森人:森海戦争③でした!
本当にたっくさんのブックマークありがとうございます!!
平成最後の休日、GWを皆さんも満喫しましょう!!
文字数が多くて投稿頻度が少々遅れてしまい申し訳ございません・・・。
激突・カーティアとスケルトン・・・そして。
side カーティア
前線はまさに死屍累々と化していた。仮設の治癒院に運び込まれたハーフエルフ達は応急処置こそ受けることはできても、数が多すぎるせいで満足のいく治癒を受けることができない。
治癒魔法を扱えるハーフエルフ達はマナポーションを飲んでは新たな患者へ治癒魔法を施すが、次々にやってくる怪我人に対処できずにいる。
澱んだ空には普通であれば我々ハーフエルフと敵であるエルフとの魔法の応酬が繰り広げられている筈なのだが、今は魔法は飛び交っておらずある場所で魔法が炸裂する爆音と光だけが唯一戦場と呼ぶに相応しい場所となっている。
「いったい何が起こったって言うんだ」
焦る気持ちをなんとか押し留め、足早に前線へと駆けるが視界に写るのはエルフとハーフエルフとの戦争なんかじゃない。
KAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKA!!
降り注ぐ魔法をものともせずに巨大なアンデッドがエルフとハーフエルフとを蹴散らしている。
周囲からはスケルトンソルジャー亜種の群れが無限に湧き続けており、それの対処に両者とも手一杯の様子だった。
エルフから降り注ぐ魔法の雨は数十のスケルトンソルジャー亜種を一瞬にして唯の骨クズへと変えるが、巨大なアンデッド・・・スケルトンソルジャー亜種の巨大化した化け物には殆ど効果がない。
体表を覆う骨がバラバラと地面へ落ちていくが、それらをカバーするかの様に魔法で骨クズと化したスケルトンソルジャーの残骸が体へと吸い込まれるようにして集まって行き、削れた箇所を修復する。
あれが現れたと報告が上がったときには、収拾がつかないくらいの大混乱となってしまいエルフもハーフエルフも戦争どころではなくなってしまった。
巨大スケルトンソルジャー亜種が振り上げた剣は澱んだ空にも関わらず鈍色の光を放ち、振り下ろされると同時に十数人のハーフエルフとエルフが凪ぎ払われる。
しかし、これまでの戦闘で奇跡・・・なのか意図的になのだろうか、死者は一人たりとて出ていない。
横凪ぎに振り払われた剣に両断された者達は、血飛沫をあげながら真っ二つ・・・かと思えば、フッと意識を手放して地面に倒れ伏すにとどまっているのだ。
その間に蹴飛ばされたり吹き飛ばされたりで軽傷・重傷こそ負えど命はとられていない。
我々ハーフエルフに領土が目的なのかと思ったが、これらのことからしてそれはあり得ない。ではエルフの森が欲しいのか・・・いやあり得ない。
敵の目的がいったいなんなのかが全くわからない。
「カーティア様!!」
「ごめんね。魔方陣の起動に時間が掛かってしまった。戦況は・・・聞くまでもないと思うんだけどどうかな?」
「スケルトンソルジャーが現れてからというもの戦線は常時混乱・・・エルフと交戦を予定していた前線部隊はスケルトンソルジャーと交戦し一時は押していたのですが・・無限に現れ続けるスケルトンソルジャーに疲労し、あれが出てからはもう魔法部隊と前線部隊とが混在している状態での戦闘になっています。しかし、魔法も物理も奴には効き目が薄く・・・加えてエルフの方からも魔法攻撃が加えられていますので・・・巻き添えになってしまう可能性もある為あまり身動きが取れない状況です」
「なるほどね」
剣を振りかざし地中から襲い掛かろうとしたスケルトンソルジャーの頭蓋骨を突き崩す。直後、頭蓋骨に突き刺さった剣から光の粒子が迸る。
スケルトンソルジャーは骨も残さず灰になり、空中へと消えてゆく・・・靄も出ていないみたいだ。
「急ごしらえだけど、剣に聖属性を付与する護符を用意した・・・これなら奴にも効くんじゃないかな? あの巨大スケルトンは僕が抑えてみよう。他の部隊にはスケルトンソルジャーの討伐をお願いするよ。伝令役に護符を100枚渡してあるから各部隊長はそれを受け取って部下に配給し応戦、聖属性を付与されていない剣で倒したスケルトンソルジャーは骨くずを残すと思うけど、それも聖属性を付与した剣で刺して完全に消滅させてほしい。そうすればあの巨大スケルトンソルジャーも再生力を徐々に失っていくだろう」
「承知致しました! 直ちに伝えます」
部下は一度深く礼をしてからこの場を離れる。
剣に護符を張り付け、強く握りなおして魔力が刀身に浸透したのを確認する。剣を軽く振るうと刃先から神々しい光が一瞬を尾を引き空中に光の残滓を残してゆっくりと消える。
本陣に残した魔法陣は既に表層の起動を開始した。あとは練り込んだ魔力がゆっくりと魔法陣の細部にまで行き渡るのを待つだけだ。
発動さえしてしまえば、後は僕の身体を依り代としてステータスが急激に上昇する。そして、この身体がハイエルフへと昇華するのを待って、昇華したならば・・・スケルトンソルジャー諸共エルフを屠る。
剣を振りかざしてスケルトンソルジャー亜種の眼前へと歩み出る。
大きさは自分の十数倍・・・見上げる程に大きなスケルトンソルジャーを前にしてゆっくりと剣を構える。
「カーティア様? カーティア様が来てくださったぞ!!」
「やったこれで勝てる!!」
「カーティア様お願い致します!」
巨大スケルトンソルジャー亜種がゆっくりと刀を振りかぶる。瞬間、ゆっくりと振りかぶった時とはまるで真逆の速さで剣が振り下ろされる。視界には剣の答申が忽然と消え失せたかのように映るが、刃はきっと己の頭上へと迫っている・・・そう信じて横へと飛び退いた。
直後、自分の立っていた場所には大地を断つが如く深々と刀身を地面に沈ませた剣が視界の端に映った。
「はあああぁぁぁぁ!!!」
その好機を逃す術はない。
剣を持つ手に力を込め、一気に巨大スケルトンソルジャー亜種へと駆ける。
空いていた片方の手が鞭の様に襲い掛かるが、軌道さえ読めれば回避することも容易い。姿勢を低くして地面と一体化するかの様な低姿勢で振るわれた腕を回避すると同時に、自分の頭上を高速で振り抜かれた腕へと一太刀加える。
剣と腕が接触した直後、刀身から直に凄まじい衝撃が手元へと伝わる。全力で力を込め取り落としそうになった剣を衝撃に負けないように強く握り直す。
すると、何かに剣がめり込んだ感触が一瞬伝わり、それから堅い何かを切り裂く感触が腕へ伝わった。
走る足は止めることなく、剣を振り抜いたままに巨大スケルトンソルジャー亜種へと跳躍する。
背後からはズゥンと奴の腕が落ちる音が響き、もう攻撃手段はないはずだ。
「ッッッ!? ゼルティア!!」
と思ったのも束の間、巨大スケルトンソルジャー亜種はカパッと骨の口を開くとその奥には紫色の煙が渦巻いていた。
それは一瞬の後まるで龍の吐くブレスの様に一直線に自分へと吐き出された。
一気に魔力を練り上げ精霊魔法の発射する。
「精霊魔法:風刃嵐!!」
ブレスが自分の眼前と迫りくる中、剣を一気に振り抜いた。剣から一本の剣閃が放たれると、それは枝分かれするかの様に幾重の剣閃に分かれ、それが渦を巻くかの様にグルグルと回り始めると、巨大な竜巻となってブレスと衝突する。
巨大な竜巻はブレスを切り裂き、霧散させながら巨大スケルトンソルジャー亜種へと迫る。やがてブレスが尽きると同時にブレストの衝突と鬩ぎ合いで勢いを失った竜巻も消失するが、その中から竜巻の余波の風に乗って空へと跳躍する。
刹那の浮遊感をじっくりと味わい、地面へと吸い込まれる感覚を感じながら落下する。
「食らえ!!」
懐から取り出した護符を三枚剣に張り付ける。刀身から突如として膨大な光量が発せられ、その光はまるで刀身を焼き尽くすかの如く包み込み、行き過ぎた聖なる光の奔流が自分の手を焼いた。
己の手から煙が上がり、焼け尽く痛みを気合でねじ伏せながら、落下の勢いそのままに巨大スケルトンソルジャー亜種の身体を切り裂いた。
切り裂く直前に身を退いたのか、身体に薄く剣閃の入った巨大スケルトンソルジャー亜種の身体には光の残滓が這いずり回り、斬痕から漏れ出る光の粒子が骨の鎧を溶かし灰へと還していく。
疲労回復の魔道具が身体から剥がれ落ちる。魔力は魔法陣の起動で失っていたが十分時間は経った。片手に魔力を集中させ、頭の中には白く陽炎の様に揺らめき、それでいて激しく燃え盛る炎をイメージする。
ゼルティアと僕とで生み出した火の精霊魔法の準備を整える。
身体を蝕む聖なる光に悶える巨大スケルトンソルジャー亜種へと、フライの魔法で一気に近づく。
「精霊魔法:帝白之涙炎!!」
轟々と燃え盛る白炎を奴の顔へと放つ。白炎は一瞬にして燃え広がり全身を埋め尽くす業火と化し、斬痕から未だ漏れ出ていた光の残滓さえ飲み込み、奴の骨の身体をより白く染め上げる。
巨大スケルトンソルジャー亜種は燃え盛る炎の中でもがき暴れるが、一度喰らい付き燃え付いた白炎はそれを灰に返すまで炎が鎮まる事はない・・・しかし、本来であれば一瞬にして燃え尽きていたとしてもおかしくはないはずだが、体を全身白炎で包まれながらも巨大スケルトンソルジャー亜種は一向に燃え尽きない。それどころか徐々に体を覆う炎が鎮火しつつある。
剣をもう一度構え直し、未だ光が迸り続ける切先を突き付ける。
「ハアアアアァァァァ!!!」
フライで飛び上がり巨大スケルトンソルジャー亜種へと斬り掛かる。幸い、白炎のダメージのせいか動きは鈍い。
護符の効力に加えて、ゆっくりと魔力を注ぎ刀身全体を包み込む様に制御する。すると、刀身全体から青白い炎が立ち昇り始め、護符から出る光と混ざり合う。
白炎と混ざりあった光は発火材の役割を果たし、刀身を覆っていた炎の勢いを爆発的に増加させた。
白炎・・・いや、聖炎を纏った剣は炎の刀身を二倍にまで伸ばし、巨大スケルトンソルジャー亜種へと襲いかかった。
しかし・・・刀身が頭蓋に届くか届かないかというところで、一瞬身体中を悪寒が駆け巡った。まるで魔物から狙いを定められたかの様な、既に何らかの事が成され自分に危害を加えんとする何かが此方へと向かってきている様な。
純粋な殺意に貫かれていた。
『ティウル!!』
「ゼルティッ!?」
ゼルティアが咄嗟に放った風の魔法によって右方向へと吹き飛ばされた。
咄嗟の事に受け身なんて取れる筈もなく、ゴロゴロと地面を転がっていく。それでも、できるだけ奴から距離をとろうと抵抗はせずに吹き飛ばされる勢いのままに吹き飛ばされてゆく。
直後、視界が赤く染まった。
同時にジリジリと肌を焼く痛みが身体全体を襲い、服の端が赤く燃え一瞬の内に黒く焦げてしまった。
耳を劈く爆音と空高くまで立ち昇る巨大な火柱は留まることを知らず、火柱から漏れ出た火の粉が地面に着弾するとまるで爆薬の様に周囲を火炎で飲み込みながら爆発する。
「精霊魔法:天滑爆炎」
先程までいた位置は火の海に包まれており、巨大スケルトンソルジャー亜種の影が炎の柱の中でもがいているが・・・それもやがて炎の中へと消えていった。
炎の柱はなおも大きく高く昇ってゆき大きく膨らんでいく。
「退避! 退避!!」
「防御魔法展開急げ!!」
「治癒魔法部隊の増援はまだか! 怪我人が多数出てるんだ速くこっちに回してくれ!!」
「やばい炎がこっちにまで、うわあああぁぁぁぁ!!」
「だれか・・・誰か、目が見えねぇ、助けてくれ・・・」
膨れ上がった炎柱から凄まじい魔力の奔流が迸る・・・これは間違いなく爆発する。火の粉が散っただけでもこれでの被害が出ている巨大スケルトンソルジャー亜種の周囲にいた者達は異変に気付いて咄嗟に退いて大事は避けていたが・・・降り乱れる火の粉にやられ多数の被害が出ている。
火の粉だけでそれだというのに、あの巨大な炎柱が爆発でもすれば被害は計り知れない。
「ゼルティア!!」
『えぇ!!』
魔力を練り込み、魔道具と同調させ魔力を増幅させてゆく。ゼルティアに受け渡し、それを更に昇華させてゆく・・・それを踏まえてまた魔道具を介して少しづつ練り上げてゆく。いっぺんに受け取れないせいで効率は非常に悪いが上級精霊であるゼルティアの魔力を受け止めきれるほど魔力の器は大きくない。
魔道具を介しているお陰で何とかゼルティアの魔力をもう一度ゼルティアに返すことができた。
そして魔力の奔流が身体から立ち上り、可視化されたそれが右腕へと集約する。直後、凄まじい爆発音と共に魔力の塊が爆発する。炎柱が耐久限界を超えて爆発したそれは戦場に巨大な衝撃波を発生させ、爆炎がハーフエルフへと襲い掛かった。
「魔道具複合型精霊魔法:緑臥なる森霊の慈愛!!」
ハーフエルフ全体を覆う巨大な結界型防御魔法を展開する。爆炎は凄まじい勢いで結界に直撃し、結界を砕かんと暴威を振るう。ミシミシちと戦場に似つかわしくもない音が響き渡り、そこかしこの結界にひびが入る。
この結界が壊されでもしたら間違いなくハーフエルフは負ける・・・数百人単位での死傷者が出て、後はエルフに虐殺されて終わりだ。
この魔法・・・間違いなくエルフによる行使だ。それも中級か上級の精霊を使役している・・・現に先程のスケルトンソルジャーとは違いエルフにこの爆炎は襲っていない。
ハーフエルフだけに牙を剥いたこの魔法・・・そして巨大スケルトンソルジャー亜種へと斬り掛かった直後に感じたあの雪解け水を全身に浴びせられたような冷たい殺意、恐らくこれだけの魔法を行使できるとすればあれしかいない。
「あああああああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
魔力を振り絞って結界の効力を高める。暴威を振るう爆炎を押し返し、結界から立ち上る緑黄のオーラが徐々に燃え盛る炎を飲み込みながら空へと霧散していく。
結界を蝕む爆炎は徐々に力を削がれ、結界から滲み出るオーラによってかき消された。
パキン
爆炎を凌ぎ切った直後、ハーフエルフを覆っていた結界が音を立てて割れ砕けた。
急激な魔力の欠乏にクラクラとする体を何とか支え、一息つこうとしたが・・・どうやら彼方はそう待ってくれないらしい。
「ハーフエルフ如きがあれを防ぐとはな」
「お褒めににあずかり光栄だよ。エルフ」
我々よりも長い耳、大地の色を宿した瞳、体からは考えられない量の魔力の残滓が漏れ出している。あの魔力の残滓だけでハーフエルフ数人を易々と薙ぎ払う魔法を放てるはずだ。
自分がエルフに対抗できたのもすべてゼルティアのお陰だ。もしゼルティアが上級精霊でなかったら、自分は・・・自分達は先程の爆炎にやられていただろう。
目の前に立つこのエルフは戦場で僕と対峙したあのエルフだった・・・とんでもない魔力の保持者であり、魔道具とゼルティアによって強化された力で放つ魔法と同等か若干下回るかの魔法しか拮抗できない・・・あれがエルフの筆頭、族長なのだろう。
間違いなく、自分より全てが上回った上位の存在だ・・・今まで嫌と言う程『ハーフ』を痛感してきたが、事ここに極まった。素の状態では間違いなく自分達はエルフに敵わない。
だけど
だけれど、僕は諦める事なんてできるわけがない。奴の片手に握られている長剣・・・それは仲間を貫いていた剣なのだから。
それは彼女を磔にしていた剣なのだから・・・。
もう、悲しんだ。もう、怒り狂った。もう、止められない。
僕は・・・俺はこいつを殺す。
言葉はとうに尽きた。
剣を振りかざし、疲れなど忘れて駆け出した。魔力の欠乏による眩暈も、一気に吹き飛んだ敵を目前にして完全に自制という箍が外れた。
剣の柄から滴る己の血に、猛り狂う怒りの血に思いを馳せながら剣を翳す。
エルフの持つ長剣から膨大な魔力が迸る。視界を埋め尽くす可視化された魔力は大地の色を色濃く映し出し、剣に纏ったそれを一気に自分へと放つ。
唯の魔力が刃と化して襲い掛かかる。それを剣で跳ね返すがそれは無知に様に軌道を変えて首元へと迫る・・・咄嗟に頭を下げてそれを回避するが、頬が切り裂かれ鮮血が周囲に飛び散る。空中で赤く輝く己の血液にあの日の光景が浮かぶ。
自分でも意味がわからない力が根底から溢れる。刃をかわし切った直後に、瞬時に体勢を立て直し大地を蹴り砕きながらエルフへと向かう。
エルフが手を振るう。
指先から水流の様に噴き出る魔力はやがて炎の激流となって自分の身を焼き尽くさんと迫る。
着用していたマントを前に放り投げ、一瞬にして炎に包まれるそれに魔力を流し込む。すると、マントは焼け焦げながらも魔法の触媒となり周囲に滝の様に水をまき散らす。
炎の奔流は水に飲み込まれ消え失せるが、炎によって奪われた視界の向こう・・・そこにエルフの姿はなかった。
だが、もうエルフがどこにいるかなんてものはわかっている・・・自分の頭の中を駆ける直感と悪寒が、それがどこにいるかを如実に語っている。
「そこだあああぁぁぁ!!!!!」
虚空に剣を突き込むとそこから硬質な音が響き渡る。鉄と鉄とがこすれ合う耳障りな音が響き渡り、何もない虚空からエルフが現れる。
そんな小細工は通用しない、そんな小細工で自分の恨みを蔑ろにされてはいけない。
「お前を殺す。どんな手を使ってもどれほど年月が経とうとも!」
「ハーフエルフ風情が粋がるな!! 我等を虐げ、我等の同胞を食いものとしノウノウと生きてきた貴様を、我の命を二度も奪ったお前達を許してはおけん!!!」
ドンッという音が響いた直後、剣の交差していた部分が爆発し双方が吹き飛ばされた。不意の出来事に対処しきれず、爆風の直撃を受け吹き飛ばされるが、フライを唱えて距離を開けさせないとエルフへと突貫する。
エルフは掌を前に突き出し、魔法の準備を既に整えていた。
「精霊魔法:直閃の青雷!!」
バヂンッと空気が破裂する。視界にひろがった閃光は蒼白く全てを埋め尽くし、前へと駆ける自分の逃げ場を完全に封じた。
避ける事はもうできない・・・防御もこの相手には意味をなさない。なればこそ、取る手は最早一つしかない
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
身体を走る電撃は自分の想像以上の激痛を全身に齎した。全ての神経に無数の針を突き立てられたかの様な痛み、なます切りにされたような感覚が常時全身に伝わり意識が一瞬飛びかける。
ほんの数瞬という間であるのだろうがその数瞬がまるで数時間ほどに延びたかの様な錯覚に陥る程の激痛だ・・・死に瀕すると痛みも何も感じないというがそれは間違いなく嘘だ。現にもう死にかけているというのに、痛みは止む事を知らない。
それでも、バチバチと明滅する視界の奥にエルフの顔を見つけると飛びかけていた意識を引き戻すことができた。肉がミチミチと裂ける音が耳に届き、己の身が焼ける不快なにおいが鼻をくすぐる。
全身が沸騰する・・・痛みと怒りの感情の鬩ぎ合いは、やがて感情に軍配に上がる。
身体を駆け巡っていた痛みがやむと開けた視界に、驚愕したエルフの顔が浮かんでいた。電撃を受けてぼやける視界とふわふわとどこか浮遊する感覚が支配する中でも、しっかりとエルフだけはこの目にはっきりと映っていた。
「ううぅぅぐぁっ!?」
剣が肉を突き破る感触が広がる。ずぶりと突き刺さった部分からは赤き鮮血が流れ出し、地面をしとどに濡らす。寸での処で身を翻したからか狙いは心臓をそれて左の肩を貫くにとどまるが、それだけで終わるわけもない。
剣の柄に仕込まれた魔導具が自分の流した魔力に反応し、その魔法を発動させる。
刀身から炎が噴き出しエルフの肩口を焼き焦がす。仕返しとばかりに放たれたそれは傷口から溢れ出る血液を沸騰させ、片方の腕を真っ赤に染め上げていく。
そして炎は全身を蝕まんとエルフの顔と心臓部をめがけて走る・・・が、エルフもただやられているだけにとどまらない。
「ぁガッ!?」
鳩尾に鈍く重い衝撃が走ったと同時に視界がグルグルとと回転する。ドンッと重い衝撃が身体中を襲い、次いでゴロゴロと砂煙と共に大地を転がっていく。
よろよろとしながらも即座に立ち上がり目を見開くと、右の拳を振りぬいた形でエルフが立ち尽くしていた・・・左側は焼けただれており、真っ赤に染まった肌が何とも痛々しい。美しかった金色の髪も左側が焼け焦げており、とても不格好なそれになっている・・・かくいう自分も先程の雷で、ずいぶんダメージを負っているし、見た目も酷い有様だけどね。
剣を握っていない方の手は電撃の影響でぶるぶると痙攣していてまるで言う事をきかない。体中の彼方此方の感覚がなく、もう立っていることもままならない程で今は気力だけで立っている状態だ。
そんな状態でもなお負けるなんてことは考えていない。
密かに練りに練っていた魔法をエルフへと構える・・・立ち昇る魔力の奔流が徐々に形となり、自分の手に握られる。
一本の矢。光輝き、光の様に揺らめく弓矢が現れる。
痙攣する腕を力で押さえつけ弓を構え、光り輝く矢を番える。それを引き絞ると同時に、まるで全てを吹き飛ばさんかの如く嵐のような暴風が周囲に吹き荒れた。
矢を白炎が覆いつくすと、白炎が暴風に乗って周囲に吹きすさぶ・・・肌をじりじりと焼くそれは最早制御なぞせず、風の気の向くままに暴走させる。
しかし、エルフも黙ってはいない。両手を前に突き出し、荒れ狂い猛り狂う雷光が出現する。黄金色に輝く雷光は意思を持ったように龍を象り、うねり出した雷が大地を撫でるだけで大地は抉り取られ、周囲の大気がバヂバヂと弾ける。
雷光は光を増し、エルフの手からどうにかして逃れようとするかの如く暴れ始める。
「死ね。精霊魔法:『雷皇之龍!!』」
「死んでくれ。魔道具複合型簡易札使用式精霊魔法:『白滅の光矢!!』」
矢を番えた手を放す。直後、視界から一瞬にして消え失せた矢は暴風と共にそれは一直線に放たれた。
周囲の大地を削り取りながら、細かな医師から大きな岩まで飲み込ん暴風に乗せてエルフへと放たれた。石と石がぶつかり合う音が響き渡り、風が空気を切り裂く心地の良い音が耳に届く。
白炎が周囲一面を白く染め上げ、草木を一つ残さず白く染め上げる・・・白い花が咲き誇り、大地に息吹を齎すが如く、されど全てを奪い尽くす残酷な暴力となり襲い掛かる。
エルフから放たれた雷龍は大気を飲み込むごとに大きさを増してゆく。自分を簡単に飲み込んでしまうほどに巨大な龍と化したそれは矢へと激突する。
いや、激突しようとした瞬間だった。
横合いから二つの影が魔法の間に割って入ったのだ。
「な!!」
声をあげる暇さなく、二つの魔法は問答無用で二つの影を飲み込んだ。
凄まじい衝撃・・・いや、衝撃なのだろうか? それはもはや私達が知覚もできない程にだった。音も光も何もかもを飲み干す。
大地の破片が空高く舞い上がり、光の奔流と雷の柱が空高くで交差して爆発を引き起こす。
周囲一帯を余波が襲い、大地には幾つものクレーターが出来上がり、豊かな草原だった地形を焼け焦げたガラス状の大地へと変貌させた。
横合いから飛び出した影・・・あれは間違いなくハーフエルフかエルフのどちらかだ。大質量の魔法の真っ只中に飛び出すなんて一体何をしようとしたのかはわからないが、間違いなくその二人は死んで・・・死んで・・・い、いない?
爆煙が晴れたその場には二人の人影が立っていた。
「そんな・・・嘘だろう」
あの大質量の魔法を受け止めた?
いや、そんな事有り得る筈がない。僕が放った魔法は上級精霊ゼルティアと魔道具複合型・・・そして簡易札を使用した奥の手だ。魔道具と簡易札によって普段では作り出せない高密度・高質量の魔力の錬成を可能にし、その魔法は上級魔法とは言えずとも中級魔法の中でもトップクラスの威力なはず・・・しかも、貫通力に秀でた魔法で、上級の定位の防御魔法でも簡単には防げない筈だ。
対するエルフの魔法はあたりの精霊力や魔力を飲み込んでいく純粋な力の魔法だ・・・僕の魔法が貫通能力に特化した魔法だとすれば、エルフの放った魔法は破壊力の魔法だ。防御魔法は一点を守るものであれば効果は高いが、あのエルフの魔法は四方から襲いかかる雷撃の魔法・・・つまりは全方位を守る魔法でないと防げない。それが破壊力に特化した魔法となれば、防御魔法で防ぐなんてとてもできない・・・。
それを僕とあのエルフ以外のハーフエルフ・エルフが防ぐなんて有り得ない。
だとすれば、あそこにいるのは・・・第三勢力の魔族ということになる。
しかし、そこにいたのは。
「エル・・・フ」
見覚えのあるエルフが佇んでいた。
仲間や友達のためなら、私は命だって掛けてみせる!!
そう僕に言い放ったあのエルフだった。
あの時のように強い意志が宿り、陽の光を反射させた澄んだ瞳を持ったエルフ・・・。
「ミリティエ・ラースィ・パーミラ、この戦争を止める為にやってきました!!」
「り、リオエル・リーリャ・アーラ、エルフとハーフエルフの和平を結ぶためにやって・・・きました」
二人のエルフが戦場の真ん中に降り立った。
ハーピーの観察日記
商人ギルドとの対立の為に休載・・・疲れた。
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!