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森人:森海戦争①でした!

たっくさんのブックマークありがとうございます!!


カーティアの過去、そして開戦。


次話ちょっと遅れるかもです(5~7日)。

 side カーティア


 精霊魔法によって強化され、木で造られたドーム型の居城・・・そこにある一室の窓辺から少しだけ身を乗り出して、陽の光に照らし出されている国を見下ろした。

 眼下には多くのハーフエルフ達がに通りを出歩いている。威勢のいい商売人の声、狭い通りを縦横無尽に駆け抜ける子供の足音、買い物に訪れた婦人達が店先で話し込んでいる姿も伺える。


 それは、この国が幸せであることを僕に教えてくれる唯一の情報源だ。けれど、そんな景色も僕にとっては幸せのそれではない。


 いやでもあの日を思い起こし、いつも眼下に彼女の幻影を思い浮かべてしまう。


『ティウルー、入ってもいーいー?』


 僕のことを愛称で呼び、そう告げる彼女の面影を僕は決して忘れることはない。ハーフエルフゆえに無駄に長い一生の間、僕はきっと彼女の幻影を毎日毎日見続けることになるのだろう。


『ここから見る景色、私すっごく好きなの。みんなが幸せだって思ってるのがわかるから、それと精霊たちの笑い声が一番ここに届いてくるから』


 そうだね。僕もこの場所が好きさ。なんてったって君がいるからね。ここには僕が唯一君を幸せにできるこの景色があるし、ここがあるからこそ君がここに来てくれるから、僕もこの場所が大好きなんだ。


「ねぇ、エルン、僕は・・・」


 何かを告げようと後ろを振り返ると、いつも幻影は消え去ってしまう。僕が何かを聞こうとすると、僕が何かを喋りかけようとすると彼女は忽然とどこかへ消え去ってしまうんだ。

 そんな幻影を何年も見続けた。陽の光が目を一瞬焼いた瞬間、泣き叫んで泣き喚いて、後悔して、恨みに怨んで、歪んで、どうしようもなくなった自分を思い出してしまった。


 磔にされた彼女に刻まれた文字・・・もはやそれがハーフエルフの形だったのかさえわからなくなった彼女の姿、それは今でも僕の目の裏に焼き付いている。


 茫然自失となり、日課であったゼルティアの勧誘にも行けなくなったほどに壊れてしまった。けれど、彼女のいない苦痛に耐えきれなくなって・・・卑怯にもゼルティアに助けを求めに行ってしまったんだ。

 茫然自失となって、ゼルティアのことも自分のことでさえも何も考えることのできなかった自分に・・・ゼルティアは契約してくれたんだ。


「私を楽しませなさい。楽しませなきゃならないのに、どうしてそんな顔をしているの? 物も食べていなそうね・・・私を楽しませる契約者がそんなことでどうするの!!」


 そう強く捲くし立てたゼルティアに・・・僕は救われたんだ。

 何もかも無気力になった僕が部屋の隅で頭を抱えていた時に、ゼルティアに思いっきり蹴飛ばされて窓から吹っ飛んだのは今でも苦くて良い思い出だ。

 あれがなかったら僕は今でも暗い部屋の隅で、彼女の幻影に苦しまされて気が狂ってしまっていただろう。


 今も僕の側で散らばった書類を溜息を吐きながらも整理してくれているゼルティアの薄く発光

 する羽をじっと見つめる。

 この街で唯一の上位精霊であり、ずっと僕の側に寄り添ってくれたゼルティアを・・・僕はゼルティアと彼女をいつも重ねてしまうけど、彼女はここまで怖くはなかった。ゼルティアが本気で切れた姿を思い出して身震いする。


 あの日、僕は優しさを捨てた。悩んでいた自分と決別して、この国の領主・・・王として自覚のなかった僕は自分を『王』と認識した。

 この国の為にならないものがあれば全力で排除する・・・この国で暮らす民の安寧を阻害するものを僕は決して許さない。


 そして決めた。僕はエルフを決して許さないと・・・僕は奴らを殺す。この手は既に、この体は既にその準備を整えている。

 でも、彼女の幻影がいつもそれを引き止めていた。


『ねぇ、ティウル・・・この国のハーフエルフ達は本当に幸せそうだわ。いつも笑顔に溢れていて、悲しくなっても直ぐに喜びや楽しさで上書きしちゃうのよ。でもね・・・エルフはどうなのかなっていつも思うの。昔の過ちで私達を嫌っているのは知ってるし、私達も彼らエルフとはあまり関わってこなかったわ・・・。ずっと昔の辛さを引きずっているのなら、この幸せを・・・この窓辺の景色(幸せ)をエルフにも味わって貰いたいの』


 だからね・・・と彼女は続けた。


『皆が幸せになれるのなら、私は命だって掛けられるよ!』


 そんな彼女の幻影がいつも僕の心で笑っていたんだ。

 エルフを決して許せない殺しても殺しても、唯殺すだけなんかで終わらせたくない・・・僕以上に彼女のように苦しませて苦しませて殺したい。

 そんな浅ましい考えが蔓延る中で・・・彼女の笑顔が僕の想いを曇らせる。本当にこれでいいのか、本当に僕は間違っていないのか、本当にそれで後悔はないのか、本当にそれで僕のこの気持ちは晴れるのか・・・と。


 自問自答しても正解が出ないなんてことは分かり切っている。この数年いつもいつもやってきているのだからもう明白だ。

 彼女のサラサラの髪を梳いてあげたい・・・紙で油がなくなり幾重にも擦り傷を作ってしまって昔の様な綺麗な手ではなくなってしまったけれど、君のくすぐったそうにしている声が聞きたい。フワッとお日様の香りを広げる髪に手を入れたい。

 いつも僕を安心させてくれたあの匂いを胸一杯に吸い込みたい・・・頑張ってカーティア、と魔道具製作で徹夜明けした僕に投げ掛けて欲しい。


 どれだけ人ごみの中にいても、人一倍光り輝く君の笑顔を見ていたい。


「・・・ん?」

『すぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・チェストオオオオオォォォォォ!!!!!!』

「ウワアアアアアァァァァァ!!!!!!」


 間一髪横っ飛びで回避する。

 一瞬・・・ほんの一瞬、現実に僕の意識が戻された瞬間、ずっと僕の耳に聞こえていた書類整理の音が聞こえなかったことに気がついた。

 そして前に意識を向けた時には、足にとんでもない精霊力の本流を纏わせて、低級の魔物であれば灰も残さず爆散するような威力の蹴りを僕の鳩尾目掛けて放たんとしていたのだ。


 回避した直後、危なかったと息をつく間も無く衝撃波が部屋全体を覆い尽くす。耳を劈く爆発音が響いた直後、綺麗に整理整頓された書類は再び部屋中に散乱してさっきよりもひどい惨状となり、床は衝撃波の影響を諸に受けたのか抉り取られ、僕と彼女の思い出だった窓辺は衝撃波の直線上にいたから爆破されたかの様にボロボロになっている・・・あぁ思い出が。


「フゥフゥ、私がここまで頑張って書類整理してあげているのにティウルは上の空で、頑張ってる私のことをちっとも見てくれないのね・・・」

「あ、ご、ごめんねゼルティア、これにはふかーいわけが」

「言い訳無用。ティウルのバカ!! バカティウル!! バカーティア!! もう自分で掃除しなさい、私は知らない!!!!!」

「ごめんよゼルティア許してくれ!! それとバカティウルはいいけど、バカーティアはよしてくれ!!」


 扉を開けてバンと閉めて出て行ってしまったゼルティアに、あぁまた怒らせてしまったと涙を浮かべ、さっきよりもひどくなってしまった部屋の惨状を見て、もっと涙を流してしまう。

 もっとゼルティアを楽しませてあげなくてはならない・・・精霊は楽しむ為に契約する。契約者はそれに応じて、精霊が楽しいって思える様な事を提供しなければならない・・・なのに僕はいっつもゼルティアを怒らせてしまう。


 前に外に連れてって頂戴とせがまれた時も、空を飛んで行こうとしてゼルティアに「それだとデーt・・・ゴニョゴニョっぽくならないじゃない!」と何故か怒られ、歩いて行こうとしたら研究室暮らしが長かったせいかちょっと歩いただけでくらくらし始めて、少し歩いて失神してまた怒らせてしまった。


 床に散乱した紙には様々な魔法陣が描きこまれており、何度も赤いペンで注釈やら失敗例を書き込んだ紙屑が見受けられる。終盤はほとんど意識はなかったけれど、今日ついに魔法陣は完成した。

 何度もやり直し、何度も何度も失敗して漸く此処まで辿り着いた。


 エルフは僕らよりも格段に強い。ハーフエルフの大半は精霊と契約していないし、契約していたとしても精霊との親和性が低い為、魔法の力を100%使用することはできない。エルフは全てが精霊と契約しており、親和性も高く、たった一人でハーフエルフ十数人程の差が出てしまう・・・精鋭とおなればった一人で数十人のハーフエルフにも相当する筈だ。

 エルフと正面切って戦って勝てる自信があるのは、僕と私兵達だけだろう。あとは数の少ないエルフをハーフエルフの物量で押す事で何とか均衡を保てるはずだ。


 でもそれには多大な犠牲が出てしまう。エルフの膨大な魔力や精霊力によって繰り出される魔法で、恐らくこちらは何百人・・・最悪何千人の被害が出てしまうかもしれない。

 それほどまでにエルフの放つ魔法は強力だ・・・。


「だからこそ、僕がハイエルフにならなければいけないんだ」


 そこに描かれた魔法陣は、小さな紙切れに収まりきらない程の小さくて緻密な文字でびっしりと埋め尽くされている。

 自分の力を何十倍にも昇華させ、魔物の進化の様な状態を自分に齎す・・・そして、最後の決め手に深層に組み込んだ魔法陣が起動すれば自分がハイエルフへと昇華する筈だ。


 この魔法陣はゼルティアからもお墨付きを貰った・・・漸く完成したのねって笑ってくれたんだ。


 後はこれにゼルティアと練り上げた精霊力を全力で注ぎ込めばハイエルフへと至れる。そして僕が前線に立ってエルフ達を薙ぎ払っていけば被害は最小限で済む。これで勝敗は決する筈だ・・・。

 懸念すべきは森に溢れる魔力をゼルティアに取り込めなかった事だ・・・ゼルティア自身はこの魔法陣であればそれがなくても大丈夫だと言っているが、森に築いた魔法陣はエルフに見つかってしまって、証拠を残さない様に破棄した。


 あのエルフも流石にあの魔法で死んだだろうし、ゼルティアも「あの魔法の直撃で生き残っていられるわけないわ」と言っていたから大丈夫だろう。


 力を集約し、己の糧とする魔法陣・・・何年も掛かってあの森の奥地に描き上げた魔法陣だった。ハイエルフに昇華する魔法陣に使用する魔力や精霊力が足りなくて、それを補う為に森の魔力と精霊力をゼルティアに宿すものだったけれど・・・この魔法陣であればきっと大丈夫だ。


 あぁ、ボロボロになった窓も直さないとと工具箱を探そうとするけど、さっきから風が吹いていないことがわかる・・・そう思って窓を見てみると、綺麗に直っている。大穴が開いて色々とボロボロだった窓・・・それがさっきの惨状がまるで嘘だったかの様に塞がって元に戻っている。


「ゼルティア・・・ありがとう」


 ゼルティアの姿は見えないけれど、そう呟いた。




 ・・・・・・・・・仲間や友達のためなら、私は命だって掛けてみせる!!




 ふと、つい三日前に追い出したあのエルフの事を思い出した。街に堂々と侵入して橋の上で歌っていたあのエルフ達を。

 あれに気付いたのはゼルティアだった。「どこかに・・・街のどこかにエルフがいる」そう僕に告げたのだ。


 とうとうエルフ達がこの街にまで攻め込んできたのかと怒り狂い、壁に立てかけてあった剣を手に取って私兵達を引き連れてそのエルフ達の下へと向かった。

 ・・・はぁ、あの時もっとゼルティアの話を聞いていればあんなことにならなかったのかもしれない。


 怒りのあまり我を忘れてしまった僕はゼルティアの話を最後まで聞かずにドームを飛び出してしまった・・・飛んでいる最中もゼルティアが必死に僕に何かを説明したそうだが、その時の僕には何も聞こえていなかった。


 早くいかないとハーフエルフ達が殺される・・・またエルンの様な被害者を出してしまう。その気持ちでいっぱいだったんだ。


「実際は・・・精霊達を楽しませてくれて、街のハーフエルフ達もそれに乗って楽しんでいた。彼女達はこの国の民を「幸せ」にしてくれていたというのに、僕は一体何をしているんだか」


 許せない・・・赦せない・・・許すことなどできる筈もない。

 けれど、あのエルフの澄んだ瞳はエルンを思い起こしてしまった。


 彼女に怪我をさせ、精霊を悲しませて、街の人達を怒らせるように焚き付けて・・・はぁ、僕は一体何をしているんだよ。

 ゼルティアは必死に、「わ、わるいことはしてないんだよ。えっと、な、なんでかわからないんだけど楽しいのよ!」って言ってくれていたのに。


 ゼルティアが折角楽しんでいたのに・・・。


 だけど、あのエルフに彼女の面影を見た。決して曲げない強い意思、笑顔を絶やすことなくいつも僕のそばに寄り添ってくれていた彼女・・・怒る時は真剣に僕と向き合って怒ってくれたこともあったな。


 あの真っ直ぐで澄んだ瞳に見つめられて・・・僕の醜く歪んで荒みきった瞳を見られて、まるで彼女に心の奥底を見られているようだった。


 強い言葉・・・あのエルフが紡いだ言葉の数々には重みがあった。軽々と口だけで希望論を語っているのではない・・・己の命さえ省みず、白銀に光輝く刃に真っ向と立ち向かったんだ。



 あのエルフの様に強くはない自分。打ちのめされて、打ちひしがれて、今の自分はあの日の恨みの執念をもって生きてきたつもりだった・・・けど、結局自分は弱い。そんな執念さえあのエルフの言葉で崩れたのだ。

 執念があったのなら、情け無用であの場で切り捨てておくのだった・・・。


「僕も・・・ハイエルフになれば強くなれるのかな?」


 フッと苦笑して床に落ちた魔法陣の一枚を手に取った。部屋を後にして、どこかに行ってしまったゼルティアを探しに行こう。

 そう思い、部屋の扉に手をかけた・・・直後、一瞬地面が揺れた。


 小さくではあるが、自分の耳が爆発音を捉えた。


 瞬時に理解する。

 どこかで大規模な戦闘が起きているのだと。


 断続的に続く地面の揺れ、城門の方角から聞こえてくる爆発音が自分の胸を駆り立てる。

 魔方陣を描いたスクロールを手に取り、鎧と剣をもって部屋を飛び出した。


 飛び出したと同時に僕の部屋に向かって私兵達が大慌てで向かって来ていた。

 傍にはゼルティアもいて、その表情は緊張で強張っている様に見えた・・・もう、それだけで何があったのかわかる。私兵達の顔に浮かぶ焦燥と何かを憎んでいる感情とが、城門から響いてくる音の正体を如実に告げている。


「カーティア様、我が国北方の城門付近に多数のエルフを確認!! 精霊魔法を連射して城門へ放っています。今は警備隊と衛兵が全力で防いでいますが、初弾の威力が想像以上で・・・城門の防護魔法は既にほとんど効力を失っています!!」

「直ぐに私兵と自警団、衛兵を集めて城門に向かう・・・怪我人や負傷は?」

「不意を突かれた初弾で十数人が負傷、現在も防護魔法を張っている魔法使い達が威力に負けて吹き飛ばされて負傷しています」


 ・・・覚悟はしていたけれど、とうとう来てしまったか。

 痺れを切らしたエルフ達の襲撃、いつかこうなるだろうことは予測していたしもう準備も整っている。エルフ達と相対するには正攻法では勝てない。


「戦闘用魔道具を倉庫からありったけ荷馬車に積み込んでくれ。エルフ達が此処まで大々的に動くって事はもう僕達を完全に殺しに来たのに間違いないよ。僕ら・・・いや、ハーフエルフもここまで唯指をくわえていたわけじゃないんだ。魔法部隊の半数は街を固有結界で守らせて、残りは僕らと共に城門に急行する。近接攻撃を主とする兵達にはポーションと魔道具一式を貸し与える。エルフとの正面衝突はまず避けられない。僕は後方で一時待機・・・充分に魔力を回復してからこの魔法を準備して前線に出るよ」

「それは!? 完成していたのですか!!」

「あぁ、今朝方完成したよ。ゼルティアからも了承は貰っている。後はこれさえ発動すればエルフ達を止められる。それまで何とかして持ち応えてくれ!!」


 そう告げると、私兵達は振り返って急いで部隊の編成へと向かっていった。


『いよいよ、始まっちゃうのね・・・』

「ごめんよゼルティア・・・」

「それはさっきの事? それとも今の事かしら?」

「どっちもかな?」

「さっきの事なら許さない。今の事なら・・・ちゃんとあなたが守り通せたならさっきの分も合わせて許してあげる」


 ゼルティアはツンとそっぽを向くとそのまま僕の中へと入っていった。

 ・・・さぁ、行くしかないな。






 城門の前へと歩み出る。城門の前方に広がる樹海・・・樹海と此方とを隔てる境界には多数のエルフ達が伺える。その誰もが精霊魔法の準備をしており、臨戦態勢を取っている。


 背後を振り返ると此処に来るまでに破壊されたのだろうボロボロになった城門が瞳に映し出される。城門の向こう側は急ごしらえの仮設医療施設が立てられており、数十人のハーフエルフ達が搬送された。

 軽い怪我を負った負傷者も含めるとおよそ百余名のハーフエルフ達が中で治療されている。


 よくぞ今まで耐えたといわんばかりに城壁には巨大な傷跡から小さな傷跡、焼け焦げた跡が刻まれており正常な部位を探す方が難しい程に半壊している。


 城門・・・だった場所には多くのハーフエルフ達が列をなしている。その誰もが武装しており、精霊と契約している者はその手に魔法を放つ準備を行っており、精霊と契約していない者は剣を構え全身鎧に身を包んでいる。

 後方には長弓と短弓を携えた部隊が控えている。


 総勢2000人。

 そのハーフエルフの命を預かる筆頭・・・ハーフエルフの長にして国の王カーティアは最前線に立ち、剣を構えるでもなくじっとエルフを睨みつけている。荒れ狂う心の波を必死に抑えようとするも、その感情を抑えきる事はできず、如実に体が反応する。

 剣を握る手に力が入り、唇を噛み千切って口の端からは血が流れだしている・・・目には怒りの情念が荒れ狂い、殺意だけが彼の身体を支配している。


 対するエルフは自分たちの故郷である森を背にし、瞳の奥に燻ぶらせた火蓋をいつ切るかと言わんほどに一触即発の気配を流している。

 荒れ狂う魔力と精霊力とを手に、2000名ものハーフエルフを一撃で屠らんと全力を賭けている。


 魂の奥底まで染みつき、焼き付いた恨みと怒りの感情・・・何百年にも渡り積み重なってきた恨みの感情が一気に爆発せんと矛先がハーフエルフへとむけられている。

 ハーフエルフにも見えているのだろう・・・一人一人から発せられる自分とは比べ物にならない魔力と膨大な精霊力、そして可視化するほどに膨れ上がった殺意の波動が喉元へと食らいつかんとする奔流が。


 そして多数のエルフを背に、最前線に立つのは彼らの族長である。

 今だ魔法をはなる準備すらしていないが、その佇まいからは一種の余裕を感じさせる。事実、彼に魔法の照準を合わせている者達が一斉射したとしても彼ならばいとも容易く弾き返すことができるのだ。


 並々ならぬ怒りと殺意の波動。隠しきれていない魔力は、魔力を練ってもいないというのに魔法を構え、魔力を練りに練った背後のエルフ十数人ぶんもの力がある。


 そんな男は、前方に立つハーフエルフの長に視線を向ける。


「・・・」

「・・・」


 互いに沈黙、敵を見あったまま沈黙を続け、どちらかが口を開いた時が戦いの火蓋だ。


 口上を述べる・・・人間であればここで戦闘を開始する口上が披露されるのだろう。しかし、彼らは違う。彼らにはそんなものが必要ない・・・唯の私怨によって淀んだ心にそんな事をしている余裕は一寸もない。


「魔道具複合型精霊魔法」

「精霊魔法」


 言葉が紡がれる。


 最前線に立ったエルフとハーフエルフからその広大な決戦場を支配せんとする膨大な魔力と精霊力が迸る。

 若干エルフの魔力と精霊力がハーフエルフを上回るが、カーティアの背後から現れた小さな書物が足りなかった魔力を補給する。


 そして、それは唐突に訪れた。


疾き駆ける白炎の銀矢(ルイリウスアロー)!」

大地の咆哮(アースクランフェリア)!」


 綺麗な緑で生い茂った草原を真っ白に変えてゆく大質量の光り輝く爆炎を纏った矢は、真っ直ぐにエルフへと放たれる。そのスピードは常人であれば見ることさえ叶わずあっという間に刺し穿たれ、燃え尽きて焼失してしまうだろう。

 膨大な熱量は大気でさえも焼け焦がし、澄んだ透明な色で満たされたそれを真っ白に・・・されど『見えぬ赤』で染め上げている。空気を切り裂いた衝撃波は遠く離れた岩でさえも粉砕してしまう程の威力で、それが通った後は何も残さないほどの破壊力だ。


 その魔力量は如何にエルフであれどまず間違いなく防ぐことはできない・・・しかし、こんな大魔法を一介のハーフエルフが放てるわけがない。


『魔道具複合型精霊魔法』・・・それは自分と魔道具を介したカーティアが編み出したオリジナルの魔法だ。自分が練り上げた魔力を精霊に渡し、精霊力を混ぜ込みながら魔力をもう一度練り直す精霊魔法・・・言うなれば最初の魔力が強くなければどれだけ練り上げても威力は上がらない。それどころか精霊力が魔法を打ち消してしまうことだってありえる。

 しかし、この魔法は自分と精霊との間でやり取りする魔力を補助する媒体・・・魔道具を介して行われる術式だ。


 放った『矢』は魔道具であり、周囲を渦巻く白炎が精霊魔法である。矢の中にはカーティアが数年かけて毎日一本ずつ精霊力と魔力を込めて作り上げた媒体だ。

 その力は一本をただの魔法を乗せて放つだけで、エルフ数人分の精霊魔法を打ち消す事ができる程の代物だ。


 だが、その矢を飲み込むようにして大地が盛り上がる。それは一瞬にして形状を変えると、大きな口を開けたまるで巨大な怪物のような姿となり矢を飲み込んだ。


「ッッッッッ!!」


 直後、大地が脈動し弓矢を飲み込んだ大地を中心に大爆発を引き起こす。耳が拾える音の許容量を超え、キーンとした耳鳴りだけが響いた。

 視界に映るのは一面白一色であり、空に立ち昇る爆煙は青く澄み渡っていた空を一瞬にして暗く澱んだ空へと変貌させた。


 大爆発が引き起こした衝撃波で大地は割れ砕け、衝撃波で飛んでくる石のつぶてが猛威を奮う。

 防護魔法を展開し、それを防ごうとするが・・・何人かのハーフエルフは防護魔法を突き破って飛来した石に直撃し負傷した。


 砂塵が晴れると、眼前にはほぼ無傷のエルフ・・・ハーフエルフは数十人の被害が出ていたが、エルフ達はものともしていない。

 これだけでどちらが戦闘に秀でているのかがわかりきった。


 しかし、ハーフエルフももう止まることはできない。

 数では圧倒的にこちらが優位・・・その形勢が続いている内に打ってでるしかない。


「全員隊列を組み突撃準備! 魔道具の展開を忘れず、エルフへと攻撃を開始する! 僕の魔法が発動するまで何とか持ちこたえてくれ」


 そして、カーティアの声が先程の一合いで焼き払われた平原を駆ける。


「突撃!!」


 ハーフエルフの雄たけびが響いたと同時、軍靴が立てる音が平原を埋め尽くし、捲れ上がった大地をハーフエルフが駆ける。


「アクアスプレッド」「アースクレイスト」「ヴェノムピラー」「アイアンウィンド」「カラミウス」「ファイヤーストーム」「ウィンドスプラッシュ」「ファイヤーボルト」「ライトニング」「ライトニングランス」「ヴォルテクスマッシャー」「アークファイヤジスト」「ダウンフォール」「ガードレジスト」「グラビティレジスト」「フェルミナントスピード」「ストラアッパー」「アイシクルランス」「バッドポイズン」「ボルトクロウラー」「キャタピラルファイヤ」「エンドアグレッシブ」「ウォタラマッシャー」


 数百の魔法が両陣営から放たれる。

 空中でそれらが交差する・・・空中で大爆発を引き起こしたそれらはエルフ側に軍配が上がる。エルフ側が放った魔法がハーフエルフに襲い掛かり、大爆発を引き起こした。


「魔道具複合型魔法:プロテクション・セシオ!!」


 前線を駆けるハーフエルフ達を緑色の球体が包むと、エルフ達が放った魔法はどれに阻まれ威力を減衰させる・・・されど完全に打ち消すことはできず、直撃を受けたものはその場に倒れて動かなくなった。

 回復と同時に防御魔法を展開するスクロール型魔道具を用いた魔法だ。

 前線を駆けるハーフエルフにとってエルフの魔法は無視できない脅威・・・それに対抗できる魔道具として用意されていたものだ。


「突撃」


 エルフ側も剣を引き抜いてハーフエルフへと駆けだした。その剣からは濃い精霊力の波動を漂わせており、一目ですべてが業物だと分かる程に剣の質は高い。


 両者が激突し、エルフとハーフエルフの宿命の戦いが幕を開ける・・・かと思われた。


 しかし、そこにはもう一つの勢力があった。

 その戦いを良しとせず、無謀としか思えない考えと決意を胸に秘め、たった数人で大軍と対峙せんとする者達が戦場へと駆け出したのだ。

ハーピーの観察日記

1:商人ギルドとの交渉を開始。

2:ハルウ様が商人ギルドをユガ大森林より退去させました。

3:商人ギルド支部へ向かったソウカイ様・ユリィタ様の交渉結果:決裂


宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!

遠慮なくこの物語を評価して下さい!!


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。

(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)


感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!

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