人魔:新たな街へでした!
たくさんのブックマーク・評価ありがとうございます。
次回、新章突入!
次話投稿一週間以内です。
清々しいとはとても言えない天気、ダンジョンがこの街を襲撃してから早くも二週間が経過しようとしていた。
ダンジョンとの死闘によって荒れ果てた街の郊外の復旧・修繕作業は着々と進みつつあるが、まだまだ終わる気配はなく今回の戦闘における被害がどれ程までに凄まじかったがわかる。
俺の配下達が主導しての作業ではあったが、やっぱり人手が少ない中での作業はあまり進まない。
戦闘で怪我をした者は9割、そのうちまともに動けるのが4割であり、皆が皆所々に戦闘の傷跡を残してる状態だ。
というのも、街にある病院はどこもいっぱいで、ポーションの数も足りていなければ医薬品も怪我人に対して量が少なすぎる。
それに畳み掛ける様にして、金がないので高価な医薬品・・・ポーションが買えないって状況が続いている。
そうなれば、軽傷の者は後々に回されて治療もできないのも仕方がない。
アンネさんが、どうにかしようと自分のコネを使って仕入れと値下げを繰り返しているが、需要に追い付けず、値段も変えることのできない状況で参っているようだ。
戦闘に参加した冒険者に賃金が払われたのはいいが、ギルド・城塞都市の両方纏めて金がなく、街に怪我人が溢れているってなわけだ・・・コトヒラがいればどうにかなったかもしれないな。
・・・さて、まぁ、今自分がおかれている状況と言えば、ぐったりとソファーにもたれ掛かっている。
大きなふかふかのソファーに全体重を掛け、疲れを取っている・・・端から見れば、なんてだらしのないと思われても仕方ないけど、ソファーにもたれ掛かっているのは俺だけじゃないから許して欲しい。
そこには、いつもはピンと伸びた耳をヘンニャリとさせている超絶可愛いエルフのミリエラだ。
大きな溜め息を吐きながら、何も話そうとしない・・・いや、話す気力さえないのだろう。
理由?
理由なんて簡単なことだ。
ミリエラが『金色』だから・・・で説明がつくだろう。
この街でミリエラは、今や英雄として扱われている。ダンジョン殺し、金色の戦乙女、白亜の姫君等と呼ばれており、もう収拾がつかなくなってしまった。
ここは、カナード様の邸宅の応接室だが・・・ここまで連れてくるのに一苦労したのだ。
二週間前・・・ギルドに匿われていたミリエラに、最初はなんでこんなところになんて思ったけど、それはギルドを出る間もなく起こったのだ。
ミリエラが外に出た瞬間に、数えるのもバカらしい程の人の波が押し寄せてきた。それらはギルドの冒険者のみならず、この街の住んでいる住民から商人までがギルドに殺到してしまった・・・有名人に群がる大量のファンを彷彿とさせるその惨状に、どうにか事態解決を・・・と目論んだが、勢いが猛烈すぎて俺でさえ止めることができなかった。
「握手してくれ!」
「街を救った英雄に一目会わせて!」
「あんたの強さに惚れ込んだ。弟子にしてくれ!!」
「畑で採れた野菜持っていきな!」
「この街の特産品です! どうぞこれを!」
「あなたに是非、当商会考案のネックレスを!!」
「あなたの艱難辛苦に染まりし、人生を御聞きしたい!」
「その美貌を保つ秘密を教えてほしい!」
「お、お姉さま!!」
「姉御、俺を連れてってくれぇ!!」
「是非、結婚を前提に僕ちんと!!」
もう、訳がわからない・・・聞き分けた声でもこれだけあるというのに、周りからはそれ以上に言葉の雨垂れが発生し続けるのだからもうどうしようもない。
住民、農家、商人、冒険者・・・果ては、吟遊詩人とどこぞの貴族までもがミリエラに群がってきた。
それを振り切る様にギルドから脱出したら・・・ギルドの倍の規模で金色信者が待ち構えていたのだ。
屋根に飛び上がって、ミリエラと逃げようとしたが、それを「あ、逃げちゃった」で済ます程、好奇心とは甘くない。
全員が俺達を追いかけて、大捕物に発展した。
・・・因みに、こうなったのも全部冒険者のせいであり、街の住民をも巻き込んだのは吟遊詩人のせいである。
曰く
白亜の鎧に魅せられし
黄金の御髪を靡かせるは 英雄『金色』の譚
其の刃に光る朱き雫は英雄の涙
遠き地の果て 人の大地 宿命を背負い
災厄の鐘鳴り 救い斯う 弱き者に 御手を差し伸べる
澄んだ眼差し 敵を捉う
振るう刃 山を裂き 地を砕く
厄災の声 しかして 鋒を突きつけ 英雄は行く
金色の怒りし一閃 厄災を容易く絶ち
英雄の涙は 人に祝福を齎さん
・・・はい。
これが、金色を詠った物語だそうです。この詩が吟遊詩人によって歌われたそうで、巷ではこれが大流行になってしまい、其処彼処で歌われているのだそうだ。
そりゃそうか・・・唯のお伽話じゃなくて、この街で実際に起こったことをそのまま物語にして、その『英雄』が目の前に現れでもすれば、あぁなるのも仕方がない。
そして、あのダンジョンを倒したのは誰か?
そう聞けば、全員が『金色』と言ってしまうわけだしなぁ・・・誰も、謎のスライムがあれらをやったとは思わないだろう。
うん・・・だって仕方ないよね。
爆煙で皆んな何にも見えてなかったし、俺が死ぬ気で奴を止めたなんて誰も知らない。そりゃ、名声のある金色があのダンジョンに止めを刺したって思えてしまうだろう。
しかもだ、それに拍車を掛ける様に、追撃が入る、
『英雄の涙は 人に祝福を齎さん』
この、詩の最後なんだが・・・どうやら俺とミリエラが深く関係しているらしい。
最後に俺が奴に挟み込まれて、体力が尽きて気絶した後に事は起こったそうだ。
俺が倒れているのを発見したミリエラが俺に駆け寄って、必死に回復魔法をかけていたそうだ。
その時の俺は人型をしていたそうで、ぐったりしていて身体もボロボロだった。それを治そうと精霊たちとミリエラが必死になって、回復魔法を掛けていて・・・その時には煙も晴れていて冒険者には目撃されていた。
ミリエラを中心に真っ二つに切り裂かれたダンジョンの屍があって、死んだ様にぐったりしている俺に必死に魔法を唱えて額から汗を流したミリエラ。
うん。
まさに『英雄の涙(汗)は 人(俺)に祝福を齎さん』って事になる。
で・・・今も、ちょっとミリエラと外に出ただけでこれだよ。
普通の宿なんかに止まれるわけもなく、ギルドを避難所にしていたが、ギルドに人が殺到して職員が迷惑していた為に、仕方がなくカナード様の邸宅になったわけだ。
まぁ、そんな事はさておこう。
「館の前が、私の就任式以上に凄い事になっているね・・・悔しいね」
「疲れた・・・」
「少し経てばこの騒動も治まるでしょう。ユガがしたんだからちゃんと責任取りなさい」
謎の抵抗心を燃やすカナード様に、厳しい言葉を投げかけてくるサテラ、そしてミリエラとがこの部屋に滞在している。
というのも、そろそろこの街を出ようとしているからだ。
復旧作業も最初はどこから手をつけていいかわからない状況であったが、今は大体の指標や目標が見えている。
観光も、あの双子と配下達に連れ回されながらかなり楽しめた。
そして・・・何よりもあのダンジョンの騒動以来、人間と魔族の関係がかなり進展した。
俺がこの街に来たのはどうすれば魔族と人とが仲良く接する事ができるのかを調べるために来たのだ。ここに来た当初は仲良くというよりかは、触らぬ神に祟りなしとでもいう様に無駄な接触は避けていたが、今では酒場で飲めや歌えやしているし、中にはパーティーを組む者までが出てきていた。
・・・同じ釜の飯を食い、苦労を共にすれば魔族も人も関係がなくなる。
その過程に、ちょっとした手助けさえあれば、より関係が良好になるはずだ。
そして、次の街へ行こうと思い至ったわけだ。
その事を皆んなに相談してみると、特に問題はなかった。
で、最後にカナード様に一言言ってからこの街を離れようという事になった。
・・・・・・・・・まぁ、もう一つの相談があったんだけど、これはまだサテラにも言っていない。
「えぇっと、そろそろこの街を離れるんだったね。もう一度来ることがあれば、私の名前を言えば遣いの者を出して入れるようにするね。金色さんの護衛もこちらで用意するね」
「多分また来ることもあると思うので、宜しくお願いします・・・それと」
「どうしたね?」
カナード様に向き直り、もう一つの相談を口に出そうとする。
が、やはりカナード様に面と向かっては言いにくい・・・けど、このことに関してはカナード様の意見も聞きたかったから、ここまでサテラにも秘密にしていたんだ。
・・・サテラなら、絶対に反対するからね。
「一度・・・『聖都』に行ってみようと思うんです」
「・・・・・・成る程ね」
「ちょ、ちょっとユガ、正気なの!?」
サテラは驚いて俺の顔を覗き込む・・・まぁ、そりゃそうなるだろうな。
カナード様は目を細めて、少しの沈黙の後に頷いてくれたが・・・やっぱり、行ってきていいよという言葉は出てこなかった。
サテラは俺に何かを伝えようとしたが、カナード様が手をあげて喋る準備をしていたので口を噤んだ。
「理由を聞いてもいいかね?」
「この街は『人間』と『魔族』が共存して暮らしている唯一の街です。でも、魔族に対して偏見を持っていない人を選別して入れていますよね? なら・・・・・・魔族に対して偏見を持っている人は、なぜ偏見を持っているのかを知りたいんです」
疑問に思っていたことだ。
なぜ魔族に対して偏見を抱くのか・・・魔族と言っても、ほとんど人間と変わらないし、少し粗野な人格が多いというだけで、そこまで迫害される事はないと思っている。
今まで行った街では魔族も人もどちらかといえばそういう偏見はない・・・といえば、語弊があるかもしれないが、そこまで魔族を毛嫌いしている人を見たことがない。
過去に起きた戦争を引きずっているというのが表立った理由なのはわかるが、それを改善する方法がないのかを知りたいのだ。
その為には、『魔族』と『人間』とをより深く知る必要がある。今までは魔族も人もあまり関係性を持たない街に行ってきたし、カナード様が納めるこの街ははどちらかと言えば人と魔族が比較的良好な関係を持つ街にだ。
なら次は・・・人間と魔族が敵対している場所、魔族が迫害されている場所に行ってみたいと思った。
「君は確か、魔物から魔族になったんだってね。それなら知らないのも無理はないね・・・そうだね」
カナード様は顎に手を当てて、何かを考え込んだ後に人差し指を立ててにこやかに俺に告げた。
「聖都はまだやめておいたほうがいいね。君の理解ではまだあそこは早い気がするね。彼らは『偏見』なんて持っていないしね・・・だから、代わりに君に行ってもらいたい場所があるね」
カナード様はじっとこちらを見ながらそんなことを告げた・・・『偏見なんて持っていない』ってどういうことだと思いながらも、代わりに行ってもらいたい場所に意識を取られて、それ以上そのことを考えることなんてなかった。
「君達には『魔導国:カラドウス』に行って欲しいだよね」
「からどうす?」
「国って言ってもそこまでの大きさはないし、大きさで言えばこの街と同じくらいだね。『魔導国』と呼ばれているけれど、実際は主に魔道具を作っている国だね・・・人間でいう『亜人』に属するドワーフみたいなものと考えればいいね。魔族の領地にひっそりとあるんだけど、実は人間と大きく関わっていてね・・・一度行ってみてほしいね。普通はそこまで行くことはできないんだけど、私が話を通しておくね」
どうやら、魔族の領地にあるらしい国に行って来いというらしい。
理由を聞いてみたけど、「行ってみてからのお楽しみだね」とはぐらかされてしまった。
どうやら、魔族領で作られている魔道具の生産を行っているらしい・・・質は人間が作っているものよりも良い物が多いらしいが、なんせ人口がそんなに多くないそうで魔道具の制作は供給が需要に追いついていないらしい。
一国に3000人くらいしか住んでいないそうだ。
龍人の魔王様から教えてもらったが、魔族領は気安くうろちょろしていい場所ではない。
下手をすれば問答無用で殺されてしまうし、魔王間の・・・所謂国交の問題にもなりかねないのだそうだ。
人間の街の様に身分を証明できれば何処へでもホイホイと行けると言う事はなく、魔族の領では基本的に生まれた場所に一生涯住み着くものが殆どで、どこかに旅に出たりする方が珍しいらしい。
例外としては誰かの了承・・・特に、領へ入るのであれば、その領を統括する魔王以下幹部に了承を得なければいけない。
今回は、カナード様が掛け合ってくれるそうなので、恐らく大丈夫だろう。
サテラは安心したとため息をついていr・・・あ、こりゃ後で俺お説教だな。すっごい怖い目つきでこちらを睨んでいるサテラが物理的な殺気を持ってこちらを睨みつけてくる。
と、兎にも角にも俺達は『魔導国:カラドウス』に向かう事となった。
-------------------------------------------------・・・
side カナード
薄暗い部屋の中、血の様に赤いワインを片手に愉しむ。
いつもながら優雅な生活を送れているものだとは思うが、その点においては『アレ』に感謝しなくてはならない。
「・・・さて、今頃彼らは魔導国へ向かっているだろうね」
つい1日前に旅立った彼らのことを思い返し、自然と笑みがこぼれる。
自分が何年掛けても進展させることができなかった『人』と『魔族』の関係を、彼らはいとも容易く進展させてしまった。
どちらも平等に扱えば、どちらともから不平や不満が募る・・・一方に肩入れすれば、どちらかに不平と不満がより多く募ってしまう。
領主という立場で強権を振り翳す事もできるのだろうが、この街でそんなことをして仕舞えば、私という存在のせいでこの街は崩壊することは間違いない。
最近は特に聖都の動きが活発になり面倒ごとも増えてしまうようになった・・・人間と魔族の関係も悪い方向へ流れつつあり、参っていたところだったけれど、まさか突然の闖入者がここまでしてくれるとは。
さすが、帝国の王と言えたところか。
「カナード」
「あぁ、どうしたね」
「はぁ・・・一体ぬしがどう考えているのかは皆目検討もつかぬ。だが・・・彼らをあまり使うではない」
そこには古くからの・・・あぁ600年くらいの付き合いになるであろう龍人の魔王の姿がある。
私はこの魔王にだけは頭が上がらない。この魔王には大きな借りがある・・・それはいくら償っても償いきれないであろう借りだ。
「彼らには可能性があるね。人と魔族を繋げる事ができると・・・私は考えているね」
「その逆も然り・・・それを忘れているわけではあるまい? だからこそ、聖都に行かせるのを阻んだのであろう?」
「・・・・・・・・・否定はできないね」
彼ら・・・いや、彼の力は魔王の欠片たらん力を秘めているのは、もう知っている。私とこの魔王、そして『もう一人』彼の力を初めに見つけ出した者がいる。
「まぁ、まだ詰めは甘い。考えも甘い。どれもが、中途半端ではあるが、あれの多様性を思うのもわかるがな」
「・・・このまま、彼らには魔族と人間の未来を築き上げて欲しいのだけれどね」
「他の魔王が黙っていないだろう。まさかとは思うが・・・トリガーを引く気ではなかろうな?」
「まさか、そんなことは思っていないね。願わくば、このままでいてほしいね」
龍人の魔王が窓の外に目を向けて一つ長い溜息を吐くと、此方にジッと目を向ける。
「お前もそろそろ、表に立たないのか?」
「・・・今は」
「お前の力量であれば、どんな領であっても統治することができる・・・まして、あそこは今」
「まだいいね」
ジロリと龍人の魔王へ目を向ける。
その話をはこれ以上したくないというように気を込めて睨めば、ハァとまた溜息を吐いて、窓の外に目向ける。
「あの領地で発生した『ダンジョン』を一撃で粉砕し・・・帰ってくるなり、彼を取り込もうとするダンジョンまでもを片付けるほどの実力を秘めたお前が、魔王でないとは実に嘆かわしいな」
「私は、『必要性』を感じていないだけだね。その時が来れば、私も動くことになるね」
そう告げて、しばしの沈黙が訪れる。
ダンジョンに自分の街が襲われていて・・・その場に私がいなかったのなら、今頃私はこの町の領主をやってはいないだろう。
私はダンジョンがこの街を襲った日、自分はここにおらず別の場所で発生したダンジョンの始末を行っていた。
そのために自分の領地に戻ることが遅れ、ダンジョンに街が襲われているであろうことを覚悟していた。
だがそうではなかった・・・彼らが全力を出してダンジョンを止め、この街を守ってくれていた。なんの関係もないであろう彼らが、自らの命をかけて守るとは思ってもいなかったのだ。
・・・彼は私の到着があと少しでも遅れていれば、ダンジョンに取り込まれ死んでいたであろう。
そして、彼らはこの街を守っただけではない。
人と魔族の垣根を取り払い、私が実現を試みた人と魔族の共存を物にしてみせたのだ・・・ダンジョンという不確定要素があったにしろ、それをものにすることなど常人にできることではない。
大きな借りができてしまったな・・・どうやら、自分は返し難い借りを作るのがうまいようだ。
彼には素質がある・・・人と魔族を導く素質が。
だが、今の彼はまだ未熟だ。
何も知らない赤子も同然であり、もしも『トリガー』を引くようなことがあれば、あれは暴走しかねない。
だが、私達にできることなどたかがしれいているし、これから先は彼自身が歩んで行く道となるだろう。
それが荊となるか、光溢れる道になるかは彼自身だが・・・。
まぁ・・・できうる限りの力を貸そうではないか。
この私
ヴェズモンド・カナード・カーミライル
吸血鬼の第二魔王がね。
窓の外へと視線を移し、口元に笑みを浮かべた。
ハーピーの観察日記
1:魔力共鳴による森の魔物の狂暴化の鎮圧に成功。
2:けが人多数、死者0
3:早馬の文が届く・・・主が帰ってくる。
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!