森人:進化・・・でした!
超絶大ボリューム!1万5000字!!
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交わりし力の先へ、至るは怒りの進化か、それとも・・・。
・・・どれくらい時間が経っただろう。ミリエラはまだ戻らない。それに焦りを感じながらも、目の前のこれから意識を離すことなどできるはずがない。先程よりも勢いを増した攻撃の数々が俺の体を傷つけていく・・・身体が怠い、ミリエラの軽い体を抱えているだけでも、剰え唯々伸ばす触手にすら重さを感じる程に疲弊している。
さっきの一撃でミリエラを無事に奴の身体へと送り込んだせいで、俺の魔力はもう底を尽きかけている。
それでも奴の攻撃を無事に防げているのは
「ハアアアァァァ!!」
「吹き飛んでください!!」
「消し炭になるといいですよ」
「ちょこまかと動くな」
派手な爆発音が響き、奴は草原をごろごろと転がっていく。しかし、たいした怪我を負うこともなく平然と起き上がる。
それを何度となく繰り返し、俺は後方で魔力の回復に従事している。
今戦っているのは、ショウゲツ、キク、シロタエ、ハンゾーだ。奴とのステータス差で言えば此方が不利で、俺のサポートに徹して貰おうと思ったがシロタエが「ここは我々にお任せください。主人様のいない間、我々はのうのうと日々を過ごしてきたわけではないのです」と言うもんだから、任せてみたが・・・想像以上だ。
前までは個々の戦力でゴリ押しというのがスタンスだったが、今ではしっかりとした連携がとれており、さながらそれは『人間』の戦い方に似ている。
己のステータスからの実力でもって全力で戦う・・・のではなく、自分の周りの者に合わせてその時その時の判断でもって力を振るう。
一対一が不利となることが多い人間の一対多数の戦術だ。
ショウゲツとキクが両側から奴を挟み込んで接近戦を仕掛け、奴の注意を自分達に引き留めて足を止めさせる。
完全に自分達へと意識が削がれると、即座にその場から身を引いて後方に控えるシロタエの魔法の射線を整える。ハンゾーはその際に奴が逃げないようにと自前の糸で足を縫い止めていて、またショウゲツとキクに意識が向いている際の闇討ち要因として動いている。
完璧とまではいかないが、付け焼き刃の連携ではなくしっかりと訓練したものだとわかる。
やつも負けじと攻撃を繰り出しているが、武闘家気質の二人はそれを軽々と避ける。
被弾は少なく、されど手数は多く、不意に強烈な一撃が叩き込まれる。
戦術として申し分ないものだ。
「人間に教わるのはあまり気は乗りませんでしたが、これも主人に仕える為です。いつまでも甘えているわけにもいきませんから」
・・・何だろうか。これが親離れという事なんだろうか、すっごく寂しい気がする。そっかそっか・・・もう親離れしていく年ごろなんだなぁ。親心というものが少しわかった気がする。
まぁ、頭を撫でてあげると嬉しそうにするのは変わっていないのな。
奴は俺の配下達に押されるばかりで攻勢に転じる事ができない。
魔法を放とうにもショウゲツとキクの攻撃が邪魔で魔力を練り上げる事ができず、攻撃を加えようとすれば身を翻されシロタエの魔法が襲い掛かる。それらに対処しようとすれば不意の一撃をハンゾーに叩き込まれる。
このままミリエラがパーシラさんを連れて此方に戻って来るまで耐えて、ミリエラが戻って来ると同時に今持てる魔力を全てかけて奴へと全員で畳み掛ける。
あのディーレの魔法はミリエラの魔法と融合させてダメージは入らなかったけど、ショウゲツとキクで防御魔法を展開する暇を与えずあれを素のまま奴へと叩きつければ瀕死になるのは間違いない。後はシロタエとミリエラ、リオエルの複合精霊魔法を奴へと直撃させれば勝てる。
『・・・ッッッ!!』
その考えた瞬間、プツンと何かが俺から切り離された様に感じた・・・別に自分の体に異常があったわけではない、何かが自分の傍から切り離された様な、遠くに行ってしまったような空虚な感覚がほんの一瞬だけ俺に振り掛かった。
何かあったのかと周囲を見渡し、まさかショウゲツ達に何かあったのかと視線を向かわせるが、変わらずに奴の攻撃を抑えている。
『ユガ・・・』
「ディーレ、どうしたの?」
ディーレの心から悲痛な感情が流れ込む。今の妙な感覚と繋がりがあるのか、ディーレは何かを言い淀み、俺の肩へと腰を下ろして俺をジッと見つめる。
『ミリエラとの繋がりが切れたわ』
・・・・・・・・・。
目の前が真っ白になる。一瞬の空白・・・俺から切り離されたものが何なのか、それがわかってしまった。俺の手の中でぐったりとするミリエラ、その繋がりが消えたというのだ。
綺麗な金色の髪が風に靡き、それが俺の視界を覆い隠す。
その向こうに蒼い瞳をクリッと瞬かせ、『ユガ君!』と俺に呼びかけるミリエラの姿が浮かぶ。でも、そんな姿が脳裏に過った時、視界を覆った金色の髪が取り払われ、ミリエラの瞳は閉じられたまま動きはない。
ミリエラを抱きかかえた腕は冷たくなっており、ミリエラに触れた部分が徐々に冷たくなってくることがわかってしまう。
視界がグルグルと回って、思考が追い付かない・・・様々な感情が駆け巡り、ミリエラをジッと見下ろす。
そして、頭に響いた。
"取り戻せ、奪い返せ"
頭の中が真っ赤に染まる。体を巡り巡る血液が急激に熱く沸騰していく。目の前が真っ赤に染まった直後、己の身体の奥底から湧き出す力の奔流が身体を支配する。
バチバチとショートするかの様に頭の中を意味の分からない言葉が巡りにめぐる。
だけど・・・これだけならわかる。
まだ間に合う。
でも、早くしないとミリエラは・・・死ぬ。
ディーレの魔力からミリエラが消えたって事は、ミリエラは取り込まれたのは間違いない・・・けど、まだ諦められない。
ミリエラをゆっくりと地面におろし、大地の感触を確かめてから奴を睨みつける・・・もう体のあちこちから制御できない力が滾っている。
『ユガ!!』
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
大気が身体全身を叩きつける・・・大気が肌に触れるだけで引き裂かれた様な痛みが全身を襲う。体の中心から沸々と湧き上がるドロドロとした感情が怒りに塗り替えられて己の力へと昇華する。
咆哮を上げ、スライムの身体で地面を食い散らかしながら奴へと接近する。
ショウゲツとキクの驚愕の顔が横を通り過ぎた瞬間に、身体から無数に出現している触手を振るった。全てに高密度の魔力を巡らせて全方位から襲い掛かる触手の乱打を浴びせる。
先刻の奴ならこれも防ぐ事はできただろうがショウゲツとキク、シロタエとハンゾーによって削られた体力は回復しておらず、どうにか耐える事しかできていない。
身体の全てが闇色に染まると同時、己の影が捲れ上がって自分を飲み込んだ。瞬間、奴を見上げていた自分の視界がぐんぐんと上昇し、奴を見下ろすくらいにまで体積を膨れ上がらせた。
体積が増えたことにより触手の数が倍に膨れ上がり、その太さも威力も倍増する。それを全て上空へと伸ばし一本に束ね、一気に振り下ろした。
それを防ごうと葉審の魔力を前方に展開するが、圧倒的な質量を前に一瞬にして崩壊する・・・精霊の力を引き出す隙なんて与えない。
『ユガ!! 私の力を・・・あ・・・』
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
バチバチと雷鳴が轟き、己の身体を包み込む。
痛みが全身を走り抜けるがそんなこと知った事かと触手を解き、大地へとめり込んだ奴へと触手を再度叩きつける。
まだ・・・まだ間に合う筈だ。
ズンッと腹部の付近に鈍痛が響くが、今は痛みなんかに構っている暇はない。ミリエラを取り戻すには何をしなければならない・・・ミリエラを取り戻すには。
こいつをコロシツクシテトリモドスシカナイ
ビシビシと己の身体が悲鳴を上げる・・・粘液が大地に沁み込み始めるが、それにも構っている暇など
『ユガ!!!!!』
魔法が自分の身体へと叩きつけられ奴から距離を離された・・・早く、早く攻撃しないと。だけど、奴には通常の攻撃は通らない、なら全力の魔法を奴にぶつければ・・・いや、それでは奴に精霊の力を使わせるだけの隙を与えてしまう。それなら触手に魔力を纏わせて攻撃すればいい。
だが、今のままでは奴の動きを止めるだけで大したダメージは通らない
『止まりな・・・さい!!』
バチンッッッ
頬に衝撃を感じ、鈍器で殴られた様な鈍痛が頭に響く。しかし、奴は目の前にいるわけで何故真横から衝撃がくるのかがわからない。しかも相当な衝撃で粘液の身体がくの字に折れ曲がる程の衝撃が襲った・・・不思議と心地良い痛みなのは気のせいなのか、とうとう殴られ過ぎて目覚めてしまったのかどちらか見当がつかない。
いや、見当ならついている。
「痛いよ、ディーレ・・・」
『貴方が止まらないからよ! 私に・・・私にそんな姿を見せないで』
ディーレが凄く怒った表情で叱りつける。そして、とたんに悲しげな顔を浮かべて俺の側によってポンと身体へと触れる。
そうして漸く自分の状態に気付く事ができた。身体中が傷だらけで、いつもなら再生している筈の体には黒い魔力が絡み付いていて上手く再生されていない・・・場所によっては腹部から背中に突き抜ける穿たれた跡もあり、自分の身体はボロボロだった。
怒りに我を忘れてしまっていたらしい。
「・・・ごめん。ディーレ」
『いいわ。でも、貴方一人で戦おうとしないで、貴方の側にはいつも私と誰かがいるのだから』
「うん・・・」
『それと大丈夫よ。まだミリエラの精霊が消えていないわ。契約した精霊が消えてないってことはミリエラの魂もまだあそこにあるはず・・・あれにもう一度強い魔法を当てることができれば、助けることが出きるかもしれないわ』
なるほど。少し冷静になれた・・・つまりは、ミリエラの精霊との繋がりがまだ消えていない。それならば、ミリエラもまだ生きている可能性があり、助け出すことも不可能じゃない。
落ち着け・・・一旦落ち着け。
そうだ。俺は一人じゃない・・・ディーレも、ショウゲツ達もいるんだ。
「・・・よし、わかった。ディーレ、ちょっとばかし本気だす。力を貸して欲しい」
『幾らでもあげるわよ。私は貴方のモノなのだから』
意識的に押さえていたリミットを解除する。ソウカイから言われていた事を今さらになって思い返すが、今はその時だろう。
進化によって得たステータス・・・どうやら知らず知らずの内に俺はもはや化け物の類にまで食い込める程の力を持っているらしかった。
ステータスが5000を上回ったと告げた時は、全員面食らっていたけれど、それにたいして冷静に返したのがソウカイだった。
曰く『力に飲み込まれる』可能性があるらしい。なんでも急激なステータスの上昇は己の身を滅ぼしかねないそうで、魔物の間でもそれは周知の事実らしかった。
今まで物理攻撃しかできなかった魔物が、火を吐ける様になっていきなりそれを全力で使って・・・自分諸とも焼け死んだ何て事が俺の体で起こりえるそうだ。
今の俺の身体を見てもわかる・・・さっき俺が怒りに任せて突撃した時の影響で、恐らくリミッターが外れてしまったんだろう。未だに身体がビリビリとマヒしている感覚が其処彼処にある。
それでも100%は出せていない・・・精々が80%くらいだろう。
そんな力を100%引き出せない様にセーブする術をソウカイより教わったわけだが・・・それを今ここで解放する。
先刻の突撃でも恐らく100%は引き出せていない・・・それどころか、そのソウカイの話を聞いてから分かったことはあの時だ。王都で進化を果たした時の『部分進化』あれは恐らく、俺の力をしっかりと100%引き出せる様にした結果なんだろう。そこからステータスが落ちて5000にまで下がったのは俺の身体があの進化には耐えられないと判断してランクを落としたんじゃないか・・・と。
そして、それからセーブをかけていたけど・・・実は徐々に徐々に解放していっていた。そして今は常時70%引き出すことができる様になった・・・これなら自分の身体に強化をかけて一瞬であれば100%を引き出すこともできる。
その為には・・・
「ショウゲツ、キク、ハンゾー、シロタエ・・・時間を稼いでくれ!!」
「「「「承知!!」」」」
リミッターを解除する・・・身体が黒から闇色へと変色する。スライムの身体の中心に水色のコアの様な物が出現しそれが徐々に腕の形状をなして外側へと押し出される。
まるで尻尾の様に長い触手が幾本も背中から出現し、身体が徐々に魔族のそれへと変貌する。先に飛び出していったショウゲツ達のスピードがどんどんと落ちていく・・・いや、リミッターを外したせいでAGIが極端に上がったからそう思ったのだろう、
「ディーレ、ありったけの強化魔法を頼んでもいいかな?」
『大丈夫・・・じゃなさそうね』
身体の内から溢れる魔力に、内側から弾け飛んでしまいそうなくらいの圧力が全身を支配している。
奴は俺の変化に気付いたのか此方へと近づこうと試みるが、ショウゲツ達が前に立ちはだかり奴へと攻撃を仕掛ける。奴は持ち前の攻撃と魔法でショウゲツとキクを吹き飛ばそうとするが、間に立ったショウゲツとキクの身体に魔法が直撃した直後、それが空中へ霧散して消える。
「妖術:『虚無結界』!!」
シロタエが細い腕をひらりと空中で回すとショウゲツとキクの身体を赤い光が包み込む。その赤い光がショウゲツとキクに直撃した魔法を飲み込んで魔力を取り込むと、紅い光は強さを増しより強固な鎧を形成する。
魔法を全て吸収し鎧を形成する結界・・・さすがの奴もそれには黒い魔力を歪ませる
しかし、奴は二本の槍を形成し両腕に持つとそれを縦横無尽に振り回す・・・それがシロタエの形成する赤い鎧に掠ると、バヂンッという破裂音を響かせて鎧を切り裂いてしまった。
裂け目からショウゲツの鮮血が空中へと迸る・・・それに頭の中がまた魔化に染まりそうになるが、ショウゲツが一瞬此方へと振り向くことで何とか堪えた。
まだいける・・・そう告げている様なショウゲツの瞳が俺と交差した直後、奴が振り乱す槍の中へとショウゲツが突撃する。
槍の乱撃を全て躱して奴の懐へと入ると、小堤で奴の腹部を次突き上げる。
「エクストラスキル:鬼影拳賦!!!」
雷鳴が轟き、ショウゲツの身体を稲光が荒れ狂い始めるとショウゲツはそれを自らの腕に絡め取り。奴へと拳打の嵐を叩きつけた。拳打が奴に入るたびに雷が弾け飛んだ様な爆音が周囲一帯に鳴り響き、ショウゲツの姿が鬼のそれへと変化した。
元々大きかった身長は優に3mを越え、体表が深紅に光り輝くラインを走らせており、額から伸びた角が三本へと変化している。
「エクストラスキル:鬼王化」
オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!
まるでで雷太鼓を打ち鳴らすような鬼の様に、奴に拳打を浴びせ続ける。
咆哮が新たな稲光を呼び覚まし、蒼い稲光と黄色の稲光が一つに合わさる・・・そして、それを右腕に纏うとそれを奴の腹部へと突きだす・・・ショウゲツの拳打が奴にめり込んだと同時に雷の閃光が奴を突き抜けてはるか上空へと奴を突き飛ばした。
「あれが・・・ショウゲツ」
「主人様の為に・・・あれは我々よりも辛く苦しい修行をしたのです。我々鬼の中でも、あれを使えるのはショウゲツだけです」
ショウゲツの身体から蒸気が吹き荒れ、ショウゲツはそのまま元の身体へと戻り・・・膝をついて、大地に手をついて血を吐き出した。
「ショウゲツ!!!」
「しゅ・・・じんさ・・・まよ。後は・・・任せ・・・ました!!」
ショウゲツはそう言い残すと大地に倒れ伏した・・・MPが底を尽き、HPも辛うじて残っているくらいだ。シロタエは急いでショウゲツの下へと駆け寄った。
・・・正直、奴を瀕死にさせる準備を行っていた。さすがのショウゲツ達でもできないだろうと踏んで・・・でも、みんな頑張ってるんだな。まさか奴を瀕死に追いやるなんて思ってもいなかった。
俺の為に頑張ってる・・・かぁ。そんなに俺に好かれることが重要なのかな? 皆俺に撫でられると凄く嬉しそうな顔をするし、凄く喜んでくれる・・・そして、俺をここまで慕ってくれる。
あぁ、何だろうなこの優越感は。
ここまで俺のために頑張ってくれたのなら・・・俺がへばってちゃだめだよな?
「ミリエラを返して貰うぞ! ミリエラを堪能していいのは俺だk・・・いふぁい、いふぁいよ、ひふ、ひーれ」
「・・・駄目」
『油断も隙も無いわ・・・本妻は私よ? 先に私から・・・いいえなんでもないわ』
二人から頬を抓られて完全に熱が退いた・・・身体をめぐっていた膨大な力も強化された身体へと馴染み始める、それでもやはり力を制御しきれていないからゆらゆらと体は揺らめき、少しでも変に力を入れてしまえばそこに全力が注ぎ込まれて暴発してしまうだろう。
ショウゲツが奴を瀕死にまで追いやったおかげで余分な力を魔力に昇華させて、奴へと叩きこむ力がより上昇する。ビキビキと大地が悲鳴を上げる・・・今の俺なら歩くだけで地震が起き、くしゃみをするだけで周囲一帯が焦土化しそうな気さえする。
空を見上げると奴の内部から高濃度の魔力が練り上げられているのがわかる・・・恐らく回復系統の魔法で精霊の力を無理やり引き出したものなのだろう。恐らくあれが発動してしまえば、また振出しに戻る・・・それどころか精霊の命が尽きれば奴は今よりもさらに強化される。
「させるかよ! いくぞ、ディーレ!!!!!」
軽く地面を足でつつく・・・それだけで自分の身体は大空へと翔け昇っていく。身体から漆黒のオーラと蒼いオーラを交互に吐き出しながら、触手が千切れ飛ぶ事も厭わずに全力を出す・・・ビシビシと体の芯に響く痛みは恐らく無理な力を出しているからなのだろう。
奴が目前にまで迫り黒い槍が形成されて自分へと降り注ぐが、この身体に槍が触れた直後俺の身体に取り込まんだ。
びりッとした痛みこそあれど、底上げしたステータスからか大した事はない。
さぁて、じゃあいっちょやりますか。
「影よ、闇よ、俺に従え、呼応せよ。俺の愛しき精霊に、その力を譲渡せよ」
『影堕ち水面に映える月夜、闇に木霊す雫の音、全てのモノは水が生み出し愛しき子らよ。しかし、私が愛すはたった一人の魔族なの』
「う・・・俺が愛すのもまた一つの精霊・・・なり」
『その名は』
「・・・その名は」
『ユガ』
「ディーレ」
くそぅ、詠唱中にアドリブを入れるなんて卑怯な!!
身体は影の様に闇色に染まっているというのに、顔だけは火が出るんじゃないかと思う程に真っ赤に染まっている気がする。
無茶苦茶な詠唱ではあったけど、それはしっかりと発動した。
身体から無数に触手が伸び、それが闇色へと染まると体から分離し空中へと滞空する。水の様にパシャンと弾けるとそこからは闇色の水によって描かれた魔法陣が無数に現れる。
その全てからは蒼く燃え盛るオーラが噴出し始め、魔法陣の中心からは巨大な闇色の氷が現れる・・・その一つ一つには高密度な魔力が備わっており、大小様々な氷の軍勢が大空へと展開される。
「『氷闇貞潔なる愛』!!」
大気を切り裂き、闇色に輝く氷の軍勢は一気に奴へと殺到する。しかし、このまま攻撃してもさっきの二の舞になるだけ。一種の賭けではあるが、これが成功すればミリエラは助け出せるはずだ。
道を見失っているのならばこちらから開けてやればいい、こちらに戻る道がないのなら無理矢理でも作ってやればいい。
奴は精霊の力を引き出してこれを止めるんだろう。
ならば、そこで道を作ってやれば良い。
奴の前に七色の障壁が現れ、それを黒い魔力が覆い隠すととんでもない魔力を放つ障壁が完成する。
詠唱によってディーレと感覚を共有しているからか、奴の内から聴こえてくる精霊達の悲鳴が諸に心の奥底に届く。痛み、苦しみ・・・悲しみ、怒り、そんな感情が入り交じり、ひどい頭痛が苛む。
だけど・・・此処さえ乗りきれば、こっちのもんだ!!
「ディーレ!!」
『ッ!!』
奴の障壁に魔法が直撃する直前、自分の身体から影の様な魔力が溢れだし、一気にそれらを飲み込んだ。放った魔力を飲み込んだとしても殆ど意味はない。
けれど、奴が『己の内にある精霊の力』を使って、奴との繋がりを得るチャンスを作れた今なら、ミリエラを引き戻せる筈だ!
触手を伸ばし、奴の障壁に叩きつけ無理矢理魔力を流し込む。
『見つけた・・・道を作るわ!』
「あぁ・・・お・・・ねがいする・・・よ!」
どす黒い感情が流れ込む。ディーレは今道を作るのに大部分の魔力を割いている・・・ミリエラの時の様に防御魔法を展開する余裕はないし、奴の魂が俺に流入することを防げない。
ドロドロとした怒り、絶望した虚脱感、身体を捻り切られそうな程の憎しみの感情、何よりも大切なものを全て奪われた憎しみの念が俺の心を掻き乱す。
このまま、ミリエラが戻らなかったら?
ミリエラの笑顔が二度と見ることができなかったら?
手を繋いで一緒に笑って、いつも俺をでれでれさせてくれたミリエラがいなくなったら?
ミリエラが死んだら?
憎しみが一気に増大する。ディーレが築いた道を今直ぐにでも切りさって、憎しみのままに暴れだしたい欲望に刈られる。
道を築く魔力が乱れ、ミシミシと俺の身体が悲鳴をあげる。力の解放に限界が近づいてくる・・・今ならまだ間に合う。奴に対抗する一撃を放てる。このまま道を築いていてもミリエラは帰ってこない・・・それなら、それなら俺の全力をぶつけて奴を消し去ったほうがいいんじゃないか?
・・・いや、でも、これは奴の感情が自分に影響しているだけ。
流されるな・・・きっとミリエラは帰って来る。
後ろをチラッと振り返る・・・大地に横たわるミリエラ。死んだように眠るミリエラの身体に、怒り、憎しみ、悲しみの感情が一気にあふれ出る。
目の前が真っ赤に染まる。体から湧き上がる力の奔流が抑えきれない・・・間欠泉の如く脳天から突き出る様な怒りの奔流に身を任せる。
ミリエラの表情がフラッシュバックし、それの敵討ちをするべきだという自分と冷静になって道を形成してミリエラの帰還を待てという自分が鬩ぎ合う。
”感情の揺り籠が一定の許容値をオーバー、これにより進化先の進路を変更・・・成功。獄の護り手、往々たる柱、#!%#王への昇格を推薦・・・承認、これより進化の開始を確定、命名『ア”’&$”プスライム』進化を開s”
”一時スタッシュ”
"ミリティエ・ラースィ・パーミラの『兆候』を確認。階の一部へと組み込み、眷属化を行います。階位:空き"
ピキッと空間に亀裂が入る。
『見つけた!! 引っ張り出すわ!!』
バリンッ
硬質な音が空へと響くと同時、俺から湧き出ていた全ての魔力が霧散し光り輝く光る球体がミリエラへと吸い込まれ、空中に一人の人物が投げ出される。
魔力の欠乏によってチカチカと明滅を繰り返す視界、気怠さが支配する身体に鞭を打って触手を伸ばし空へと投げ出された人物を触手で包み込みそのまま重力に引かれて落下する。
ものすごい勢いで地面が迫り・・・べちゃっと身体が地面に激突する。スライムのぺちゃ焼きいかがでしょうか?
そんなくだらない考えが頭を占めるくらいに、今まで抱いていた憎しみや怒りが吹っ飛んだ。
触手は辛うじてべちゃっとした身体から伸びていて中の人物は無事だった・・・触手をゆっくりと解いていくと、中からは見知った顔が伺えた。
「お帰り、パーシラさん・・・それと」
後ろから気配を感じる
「ミリエラ」
「うん。ちゃんと帰ってきたでしょ?」
「心配した」
「えぇっと・・・ごめんね。ちょっと色々寄り道しちゃってて」
「体は大丈夫? どこか痛い場所とか怪我した場所とか・・・どこか」
「ユガ君」
俺がミリエラの身体にどこか異常がないかを確認していると、ミリエラがゆっくりと近づいて地面にへばりついたままの俺の身体をそっと胸に抱きよせる。
うぅん、天国。
「人間の姿に戻れるかな?」
「ん? まぁできないことはないけど、魔力がないから1分くらいが限界かな?」
「うん。それでもいいよ」
ドロドロと体を溶かして人間の姿に戻る・・・これだけでも魔力を使ってしまうので、先程よりももっと酷い気怠さが襲う。まともに地面に立っていられないくらいの気怠さ・・・けど、ミリエラの目を見てはそうも言っていられない。
「えっと・・・ね。精霊さんに言われちゃったの、初めては君の思い人がいいって」
「お、おう?」
「だからちょっと、ごめんね」
「え?」
チュッと額にキスされた。
「見ててねユガ君・・・私もう、昔の私じゃないから、もっと頑張るから!」
惚ける俺・・・何処かムスッとするディーレ、してやったりといった表情をしながらも顔が真っ赤のミリエラ。
そしてミリエラはゆっくりと倒れたリオエルの方へと歩み寄ると、回復魔法を掛けてリオエルの頬をポンポンと軽く叩く。
「リオエルちゃん大丈夫?」
「う・・・ん? ミリエラさん?」
「ごめんね・・・私の力がなかったばかりにリオエルちゃんに危ない事させちゃって」
「・・・違う。私が弱かったから、だからパーシラも皆も救えなかった・・・私がもっとちゃんとしていれば精霊達もパーシラも失わずに済んだ。私が・・・悪いの」
「大丈夫! パーシラさんは助け出したし、これから精霊さん達も、エルフの皆もハーフエルフの皆も助け出してみせるよ!!」
「え?」
ミリエラは大きく胸を張ってリオエルにそう告げた。
そうして、リオエルに何かを耳打ちすると、ミリエラの瞳に強い信念が宿り、リオエルは驚愕に呆然としている。
「でも、それは!!」
「大丈夫・・・私はもう守られるだけの私じゃいられないから。私はみんなを救う・・・ユガ君が言ったみたいに、目に映る人だけでも助けてみせる。だから、もう一回だけ力を貸してくれる?」
「・・・・・・・・・ミリエラさん。私は・・・」
「リオエルちゃんもいつか、強くなれる筈だよ。だから、今回だけは私に任せて」
ミリエラが笑いかける・・・すると、ドシャッという音と共に、空へと打ち上げられていた奴が地に落ちた。
「オオおぉおぉぉぉぉオオオオぉお、ヨリしろ。わガ、よリしロ」
奴の辛うじて人間であった半身は今やドロドロと溶け出しており、黒い魔力の塊が空へと漏れ出して消滅しようとしている、
ミリエラは奴へと振り返ってキッと睨んだ。
このままいけば・・・奴は消える。パーシラという依り代を亡くなった奴は今やただの魔力の塊でしかない。魔力が存在するには依り代・・・つまりはその魔力を操る何かがいる。
これで・・・終わったかと思った次の瞬間、それは訪れた。
「おぉ、ハイエルフよ! 俺の身体を使え!! 俺をハイエルフに選ぶがいい!!!!!」
俺達がミリエラとリオエルへ意識をそらした瞬間、シロタエ達が奴へと注視していた一瞬の隙を付いて、それはハイエルフへと駆けだしたのだ。
「兄様!!」
リオエルがそう叫んだ瞬間、飛び出したエルフは黒い魔力に包み込まれた。黒い魔力は形を不定形に変形させ、完全に飛び込んだエルフを取り込みその姿を巨大化させる。
「こノちかラ!! リオえるになど、モッタいない!!」
半身がまだ人間の形状を保てていたさっきとは違い、完全に黒い魔力に取り込まれてしまっていた。その姿は禍々しく、瞳のない目は赤く染まり、巨大化した身体から伸びる二本の腕と足は赤黒く変色し、岩の様にごつごつとした巨大なそれへと変わる。
だが、自我は飛び込んだエルフのものであり、先程の様などこか人間離れした奴のそれではない。
自分が取り込まれたと言うのに喜悦の表情を浮かべた奴・・・いや、エルフは腕を上空へ振り上げ、思いっきり振り下ろして地面を叩く。
大地は揺れ、叩いた場所を境にして巨大な地割れが走り、ありったけに込められた魔力が噴出する。
「いいぞ!! ハハハ、まさかお前がハイエルフになるとは、そのまま奴等を殺してしまえ!! ハーフエルフを殺し、我らエルフの時代を築き上げるぞ!!」
エルフの族長が高らかに叫び、新たな高位偽精霊の誕生に歓喜を上げる。
そして・・・そんな族長を、じっと見つめたミリエラの瞳にはどこか悲しげなそれがあった。
「・・・トゥワルドさん。そして、あの高位偽精霊さんの声はきっと」
ミリエラはふるふると震えているリオエルの肩をそっと抱く。
「・・・・・・・・・ミリエラさん。私も協力する。兄様を・・・倒してください」
リオエルの口から精一杯の声が漏れる。きっと、リオエルはもういっぱいっぱいの筈だ。彼女が『倒して』って言ったけど、その真意は『殺して』って事なんだろう。
でも・・・言い出せなかったんだ。たった一人の家族だもんな。
リオエルのつぶらな瞳からは大粒の涙が溢れ出る。ミリエラに強くしがみついて、必死にしゃくりあげる声が漏れないように、強く強く顔をミリエラに沈める。
涙で服が濡れる・・・けれど、ミリエラは気にせずにもっと力強く抱き締める。
「大丈夫・・・言ったじゃない。きっと助けてあげるから・・・私は『金色』なんだって言ったでしょ。困っている人がいたら絶対に助けて上げる。体力だって最近凄くついたから、自信があるんだよ! ・・・あれだけ追い回されたんだもんね」
ミリエラは冗談を交えながら、リオエルと話し掛ける。
「だから、その為の力をちょっとでもいいから、私に分けてちょうだい」
泣いて赤く晴れた目をしたリオエルを自分からゆっくりと離し、次いでキッと睨み付ける・・・その先にいたのは四肢を付き、身体から流れ出した血を拭こうともせずに、血が乾いて赤黒く変色した肌を晒した・・・ハーフエルフのカーティアさんがいた。
怒った様にずんずんと大地を踏みしめながら歩く足取りでカーティアさんのもとへと向かい・・・胸ぐらをつかんで引っ張りあげた瞬間に、後ろへと思いっきり右手を振りかぶり力任せに振り下ろしてビンタする。
バッッッッッチィィィィィィン!!!!!
ともすればさっきの俺と奴との戦闘の音すら霞むほどに、そのビンタは戦場に大きく轟いた。振り抜かれた右手・・・ミリエラの瞳からキラキラと光り輝く涙が空中へと消えていった。
ドシャッと地面に投げ出され、吹き飛ばされて頬を抑えたカーティア様の目に光が戻った。
「・・・あなたは自分のことしか考えてないの? 今回もちゃんと精霊さんを見てあげて、ずっと精霊さんを見てあげていれば防げたはずでしょう!! それも、これは・・・こんな事をあなたの彼女さんは望んでいたの? そんなわけないじゃない!! どれだけ悔しくてどれだけ怒っても、彼女の意思を継ぐべきじゃなかったの!! なんでなのかとかも考えないで、唯エルフをずっと恨んで、彼女の思いからも目を逸らして、あなたを思ってくれている精霊さんの思いになんて気づきもしない!! ふざけないでよ!!」
「あ・・・ぇ・・・あ?」
ずかずかとミリエラはカーティアの元へと歩み寄り屈んで、地面にへたり込むカーティア様と目線を合わせる。
両手をカーティア様の頬に添えて、強制的に自分の目を覗き込ませる様にしてじっと目を見つめる。
「ちゃんと見ていなさい。絶望を感じるだけで、あなたの罪が終わるなんて思わないでちょうだい!! しっかりと見届けなさい・・・あなたが起こしたこの事態をしっかりとその目で最後まで見つめていなさい」
そして、とミリエラは続ける。
「あなたの彼女さんの・・・婚約者さんのやり残した事を、私が成し遂げてみせるから」
ミリエラはカーティア様にそう告げると、ゆっくりと立ち上がり・・・高位偽精霊となったリオエルの兄へと目を向ける。
ミリエラの青い瞳・・・涙によってキラキラと輝いていたその目には、決意の心が浮かんでいた。全てを見据えているかの様なとても澄んだ瞳、高位偽精霊の心の奥底を見透かそうとするかのような・・・それはまるで。
「貴方の想いも、『貴方を思った想い』も、全部私が受け止めてあげる・・・だから、私は戦います!!」
ミリエラは走り出した・・・。
「力を貸して・・・くれるんだよね精霊さん?」
『うん。ミリエラのためなら僕はなんだってしてあげるよ』
「でも」
『知ってる・・・僕は2番でも3番でもいい。君はそれでもずっと僕を想ってくれるだろうから。僕も君をずっと想うから。だからいいよ』
「うん・・・ありがとう。じゃあ、力を貸して!! 『エレノアール』!!」
『名前を受け取ろう。ミリエラと誓約を交わそう・・・僕の全てを君にあげる、だから君の想いを僕に頂戴!!』
眩い光がミリエラから溢れ出した。膨大な魔力・・・圧倒的な魔力の塊、ミリエラの背後から現れた風と森林の色に染った長い髪・・・一本だけ大地の色に染まった見目麗しい男の姿が現れる。切れ長の瞳は碧く、その力は間違いなくディーレと同様か、ともすればディーレをも凌駕しているのではないだろうかと思えるくらいの力。
白い肌から処理で切れない魔力が空中へと流れ出し、それがミリエラの後方に流れて行くことで幻想的な光景を生み出した・・・白いベールがミリエラの背後に伸びたように、ウエディングドレスが靡いていると錯覚させるそれはミリエラを強く、なおも強く取り巻いていた。
「力を貸して!! リオエル!!」
リオエルがありったけの魔力を絞り出してミリエラへと注ぐ・・・リオエルと契約を交わした精霊が練りに練った力はミリエラを包むウエディングドレスへと注がれる。
中にいるミリエラの姿は見えない・・・けれど、ウエディングドレスとベールを作り出している精霊の顔がわずかに歪む・・・。
「まだ足りないよ!! ミリエラ!!」
「お願い・・・お願い・・・力を貸して・・・・・・・・」
「ゼルティアさあああああぁぁぁぁぁん!!!!!」
『受け取りなさいな、おバカさああああああぁぁぁぁぁん!!!!!!』
空か舞い降りた真紅の光が、ミリエラのベールへと突っ込むと・・・それは訪れた。
空中へ伸びる光の柱が・・・巨大なブーケへと変化し、大空高くに咲き誇った。
膨大な力・・・俺とディーレであっても生み出し得ない、常軌を逸する力。中心には周囲掌握をかけるが膨大な魔力の壁に阻まれてしまい、一切詳細がわからない。
ただわかるのはそこにはきっとミリエラがいるであろうということ、ウエディングドレスとベールを作り出している精霊が薄っすらと微笑んでいること、周囲に散らばっている魔力が全て中心に集まっているということ。
俺の体からも自然と力が流れて行く・・・根刮ぎ取られるような不快感ではない。どちらかといえば心地良い・・・心の奥底に憎しみや怒りと言った感情とは程遠い、本当に安らぎと優しさを感じさせる感情が流れ込んでくる。
ミリエラの温かな眼差しが、ゆっくりと大きな胸の中に抱かれているようなそんな安心感が溢れ出る。
そして・・・魔力が弾けた。
ドレスとベール・・・その二つが大空へと弾け飛び、光の球体があたりへと散らばった。
そこにはいた。
雲が割れ・・・そこにだけ陽の光が落ちる。
陽の光が粒子の様に彼女へと降り注ぎ、その粒子がゆっくりと彼女の髪を撫でる。白銀の髪が光を反射する海の如く周囲へと光を振りまいた。細い一本一本の銀糸が空を舞い踊ると、大気が喜び勇んで踊り出す。風にゆがんだ白銀が闇に照らされた世界を白く染め上げる・・・長い髪が大空へと散らばる。その奥、深緑の色、翡翠の色に染まった瞳が俺と交差する・・・森という全てを詰め込んだようなそんな生命力を感じさせる瞳、大地の御力を宿し、虫達の聲や木々が演奏する葉が擦れる音を宿し、木々が落とす影をも内包した美しい瞳。長い睫毛がその瞳を遮るが、睫毛の隙間から覗く瞳でさえも美しい。
白く・・・どこまでも白く、白瓷の様に白い肌。桜色に染まった唇・・・それが彼女の美しさをより際立たせる。
彼女の身を包んでいた衣服は・・・全て取り払われ、今はキラキラと光り輝く薄いベールをその身に纏うだけの姿となっている。彼女を着飾るものなど要らない、彼女に必要なものなどない、彼女自身がこの世界で一番の宝石・・・そう言いえてしまえる程の姿があった。
長く伸びた爪は・・・薄い新緑の色に染まっており、しなやかに伸びた肢体、ベールによって隠されてはおるがはっきりと主張している二つの大きな胸、細い脚とは裏腹に大きなお尻がとても扇情的で・・・いつもの子供っぽさやあどけなさの残るミリエラの姿はどこにもなかった。
そこで、漸く・・・ミリエラ?は動いた。
ゆっくりと手を伸ばし、光を掴むと自分の前に大きな鏡を作り出した。
自分の姿を頭の先からつま先までを確認し、ニコッと微笑む・・・それだけでドキッとしてしまうほどの美しい存在が、目の前に立った高位偽精霊へと目を向ける。
その瞳から漏れ出る情愛のそれ、全てを見通すような瞳、自分の全てどころか・・・自分に連なる過去や未来、他のものまで丸ごと見据えているかのような・・・それは、まさしく
エルフを統べる王の眼だ。
”ミリティエ・ラースィ・パーミラの進化を確認。個体名『ハイエルフ』"
そう声が響いた直後、彼女の背後・・・一瞬、ほんの一瞬・・・陽炎の如く消えたそれは、俺が見た幻だったのだろうか。
二人のエルフとハーフエルフが、片方の手をミリエラの肩に置き、もう片方の手を下で力強く握り合わせている姿が見えたのだ。
ハーピーの観察日記
休載。
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