森人:魔物とユリエルでした!
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主人公無双・・・爆誕!!
『誤字報告』という機能が追加されたようです。
感想に報告しないでも、その場で簡単にパパッと誤字を作者に報告できる機能が追加されたようです。
文章の一番下に『誤字報告』がございますので、是非お試しください!
side フェルメード第2中隊治癒部隊員
「カール!! 早く止血して」
「やってんだが、こっちも内蔵に骨が刺さってるんだ。止血に時間割いてる余裕がねぇ!!」
「私がやる! 二人はそのまま重傷者に手当てをお願い。私は、まだ戦線復帰できるエルフの治癒にあたります!」
明らかに回復の手が足りていない。多数の負傷者に対して治癒部隊は三名・・・精霊の手を借りたとしても、傷を回復するだけなら三分、戦線復帰までに五分は掛かってしまう。
本来であれば、前線で戦っている隊長達に治癒魔法を施しながら戦わなければならないのはわかっている。けれど、私達が治癒しているのは、もう死の崖に片足だけで立っている様な瀕死のエルフだけ・・・回復を一人でも前線に送れば、救えない命がある。
そして、そんないっぱいいっぱいの戦闘が長く続く筈もなく、隊長が苦渋の決断を下した。
前線の二人を囮に、一度隊長が戦線を退いて私が手当てをする・・・そうすれば、まだ少しはこの戦闘を長引かせることができる。
私は少しでも早く隊長を回復しようと、弓部隊の少し後方で待機していた。
だけど・・・
「え?」
その直後、隊長含めた前線にいたエルフ達が宙を舞った。
恐ろしい魔物が目にも止まらぬ速さで繰り出した体当たり・・・たったそれだけで、戦線は一瞬で崩壊した。
隊長がゆっくりと空を舞い、ドシャリと地に落ちた。それが何を指すのかをわからない私ではない。
眼前に立つ魔物と目があってしまう。それだけで足が竦んで動けなくなってしまった。
魔物は腰を下げ、肩を前面に押し出して足に力を入れる。私の後ろに治癒部隊と多くの負傷者がいる。
このままこの魔物を行かせてしまえば、負傷者はおろか私達治癒部隊も全滅を免れない。
早く逃げなければと頭ではわかっていても、動かないからだ。いや、たとえ逃げたとしてもあれから逃げ切れるとは到底思えない。
そして、魔物の準備が整い、私達へとさっき体当たりを繰り出す・・・直前に、小さく弱々しい指笛の音が微かに耳元に響いた。
魔物は私達から視線を外し、音の出所へと目を向ける。
瀕死の隊長が敵の注意を引き付けるスキルを使った。隊長は身体が全く動かないのか、私へと視線だけを投げ掛け口をゆっくりと動かした。
『逃げろ』
と。
「ッッッ!? 隊長・・・治癒部隊各員! 負傷者を抱えられるだけ抱え、出口へと向かいます!! 魔物が隊長の元へと向かった瞬間、全力で走りなさい!」
私は治癒部隊の方へと脇目も降らずに駆け出し、負傷者を両脇に抱える。長年魔法だけを行使していた身体に二人を抱えるというのは非常に応えるが、今はそんなことを言っている暇はない。
いつ、魔物がこちらへと向かってくるかもわからない。
ここで隊長がやられれば次はもうない。助けも間違いなく見込めない。
「隊長・・・御武運を」
助けも見込めなく、私達の代わりに盾となろうとする隊長に、そう告げ。
出口へと駆け出す・・・いや、駆け出そうとした瞬間だった。
「オオオオオオオォォォォォォ!!」
ドンッという音を響かせ、周囲に砂塵が舞い上がった・・・その中心には一人の人影がポツンと立っていた。
砂塵が晴れ、そこに立っていたのは・・・リオエル様と同じくらいに年端もいかないエルフ。
見覚えがあったのは、集落を出立する前に族長が彼を紹介していたからだ。
東の方にあるというエルフの集落からやってきた聖印があるエルフ・・・エンディットのエルフ達が彼の事を話していたが、物腰は柔らかく、実力の方もそこそこなのだという。
だけど・・・無理だ。
彼はたった一人で魔物の前に立っている。隊長を含め、十数人で掛かっても全くダメージを与えることができなかったそれに、子供一人では太刀打ちできるはずもない。
「に、逃げなさい!! 幾ら貴方でも、それに勝ち目はないわ!!」
聖印は制御が難しい・・・聖印が現れて数年経ったリオエル様でさえ、ここぞと言う時以外は扱わなかった。
聖印は魔法の威力を増強するが、単純な力やステータスが上がるわけではない。そして、最悪な事に、この魔物には魔法が効きにくい。
彼にとっては最悪に近い魔物・・・聖印が意味を成さない魔物だ。
瞬間、忠告も空しく、彼と隊長目掛けて体当たりが繰り出された。視界から一瞬にして消え失せたその魔物は
遙か遠く、体当たりとは逆方向の位置に制止していた。
「「「は?」」」
私を含めた治癒部隊全員がすっとんきょうな声を出す。
遅れて襲い来る地面を抉りとる衝撃波が私達を出口まで吹き飛ばし、抱えきれず已む無く諦めた負傷者達も出口の方まで吹き飛ばされていった。
地面に激突する衝撃に備えるが、いつまで経っても衝撃が来ない。
ゆっくり目を開けると、私はちゃんと両足で地面に着地していた。
負傷者のエルフ達も何事もなかった様に寝転がされ、私以外の治癒部隊員も呆気に取られてポカーンとしている。
しかし、そんな私達を背後から轟いた爆音が現実へと引きずり戻した。
出口へと吹き飛ばされた私達目掛けて、地面を蹴り砕きながら魔物が向かってきていた。回避しようにも、二人を掛けたままではうまく身動きが取れない。
このままでは直撃する・・・しかし、いつの間にかさっきのエルフ名前を確か、『ユリエル』といったエルフが眼前に立ち塞がった。
「あ、そこから一歩も動かないでくださいね」
体当たりが少年の身体に触れる直後・・・今までの動きが嘘の様にピタリと静止し、世界が静止したかのように静寂が訪れる。
衝撃さえ全くなく、少年の足元を見ても後ろに全く引いていない・・・先程の体当たりを本当になかったかのようにしてしまった。
「えーと、『ロックスト・ミノタウリア』ね。岩に覆われたミノタウロスって感じなのかな・・・うわぁ、内部にスライムの核があるのか。それを壊さない限り、この岩の鎧は物理にかなり耐性があるのか。しかも、この岩って・・・おぉ!! 異世界あるあるミスリルだ!! 魔力を纏っているから魔法も効きにくいんだろうなぁ。ってことは、まずは内部にあるスライムの核から潰さなきゃならないのか。岩・ミノタウロス・スライムってなんかよくわからない物の詰め合わせだなぁ」
いったい何が起こったのか、いったいユリエルが何を話しているのかがわからない。とにかくわかるのは、目の前に立つエルフがあの魔物を止めたという事だけだ。
「あ、貴方、いったい・・・」
「そのまま治癒魔法を続けていて欲しい。隊長や他の人に関しては戦いながらそっちに飛ばすから、順次回復していってくれればいいよ」
そう告げると、ユリエルは魔物に添えていた手を思いっきり押し出すと、そのまま自分の三倍も四倍もある魔物を押し返してしまった。
「んじゃ、ディーレお願いできるかな?」
ユリエルは地面に落ちていた剣を一本拾い上げると、雑多な構えのまま魔物へと突き出した。そんなヘロヘロな軌道であの岩の鎧を貫けるわけがない・・・誰もがそう思ったが、その剣は易々と魔物の身体を突き抜けると身体の反対側から剣の切先が飛び出した。
GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!
魔物が初めて明確なダメージを負った・・・一際大きな悲鳴を上げたかと思うと、身体を覆っていた岩の鎧がボロボロと崩れ落ちてゆき、中からはベタベタ、ドロドロとした粘液質の何かが地面へと零れ落ちた。
そしてそこにいたのは真っ黒な体表をしたミノタウロスだ。
「第二ラウンドと行こうか」
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!
魔物は咆声を上げると脱げ落ちた岩の鎧を片手に掴む・・・すると、みるみる内にそれが一本の大剣へと形状を変えてゆき、それは自らの身長をも超える長大な大剣へと姿を変えた。
対するユリエルは貧弱な一本の剣。一般の猟師に配布されているのよりかは上等ではあるが、あの魔物が携える大剣と渡り合える代物ではない。一合いでも交えれば、間違いなく折れるだろう。
魔物が携える大剣には並々ならぬ魔力が注がれており、それが大剣から滲み出しており一層にまがまがしさが滲んでいる。
「・・・なぁ、あれってできる? あの町でも道具に精霊の力付けてたし、これにもできるんじゃない?」
ユリエルは自分の剣を見ながら何やらぶつぶつと呟き、まるで眼前にいる魔物など眼中にないとでも言いたげな余裕を醸し出している。
GUUUUUUUUUUURUUUUUUUUUUUUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!
魔物が駆けだすと同時・・・大気が爆ぜ、地面は捲れ上がり、砂塵が天井にまで舞い上がる。岩の鎧が脱げたことにより、先程のスピードよりも更に、段違いに早くなっている。
そのスピードのまま大剣を振りかぶり、ユリエルへと切りかかる。
「ん、じゃ、お願い」
その瞬間、ユリエルの持っていた剣から同様に・・・いや、魔物が持っているよりも数倍近く濃密な魔力の奔流が剣から漏れ出した。
青い、蒼いその魔力は刀身を包むと、魔力が刃の形状へと姿を変え剣の刀身を軸に大剣を形成した。
襲い掛かる魔物めがけてそれを無造作に一閃させる・・・その刃は軽々と魔物の大剣を真っ二つに引き裂き、折られる寸前に咄嗟に身を退いた魔物の胸元へ大きな一文字が刻まれる。
パキィィィィィィィン
硬質な音が響いた直後、魔力の刃は大気に霧散し、持っていた剣は柄も残さずに灰へと変わった。
「あぁ、そうなるのか。ディーレの力に耐えれなかったわけか」
ユリエルはまたもぶつぶつと何事かをつぶやくと、「ま、いっか・・・」と声を出し、魔物へと正面から向かい合った。
「お、俺達は一体何を見てるんだ?」
「わから・・・ないわ」
中隊全員で掛かってもダメージを通すことさえできなかった相手に、たった一人の少年が余裕綽々で相手を手玉に取っているなんて夢だとしか言いようがないだろう。
戦闘に美しさはない・・・たった一人で戦っているんだし、隊列やそんなものを気にする必要はなく、当然だ。しかし、技術ではなく単純な力押しで少年が魔物を圧倒している。
切り傷を抑えてうずくまっていた魔物の身体に変化が訪れる。
真っ黒の体表に紋様が浮かび上がり、毒々しい紫色の光を放ちながら体中のそこかしこをめぐってゆく。やがてそれが全身を覆いつくすと同時に、魔物は目を血走らせ声にならない奇声を上げる。
体中から血管が浮き出て、筋肉を2倍、3倍と隆起させてゆき、元々巨大だった身体がさらに大きくなった・・・彼我の大きさは約5、6倍へと変わった。
kissayuiyeauihfeauiaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaayaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!
「えっと、これで残りHPは3割ってことでいいかな? HPが減ったら体の中に侵食したスライムがミノタウロスを支配して暴走する。暴走時のステータスは通常時の300%ね・・・本当にゲームみたいだな」
それでも飄々としているユリエルへと魔物が・・・消えた?
直後、ユリエルが立っていた場所が爆ぜ、地面が割れ砕け岩の礫が周囲に飛散する。
その礫が魔力を纏い、みるみる内に岩の槍へと変化し、周囲に飛散する速度が飛躍的に増す・・・。
咄嗟に皆の前に立ちふさがって盾になろうとしたけど、当たる直前に何かの壁に阻まれる様にしてガンガンという音と共に弾き返されていく。
立ち上る砂塵が晴れ、ユリエルの姿を探すが影も形もない・・・あれの爆心地にいたのなら、形も残さずに死んでしまってもおかしくはない。
けれど、そんな考えは次の瞬間には消え失せた。
「パッシブスキル:影渡」
ズルッと魔物の背後から出てきたユリエルが掌を魔物の背中に当てる。
たったそれだけで、魔物は壁まで吹き飛ばされて行き激突する・・・かと思ったが、空中で半回転すると勢いそのままに壁まで飛び、壁に着地すると反動を利用してユリエルへと襲い掛かる。
魔物が腕を振りかぶり、それに対してすんでで躱そうと身構えたユリエルは、後ろへ大きく跳躍し大袈裟に魔物と距離をとる。
何があったのかと思えば、魔物が咆哮を上げた。
紅い魔力の奔流が口から光線上に放たれ、ユリエルのいた場所へと直撃する。激しい爆音が響き渡り、地面には大きな穴がぽっかりと口を開く。
「んじゃ、反撃といこうか?」
ユリエルはそう告げると、魔物へと疾走する。魔物の動きと同様の速度で移動し、魔物の眼前へと迫る・・・そして、まるで躍りを踊っているかの様にクルクルと回り始め、魔物の周りをとんでもない速度で駆け回る。
一見すれば魔物の周りを走り回っているだけに見えるそれは、着実に魔物へとダメージを与えている。
踊っているように見えたのは両腕を振り払っているから。その腕はまるで鋭利な刃物の様に、魔物へと切り傷を作っていく。
でも、それでも先程のように有効なダメージは通っていない。
「危ない!!」
魔物が長い脚を利用して回し蹴りを放った・・・魔力をなとったそれは小さな衝撃波を発生させ、ユリエルを後ろへ飛び退かせると間髪いれずに、接近して乱打を繰り出した。
一撃一撃が爆発を引き起こすほどの威力を持った拳打が雨の様に降り注ぎ、地面は最早まともに移動できる地形ではなくなっている。
ユリエルはそれを辛うじて避けているが、それがいつまでも続くわけがない。
割れ砕けた地面に足を取られユリエルはバランスを崩す・・・その隙を魔物が見逃す筈もなく、そこに目一杯に振りかぶった拳の一撃を撃った。
「・・・・・・へ?」
こう何度も自分の目を疑ったのは初めてだ。
しかし、それも仕方ない。目の前には自分の頭の三倍はある拳を片手で受け止めているユリエルの姿・・・これを夢と言わずしてなんというんだろう。
明らかな体格差をものともせず、拳を掴んだユリエルはそのままぐるんと半回転し、腕を掴んだまま魔物を引っ張った。
それに抵抗もできず引っ張られ、空いていたもう片方の手は魔物の肩口へと食い込んだ。
「俺直伝:『一本背負い』!!」
魔物が嘘の様に空中へ舞い上がり、次いで地面に叩きつけられる。かなりの衝撃で地面に叩きつけられた魔物は血反吐を撒き散らし、耳をつんざく叫び声を上げる。
jehrkfihkgkfiaiwurjrvwcxonwhqgaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!
「精霊魔法:水穿槍」
地面から突き出た水の槍は床に縫い付ける様にして魔物の四肢を貫いた。
それでも魔物は無理矢理水の槍から引き抜くと、大きく飛び退いてユリエルを睨み付ける。
「物理でどれだけ表面を傷つけても無駄。なら、魔法で内部を攻撃すれば身体を支配してるスライムにダメージが通ると思ったけど、大当たりみたいだな」
魔物は怯えた表情でユリエルを見据えると、周囲を見渡した後に何かを思い付いたのか拳を振り上げた。またユリエルと襲い掛かるのだろう。
ユリエルは前に掌を突き出して、それを止めようとする・・・が、それは間違いだった。
「え?」
「お?」
魔物は自らの足元を拳で叩くと、砂塵を舞い上がらせその中へと消えていった。
ユリエルも予想していなかったようで、反応が遅れたが直ぐに腕を振り払って風で砂塵を凪ぎ払う・・・すると、そこには
「隊長!?」
首を腕で締め付けられ、魔物に人質に取られた隊長が姿をみせる。
砂塵で自分の姿を消し、その間に隊長を人質にとったのだ。
隊長はもがく力も残っておらず、されるがままに魔物の腕の中で苦悶の表情を浮かべている。
「わた・・・し、にきにせ・・・ず、やってく・・・れ」
隊長はそう告げると、魔物は下卑た笑みを浮かべながら、己の爪で隊長の首もとへ切り傷をつける。
赤い鮮血が首元を伝い、隊長は魔物を睨み付けるが魔物は微動だにしない。
「はや・・・く、たお・・・せ」
隊長がユリエルへ笑い掛けるとユリエルはコクリと頷き、掌を魔物へと突き出した。
「ダメ!! ユリエル様!! 隊長を・・・ウェールを助けて!!」
ユリエルは一度此方を振り返ると、ニコッと笑い魔物へと対面する。
「んじゃ、本気出しますか」
ユリエルがそう呟いた瞬間、ユリエルの身体が漆黒の靄に包まれる。
「専有スキル:『暗靄の粘液』」
ぶわっとそれが部屋の中に充満すると、一気に視界が奪われ濃密な魔力が辺りを支配する。
おおよそエルフが操れる範疇の魔力を逸脱しているそれは聖印の力なのだろう・・・靄が纏った魔力の光で辺り一面が包まれると同時にユリエルの気配だけが消える。
「専有スキル:『暗靄疾駆』」
靄が一瞬揺らいだと同時に、靄の中からユリエルが悠然と此方を歩いてくる。そして、その腕の中はぐったりとしている隊長の姿があった。
隊長は淡い緑色の光に包まれており、次いでユリエルから漏れ出した青い光で全身を包まれると全身に刻まれた切り傷が塞がり、骨折して変色し始めていた皮膚の色も全てが健康なそれへと変わった。
「えーっと、この人をお願いできるかな? たぶん隊長さんなんだよね?」
「え、えぇ・・・あの、ありがとう?」
「それじゃ、行ってきます」
「え、ちょ、待っ!!」
私が静止する間もなくユリエルは靄の中に霞の如く消えて行ってしまった。
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!
靄の中を魔物の絶叫がこだまし、肉の切り裂く音、肉がつぶれる音が反響する。靄は晴れる事はなく、色をより一層濃くしていった・・・視界は当然靄で覆われており、魔力で気配を感知しようにも濃密な魔力を伴った靄が渦巻いているせいで知覚する事はできず、ユリエルが何をしているのかは全くわからない。
しかし、それは一瞬にして訪れた。
靄が急速に動き出すと、辺り一面を包んでいた靄が一点に集まり始める・・・その集まった先にいるのは当然ユリエル。
魔物は靄に包まれたまま身動きがとれないのか、もがいているが靄を振り払うことはできず、濃度を上げていく靄に翻弄される。
そして、部屋の靄が晴れ渡ると、魔物を包む黒い靄とユリエルだけが残る・・・よく目を凝らしてみれば、黒い靄はユリエルの片手を包んでおり、その靄からは尋常でない魔力の奔流が感じ取れる。
「占有・エクストラスキル:『暗渇水の欲望』」
靄に包まれた手を魔物へと突き出す・・・刹那、箍が外れたかの様に靄が一直線に放出されていく。
闇色の奔流が幾重にも枝分かれし、その一本一本が魔物の身体を刺し貫いてゆく。
そして、魔物を飲み込んだ靄が消失すると、そこには闇の暴威の範囲外にあった魔物の足首から下だけが残されていた。
「よし、ちょっとずつだけど慣れてきたかな・・・お!! これってドロップアイテムじゃん!!」
下に落ちていたドロップアイテムの剣を拾う。自分の身長ほどもある大剣を片手に持ち、ブンブンと振り回してから、こちらへ振り返る・・・。
「あ、やべ」
すると、ユリエルは大剣を無造作に地面に放り投げると、こちらへと歩み寄る。
「ディーレ、お願い」
そう告げると、いつの間にかユリエルの背後に精霊が佇んでいた。
絶世の美女・・・私達に美醜の感覚はあまりないが、これだけはわかる。この精霊の様な見た目をもった者は世界中を探してもどこにもいないなだろう。
そんな精霊が私達の元まで歩み寄ってくると、クスッと微笑みかける・・・それだけで、全員の傷がみるみるうちに癒えてゆき、もう助からないだろうと思っていた重傷のエルフ達も顔に生気が戻っていった。
精霊は片手をフリフリと振ると、彼の元へ歩み消えていった。
「貴方は・・・一体何者?」
「東の森より参りました。ユリエルと言います。取り敢えず・・・ここから出ようか?」
ユリエルはニコリと微笑み、私の手を取った。
ハーピーの観察日記
1:三日三晩、宴を開催。
2:行事内容『鬼と飲み比べ』『鬼笑い』『鬼相撲』
3:ギルド冒険者より、『ヨウキ様に抱かれ隊』発足。
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何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
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