表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/271

現状:オークとの攻防でした!

波乱の予感幕開けです!

次話投稿は一週間以内です!

 地平線まで広がる広大な森「ユガ」。

 肥沃な大地に、数多の木々が生い茂るこの森は、生物にとって豊穣な恵みを齎す世界である。

 豊穣な大地が齎す恵みは生物にとって必要不可欠である。


 豊かな水、肥沃な土壌はあらゆる生命の活動を助長するだけでなく唯でさえ広大な森を更に拡大させている。

 その広大な森から産出された豊かな資源は、虫や植物だけでなく、魔物や亜人の命を育む必要不可欠なもの。

 見る者が見れば、それは豊かで感嘆に値するであろう森である。


 しかし、そんな豊かな森であっても決して穢れていない場所など存在しない。

 表があれば裏がある。光がさせば影があるように、穢れはどこにでも存在する。


 そして、その場所の一つが今ここに存在する。



 大地を踏み鳴らす豚の蹄、多くの怒号と剣戟の音が支配する戦場。

 血の雨が大地を赤く染め上げ、緑の景色を赤と死体で埋め尽くす。


 大地の脈動によって森のあらゆる生物が逃げ出し、姿なき精霊達は悲鳴を上げる。

 精霊達の悲鳴はやがて森の木々の悲鳴を誘発させる。


 豚の対面にて交戦している犬達によって、豚は地面に倒れ伏していく。

 体格やステータスを鑑みれば豚共に軍配は上がる。犬を上回る圧倒的な攻撃力は棍棒によって更に引き上げられる。

 掠っただけでも相当なダメージを負うそれを振り回す。犬達にとってそれは驚異と成り得るはず。


 しかし、前線にいる犬達はそれをものともせずに、豚共に切って掛かる。

 犬達は引くことを知らず、前へ前へと進んで行く。まるで死ぬことを恐れていないような進軍。


 振るわれる棍棒を紙一重で避け、手に下げた武器を的確に豚の急所に当てる。

 そこにいる犬は、尻尾を振って主人に媚びを売る者ではない。

 己の武器モノを振りかざし、眼前の敵を必殺の一撃にて屠らんとする鋭い眼差しを秘めた猟犬。それが豚と対峙している犬達に相応しいものだろう。


 犬の一刀によって豚の腹は裂かれ、臓物の華を辺りに撒き散らす。

 鼻を突く臭いが充満し、大地にまた一つ豚の残骸が横たわる。


 豚を一匹屠り、また一匹屠る。

 それでも、犬達は止まらない。何匹も何匹も、幾度となく続くまるで無限の連鎖の様な戦闘の中で、犬達は豚を屠り続ける。


 最前線に躍り出る四匹の犬に追随し、前へ前へと進む。

 圧倒的な戦力さを四匹の犬だけで覆していく。刀を、薙刀を、鉄甲を、小太刀を豚共に叩き込み、後ろに追随する犬とは比べ物にならない戦果を叩きだしながら、前へと進んでいく。


 体に幾重もの傷を抱え込み、咆哮を上げ豚共を屠るその姿に、他の犬達は負けじと突撃を仕掛ける。


 その戦場はオークとコボルドによって血の大地を作り上げていた。






 現状コボルド側の被害は限りなく0に近い。死亡した者はおらず、負傷者が41名、重症者2名となっている。

 奇跡だと思っていいじゃろうな。


 これも全て御方の恩寵の賜物であろう。

 御方がいなければ既に前線は崩壊し、オーク共の蹂躙が始まっていたであろう。


「ムッ・・・!?」


 オーク共が三匹棍棒を振り上げこちらに襲い掛かってくる。

 醜悪な顔、巨体で鈍重、鼻を突く臭い、それがオークの特徴である。


 鈍重ではあるが、その攻撃はコボルドとは比べ物にならないほどに強力であり、振り下ろされる棍棒の破壊力は簡単に岩をも粉砕する。


「しかし、当たらなければ意味はない」


 老いたとは言え、未だ力は衰えてはおらんよ。

 オーク共の単調な攻撃なんぞ刀坊と薙刀坊、無手坊と比べれば赤子の手を捻るより容易い。


 横薙ぎに振られる棍棒を、愛刀の小太刀で受け流す。振り下ろされた棍棒も同じく横へと捌く。


 最後の一匹は持ち前の巨体で体当たりを行使する。

 まぁそんなものワシには通用せんわな。


虎爪コソウ


 オークの体は三つに分かれ、そのまま絶命する。

 ワシの持ち得る小太刀のスキルの一つ。

 小太刀の特徴は防御。後の先を取るのに適しており、極意はカウンターとしている。


 相手の攻撃の勢いを利用し、一方の小太刀で防ぎ、一方の小太刀で敵の急所を捉える。それがワシの戦い方の常套手段である。


 ワシの小太刀で何十匹ものオークを沈めたはいいものの、状況は全く好転しない。


 現状はこちらが優勢であるが、終わりが見えない戦闘に徐々に疲弊しているのが目に見えてわかる。


 オークの猛攻に耐えている者達の顔には疲労が色濃く見える。

 剣を振るう速度も、槍を突き入れる速度も徐々に落ちつつある。


 ワシと共に最前線で戦っている刀、薙刀、無手坊は部下に喝を入れつつ、自身が象徴となることで仲間の士気を維持している。

 しかし、みなの一番の心の支えになっておるのは御方なのじゃろう。


 ユガの森の如く広き心、計り知れぬ強さの中に秘めた慈愛の心、皆の心を深く貫き身を震わせたあの気迫。

 何十年と生き、歳を重ねたワシであってもあのような強大なお方に出会ったことはない。

 現族長はもちろんのこと、前族長であっても御方には届かないであろうカリスマがある。


 ・・・この戦で我らは滅びる運命にある。

 一族を守ってやれなかったのが、御方に忠誠を誓えなかったのが悔やまれる。


 出来うる限り、戦線を維持してはいるが、何れ崩壊するのは目に見えている。小太刀を握る手が痺れ、もはや感覚が無い。


 思えば、短い一生だったかもしれない。

 生まれ出てすぐに特異だとわかったワシは当時族長だったコボルドに引き取られ鍛えられた。

 戦闘の才に恵まれたワシは頭角を表し、獲物コダチの扱いはその頃には極めていた。

 腕っ節は集落一番の猛者であり、当時の族長であろうと誰であろうとワシには勝てなかった。


 しかし、当時のライバルであった前族長は、何度もワシに挑み敗れ、その度に笑いながら次は負けんと宣っていた。

 誇りや外聞は奴にとっては意味のないもの。どれだけ負けて馬鹿にされようと、どれだけ辛酸を舐めようとも、泥臭く生き抜いたコボルドだった。


 奴を鬱陶しく思っていたワシも、奴の豪快さと気の良さに感化され、良き友となっていった。

 誇りや生き様を心に刻み込まれていたワシであったが、その時にはそんなものなんとも思っていなかった。

 奴の思想に惚れ込んでいったのは言うまでもないことだろう。


 良き友となった後も、奴は何度もワシに挑みかかってきおったわ。

 その度に泥塗れになり、地に溜まった水を啜る羽目になっていたが、奴の目は濁ることはなかった。


 そして、ある日ワシと奴は十匹のコボルドを連れ、集落から離れた場所へと遠征に向かった。

 十匹のコボルド達は戦闘員であり腕も立つ。ワシも奴も難なく魔物を切り伏せ奥へと進んでいた。


 しかし、ソイツはやってきた。当時ヌシとして君臨していた魔物が群れを率いて現れたのだ。雑魚はどうにかなったが、主にはワシらの攻撃は全く通用しなかった。

 怪我を負っていないものはおらず、全滅の危機に瀕していたワシらを救ったのが奴だった。


 先に集落に戻れ、後は俺がやる


 その言葉に激昂し、声を荒らげたのを今でも覚えている。

 奴は己を囮としてワシらを逃がそうとしたのだ。

 当然ワシらは当然許しはしなかった。しかし、奴は不敵に笑みを浮かべ言い放ったのだ。


 無駄死にするな、俺は逃げろと言ってるわけじゃない。助けを呼べと言っている。


 ワシらの有無を聞かず、奴は主に突貫して行った。

 ワシらはやつの背中を唯唯見送り、涙を飲み集落へと帰還し応援を呼んだ。


 そして、もうすぐ交戦地域へと辿り着くという所で、有り得ないものを見たのだ

 奴は血塗れになりながら、ヌシの首を腰に下げ帰って来た。

 奴の容貌は大きく変化し、体格は我らよりもごつくなっており、腰には肉厚のククリを下げていたのを覚えている。


 誇り?生き様?関係ないな、これが俺のコボルドたる強さだ。


 奴の言葉は今でも心に残っている。

 次代の族長の座を奴に譲り渡し、ワシは奴に忠誠を誓った。

 奴は瞬く間にコボルドを纏め上げ、その力を持って繁栄を齎した。


 平和だったと言えるだろう。誇りや生き様を無視する様に良く思っていない物もいたが、奴の強さに惹かれた者もいた。

 そんな奴が、酒の席にて零した言葉があった。


 本当の支配者は、俺のような者ではない。俺には足りないものがある。自然とかしずきたくなる者こそ支配者だ。


 当時は酒が回って笑い飛ばしていたが、今となってはそれが分かるような気がする。

 御方との出会いがそれを悠然と物語っている。全てを委ねても尚、足りないと思える支配者・・・それが御方であろう。


 そんな奴は、仲間である未熟なコボルドを守って死んでしまったが、やつは最後の最後に「慈愛」を見せたのだろう。


 奴がいなくなって混乱したワシらに変わって纏め上げたのが現族長である。

 しかし、誇りや生き様を一番とする現族長とは相容れない。そして、今回の戦にてここに極まった。


 今更恨んだって意味がないのは分かるが、恨まずにはいられない。

 焼きが回ったものじゃな・・・。


 昔は両の小太刀で全てを薙ぎ払って来たというのにのう。

 今や、この程度の魔物にさえ手を焼くというのか。それも仕方のないことじゃの。

 耄碌したこの身であっても、まだもう少しは頑張ってみるとするかの。


 迫り来るオーク共に、再び小太刀が襲い掛かる。

 首が舞い散り、醜悪な顔が大地へと貼り突き、無機質な土に赤の様相を刻み付ける。


「グアッ!?」


 横に居たコボルドの一匹をオークの棍棒が直撃する。

 吹き飛ばされたコボルドを他のコボルドが後方へと引き摺っていく。


 徐々に戦線を押す速度が緩み、拮抗し始めるのにそう時間はかからない。

 オーク共にここまで持ち堪えた方が奇跡というものだ。


 徐々に戦線を後退するコボルドが見受けられる。

 重傷者は既に15匹に及んでいる。

 死亡者は未だ出ておらず、戦線を縮小することで互いにサポートを取れるように配置した作戦が生きている証拠だろう。


「クッ!? もう少し固まれ! 飲み込まれるな!!」


 刀坊の指示に従い、前線組がさらに縮小する。


 前線から100m離れた場所に後衛組が控えている。そ奴らが参戦しさえすれば戦線を復活させることもできるが、奴らの思惑を見るに参戦することはないだろう。


「ふざけよって・・・。それでも同族か」


 悪態をついてみせるが、届く訳もなく澱んだ空気に霧散する。

 一瞬の油断を許し、オークの棍棒の急接近を許す。

 捌ききれず、量の小太刀で何とか受け止める。


「ぬぅっ!? まだまだ!!」


 小太刀に力を込め棍棒ごとオークを十字に割く。

 今のは危なかったの。流石に疲れが回っておるか。


「爺! 無事か!?」

「誰に言っておる。ワシが倒れるとでも思うたか」

「さすが爺だ! まだまだ行くぞ!!」

「活きがいいな刀坊。負けてはいられんようじゃな!!」


 刀坊が振るう獲物が、オーク三匹の命を直ぐ様切り飛ばす。

 赤く光った刀を、振り抜き血糊を吹き飛ばす。

 スキル「強斬撃」を使用し、オーク共に切り込むその姿を前に、後ろに続くコボルド達が息巻く。


 オークの立てる雑音を獲物で切り伏せながら、何とか堪えていたがその時はとうとう訪れた。

 オークの振るう棍棒が一匹のコボルドを上から粉砕する。

 一匹の命が散り、それを皮切りに一匹もう一匹と地に伏していく。


 後方で傷を休めていたコボルドも前へと出ざるを得なくなった。

 仲間達が倒れ伏していく現状をまざまざと見せつけられ、刀、薙刀、無手坊も歯噛みしながらオーク共を捩じ伏せていく。


 薙刀坊が単身オークの集団に突貫し、薙刀の長所を活かしオークの体を両断する。

 押されている箇所に切り込んでいってはオーク共を一掃して戻ってくるを繰り返している。

 オーク共も棍棒を振り回し応戦してはいるが、長物相手に接近できず一対一、一対多を得意とする薙刀坊には手も足も出ない。



 無手坊は身軽なステップと持ち前の影の薄さから、オークの不意を突いての攻撃を繰り返している。

 一対一を繰り広げる味方に加勢し、サポート役に徹している。

 オークは無手坊の姿を見ることなく、正拳によって内蔵をぶちまけている。たとえ姿を捉えたとしても攻撃を当てることができずに、その身に反撃を貰うことになる。


 刀坊はサポート、攻撃、防衛と全てにおいて万能であり、その強さはコボルドの中でも屈指の実力を誇る。

 リーダーとしての資質を持っている唯一のコボルドだ。

 オークの攻撃を難なくいなし、攻撃に転じる。或いは攻撃を受け止めて、反撃を返す。味方が押され始めると、加勢し押し返す。オークを相手取っている味方の下へと迅速に駆けつける。

 こやつの才覚は小さい頃から感じておったがこれほどとは・・・。


 ワシにあしらわれる度に泣いておった薙刀坊は今や何処へやら、立派な戦士になったものだ。

 生来から真面目気質であり、不義を働く者を許せない性格。

 薙刀坊は、負けず嫌いでワシに倒されても何度も起き上がって向かってくる者だった。


 同年代のコボルドには負けたことがなく、刀坊と唯一対等に戦える者である。

 負けると悔しさに負けて涙する。

 そして、訓練に明け暮れる。そんな薙刀坊は当然の如く、コボルドの中でも最上位者の部類に入る。


 無手坊は小さい頃から影が薄く、ワシでさえ気配を読み取れない事があった。

 力量としては特異の中では一番下ではあるが、我流によって組まれた一連の動きは読めず、気配が希薄であるから攻撃の初動が把握できない。

 しかし、我流が故に隙が多く、攻撃を見てからの防御が可能である


 ワシは刀術には秀でているが、体術に関しては会得していない。

 故に、戦い方を教えることができず我流となってしまった無手坊を気の毒に思う。

 しかし、今戦っている無手坊には隙が見当たらない・・・。御方との訓練に何かを見たのか。


 刀坊は一言で表すのなら天才である。ただ天才を持て余しておらず、努力を怠らない天才である。

 刀術を驚く程早く飲み込み、同年代とは比べ物にならない程に早い。

 そして努力を怠ることもせず、コボルドの中でも最強と呼ばれる一角である。

 訓練中ワシでさえ気を抜くことはできず、刀坊とやり合うときは全力である。


 薙刀坊とはいつも張り合っており、良きライバルとしてお互い磨き合っている。

 しかし、刀は槍などの長物相手には不利である。それにも関わらず、互角な勝負を繰り広げる刀坊はコボルド一の戦闘力を誇るといってもいいだろう。


 しかし、ワシとの手合いでさえ互角を繰り広げる刀坊は初めて圧倒的な敗北に立ち会った。

 御方との出会いによって刀坊の目に初めて、己の身を賭してまで忠誠を誓うべき相手が宿った。


 この戦闘で、この者達は地に伏すことになるだろう。

 それでも・・・最後の一匹になれども、オーク共を殺し続けるだろう。


「惜しいのぉ」


 ここまで手塩に掛けて育て上げてきたこの者達を無駄に死なすのは本当に惜しい。

 ワシのことを慕ってくれたこの者達をワシだけは決して見捨てはせん。


 そう心に決め、オーク共に小太刀を構えた直後だった。


「伝令!! 後衛の部隊に後方からオークの別働隊が強襲!!」

「なんだと!? それは本当か!!」

「は、はい。更に上位個体の存在を確認しました!」


 その言葉に前線に動揺が走る。

 コボルド達は狼狽え、オーク達の猛攻に押され始める。


「なんだと!? 奴か?」

「いえ、ハイオーク二体です」

「そ、そんな馬鹿な!?」


 オークの上位個体であるハイオークは、ハイコボルドをも上回る身体能力を持つ個体である。

 攻撃力と防御力が突出したオークである。

 それが二体など・・・考えたくもない。


「クソッ!?」

「も、もう一つ・・・」

「なんだ? まだ何かあるのか!」

「族長死去」


 その伝令によって動揺は最高潮に達した。

 族長が死んだ・・・そんな伝令の言葉にワシの頬を冷や汗が伝う。


「敵の数は100程。奇襲により、ハイオークの接近を許し、族長は倒れました」

「・・・そうか」


 後方からの支援がこれで完全に絶たれた。

 後衛の瓦解も時間の問題であろう。

 そうなると次はこちらの番である。


 ハイオークの襲来は前線のコボルドの希望を断った。

 これで我らの全滅は確定。集落のコボルド、ゴブリンでさえ奴らを止めることは不可能だろう。もちろん御方でさえも・・・。


 まさか、敵オークに上位種がこれほどまでにいるとは。

 あの謎の巨大オークに勝てるかもわからない状態で、更なる上位種の出現など、勝てるはずもない。


「そんな。勝てるわけないじゃない」

「もう。無理ね」


 薙刀、無手坊が揃って小さく呟く。

 こんな絶望な状態の中、希望を見出す方が難しい。


「諦めるな! まだチャンスは残っている。御方が来るまで持ち堪えるんだ!!」

「御方でも、上位種相手にこの数は無理よ!!」

「それでも、少しでも多くオーク共を殺すしかない!! たとえ、最後の一匹になろうとも・・・」


 刀坊の瞳にはまだ諦めは浮かんでいない

 さすがじゃな。上に立つ者の立ち振る舞いを心得ておるわ。

 上位者が揺らげば下の者はそれ以上に揺らぐ。それだけは避けねばならぬことじゃ。


 すると別のコボルドが前線から駆けてくる。


「伝令!! オークの上位個体三体が進行しています! おそらくハイオークかと思われます!」

「ッ!?」


 後方からだけではなく、前方からも上位個体とは恐れいるぞオーク共。

 あの巨大なオークの指揮能力は我々の遥か上をいっている。

 戦力もこちら以上、指揮能力も相手が上と合ってはどうしようもない。

 御方とゴブリンがここにいれば状況は変わったかもしれない。


「「「・・・」」」


 これには言葉をなくすしかないだろう。

 既にこちらの被害は15匹の死亡者が出ている。

 重症者は17匹、負傷者は全員といったところじゃな・・・


「俺達はここで死ぬだろう!! それでも、最後に一矢報いてやる!! 爺と薙刀、無手嬢はハイオークに行け!! 他のコボルドは一匹でも多くのオークを駆逐しろ!!」


 その一喝に、動揺していたコボルド達は目を見開き、そして目を伏せた。

 各々が数瞬目を閉じ、次に目を見開いた時に合ったのはここを死地と見定めた者の眼だった。

 己の獲物を強く握り締め、オーク共を睨みつける。


「ワシが一体、無手と薙刀坊が一体、刀坊が一体を受け持つがいいわ」

「爺は大丈夫なのか?」

「誰に言っておる、ワシを心配する暇があれば一匹でも多くのオークを屠ってこい!!」

「わ、わかった!」


 腕はたってもまだまだ未熟よな。ワシのような老害を心配するよりも、周りで戦っておる仲間たちを心配せんか・・・。


 まぁ、今から死地へと飛び込む者への手向けとでも思っておくとするかの。


 雑魚共を掻き分けて進んでいくと、ひときわ大きなオークが姿を現す。

 幅広の剣を携え、他のどのオークよりも強靭な体つきをしたハイオークが姿を現す。


 ハイオークは当然のことながら全てのステータスがオークを軽く上回っている。

 一番厄介なのは知能が宿っていることだ。オークの攻撃パターンは武器がなければ殴る、あれば振るう、体当たりなどと単調であり、大したことはない。

 しかし、ハイオークの攻撃パターンは、優れてはいないものの体術、剣術といったものを活用してくる。

 それに、ハイオークの高ステータスを乗せれば厄介の一言に尽きる。


 万全の状態であり、尚且つ集団で掛かってようやく倒せる相手であるというのに、今の疲労しきった状態では防戦さえも困難を極めるであろう。


 そしてあのハイオーク、どこから拾ってきたのか幅広の剣を持っておる。

 棍棒を持っておるだけでも脅威だというのに、剣を持っているとなると油断などしていられない。


「ふむ。こうして前に立ってみると、さすが上位個体じゃのう」


 ハイオークの前へと進みでて、小太刀を構える。

 ハイオークは己の剣を無造作に肩に担ぎ、虫を見るような目を向ける。

 圧倒的な上位者であるという事を誇示し、遊んでやると言わんばかりの態度だ。


 やれやれ、ワシも最後に足掻いてみるとするかの。

 小太刀を強く握り締め、相手の懐へと突貫する。


 BUUURUUUAAAA!!!


 ハイオークの咆哮と共に剣が横薙ぎに振られる。

 それを紙一重で交わすと、ハイオークは直ぐ様バックステップで距離を取る。

 尚も突貫を試みるが、今度は前足での蹴りが繰り出される。なんとか地面を蹴り、横へと回避することに成功したが、ハイオークの剣による追撃が迫る。

 それを小太刀で防ぎ、反撃へと移そうとする。


「グッ!?」


 しかし、ハイオークの放った一撃は予想以上に重く、弾き飛ばされる。

 なんとか受身を取り、置き上がることに成功するが、小太刀の一本が遠くへと弾き飛ばされてしまう。


 BURAAA!!!


 尚もハイオークの追撃は留まることを知らず、剣と巨漢を活かした体術での攻撃を繰り返す。


 このままでは、奴に一太刀も浴びせることなく死んでしまうのう。

 それだけはさせんぜ!!


 剣の攻撃を避けて、襲い来る拳打をいなす。

 同時に相手の懐へと潜り込み、右手に握る小太刀を両手で持ち相手の脇腹へと一撃を入れる。


 ガン!という金属に当たったような音と共に小太刀が弾かれるが、ハイオークの脇腹から鮮血が溢れ出る。


 それに目を血走らせたハイオークが怒りに任せて、振り切った拳を引き戻し裏拳を放つ。

 それを小太刀で受け止め衝撃を殺し。もう一本の小太刀がある場所へと着地する。

 それを拾いながら群がってきたオーク共を一蹴し、再度ハイオークへと肉薄する。


 小太刀で相手の攻撃を防ぎながら隙を伺い、的確な攻撃を叩き込む。

 しかし、ハイオークの専有スキル「自然回復」によって、受けたダメージは少しずつ回復していく。


 ダメージを与えては回復され、こちらへの疲労のみが蓄積される。

 こんな堂々巡りをしていれば何れ身体に限界が来るのは明白。現に、先程から徐々に攻撃をいなしきれず体に小さな傷を負っている。


 ワシの限界も近いの・・・。

 あの謎のオークに取っていた最後の力を振り絞るとしようかの。


「虎爪!!」


 二刀の小太刀から放たれたスキルによって、振り下ろした剣が跳ね上がる。

 その隙に再び懐へと潜り込み、小太刀に赤い光が灯る。


「十字爪!!」

「GAAAAAAAA!!!」


 交差された小太刀はハイオークの腹へと突き立ち、十字の模様を刻み込む。

 ハイオークの防御を押し通り、大きなダメージを与え吹き飛ばした。


 何匹ものオークを弾き飛ばした末に地面へと打ち付けられたハイオークはそれでも尚立ち上がる


 これでも死なぬとは、ハイオークの生命力は計り知れぬものじゃな。

 それでも、後一歩で仕留めることができる。

 このまま、もう一撃を!!


「キャアアアァァァ!!

「クッ!!」


 少し離れた場所でハイオークと対峙していた薙刀、無手坊がハイオークに弾き飛ばされる。

 メイスを持ったハイオークの攻撃を薙刀坊が捌ききれなかったのが原因のようだ。


 体をメイスで打ち付けられた、薙刀坊は動けずにその場にうずくまる。

 無手坊がハイオークに一対一を仕掛けてはいるが、ハイオーク相手には荷が重い。


「重拳!!」


 ゴウッ!という風を切る音を響かせ、ハイオークへと正拳を突き出す。

 それにハイオークのメイスが直撃する。けたたましい音が周囲にこだまし、ハイオークのメイスを左へと押しのける。

 それでも、ハイオークは引くことをせず、拳打の応酬へと移行する。


 腕だけなら無手坊に軍配が上がる。しかし、ステータスの高さがハイオークに軍配を上げている。


 GUUURAAAAAAAA!!!


「アッ!?」


 ダメージが蓄積され限界に達した無手坊が膝を折る。

 その隙をハイオークが逃すはずもなく、メイスを無手坊に振り下ろす。

 紙一重で直撃を免れた無手坊だが、その身に大きなダメージを宿す。


 薙刀坊がかろうじて立ち上がり、無手坊の前へと進み出る。

 薙刀を前へ突き出し、ハイオークを睨みつけている。


「薙刀嬢、無手嬢!!」


 刀坊がハイオークを相手取りながら、叫ぶ。


 薙刀坊はもはや戦える状態でない。無手坊も満身創痍であり、他のコボルドも加勢に向かうには遠すぎる。


「私達はハイオークなんかに負けないわよ」

「逃げて・・・アタイでどうにかするから」

「満身創痍なあんたじゃ無理よ」

「二人死んでも意味ないわ」

「それでも、仲間をこれ以上失いたくないわ!」


 無手と薙刀坊が二人で言い争っておるな。大方逃げろや逃げないなどの言い合いであろう。


 のう、前族長よ。お前は最後、散りゆく時にこれを見たのか?

 未熟であり、眩しい程の未来に溢れた仲間をその目に見たのかのう・・・。


 ワシにも・・・最後が来たということかの。

 メイスを振りかぶり、今まさに振り下ろさんとするハイオークへと突撃する。


「若き芽を今摘み取らすわけにはいかん!!」


 体当たりを繰り出し、ハイオークを薙刀坊達から遠ざける。

 猛然と小太刀での連撃を繰り出し、ハイオークを追い詰める。


 メイスを振り回すハイオークの攻撃を掻い潜りながら、着実にダメージを与えていく。


 このままいけば或いは・・・


 小太刀を振りかざし、突き入れようとした瞬間。

 視界が暗転する。地面に打ち付けられ、軽く意識が飛んだ。


 何が起こったのじゃ・・・


「グフッ!?」

「爺!!」


 不覚じゃった。

 ワシが相手取っていたハイオークが後ろから接近しておったとは・・・。

 拳打をモロに浴びてしまうとは情けないの。

 ふむ。骨が何本もいかれたようじゃ。体が痺れて、指一本も動かせんわ。


 ハイオークがこちらに近づいてきおる。

 剣を持ったハイオークは薙刀坊達の下へと向かい、メイスを持ったハイオークはこちらへと歩み寄る。


「爺いいいぃぃぃ!!」


 ここまでのようじゃの。

 我らコボルド、出来うる限りの全力を出した。

 後は任せたぞ、刀坊。後のコボルドを頼んだぞ。


 ゴブリン共よ、御方と共に我らの仇を討ってくれい。

 次に生まれるのであれば、御方の下へと行きつきたいものじゃな。


「明朝の月がこれほどまでに綺麗だとわなぁ」


 霞む視界で空を見上げる。

 空に浮かぶ月をみやり、ハイオークのメイスが振りかざされる。


 最後の最後に味なものを見れて良かったわ。


「さらばだ仲間とも達よ」


 白んだ空に赤い月を見上げ、そう小さく呟いた。


果たしてコボルド達はどうなってしまうのか・・・乞うご期待です!


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。

(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)


感想なども気軽にどしどし送ってくださいね!

活動報告(私の雑談場)の方にもコメントどうぞ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ