表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/271

商戦:商人ギルド『カッツァ』でした!

多くのブックマーク・ご視聴ありがとうございます!!


カナンに巣食う商人ギルド・・・そんなカナンの一幕。

 side 商人ギルド筆頭:ベルモンド


 窓の外、多くの人々が行き交うその道には、そんな人々と比例して多くの商人達が威勢の良い声を張り上げて自分達の商品を売り込んでいる。主婦達は足を止めて少しでも質の良い食材を選び抜こうと目利きし、冒険者達は露店に並べられた武器や防具を品定めしている様子・・・一見すれば何ら変わりのない風景ではあるが、商人達の威勢のいい掛け声の影に、視線をチラリと何処かに投げ掛ける様子も映し出されている。


 それは商人や多くの人が行き交う通りの直ぐ傍に佇む一つの建物・・・商人ギルド『カッツァ』の商館がそこにはあった。

 今やこの街の商人達全てを我が物顔で取り締まる商人ギルドであり、それにたてつこうとするものなど誰一人としているはずもない。たてつこうものなら自分達よりも遥かに莫大な資産を持った豪商達が潰しに掛かって来ると分かっているからだ。

 それにたてつかなければ安全に商売だけはできる・・・売り上げは取られ、みかじめ料も取られてはしまうがその分商売の安全は確保される・・・しかし。


「どうしてこれが売れねぇってんだ!! ちゃんと金は出すっつってるだろうがよ!!」

「そ、そういうわけでなく・・・こちらを貴方様に売る事ができないのです・・・」

「意味が分からん!! さっきの奴には・・・!!!」


 長い耳を生やした半魔族の冒険者・・・それが声を荒げて露店の商人と言い争いをしている。それを何度見た事だろうかと、街の商人達は一斉に口を噤む。

 この街の商人達に言い渡された新たなルール・・・魔族には一切物を売るな。または通常料金の倍額を吹っ掛けろとそう告げられているのだ。


 無論、そんなものが以前よりあったわけではない。魔族と人とはできうる限り不干渉・・・互いに領域を犯さず一線を引いて、最低限の付き合いだけで済ましていた。

 商人達は他の人間と同じ様に・・・正確に言えば接客をあまりせず、魔族が商品を品定めしている時なんかは特に声も掛けず、魔族の好きな様に選ばせる等をして商売をしていた。


 唯、最近大森林の方面から多くの魔族がこの街に入ってくるようになった。その魔族達は積極的に街の人間と関わりを持つようになり、ある者に至ってはギルド令嬢と言われ、冒険者ギルドに勤めている魔族までいると聞いた。

 魔族は気性が荒く暴力的・・・そんなイメージが綺麗さっぱり消えてなくなる程、彼らは人間と分け隔てなく接していて問題という問題も起こさなかった・・・それどころか、街の治安が良くなったと自警団からも囁かれるほどだ。

 ・・・ともすれば人間よりも丁寧であったと言える。


 そして、これからそんな魔族達との交流が活発になり、人間と魔族との友好が結ばれると誰もが思っていた・・・そんな時に現れたのだ。


「おやおや、何事ですかな?」


 ヒョロッとした体躯、貴族が着用する様な上等な素材で編まれた衣服に身を包み、垂れた目と薄っすらとたたえた微笑、鼻と口の下には綺麗に揃えられた髭を蓄えた、見た目30後半くらいの男が其処に立っていた。


 それに商品の売り渡しを拒んでいた商人の男は目を逸らす。


「あ、誰だてめぇ?」

「困りますなぁ。騒ぎを起こされちゃ」

「こいつが品を売らねぇっつぅんだよ! それに文句を言っていただけだ!!」

「それは規則ですのでねぇ・・・魔族には品を売らんのですよ」

「あぁ!!」


 魔族の男は額に青筋を浮かべて男に詰め寄る・・・が、その途中で足は止まってしまった。男の背後からプレートメイルと大剣を背負った二人組の大男が現れたのだ。

 たたずまいからして分かる・・・あの魔族よりも大男二人の方が強い。戦い慣れしていることがわかるその傷の付いたプレートメイル、瞳から漏れ出る殺気から魔族の男は一歩後退する。


「いやはや、しかしながら確かに売らぬというのは不和の種をまくことになるでしょうなぁ・・・ここは銀貨1枚と大銅貨5枚で手を打ちましょう」

「な!? それは幾らなんでも冗談が過ぎるぞ!! ふざけんn」

「お嫌ですかな?」


 大男が大剣の柄に手を掛けると魔族の男の顔が青を通り越して白くなり目に見えて怯え始める。品物を拒否することも許されない雰囲気・・・相場は大銅貨3枚の物を5倍の値段で売りつけられているのだ。見たところ魔族の男はそこまで冒険者のランクも高くなく、そんな出費をしてしまえば生活に困窮するのも目に見えている。


 魔族の男は歯軋りしながらポーチからありったけの金を取り出して店主に渡すと品物を受け取ってその場を逃げる様にして去って行った。

 男はフンッと鼻を鳴らし、服をパタパタとはたくと「魔族の穢れた匂いが服に移る」とぼやく、そして次いで品を売っていた商人を見ると、商人は品物の代金銀貨1枚と大銅貨3枚を男に手渡した・・・頼んでもいない護衛金だ。


 その男こそ最近この街に根を張った商人ギルド『カッツァ商会』の筆頭である、ルーテンブルク・ベルモンド・バルメルクだった。

 商人ギルドを率いてやってきたあれらは大きな商館を街の一等地に構え、次々と周辺の商館を合併し商売人達が集うこの場所を買い叩いた。この街には今現在、人間や魔族を問わず多くの冒険者や商人が来訪する・・・理由は最近巷を騒がせている『金色』と呼ばれる冒険者がここにいるという噂を聞きつけてやってきた者、そして魔族達はギルドの職員の中に大変見目麗しい魔族がいるという噂を聞きつけてやってきているのだ。商人達は自然と人と物資の流れに乗る様にしてこの街をやってきていた。


 ・・・しかし、そんな最中にあのベルモンドが行ったのが魔族に対する徹底的なまでの冷遇措置だ。品物を高く売りつけ、街に入る為の税を5倍にまで引き上げて、尚且つこの街に入ったとしても他の街や国と変わらない様に人は一切魔族に関わろうとせず・・・正直に言えば、冷遇措置がない分他の街の方がここより幾分かマシなくらいだろう。


 ベルモンドが来る前までは人も魔族も少しづつ打ち解けていったというのに、今やこの有様だ。


「魔族と一切関わるな」あの商人ギルドから出た指示に、最初は無論反発した者達も大勢いた・・・それはあの商人ギルドに入った者達にまで及んでおり、街の殆どの者達は突っぱねようとしたのだが、相手は予想以上に強大な組織だというのをその身を持って思い知らされることとなった。


 ・・・反発を煽動していた商売人達は次々とその舞台から降りていった。賛同していた冒険者や町の人々までもが口を閉ざして目を背けるようになってしまった。

 それでも反発を止めなかった商売人達や冒険者、街の人々は・・・商売人は商売が立ち行かなくなり多くの者が破産し路頭を彷徨うこととなった。冒険者達はある者は二度とその姿を見ることができなくなり、ある者は冒険者としての資格を失ってしまった。街の人々は働いていた職場を突如解雇され、再び職に就く事もできず、明日の生活に困窮する事となった・・・酷いものではあらぬ罪を着せられ投獄された者までいると聞く。


 街の治安や冒険者達を守る為のギルドも商人ギルドの圧力に押し潰されてしまい、今やこの街を統べているのはあの商人ギルドなのだ。

 誰も反発せずあの商人ギルドの言いなりとなっている・・・そうすれば、何事もなくいつも通りにできるのだ。しかし、それも時間の問題だということは誰しもがわかっていた。今はまだ良い噂がこの街にあるが、このまま行けば他国からやってくる者達は少なくなり、商売の流通は縮小の一途をたどるだろう。その時に立っていられるの商人ギルドのような大きな組織に与する豪商くらいであろう。


 そんなことがわかっていながらも・・・誰も通りを我が物顔で歩くベルモンドには頭が上がらないのだ、

 だが、何故ベルモンド達商人ギルドがそんな事をしているのか。誰も知る由もないのだ。


「ふん、汚らしい魔族風情が、私の街から出て行くがいい」


 そんな悪態が件の人物から漏れ出る。恨みが篭ったその言葉はそそくさと逃げ去っていく魔族の背へと投げかけられ、睨みつけるその目からは侮蔑の色が見て取れる。

 背後に立つ大男達はそれを見て、薄ら笑いを浮かべて愉悦に浸っており、塚に置いた手を弄びながら魔族の顔を頭の中で反芻させる。


「なぁ、ベルモンドさんよぉ。あれは殺してもいいのかい?」

「問題ない。あとはこちらで処理しておく」

「さっすがベルモンドさんだな。あんな雑魚魔族なんて一瞬で殺してやりますよ」


 ニヤリと禍々しい笑みを讃えた男達の目は、あの魔族が冒険者であることを見抜いていた。男たちは商人ギルドに雇われた用心棒だ・・・しかし、そこいらの冒険者であれば瞬き一つで斬り伏せられてしまう程の力量を持っている。

 この街にはそんな商人ギルドに雇われた者達が多く見回り行っており、その誰もが冒険者に引けを取らない強さを秘めいている。


 ・・・しかし、そんな力量を持った者達が何故商人ギルドに雇われているのか、無論楽に稼げるというのも一つの理由ではあるが、彼らにはもう一つ特別な理由がある。

 それは彼らが傭兵崩れだということだろう。


 傭兵・・・戦争を渡り歩いて金を稼ぐ者達の事であり、大きな『傭兵団』になるとそれこそ戦争の行く末を左右してしまえる程大きな組織もある。

 しかし、一人の傭兵として戦争を渡り歩くのなら問題はないが、『傭兵団』となってしまうとそうはいかなくなる。


 傭兵を纏めた大きな組織は、絶対に勝たなければならない・・・その規模が大きくなればなるほどそれが顕著になる。それは、稼ぎという点でもあるのだがもう一つの理由としてもし付いた国が敗戦してしまった場合、両国から命を狙われることとなるからだ。

 一方は自分達に仇なす者達を殺すと剣を振り翳し、片や一方は大会金を払って敗戦した腹いせや戦争で行った罪を着せようと捕縛しに掛かる。


 ・・・そう。そして彼らもまたその例外に漏れず、敗戦国側についていた傭兵団だったのだ。


 そんな最中にベルモンドが率いる商人ギルドに目を掛けられ、用心棒として雇われ難を逃れたというわけだ。ベルモンドはそんな彼らの手綱を引いてはいるが、基本は放任しており街の見回りは全てこの傭兵達に任せている。

 彼らは割のいい働き口を手に入れ、尚且つ命の保証もされ、別途小遣いも稼げているのだ。


 恐喝まがいのことをして冒険者から金銭を巻き上げ、商売人からはみかじめ料として金銭を受け取る。そんな暮らしができるこの場所は彼らにとって天国といってもいいだろう。

 そして、ベルモンドから告げられているのはそれだけでなく、反発する冒険者を陰で殺すことも許可されている。そして、『魔族』に殺されたと流言飛語を流せば、ベルモンドにとっても『彼ら』にとっても腹癒せになるのだ。


「チッ・・・邪魔な魔族さえいなければ、王都の商売も上手く行った筈なんだ!! こんな場末な街になど来ることもなかった。この俺が魔族にコケにされたままでいると思ったら大間違いだ・・・徹底的に魔族から有り金を搾り取ってどれだけ人間様が偉大かを思い知らせてやる。カルウェイ・シュナンツェ・メルデッサの街の配備も進んでいる何処に逃げても炙り出して、あとに残った搾りかす(魔族)は殺してやればいい」


 恨みの篭った言葉が紡がれる。大男二人もニヤリと口角を歪め、刀の塚を握る手に力が入る。


「まぁ、俺達にとっても魔族を殺すのは賛成だ。あの胸糞悪い魔族が俺達の前に立つだけで、自然と剣を引き抜いてしまいそうになるんだよ。今更傭兵団に未練はないが、クソ魔族のせいで俺たちは辛酸をなめさせられ泥水を啜る事になったんだ・・・あの糞に一太刀入れるまでは死ねねぇな」


 大男たちからは殺気の篭った言葉が紡がれる。魔族に対する純粋な殺意・・・彼らの目に焼き付いた一人の魔族の姿が陽炎の如く彼らの前に現れる。

 大男は剣を抜き放ち、目にも止まらない斬撃を放つヒラヒラと舞っていた枯れ草を十文字に切り裂いていた。


「あの『猫やろう』今度会ったらタダじゃおかねぇ」


 ギリギリと歯噛みする大男の目はギラギラと輝いていた。


「そういえばこの前冒険者ギルドで有名になった二人の魔族知っているか?」

「あぁ、あの受付嬢と酒飲みの女魔族の話か?」

「あれが性懲りも無く近々またこの街にやって来るらしいぞ・・・でだなぁ、まぁ言わなくてもわかるだろう? 女の魔族風情、俺とお前ならどうとでもできるだろう」

「ハハッ違いねぇな。後はまたベルモンドに揉み消させばいいんだ」


 二人の男は下卑た笑みを浮かべる。

 ベルモンドは魔族を追い落とす算段を立て、大男は肉欲を満たす算段を立てる。


 しかし、その側で複眼を赤く光らせていた存在に彼らはついぞ気づくことはなかった。



 -------------------------------------------------・・・



 side ???


「陛下、奴等のアジトを見つけた。後は俺達の部隊で殲滅しておくよ」

「・・・暫し待て、まだ攻め時ではない。今叩いたところで出てくるのは表層に浮いたゴミにしか過ぎん。殲滅するつもりであれば根元から叩き切ってやらねばならん」

「俺達なら可能だとは思うが・・・陛下の命令に逆らうわけもいかないね」


 部屋の一室で二人の会話が交差する。内容は不穏なものだ・・・当然かの様に紡がれるその言葉に数十人の人の命が左右される意図が込められているとは思えない。

 そんな言葉に、嫌悪感も罪悪感も浮かばずに言葉を交わせる二人は、すでにそれ以上の人の詩をその目で見てきているのだろう


「にしても陛下があそこまであれらに入れ込む理由はなんです? 確かに力量はあるとは思いますが、今回の件にしたって吹けば飛ぶ様な者達ですよ?」

「・・・確かに、今は蚊程の力しか持たないだろうな。しかして、あの瞳の奥に輝く光がなんとも面白くてな。あれと付き合って行けば其の内この国はもっと大きくなる気がするんだ」

「へぇ・・・まぁ陛下が間違いを起こすなんてことはないと言い切りたいが、今回ばかりは異常だと思ったんでね」

「お前は今を見据える力を持っていても、未来を見据える力を持っていない。お前は素直に我の剣になっているがいいさ・・・それに、利用できるものはなんだって利用するのが我の流儀だ」


ギロリと向けられた視線に肩を竦め、男は軽く腰を折った。


「一先ず奴等のアジトは保留だ。然るべき時が来た時に一気に叩くぞ」


 ぎらりと光るその瞳鈍く光る青い瞳には、とても人の情というものを感じることができない程の冷気を感じさせる。

 そそれを面と向かって受け取ることのもう一人の瞳にも、冷たく抜き放たれた刃の様な鋭さが見て取れる。


「・・・あぁ、それと耳に入れておきたいことがあってね。たぶん、陛下のことだから知っているだろうけど・・・・・・・・・・・・・」


 小さく紡がれた言葉に、『陛下』と呼ばれた男はゆっくりと目を閉じて大きく息を吐く。額に手を置いて何かを考える素振りを見せた後、額に置いていた手を払い一枚の書類を目の前の人物に手渡した。


「やっぱり知ってたんだね。でも、これじゃあどうしようもできないか」

「あぁ・・・」


 二人の間に暫し沈黙が訪れる。

 しかし、その視線が交差した直後、不気味なほどに口角がつり上がり二人は口を開く


「今はな」

「今はにゃ・・・あ」


 その言葉を口にした後、一人は笑いを堪え、一人は床に突っ伏すのだった。

ハーピーの観察日記

カナンにて忍蜘蛛多数配置

カナン周辺の街にて配備開始

資金調達完了、物資調達完了、人員調達完了


宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!

遠慮なくこの物語を評価して下さい!!


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。

(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)


感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ