森人:森海戦争②でした!
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開戦・・・そして、異変。
side カーティア
前線から響くのは魔法がぶつかり合う爆音、大地が爆発する音を背に後方で魔法陣に力を注ぐ。小さな紙切れに描かれた魔法陣を大地に描き写し、淡い光を放つ魔法陣に自分の持てる限り全ての魔力と精霊力を捧げる。徐々に魔法陣の放つ光は強くなっているが、普通であれば大人数で行使する儀式魔法にも匹敵する大魔法だ。
それを一人で行うというのだから疲れるのは当然だ。しかし、前線で命を賭してまで戦って自分の帰還を待ち望んでいる者達を裏切るようなことはできない。ちょっとやそっとの疲れでは魔力を注ぎ続けるのはやめない。
魔力が底を尽き掛けて意識が飛びそうになったのなら、傍に置いてあるマナポーションを手に取り一気にあおる。そして自分の掌から放出される魔力の勢いが高まったことを確認してまだやれると確信する。
マナポーションが行き届くまでは時間が掛かる・・・急激な魔力の増減に体は悲鳴を上げており、気を抜けば一瞬にして倒れてしまいそうだが、今は倒れている暇はない。一歩間違えば魔力が完全に身体から抜け落ち生命活動さえ止めてしまうだろうそれを続けていられるのはひとえにゼルティアが巧みに力を操ってくれているからだろう。
「ありが・・・とう。ゼルティア」
『・・・えぇ。私は大丈夫よ』
ゼルティアにお礼を告げるが、ゼルティアは上級精霊でありこの程度では疲れも感じないだろう・・・ハーフエルフゆえに半端な魔力しか持ち合わせておらず、この時ばかりは自分が恨めしい。
魔法陣を覆っているテントを出ると、それに気づいた私兵の一人が此方へと駆けつけてくる。
「カーティア様・・・あまりご無理をされない様お願い致します」
「あ・・・はは、此処で無理をしないでいつするんだい? 僕は大丈夫だから・・・前線はどうなっているの?」
自分の体なんかどうでもいい。どれだけボロボロになろうが、ズタズタに引き裂かれようが構わない。それよりも今一番気になっているのは現時点における戦況がどうなっているのかだ。
ハーフエルフはエルフと比べて・・・弱い。魔法力も身体能力も全てにおいて劣っていると言っても過言ではないだろう。それを今は魔道具でカバーしているが、それでもエルフ一人に対してハーフエルフ数人で掛からねばならないほどに相手は脅威だ。
僕が突撃を命令した時には魔法の応酬であったけれど、今はもう前線は乱戦に移行しつつあるだろう。そして後方のエルフとハーフエルフの部隊が魔法で鬩ぎ合っている頃だと予測する。
「戦線は以前膠着状態であります。魔道具の展開は滞りなく成功しています・・・あとはエルフの魔法が発動できな接近戦に持ち込めば一人魔道具で押し通せば問題はないかと思われます」
「そうか・・・では、僕も安心して」
魔法陣に集中できる。
そう告げようとした時、本陣へと伝令役が戻ってくる。その表情は何かに慌てているようで、どう見ても吉報を持ってきたとは言い難い顔であった。
「で、伝令!! 緊急事態です」
「どうした!? 何があった!!」
「前線にてエルフと我が歩兵部隊が交戦する直前・・・その、地中から大量のアンデット達が出現し両者を見境なく襲っています。現在それの対処に奔走しておりまして・・・前線だけでなく後方からもアンデッドが出現し、戦場は大混乱であります!!」
「どう言うことだ!? 両者ということはエルフも襲われているのか。つまりエルフの差し金でないのならいったい誰が・・・種類はなんだ?」
「スケルトンソルジャー・・・なのですが」
その、と伝令役のハーフエルフは言い淀む。
「どうしたんだい?」
「見た目はスケルトンなのですが、纏っている鎧がスケルトンソルジャーのそれでないのです」
「どういうこと」
「ウワアアアアアァァァァァ!!!!!」
本陣の外から悲鳴が響く。即座に剣を引き抜いて本陣を出ると、そこには地中から延びた骨の手に足を掴まれているハーフエルフが、必死にその手をどうにかしようともがいている姿が見えた。
後方の部隊は近接戦に向かず、回復や魔法での戦闘を主にしている者達で構成している故に、近くによられたらどうしようもない。
剣を振りかざし、スケルトンの骨の手を弾き飛ばそうと力を込める・・・ガンッという音が響いて若干の抵抗の後に手を切り飛ばした。
そして気づいた・・・『普通のスケルトン』ではない。切り飛ばした腕には防具の様なものがついており、それは紛れもなくスケルトンソルジャーの特徴である鎧だ。
しかし、地面から這い出てきたそのスケルトンは面妖なアーマーとヘルメットを装着したスケルトンだった。
ボロボロではあるがスケルトンソルジャーの装備しているアーマーよりも明らかに堅い。
這い出てきたスケルトンソルジャーの頭を剣で跳ね飛ばすと、その骨の身体は地面へとバラバラと崩れ落ち、その骨からはまるで怨念の様な黒い靄溢れ出し、空中へと消えていった・・・。
「クッ!? スケルトンソルジャーくらいなら何とかならんのか!!」
「それが、スケルトンソルジャーのアーマーよりも固く、どうやら魔法にも若干の抵抗力があるようなのです! それを対処しきれず、今は三人掛かりでスケルトンソルジャーを撃退しています」
「これは普通のスケルトンソルジャーじゃない。たぶんそれに連なる亜種だね・・・防御に秀でている分質が悪い」
どうするべきか・・・アンデッドであれば聖魔法があれば簡単に撃退できるが、ハーフエルフで聖魔法を納めている者は少ない。使える者がいたとしても広範囲の聖魔法を使えるわけもないし、一体ずつ倒していくことになる・・・魔力の消費が多い聖魔法では燃費が悪すぎる。
僕も前線に出られればいいんだけど、魔方陣の準備がまだ整っていない。
おかしい・・・ここいらでアンデッドが出るなんてまず有り得ない。墓地は街の外にあるけどしっかり清めているはずだし、戦場を混乱させるくらいのアンデッドが出現するなんてもっと有り得ない。
偶然にしてはできすぎている・・・と言っても死霊術師なんている筈もないし、エルフ側にいたとしてもエルフも襲っているんじゃ世話がない。エルフが使った死霊魔法が暴発した・・・これが一番考えられる線だ。もう一つあるとすれば・・・。
「緊急! 緊急!!」
「なんだ、今度はどうした!!」
もう一人の伝令役が本陣へと駆け戻って来る。
その表情は先程の伝令役の表情と一緒・・・間違いなくまた厄介ごとが起こっている。
「第三勢力の介入を確認!! 前線にて数度の爆発を確認・・・エルフハーフエルフ共に負傷者多数、全部隊総出で事に当たっていますが戦況は一方的に此方が押されています! アンデッドの群れに紛れて混乱状態であった際に右方から襲撃、現在中枢に向かってエルフとハーフエルフ交戦域を横断中・・・勢いが強すぎて止められません!!」
「魔族か? それにしてもどうして」
「第三勢力の規模はどうだ?右方から現れて中枢へ向かっているとあればかなりの数だろう? エルフとハーフエルフの挟撃を受けても尚持ち応えられるのなら、敵は相当な数の戦力を用意しているのだろう・・・」
第三勢力の介入という事は間違いなく魔族だろう・・・しかし、カラドウスに進攻してくる魔族領に心当たりがない。確かに魔道具という点においてはハーフエルフは非常に有用性がある・・・とは言え、魔族は自分の欲望に忠実ではあるがそれに対してリスクが高ければ直ぐに切り捨てる事ができる。このカラドウスはカナードの援助、そしてガドインの保護を受けている・・・そこに対して戦闘を仕掛けるとなれば魔道具と掛け合いにはできないくらいに非常に高いリスクが発生する。
それに、そもそも占領が目的であるならばエルフとハーフエルフの戦いに決着が着き、疲弊したところを襲って来るのが普通だろう。
なのに何故・・・
あらゆる可能性を考えた直後、続いて伝令から告げられた言葉に驚愕する。
「そ、それが・・・たった数人で、我々を圧倒しています。我々もそれを止めようと攻撃を集中させたのですが、全く歯が立たず・・・魔法を弾かれ、近接戦においては近づく事さえ出来ておりません。エルフも同様なのか、魔法が一時第三勢力へ降り注いだのですが全て無効化されたようで・・・。アンデッド達の猛攻によりハーフエルフ、エルフ共に既に前線が崩壊しています」
「な、なに!?」
意味がわからない。たった数人で戦争に介入した?
とてもではないが正気の沙汰とは思えない。自分の耳が可笑しくなったのかと周囲の表情を伺うが、誰もが唖然としている・・・どうやら聞き間違いではないそうだ。
たった数人で戦争に介入して、二千人のハーフエルフとエルフが交戦している最中を横切る・・・そんなの無謀としか言いようがない。
エルフの魔法は精霊力と魔力を膨大に含んだ魔法だ・・・一撃でもあたってしまえば致命傷は免れない。我々の様に数が多ければそれだけで魔法も分散し、防ぐ手立てはあるがそれが一人に集中して降り注ぐとなると間違いなく防げない。
だというのに、我々の相手をしながらエルフも相手取っている。降り注いだ魔法は着弾する前に無効化され、それどころかカウンターマジックによりそれが全て放った者へ向かって弾かれるという。
近接戦に向かった数十人は悉くが真っ向から打ち破られ、駆け抜けるスピードそのままに前線の者たちは戦闘不能に陥っているのだそうだ。
カウンターマジック・・・第三勢力には途轍もない魔法使いがいる。ハーフエルフどころかエルフの魔法でさえ易々と弾くという事はエルフよりも魔力が上であるという事に他ならない。
それどころか近接戦においても、1対多を容易に捌く強者の存在もある。
これ等の事から鑑みるに、魔族の中でも高位の者・・・『階位持ち』が存在している可能性もある。
魔王から刻名された階位持ちが戦争に介入しているとなると非常にまずい・・・先程現れたというアンデッドも階位持ちの死霊術師が操っているとするならば納得もできる。
「き、貴様、バカも休み休み言え!! 伝令役が誤報を流せば、戦線は大混乱に陥るぞ」
「ほ、本当なのです!! 私自らその惨状を見てきました」
「幻惑魔法にでも掛かったのだろう!! たった数人で我々を押し返せるわけがなかろう!!」
「いや、第三勢力ということは間違いなく他領の魔王からの襲撃と考える方がいい。その数にとやらが階位持ちである可能性を考えればありえなくもない・・・負傷者、死者の数を教えてくれるかい?」
階位持ちの戦争介入・・・伝令役が此方に向かってくる時間を逆算しても恐らく被害は数百人に及んでいるだろう。その中で数十人・・・最悪数百人死ぬ事も覚悟しておかなければならない。
「あ、え・・・その」
「?」
「負傷者は多数なのですが・・・・その死者は0です」
「「はぁ!?」」
驚きのあまり素っ頓狂な声が出てしまった。
死者が出ないなんてあり得るわけがない・・・実際、今し方この伝令が見てきたのは前線が崩壊し、大混乱に陥った状況なのだ。つまりは前線にいた数百人のハーフエルフとエルフがやられたという事であり、それらが1人も死んでないなんてことあるわけがない。
第三勢力というのがエルフが見せた幻惑?・・・いや、だがそうだとすれば、今さっきそこにいたアンデッドはどうなる? 幻惑魔法であれば切った瞬間に霧散する筈であり、切り飛ばした際に感じた抵抗感を説明できない。
ではやはりエルフが・・・いや、それよりも伝令役には確か
「幻惑魔法ではないと思われます。我々伝令役は、状態異常、特に幻惑魔法へと耐性ができる魔道具を身につけています。それを突破するとすれば、余程高位の魔法を行使するものでなければ不可能です・・・たとえ突破できたとしても、その妙な違和感はまず間違いなく残るはずです」
そう・・・仲間達には状態異常を無効化する魔道具を作るように伝えていた。それは部隊の隊長や伝令役に持たせていて、正確な情報を得るためにと幻惑や幻術の類にはしっかり反応するように作られていた。かなりの費用を投じて作ったそれはエルフの魔法であっても突破できないような代物だ・・・たとえ突破できたとしても半端な幻惑しか見せられないだろうし、幻惑魔法にかかったと認識できてしまう違和感が残るはずだ。
「・・・一体何が起こっているんだ?」
『ティウル、早く魔法陣を完成させて行った方がいい。離れた場所から大きな力を『二つ』感じる』
ゼルティアが戦場をじっと見つめる。大きな力・・・いったいそれが何を指すのかはわからない。
けれど、上位精霊のゼルティアに『大きな力』と言わせるという事は、第三勢力は我々を遥かに上回っていることは間違いない。
「急ごう。魔方陣にはかなり魔力を注いだ。たぶん、後一回注ぎ込めば完成する。完成次第、僕は前線に行くよ」
クルッとゼルティアが振り返り、一瞬悲しそうな表情を浮かべる。
心配してくれているのだろう・・・でも、行かなくてはならない。この戦争に決着をつけなくてはならない。ハーフエルフの繁栄と安寧を取り戻し、エルフに引導を渡さなければならない。
その為にここまでやってきたのだから。
『ねぇ、ティウル・・・・・・・・・勝つわよ!』
「あぁ!!」
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side ハーフエルフ衛兵
「はぁ・・・はぁ・・・ハアアアアァァァァ!!!」
槍を突き出すと耳障りな音をたてながら、目の前のスケルトンソルジャーの鎧を刺し貫いた。
ガギッという鎧と穂先の擦れる音が響くと同時に、スケルトンソルジャーの胸骨を砕くが、それだけではスケルトンソルジャーは止まらない。
槍を引き抜いてこちらへと引き寄せられたスケルトンソルジャーの顔面に思いっきり拳を振るえば、少しの衝撃と共に顔面の骨は砕けてスケルトンソルジャーは地面へと倒れ伏し唯の骨クズとかす。
何度となくやって来たこの作業に辟易としながらも、無尽蔵に現れるスケルトンソルジャーの対応を急ぐ。
自分達はエルフと交戦していた筈なのにいったい何故アンデッド共と交戦する羽目になったんだろうか?
エルフと我々ハーフエルフとの魔法での応酬は此方が敗北を喫した。何とか魔道具で被害を抑えれはしたもののこのまま中・遠距離戦を続けていれば間違いなくエルフに軍配は上がってしまう。
魔法に対抗するための魔道具と装備を整えいざ突撃・・・そして我々とエルフが交戦しようかというときに異変は起きたのだ。
一人が何かに躓いて転んだ。当然エルフはそれに狙いすましたかのように魔法を放とうとする・・・が、そのエルフはただ立っていただけだというのに転んだのだ。
その直後足元からぼこぼこと白骨化した手が伸びてきて、アンデッドの大群が地中より出現したのだ。
こんな場所に何故アンデッドであるスケルトンが・・・そう思ったのもつかの間、直ぐに片はつくだろうとスケルトン共を排除していたのだが、無尽蔵に大地からスケルトンが生て来るのだ。
我々とエルフの交戦域であったその場所はスケルトン共に埋め尽くされ、我々はそれに対処するしかなくなった・・・エルフ共の仕業かと思ったが、それにしてはエルフの方から魔法が飛んでこないと目をやれば、エルフもアンデッド共に襲われている。
何とか体勢を立て直しスケルトンを排除するスピードも上がり、このままいけばエルフと再び交戦できると突っ込んだのだが・・・今度は土から武装したスケルトンが現れた。
面妖な鎧とボロボロの反りの入った剣を手にしたスケルトンだ・・・。
これには我々もたまらず後退して再び体勢を立て直し応戦したが、何分鎧が固く苦戦を強いられた。魔道具と魔法の複合を用いて攻撃したが、どうやらあの防具には魔法耐性もあるらしくあまり効かない・・・エルフでさえもこのスケルトンソルジャーに手こずっていた。
「クソッ! このままじゃ埒が明かない!!」
KAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKA!!!
スケルトンソルジャーは骨の顎をカチカチとぶつからせて不気味な音を立てる・・・それはさながら笑っている様でもあった。
「仕方がない・・・奥の手ではあったが、『猛攻突破』の陣形を取るぞ!!」
本来であれば前線でエルフと交戦に入った瞬間に使う筈だった魔法を展開する。魔道具の複合型簡易『儀式』魔法だ。
本来であれば数人で時間をかけて行う複合魔法であるが、魔道具でそれを補って威力は控えめの範囲魔法を行うのだ。
数人で密集陣形を取り魔道具を起動させる。全員を淡い黄色の光が包むと同時、体に力が溢れてくる感覚が全身を支配する。
範囲付与魔法である『猛攻突破』は正面に対する防御と攻撃力を飛躍的に向上させ、突撃する際に不意に発動することでエルフ達へ大打撃を加えようというものだった。
「突撃!!」
自分の周囲にいた数十人の兵士達が一気に前線を押し上げる。全力で突き刺さないと貫けなかった鎧はいとも容易く槍で貫かれていく。
残骸が周囲に散乱し、スケルトンソルジャーに埋め尽くされていた一角に大きな穴が出来上がる。そこから再びスケルトンソルジャーが生まれようとするが、そうはさせじと魔法を発動させる。
「魔道具複合型精霊魔法:黒穣の大地!!」
儀式魔法によって高まった魔力を用いて中級魔法を行使する。大地は黒く変色し、陽の光を反射する硬質な地面へと変化する。
地面より這い出ようとしていたスケルトンソルジャーは頑強な大地に阻まれて出てこれなくした。
その隙に、後続の部隊が一時的にできた前線の穴へと続いて押し掛ける。
すると前方にスケルトンソルジャーと交戦するエルフが見える。エルフもスケルトンソルジャー相手に手こずっている様で未だに対処しきれていなかった。
このままいけば、スケルトンソルジャーにかかりきりになっているエルフの不意を突いて攻撃することができる。
猛攻突撃の効力は短いがあと数十秒は持つはず・・・その間にエルフと交戦すれば少なからず打撃を与える事ができる。
「総員、とつげk」
瞬間、視界が白一色に染まる。
ドオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォン!!!!!
次いで襲い来る衝撃波と爆音に晒され、後方へと吹き飛ばされた。その衝撃は全身を駆け巡り、まるで稲妻が身体中を蠢いているかの様な錯覚に陥らせる。
視界が白一色から漸く色を取り戻してくる・・・爆煙で暗く淀んだ空が視界一面を覆いつくしており、自分が今倒れているのだと認識した。
いったい何が起こったんだ?
後続の者達へと突撃の指令を出そうとした直後に、爆音が轟いたのだけは覚えている。視界が真っ白に染まってしまったせいで何が起こったのかを全く把握できなかった。
体を起こそうと手を動かすと、ズキズキとした痛みが全身を駆け巡る・・・いや、感覚がマヒしていただけで動かさなくても相当痛い。
だが、このままここで倒れていればスケルトンソルジャーやエルフに確実に殺される。
激痛に痛む体に鞭を打ち体を起こす。
「いっ・・・たい、なに・・・が」
周りの仲間へと状況確認のために出した声も掠れた声しか出ず、戦場の剣劇の音にかき消され・・・ない?
妙に自分の声がしっかりと耳に届く。周囲を駆ける仲間達の足音も魔法が放たれる音も、剣劇が繰り広げる鉄と鉄がぶつかり合う音もどこか遠い。
「あら? 貴方気を失わなかったの?」
すると、自分の視界に見るも美しい人物が現れる。我々ハーフエルフはエルフの血を受け継いでいるだけあって美形が多い・・・だが、自分の視界に移りこんだのはそういう次元の話ではない。
小首を傾げ、サラリと空中を撫でる漆黒の髪、透き通るようなアメジスト色の瞳、ここいらでは見掛けない衣服から伸びた手は雪の様に白い・・・すべてが調和の取れた美術品のように美しい。
カーティア様とエルフの長が繰り広げた魔法によって彩色を失った大地に映える彩りの衣服、不思議な履物に長い黒髪にあしらわれた髪留めが彼女の美しさをより際立たせている。
「俺は・・・死んだのか?」
「死んだのであれば私と会話することはできない筈、つまりあなたは死んでいないわ」
二コリと微笑んだその美姫は悠然と此方へと歩みを進める・・・だが、その美姫に目を奪われていたが、一瞬その横へと視線が揺らいだ。
そこに広がっていた光景に絶句した・・・今まで眼前でスケルトンソルジャーと戦っていたエルフがボロ雑巾の様に大地に倒れ伏しているのだ。
美姫が・・・恐ろしい化物の様に見えた。
「ヒッ!!」
掠れ、怯えた声が口からついて出る。
一歩化物が近づく度に、這いずりながら後退る・・・視線だけはジッと化物へと向け、身体の痛みのことなど忘れて、いやもう感覚がマヒして痛みなんて感じない身体を必死に動かして。
美姫の歩みはそれでも・・・一歩一歩自分へと迫る。
トンッ
と何かに手が当たる。そこで初めて化物から視線を外す。
そして、そこに広がっていたのは地面に倒れ伏した数十人の仲間達の姿・・・そして、その中心に仲間を片手で持ち上げる何者かの姿が目に映る。
「フンッ」
どさっと地面に投げ捨てられた仲間・・・額から伸びている角、蔑むかの様に倒れ伏した我々を見るその目・・・そして、その目は自分へと向けられた。
そこではじめて気づく・・・どんどんと戦場から音が消えて行っているのだ。いや、一際大きな音が響くと同時に続く音が消えている・・・と表現したほうが正しいだろう。
周囲に視線を巡らせる・・・あちこちで空高く立ち昇る砂塵、自陣から聞こえる爆発音へと目を向ける。耳を劈く爆音が鳴り響くと同時に舞い上がる砂塵を中心に、何かを取り囲むように変貌する布陣・・・しかし、その度に再び爆発音が鳴り響き兵士達が吹き散らされ布陣が破壊されていく。
それは我々ハーフエルフだけではない。エルフ側から聞こえる爆音もまた彼らの命を刈り取ってゆく音色となって耳へ届く。
唯、我々のところとは少し少し違う・・・その爆音はエルフの魔法によって引き起こされたものだ。何かを狙って地面に向かって魔法を放った直後、糸が切れたかの様にバタバタと倒れ伏していくのだ。魔法を放った方がなぜか倒れてゆくのだ・・・魔力が尽きたのかとも思ったがその倒れ方は突如として命の炎が途絶えたかの様に倒れているのだ。
「さて、後は武者スケルトンに任せましょうか?」
「歯応えがないな。エルフと聞いて期待したのだが・・・アレデュルクの様な豪快さや強さはない。それに精霊との調和性も皆無だ・・・俺達どころか武者スケルトンに手こずるのも納得だ」
「それもこれも主人様のおかげなのよ。努々(ゆめゆめ)忘れないようにね」
「わかっているさシロタエ・・・で、これはどうするんだ?」
巨躯の魔族がそう告げる。すると美姫の化け物が完全に忘れていたという顔で自分へと向き直った。
助けてくれと声を出そうにもヒューヒューという音しか出ず、後は歯と歯を打ち鳴らす恐怖の音だけが漏れ出ている。
眼前・・・あと一歩で自分を踏みつぶせるという位置まで化物がにじり寄る。
「悪いようにはしないわ。主人様より賜った御命令は命は奪うな・・・命は大事にでしたからね。そのままお眠りなさいな」
「う・・・わ、うわああぁぁぁ!!!!!」
咄嗟に突き出した手に力を籠める。猛攻突撃を使った後で魔力はそこまで残ってはいない。しかし、この至近距離から魔法を放てばさすがの化け物とて深手は免れない筈だ。
「魔道具複合型魔法:ファイヤーウェーブ!!!」
灼熱の業火が眼前に立っていた化物を飲み込んだ。加減を考慮している暇もなく放ったせいで、自分の手が焼け焦げる事さえも厭わず、全力で化物を焼き尽くさんと魔法を放つ。
轟々と燃え盛る炎の中、塵さえ残さず化け物を屠っただろう・・・そう思った瞬間、一瞬炎が揺らいだ。
轟々と燃え盛る炎の中から手の影がゆっくりと此方に延びて来るのがわかる。それが自分の手と重なった瞬間炎は消え失せ、自分の手と化物との手が繋がれている事に気付く。
「魔道具複合型の魔法・・・面白いわ。里にこれを普及すれば魔法力の弱い者達でも行使することが可能になりそう。けれど、この手を見る限り加減等の制御が甘いと自分にも被害がでるというのはいただけないわね。基礎から構築しなおせば改善できそうね・・・主人様に後でご報告しておかなければならないわ。このバカバカしい戦闘が終わった後でいいかしら・・・褒めてくれると嬉しいな」
ぶつぶつと何事かを呟いた化け物は一息つくと手を放し、ジッと俺の瞳を見つめた。
「妖術:鬼魔眼」
化け物の瞳が赤く光った瞬間、世界の色が失われてゆく・・・ドロドロと視界の端から暗闇が押し寄せ、体を支えていた力が抜け落ちる。
死ぬのだ・・・この化け物に成す術もなく、無為に死んでしまうのだ。エルフ共に一矢報いることもかなわず、ここで・・・。
意識が遠のく、支えていたからだから完全に力が抜け落ちると、辛うじて座っていた体勢すら維持することができずに崩れ落ちる。
視界の端・・・遠くにはエルフとハーフエルフがスケルトンソルジャー・・・ムシャスケルトン?と呼ばれるアンデッド達が戦っている。だが、かなり数は減ってきている。
もう一歩というところでムシャスケルトンを押し返せるだろう・・・そうなれば
「少し数が減ってきたわね・・・補充しておこうかしら。妖術:百骨夜行」
絶望的な光景が眼前に広がる。開けた大地からボコボコと無数のムシャスケルトン達が現れたのだ。
「ずっと同じだと飽きるぞシロタエ。修行の成果を主人に見せる絶好の機会・・・であれば他の妖術を使う方がいいと思うが?」
「・・・それもそうね。妖術:『侍者髑髏』」
化け物を中心に大地に赤黒い光が走る。すると、自分の隣で物言わぬ白骨と化していたムシャスケルトンの残骸がカタカタと揺れ動き始める。
ムシャスケルトンを倒し、空中へと消えていったはずの紫色の魔力が現れ、一ヶ所へと集約する。その魔力の中へと引きずり込まれるようにして、ズルズルとムシャスケルトンの残骸が吸い込まれてゆく・・・それはさながら今まで自分達が倒してきたぶんのムシャスケルトンの怨念が残骸を呼び寄せているかのようだった。
「報われぬ魂よ。虐げられた霊魂よ。己が無力となり死を遂げし者達よ、その誇りの刃を御霊と化し、憎き仇を討ち果たせ」
KAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKA!!!!!
怨念の中心から巨大な白骨化した手が伸びる。魔力の中心からどんどんとそれは姿を現した。
空間を押さえるようにして魔力から出現した巨大なスケルトンはムシャスケルトンの残骸を集約させる・・・それはやがて、巨大な一振りの剣となり、あるものはスケルトンを覆う鎧と化す。
全身を骨の鎧で覆い、片手に長大な剣を構えたスケルトンが大地へと降り立った。
「行きなさい。唯、殺してはダメよ。ある程度狩り尽くしたなら、後はミリエラに還して貰いなさい」
KAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKAKA!!
化け物がそう告げると、巨大なスケルトンはその巨駆からは考えられないスピードで戦場を駆けていった。
「戻ったわ。本当に歯応えがないわね・・・これじゃ修練じゃなくて苛めている様にしか見えないわ」
「ふん、あれくらいの隠形や忍術で目を眩ませるなど・・・拍子抜けに程があるな」
そして誰かが再び目の前に現れる。声は二つ聞こえるが姿は一つ・・・犬のような耳を生やし、手に鉄甲を嵌めた小さな少女だ・・・だが、見た目の愛らしさとは程遠く、鉄甲からは鮮血が滴り落ちている。
「おかえりなさい。キク、ハンゾー・・・サテラとモミジ様は?」
「モミジ殿はエルフの娘っこ二人を守っておられる。サテラ殿は・・・主人のお目付け役だそうだ。あのよくわからん双子もサテラ殿と一緒に主人についていきおった」
意識が遠退く、暗闇が視界を埋め尽くす。
声だけが響く、なんとか意識を保とうと力を籠める・・・一瞬視界に光が戻っがそれも束の間だった。
眼前に映る三人の姿。いや、その傍に控えている大きな蜘蛛、それが全員此方を見据えていた。
恐怖の声はもう上がらない。
ニコリと微笑んだ化け物の瞳・・・それに吸い込まれるようにして意識は完全に途絶えた。
「さて、それでは、主人様の下に向かいましょう」
ハーピーの観察日記
1:商人ギルドと対立。
2:里に入る物資の価格が高騰。
3:冒険者ギルドへとユリィタ様が情報収集・事実確認へ赴く。
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!