森人:高位偽精霊との戦いでした!
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主人公 VS 高位偽精霊・・・そして。
side ユガ
さて、この空一面を覆い尽くす槍をどうしたものだろうか。一本一本に精霊の力を感じ、真っ黒に見えるそれは様々な属性の精霊達の力を一挙に集めているからだ。まぁ、言うなれば絵の具みたいな感じかな?
と、簡単に言ってはみるものの、それは簡単なものじゃない。精霊との契約は一人一体。だというのに、あの高位偽精霊は戦場と森にいた精霊達の力を全て吸い取ってしまった。ディーレは最上級精霊だったからか無事だったけど、それでも『何かにかなりの力で引っ張られる』と言っていた。
そうしてできたのがあれだ。あれを作り出したとうの本人でもあるあのエルフはこの高位偽精霊を『ハイエルフ』と呼んではいるが、まず間違いなくそうじゃないだろう。だが、あのエルフはハイエルフだと信じて疑わない。
冷静になって考えればこれがハイエルフでないことくらいわかるだろう。これが昔、エルフを束ねていた王だったなんておかしいにも程がある。
さて、そうなると答えは戦場全体から・・・いや、エルフ側から感じたこの『異様な力』が原因ではないかと皆との協議の結果に産まれたのだ。
あの巨大魔方陣騒動の後、パーシラを半ば強制的に連れ出してカラドウスに帰ったのだが、何故か森でサテラ御一行がいて、みーんなサテラにガミガミ叱られていた・・・ミリエラはアハハと誤魔化し笑い、リオエルに至ってはサテラの鬼の形相と説教に耐性がないからか半泣きになっていた。
で、詳しい事情を聴くと・・・そりゃハーフエルフの国のど真ん中で楽器持ち出してパーティー開いていればそうもなるだろうさ。サテラが怒るのも無理はない・・・うん、とばっちりが来て俺まで正座させられてしまった・・・うん。
で、ほったらかしにしていたパーシラさんの説明を始めようかと思ったけどリオエルの姿を見た途端泣きながらリオエルと抱擁。
まぁ、来る前に彼女の身体に纏わり付いていた妙な力は消しておいたからな。
ミリエラから教えて貰ったエルフの集落に渦巻く妙な力、ディーレでさえレジストの魔法を掛けた程の妙な力・・・あの力がエルフ一人一人に少なからず纏わりついていた。ある者に至っては身体に纏わり付くどころか心に沁みついている者までいた。
そして、一番ひどいのが・・・あのエルフだ。心がもはや妙な力に取り込まれ、飲み込まれかけている。
あの樹から漏れ出ていた魔力・・・パーシラさんが見たという樹の地下にあったという魔法陣。そして、その魔法陣というのをパーシラさんが覚えている限り一度描いて見せてもらった。
その魔法陣が・・・今やエルフ全体に刻まれており、あの高位偽精霊を包む闇の深奥に魔法陣の根源が伺える。
禍々しいなんて物じゃ効かない、悍ましい程の気で埋め尽くされており・・・それは底が知れぬ怨嗟の呟きにも似ており、もはや魔法陣は呪いと化していてディーレ曰くあれは『呪印』だと言っていた。
そして、その呪印はどんどんと人の心を蝕み、最後にはその呪印そのものと一体化し、人の形をした『魔法生物』へと至るらしい。
あの呪印は他へと乗り移り、エルフのみならず精霊にも影響を与えはたまた魔物にまで影響を及ぼす効果がある。そして感染源は間違いなくあの樹であり、あのエルフだ。
唯、リオエルにそれが及んでいなかったのが気になった。そしてディーレがリオエルの精霊と言葉を交わし、心の深層を垣間見た。
すると・・・簡単なことだ。『聖印』が抗っていたのだ・・・リオエルは『聖印をうまく制御できてない』と言っていたが、そうではなく魔力が減って体力がなくなって呪印が蝕むのを聖印が抑えていたが故に起きた事象だった。
そして、聖印を残したのはいったいどんな精霊なのか・・・それを探ろうとした直後に、エルフ側に動きがあったとハンゾーがやってきたのだ。
シロタエ、ショウゲツ、キク、ハンゾーにはもしハーフエルフとエルフが交戦状態に入ってしまったならそれを止めるか攪乱するかをしといてくれ、殺さない程度なら何をやってもいいと指示を出した。
・・・うん、まさか、戦国時代の甲冑を纏ったスケルトンがわんさか出て来るとは思わなかった。しかも、ほら・・・なんか昔の怖い絵巻かなんかで見たことのある巨大な骸骨も途中で出てきたし、びっくりしたよ。
そのおかげでまあエルフとハーフエルフもしっちゃかめっちゃかにさせられて戦争どころじゃなくなってたし、途中から参戦したショウゲツとキク、ハンゾーはシロタエ指揮下のもと敵の指揮官がいる付近を殺さない程度に大暴れした事もあって立て直しも出来ないように混乱させた・・・帰ってきたら褒めてあげよう。
ミリエラとリオエル、パーシラの三人は説得の為にエルフとハーフエルフの長の下へと向かわせた。
俺とサテラは最後まで反対したけど、ミリエラもリオエルもそこだけは絶対に譲れないと頑なだった・・・最後はディーレが脅しに掛かったがそれでも屈することはなく、ディーレ自身が了承を出した。
・・・サテラ?
無論俺のお目付け役で側にいたよ。けど、さっきの黒い太陽&黒い雷魔法が放たれた時に瓦解したハーフエルフ達を一斉に纏め上げている・・・さすが騎士というか、指揮が非常に上手く意気消沈し誰かさんのせいで指揮官を失ってパニックになったハーフエルフ達を瞬時に纏めあげて国の方へと一時撤退していった・・・つまり
や・り・た・い・ほ・う・だ・い!
天空から降り注ぐ黒い槍に向かってゆっくりと両手を挙げる。
「精霊魔法:蒼き永鎖の魔柩」
黒い槍全ての背後に柩が現れる。柩が現れたと同時に大地へと迫っていた槍はピタリと制止し、何かに恐れる様にその穂先から柄までがブルブルと振動する。
柩は空中で制止していたが、やがて柩に設えられた重厚な扉がゆっくりと音をたてながら開いた・・・すると、柩の中からは大小様々な青く光り輝く鎖が飛び出し、槍へと絡み付くと柩の中へと取り込まんと引っ張った。槍はそれに抵抗して前へ前へと進もうとするが、絡み付く鎖の数はどんどんと増えて行き無駄な抵抗に終わった。
槍は全て柩へと吸い込まれてゆき、柩の扉はばたんと閉じて大空へと消え去った。
「なぜ、ナゼ、なゼ、ナぜナゼナゼナゼなぜぜぜぜ?」
「大事なミリエラを傷付けといて、こんだけで終わると思うなよ」
掲げていた掌を前方に降り下ろし、俺の身体ほどの柩を出現させる。
「そっくりそのまま、お前に返してやるよ!!」
柩の扉が何かに蹴飛ばされたかの様にバンッと開く。中からは先程の黒い槍が飛び出し、一斉に奴へと襲い掛かった。
黒い槍に纏わり付く蒼い鎖は水のそれへとは変化し、黒い槍から分離すると、黒い槍と同じ水色の槍へと変化して突き進んだ。
そっくりそのまま・・・二倍にして返してやった。
「無駄無ダムダムだ」
阪神の黒い魔力が奴をマントの様に包み込み、その黒い魔力に槍が突き刺さってゆく・・・深々と突きさあったそれに、後続から次々に襲い来る槍が黒いマントに突き刺さる。さながらそれはハリセンボンみたいになってゆく・・・数百本の槍の嵐、その一本一本は中級魔法の中でも高位レベルであり、唯の上級魔法如きでは防げない・・・唯、あれのステータスは俺と同等かもしくはそれ以上の可能性もある。
あの時と同じだ・・・魔王に周囲掌握を仕掛けた時、正常に表示されなかった。
奴も同様に表示されず恐らくステータスが異常に高い・・・つまり、これくらいでは奴は少ししかダメージは受けないのだろう。
槍を全て使い切り、奴がいた中心は針山と化しており槍が刺さっていない部分はなく。奴の姿を確認することができない。
しかし、その中心から噴き出している膨大な魔力から、奴がまだ生きていることは間違いない。
と、槍が一斉にはじけ飛び、すべてがボロボロと灰と化して大気中へと消え去ってゆく。中心からは無傷の奴が現れ、その体からは陽炎がゆらゆらと揺らめいており魔力の奔流が轟々と吹き荒れている。
「ディーレ」
『えぇ、わかっているわ』
片手に一本の刀が現れる。蒼く煌々と光り輝いており、自分の身長の三倍は長いであろうという巨大な刀・・・魔力で形成されたそれはそこいらの剣では相手にもならず一瞬にして斬り飛ばすこともできるだろう。ディーレと俺の魔力によって圧縮に圧縮を重ねて形成された刀・・・前は一瞬しか具現化できなかったそれだ。最近になって・・・あ、あれからというものなぜか魔力効率が数倍くらい潤滑にいくようになってようやく常時出現させていられるようになり実現したスキルであり、魔法でもあるそれは
「名付けて、スキル魔法:『破邪之御太刀』」
何故これを出したかなんてのは言うまでもないだろう。奴の半身から黒い槍が伸びているのだ・・・こっちの持っている破邪之御太刀と同等の魔力密度で形成されたそれから察するに、奴は遠距離戦は不利だと踏んだのだろう。
先刻は無傷だといったが・・・奴の人間の形を保った半分に一本の切り傷ができていたのだ。
「いくぞ」
「シジョウ至上しじょうなるこノ身ニ、傷キずをつケた罰罰罰」
瞬間、世界が静止したかの様な錯覚に陥る。自分の全力をもって駆けだしたんだ・・・しかし、そんな空間の中であって、奴は自分と同じ速度で接近していた。
突き出される槍、振りかぶる刀・・・それが激突した瞬間魔力の衝撃が周囲へと広がり、刀と槍の衝突音は戦場全体へと響き渡った。
魔力と魔力の共鳴によって起こった莫大な光はされど一瞬、次の一手に映ったのは奴の槍だった引き戻してもう一度突き出されたそれを刀で弾き返し、お返しとばかりに刀を突き入れるが同じように槍で払われて・・・と斬撃と刺突とが入り乱れる。
刀を一振りするごとに衝撃波が彼方此方へと降り注ぎ、草原に佇んで居た大岩が衝撃によって真っ二つに切り裂かれる。
槍が一突きされる度に地面に大穴が開き、大岩に穿たれた跡が刻まれる。
空気を切り裂き、刀と槍との衝突音が一瞬の音楽を奏で始め、地上で戦い耽る自分達はその音に乗って踊り狂うまるで役者の様なシチュエーションと化している。
刀を横薙ぎに振るい、即座に振り下ろしの斬撃へと移る。槍が横薙ぎの斬撃を受け流すが次いで来た縦に振るわれた斬撃を不利な姿勢から躱す事しかできず、右方へと飛び退くがそれが半身の黒い魔力を少しだけ切り裂いた・・・しかし、飛び退いた直後に突き出された槍もまた自分の脇腹をかすめており、血が・・・いや、粘液が周囲へと飛び散った。
魔力で形成された槍、ただの物理攻撃であったのならこの身体はある程度軽減できるだろうが、魔力で形成された槍ともあればその力が諸に伝わってしまう。
想像以上の痛みがわき腹を襲い、一瞬ふらついてしまう・・・その隙に奴が襲ってきてしまう。直ぐ様体勢を立て直すと・・・。
「ヌ・・・ァ・・・ブ・・・」
相手もふらふらとふらついていた。
『舐めないでほしいわ。私は最上級精霊・・・誓約を交わした精霊よ。有象無象を取り込んだ偽物の精霊とは違うのよ』
魔力で構成された半身・・・少しだけ切り裂いたその部分は蒼く光り輝き、魔力をどんどんと侵食してゆき半身を飲み尽くさんと蠢いている。
しかし。浸食先の自身の身体を手で引きちぎり、事無きを得たのかフラフラとしながらこちらをギロリと睨む。
『それとユガ、あれが何かわかったわ・・・あれは精霊でもなく、人でもなく、エルフでもないわ』
「えぇっとどういう事?」
『あれは怨念の部類よ。あれの身体を焼いた瞬間に魔力を伝って、膨大な感情の奔流が私を飲み込もうと侵食してきたわ・・・返り討ちにしてやったけれどね。あの呪印は怨念を媒介とした禁忌の魔法といったところね。己の力と魂を魔法陣に捧げ、永遠に冷める事のない地獄に苛まれることになるわ・・・けれど、怨念としてそれが成仏するまでに数百年と生きる?ことができるわ。そして、あれは一人の怨念なんかじゃないわ。数百人の怨念が寄り集まってできた怨念の集合体・・・エルフ百数十人分の力を取り込んだ『禁忌魔法』と呼べばいいのかしらね』
・・・つまり、あの黒い魔力はエルフの魂ってことか?
『数百年前、ハーフエルフの先祖を恨んだエルフの怨念ね。それが積み重なり、呪印に縛り付けられた挙句利用されたって事ね。たぶん今意思を持っているのはその中の筆頭。一番ハーフエルフに・・・いいえ、自分達を殺した魔道具を作ったエルフを恨んでいる者でしょうね。王の帰還を渇望して無念の間に死んだエルフ、自分達を裏切ったエルフに対する憎悪、魂までを犠牲にしてでも遂げたい復讐心・・・それがあれね。あの大樹に宿った魔法陣がそれらを吸い上げてあの呪印に縛り付けていた。けれど、増え続けた怨念は次第に外へ漏れ出して、今のエルフまでをも蝕んだ・・・ってところかしらね。あれが解放されたのも、外に漏れだした怨念によってあのエルフが操られて、呪印の開放の魔法を唱えたのね・・・そして、パーシラの身体を媒介、精霊を接着剤代わりにして身体を手に入れたのよ』
あれはエルフ。エルフの魂と怨念が形成した魔物ってところか・・・。
「魔族?マゾクマゾクアマソkソアjマイzパイダs・・・まぁぁぁあぁぞおおぉぉぉおぉおくうううぅぅぅぅぅぅうううぅぅ!!!!!」
突如として、黒い魔力の半身が体積をまして己のもう半身を飲み込んだ。はぁ・・・嫌な予感はしてたよ。だって自分達を殺したエルフの道具を恨んでいたってことは・・・その道具を使った張本人である魔族も恨んでいるに違いない。
俺はなんだ・・・魔族です!
直後、視界を埋め尽くすほどの槍の刺突が繰り出される。避けるのはほぼ不可能だ。
全神経を集中させて、刀で持って一気に弾き飛ばそうと力いっぱい振るう・・・が一本の槍が刀に触れた瞬間先程の剣戟よりも数倍重い衝撃が手を伝い身体にまで響いてくる。それでもあれに貫かれたら流石の俺もただじゃすまないってことはわかる・・・まず間違いなく命に危険が及ぶのは目に見えている。
どでかい魔力の奔流・・・あれが奴の本気なのだろう。王都の時の俺なら間違いなくやられていた・・・だけど。
こっちも唯黙って時が過ぎゆくままに過ごしていたわけじゃない。
「精霊トリオ、力を貸してくれよ! スキル:『なんちゃって魔化』!!」
『はーい!』
『あーい!』
『んー!』
精霊トリオがありったけの魔力を放出する。トリオからあふれ出た魔力は俺の身体を包み込み、次いで刀を持った片腕に収束しその姿を変えてゆく。
ドロドロと液状化した粘液が腕と刀両方を覆い、自分の腕よりも何倍も太いそれを形成した・・・それは徐々に漆黒のうろこの様な物を纏うと、金色の毛並みが上から覆いかぶさるようにして生え揃う。
竜人の話を聞いて試行錯誤した結果だ。魔力を己の力に変換する・・・器がどうのこうのと言っていたが、そこいらがわからず手探りだったがスライムの粘液を伸ばしてそこに魔力を覆わせて自分の想像やイメージを伝えるとこうなったのだ。
しかし、膨大な魔力を必要とするし、開けた場所で使わなければならない。なぜなら
「ふっ!!」
巨大化した魔物のような手を振るう・・・すると自分へと飛来していた無数の黒い槍はいとも簡単に弾かれて空中へ霧散する。
直後、大地は捲れ上がり引き裂かれ荒れて小さな地割れを形成すると同時に周囲一帯に岩の礫が飛散し、小さな竜巻を幾つも形成され、次いで出た火の海がその竜巻に乗って石の礫をドロドロの溶岩へと変えて周囲一帯へと無差別に襲い掛かった。衝撃波もすさまじく、戦場一帯に小さな地震を引き起こすほどの威力だ。
自分の身体はその衝撃に吹き飛ばされない様に制御するのが手一杯で他の事にまで意識を向けている暇はない。
そう・・・制御ができないのだ。
この腕を振るうだけでディーレと俺の容赦のない魔法攻撃がむやみやたらに周囲に放出されると考えればいい。
広い場所で行使しなければ周りを巻き込んでしまう・・・しかもこの腕は制御することができないなんてもんじゃない。制御しているのに制御しきれていない。つまり、少しでも制御から意識を離せば、この腕は霧散してしまって魔力だけが無駄に消費されるし、制御から大幅に意識を背ければさっきの減少の数十倍もの魔法が暴発するだろう。
使い勝手は悪い・・・しかし、それ故に破壊力は絶大なのだ。
黒い槍が霧散し、溶岩が飛来するその最中黒い塊が突如として飛び込んでくる・・・奴だ。
奴はその半身を巨大な禍々しい手を形成しその腕を振るう・・・俺もそれに合わせて腕を振るい激突させる。刀と槍との衝突よりも凄まじい衝撃が全身に伝わり空間を振動させる。
バキンッ
何かが弾ける音が響くと、奴の形成する腕がばらばらと空中へ消え去り、俺の手が奴の身体を完全に覆った。
「吹っ飛べええぇぇぇぇぇ!!!!!」
勢いそのままに降りぬいた奴をはるか彼方へと吹き飛ばす。ショックウェーブを空中へ刻みながら大地へと叩きつけらた奴は巨大なクレーターを形成し、地面へと叩きつけられた。
手ごたえは確かにあった・・・しかし、俺の目はしっかりと奴をとらえている。
無傷だ。
俺の手が奴をとらえた直後に、全身を包む防御魔法を展開して衝撃から身を護った。ディーレと精霊トリオの力を飲み込んだこの手であってもあの防御魔法を突破できなかったのだ。
『・・・精霊の力を無理に引き出してるわね。あのままでは、中の精霊が全て滅びるわ』
『精霊が悲鳴を上げてる』
『無茶よ!! あんなの私達でも滅びちゃうわ!!』
『・・・許せない』
・・・成る程。取り込んだ精霊達から無理やり力を引きずり出してるってことはか・・・。つまりあいつが急に強化されたのも精霊達の力・・・あのまま奴の好きにさせていれば、何れ精霊達は死に絶える。
そして取り返しがつかなくなる。
『精霊が死ねば、膨大な力が溢れる。あれはそれがわかっているのよ』
「それまでに倒す・・・っていうのも難しそうだな」
『その腕でダメージが一切通ってないんじゃ無理ね・・・余計に精霊達の死を加速させるだけよ。そして精霊が死んでしまえばもう私達でさえも手が付けられないわ』
この腕は現状で出せるものでもかなり上の火力だ・・・自分のステータスを鑑みて、その潜在能力全てを継ぎ込んで戦ってしまえば勝てるかもしれない。
しかし、その攻撃を防がれでもすれば間違いなく精霊達は死ぬ・・・そして奴の力の糧となり本当に手が付けられなくなる。
厄介すぎる・・・しかもあの中にはパーシラもいる。
本気で消し飛ばすつもりの攻撃を加えてしまえば、パーシラと精霊達をまとめて葬り去ってしまう可能性さえある。
方法は・・・ん?
・・・・・・・・・。
やってみよう。
一つ活路が見えた・・・今はそれを信じるしかなさそうだ。
全力でいく。少しでも奴にダメージを与える・・・賭けになってしまうだろうが、今はその賭けに乗らざるを得ない。
賭けが失敗すれば取り返しがつかないが・・・あの瞳に賭けるしかない。
「ディーレ、ファー、ムー、ノー・・・顕現」
今まで見たこともないような魔力の奔流が己の内側より溢れ出し、Sランクへと昇華した自分でさえわかる程にごっそりと魔力の残量が減った事を知覚する。体が一気に重たくなり、腕は一気に霧散する・・・一切の魔力の制御が自分から手放され、己の身体を人間たらしめていたそれがドロドロと溶け出し、懐かしいスライムの姿へと戻る。
膨大な魔力は天高く立ち昇り・・・自分を中心にしてそれが三つに分かれる。三つの柱・・・それは魔力によって作り出された転送の魔術。己の内にて眠る三体の精霊を原初のまま力の元素たる物全てを此方側に引き寄せる為の大魔法だ。
そのゲートより、天空から三人の精霊の姿が舞い降りる。
大気中に炎々と燃え盛る碧白い炎をたなびかせ、全てを焼き尽くす炎によってその体の大半を形成し、巨大な焔の翼を携えた少女の精霊。
微風を吹かせながら颯爽と流麗に舞い降り・・・その背後には轟々と吹き荒ぶ刃の様な風を従え、己の手で弄ぶようにして小さな竜巻を繰る少女の精霊。
二人とは違い大地より現れ、ひび割れた大地からマグマを滾らせながら、七色に光輝く鉱石をその身に宿し、その瞳はダイヤの如く煌々と輝く少年の精霊。
その三体は俺を中心に置いて皆が皆俺を視ている・・・いや、俺がいる位置へと降臨するそれを待ち望んでいる。
大気から一粒の水が形成される・・・それはどんどんと増え、水は一か所に集まりどんどんとその体積を増してゆく。やがてそれは一つの人型を形作り、俺を中心に立ち昇った魔力の柱を全て取り込むとそこには何よりも美しい美女が現れる。
青く、蒼く、碧い存在。水の全てを体現したような存在・・・流れる髪は流水を思わせるほどに澄んでおり、半透明になったそれは風に吹かれてユラリユラリと揺らめている。水面を反射する陽光が如く真白な肌に、蒼い羽衣もが風に触れるさまはまさに幻想的なそれだ。彼女の胸元に光り輝くアクセサリーだけがどこかちゃっちいが、それが彼女を此処まで美しくさせる起源ともなった証だ。
ゆっくりと見開かれたその瞳は、何物をも見通すように綺麗で澄んだ瞳・・・その瞳はただ一人だけを愛おしく見つめている。
そして彼女は薄いピンク色の唇を開き、桃色の吐息を吐き出しながら耳元でささやく。
「まだ緊張する?」
「ま、まぁ、そこまできれいなんだから仕方ないだろ・・・」
「そうねぇ・・・そうよねぇ。ウフフフフ、そう言って貰えるともっと頑張れちゃうわ・・・気づいてると思うけれどちゃんとこれもつけているのよ? あなたがくれたアクセサリー、私のお気に入りなの」
胸元に光る青色のネックレス・・・うん。確かに俺がそこらの商店でディーレに合うかなぁって思って買ってあげたものだ。
銀色のチェーンに青い石がキラキラと光るもの・・・無論宝石なんてモンじゃないし安物だ。
それをずっとつけていてくれたことは非常に嬉しいのだが・・・な、なんだろうか、この非常に申し訳なく感じる気持ちは・・・。
あぁ、うん。ディーレにあってないんだろうなぁ・・・言うなればディーレとそのアクセサリーが噛み合ってないんだ。アクセサリーの質が非常に悪すぎる。ディーレと比べて見劣りするっていうか・・・うん。
「また、いいの買ってあげるよ」
「・・・そう? でもいらないわ。これが私のお気に入りだから」
ニコニコと微笑むその姿は美しい美女というよりも、あどけない少女の様にも感じられる。
んーでも、やっぱりアクセサリーが見劣りしちゃってるんだよなぁ。
「指輪とかどうかな?」
「あら? それもいいわ・・・ね」
と、何故かディーレが言い淀む。
「あの、ディーレ?」
「・・・・・・・・・」
あ、あれ?
なんかまずったか?
ディーレから反応がない。
おきに召さないかな?
あぁ、そういえば腕輪とかもあったな。そっちのがよかったかな・・・確かに指輪ってちっちゃいしなぁ。
「・・・ふ・・・フフフ・・・」
「でぃ、ディーレ?」
「ウフフフフフフフフフフフフ」
ディーレが笑う、嗤う。
フワッと空中へ浮かぶと俺の前にゆっくりと降り立ち、クルリと振り返る。
「待ってるわ。早くしてね」
その表情は今まで一緒に居た中でも最高の笑み・・・どこか気恥ずかしそうで、でも、本当に、本当に心の底から嬉しそうな表情だ。
頬がうっすらと桃色に染まり、それに呼応するかの様に全身を包む羽衣がフワフワと揺れる。
「さぁ、行くわよ」
「はい!」
「ハーイ!」
「ん」
ディーレがゆっくりと奴へと近づいていく。
傍には三人の精霊を従えて
「高位偽精霊・・・といったかしら?あなたに少しだけ教えてあげるわ。精霊というものが怒らせると怖い・・・って聞いたことはあるわよね? 精霊っていうのはそもそも『感情』によってその力を発揮するわ。だからこそ精霊を知っている者は私達の事を喜ばそうと楽しませようとするわ。けれど、面白いことは何度も何度も同じ事をやられてしまえば面白くなくなってしまう。けれど、怒らせることは何度も繰り返そうとも同じように怒るわよね? だからそれがよく伝わってしまった結果怒らせると怖いになるわけね・・・それともう一つ、楽しいっていう感情よりも怒りという感情は簡単に頂点に達してしまう。だからこそ楽しさ等の感情よりも怒りという感情は私達精霊にとって、力を極限まで引き出すきっかけになっているのよ。けど、私は初めてよ・・・怒り以外の感情でここまで昂ったのは」
俺の方からはディーレの背中しか見えない・・・けれど、その魔力が俺でも制御できないほどの大きさに膨れ上がっているのを感じ取る事ができる。
傍に控えている精霊トリオも額から冷や汗を垂らす程の魔力がディーレから発されているのだ・・・それは『精霊』を体現している。
魔力がバチンバチンと弾けるたびに当たりにキラキラと輝く水滴が空を舞う。
「初めてよ。私の初めてを上げるわ。私の極限を・・・精霊の恐ろしさを」
ディーレの片手に何処からともなく現れた水が集まり始める・・・だが、集まっている水とは対照的に形成されるそれの形がない。
あぁ。成程魔力によって・・・水を極限まで圧縮しているんだ。水刃の原理と同じだ・・・圧縮した水を刃の様に放ち出す魔法。しかし、あの圧縮量はそれの比ではない程に圧縮されている。
空中からあふれ出る水の量はどんどんと増しいつの間にかそれは空中から流れ出す滝のようにディーレへと降り注いでいる。
それを黙って見ている奴ではない。
奴は無数の槍を繰り出し、自らも高密度に圧縮した魔力によって形成した槍を手に持ってディーレへと襲い掛かった。
「させないよ!」
「させなーい」
「・・・ん!」
トリオが前方に三色の魔法障壁を張り巡らせた。槍は悉くそれに阻まれてゆき、奴の突き出した槍も障壁を突き破る事はできずにはじき返された。
半身がぐにゃりと歪み、巨大な口の様な物を形成するとそこから真っ白な炎を吐き出した・・・が、無論それも魔法障壁によって阻まれる奴もかなりの魔力を使っていることがわかるが、あの魔法障壁は早々突破できるものではない。
なにせ精霊トリオ三人が俺の魔力を受け取って顕現している状態で使用したものなのだ。ユニークスキル『精霊顕現』精霊を場に降ろしてそのステータスを本来の精霊のそれに準拠させる。
つまり、宿主のステータスに縛られずに精霊本来の力を行使することができるってことだ・・・その代わり俺はというと魔力が空っぽになって、役立たずになってしまうわけなんだなけどね。
あの三人は中級精霊であれど、顕現時は契約を結んでいる上級精霊程にも匹敵する三人の障壁は簡単に破ることなどできる筈がない。
「滅びよ滅びホロび、ホロ、ほろほrほrほrほr」
奴の半身そのものが巨大な槍へと変化する。とんでもない魔力を纏ったそれが障壁に直撃すると、ビリビリと衝撃波が障壁を駆け抜け、その直後に障壁に小さなヒビが入る・・・精霊トリオも顔を歪ませ、直ぐ様障壁の修復へと魔力を振り絞る・・・が、何度も突き出されるその槍の刺突に障壁半どんどんとその様相を歪めてゆき、いくつものひびが障壁へと走った。
障壁の強度は著しく下がっている・・・障壁は今にも壊れそうにビシビシと悲鳴を上げる。
バキンッ
ひびだらけになった障壁に、これで最後と勢いをつけた槍は障壁の一番もろい箇所へと喰らい付き、一瞬の抵抗の後、むなしくも障壁がばらばらに割れくだけだ。
うん・・・準備は整ったんだ。
「槍というのはこう作るのよ。おばかさん」
ディーレが片手に持っているのは一本の槍・・・三叉に分かれた青い槍だ。俺がディーレに渡したイメージ・・・海の神が持っていたといわれる伝説の槍、そのイメージをディーレはしっかりと受け取りそれを体現してみせたのだ。
槍は空中へ浮かび、その穂先は奴へと真っ直ぐに向いていた。
「ちかラ、かせ。セいれイ」
「逝きなさい。精霊魔法:『海神之槍』」
ドンッ
槍が射出された。最早水で形成されたとは到底思えないその槍は一直線に奴へと突き進む。槍が突き進むと同時に水の輪が周囲一帯へと広がり、魔力で形成された津波が戦場へと流れ込んだ。
回転しながら突き進む槍は何もかものを飲み込むかの様な渦潮の如く周囲の物質を飲み込んでは己の糧として肥大化していく。
それはもはや大地も気も草も石も関係はない・・・全てを飲み込んで奴へと突き進むのだ。
これが全力で、これが全て・・・そして、これがきっかけだ。
「ミリエラ!!」
俺の後ろで魔力が空になり、意識を失っていたはずのミリエラが掌を突き出した状態で精霊に支えられながら立っていた・・・。
奴をどう倒そうかと迷っていた時、ミリエラの精霊を通じて俺に思念が飛び込んできた・・・。
『私に考えがあるの!』
そう告げたのは他でもないミリエラだった。
・・・正直、今のミリエラは俺の『精霊顕現』の真似事を行ったせいで魔力も殆ど底を尽きているし、戦うことはまずできない。
なら、いったい何ができるのか・・・そう問いかけると。
・・・無論、反対した。
失敗すればミリエラは二度と帰ってこない。
多分そうなってしまえば、俺は確実に奴を殺すだろう・・・パーシラさんのこととか精霊のこととか全てをかなぐり捨てて、奴を殺すためだけにこの手を振るうだろう。
けれど・・・ミリエラの頑固さは俺譲りだ。
すでにもう、意は決して準備も始めていた・・・自分の命を賭けてミリエラは覚悟を決め、決意を胸に秘めたのだ。
最後に微笑んで見せたミリエラに・・・俺は根負けしてしまった。
「ユガ君ありがとう。後は私がやってみる!!」
『ディーレ様、ユガ・・・ミリエラを、どうか繋ぎとめください』
「待ってて、精霊さん、パーシラさん! 私が・・・私がきっと助けに行くから!! 精霊魔法:操魂之身体!!」
ミリエラが選んだのは奴の中へと己の心を移す魔法・・・本来は自分の意識を相手に移し、体を乗っ取る魔法。それを改良して自分の魂・・・心を相手へと移動させる魔法へと昇華させた。
そのための魔力やケーブルは・・・俺とディーレが用意したあの槍だ。あの槍が続く間だけ、ミリエラは奴の心へと侵入できる。
もしも・・・
もしも失敗すればミリエラは帰ってこない。ミリエラの魂は奴へと食われ、そのまま命が尽きる。
だからこその賭け、ミリエラが決めた賭け。
俺が許してしまった賭け・・・これでもしも、ミリエラが帰ってこなければ、俺はどうなってしまうのだろうか。
そんなことを考えていると、後ろかどさりと倒れ伏す音が聞こえた。
ミリエラは大地に倒れ伏し・・・奴の中へと魂を移したのだ。
ハーピーの観察日記
商人ギルドとの対立の為に休載・・・商人の来訪大幅に減少。
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!