を抜け出すことができる・・・。


「そ、それは・・・く、クイール商会の独断であり私は知らない!! この商人ギルドでも彼はかなりの力を持っている勝手に私の印を持ち出すことも可能だ!!」

「き、貴様何を!!」


 俺と同じ席についていたクイール商会の『ザルス』が立ち上がる。奴隷売買を行っていたのは奴だ・・・ここでしらを貫き通せば商人ギルドの面目はまだ保たれる。

 王都にいる奴隷売買を行った貴族共を脅してやれば奴隷売買の罪も幾らか払拭できるだろう。


「黙れ、其奴をとりおさえろ!!」


 血走った目をザルスに向けた後、周りにいたものたちに目を向ける・・・このまま誰かが犠牲にならなければ次はお前たちだぞという意図を感じさせる目を向けると、それを汲み取ったか他の商会の者達は焦った様にザルスを捕らえる。


「き、貴様、おまえm・・・ムグッ!?!?」


 使用人に口を封じさせる。これ以上無駄な言葉を喋らせないように口を封じる。

 この場をなんとかしのぎ切るにはこの方法しかない。


「・・・ふむ。全てはその方の仕業だった・・・そう仰せになるのですね?」

「あ、あぁ、その通りだ!! 厳正な裁判の元裁いてやってくれ!!」

「そうですか、ではユガ様。あの方をお呼びしても宜しいでしょうか?」

「・・・いいよ」


 ユガと呼ばれた先程魔族と話していた人間の男が部屋を出て行く・・・。

 一体誰を呼ぶというのだ・・・とキョトンとしていると、再び扉が開かれそこには小さな女児がいた。額からは禍々しく捩れた角を生やし、こそこそとユガと呼ばれた人間の背後に立つ女児は我々の顔を見つけた直後、悲壮な顔になりガタガタと震え始める。


「ごめんな・・・『アーデ』ここでお前が知っている奴はいるか?」


 アーデと呼ばれた魔族の女児は・・・ザルスに指を向ける。一体誰なんだと思う暇もなくその指はどんどんと我々に移ろって行き、俺の元でピタリと止まる。


「・・・わかった。もういいよ。ヨウキ!! アーデを帰してあげてくれ」


 またも扉が開かれる・・・そこから現れたのは言葉を失う程に美しい長身の美女。美女は女児を優しく抱き上げると頭を撫でながら部屋を後にしていく・・・一体なんだというのだ?


「彼女は・・・俺の配下のアーデだ。『半悪魔』でな、元々は王都のスラムで売られていたらしい・・・。彼女みたいな貴重な魔族は高く売れるし、好き者にとっては彼女は垂涎の代物だろうな。そんなアーデのことだから取引先にはお前達も来たんじゃないかと思ったけど、あたりだったみたいだな。奴隷売買にはお前達も関わっていた・・・それが今立証されたな」

「馬鹿な!! 子供のいうことなどあてにできるはずがない!!」

「そうか・・・なら、あのあと解放された奴隷達や元奴隷商人の奴らにお前の事を聞いてもいいぞ。それとも現在スラムを統括している者に聞いてもいい」


 男の目がぎらりと光る・・・ヒィッと言葉にならない恐怖の声が漏れる。男の瞳が黒から赤と青とに変色する・・・手の先がドロドロと不定形に形を変え始め、身体から恐ろしいほどの魔力が迸る。


「お前達の犯した過ちは三つだ。俺の配下を貶したこと、俺の配下達にちょっかいを掛けた事、俺の配下を泣かせた事だ。本当ならこの場でコクヨウに滅多斬りにしろと言ってやりたいが、それだけじゃ生温い。せいぜい暗く臭い鉄格子の中でその短かな生を終えるといい」


 男から漏れ出る一言一言に篭る殺気に当てられ、誰もが口を閉ざしガクガクと震える。

 手の痛みも忘れる程に恐怖ししていると、シュークエルが一度コホンっと咳払いする。


「・・・私の部下が申し訳ない。しかし、今の言葉を聞いた限りではこの商人ギルドのほとんどが奴隷売買に関わっており、不当な商売を行っていたことは明白ですね。よってこの場で王都に仕える騎士から処罰が下ります」


 騎士二人が一歩前に出る。互いに懐から封筒を取り出す・・・そこには王家の封蝋が施されており、二人はそれを交換しあい、二つとも偽物でないことを確認すると中身を取り出しその内容を告げる。


「シルヴェルキア騎士団、ヴォルドス様代行より通達する。この度の王都シルヴェルキアにて起こった奴隷売買の一件に『商人ギルド:カッツァ』が関わっていることが証明された。よって商人ギルドカッツァは即座に解散、また奴隷売買に関わった者達は死罪、または懲役刑を言い渡し、商売に関する一切の権利を失効する」

「シルヴェルキア騎士団、レェベン様代行より通達する。ルーテンブルク・ベルモンド・バルメルクは爵位を剥奪、商売の一切の権利を全てオースエルに委譲、また死罪を言い渡す。以上だ」


 その言葉に言葉を失った・・・死罪・・・だと?


「商売人というものは時大きな賭けに出ることもあります。また、時に黒い話に乗ることもあります。しかし、貴方が乗ったのは真っ黒な泥舟だったようですね」

「貴様らは・・・一体なんなのだ」

「私はしがない商人ギルドオースエルの取締役ですよ・・・まぁ、貴方が乗ったのは泥舟ではなかったのかもしれませんね。しかし、貴方達が木造船の上で魚で遊んでいる間に、背後から彼らという戦艦が来たのが敗因です。ではこれにて、失礼いたします・・・」


 ここで・・・終わる。

 ここで我々が終わる・・・そんな事が許されるわけがない。


 そうだ、奴等が消えれば済む話なのだ。

 まだ・・・まだ金はある。その半分以上をあの傭兵共に渡してやればいい・・・それで、それで奴等を殺してさえしまえれば全てが水に流れる。

 あとは他国に逃げさえすれば我々の勝ち・・・ハハ、ハハハハ!! まだ、まだ勝機はある!!


 勝機はあるのだ!!!


 闇に飲まれたベルモンドの浅ましい心の叫びが、頭の中を反芻した。


 それは・・・終ぞ叶わないというのに。



 -------------------------------------------------・・・



 side ???


 血溜まりが広がる・・・十数等分に切り裂かれた人間だった物が散乱する。コロコロと目玉が転がり、細長くぬめっとした臓器が其処彼処に散らばっている。時折響く金属音も一度だけ甲高く響いたかと思えば、次に聞こえるのは肉が切り裂かれる音だ・・・それはまるで剣戟というよりも剣劇と言った方が良い程の鮮やかさでもって繰り広げられる蹂躙劇だ。

 振るわれる剣の数々に一介の傭兵が適う筈がない・・・一刀の下に貧弱な剣が折られ、一刀のもとに切り裂かれ、次いでくる何刀もの剣戟によってバラバラにミンチにされていく。


 そして、そんな傍では、何かがヂリヂリと焼け焦げ時たまブシューッという音と共に緑色の炎を吹き上げる。そんな緑色に燃え上がる様々な形をしたオブジェクトは悲痛な叫び声をあげると同時に灰へと変わり下水道を流れてゆく。

 その焼け焦げるオブジェクトを築き上げる芸術家はオブジェクトを築き上げる作業を黙々とこなす。


 ・・・そんな彼らに一矢報いようと、斬りかからんとする影があった。


「ちくしょう・・・ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう・・・チックショウ!!!」


 汚泥に塗れたその男はガタガタと震えながら、蹂躙劇を繰り広げる二人の姿を見守る。彼らはこの男には気づいていない。

 言うなれば隙だらけも同然なのだ・・・恨みの篭った瞳を向け『一人』の大男は剣を抜き放ち、傍らにバラバラになった仲間に目をくれる事もなく走りだそうと身を傾けようとしする。


 だが・・・バシャンッという水が弾ける音が響き、男は下水に身を投じる事となった。

 走る為に前傾姿勢になろうとした男は、そのまま前のめりになって倒れるなんていう無様を晒す・・・しかし、それも仕方のないことだ。


 一瞬前までにあった筈の男の足は既に下水を流れる汚物となっているのだから。


「あらあら、させませんわよ」


 暗い下水道の中、舌舐めずりする女が姿を現した。


「ちくしょう・・・何故・・・貴様らが」


 そして・・・女を見た直後、男の首は高々と跳ね上げられたのだ。


 4本の刀を巧みに振るう者、オブジェクトを作り上げる芸術家の二人は大男に気づいていなかったのではない・・・気づく必要がなかっただけなのだ。


「つまらないわ。私だけでも過剰戦力なのに・・・はぁ、陛下の護衛の為なら仕方ないわねぇ。陛下の変わり者具合にもつくづく困らされたものだけれど・・・まぁ、それも楽しいのですけれどね」


 女の溜息は下水道の水と汚物の流れる音にかき消される。女は下水の暗闇に溶け込み、消えていった。


 この後、一つの傭兵団が壊滅したのだ。

ハーピーの観察日記

海上より多数の魔物を発見。

Aランクモンスター、クラーケンの存在を確認。

傭兵の所在地・・・壊滅!?


宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!

遠慮なくこの物語を評価して下さい!!


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。


(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)


感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!

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