森人:エルフの惨禍でした!
投稿遅くなってしまい申し訳ございません。
たくさんのブックマークありがとうございます!!
エルフの惨禍・・・それがきっかけであり、現状の惨禍の始まりであった。
side ミリエラ
真っ暗な空間・・・肌を撫でるのは心地の良い草原を吹き抜ける風ではなく、ドロッとした粘液質でぶよぶよとした黒い塊の様なもののそれ。それが身体のあちこちに纏わり付き、不快感が全身を駆け巡る。けれど、それは私の身体を淡く包んだ蒼い光の輝きが払い除け、真っ暗な空間へと解ける様にして浄化・消失する。
纏わり付いた部分は非常に冷たくなっており、どこか心の奥底へと濁った感情が植え付けられている気がする・・・うん、間違いなくその感情は自分の中へと流れ込んでいると自覚した。私の手を引いてどこかに連れていく精霊さんの手を一瞬でも払い除けようとした・・・けどその心の淀みは瞬時に浄化され、気の迷いは直ぐに消え去った。
ここは正常な世界でない。さっきまでいた草原は見る影もなく、真っ暗な闇の中をぶよぶよとしたものが埋め尽くしている世界・・・数百人もの恨みの力が揺蕩う世界。
数多くの命が自分の方にしなだれ掛かって来る様な重み、地面に引っ張られる力などはなく、私の身体はただ真っ直ぐに精霊さんに導かれるままに飛んでいる。
と・・・途端に真っ暗な闇の最中に様々な色が見え隠れし始める。それから伝わってくるのは果てのない悲しみ・・・精霊達が感じているであろう心の叫び、それが私の心を打ち震わせ、一緒に涙を流してしまう。
けれどなぜだろう。その悲しみは決して精霊さん達だけが悲しんでいるものではない気がする・・・私の心に沁み込んでくる深い悲しみは、単なる『悲しみ』なんかじゃない。辛く苦しい悲しみ・・・その最中に、何かを失う悲しみも紛れている。
その光へと手を伸ばそうとした直後、周囲を包み込む闇がより一層強さを増し、私の心を蝕む淀みがさっきよりも早く私の心を蝕んでいく。
尽きる事のない憎しみ、果たすことのできなかった恨み、体をバラバラに切り裂かれたような痛み・・・心を踏み躙られる様な猛烈な不快感が自分を苛んだ。
だけどやっぱり、そんな憎しみで全てを覆い隠そうとしてもどこかに得も言われない『悲しみ』が潜んでいる。
『ミリエラ、もっと意識を保って、僕も防いで入るけど負けちゃだめだよ。負けたらもう戻れないからね。多分もうすぐだから』
もう直ぐ・・・私が考えた作戦は、この中からパーシラさんを取り戻す。それだけ。
そのために私はこの高位偽精霊へと乗り移って、無理やりにでもパーシラさんとこれとを引き剥がしてやるっていう無謀な作戦だった。
あわよくば精霊さん達も助け出してあげたい・・・そう思ったけれど、この中は私の想像以上に凄まじい。里で暮らして他のエルフの人達に悪意を向けられたことなんてなかった・・・たった一度オークに向けられて、それからいろんな魔物や人に悪意を向けられた・・・それに慣れたつもりだったけれど、この中はそんなものではない。
自分に向けられた大量の悪意が私の心を蝕もうと入り込んでくる・・・それに抗おうとする度に頭と胸の辺りがズキズキと痛む。
『ほら・・・あれだよ』
精霊さんが指さす方を見る。そこには薄い光の膜で覆われた小さな・・・それでいて大きな光の繭がある。その中にはパーシラさんの姿が見えており、あの中からパーシラさんを出して、この闇から引っ張り出せばパーシラさんは戻って来る筈だ。
光の繭へとゆっくりと手を繋いだ精霊さんは私を導いて光の繭へと触れさせる。後続から迫って来る黒い塊を精霊さんが手で払い除けると一瞬でそれは消失する・・・けど、新たな黒い塊が無数に出来上がり私へと迫る。
それをさせまいと精霊さんは払い続ける・・・私は、繭の薄い膜を何とか取り払おうと繭を叩く、するといとも容易く繭にはひびが入った。
やった
そう思ったのもつかの間だった。繭の中にいたパーシラさんがその大きな瞳を見開く・・・いえ、パーシラさんだったものと言い換えた方がいいかもしれない。
『ミリエラ!!』
パーシラさんの姿をしていたそれはドロドロとした黒いそれへと変わり私の腕を飲み込んで・・・次いで、私の身体全てを飲み込んだ。
深い闇、体をズタズタに引き裂かれた様な痛み、体を這いながら流れ出る血液にも似たそれが私の脳を焼く。叫びたくても声が出せない・・・そもそも今の私には体なんてものはない。魂だけを、心だけをこちら側へ持ってきたんだから当然だけど、魂を直接傷つけられるそんな不快感。
此処で終わるのかな・・・もっとサテラと、魔族の人達と・・・ユガ君と話したかったな。
間隔が途絶え、意識が朦朧とする。
魂の表層が次々と剥がれ落ち、心の奥底をよどみが侵食しきった。
そんな時、私の中から一つの光が眼前でくるくると回り始めた。いったい何だろうか、もっとこの光が何なのかを考えたいけれど、考えようとすると頭の中に霧が立ち込めた様に思考が回らない。
『諦めないで。ミリエラ・・・貴方しかできないのよ』
誰かがそう耳元でささやきかける・・・綺麗で透き通った声、あぁディーレさん?
でも、もう私何も考えられないの。私何しにここへ来たんだっけ?
『見せてあげる・・・だから・・・だからどうかこの子達を助けてあげて』
カッと目の前に閃光が走る。それと同時に私に心を、体を蝕んでいた黒い塊は全て消え去り、真っ暗闇の空間を白一色に染め上げた。
白一色・・・白?
黄色? オレンジ?
はっと気が付くと、どこは大きな大きな部屋・・・廊下?だった。
ぼやける視界の中、よく目を凝らすとそこには何人もの人影がジッとしていることに気付く、その誰もが暗い顔を浮かべ、ある人は大粒の涙を流しながら嗚咽をこぼしていて、ある人は力いっぱい握りしめた掌から血が滲み出ているのも厭わずに握りしめ続けている。
ザザッと目の前にノイズが走ると、私の目に映し出されたのは緑一面の草原が広がっていて、私はどこかの小高い丘の上に座っている様だった。
風に揺れる草花は緑の香りを周囲に振りまきながら、虫たちをおびき寄せて自分達の子供の種を他の花々へと運ばせようと必死になっていて、地面を這う蟻達は冬の支度をする為にとせっせと餌を巣へと運び込んでいる。
それを・・・私はじっと見つめている。
自然をジッと見つめるのは時折私もやる。精霊さん達との繋がりを感じながら、自然の中で囲まれることは本当に幸せだから。
・・・けれど、どうしてだろう。今はこの草花一輪をとってみても、蟻一匹を見つめる事にも悲しみが溢れてしまう。自然と頬を涙が伝い、広大な自然をジッと見つめながら私はゆっくりと立ち上がった。
また、ザザッとノイズが走る。
すると、さっきまで緑一面だった大地が焼け野原になっていた。生命の息吹を一片も感じさせず、蟻達の巣は大きく罅割れた大地の狭間へと消え去り、流れ出る溶岩が大地を赤黒く染め上げている。草花が燃えた灰が焼け野原となった草原を漂い、さっきまでは明るかった草原も今や夜となっていてそれが余計に悲しみと苦しみを引き摺り出す。
焼け野原となった草原から空へと昇る煙が草原を視たくないとでもいうかの様に月を覆い隠す。
そして私は片手に重みを感じ視線を向ける。
そこには流麗な装飾が施された剣を持っていた。
ゆっくりとそれを掲げ、剣の腹を自分へと向ける・・・そこには私ではない誰かが立っていた。大粒の涙を流し赤く腫らした眼元・・・絶望を感じてもう立ち上がる事汗もおっくうになった人の姿。
ディーレさんの様に美しく、耳の長いエルフ・・・焼け野原を見渡して唯々涙を流すエルフ。
白銀の髪を靡かせ、月光の様にキラキラと光り輝く白い肌、深緑の色に染まった瞳には焼け野原が移ると同時に再び大粒の涙が零れ出す。
剣を月に翳し、じっと剣が反射する月の光を見つめ続ける。
何かに思いを馳せる様に、何かを思い出すかの様に、何かを忘れて・・・いるかの様に。
そして剣を・・・ゆっくりと自分の胸へと突き刺した。
小さな痛みが身体を襲い、次いで喉から上がって来る暖かいモノを地面に吐き出す。紅い血液は地面に辛うじて咲いていた花を赤く染め上げ、それを愛おしく愛でるかの様に身体をうずくまらせて花を覆い隠す。
ジクジクとした痛みももう感じる事ができない。
何故自分はこんなにも悲しいのだろう、何故自分はこんなにも苦しいのだろう、何故自分はこんなにも痛いのだろう。
すると、体の中から何かが抜け出ていく感触を感じる。
それは煌々と燃える火の精霊・・・エルフと同じく一緒に火の紅涙を流し、力が抜けて微かに瞳を開けている私をゆっくりと抱きしめる。
剣はカランッと無機質な音を響かせながらエルフから引き抜かれ、紅い血液が白い肌を染める。
そして、私は灼爛の業火に包まれた。
ザザッとノイズに包まれた。そこに立っているのはさっきのエルフ・・・悲しげな顔をしながら微笑むその姿、どこか哀愁を感じさせるその美しいエルフ。
それがゆっくりと手を伸ばし、私へと・・・
触れる直前に、それが黒い塊へと変貌する。
私をまたも飲み込んだそれは私の視界を闇色に染め上げ、またも視界に別の色が移り込んだ。
そこは戦場。
戦場を埋め尽くす程の多くのエルフ達が戦場を駆け巡り、魔物の様な外見をした人達・・・魔族と戦っている。様々な色をした魔力がそこいらから立ち昇り、大爆発を引き起こしながらそれでも無限にいるのではないかと思わせる魔族達にエルフはその数を続々と減らしていく。それでも戦場にいるエルフの数を見ればそれも微々たるものなんだろう。
エルフ達は何かに取り憑かれたかの様に魔族へと魔法を放ち、剣を振るう。エルフの屍が戦場に転がるが、そのエルフの屍が1つできるころには10の魔族の屍が戦場へ転がる。
まるで自分の命が惜しくないかの様に怒りと憎しみだけがエルフを支配して魔族へと襲い掛かっている。
だけど・・・それが揺れ動いた。
魔族達が二つに分かれると、そこから鎧や武器で完全に武装した数百体の魔族の一団が現れた・・・それに驚き、慌てふためいたエルフ達はそれでも攻撃を続けようとするが・・・魔族の一団がエルフへと突撃すると形成は一気に逆転した。
エルフ達は一瞬にして押され、優位をとっていたその状況は一変壊滅した・・・早回しの様に戦場の状況がは刻一刻と変わり、エルフは形勢が不利だと知るや直ぐに退却を始めるがそれを逃すまいと魔族は追撃を始める。戦場を埋め尽くしていたエルフの姿はなくなり、後には魔族よりも積み重なったエルフの死体が散乱するに終わった。
ゾクッと心の奥底から冷たい感情がせり上がる。
それと同時にまたノイズが走り・・・視界が上下に揺られ、どこかの坂を駆け上っていく視点へと切り替わる。ハァハァと荒い息遣いが耳に届き、後ろを振り返るとまだ年若い十数人のエルフが何かに追われているかの様に必死の形相で走っている。
「早く、あの森まで逃げるんだ!!」
「急がないと魔族が来るぞ!!」
背後からは土煙をあげて数人の魔族がエルフの後を追いかけていた。
その手には淡く光り輝く剣・・・それに目をやったエルフ達は悲壮な顔を浮かべ、振り返る事をやめて走る事に専念する、
けど、魔族の足の方が速い・・・坂を駆け上って、視界に見えた森まではあと数百メートルもある。このまま全力で走り続けられたとしても魔族に追いつかれるのは必至だ。
「あなた・・・私が行きます。だから、この子を」
「何を言ってるんだ!! 無駄だ・・・お前一人が頑張ったところで、あれをどうこうできるわけがない。あの戦争で、我々エルフを壊滅にまで追いやった魔族なんだぞ!!」
一人の女性エルフが私に・・・いえ、私と同化した誰かに声をかける。その胸には小さな赤ん坊のエルフが抱かれており、この中で唯一の『母親』なんだろう。
そして、私の事をあなたと呼んだという事はこの二人は夫婦・・・なのかな。
「あなたはあのエルフ達を導いてあげなくてはならないわ。だけど、私なら」
「お前は子供の母親であらねばならんだろう!! それに・・・俺にはお前が必要だ」
「・・・ありがとう・・・けれど、未来あるエルフ達の芽を摘むことはできないの。あなたがあの子達を導いて、エルフの国を作ってくださいな」
「まだ方法はあるはずだ!! あの森にさえ逃げ込めれば我々が」
「このまま森に走っても、何れ追いつかれるて私とあなたならまだ逃げ切れるかもしれないけれど、後ろの子達は全員死んでしまうかもしれないのよ・・・わかっているのでしょう?」
「・・・だが、それなら俺が!!」
「言った筈ですよ。あの子達にはあなたが必要なの。それに、あなたの精霊様と魔力じゃ・・・無理よ。私と中級精霊のこの子なら何とか足止めできるかもしれないの」
「・・・くそ・・・クソ!!」
「しっかりしてください・・・あなたでも子守りくらいはできるでしょう? それにあなたの後ろに続くのはあの戦争で親を亡くし行き場を失った子達・・・別れたエルフ達にそれぞれ託されたのはこの子達を護って、いずれエルフの国を再建する為の準備をすることでしょう? 『ハイエルフ』様も・・・だからあぁなされたのよ」
私の目からは悔しさのあまり大粒の涙が流れる。目の前の・・・覚悟を決めた女性のエルフは手に抱いた自らの赤子を私に託す。
強い・・・どこまでも果てしなく強い意志を感じ取り、私である男性のエルフをジッと見つめる。けれど、その瞳は男性のエルフではなく、その奥底にある私を見ている気がした。
「あなたでも子守りはできるでしょう? ミルクは樹の粉から作れるから、赤ちゃんは粗相もするからおむつもちゃんと変えてあげてね、衣服もちゃんと変えてあげてしっかり洗う事、おしゃぶりもちゃんと作ってあるけど癖づけちゃだめよ・・・そして、ちゃんと愛してあげてくださいね」
そう告げると、赤子を私に託して駆ける足を止める・・・どんどんと遠ざかっていく女性のエルフ。振り替えることなく、泣き叫びながら私は森へと目指した。
ふっと目が覚めると、そこは真っ暗な空間だった。
さっきの光景を見る前のあの真っ暗闇の空間に戻ってきたのかと思ったけれど、そうじゃない・・・足にはしっかりと立っているという感触があり、鼻を擽る懐かしい木の香り、そこは恐らくではあるけれど私たちエルフが住む樹の中に作られた小さな室内だと思う。
・・・そして、私の口からは聞き取れないほどに小さな囁きがぶつぶつと漏れ出していた。その声に耳を傾けようとした時
ゾクッと寒気がこみ上げる。ここはよくない場所、ここは足を踏み入れてはならない場所・・・ここはあの集落で感じた違和感の原点だ。
ギィィィィィ
と、何処からか扉が開く音がしたと同時に、真っ暗な室内に淡い光が差し込んだ
「父さん?」
男の人の声・・・真っ暗だった室内に響く声に、私はゆっくりと振り返る。
そこには私と同じくらいの歳のエルフが立っていた・・・体つきは細く、けれど内包する魔力は私と同じくらいに高い。
内包する魔力に意識を向けると、そこには燃え上がる様な魔力の奔流が渦巻いていて、間違いなく火の上級精霊と契約を結んでいるんだという事がわかった。
「・・・あぁ、トゥワルドか。ちょうどお前を呼びに行こうと思っていたんだ。漸く完成したんだよ」
「・・・完成したのですか!? これでとうとう、僕達が此処で暮らすこともないのですね!!」
「そうだ。これで、エルフを救う事ができるんだ。失った我らが故郷を取り戻すことができる」
足元に視線を向けると、大きで複雑な魔法陣が室内いっぱいに描かれていた。その魔法陣は発動しておらず、これが起動すれば何らかの魔法が発動するんだろう。
・・・『エルフを救う事ができる?』この足元の魔法陣はエルフを救う何かの魔法陣なのかな?
いや、そんなわけない。違う。
この足元の魔法陣からは何故だか嫌な気配しか漂ってこない。
「来るんだ。この魔法陣はじきに起動する・・・後はお前のその力を注げば、完成するんだ」
視界が一瞬にして暗転する。
パッと視界に映ったのは何の変哲もない森の中、そこ印は小さな魔法陣が描かれており、その中心には『トゥワルド』と呼ばれたエルフの人が立っている。魔力が燃え上がる様にして吹き荒れており、煌々と光り輝く魔法陣はその発動を間近に控えていた。
ダメ。
絶対にダメ。
その魔法陣は一見すれば単純な小さな魔法陣に見えるけれど、よく目を凝らしてみればわかる。小さな魔法陣の中には多数の魔法陣が積み重なる様にして描かれており、それは私が見たことのない魔法陣であり、奇妙な形のものや見たこともないような文字で形成されている。
それを止めようと手を伸ばそうとするけど・・・当然動くはずもない。
発動する。
魔法陣から漏れ出た光がトゥワルドを飲み込み、私をも飲み込んだ。その瞬間に、私は小さく嗤っているのを感じた。
身を引き裂かれるような痛み、けれどその痛みにさえこの身体は喜びを感じている。
視界が白一色に飲まれた直後、次いで耳を劈く爆音が周囲一帯に轟く。視界も張力も奪われた私の身体に残ったのは張り裂けそうな痛みと、全身を焼かれる痛みだけ。
だけどこの身はせせら笑う、やっと成就したという達成感だけが支配して完全にすべてが消え去る、その瞬間、私の心の根っこを掴んで誰かが引き上げた。
『ミリエラ!!!』
そこには精霊さんの姿がある・・・でも、なんで?
『君の深層に黒い靄が入り込んだんだ・・・僕の不注意だったよ。あのままじゃ取り込まれるところだった・・・ディーレ様が魔力を貸してくれなかったら・・・とにかく、ここを出ようパーシラを探さな』
うわあああああああああああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁああぁぁl!!!
絶叫が黒い靄の中をこだまする。喉がははちきれそうになる程の・・・おおよそ人の出す声じゃない程の絶叫が精霊さんの声を完全にかき消して耳を叩く。
それは、私の背後から聞こえてきたもの。私を引っ張り出してくれた精霊さんが無理やりこじ開けたあの黒い何かの深層から聞こえてきた。
「なんで・・・いったい何が起こったんだ!! 精霊さん!父さん!!!」
そこには周囲一帯が焼け爛れた森、地面が黒く焦げ・・あたりがガラス状になった大地。衣服は全て燃え散り、身体の至る所にやけどの跡がうかがえる。
・・・そして、私はその場所を知っている。
「ここで、大きな精霊さんがいなくなっちゃったんだね」
『ソー!』
『オッキクテツヨイヒノセイレイサン』
エルフ達に一度捕まる前・・・精霊達に引き連れられて向かった開けた場所。リオエルと再び再会したあの場所。強くて大きな精霊さんが還った場所・・・いいえ、『死んだ』場所。
穴が徐々に小さくなる。
黒い塊が、絶叫を上げ気が狂ったように首位を走り回って精霊と父親を捜しまわるトゥワルドへと纏わり付いていく。
「ぼくが・・・ぼ、僕が・・・」
『オまエ、ちがウ。ハーふえルフ、そしテ、マぞく・・・そレのセイだ』
「僕・・・僕じ・・・僕じゃない」
黒い靄は闇色に染まりどんどんて大きくなる。
『ワレワレヲウラギッタ。ハーフエルフノセイダ』
「で、でも、これは俺が・・・ハーフエルフは、でも・・・」
『ウラメニクメケッシテユルスナ』
「ハーフ・・・エルフ」
『ワレワレヲウラギリ、マホウヲキルツルギヲツクッタ、ワレワレヲコロスツルギヲツクッタ。ワレワレノテキダ。ソレガナケレバオレワシナナカッタ、コキョウモウシナワズ、アイツモシヌコトハナカッタ。ハーフエルフヲニクメ、マゾクヲコロセ・・・ハーフエルフヲコロセ』
「そう・・・なのか。僕は・・・お、俺は」
黒い塊が人型になる・・・。
「我々は国を失った。王を失った。だが、取り返さんとした・・・故郷を、仲間を、ハイエルフを、だが負けた。ハーフエルフ共が裏切った・・・魔族に味方し、裏切った。皆殺された、皆奪われた。怨め恨め憾め・・・そしてお前が来たりし時の、カギとなれ」
黒い塊はゆっくりとトゥワルドへと同化してゆく。ずぶずぶとその体を沈ませ、遂には一体化してしまった。
すると、森から禍々しい魔力が溢れ始め、それは穴を大きく広げその光景を私に見せつけようとするかのように鮮明に映し出される。
そこには大量のノイズが走り、何かしらの光景が映し出された。
そこに立っていたのは、人型をした黒い塊・・・それが一本の剣を持っていて何かを何度も何度も突き刺している。
その剣は見たことがある・・・エルフの集落でみんなが持っていた剣。
ぼやけていた周囲の風景が色を帯び鮮明に映し出される。
あたりには無残に切り裂かれた死体が数十もの数が転がっている・・・そして、あの黒い塊が突き刺しているのは、女性のエルフ。
美しく可憐・・・瞳から流れ出た涙が口から吐きだされた血液と混ざり合い、その異様さを醸し出している。
『へぇ、成程ね。あの黒い塊は精霊の力・・・いや、呪いを受けてしまった結果というわけだね・・・エルフならこれくらいはわかってほしかったところだね』
どういう事?
『簡単だよ。火の上級精霊が死んだんだから普通ならあんな爆発程度で済むわけがない。あの魔法陣も元々は精霊の力を他者へと移すものだったんだろうね・・・そして、火の上級精霊を媒介にしてあのエルフを強くしようとしたんだと思うよ。けど・・・精霊の力は感情によるもの。殺された精霊の怒りがあの父親のエルフの恨みと結びついたってところかな? あの集落にあるかもしれないって言ってた魔法陣に精霊の力が流れて・・・無差別に多くのエルフの無念や恨みを回収した結果があれだよ。魔法陣に収まりきらなかった怨念は形となってハーフエルフを殺した・・・そして、集落のエルフ達を蝕んでいったってところかな? 自業自得もいいところだよ。僕ら精霊を蔑ろにした罰ってところかな』
・・・黒い塊が嘲笑を上げる。
ぐったりとしたハーフエルフ達の死体・・・黒い塊はそれを見渡すとより一層巨大化し、どこかへと去って行った。
『これで準備は整ったんだろうね。後は最後のきっかけをあの族長が起こしたってところかな? 呪いの魔力は徐々に漏れ出して集落のエルフを蝕んだ。そして、最後に黒い塊が求めたのは自分を引き受けるだけの土台・・・それがリオエルなんだろうね。けれどリオエルあはそこまでハーフエルフに恨みを持っていなかったのは誤算だったんじゃないかな? リオエルについていた聖印・・・あの呪いから護ってあげようとした火の精霊のせめてもの贈り物ってところなのかな?』
そっか・・・そうなんだ。
なんとなくわかっちゃった。
さっき私が見たのはエルフがたどった歴史の一部始終・・・この森にすんだエルフの悲劇の一幕。父さんとよばれたあの人は・・・奥さんを亡くした人であの赤ちゃんがトゥワルド。
そして、あの人は・・・父さんと呼ばれたあの人は自分の子供にだけはそんな理不尽が降り掛からないようにしたんだ。あの笑いも・・・きっとこれで無事に暮らしていけるっていう笑いだったんだ。
皆悪くなかったんだね。
そっか。精霊さんも・・・エルフも・・・ハーフエルフも・・・皆良い人達なんだ。
『・・・君は本当に甘いね』
またサテラに呆れられちゃうかな?
『呆れるだろうね。そんな甘い考えばかりしてるといつか足元救われるに違いないよ・・・君もユガもね。けど・・・そんな君が大好きなんだよ。ミリエラ・・・』
ねぇ、精霊さん。
パーシラさんを助けたら、私もう一つだけ考えがあるの。聞いてくれる?
『いいよ。聞こうじゃないか』
怒らないでね。
『・・・・・・・・・ハハハハ!! その言葉をずっと待っていたんだけどね。いいよ、君とならやってあげるよ・・・それに、最後のは本気なのかい?』
うん。
『君も僕もどうなるか分かったもんじゃないよ。ともすればカーティアと同じ結末を向けてもおかしくはないんだよ』
うん。
『覚悟は決まっているんだね?』
うん。
『じゃあ、僕はもう何も言わないよ。あと、パーシラの場所まではディーレ様が導いてくれているから早く行こうか』
私は決めた。
こんな悲しくて、行き違って、絡まり合った物語に終止符を打つんだ。
ずっとわからなかった・・・なんで争い合うんだろうって。
それをサテラに聞く度にミリエラは優しいねっていわれて、アレデュルク様からはそうしなければならないからって言われた。
争いがなくならないのはなぜか・・・それは簡単な事だったのかもしれない。すれ違いや護りたいものが違っただけなんだ。
なら・・・それらを全て引き受けてあげればいい。
甘いと思われるかもしれないけど、それでもやらなくちゃいけない。
ユガ君がそうしたように、私も全てを掛けて頑張って見せる。
だから・・・待ってて!! 直ぐに戻るから!!
そうして振り返り、パーシラの下へと急ごうとしたとき、背後から声がした。
『『私達の分まで任せたわ』』
聞き覚えのある女性の声、赤ん坊を抱いてた女性の声・・・もう一人の声は聞き覚えがないけれど、それが誰だか私はよくわかった。
任せられました!!
"ミリティエ・ラースィ・パーミラの『兆候』を確認。階の一部へと組み込み、眷属化を行います。階位:空き"
ハーピーの観察日記
商人ギルドとの対立の為に休載・・・カナンギルドへ被害。
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何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
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※最近お仕事が忙しくあまりチェックできていない為、誤字脱字が目立っているようです・・・読者の皆様には大変ご迷惑おかけしてしまい申し訳ございません。
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