商戦:魔族が行う人との商売でした!
本日は二話投稿です!
シュークエルVSユガです!!
シュークエル様は鋭い目をして俺を見据える。魔族というのは人に敬遠されている存在であり、そんな魔族と人間とが唯一共存しているのはカナード様が治める魔族の国『カラドウス』だけであり、それを経ても尚、魔族と人との間には深い亀裂が入っている、
その溝を埋めるのは途方もない努力が必要だろう。それはシュークエル様だけでなく、俺も重々承知している。あのカナード様であっても人間と魔族の引き起こす問題には度々悩まされている。
俺が放った言葉はその垣根を飛び越えて人間と魔族で商売をしようと申し出ているのだ。シュークエル様が厳しい顔つきになるのもうなずける。
理想論だと突っぱねられるのが関の山だろうが、申し出ているのは紛れもなく魔族であり、ウェルシュバイン様との交流やカナンとの交流を順調に進めている俺が言っているからこそシュークエル様は耳を傾けているのだ。
「現状見える範囲で言わせてもらえるのならば不可能です。魔族は人間から忌み嫌われている存在です。表面上それは無い様にとされていますが、今でも人間と魔族の関係は最悪と言っていいでしょう。一番できる良い処置として正しいのが無関心です。そんな魔族が人間の街で市場に店を出したとしても、まず間違いなく人は寄り付きません。極少数の魔族であれば来るかもしれませんが、それでは利益という観点から見ても旨味はない。それどころか我が商人ギルドがそんなものを運営していると知れれば、信用が落ちるのも目に見えています。ハイリスク、ローリターンな商売など続くわけもない。たとえ貴方のアイデアが優れていたとしても、人と魔族との関係はそこまで根深い物なのですよ」
シュークエル様が発言したことに間違いはない。そういわれることも予想はしていたし、想定通りではある、人間と魔族はお互いいない者として扱っており、特に人間の街に流れ着くような魔族の大半は魔族の国に住めなくなったよう者が多い。
つまり、素行も宜しくないというわけだ。人と違った見た目が異形の存在であり、人よりも強いその力を秘めた魔族は敬遠されて然るべきなのだろう。でも、そこで立ち止まっていては元も子もないのだ。
「勿論、無策でそう言っているわけではないです。俺には伝手もコネもある・・・そして見識もある。魔族というのは確かに異形の存在であるものも多いけど、隣に座るヨウキやシロタエなんかは人に近い見た目をしている。そんな彼女達を魔族と知った上で、着いてくる人間達もいた・・・腹立たしいけど街を歩けば殆どの男はヨウキやシロタエを凝視することも知ってる。魔族であれど、見た目に関しての美意識は人間も魔族も共通だ。人間に寄せてしまっては本末転倒かとは思うけど、それが小さくて大きな一歩になるんじゃないかと思っている・・・現にそこの二人はヨウキの胸をさっきからちらちらと見ているわけだしな」
ビクッと体を震わし、二人は視線を逸らした。シュークエル様だけは俺から視線逸らさずに苦笑を漏らす。
けど、やはり心の底では笑っておらず、俺の抜いた刀に対して剣で持って鍔迫り合いを繰り広げている。
「商人ギルドとしての信用は重要であるとは承知している。だが、そこで立ち止まっていては新しい道を開けないと思うのだけど? 今俺達が切れるカードはさっき述べた四つ・・・それと旅の中で出会った人達との交遊力がある。帝都の貴族と騎士、王国の貴族とも繋がりを持っている。それをフルに活用すればその願いも達成できると思っている・・・それに対する商人ギルドの見返りは、『名前』をブランドにする事だ! 俺達がやるのは競馬のような大きなイベントだ・・・それにスポンサーとして、出資者として名前と資金を貸し出してくれればいい。名前が売れれば商品も売れる、そのイベントに出す物全てをこの商人ギルドで扱うモノ一色に染めればいい」
「しかし、そこまで大きな催しを行いたいというが場所の確保は済んでいるのかい? それに結局、人間が魔族を忌避することは避けられない。名前を売るとは言うが、それを行って名前が地に墜ちてしまえば我々は路頭を彷徨い野垂れ死にすることになるんだ。今の会話からは導き出した成功の確率は至って低い。そんな状況では今のところ分の悪い賭けにしか聞こえないんだよ。貴族との交友を持っているとはいっても、貴族は領地を貸し出すはするだろうが、それほど密に関わるとは思えない。それにあの商人ギルドはそれさえも邪魔してくると思うしね」
シュークエル様は石橋を叩いて渡るどころか、その横に金属の橋を立てさせるくらいに慎重だ。商売において無策や適当、慢心は敵・・・それが脳髄に沁みついているのだろう。
俺の言葉一つ一つを冷静に分析して底から成功する確率を導き出し、理想や夢・願望を悉く打ち消している。理想という名の全てを除外して、数字で全てを換算しているのだ。
「それに対する算段もついている。シロタエと今は事を運んでいる最中だ」
「それが失敗に終わればまた君達は・・・ないし僕たちは敗北してしまうのだよ。失敗を恐れていては新たな商売はできないが、『失敗を恐れない』にはそこに至るまでのちゃんとした道筋があるんだ。それをまだ君達は示せていないよ。『恐らく』や『たぶん』では困るんだよ。『確実に』成功する算段を教えて欲しい」
「今俺達が持ち掛けているのは帝都では知らない者はいない、服飾職人エリーザ・ローラ様を主催としたファッションショーだ。もう既に準備に動いている。貴族のみならず一般市民にもより広く知って貰えるようにその名前を貸してもらえる様に交渉も済ませてある。エリーザ・ローラの知名度や街からの信頼度はかなり高い。そんな人が主催するファッションショーならば、魔族同行の意識は薄くなる。主役は魔族ではなくくエリーザの作り出す商品だ」
「え、エリーザ・ローラ!?」
それに反応したのはユベルタスさんだ。衣服の取り扱いをする・・・いや、商人であればその名前を知らぬ者はいない。そして、衣服を取り扱う商人なら必ずエリーザさんに商談を持ち掛けているはずだ。エリーザさんは特定の商人と関わりを持たないし、布地なんかの仕入れ先をころころと変えている・・・エリーザさんが扱った仕入れ先は悉くが成長していくと有名だ。
「・・・足りないね。それが奴らに阻止されてしまえばどうなるんだい? 用意だけして結局開催できなかったとしたら用意した分は全て破棄されて大赤字だ。そしてあの商人ギルドに目を付けられれば僕らの様な少数の組員で構成されている商人ギルドなんか簡単に圧力で屈してしまうよ」
シュークエル様という厚く高い壁をどうしても越えられない。商売としては成り立つはずだ・・・もし、あの商人ギルドに邪魔をされれば、途中で決壊してしまう事だってあり得る。
けれど、もちろんそこも考慮して対策は用意している。
「それに対しての対策もしっかりと講じています。彼らは間違いなくこちらに手を出すことはできません」
「根拠は?」
「これを見ていただければわかりますよ」
懐から一枚の書類を取り出し、それを三人の前に出す。その書類に食い入るように見つめると、三人は顔を顰めてその書類が本物かどうかを見定める。
あの商人ギルドの情報は根っこまで・・・それどころか土の材質まで調べたも同然だ。着実に俺は奴等を包囲していったのだ。
奴等を追い落とす算段はシロタエとユリィタさんに案を募り、俺はその案を遂行できるように配下や伝手に指示を出しただけだ
「それと・・。まだまだアイデアならある」
シロタエとヨウキは懐から数枚の書類を取り出して前に並べる。その全てに俺が考案したすべてのアイデアが掛かれている・・・物より量、そして、その書類の中には俺達にしかできない者がつらつらと書かれているのだ。
それに目を通し三人は驚きを隠せないでいる・・・シュークエル様でさえ顎に手を当てて、冷や汗を流しながらその書類を睨んでいる。
まぁ、それだけの価値があるものが並んでいる。その全ての書類が魔族と人間との共存の架け橋になる可能性のあるものだ。
中には突拍子の無いものもある・・・しかし、その全てを実現させることは可能だ。
そして、この商売を上手く操作することができれば、此処の商人ギルドは恐らく世界で1番の財を築き上げることも不可能ではない。
「フヒー、と、とてもじゃないけど信じられないんだな」
「し、しかし、できるであろう道筋がしっかりと整えられているのだよ。無論大雑把な部分もあるが、不可能だと言い切れないのだよ。だが、気持ちはわかる」
「・・・書面上では可能だね。実現には時間と予算がいる。魔族という部分が引っ掛からないでもないけど、確かにこの書類通りに動くことができれば、僕らには莫大な資金が入ってくるだろうね。いつまでも少数で燻る必要もないというわけか。しかし・・・これは本当だとは私でさえ思えないよ」
眉間に皺を寄せたシュークエル様は書類に乱立するその名前、または道具などに目を這わせている。まぁ、普通の人ならそこに書いてあるのは本当だとは思わないだろう。
実際俺もかなり驚いているくらいだからな。
色んな所をアンネさんと俺や配下達で駆け回った甲斐があったというものだ。
最初に赴いたのはカナンの冒険者ギルドだった・・・久々に会ったギルドマスターのサンタナさんだ。前回の時も俺たちの里の為にかなり尽力してくれたらしいのだが、それに感づいた商人ギルドの連中が圧力をかけ、さらには邪魔立てしたらしい。邪魔立ての内容は低ランクの依頼を大量にばら撒いて、冒険者ギルドをパンク寸前にまで追いやったのだ・・・そのせいで里との連携が寸断され対処ができなかったのだ。
・・・それと、どうやらカナンでもあの商人ギルド達は厄介視されているようだった。物価が高騰して街の人にまで影響が出ているらしく、物流は良くなったものの他都市から流入する物資の中には品質の悪いものが多く紛れ込んでいるらしく粗悪品が横行するようになったらしい。
冒険者たちもほとほと困っているという事で、俺達が何とかするという約束を取り付けて冒険者ギルドの力を借りることに成功した。
次に向かったのは帝都だ。無論、最初にあったのはエリーザさんと貴族のニーディリア伯爵だ。まぁなんという癖の強い二人は相変わらずで、俺の提案を二つ返事でOKしてくれたわけだ。
・・・心残りなのは騎士の『アドルフ』と『ヴァンク』に会えなかった事くらいか・・・お城の門まで行ったのだがそこで衛兵に止められて事情を話すと、どこかぎこちない話し方で引き返して欲しいと言われてしまった・・・衛兵と騎士では身分が違うのか?
次に訪れたのは王都・・・まぁ、言うまでもなくサテラのお兄さんと『アタライ』様だ。アタライ様は大丈夫だと返事をよこしてくれたが、サテラのお兄さんはどうやら何やら忙しいらしく協力を取り付けることができなかった。
・・・まぁ、それよりも予想外に実りのある出来事が起こったからよしとしよう。
「・・・わかった。君達の商人ギルドへの加入を許可しよう」
「承知いたしました。書面はこちらで用意しておりますので、サインの方宜しくお願い致します」
シロタエとヨウキが四人に書類を手渡した。商人ギルドへの加入を正式に認める書状だ・・・実は、これにはアンネさんに言って特別に作ってもらった紙で作成している。まぁ、前世でもよくあった、書くと後ろの紙にも書き足される・・・宅配などの紙によく使用されているあれだ。
四人が書き終えたのを確認すると、書面をの控えをビリっと破り、持ってきていたカバンにしまう。
「本日はこれでお暇させていただきます。次の集会は追ってご連絡させていただきますので、ご容赦のほどよろしくお願い致します」
ヨウキとシロタエが慇懃に礼をすると、俺達は椅子から立ってその場を後にする。
「あぁ、そうそう。情報収集の方法だけどこうやったんだ」
俺は三人を見渡してニヤリと笑うと、スゥッと息を吸って告げた。
「もう出てきていいぞ」
その言葉をきっかけに、三人の商人たちの首元に三匹の蜘蛛の姿が現れる。それらは音もなく空中に溶けるようにして消えると、俺とヨウキ、シロタエの肩に乗って俺に礼をしたあと三人を見据える。
「こいつらは俺の配下でね。ハンゾーと忍蜘蛛達だ。主な任務は見張りや情報収集・・・後は暗殺なんかだ。カナンの情報戦時には忍び蜘蛛達が精一杯尽力してくれたんだ・・・で、今回はカナンのみならず俺が交友を持つ全都市に忍蜘蛛を送り込んだ。だからこその情報量だよ。因みに、忍蜘蛛達だけでは探せないモノはハーピー達にも協力して貰ったんだ。じゃあ、今後とも宜しく頼みます」
俺はそう言い残して、勝利を手に館を後にした。
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side シュークエル
ははは、してやられたな。
まさかあそこまで道を築き上げているとは思わなかったよ。そして、止めにあんなことまでしてくるなんて、自分の見識がどれだけ甘かったか、どれだけ浅はかだったかを見直さなくてはならないな
「ぷ、プヒー、い、息が詰まったんだな」
「豪商を相手にしている気分でしたな」
「君の言っていた事は全て過大評価なんかではなく、事実だったということだ」
そう言葉を投げかけると、当然だとも言いたげな顔のウェルシュバイン様・・・デュルフがいる。
「言っただろう。あの者はそこいらの有象無象とは違うと」
「君も手伝ったんだろうけど・・・まぁ、あれは『上』に立つ存在だね。自分から動くのではなく、下に仕事を割り振ってそれを効率よく的確にコントロールして動かす事に異常なまでに長けている。いや・・・彼自身の力量もあるが、その下につく忠臣達が本当に素晴らしいとしか言いようがないよ。やはり、こういう商売ごとは下をどう使うか、使えるかでも勝負が決まるからね。そこへ行くと彼の下に着く者達は理想的だろうね。彼に心酔する者たちだからこそできる芸当だよ・・・その歯車が完璧に合致したのがあれなんだろうね。彼のカリスマはそういった者達を呼び、力の強い者がどんどんと惹かれて行く・・・良い意味でも悪い意味でも彼は凄すぎるよ」
「ほう、あのシュークエルが偉く褒めるじゃないか」
「私だって褒める時は褒めるさ・・・本人の居ない場所でだけね。勿論、貶しもするからね」
二人の軽口が交差する。しかし、デュルフもわかっている・・・シュークエルは最後の抵抗と自分に牙を向けたのを。
「あれは本当なのかな? あれ程までに緻密に計算された商品を提供するとは思わなかったからね」
「案ずるな。あれは本当だ・・・それにやめておけ。俺にその嘘は通じんぞ。唯の欲目や色目で俺が肩を持つわけはない・・・一商人としてユガと向き合い、しっかりと見定めて確認した」
「・・・・・・・・・そうですか。まぁ、僕らのことを売ったのは貴方なのは知っているんだけどね」
デュルフは視線を逸らし、なんの事だと嘯いた。
やっと戦闘が終わったと言葉に携えていた剣を鞘へと戻し、大きく息を吸い込んで吐き出した。
そして、目を開けると頭の中には膨大な数の数字が所狭しと並んでおりこれから動くであろう莫大な金を計算し、商人ギルドを潰す・・・いや、飲み込む算段へと移行する。
頭の中にあった、『ユガ』という存在は既に商人ギルドの一員として登録されている・・・そしてそこから導き出されるであろう算出は、正直自分でも絶句する様な単位だ。
「ふっ、楽しそうじゃないか・・・なぁ、あれといるとそういう笑みが出るといっただろう」
デュルフが私の顔を見てニヤリと微笑んだ。
糸目をうっすらと開けてニタニタと笑う自分の姿が高級なテーブルの上に反射して写っている。商売人・・・自分の中で燻っていた何かが今日をあげて燃え上がり始めた。
ユガが齎したアイデアは世を変え人を変える可能性のあるものばかりだ・・・確かに非常にリスクを伴う賭けではある。しかし、それに見合った・・・いや、それ以上の高額な報酬がそこにはまた存在しているのだ。
やるしか・・・ない。
「ふふふ、もうちょっと圧力を掛けてやろうと思ったんだけどね。貴族の力をどう対処するかも見ようと思ったら・・・それも視野に入れて、隣にレェベン騎士爵の娘を置くなんてほんとやってくれるね。剣の家紋が目に入らなかったら、貴族の権威を振りかざしてしまうところだったよ・・・それを逆手に取られでもすれば完全にマウントを取られていたからね」
それでも、少しばかり悪態を付く。
デュルフはにやにやと笑いながら、「あぁそうだなぁ」と告げる。
オドゥンとユベルタスも覚悟を決めたのか、スッと席を立ち私とデュルフに礼をして足早に館を去っていった。
「では・・・私もそろそろ戻るとするよ。忙しくなりそうだからね・・・言うまでもないだろうけど、君の方も準備しておくといいよ」
「無論だ」
そう言って、自分も館を後にした。
さて、人員、金銭、販路、戦略・・・どれから手をつければいいものやら。取り敢えず先ずは、人と魔族の会合の準備でも始めようか。
忍蜘蛛の忍術日記
バーダス・オドゥンノヨワミカクホ:中忍蜘蛛
オルク・ユベルタスノヨワミカクホ・・・クサイ:上忍蜘蛛
シュークエル・アイン・カンツォエルの弱みなし・・・隙がない:ハンゾー
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遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
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