森人:カラドウスデートでした!
たくさんのブックマークありがとうございます。
イチャイチャ・・・イッチャイチャ。
『誤字報告』という機能が追加されたようです。
感想に報告しないでも、その場で簡単にパパッと誤字を作者に報告できる機能が追加されたようです。
文章の一番下に『誤字報告』がございますので、是非お試しください!
『魔導国:カラドウス』は多くの種族が住む魔族の国である。
魔族が治める都市や国というのは、普通であればそこを支配する魔王や領主の種族の者が多く住むのが普通だ。竜人の魔王が治める都市ベルンが良い例であるだろう・・・都市に住む殆どが竜人だからな。
カナード様が治める都市は・・・人間と魔族が共存しているということで例外として、この街は一見すれば多種族が住まう変わった国である。
そう、『一見すれば』であるのだ。
見た目は違えど、その身体の内から流れ出る力を見れば、その魔族達がいったい何者かを示していることがわかる。
この国からは精霊が多く住んでいる反応があり、つまりは平行して多くの魔族が契約を施しているということになる。
・・・精霊は普通の人間には見えない。魔族はそうでないのかと言われれば、そんなわけもない。
例外なく9割の魔族は精霊を見る、いや、感じることすらもできない。
カナード様の都市はかなり多種族がいるというのに、精霊の反応は全く感じれなかった。
しかし、この国ではそこかしこから精霊の気配が漂っており、色々な場所に精霊の力が宿っているのがわかる。
建物しかり、道しかり、道具しかり・・・微かに精霊の力を感じとることが出きる。
領主様も精霊と契約している通り、この国では多くの者が精霊と契約しているのだ。
偶々そういう魔族が集まったと言うには無茶がある。
つまりは、精霊と契約しやすい何かがある。
幸いこの国の周りは自然に溢れており、探せば一匹くらいの精霊には出会えるだろう。まぁ、契約するかしないかはその精霊しだいだけど。
で、精霊と契約しやすい種族と言えば・・・言わずもがなエルフである。
エルフは生まれた直後から精霊と深い関わりがあり、一説によれば、人間と精霊との間に生まれた種族と言われているだけあって、見た目は人間であり精霊に好かれやすい性質がある。
ミリエラ曰く、エルフは生まれながらにして精霊と共にあり、エルフが契約を持ち掛けるのではなく、精霊が契約して欲しいといってくるらしい。
無論赤ちゃんがそれを理解できるはずもなく、物心ついたときには精霊がいるって感じらしい。
だがこの国では、精霊を自分から探しに行くのが慣習であり、エルフの様に知らないうちに契約しているなんてことはない。
しかし、精霊と契約しやすい魔族・・・。
その正体は『ハーフエルフ』である。
エルフの血を受け継いだ他種族であり、エルフと他種族との間に生まれた子であるらしい。
まぁ、単純に他種族とエルフが交わればハーフエルフが生まれでる訳ではないらしく、様々な条件が合致して生まれてくる種族らしいのだけど、そこは省くとしよう。
この国は『ハーフエルフ』が実に7割を占める国であり、一見すれば雑多な種族に見えても、それは『ハーフエルフ』であるらしい。 ハーフエルフといえば、姿形はエルフに似ているが、エルフに比べて耳が長くない・・・というのがイメージであったが、この世界では姿形は魔族や人のそれで、内包される力のみがエルフなのだ。
因みに、7割のハーフエルフ全員が精霊と契約しているわけではなく、必要ないと思う者もいれば、領主様の様に頑張って契約しようとする者もいる。
エルフは貴重な種族であり、昔にあった大戦で各地にバラバラになってしまった。だからか、ミリエラも自分達以外のエルフと出会ったことはない。
そして、漸く他のエルフに出会えたと、ミリエラの事を告げようとすれば
"本当ですか?"
と来たもんだ。
目を丸くして驚き、結局運命の選択さんには逆らえず、そのまま何も言えずに終わってしまった。
領主様はこの国についてを色々と教えてくれ、やっと本題と自分の研究した魔道具についての研究を話し始め様とした瞬間に、お付きの精霊に蹴り上げられて、泣く泣く「色々回っておいで・・・」と俺達を送り出して、今に至るわけだ。
この街で魔道具を作っているのは領主様だけではない。精霊と契約できた者の約半数は魔道具を製作する職人であり、日夜新しい魔道具を作っている。
その中でもかなり質が良く、実用性のある物はどんどん魔族領に渡ってゆき、様々な魔族の支えとなっている。
新たな魔道具を作り、魔族の未来を導く・・・故に『魔導国』らしい。
ここで作られた魔道具は秘密の経路で世に出回っているらしいが・・・十中八九カナード様が関わっていることは何となくわかる。
領主様の会話の端々にカナード『様』と付いていることから、それもわかるし、本人が「カナード様には頭が上がらないよ」って言ってたしね。
因みに、領主様はこの国の魔道具を作り出す職人のトップであり、魔道具の質や構成に関しては群を抜いているらしい・・・が、突拍子のない発想と一度やり始めると止まらない性格から他の人からは変人扱いされることが多いそうだ。
そして、何よりコストパフォーマンスが非常に悪いそうで、一度国として成り立たない程に予算が低迷したこともあるらしい。
その時に助けたのがカナード様なんだろうなぁ。
・・・っと話が逸れてしまった。
で、結局ミリエラのことも話せずじまいなわけで、どうしようもないわけだ。
それについて、考えて・・・いふぁい。
「今、別の事考えてたでしょう」
「ふぉめんふぁふぁい(ごめんなさい)」
そうだった。
今俺が集中するべきはたった一つ、横で一緒に船に揺られているディーレに如何に楽しんで貰うかだった!!
どうしてこうなった・・・かは言うまでもなく、俺とディーレとの仲直りデートである。
包み隠さず俺の心情を吐露すれば・・・どうすればいいのか全くわからないということだ!!
だって仕方ないじゃないか、前世では一度たりともこんなことなかったし、ましてやスライムが相手していいとは思えない超絶美人に目を白黒して動揺を隠せるわけがない。
結果、色々頭の中で考えている最中に、現実逃避してしまっていたわけだ・・・。
街を横切る水路を小さな船が進んで行き、その上に揺られているのは船番と俺とディーレだ。
ディーレは俺の頬をつねり、自分の事以外を考えていた俺をジトーッと見ている。
かなり強くつねられているのと、俺の力に釣り合っているせいで普通の攻撃ではダメージを負わない筈のこの身体が痛みを感じている。
万年彼女なしの俺が、こんな美人を目の前にしたら動揺のあまり何もできなくなるのは道理だと思う。
むすーっとするディーレをどうにか宥めて、水路を進んでゆく船に二人っきりの空間が作られて、また硬直してしまう。
船番は女性の魔族であり、俺とディーレさんの姿には目もくれずに水路をゆっくりと進んでいき、精霊の力を使っているからか全く揺れを感じることなく、俺たちをデートに集中させてくれている・・・どうせなら荒れに荒らして恥ずかしさを感じられ無い様にして欲しい。
船を借用する場所についた時、真っ先に男の船番達が殺到したが、それら全て跳ね除けて女の魔族の人にお願いした。
船の端に手をかけて、ニコニコと笑いながら街並みと水路とを見ているディーレに、楽しんでくれていると安心してホッと胸を撫で下ろす。
チラッと水路を挟む様にしてある道を通り行く人々は男はもちろん、女性の視線をも集まており、ディーレを目で追うのであればまだいいが、船を追っかけている者までいる始末だ・・・んで、どうやら俺の姿は視界に入らないらしい。
精霊顕現でわざわざ人の姿をしているディーレさんはやはり人目を惹く・・・が、まぁ人間がいるぞ!!ってならないのはその見た目がものすごい美人だからだろうな。
魔族も人と感性が変わらないらしい。
「楽しんでくれているみたいでよかったよ」
「えぇ。綺麗な水に、綺麗な街並み、後はユガがいるから凄く楽しいわ」
ディーレさんは船から少し身を乗り出し、水路の水を掌で掬う。すると、さすがというべきか、ディーレさんの触れた水路の水は見る見るうちに輝いてゆき、ただでさえ綺麗な水であったのに今や水底が見えてしまうほどに住んだ美しい水になってしまっている。
まぁ、そんな変化に気付く者は全くいない・・・そりゃそうだ皆んなディーレに見惚れているんだから。しいて言えば船番だけは気付いているかな?
「そりゃ誓約者冥利に尽きるなぁ」
「普通なら何百年もかかる相手と誓約したのよ。感謝して欲しいわ」
「うん。ディーレさんと一緒にいれて本当に嬉しいよ。ずっと一緒にいてくれ」
意趣返しとして、頑張ってそんな言葉を放つが・・・ディーレはにんまりとしていて、掌に未だ残っている水に魔力を通して鏡を作り出し、俺の眼前にその鏡を突きつけた。
うん、真っ赤っ赤な自分がいる。言って後悔するとはこの事だ・・・顔と口から日が吹き出そうな錯覚に陥り、今すぐにでもこの水路に身を沈めたい。
「やっぱり慣れないことはするもんじゃないな・・・」
「いつも通りでいいのよ。でも、嬉しかったわ」
くそぅ・・・大人の余裕を見せつけられている。
ディーレの表情には何ら変化は見受けられず、俺だけが真っ赤になってしまっていてなんだか悔しい。
清涼な風が熱を帯びた頬を撫で水路を吹き抜ける。
ディーレの青く長い髪が風に流され靡き、フワリと花の良い香りが鼻腔を擽る。薄く細められえた切れ長の目から覗く蒼い瞳は、どんな水よりも澄んでいて美しい・・・前世のテレビで見たエメラルドグリーンの海なんて比ではない。
艶やかな唇は当然リップなんて物は使っていない・・・だというのに潤いを帯びており、髪の青に混ざる様にして桜色のそれは見事に映える。
ほっそりとした腕、小さな手でありながらしなやかで長い指、船の縁を撫でる仕草一つ一つが美しい。
長いローブに隠れた脚は、時折吹く風によってほんの一瞬だけ姿を現す・・・その一瞬で現れた脚は、むろんきれいで傷一つもない。
よく小説で見かける白玉のような肌、絹のような肌といった表現はディーレにこそふさわしい。
「何よりも綺麗だ」
だから、自然と声に出てしまったのもまた仕方がないことだろう。
無意識で出てしまったその言葉は語彙力なんて欠片もないし、何よりも・・・って何と比べてるんだって話だ。
ボソッと告げたわけでもない・・・自然と出てしまったのだから、それはしっかりディーレにも届いているし、船番の人にも間違いなく届いているだろう。
「・・・」
ディーレは何も言わずに、フイッと視線をずらして告げる。
「そろそろ、街中に行きたいわ。ちゃんとエスコートしてね?」
「ま、任せろ」
ちょうど近くに船着き場があったようで、船番はゆっくりとそこまで向かう。
船着き場に船をつけて、初めに俺が下りてディーレに手を差し伸べる・・・正直こんなことをする日が来るとは思ってもいなかったけど、今日ばかりは俺の全男力注がねばならない。
ディーレは俺の手を取って、船着き場へと足を進める。
船番の人にありがとうと頭を下げて、ディーレと一緒に街中へと歩みを進めた。
事前にチェックなんてしていないせいで、これからどこへ行こうかなんてことは全く考えていない。
ただ。ディーレの手を取って並んで街中をぶらぶらする・・・手汗がとどまることを知らないようで、ディーレの手を濡らしていく。
さすがに悪いかと手を離そうとしたが、ディーレがギュッと力を強めて手を握ってくる。
どうやら手汗は吹かせてくれないそうで、そんなことをされたら余計に手汗が・・・そろそろスライムだし粘液とか出てきてしまいそうだ。
「いつも一緒にいたのに、こうやって二人で出かけるなんてしたことなかったな」
ボソッと告げる。
いつもディーレがそばにいることは当たり前だったけど、サテラもミリエラも配下もいないなんてことはこれまで一度もなかった。
ディーレは街中をきょろきょろと見回して、興味が向いたものがあれば足を止めてそれをジッと見つめている。
今は人間の姿になっているとは言えばディーレは精霊で、食べ物なんかは食べれないらしい。その代わり匂いやら見た目とかで楽しむのだそうだが、そこら辺の感覚はよくわからない。
因みにディーレが歩いていく道という道にギャラリーが出来上がっていくが、誰もしゃべりかけようとはしない・・・いつもなら、ここで俺の事を完全無視したナンパが入るはずなんだけど、どうやらそんな様子が全くない。
何故だ・・・と周囲を見回してみると、どうやら他の精霊達がディーレに近づかせまいといろいろとしてくれているらしかった。
精霊と契約を交わしていない者はディーレに声をかけようとするたびに、周りから止められている・・・。
「お、俺は声を掛けようと!」
「やめとけって・・・俺達も止められてるんだ。もし精霊に逆らってみろ・・・お前この国で住めなくなるぞ」
あぁ、なるほど。
俺達に近づくと精霊の庇護が受けれない・・・って事か。この国じゃ死活問題どころか、間違いなく暮らしていくことが困難になる。
魔道具や家、その他生活に至るまで殆どに精霊の力が宿っているし、ここで精霊の不興を買えばそれら全てが使えなくなる。最悪、精霊の悪戯が行使されればたまったものじゃないわな。
なんとなくやりすぎ感は否めない。
でも、ディーレとのデートを邪魔されたくなかったしナイス精霊達。
暫く進んでいると、両側に木々が植わった並木道へと変わる。
街の結構端まで来てしまったようで、辺りには先程とは違った様相が顔を覗かせている。
水路を走っていた水も綺麗だったが、街を横切る小さな小川には綺麗な魚が泳いでおり、木に付いた葉っぱが時折吹く風によってざわめき始める様はまさに自然のそれだ。
「精霊がしっかり管理しているのね。木々も水も生きているわ」
「里と比べるとあれだけど、綺麗に整えられてる街並みは良いと思うな」
ディーレは木々や水をじっと見つめ、中々の上機嫌だ。今までは人間の住まう街で、自然なんかはほぼ重視せず、如何に人間が暮らしやすくなるかな街だったからな。
その度に毎回、自然が蔑ろにされてるってご立腹だったし、こういう場所がディーレにとっては居心地が良いし気分が良いのだろう。
すると、木陰からピョコッと小さな精霊が顔を覗かせる。
身体の小ささや内包してる魔力の気配が小さいことから、まだ初級の精霊だろう。
こちらをジッと見つめてくるので、俺も精霊の方を見返すと、慌てたように木陰に身を隠した・・・が、やっぱり気になるようで、チラチラとこちらを見ている。
「貴方は土の精霊ね。どうしたの?」
ディーレは木々に隠れている精霊へと声を掛ける。
精霊は一瞬ビクッとしたが、ディーレの顔を見ると安心した様な表情になる。
『・・・ツヨイセイレイ、ナゼ、ケイヤク?』
「面白かったから」
『オモシロイ?』
「私の姿を見ても、驚かず欲も見せず、まさか初めましてでいきなり名前をつけてくるなんて思わなかったけど」
非常に申し訳ない・・・が後悔はしていない。
『ソレ、オモシロイ?』
「えぇ。スライムなのに、私に見合う者だったわ」
『イマモタノシイ?』
「勿論よ。ちょっと怒った時もあったけど、今は本当に楽しくて幸せよ」
『ケイヤクスル、イイ?』
「しっかり自分を楽しませてくれそうって思ったのなら、着いていきなさい。それ以外は・・・遊んであげなさい」
小さな精霊はニコッと微笑んで木の中へと戻っていった。最後だけディーレの顔が悪い表情に変貌した・・・やりすぎはほどほどにね。悪戯だったりからかったりは精霊の十八番だけど、時折やりすぎて人の人生を狂わすなんてこともあるらしいしな。
そのまま、国と外とを隔てる通用門の前までくる。変わらず門番が外を見張っているが、やはり退屈なのだろうか、門番の欠伸が止まらないでいる。
さすがに外に出るわけにもいかず、国を囲むようにして掘られた堀をに沿って歩いていると、小さな公園のような場所に出る。
こんな辺鄙な場所にあるからか、子供の姿はなく静まり返っているが、しっかり整備はされている様で椅子と小さな噴水がある。
ここまでずっと歩きっぱなしだったし少し休憩を取る事にした。
ディーレと椅子に腰掛け、ふぅと一息つく。
日は既に一番高い場所まで昇っており、暖かな陽気が俺たちを包み込む・・・堀の直ぐ傍に併設されているからか、風通しも良くて休むにはちょうどいい場所だ。
先程まで俺達を・・・ディーレを追っていた魔族達もおらず、周囲は静まり返っている。ワイワイガヤガヤとした街を観光がてらに歩くのもいいけど、こういった場所で寛ぐのもこれまたいいものだ。
収納していた二つのコップを身体の中から取り出すし、一つをディーレに渡す。すると、ディーレが指をくるくると回し、コップには綺麗な水を満たした。
この身体になってから喉が渇いた・・・とかはあんまりない。しかし、配下達は普通に乾くわけでだからこうしていつもコップを携帯している。
あとはディーレの魔法でコップに水を満たしてやるだけだ。
その際に一緒に飲もうかって言うと、嬉しそうな顔をする・・・可愛い。
今回は、俺もディーレも間違いなく飲む必要はないんだけど・・・いつも、配下にやってることをしてほしいとディーレに言われてしまっては仕方ない。
雰囲気だけ味わっていると、ディーレがジッとこちらを見ていることに気づく。
「どうかした?」
「何もないわ。ジッと貴方の顔を見てるだけよ」
「お、落ち着かないんだけどなぁ・・・」
「我慢しなさい」
またまた顔が赤くなり始めるが、幾分か慣れたのか直ぐに冷静に戻ることができた。
こう・・・超絶美人に顔を覗き込まれるなんて事は今までないわけで、正直嬉しいのだけど、恥ずかしさが勝ってしまうぶん彼女いない歴=年齢の自分には厳しい状況だ。
・・・世のカップルというのは毎回こんなことをしているのか。残念ながら免疫も耐性もない俺は精神が持ちそうにない。
そんな事をしていると、辺りが暗くなり始めていることに気付いた。
ずっとディーレの事を考えていたせいか、時間が経つのを忘れてしまっていた・・・考えるのも恥ずかしいな。
「そ、そろそろ戻らないと皆んなが心配するし・・・戻ろっか」
「そうね。充分楽しめたわ」
どうやらご満足いただけたようだ。本当にディーレが満足するようなデートをできているか、内心ひやひやしていたがディーレの表情を見るにかなり楽しめたようだ。
ディーレが椅子から立ち上がる・・・と、長い間座っていたからかフラフラとよろけて、倒れそうになる。
「っと、ディーレさん大丈夫?」
「・・・えぇ、人の姿でいるのはやっぱり疲れるわね」
よろけたディーレを支える。
ディーレは少しビックリしていたようだが、さすがは最上級精霊、全く動じていない。俺は支えたせいで近くなったディーレさんを見るだけで真っ赤になってしまったのに、ディーレは余裕の表情だ・・・少しは恥じらって欲しいな。
ディーレは「少し力を使い過ぎたわ」と、精霊の姿に戻って、俺の中へと帰って来た。
ディーレは人間の姿を保ったままだと、かなり力を消費する。そのままでいるには、ちょっと厳しいのだろう。
因みに、顕現している時は、魔力を一気に放出させることが出きるそうで、威力の高い一撃を繰り出す時に姿を顕すのはそういう理由がある。
ディーレが中へ戻ってくると、ディーレの感情が伝わってくる。
うん・・・本当に楽しかったようで、喜びやら楽しさやらが俺に伝わってきた。
そして、中に帰ってきたいつものディーレと共に宿屋へと帰った。
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side ディーレ
隣に腰かける人の形をしたスライムに目を向ける。
急に現れて私に誓約を掛けたスライムは、私を本当に楽しませてくれた。
精霊として何百年もの間、泉で暮らしてきた私を外へ連れ出した魔族。
戯れのつもりだった。泉の周りに妙な気配をして意識を外へ飛ばしてみると、そこにいたのは自我を持ったスライムがいた。
意思を介し、私が初めて精霊以外の者と言葉を交わしたのはスライムが初めてだった。
すると・・・いきなり私に名前をつけ、誓約を交わしてしまった。
直ぐにはね除けようと思ったけれど、その純粋無垢な姿を見て、散々遊んだ後は捨ててしまおうかと思った。誓約を交わされても、私が強く拒絶すればそれを破ることも不可能ではない・・・いえ、なかった。
けど、ずっと一緒に過ごしていく内に、『ユガ』の中にいることが当たり前になってしまった。
飽きることはなかった。
数百年過ごした冷たく心地の良い泉の底よりも、ユガの中は広く暖かくて、いつのまにかユガの心と繋がっている事に安心感さえ覚えてしまう様になった。
変わり行く景色はいつも私を楽しませた。時にうるさく感じる、周囲の人間と魔族、そしてエルフも心地よく変わっていった。
冷たい水底の世界から一変して、私の視界に広がった世界はとても美しかった。
そして、その場にはいつも・・・笑った顔を向けてくるユガがいた。
配下にばっかり構う事も少しは不満だったけれど、ユガの笑顔を見ることが、ユガの暖かい心の傍に入れることが、ユガの一番近くに居れる事だけが私の幸せになった。
でも、あの日・・・繋がりがどんどん遠くなっていく事に、初めて私は恐怖を覚えた。
悲しくて、怖くて、無力感に苛まれ、どんどんと命の灯火が小さくなるのを・・・一番近くで感じてしまった。
ユガの声が遠ざかる、ユガの身体を巡る力が無くなっていく、ユガの笑顔が失われていく、繋がりが薄れていく。
自分は滅びてもいい、自分がどうなろうといい、ユガを助けることが出きるのなら。
そんな思いが私を支配した。今までずっと一人で生きてきた私が、たった一つの命に感情を強く揺さぶられるなんて、そしてこんなにも不安にさせるなんて・・・。
自分の力の一片に至るまで力を使い果たし、意識を失った。そして、目を覚ました時、ユガが「あ、おはようディーレ」そう私に告げた。
嬉しくて、悲しくて、泣きそうになって、けれどそれを凌駕する怒りが一気に爆発した。
一通り怒った後、私は気付いた。
気づいていなかったのか、気付こうとしなかったのかはわからないけれど。
「私は、ユガの事を・・・」
小さく呟いた言葉は、ユガには届かない。
他愛もない話を交わし、私の笑顔を見たユガが真っ赤になる。
私も余裕を装ってはいるが、正直いっぱいいっぱいだ。
「えぇ。綺麗な水に、綺麗な街並み、後はユガがいるから凄く楽しいわ」
自分の口から出た言葉だというのに、身体の奥底から溢れ出てくる感情を抑え込む。
顔が上気しそうになるのを必死に堪え、魔力を練って水魔法で体温を下げる。
その言葉に真っ赤になるユガを見て、いつもと違う様相を見れた事に、少しだけ嬉しくなる。
「うん。ディーレさんと一緒にいれて本当に嬉しいよ。ずっと一緒にいてくれ」
そんな、事を告げられた。
「ずっと一緒」・・・そんな言葉がユガから出た瞬間に、私は水鏡を前に掲げてユガの顔を写す・・・いえ、自分の顔を隠す。
ユガの方からはユガの顔が見えているけれど、私の顔は映っていないはず・・・水鏡に映る自分の顔は信じられないくらいに赤くなっていた。水の精霊だというのに、その顔は火の精霊の様に赤く、朱く染まっていた。
不意打ちに対処しきれず、顔から漏れ出たそれを隠す為に、私の魔法を総動員して顔の赤みを取る。
水鏡を消したそこには、いつも通りの私の顔がある。
「やっぱり慣れないことはするもんじゃないな・・・」
どうやら、私の顔が赤くなった事はばれていないらしい。
けれど、この雰囲気をずっと維持してしまえば、思い出してまた顔が赤くなってしまうかもしれない。
「何よりも綺麗だ」
その言葉が紡がれた。
とっさに片手を水路の水の中へと入れ、感情の揺れ動きを全て水の中へと流すようにして魔法を練り続ける。
頭の中を空にして、今目の前に座るユガという存在を認識しない様に、気を失ってしまう一歩手前まで魔力を練る。
ここは危険。
この場所にいれば、何れ私は自分を保てなくなってしまう。
「そろそろ、街中に行きたいわ。ちゃんとエスコートしてね?」
「ま、任せろ」
それでも、自分の体が暑くなっていくのを感じて、視線を逸らしてそう告げる。
船は直ぐ側の船着き場に停まり、ユガは私をエスコートして船着場へと足を下ろす。
私はちらりと後ろに振り返り水路を見つめ、はぁと息を吐いてユガの後ろを着いていく。
・・・恐らく、後数分後には水路の一部分が沸騰してしまう事になるだろうけど、ユガには黙っておく事としましょう。
その為に、他の水精霊の子達に魚と人の避難をお願いしておいたから、多分大丈夫だろう。
このまま、後ろを歩いていたら振り返られた拍子に顔が赤くなっていることを見られてしまうかもしれないと、前に出てユガを引っ張っていく。
ユガと手を繋いでいることで自分の手が熱くなっていることが嫌でも理解できる。
どちらとも言えず手汗が滲み出して、私とユガの手を濡らした。
ユガは申し訳なさそうに手を離そうとしてくるけれど・・・恥ずかしいのを押し殺してギュッと握る。
そして、ずっと歩いていくと街の堀へと到着する。
途中で土精霊の子に精霊のなんたるかを教えてあげたけれど、今の自分を見ると戯れに契約してもいいことがあるわと教えてあげればよかったと、少し後悔している。
そして、少し自分が疲れていることに気づく。
船着場から歩いてきた時よりも体が怠い・・・人の形でいることは力の消費が大きい。
近くにあった広場の椅子に腰掛け、いつも配下の子達にしている様にコップを用意してもらい一緒にそれを飲む。
配下の子達の間では、主人と飲んだ飲んでないで信頼度の差がある、と一悶着あったそうだけれど、ユガは知りもしないようね。
一応これで、私もようやく配下の子達と並べたかしら。
じっと、ユガの顔を見る。
出会った時とは全く違ってしまった「人」の姿、でもその奥底に宿る安心する魔力、そして私との繋がりを確かに感じ、嬉しくなってしまう。
自分が自分でないような感覚。
幸せに満ちた時間。
今は私が占有しているという優越感に浸る。
「そ、そろそろ戻らないと皆んなが心配するし・・・戻ろっか」
「そうね。充分楽しめたわ」
時間・・・もう。
一人でいる時はあんなにも経つのが遅かったのに、なんだか一瞬で過ぎた様な気がするわ。
もう少しだけ二人の時間を楽しみたいのだけど・・・仕方ないわね。
立ち上がろうとすると、不意に立ち眩みが襲う・・・少し、力を使いすぎたようで、片足をパッと後ろに引いて回避しようとする。
「っと、ディーレさん大丈夫?」
ユガに支えられる・・・顔の横に座っている時とは違う正面から見るユガの顔。人間からしても魔族からしてもとても美形とは言えないそれは、私からしてみればそれは・・・。
「・・・えぇ、人の姿でいるのはやっぱり疲れるわね」
直ぐにユガの体の中へと戻る。
荒れ狂う感情に蓋をして、鍵をつけて最上級精霊の全力を持ってユガに悟られない様に努める。
今回のデートで、ユガに抱いた気持ちは確信に変わった。
もう、遠慮はしない・・・。
けど、もうデートには誘わないわ。
私の心が持ちそうにないもの。
追伸:
壁が欲しい方は作者まで。
ハーピーの観察日記
1:ハーピー妊娠発覚。
2:ギルド紹介より、大工が派遣されてきました。
3:エリーザ様、アドルフ様、ヴァン様、人間の街へと帰る。
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!