商戦:七爪と帝都騎士団でした!
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帝都で開かれたイベント・・・い、一体協力者は誰なんだ(棒)?
人々の喧騒は鎮まる事を知らず、街に夜の帳が下りているにも関わらず知った事かと帝都に灯る明かりがそれら全てをかき消し、次いで帝都の中央から聞こえる数多の人の声が夜という静寂を吹き飛ばす。
いつもは鉄錆の匂いと共に街を吹き抜ける風も、今は酒精を帯びて酔ってしまったかの様にあっちこっちへそよそよと微風を漂わしている。
そして、そんな人混みの中に無論俺も紛れ込んでいるわけで、桜と紫陽花が刺繍された着物に身を包んで優雅にランウェイを歩くヨウキとルリの二人を眼福と凝視している。
そして、その横には俺と同じように「いつもムサい騎士たちに囲まれているからか、いや本当に眼福だ」やら「騎士団にもあんな華がいればやる気も上がるんだろうなぁ。考えてくれませんかねぇ」と、何やらボソボソと言葉を溢す二人の人影がある。
一人はつい最近見知ったばかりの人間・・・ではなく猫の要素を所々に残した人型の魔族。四本の細剣を携えており、騎士団のプレートメイルに身を包んだ騎士である。
それも只の騎士ではなく、帝国が歩んできた紅蓮の道を切り開いた七人・・・そう『帝国七爪』の一人である。聞いた話ではその四本の細剣を巧みに使い、立ち塞がった敵を一突きで数人貫いたともいわれている剣豪らしい。
・・・で、そんな人と関わりを持つきっかけになったのが、隣で新商品のバニラアイスと冷やしうどんという何とも奇怪なチョイスを両手に持っている新人騎士の『アドルフ』その人だ。
帝都に初めて来た時に一緒にパーティーを組んだ一人で、里にもたびたび顔を出してくれているらしくて、ハーピーや忍蜘蛛達警備を含め、里の魔族達にも人でありながらかなり気に入られている・・・というよりも来るたび来るたび帝国の銘菓を持ってくるもんだから里の魔族達はすっかり餌付けされて、懐いてしまっている・・・あれ、俺よりも気に入られてない?
「それにしてもこのバニラアイスと冷やしうどんというのは絶品だね。デザートは食べたことがあるけど、殆どが果物だったし、こんな冷えた甘い菓子は食べたことがない。商人達の間でも風の様に広まっていると聞くよ。それと・・・冷やしうどんだったかな? この茶色いスープと言い、この歯応えと言い本当に僕好みだよ。あ、帝都の販路はこのニャーt・・・ゲフン、隊長が確保してくれたよ」
「・・・ソンナケンリナインデスケドネ」
アドルフが俺とユベルタスさんが考案したバニラアイスと冷やしうどんに舌鼓を押す・・・それに、隣にいる帝国七爪、第二騎士団隊長の『アルベタス・カート・レヴィリアル』様がこれらの流通の販路を確保してくれたらしい。この人にはこのイベントの最初から最後まで世話になりっぱなしで頭が上がらない。
このイベントの会場の確保から搬入、騎士団の配備から演出まで・・・果ては品物の関税の引き下げまでやって貰ってしまったのだから当然だろう
まぁ、なんとなくわかっているかもしれないけど、ここまでことが大きくなったのはこの二人の力・・・というよりもアルベタス様のお陰だと言っていい。
イベントの企画を練っている最中に里からもたらされた一報で急いで向かうと、そこにはこの二人と他の騎士達が十数名いて、俺の話を聞きたいと矢面に立ったのがアルベタス様だったのだ。
どうやら俺達が会場探しやら何かのイベントやらを企画していることが騎士団の耳に入ったらしく、此処の事や俺の事を知っていたアドルフが偶々耳にして、隊長であるアルベタス様に伝えたところ面白そうだと話を聞きに来たのだ。
そこから企画の概要を説明すると、アルベタス様は快く引き受けてくださったのだ・・・因みにアドルフはその傍らでずっと聞き役に徹していた。
まさか、帝都の騎士団丸々一つ動員して、帝都全土を巻き込んだこんな壮大なイベントになるとは思いもしなかった。
お陰様でユベルタスさんは書類整理やら何やらで忙殺され、でっぷりとしていた腹が段々と引っ込んでくるし、肉まんが入っているのではないかと思えるような頬もこけていった。
無論ユベルタスさんの働きもすごかったがそれ以上に帝都の動きが物凄い速く、てきぱきとして手慣れていたのが凄い。
一瞬にして会場を確保することに成功したと思ったら宣伝の準備も始め、治安の維持から資金調達、都内の流通や販路の確保まですべて迅速に俺とユベルタスさんが指示を出すまでもなく整えてくれたのだ。
どうやらアルベタス様が自分の直属の騎士団に働きかけていたのが、帝都の王様の耳に届いたらしく・・・帝都の王様まで動いてくれたらしい。
結果、中規模のイベントが国一つを巻き込んだ一大イベントになってしまったのだ。
しかも場所は帝都、帝都は実力至上主義の国家であり、魔族と人間との隔たりがほかの国よりも少ない。帝国七爪にアルベタス様がいる事がそれを裏付けているだろう。
魔族達がランウェイを歩いてもそれを気にする素振りもない・・・それどころか、最初のシロタエ以降、登場する配下の女性魔族達を見る度に男共は鼻の下を伸ばしているし、女性陣は配下の男達を見る度にランク付けして盛り上がっている様だ。
でだ。このイベントを通して俺達が売っているのは無論服飾だけじゃないのはわかっているだろう。
このイベントを通して売っているのはまずアドルフが持っている様な『食品』だ。
うどん、アイス、果てはたこ焼きなんてものも売り出しているのだが、現在それがこのイベント会場のあちこちに出品されていて、回転率が速いというのに長蛇の列ができているのだそうだ。
アイスは作ったとしても冷やしておかなければならない。注文を受け付けた時に作っていたのでは到底回転率が悪すぎる・・・では作り置きすればとはいってもこの世界に冷蔵庫は勿論の事、冷凍庫なんてあるはずもない。
貴族や王族が所有する物を冷やす魔導具なんかは非常に高価だし、それも冷凍庫程の力はない。冷蔵庫以上にモノを冷やすとなれば魔法使いが常に温度を管理しながら冷凍魔法を掛け続けなければならないのだそうだ。
そこで俺が頼んだのが、カラドウスから此方へやって来た『デシスエルフ』達だ。その中には魔道具の制作に関わっていた者も何人かいて、その人達に依頼して試作品を作って貰ったのだ。
勿論、素材はカラドウスからカーティアさん、城塞都市マルタイルからカナードさん、そしてウェルシュバイン家の馬車便を通じて仕入れた。
で、出来上がったのは簡易札式保冷冷凍庫だ。まぁ、これも魔法使い・・・というか魔力を持ってる人がいなければ動かない物ではあるけれど、冷凍する為の魔法をずっと使い続けるよりかは十数倍魔力の効率が良い冷凍庫だ。
簡易札に仕込まれた冷気をゆっくりと箱に満たして、一定の温度をずっと保つ箱形の魔道具で、中身は言うなれば魔法瓶の様な感じになっており保冷が効く様にしているのだ。
しかもその簡易札はカーティア様オリジナルのもので、中の冷気を再度取り込んで更に冷気を高める事もでき、その際に掛かる魔力は0という新しい簡易札だ・・・因みにそれを作るにあたって、ミリエラ(仮)に物凄く尻を蹴り上げられていたとはカナードさんから伝えられた伝言だ。
忍蜘蛛達から寄せられた情報では、既に商人達の間ではあれらが一体どうやって作られているのか調べる動きも出ているらしく、それらの情報に門戸を開いたシュークエル様の商会にひっきりなしに馬車便が向かっているらしい。
「これも全部、アルベタス様のお陰です。助かりました」
「あぁ・・・アルベタス様って言うのはやめてくれると助かるよ。 なんかこう、むず痒くてね。部下からは隊長やらカートさんって呼ばれてるからそれで通してよ。後畏まり過ぎた言葉も気味が悪い」
「んー、じゃあカートさんでいいのかな?」
「それでいい。元々スラムの出だったもんだから、様とか付けられんのが嫌いなんだよ」
おぉ・・・アルベタス様は確かにサテラみたいな騎士とは違って、騎士というよりもどこか冒険者っぽい。それも、スラム出身なら納得だ。
スラムで腐っていた所を偶々通り掛かった貴族に拾われたらしく、そこから武術の才を開花させ戦闘に対する腕をめきめきと伸ばしていったのだとか。
猫・・・マルタイルにいた虎の魔族とは違って単純な力の強さでは劣るが、その俊敏さはそこいらの魔族とは比べ物にならないらしく、細剣四本を瞬き一つの内に抜き放って敵将の急所に突き立てた逸話もあるのだとか。
「因みに、同期の七爪からはニャートと呼ばれている。また、どこぞのご主人様からは度々捨て猫と」
「それ以上言ったら幾らアンタでも細剣でぶっさしますよ」
なにやらアドルフとカートさんがボソボソと何かを呟くが小さな声だったので俺には聞こえなかった。
まぁ、それはさておき、もう一つの商談と行こうか。
「カートさんに折り入って相談があるんですけど、いいですか?」
「んぁ・・・あー・・・なに?」
カートさんは腕を組みながら目線を上に逸らした後、自分に視線を向ける。何か無作法があったのかと内心ひやひやしたがどうやらそうではないらしい。
ちらちらと視線をアドルフに投げ掛けているが、アドルフは手元のバニライスとうどんに夢中になっている・・・横に隊長がいるのにそんなんでいいのか?
「相談事なんですけど、自分達商会n」
「あぁ、そういえば隊長はこれからの販路の確保も視野に入れているんでしたよね? 確かそこに続く街道の整備にも着手されているとか? それに国内では今現在質のいい鉱石やら装備品、補給物資が隣国の妨害を受けて手に入り辛い状況で物資の確保が欲しいってところに、僕が向かったからこのイベントを引き受けたんですよね? 商会の伝手が手に入りそうだって」
隣にいたアドルフさんがうどんを食べ終わったのかそう告げた。
成る程、そんなことがあったわけか。まぁ、そういった理由がなければ此処まで手を貸してくれるはずもないか。
「あ、あぁ、その通りでね。既にもうユガさんの言う手はずは整っている・・・よ?」
「それに、今回の意見を王様が甚く気に入ったらしくてね。継続的に君達と交流を持ちたいらしいよ。いやぁ、隊長も王様にいい土産話ができたって喜んでたんだよ」
「ま、まったくだね」
ニコニコしながらアドルフさんは捲し立てる・・・どことなくカートさんが動揺している気はするけど、そこに触れてはいけないという直感が働いて、そこまで気にもならなかったし流した・・・というよりも、そんなこと頭に入ってこなかったという方がいいだろう。
何故なら・・・
王様が気に入ったってマジか・・・。
王様の耳に入って助力を得る事が出来たっていうのは聞いたけれど、まさか継続して交流を持ちたいって言ってくれるとは思いもしなかった。
今まで貴族と接する機会は合ったけど、さすがに王族とは全く接点がない。しかも、確かこの国の王様は一代でこの帝都を強国にのし上げた相当なやり手だそうで、気に入らない貴族を片っ端から殺して回り戦争によって国を豊かにしたと他の国々から恐れられている王様だったような・・・。
そして恐怖政治を敷いている・・・かと思えば残った有能な貴族や忠実な配下達を引き連れて、疲弊していたこの国をあっという間に立て直し、人民からも臣下達からも厚い信頼を寄せられていると聞いた事がある。
産業を発展させ、長所をより伸ばし、小さな国ながらも強国へと発展させた王様・・・そんな人に気に入られて嬉しいと言えば嬉しいけど礼儀とか知らないし、もし会うことになんかなったりしたら絶対不興を買ってしまう自信がある・・・よし、ヨウキとソウカイに代理で行かそう。
「どうしたんだい? まるで、『王様に会うことになったらどうすればいいんだろう?あ、取り敢えず配下達を連れていけばいいや』みたいな顔をして」
カートさんならともかく、アドルフにばれちゃってるよ・・・。
「まぁ、そんなに構える心配はないと思うよ。王様は優しいし、案外そこいらの青年と変わらない陽気な人かもしれないよ」
「しかし、【渇血】だよね」
「うるさいぞ」
なにやらさっきから二人でぼそぼそとしゃべる事が多いけど、まぁ気にしないでおこう。まぁ、そんな喋りやすそうな人ならいいんだけど、仮にも王様がそんな人なわけがない・・・聞いた話からして、身長は2mくらいあって大剣を握ってぎらついた眼をして玉座で肘をついて睨んでくる将軍みたいな王様しか想像ができないんだよね・・・。
「あ、そうそう。これからユガはどうするんだい? あのふぁっしょんしょー?っていうのが終わってもまだこの喧騒は終わりそうにないし、でも君たちはまだ何かすることがあるんだよね? 隊長に聞いたんだけど」
「あぁ、えっと、これから王都にいくつもりだよ」
「へぇ・・・道中は問題ないかい?」
「たぶん大丈夫だと思うよ。配下達もいるし、王都には伝手もあるから」
「あぁ、あの貴族の令嬢だね。それなら安心できるよ・・・あぁ、それと、もし何かあったら僕にいってくれてもいいよ。僕g・・・隊長がどうにかしてくれる筈だから」
と、アドルフは笑いながら言うけど、カートさんに迷惑かけまくりなんだがいいのかな。カートさんは大きなため息を吐きながら仕方ないとうなだれる。どうやらカートさんは相当な部下思いなようだ。
最初にこの帝都に来る前は実力至上主義と聞いてもっと殺伐とした国なのかと思っていたが、エリーザさんといいこの二人といい国民性は非常に良い人達が多い・・・あ、いや、変わっている人が多いだけと言った方がいいかな・・・あの親バカ貴族もいたしな。
「それじゃ、私もそろそろ監視に戻らせてもらいますにゃ・・・あ」
再び落ち込んだカートさんをアドルフが笑いながら慰めている中、俺は大成功に収まったファッションショーを眺めた・・・さて、次は王都だ。
忍蜘蛛の情報が本当で、里にいたあの子の証言が本当なら、あの商会の連中を追い落とすことも可能だ。俺の大切な配下達に手を出した事、たっぷり後悔させてやる。
・・・・・・・・・あれ、そう言えば、『貴族の令嬢』って、俺アドルフにサテラのこと言ったっけ?
あ、いや、アンネさんのことを言ったのか。それならわかるけど・・・なんだか、違和感があるんだけどなぁ。
考えても答えが出ず、結局俺は考えることを諦めて、いつの間にかランウェイで始まった握手会に、新たな商売を思いつくのだった。
ハーピーの観察日記
初めてのお酒
自分除く全てのハーピー千鳥足
ソウカイ様、コクヨウ様、ショウゲツ様の飲み比べ対決、ソウカイ様の一人勝ち
※尚、リーダー、酔い潰れてノックアウト
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遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
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