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森人:エルフとハーフエルフでした!

たくさんのブックマーク・評価ありがとうございます。


エルフとハーフエルフの間に一体何があったというのでしょうか?


『誤字報告』という機能が追加されたようです。

感想に報告しないでも、その場で簡単にパパッと誤字を作者に報告できる機能が追加されたようです。

文章の一番下に『誤字報告』がございますので、是非お試しください!

「・・・やっぱり知られちゃったなぁ」


 長いブロンドの髪から覗く端正な顔立ちが歪む・・・それでも気丈に振る舞おうと直ぐに笑顔を俺に向けた。

 ずっと書類にサインを施していた手も今はピタッと止まり、俺と領主であるカーティア様は静かに対面する。


 昨夜、船着き場の倉庫を襲撃した三人のエルフの事を、話すか話さないかを迷っていたのだけど・・・先ずはエルフの事についてカーティア様に話したのだ。


 初めは「エルフがどうかしたかい?」ととぼけていた。

 俺が森で出会ったエルフの事を話しても「あぁ、そんなこともあるんだねぇ」などと、まだ話してくれなさそうだったのでどうしようかと思っていたら、お茶請けを持ってきたカーティア様の精霊ゼルティアにディーレが少し気配を漏らした。


 すると、ゼルティアがビクッと身体を震わし、カーティア様の方を向いてコクコクと首を縦に振った。

 そこで観念してさっきの言葉が出てきたというわけだ。


 森には『ハーフエルフ』でなく正真正銘の『エルフ』がいる。

 それが共存しているなら納得がいくけど、あんな森の奥でお互いが干渉し合わない様にしているのは何となくわかってしまった。


 極めつけはエルフが他者に気付かれない様にローブを纏い、倉庫を襲撃しようとしたんだからもう決定的だろう。

 ・・・けど、結局襲撃の件は話してないんだけどね。


「できれば、カナードのお連れさんには気づいて欲しくなかったんだよ。でも、ゼルティアが了承するなら仕方がないか」


 カーティア様はペンを置き、窓辺へとゆっくりと歩く・・・外に広がる平和な景色へと視線を送り、次いで深い森の奥へと視線を移す。


 この街へ牙を剥いたエルフを咎めるような鋭い視線。けれど、その何処かに哀しみを孕んだ寂しい瞳をチラッと覗かせた。


「・・・そうだね。どこから話していいやら」

『ティウル・・・辛かったら、私が話すよ』

「大丈夫。これは僕らの問題だから、ゼルティアに迷惑は掛けられないよ」


 不安そうに自分を見上げたゼルティアに、カーティア様は苦笑を漏らす。「契約精霊に悲しい顔をさせるなんて、僕もまだまだだね」なんて冗談を言っても、その表情は一向に晴れる気配がない。


 そして、次に目を開けたカーティア様の目は、ジッと俺の目を見た。


「今から遠い昔、世界規模の戦争があったのは知ってるかな? 人と魔族が起こし、次第に亜人やエルフまでもを巻き込んだ大戦・・・人と魔族の双方が回復は困難とまで言われるまでに文明が破綻した戦火を」


 もちろん知っている。

 この世界のだいたいの歴史はサテラから聞いた。


 人と魔族は大昔に大戦争を勃発させ、その戦火は他種族を飲み込んでも止まる事はなかった。

 きっかけは何だったかはわからない。唯その戦争が起き、幾多もの種族が滅び、文明が破綻し、人と魔族の間に永遠に消える事のない深い溝ができた戦争だ。


「その頃にまで遡るんだけど・・・僕らの先祖であるエルフも例外じゃなかった。元々エルフは一つの国で暮らしていたから、世界を巻き込んだ大戦って言うからには当然だよね」


 エルフは元々一つの国で暮らしていた・・・じゃあ里に住んでいた皆のお父さんお母さん、お祖父さんお祖母さんは元々国で暮らしてたのかな?

 でも里の長老はそんな事言ってなかったし・・・あぁ、でも、別段気にしていなかったから、深くまで聞いたことはなったな。


 ミリエラから、エルフは自分達が持つ精霊魔法や、人間や魔族が作れない特殊な道具・・・恐らく魔道具を悪用されない様に逃げたって聞いたな。

 で、それを教えてくれたミリエラはそれを『長老から聞いた』って言ってたし、長老は恐らく大戦の事を知っているんだろうな。


「確かエルフは自分達の技術が悪用されそうになって、それで隠れ住むようになったって聞いたことがあります」

「よく知ってるね。その通り・・・と言いたいところなんだけど半分正解、もしくは三分の一正解だよ」


 カーティア様の表情に影が差し、それを隠そうとするも表情にかかった暗い雲を拭い去ることはできなかった。

 今まで明るい陽射し照らし出された街を見つめていたひとみは、今や沈んだ瞳へと変わって漏れる暗い眼差しはじっと地面を見据えている。


 半分正解、もしくは三分の一正解ってどういうことだ?


「確かにその通り。人間や魔族はエルフの精霊魔法によって編まれた『魔道具』を手に入れようと躍起になった。弱い者も狩猟をしやすくなるようにと作られていた魔道具は、皮肉なことに命を狩りやすくなるようにも作られていたんだよね。今では人や魔族、エルフに向けて使えば効力を落とすように作れるんだけどね・・・僕が造ったんだよ」


 カーティア様は腰に下げた短剣をポンポンと叩きながら苦笑する。

 何時もなら自分の発明した魔道具をゼルティアに怒られるくらい熱く説明し、自慢し始めるのだろうけど今回ばかりはそうはいかないようだ。


「そして、それを嫌ったエルフは二つの派閥に分かれた・・・いや、別れさせられたと言っていいね。僕らは国から逃げ出して、隠れ住まうようにした・・・けれど幾つかは見つかって捕まったんだよ」


 里の族長からは二つの派閥なんて聞いてない。

 いや、そうか。『逃げ切れたから』もう一つの派閥の事を知らなかったのか。


「捕まったエルフはこう言われた。魔道具を作るか、死ぬかとね。そこで『作る』と言った者と『断る』と言った者がいたんだ。さっき僕が言った半分正解、もしくは三分の一正解っていうのは、『逃げた方』と『捕まった方』という分類、それを更に分けた『逃げた方』と『捕まって魔道具を作った方』『捕まったけど魔道具を作らなかった方』に分けられるんだ」


 そして・・・と言って、カーティア様は数秒止まった。

 目を閉じて何かを考え、意を決したのか口を開いた。


「それを言い方を悪くすれば、魔道具を作った僕らハーフエルフ、それの実験台にされたエルフとに分かれるわけだ」


 ッッッ!?!?


 惨すぎる・・・エルフが生きる為にやむなしと作り出した魔道具が、作らなかったエルフに突き立てられたってことか。


「それを僕らは知らなかった・・・気付いたのは、僕らが『ハーフエルフ』となった後だった。普通はエルフとなって生まれて来る筈の子に精霊が付かなかった。不審に思って調べてみると、僕らはどんどんと精霊の加護を失ってゆき、エルフでいられなくなってきたんだ・・・当たり前だよね、自分達が造った魔道具が数多のエルフの血を散らしてきたのだから。『精霊の呪い』って言われてるよ」


 カーティア様はこぶしを強く握りしめ・・・一滴の血が流れ出る。


「もうわかるかな。その時には、エルフ達は魔族に屈して我々を殺し、穢れた『ハーフエルフ』と僕らを呼んでいたのさ。そして大戦が終わり、今となっては栄えたこの『魔導国』も、元々は魔族に魔道具を作れと言われて仕方なく従った隠れ里だった・・・そういう事さ」


 そして、今は森に住んでいるエルフから恨まれているわけか。


「僕らはエルフと比べて寿命が短い・・・エルフ達の命を奪った魔道具の世代のエルフ達はもう皆んな死んでいる。だけど、エルフにはまだ覚えている者がいるんじゃないかな?」


 成る程ね。

 そんな理由があったわけか。


 そして、カーティア様は深く長い溜め息を吐き、困ったような顔で街を見下ろす。


「そんなエルフ達の影響で、僕らハーフエルフも彼らの事をよく思っていない。それが悪循環になってるんだよ。変に敏感になってるハーフエルフもいるからね」


 俺達がこの国に入る前に、厳しくチェックされたのはそれが原因か。

 どこをどう見ても魔族の姿ではあるけど、エルフは魔法に長けている・・・姿形を変えるのは難しいことではないのかもしれない。


『人も魔族もエルフも面倒なものね。同族は自らの一部と考える私達にはわからないわ』

「恨みって言うのは生半可なことじゃ忘れないからな」


 カーティア様は全て告げ終えたと、また一度大きな溜め息を吐き困った顔をしながらも俺に笑い掛ける。


「そんな禍根を取り除こうと頑張っているんだけど、やっぱり上手くいかないね」


 そりゃ、ミリエラがエルフだって告げたら大騒ぎになるだろう。運命の選択はこれをわかっていたったことか。俺達がエルフのスパイだと思われていたかもしれない。


 街の全員がエルフにたいして良くないイメージを持っている・・・というのは軽い言い方で、恐らくはハーフエルフもエルフ達と同様に何らかの恨みを持っているのだろう。

 門番の態度からしても、そんな様子が伺える。


 でも、カーティア様だけは、エルフとハーフエルフの仲をどうにかしようと動いているのだろう。


 リオエルの事も倉庫の件も、ミリエラの事もカーティア様になら言ってもいいんじゃないかと口を開ける・・・が、運命の選択が頭を過り、また口を閉ざした。


「そう言えば、君も精霊と契約しているんだったね! よければ君の精霊と話させてくれないか?」


 今まで暗い話をして沈んでいた空気がパッと晴れる。

 カーティア様の目は爛々と輝き・・・うん、鼻息が荒い。十中八九色々聞かれるだろう。


 肩に乗って、俺以外には姿を見せていないディーレは少し嫌そうな顔をしたが、まぁいいわと首を縦に振る。


 ディーレは他者に見えないようにしていた魔法のベールを解き、その姿をカーティア様に見せる。

 カーティア様の机の上に座っていたゼルティアも驚いたようにディーレに視線を向ける。ディーレは俺の肩に座りながら、カーティア様に告げる。


「何を聞きたいのかしら?」

「あぁ、えっとだね」

「ティウル待って・・・貴方は、上級精霊なの?」

「・・・そうよ。ユガと誓約も交わしているわ」


 カーティア様がディーレさんに話しかけようとした直後に、ゼルティアが飛び上がってディーレに質問する。

 上級精霊という言葉にピクッと反応したディーレだったけど、さすがに最上級精霊と言ったらまずそうだったからそのまま通してくれと思念を送った・・・けど、これだけは譲れないと誓約の事はちゃっかり話されてしまった。


 ゼルティアは大きく目を見開き、口をあんぐりと明けて驚きを隠せないでいる・・・その後ろでカーティア様も同様に目を見開いて口をぽっかりと明けている。


「あ、貴方正気なの? そこにいる冴えない魔族と生涯を共にするなんて・・・」

「案外悪くないものよ。退屈凌ぎにはちょうどいいわ」

「普通退屈凌ぎで誓約なんてするものじゃないでしょう・・・」

「求められたから答えたまでよ」


 ゼルティアの顔が真っ赤に染まり、ディーレと俺の顔を交互に見やる。

 そういえば誓約って精霊にとっては自分の命を左右するもので、人間でいえば結婚のようなものだったっけ?

 ゼルティアはカーティア様と誓約したいとかは思わないのか?


「貴方もしてみればいいじゃない」

「な、ば、ばばば馬鹿! こんな研究馬鹿なんかと誓約が結べるわけ・・・いえ、結ぶわけがないでしょう!!」

「ひ、ひどいよゼルティア・・・」


 ディーレはクックッと笑いながらゼルティアをからかう。上級精霊のゼルティアもディーレさんに茶化されたらどうもできないみたいだ。


 椅子に座りこんで小さくなっているカーティア様に、ゼルティアは目を向ける・・・お。真っ赤になったぞ。これは意外と脈ありなんじゃないかな?

 当のカーティア様は気付いていないが、押せに押せば行ける気がする。


「他に聞きたいことはあるかしら?」

「水を司る精霊だったよね・・・それじゃあこの魔道具についてなんだけど」


 そこからは俺には理解できなかった。

 精霊魔法の構造や魔道具に付与するあ為の理論や法則やらがうんたらかんたら、ディーレは淡々と答えていたけど・・・ゼルティアも理解できていなかいのかディーレとカーティア様の会話をジッと聞いている。


 一頻り、ディーレに質問し終えたカーティア様は、ディーレから聞いて紙に書いたメモを片手、に興奮冷めやらぬうちに研究室へと駆けだしてしまった。

 ゼルティアはごめんなさいと頭を下げ、鬼の形相で研究室へ走り去っていったカーティア様を追っかけて行った・・・健闘を祈る。


 そして、俺は宿へと帰っていった。



 -------------------------------------------------・・・



 side カーティアとゼルティア



 完全に外から隔離された部屋、机の上に乱雑に放り出された紙っぺらがその部屋に唯一ある小さなライトによって照らされる。

 自分の研究室用に改造し、中の音は決して外に漏れることはなく、生半可な魔法が放たれたところで一切木筒家内外壁に囲まれ、僕しかこの部屋に入ることはできない。


 床一面に散らばった用紙を一枚拾い上げ、『これも失敗』と丸めてごみ箱へ捨てる。


「ティウルもう、休んだほうがいいわ」

「あともう少しだけ・・・あとちょっとで閃きそうなんだよ」

「そう言って閃いた試しはほぼないじゃない・・・後片付けはやっておくから、少しは眠るといいわ」


 僕の契約した精霊ゼルティアが床の書類を拾い上げて迷いなくごみ箱へ運んでゆく・・・絶対に失敗しているとわかっているのだろう。


 何度も何度も書き直し、何度も何度も失敗し、できないと分かっていてもそれでも諦めきれなくて挑戦する。

 それしかできないから、それしかやってはいけないから、それをしなければ守れないから。


「ふぅ・・・そうだね。ちょっと休もうか」


 そういって、腰を下ろす。


 ゼルティアが「あぁ、面倒くさい!」と魔法を使って、床一面に散らばった書類をまとめてごみ箱へ投げ捨てる。

 すると、僕の隣にゼルティアもちょこんと座る・・・いつも通りだ。


「それにしても、ゼルティアが魔族を信頼するなんて珍しいこともあるもんだね・・。精霊と契約していたからかい?」

「・・・それもあるけれど」


 そういったゼルティア目は真剣味を帯びる・・・まぁ、理由はわからないでもないし僕も実は気付いている。


「あの、ユガって魔族が契約・・・誓約を交わした精霊の底が全く見えなかったわ」

「僕も一切見えなかったよ」


 今日の昼頃に僕へと会いに来た魔族の『ユガ』・・・この国を陰ながら支えてくれているカナードの頼みと合って特別に入国を許可した魔族。

 正直に言えばそんな面倒くさい対応をしたくはなかったけれど、他ならぬカナードの頼みだし・・・と招き入れれば、それは普通の魔族とはまるで違った。


 知識を求め、僕らとエルフの関係に気付き、それを確かめようとしている。契約している精霊は恐らくゼルティアよりも上・・・そんな魔族に少しだけ僕らの事を教えて、『話を良いタイミングで逸らして』お引き取り願ったが、直に気付いてしまうだろう。


 カナードが一体何を考えているのかはわからない。けれど、邪魔はさせない・・・彼らが何かをする前に、やらなければならない。


 そう、それまでに・・・それまでに


「やらなくちゃね」

「ティウル、あまり背負いすぎないで」

「僕がこの国の王様なんだよ・・・皆んなを護らなくちゃいけないのは僕なんだ。そのためなら」


 そのためなら。


「たとえ、エルフであろうとも僕はやるよ」

「・・・」


 そして


「僕が、『ハイエルフ』になってみせる」


 一枚だけ捨てそこなった紙を握り潰しながら、僕はまた机へと向かいペンを走らせた。

ハーピーの観察日記

1:盗賊団と交戦。

2:盗賊団壊滅を確認。

3:里より、臨時招集用冒険者パーティ設立。


宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!

遠慮なくこの物語を評価して下さい!!


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。

(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)


感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!

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