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森人:何方を取るかでした!

たくさんのブックマークありがとうございます!

本日より、不定期ではありますが更新頻度を少し早めたいと思います(頑張ります)!

何卒応援よろしくお願い致します。


選択は時に牙を剥く。

 パーシラさんを背負って、集落へと帰る。


 所々衣服が破れ焼け落ちていて、少し肌にヒリヒリとした痛みを感じる。スライムの身体でも火傷するんだ何て思いながら、どうにかして今自分に起きている緊急事態から意識を逸らそうと努める。


 しかし、努力も虚しく緊急事態から目を逸らすことなど、意識を逸らすことなどできる筈がない。

 だって仕方ないじゃないか。背中に大きくて柔らかな二つの膨らみが当たっているんだもの。


 エルフの衣服は基本的にゆったりとしたものが多く、身体のラインが浮き出ない様になっている。

 外見からはわからなかったが・・・ふむ、間違いなくEはあるだろう。ミリエラやヨウキに比べればまだまだといわざるを得ないが、これはこれでまたミリエラやヨウキとは違った感触が楽しめ・・・痛い。


『・・・』

「いふぁいいふぁい、ふぉめんふぁふぁぃ」


 いつものやり取り。ディーレに頬をつねられながら、森を歩いていく。


 ふと、後ろを振り返る。

 先程カーティア様と戦闘を繰り広げた場所はもう見えず、薄暗い森が広がっているばかりだ。


 カーティア様は大丈夫だっただろうか?

 あのまま魔物に襲われたりしないかが心配だ。


『カーティアの事を考えているの?』

「うん。あのまま放置して大丈夫だったかな?」

『問題ないわ。彼女がいれば、ここらの魔物じゃ相手にもならないわ』

「彼女・・・あぁ、精霊か」


 精霊はいざとなれば威力こそ弱いが契約者から魔力を借り、魔法を行使することができる。緊急事態の時に使うって昔ディーレに教わったな。

 契約者が気絶してる時に不貞を働かれない様にとのことだ。


「・・・カーティア様は何であんなに必死だったんだ? あの魔方陣がなんなのかわからないけど、完全にあれは殺しに来ていた。俺じゃなかったら間違いなく死んでたぞ」


 カラドウスで見たカーティア様と、さっき戦ったカーティア様はまるで違った。覚悟を決めた強い意思の下、揺るぎなく敵を殺そうとする明確な殺意もあった。

 研究者気質で気になることがあると目の色変えて飛び出して研究にいそしむあの姿からは想像もできない。


 遠くの方に集落が見えてくる。少し時間は経ってしまったが、このまま戻れば問題ないだろう。

 取り敢えずする事と言えば、族長の家の魔方陣を調べる事だ。パーシラ曰く、カーティア様が作っていた魔方陣は族長の地下室にあるものと似ていたと言う。


 知りたいことは山ほどあるな・・・。

 魔法陣が妙な魔力と関連性があるのか、エルフとハーフエルフがそこまで争う理由は何なのか、カーティア様をあそこまで変えてしまった理由が何なのか。


 エルフとハーフエルフの争う理由は過去の遺恨だというのだけど・・・実はおかしいと感じ始めている。確かに過去の遺恨というのは簡単に払拭できないものだろう。けれど、今でさえあれほどまでにエルフがハーフエルフを恨むことがあるだろうか? ハーフエルフがエルフを恨むことがあるだろうか?


 殺したくなるほどに。


 一種の強迫観念といえば簡単だけど、それにしては効力がありすぎる。エルフ全員がそうであるのかと思えば、一番そういう雨風に晒されたであろうリオエルがあれだしなぁ・・・。

 ハーフエルフをあまり憎んでいないようで、俺を襲ったのは魔物と勘違いしたからってことだったし、サテラを見てもあまり驚いていなかった。


 第二中隊の殆どはハーフエルフに恨みを持っていたけど、パーシラさんはハーフエルフというよりもリオエルが心配って感じだったしな。


「それもこれも、あの魔方陣が何なのかさえわかればいいんだろうな」


 集落へと急ぐと、背負っていたパーシラさんが身動ぎする。


「う・・・ん?」

「あ、起きましたか?」

「ユリエル・・・さん? えっと、私は何を・・・ッッッ!?」


 漸くおんぶされている事に気付いたのか真っ赤になって、後ろへ倒れようとする・・・あぶないあぶない。


「あの、その、ごめんなさい・・・」

「いや、謝るのは僕の方だよ。あんな危ない思いをさせちゃってごめんね」

「・・・えっと、さっきのは・・・ハーフエルフですよね?」


 パーシラさんは先程の事を思い出したようだ。

 背中に感じていた天国の柔らかさを名残惜しみながらパーシラさんを地面におろs・・・いふぁい。


「なんで、あんな所にハーフエルフがいたの? あそこにハーフエルフがいるのを・・・貴方は知っていたの?」

「いや、魔方陣があるのは知ってたけど、ハーフエルフがいるのは知らなかったよ」


 パーシラさんがジッと俺の目を覗き込む・・・嘘はついていないけど、その整った顔立ちと綺麗で澄んだ瞳に見つめられると何だか全て見透かされてしまいそうだ。

 パーシラさんはすっと目を閉じると、そう・・・とだけ告げて、一緒に並んで歩き始める。それっきり会話は途切れただ黙々と集落を目指した。


 そして、集落が目前に迫り、中へ入ろう・・・と。歩む足に力を入れた。


 その時だった。


 "集落に戻りますか? YES/NO"


 ピタリと脚が止まる。それにつられて、パーシラさんも足を止めてしまった。

 きょとんとする彼女を余所に、俺は脳内で選択する。


 どうすればいいか・・・とりあえずどちらかを選んで、"本当ですか?"が出ない方を選べばいいんだ。今日は運命の選択さんがよく仕事をしてくれるな。

 やっぱり、これがあるだけで俺は間違えずにここまで来ることができたんだ・・・この運命の選択がなければ間違ったこともしていたし、これにさえ従ええばいい方向にちゃんと導いてくれる。


 って事で、YESで。


 "本当ですか?"


 よーし、確定した。

 もうこの時点で俺はNOの選択肢しかなくなったわけだ。


 んじゃ、NOで




 ”本当ですか?”




 ・・・は?

 頭が真っ白になる。今までずっと運命の選択さんに身を委ねてきた・・・それは今まで全て良い結果を俺に齎して来たし、これに従えば最良の結果へと導いてくれた。

 そして”本当ですか?”この言葉の真意は、その選択は恐らく俺に不利な状況を作り出す選択だ。


 俺のスキルである運命の選択・・・YES/NOで答えるそれ二つの回答がどちらとも不正解だったのだ。


 何方を選んでも、俺には不利な状況が待っている。それを・・・選べと。


「あの、どうかしたんですか?」

「・・・あ、いえ、その」


 説明できるわけがない。これから起こる出来事で俺にとって不利な状況が起こる・・・なんてパーシラさんに話したところで、意味はないのだろう。


 そしてこのまま集落に戻るか戻らないかってことは・・・言い換えれば、『エルフ』を取るか『ハーフエルフ』を取るかってことなんだろう。


 どうすれば良い・・・どちらをとればいいんだ。


 いまの時点では判断材料が少なすぎるし、いったいどちらが悪なのかよく分からない。

 エルフはハーフエルフを憎み、同様にハーフエルフもエルフを恨んでいる・・・そして、カーティア様は完全に俺達を、エルフを殺しに掛かってきていた。


 ハーフエルフを取れば・・・豊かな国、俺とディーレが初めてデートを行った国だ。街の人達は忙しそうに働き、それでも笑顔を絶やすことはなく幸せな国だ。

 魔道具の技術を国に活かし、暮らしやすくてハーフエルフ達が住みやすい国を作る為に、尽力しているカーティア様の様な人達も沢山見てしまった。

 それを・・・裏切ることなんて勿論できる筈がない。


 エルフを取れば・・・エルフはハーフエルフに対して憎しみを抱いてはいる。けれど、そうでないエルフもいることがわかった。皆ただハーフエルフを恨んでいる訳じゃない。誰もが皆自分達に笑顔と幸せを取り戻そうと必死なのだ。

 パーシラさんも、戦いなんて嫌だけど、また皆がもとに戻ってくれるならと身を投じているのだ。

 それを、余所から来た俺が踏みにじって良い筈がない。そして、リオエルも集落の皆が好きなのだ・・・此処に来る前に小さく、「また、昔みたいに戻らないかな」と呟いていたのを俺は聴き逃さなかった。


 どちらを取るか・・・。

 どちら・・・。

 どちら?


 よく考えてみろ。

 俺は今までどうしてきた?


 里の時は・・・ウルフも、ゴブリンも、コボルトも、エルフも助けたな。

 カナンでもカルウェイでも、俺は今まで何か取り零したことがあったか?


 ・・・よし決めた。


「パーシラさん」

「え、あ、はい?」

「俺と一緒に逃げよう」


 パーシラさんは俺の目をジッと見つめ、パチパチと数回瞬いた後に、一度目を閉じ・・・たっぷり十数秒何かを考え込んだ後に大きく息を吸ってミリエラよりは小さく、サテラよりかは大きい胸を張って口を開いた。


「えええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇ!!!!!」



 -------------------------------------------------・・・



 side:エルフ族長


 鈍色の光が室内の一角を照らし出す。鉄の匂いが妙に心地よく、木々の匂いに囲まれた室内が今は非常に煩わし・・・忌々しい。

 静かな部屋を見渡して、誰もいないことを確認すると一度息を吐く。怒りをため込んでもいい事はないというのはわかり切ってはいるが、もう感情の抑制をできる限界はとうに超えている。


 しかし、それも今日で終わるのだとほくそ笑む。


 ハーフエルフに募らせた思いが・・・恨みが轟々と燃え盛る。あの日、奴らと刃を交え、私の大切なものを二度も奪った奴等をどうして許せようか。

 我々がハイエルフを手にすることができたのならば、奴等を殺して我々の国を取り戻すのだ。


 そして、顔を上げる・・・


「お父さん」

「父上!」


 一瞬幻影が頭をよぎる。目の前に何か大切な物が移りこんだ気がする。それが何かを必死に思い出さなければいけないと考えに力を籠めようとする・・・が、手に持った鈍色の光を放つ剣と、鉄さびに紛れた血の匂いにどろどろとした恨みの感情がこみ上げ、それらを覆い隠した。


 大切な物を奪った恨み、自分が心より想った者の命を奪った恨み、。我々を虐げてきた奴等への恨み、我々の恨みを知らずにのうのうと生きている奴等への恨み。


 ガシャンッッッ


 部屋に備え付けていた花瓶が真っ二つに裂け、床に落ちてバラバラに割れ砕けた。剣を振り切りすぎて部屋の壁に深々と突き刺さってしまったそれをゆっくりと引き抜き鞘へと戻す。

 ズキッと頭に痛みが走るが、それも毎度のことだ・・・。


 部屋から外に出る。


 篝火が揺らめく集落には、総勢数百のエルフが並んでいる。

 その誰もが覚悟を決めた顔をしており、その誰もがハーフエルフに対する恨みの炎に焦がされている。ゆらゆらと揺らめく影が心に溜めていた怨嗟の声となって自分に訴えかけてくる。


 見渡すと数百のエルフがいるというのに異様に静まり返ったそれが、今夜誰もが決死の覚悟を持ったのだと暗に告げている。


「この日が来るのを幾年待ったことか」


 森の清涼な空気に乗せられて自分の声が驚くほど集落全体を駆け抜ける。

 自分の言葉だというのに、その重く暗い言葉が自分の胸の内へとするりと入り込んでくる・・・まるで魔法の様に、まるで他人の言葉の様に、まるで自分の声じゃないかのように。


 頭痛が始まる。

 最近になって増えたこの頭痛、数年前までは全くなかったのだが・・・あぁ、わかった。これもすべてハーフエルフなのだろう。

 自分の恨みが、自分の心の痛みが具現化されているのだろう。そうでない筈がないのだ。


 違う?


 否定の言葉が一瞬、ほんの一瞬頭を過る。

 しかし、ふつふつと煮え滾るマグマのような恨みの感情がそれらをまた飲み込んで行く。


「我々が虐げられていた時代を思いだせ。魔族という敵に身を投げ出して媚び諂い、誇りと尊厳を全て投げ出して甘い汁をすすりながらのうのうと生きるハーフエルフ・・・かたや我々は薄暗い森の奥で、繁栄を貪り食らうハーフエルフを唯見上げる事しか出来なかった」


 ハーフエルフは娯楽に身を投じ、我々の存在を遠く過去の者と忘れ去ろうとしている。そんなことを許せるものか、そんなことをさせるものか、いやでも思い起こすようにしてやる・・・日が昇り起きてる間も日が沈み落ちて夢に没しようと、我々の影に怯える日々を送らせてやる。


 エルフ達の瞳に怨嗟の影が忍び寄る。

 そしてそれは周囲のエルフを飲み尽くし、固く握った掌からは決意の血が涙っとなって伝い落ちる。


「とうとう、我々エルフが栄華の道を歩む時が来た。憎きハーフエルフを下し、我々がハイエルフとなってエルフの国を作る。ハーフエルフは」


 ハーフエルフは・・・そうだ。

 奴らは我々を虐げたではないか、こんなところにまで追いやって・・・追いやって? そうだ追いやったんだ。

 我々を薄暗いジメジメとした森の奥深くに閉じ込め、奴らはのうのうと生き延びている。自らの栄華を我々に見せつけるようにして、そして・・・あれをわたしがわすれるわけがない。


 恨めよ恨め、永久とこしえに。我等の無念を晴らすのだ。

 数多の同胞を目前で殺され、数多の愛する同胞を殺され、浸かる程の血肉を胸に焼き付けた我らの怨恨を晴らせ。己らだけノウノウと生き、我等の思い、想い、思ひを踏み躙ったあの者どもを殺すのだ。

 蹂躙せよ、焼き尽くせ、我等が同胞が苦しみもがいた様に火を放て、我らが同胞が泣き叫んだにも拘らず許しを得る事の出来なかったあの時の様に凌辱せよ、我等が同胞が猛々しく戦ったにも拘らず尊厳をすべて無為に返し、四肢を弄んだあの者共を殺すのだ。それもすべてが奴らのせいだ。それも全て裏切った奴らの咎だ。我等が愛しの王を切り刻み慰み者とし全てを奪っていったその手を紅く染め、刃を曇らせた奴らのせいだ。決して許す名決して残すな決して生かすな。死を持って償わせるだけでは生温いのだ死を持って尊厳を踏み躙り殺しつくせ。時は来た時は経った時は満ちた我々も直ぐに行く。あの日の怨みを彼の世の怨みをあの地獄と嗚咽に身を焼き、紅い血風に晒された日々を思い出すのだ。死のダンスを歌い唄い憂い愁い、刃を己に突き刺すことの叶わなかった者達に復讐を。


「殺せ」


「「「「「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」


 もう容赦はしない。あれらを殺してしまえばいい。

 だが、あの数を殺しきるにはハイエルフが必要だ・・・我が娘と触媒が必要だ。


 これでエルフは・・・解放される。


 自分の中に残っていた妙な意識は・・・恨みの炎の中で全て燃やし尽くされた。


ハーピーの観察日記

1:ギルドより重要通達を確認。

2:ユガ大森林における商業施設の開店を検討。

3:主人が帰還なされるまで保留とする。


宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!

遠慮なくこの物語を評価して下さい!!


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。

(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)


感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!

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