人魔:討伐後でした!
たくさんのブックマークありがとうございます。
決着、そして・・・。
次話投稿一週間以内です。
真っ暗な闇の中、ひたすらに前を進んで行く。
闇の中は時おり赤く光ったり、青くなったりと不規則にその様相を変化させていく。そんな不規則に変化する闇を進み、小さな・・・いや、大きな空間に出る。
闇の中であるのに、どうして『大きな空間』だとわかったのかは定かではないが、確かにそこが大きな空間であるということが何となくわかる。
そして・・・その空間の地面?に足が着いた瞬間、自分の心、そして身体の奥底から途轍もない脱力感と虚しさが込み上げてくる。
おおよそ立ってなどいられない筈のそれに、何故だか抗おうとする自分がいることに驚く。
そのまま床に横たわって寝ている方が楽なのに、何故自分がこうも無理をするのかがわからない。
そして、徐々に空間が色味を帯びてくる。
だがそれは決して明るい色でない事を俺は知っているし、今思い出したところだ。
あぁ、これはいつもの夢か。
人間だった頃に見ていた何の脈絡もない妙な夢。起きればいつもはっきりと覚えている不思議な夢だ。
周りからは、アニメの見すぎだ、ゲームのやりすぎだと言われていたが、自分は何となくそうは思えなかった。
だって、この夢の世界だけは、いつも変わることがなく決まってそのあらましを覚えているのだから。
気分の悪くなる虚脱感と、聴きたくもないのに無理矢理耳に飛び込んでくる数多の叫び声。
そして、目を焼くほどの閃光が周囲を覆い隠した瞬間、その光景はいつもと代わり映えもなく俺の目に写し出された。
人と魔物が入り交じって壮絶な戦いを繰り返す大規模な戦場・・・人の感情がない混ぜになって、濁流のように駆けて行く戦場を俺はただただ俯瞰している。
声を出そうにも、手足を動かそうにも感覚はなく、一切の行動がとれない。さっきまで前へ前へと進んでいた筈の足が鉛を含んだ様に一歩たりとも動かない。
次々と倒れていく人と魔物、生命の誕生を愛でる筈の大地がドンドンと赤黒く染まっていき、空は暗雲が立ち込めされど雨粒は一向に大地へと降りてこようとはしない。空を彩るのは生物から噴き出した血飛沫か汗のみだ。
・・・やがて、恨みや辛みが奔流となって俺を苛む。
頭の中に一気に流れ込んでくる怨恨や憤りが、呪詛となって俺の体を蝕み、突如としてして襲い来る頭の猛烈な痛みに悶える事になる。
そして、聞こえる。
視界をノイズが走り始め、そのノイズの向こう側から何者かの声が響き渡る・・・脳内に直接語り掛けて来る様な不快感と共に訪れたそれは、いつもであれば夢の終わりを告げる合図であった。
だが、その声はいつもより長く、そして・・・ノイズの奥深く、そこに誰かが佇んで居るような錯覚に囚われる。ノイズに包まれたような不定形のそれは人を模しているのか魔物を模しているのかわからず、その形を異様なまでに次々と違ったものに変化させる。
やがて、その『誰か』がゆっくりと此方へ視線?を向けると、ゆっくりと細長いノイズを己の体から延ばして、ノイズに半ば飲み込まれた戦場を指挿している。
いつもの怒号が響いているはずの戦場はノイズの雑音によってかき消され、人々の姿もはっきりと見えない中で・・・それは、訪れた。
一瞬、ほんの一瞬。
俺は、何かと目が合った。
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パッと目を開ける。
ぼやけた視界の中で、自分がどういう状況に置かれているかを把握できずにいる。
どうやら、仰向けに寝かされている・・・と言うことだけはわかるんだけど、ここがどこだか全く見覚えがないし、そもそもなんで寝かされているのかもわからない。
「知らない天井だ・・・」
取り敢えずお決まりの台詞を口にしたところで、どんどんと意識が鮮明になってゆく。
微睡みの快楽にどっぷり使っていた意識を無理矢理引き起こし、自分にあの後いったい何が起こったのかを思い出す。
・・・確か、ミリエラと一緒に居て、南側の通用門側の防衛線を築き上げたよな?
んで、ダンジョンが反応にあったから向かって、戦って・・・・・・・・・ッ!?
そう言えばあの後、フゲンがやられて・・・それで、急に感情が抑えれなくなってダンジョンに突撃したんだ。
それで、一撃で真っ二つにしたけどまだ死んでなくて、俺はダンジョンに取り込まれそうになったんだ。
・・・その後の記憶はない。
ってことは、つまり俺って死んだ?
まじか・・・死んだ先は天国でもなんでもなくて、知らない天井ってそんなのないよ。
せめて、ハルウ達の尻尾毛布とミリエラ膝枕で頭をヨシヨシして貰う天国がよかったなぁ。
そんなことを考えながら涙を流していると、不意に視界が陰り何かが俺を覗き込んでいるのがわかった。
誰だ?ともう一度目を開けてみると、そこには見知った顔があった。
「やっと目を覚ましたね。気分はどうだね?」
「あ、えっと・・・カナード様?」
銀色の長い髪の奥にエメラルドグリーンの瞳をした美男子・・・そこにはカナード様の姿があった。
カナード様は布団を捲ると、俺の身体をじっと眺めじっと眺め、もう大丈夫と告げてもう一度布団をかけた。
「まだ力が入らないだろうから、じっとしておくんだね」
「死んでなかったんだ・・・」
「私の領都で死んで欲しくはないね。死んだとしてもこんな部屋はごめんだね。メイドの娘に膝枕されながら、胸布団と子守唄セットの天国じゃないと嫌だね」
俺の考えていた天国と一致・・・いや、少し欲望をプラスした天国像を持っていた事に若干驚きを感じながらも、そんなことはどうでもいいとカナード様にどうなったのかを聞く。
「えっと・・・どうなったんですかね?」
「報告では君が身を呈してダンジョンを討伐したって聞いてるね。ダンジョンの死骸もしっかり確認しているね」
え・・・あれ?
でも、俺って最後にダンジョンにやられそうになった筈だ。真っ二つにしてもまだ生きてて、俺を取り込もうとしていた筈だ。
それに俺も抵抗しようとしたけど、何故か身体に力が入らなくてどうしようもなかった。
意識もどんどんと薄れていって、目の前が真っ暗になって・・・さっき目が覚めたらここにいたんだ。
それをカナード様に告げると・・・カナード様はなにかを考え込んで、人差し指を立てる。
「たぶんだけど、悪足掻きだったんじゃないかね? 結局はダンジョンも最後の力を振り絞ったけれど、根性が足りなくて取り込む前に死んじゃったんじゃないかね? 現に君はここにいるし、ダンジョンも死んでいたわけだね」
うーん、まぁ、そう考えれば全部辻褄が合う気もするんだけど、どうにも腑に落ちないのは何故だろうか。
何か忘れているような気がするんだけど、さっきからそれがどうしても思い出せないでいる。
「あぁ、そうそう、悪いとは思ったけど、君の配下に後片付けを手伝って貰っているね。ダンジョンとの戦闘で随分と被害を受けたからね・・・怪我人も数え切れない程出ているし、外壁も崩れたし、残骸も散乱していたりで目も当てられなかったね。サテラって娘が今は指揮を取ってくれているよ」
どうやら、ダンジョンの後始末をサテラ達がやってくれているらしい。
配下達は俺が目覚めるまでここにいると最後まで言い張っていたらしいが、「片付けを頑張ってくれた配下には、ユガも褒めてくれるだろうね」と言い放ったサテラさんにほいほいとついていったそうだ・・・単純だ、しかし、可愛い。
あの戦闘における惨状はかなり凄かったらしい。城塞都市の城塞が一部損壊していたり、通用門の至る所にヒビが入っていたり・・・。
一番ひどかったのは城塞都市に至るまでの『道』であったらしい。ダンジョンが現れて捲れ上がった地面の補修作業、ダンジョンの攻撃によって吹き散らかされた防衛線の残骸や大きな石や岩、土塊などが城門前に散乱している状況であったらしい。
怪我人は、負傷者数百名、重症者数名・・・死者は奇跡的に0だったらしい。
一番気になったのは・・・
「あ、あの、フゲンは大丈夫なんですか」
「・・・あの子はね」
カナード様が急に沈んだ顔をする・・・その瞬間、心臓が早鐘を打ち鳴らし、まさかという恐怖が湧いて出る。
「ずっと、俺のせいだって、部屋の前でうずくまっていてね。ヨウキって娘と一緒に並んで落ち込んでいたね。この私でさえ、励ますことができないくらいに落ち込んでいたよ。あ、怪我なら、ミリエラって娘がすぐに回復魔法を使ったとかなんとかで、大したことはなかったよ。あぁ、それと君の精霊達だけど、君をどうにかして治そうと必死で魔力を使って疲弊していたから、ちょっとの間は君に思念を飛ばしたりすることができないと思うね」
よ・・・よかった。
これで、もしも死んでいたら・・・俺は一生後悔していた筈だ。
それに、さっきからディーレさん達が黙っていると思ったら、どうやら必死に俺の怪我を治そうとしていたらしく、力を使い切ってしまって休眠しているらしい。
少しすれば俺の魔力を補充して、話しかけてくれるだろう・・・っていうか、カナード様は妖精が見えたのか。
まぁそれはさておき、二人は・・・落ち込んでるだけならいいや、二人とも後で慰めておけばいい。
「あぁ、そうそう一応聞いておきたいんだが、君があのダンジョンを倒したってことでいいんだね?」
「あまり実感はありませんが・・・恐らくは」
「一応調査したんだけどね。あのダンジョンは亜種だったみたいだね」
亜種?
いったいどういうことなのかをカナード様に聞いてみると、昔に出現したダンジョンとは『一部』違ったそうだ。
と言うのも、大昔に現れたダンジョンというのは山一つと見紛うくらいの巨大な魔物であり、大量の魔物を使役していたとされているらしい。
それは既に聞いていたし、知っていたけど・・・。
今回地中から姿を現したダンジョンは巨大ではあれど山一つというには大きくなく、少し大きめのマンションくらいの大きさだ。一度バカデカイ攻撃を放った後に俺達が駆けつけて一撃加えた後は、ドロドロと溶け始めて小さくなっちゃってたしな。
とは言ったものの、強さに関しては今まで出会った魔物の中で一番であったのは間違いない。
攻撃は単調だったけど、俺の身体に風穴を開けるわ痛みを感じさせるわで、無事じゃすまないことは覚悟していた。
そして、他の魔物と比べて何が凄いって耐久力だ・・・配下全員のエクストラスキルを喰らって死なないなんておかしいにも程がある。
俺の一撃を喰らってもまだ俺を吸収しようとしていたみたいだし、そのタフさだけは抜きん出ていた。
「報告によれば、知らず識らずの内にダンジョンコアを持って出たらしいね。ダンジョンコアはダンジョンの魔力を溜める場所であり、送り込む場所・・・つまりは心臓と一緒の働きをするね。通常ならダンジョンコアを抜かれればダンジョンは崩壊するけれど、魔力共鳴で一部のダンジョンと繋がって、魔力が過剰供給されてアンデッド化したね」
カナード様はそこで一旦言葉を区切り、俺の目をじっと見つめる。
「君がダンジョンコアを取っていなかったら、史実に乗っている通りの・・・魔王でさえ手を焼く化け物が誕生しただろうね。恐らく、ダンジョンが小さくなったのも、そこまで大きくなれなかったのもダンジョンコアがなかったからだと私は推測するね」
・・・成る程。
ダンジョンコアは心臓として働くそうで、魔力を供給する・・・つまりはダンジョンとして『力を発揮』し、『生きるため』の役割を果たしていた。
そのコアに、魔力が過剰供給されていたのなら、今頃俺は生きてこの場にいなかったのは間違いない。
コアがなかったから、あいつはそこまで大きくなれずに・・・城塞都市に向かって放たれた一撃で力を使ってしまって小さくならざるを得なかったって事なんだろう。
あいつが小さくなったのは燃費を抑えるためって思ったほうがわかりやすいな。
「・・・そこで君に謝罪をしなければならないね。本来であればこの街を守らなければいけないのは私だからね。不在にしていて悪かった・・・剰え、君達の様な無関係な冒険者にまで迷惑を掛けてしまったね・・・すまないね」
「いえいえ、ただ自分の身を守っただけですし、カナード様に頭を下げられることでもないですよ!!」
カナード様は俺に向かって頭を深々と下げる。
自分に変わって街を守った俺たちに謝罪したいってことみたいだけど、正直俺が逃げれる立場であるのなら、多分早々に逃げていた・・・いや、逃げないか。なんやかんやで残りそうだな。
カナード様は数秒頭を下げた後に頭を上げ、告げる。
「もし、君達に何かがあったら私を訪ねるといいね。魔族は粗野で乱暴だけど、一度受けた恩は必ず返すね」
「・・・その時は、またお願いします」
カナード様にそう告げると、カナード様は「長居しすぎたね。そろそろ行くね」と言って、部屋を後にしていった。
別れ際に皆がどこで作業をしているのかを聞くと、みんながいる場所を記した紙を渡されたから、それを見ながら皆を探そうとしたのだが・・・。
うん。探そうとしたら、妙なことがそこには書いてあったのだ。
「・・・『ミリエラ(金色):ギルドにて保護』? どういうこと?」
ハーピーの観察日記
1:次話再開
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!