森人:森海戦争④でした!
たくさんのブックマークありがとうございます!
少々エグい表現等あるかもです。
至れ、ハイエルフ・・・。
side カーティア
砂塵が舞う大気を払い退ける様にして現れたその人物は、黄金色の髪をたなびかせた一人のエルフ。そんな金色の髪の間から覗いた蒼く美しい宝石の様な瞳には、華奢な身体からは想像も出来ない程の強い意志が感じられ、その眼光に射抜かれた僕は一歩後ろへと後退ってしまう。
あのエルフを前にした時よりも迫力のあるそのエルフの女は・・・先日街の中へと侵入していたあのエルフだった。
名前は
「ミリティエ・ラースィ・パーミラ、この戦争を止める為にやってきました!!」
そう。あの魔族と共にやってきた女性だ。カナードからは人族の二人だと聞いていたがまさかエルフだとは・・・自分の姿形を変化させる魔法を使って偽っていて、ゼルティアも僕も見破れない程の力量差がある。そのことからして僕の魔法が止められたのも納得だ。
そしてその背後にいるエルフもあの時橋で歌っていたエルフだ。ミリエラとは逆に背を向け、掌を前に突き出している・・・つまりあのエルフの二人は、僕とあのエルフ族長よりも強いのだ。
「り、リオエル・リーリャ・アーラ、エルフとハーフエルフの和平を結ぶためにやって・・・きました」
リオエル、そしてミリティエ・・・それがあのエルフの名前か。
それでは、ここにスケルトンソルジャーの亜種達を大量に出現させたのもあの二人の仕業というわけか・・・でも、何故エルフが自分達も襲う様に仕向けたんだ?
だが、その自問自答もミリティエが言い放った一言を考えれば、そしてリオエルの語ったその言葉を考えれば納得のいくものだ。戦争を止める、エルフとハーフエルの和平を結ぶ・・・その二つを叶えようと彼女らはたった二人でここまでやってきたということか。
「リオエル、これはどういう事だ?」
「父さん・・・私は争いは嫌いなの。昔みたいに皆と笑っていたいの。精霊が口を効かず、笑顔が失せた集落、いがみ合う兄さんと父さんを見ていたくないの」
「その為にはハーフエルフを殺し尽くさねばならんのだ。いや、死でさえも甘えと分かるほどの苦行をああ耐えねばならん。そして、エルフだけが生き残る・・・そうすれば」
「違う! 争って、ハーフエルフを殺してしまえば、きっとその棘は二度と自分達から抜けることはないと思う。それじゃ・・・意味がないの。だから」
「大概にしろ・・・リオエル」
心の奥底から震え上がらせるような殺気・・・とても実の娘に向けるものとは思えないその途轍もない殺気にさすがの僕も気圧される。
それを直に浴びたリオエルも一歩後ろへ下がろうとしたが、なんとか踏みとどまりキッとエルフ族長を睨み返す。
・・・一体どうなっているのかよくわからない。
エルフであるリオエルとミリエラがエルフにも敵対しているとは・・・大半のエルフはエルフ側についているがこの二人に関しては戦争を止める第三勢力として参加している。
「まさか・・・君達が第三勢力だとは思わなかったね。てっきり、ハーフエルフ達を懐柔してエルフに同情させようとしたのかと思っていんだけどね」
「そうじゃない。みんな悲しんでるの・森の精霊達が・・・楽しそうにしていなきゃダメな精霊達が、私が歌っても話しかけても顔は笑っているけど心に何処か陰りがあるの。貴方の精霊もずっと悲しんでるんだよ」
そう言われて・・・気付く。いや、ずっと気付いてはいた。ゼルティアはいつも僕のわがままばかり聞いていて、彼女を楽しませることなんて僕は一切していない・・・時折話し相手はしているけれど、研究を優先している。『誓約』を交わしていないし、心が完全に通い合ってはいないけれど・・・彼女が何を考え、どう思っているのかも、顔を見ればなんとなくはわかる。
けれど、それを知っていても知らないふりをしていたのだ。
「森の精霊達はエルフとハーフエルフが戦っている事を、ずっと悲しんでるし・・・貴方の精霊さんは、貴方に見られていない事がずっと悲しんでいるのよ」
あぁ、やっぱりエルンに似ている。光り輝くその瞳に宿った強い覚悟と意志・・・まぁ、あの魔法の間に入って止めた彼女だ。半端な覚悟なんて持ち合わせてないだろう・・・此処に来て、僕の前に立っている時点で彼女は相当な覚悟を決めてきている筈だ。
「・・・・・・そう・・・だよね。けど」
うん。けどね。
もう止められないんだ。エルンの仇を打たないとダメなんだ。
あの笑顔を奪ったエルフを僕はこの命が尽きたとしても許すことなどできる筈がない・・・。
和平という名の志を持って、それを踏み躙られた挙句失意の中で無残に殺されていった者達に・・・せめてもの弔いをしなければ、顔向けできないではないじゃないか。
だから、もう覚悟は決めた。
「僕は、もう覚悟は決めてきたんだ。ゼルティア!!」
自分の全身を駆け巡る魔力の奔流を掌へと集結させる。魔力の根元・・・心の内から滲み出る全ての魔力を絞り出し、飛びそうになる意識をなんとか保ちながら、先ほどの魔力よりも多くの魔力を自分の力の許容量を超えて練りに練る。身体は火を吹くように熱くなって行き、鼻から温かいものが滴り落ちる感覚が伝わり、次いで全身の感覚が鋭敏になっていくのを感じる。
自分でももはや制御できなくなった魔力の放出が途切れることなく体外へと排出されてゆく。強烈な船酔いにも似た感覚と急激な魔力の欠乏による頭痛が襲う・・・目は充血し、体の至る所が自分の意思に反してビクビクと痙攣を始める。
ガチガチと打ち震える歯の音が響いた直後に、周囲の雑音が一瞬にして遠退いてゆく・・・だが、それがこれの合図だ。
魔力は一瞬にして消失し、ゼルティアへと送られた・・・ゼルティアは自分の内に眠っている。暴発しかけた膨大な魔力が今度は一気に体へと入り込む。普通であればこれほどの魔力を取り込めばとんでもない威力の魔法が暴発するか、全身の血管が弾け飛ぶかの二つだがゼルティアへと送られたことによってそれらの事象は引き起こされない。
上級精霊であるゼルティアが制御し得る限界の魔力を練ったのだ・・・この魔力を使えば上級魔法の行使さえも可能となるそれは、再びゼルティアによって練られる。このまま発動すれば無事に魔法が発動するだろう・・・だが、それだけじゃダメなのだ。
ゼルティアは自分の限界を超えて魔力を練り込み、制御しきれなかった魔力が体外へと排出される。それでもまだ魔力を練ることをやめない。もう、ここまでくればゼルティアでさえこの魔力を制御することはできない。もしも、この魔力をそのまま行使すれば制御しきれず間違いなくそのまま暴発する。
つまりこの魔力は既に行き場をなくしており・・・もう僕の命は詰んでいるんだ。だって暴発するしかないんだから。
そう。
それで、漸くあの魔法陣の効果が発揮されるんだ。
「儀式魔法・強制超強化型魔法陣:『超強化』!!!」
魔力が一瞬にして消失する。
胴体に巻きつけていたテレポートの魔法を改良したそれが消えていることを確認し、正常に魔法が作動していることを確認した・・・。
今までの魔力はこの改良型の魔法を発動させるのに3分の2を使った。このテレポートの魔法は自分ではなく、魔力を指定した位置に送るものだ・・・残りの3分の1は魔法陣の発動を促すものだ。
ハーフエルフ・・・自分がいた本陣からとてつもない魔力の波動が立ち昇る。地面が脈動し、先程練った魔力よりも数十倍の魔力の奔流の気配が地面を這って自分へと直進している。
儀式魔法、通常の魔法の数十倍の威力を持った魔法でありそれは精霊魔法とも見劣りしない・・・いや、精霊魔法以上の威力を持つだろう。そんな儀式魔法・・・それを、精霊魔法との複合で使えば、精霊魔法の数十倍の力を引き起こすことも可能ではないか。
その為に作り出したのが僕が数年かけて作り出した魔法陣だ。
媒体は唯の強化の魔法陣・・・それを幾重にも反復させ威力を増幅させるだけの単純な魔法陣だ。それを精霊魔法に、載せとんでもない魔力に耐えさせるだけの構造にし、何度も反復させる構造を組み立て、それを処理させるだけの構造にしたのだ。
唯ずっと、作ることのできなかった魔法陣の構造・・・自分の体をその魔法に耐えうるようにする構造だけができなかったのだ。
だが、それもゼルティアがやってのけた。ギリギリではあったが、漸く魔法陣が完成したのだ。
超強化の魔法・・・現在のステータスを数倍にまで引き上げるそれだ。
そして、それを定着させる。強化魔法は時間経過で消失する・・・だが、この儀式魔法はそれを俺の体に定着させるのだ。
そして、長年『鉱石』を研究した。その鉱石を食べて強化された魔物を見た・・・その魔物達は鉱石を食べると一時的に強化される性質を持つ。無論それは一次的なもので解除されるが、それを一生食べ続けていく魔物達には鉱石に残った魔力がほんの少し、徐々に定着していく・・・そして、その結果に齎されるのが。
「来たれ。『進化』!!」
そう進化だ。
莫大なまでに力が増幅され、その存在を一瞬にして超常のモノへと昇華する魔物のみに許された特権。
人族や魔族にもステータスが一定の値を超えると、『職業』というものが昇華するという。ならば、我々ハーフエルフにもそれが適応されるのではないかと考えた。
ハーフエルフのステータスはエルフを大きく下回っている・・・つまり、単純にステータスが上昇し、エルフと肩を並べれば我々はエルフへと『進化・昇華』し、それさえもはるかに超えた先には『ハイエルフ』が待っているのではないかと仮説を立てた。
そして、それが今・・・実証される。
魔力が地面から吹き荒れる。本陣に設置した魔法陣から齎された膨大な魔力が体へと入り込んだ。
「ゼルティア頼んだ!!」
『・・・』
「ゼルティア?」
『カーティア・・・勝ちなさい』
「・・・あぁ、きっと勝ってみせるさ!」
世界が急にゆっくりとしたスピードで回り始める。自分に宿った魔力が一瞬にして身体に馴染んで行く、その瞬間に理解する・・・自分には不釣り合いな程の力が全身に漲り始め、己の魔力のみならず身体能力がぐんぐんと上昇していくのがわかる。
細い腕の血管が浮き上がり、その血管を巡るようにして小さな血管一本一本にさえも膨大な魔力が回り、定着し、身体が異常に軽く感じる。
だが、そんな魔法にこの身体が耐え切れる筈もない。徐々に目の前がくらみ始め、血液がボコボコと沸騰するかの様に身体中が熱くなる。このままでは魔力に身体が耐えきれずに爆散してしまう。
しかし、それを契機にゼルティアの考案した魔法陣が体の各所から浮き上がる。
急激なステータスの上昇と膨大な魔力に耐えうる『器』の生成だ・・・限界を突破する為に自分の体を作り変え、素質を向上させる魔法だ。一歩間違えれば生きるために必要不可欠な部分まで作り変えてしまいかねない危険な魔法・・・ゼルティアがいなければこんな常軌を逸した魔法を発動できる筈もない。
身体の熱が徐々に下がり、それと同時に体の内部から湧き上がる力・・・そして、異変は突如として訪れた。
身体がまばゆい光を発し始め、内包する魔力の指数が想像以上に、想定以上に跳ね上がる。間違いない・・・これが進化なんだ。これこそが進化、ステータスの急激な上昇が嫌でもわかってしまう。今まで目の前に立っていたエルフの族長が、エルフの娘がとても矮小に見えるほどに自分の存在が行為のものへと昇華していく。
高まる、高ぶる、そして昇り詰める。
そしてついに、魔力が途絶えた。いや、自分の中に全て収まった。
地を走っていた膨大な魔力が、全て自分のものとなったんだ。
身体から漏れ出る光が一層強まる。
あぁ、至る。至上の存在へと、ハーフエルフである自分がエルフを統べる『ハイエルフ』へと至るんだ。
自分の身体が全て光に包まれた直後、光が弾けた。
ハイエルフへと昇華したか。
そう思った。
だけど
そうじゃなかった。
「ガッアアアアアアァァァァアアァァッァアアァァァァァァアアアアァァァア!!!!!」
真っ赤に染まった。光り輝いていた自分の身体が血の様に真っ赤に染まった・・・いや、染まったなんて言う生易しいものじゃない。身体中の彼方此方が引き裂かれ、身体中の毛穴から血液が吹き出した・・・比喩ではない、負荷に耐え切れなかった自分の身体から血液があふれ出したのだ。
目から血が飛び出し、口から多量の血液を吐き出し、爪が剥がれ落ちてそこからも血液が迸り、とても意識をつないでなどいられないくらいの痛みが全身を襲った。
想像を絶するなんてものじゃない・・・痛みで意識が飛び、痛みで意識が引き戻され、痛みで意識が飛び、痛みで意識が戻されるといったことが何度も引き起こされた。
何が起こった?
グラグラと揺れる眼前、焦点の合わないその奥に、ミリティエと名乗った少女が驚愕の顔を浮かべている。そして、慌てた様子で此方へと駆け寄ろうとしているが異様に遅い・・・だが、その間も痛みが断続的に続く。気が狂いそうになる。
だが、瞬間現実に引き戻されたあのように体が軽くなる・・・違う。軽くなったような錯覚に陥る。
「カーティアさん!! しっかりしてください」
「う・・・ぁ」
じくじくとした痛みは引くことはない。けれど、さっきのような絶望一色の痛みではなくまだ我慢がきく痛みだ。いや、これは感覚が麻痺しているからこそ我慢が出来ているのだろう・・・麻痺しているというのに堪え難い痛みが襲っている事からして、激痛なのには変わりないんだろう。
青と緑の魔力が僕の体をおおうと幾分か痛みが和らぐか、すぐに激痛が体を苛む。
「だめ・・・治らない」
『その人、無茶な魔法の行使で体がボロボロだよ・・・もう、長くないよ』
「そんな!!」
遠いようで近いミリティエの声・・・そして遠いようで近いミリティエの存在が僕をゆっくりと抱き起こしている。
どうやら僕は倒れていることにさえ気づかなかったらしい。
「ど・・・してだ。ゼル・・・てぃあ・・・」
失敗したんだ。『進化』に至る魔法が失敗したんだ。
何処で失敗したんだ。どの魔法回路がダメだったんだ・・・理論は完璧だったはずだ。間違えたとすればこの事象が引き起こっていることからも『身体が負荷に耐え切れなかった』事が有力だ。つまり。ゼルティアの作り出した魔法がダメだったんだ。
しかし、ゼルティアから返答はない。
自責の念を感じているのだろうか。そんなことを感じる必要はない・・・これは僕のミスであり、彼女は何も悪くないんだ。唯、何故こうなってしまったのかだけを聞きたいんだ。
だけど、ゼルティアからの返答はない。
いや・・・ゼルティアの気配がない。
「ゼ・・・ルティア?」
『カーティア・・・勝ちなさい』
カー・・・ティア?
何故、彼女はあの場面で僕の事を『ティウル』って呼ばなかったんだ?
うまく動かない体に鞭を打ち、自分の体に刻まれた魔法陣を凝視する。そこに刻まれていた魔法陣を読み解く・・・ステータスが上がっているせいか、それを一瞬にして理解してしまったんだ。いや、精霊の魔法を読み解くなんて普通はできるわけがない。僕がそれを読み解けたのは・・・読み解けたのは・・・自分の中にゼルティアの力が、ゼルティア自身が溶け込んだからだ。
「嘘・・・だ・・・ろう? ゼル・・・ティア・・・」
一瞬にして意識が覚醒する。痛みもどこかに消えた。
ミリティエの腕から逃れふらふらと立ち上がる。
「ゼルティア・・・ゼルティア!!」
ゼルティアの声は聞こえない。聞こえるはずがない。
もう・・・ゼルティアはいないんだから。
「嘘・・・そんな」
ミリティエが絶句する・・・彼女にもわかってしまったんだ。
ゼルティアが施した魔法陣は・・・
自分の命を費やして行使するものだったんだ。
自分の命を力に変え、僕に付与する・・・精霊の死せる時の力を使った魔法。それで僕の力を永久的に向上させたんだ。
「ゼル・・・ティ・・・・・・ア」
死なせたんだ。
僕がゼルティアを死なせたんだ・・・僕が・・・僕がゼルティアを。
殺したんだ。
「ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
哄笑が耳に届く。
耳障りなそれが響くのは、あのエルフの族長の口からだった。
「無駄死にだ。上級精霊ともあろうものがとんだバカだったようだな。ハーフエルフなどに力を託すなど無為も同然だというに。所詮は半端者、所詮は醜い下賎な者、我々エルフとは違うのだ。エルフにその力を渡していたのならハイエルフとなれたのかもしれんな」
無駄死に?
ゼルティアが・・・無駄死に?
僕の力が弱かったから・・・僕の・・・せいだ。
エルンを守れず、ゼルティアも・・・守れなかった。
「そもそも、貴様は間違っている。単純なステータスを上げるだけで至高の存在である『ハイエルフ』へなれるわけがなかろう。精霊を従え、全てのエルフの頂点に立つ存在にステータスの向上だけで至ろうとは・・・まぁ、それも下賎な貴様ららしい考えだな。『ハイエルフ』は精霊さえ抗えず、全ての精霊を束ね、どの精霊よりも強き精霊の力を兼ね備えた『精霊』でさえも超えた存在だ。たった一匹の精霊の力、お前が考えた唯の魔方陣如きで『ハイエルフ』には成り得ない」
ニィッと口角を上げたエルフの族長は、ハイエルフを語る。
「エルフどころか精霊にさえも劣る貴様らが至れるわけがない。だがな・・・我々は違う。純血のエルフとしての力、ハイエルフの正統な血を引いている・・・貴様らのような下賎な血を引いてはいない純血ではないものではないのだ。そして、その血が濃く現れた故に精霊を束ねる力を持つ存在が遂に生まれたのだ。『聖印』を持ち、精霊を従える者がなぁ」
「ッ!?」
リオエルがびくりと体を震わせる。
「俺は、リオエルをハーフエルフが攫い洗脳した後にハイエルフへと至らせ、ハーフエルフを主軸とした国を作り上げるのかと焦って挙兵したが・・・所詮下賎なハーフエルフがそんなことを考えつく筈もないか。それとだな・・・ハイエルフとはこう作るのだよ」
ゆっくりと右手を上げる。
「茶番は終わりだぞ・・・リオエル」
「え?」
巨大な魔法陣が戦場全体を覆い尽くす。エルフの軍勢の後方に静かに広がる森がざわめき、森の中央から膨大な魔力が溢れ出す。僕の作った魔法陣の魔力など比較にもならない鉄もない魔力の本流が深緑の色に染まり、空へと立ち昇った。
森がざわめく・・・そういった感覚に疎い自分でもわかる程に森が騒ぎ立て、森に存在する全てが一瞬にしてなりを潜める。動物達は慌てふためき木陰に息を潜め、虫達のざわめきが一瞬にして途絶え、森の豊かな土壌から栄養を吸い上げていた木々の一本一本がまるで恐怖でも感じたかの様に、ザワザワと騒ぎ立てる。
そして深緑の色に染まっていた魔力は、その根元付近から徐々に赤黒く変色してゆき、森の中を駆け巡った。その魔力に触れた木々は一瞬にしてめきめきとその姿を成長させ・・・そして一瞬にして生命を吸い取られて枯れ尽きた・・・森を走る小さな小川は汚泥の如くドロドロとしたそれへと変貌し、そして木々と同じ様に涸れ尽きた。
『 アアァ・・・』
『クルシ・・・』
『タスケ・・・』
『・・・ムリ』
『イヤ・・・コ・・レ・・・イヤァ』
『ウワァァァン・・・』
その魔力に精霊達が触れた途端に・・・精霊達は苦しみ始め、次いで消失した。その存在そのものが魔力へと飲み込まれ、その分その魔力は精霊の力を吸収したかの様に膨れ上がり、力を増していく。
そしてそれは森を抜け出ると戦場を包む魔法陣へとなだれ掛かった・・戦場を覆い尽くす魔法陣は一瞬赤黒く光った途端に脈動を始める。
大地が揺れ動き、ミリティエもリオエルも立っていられなくなったようで、尻餅をついて事の成り行きを見守ることしかできなくなってしまう。
「ハハハハハハハハハハッ、これで我らの悲願が叶うぞ・・・」
「父さん・・・いったい・・・何をしているの? 精霊さんが精霊さんが消えて・・・泣いてるんだよ!!」
「それは必要な犠牲なのだよ」
「そんな、そんな犠牲あっていいはずがない!!」
「数多の精霊の力を終結させ、膨大な魔力とともに適合者にその魔力を与えてやる・・・そうすれば、我々エルフの悲願が叶うんだよリオエル・・・ソウ、悲願ガカなうんだヨ」
「父・・・さん?」
戦場全体を覆い尽くした魔法陣は点滅を始める。
すると、戦場全体を覆い尽くしていた魔力が全てその魔法陣へと吸収されてゆく・・・いや、精霊たちが練った魔力だけが全て吸収されてゆき、エルフ、ハーフエルフ問わずに使役されていた精霊達が魔法陣の明滅と同時に苦しみもがき出す。
「な、なんだ!!」
『グル・・・ジィ』
「どうした、一体どうしたんだ!?」
『アァ・・・ダズケテ・・・』
「いや、やめて、なんで、どうして!!」
『キエテユク・・・ボクガ・・・ナクナル・・・』
大混乱に陥る。魔法陣に吸い込まれて消失していく精霊達に・・・ある者は驚き、ある者は嘆き、ある者は呆ける・・・。自分と繋がりが失われてゆく絶望に抗うことができずに、唯見送ることしかできずにいる。
精霊が消失すると同時に、キラキラと輝く精霊力の塊が現れる。小さな光ではあるが、その輝きの色は自分達の目では捉えきれず内包する力は精霊そのもの・・・その力は一つであればゼルティアの力には及ばないが、戦場全体を覆う魔方陣の上にいる精霊の数は約数十にも及ぶ。それらが一つとなり魔方陣に吸収され、その力が一つとなり莫大な魔力が魔方陣の力を発動させた。
魔方陣の中心から小さな球体が現れる・・・先程の精霊達と同じ強い光の輝きを宿し、それが魔方陣から立ち昇る光を吸収し大きく肥大化していく。
大きくなっていく度に光の光度は増していったが、人一人を丸ごと飲み込むほどに大きくなったその瞬間、魔方陣から赤黒くマグマの様にドロリとした魔力? いや、心の奥底から沸き上がるおぞましい何かの力がその光を包み込み、光を濁し、より強大な力へと昇華させた。
なんだあれは・・・魔力でも精霊力でもない。
理解できない。
「さぁ、至るんだ・・・リオエル。お前がハイエルフとなり、我々エルフを導くんだよ」
「え」
集結した魔力が魔法陣の中心から消失し、そして一瞬で僕達の頭上へと現れた。
禍々しい光に満ちたその光は・・・何かの合図を待っているかの様に、明滅を繰り返しながら滞空する。
「"%$!%%魔法:『ハイエルフ』」
頭上に輝く魔力が・・・地に堕ちた。
ハーピーの観察日記
商人ギルドとの対立の為に休載・・・状況切迫。
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遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
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