人魔:『ダンジョン』②でした!
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主人公・・・悪巧み始動?
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side 女魔族冒険者
この町の冒険者であれば誰もが知る見慣れた掲示板に、他の依頼を覆う様にしてデカデカと張り出された依頼用紙には『緊急依頼』の文字が書かれている。
その依頼用紙に一通り目を通した冒険者達は皆が皆頭を抱え、低ランクのものたちは見なかったことにしようと逃げ出そうとする始末である。
それほどまでに緊急依頼として張り出されたそれは厄介なものなのだ。命の危険は勿論の事、放っておけばこの城塞都市の陥落さえもあり得る内容なのだ。
この依頼用紙を見たが最後、私達冒険者に選択権というものは消え失せているも同然だ・・・いや、見ていなくてもこの依頼には自然と従う羽目になるのだろうが・・・。
「逃げるな・・・この依頼を見た時点で、俺達の運命はこの依頼を遂行しなければならない事になっている」
逃げ出した低ランク冒険者の首根っこを掴み、ギルド館内に引きずるようにして連れ戻す一人の魔族・・・それと同時に、ギルド館内の門扉をぞろぞろと街の高ランク冒険者達が流れ込んできた。
「よう、姉御!! ちゃんと連れてきたぜ!!!」
「うるさいね! もうちょっと静かにできないのかい!!」
姉御と呼ばれて返事を返す・・・昔は姉御と呼ばれる度にぶっ飛ばしていたもんだけど、慣れというものは怖いもんでもうそれを許容してしまった。今では、ここの冒険者の全員がウチの事を姉御と呼び出すんだからもう収拾はつかなくなってしまったのだけど・・・。
それはさておき、ウチの事を真っ先に姉御と呼んだこの男はウチのパーティーメンバーである虎爪人の『メガロ』だ。
見た目はまんま二足歩行の虎であり、身の丈は2mを超えている筈のウチよりも高く、身体中を鋼の様な筋肉でコーティングしている魔族だ。腕を一振りすれば太い木の枝でも一撃で薙ぎ倒してしまえる程で有り、その手に生えている鋭い爪も合わされば、そこいらに売られている鉄製の剣が馬鹿らしく感じるくらいの鋭利な刃物となる。
・・・が、考えなしなうえに脳みそまで筋肉で出来ているせいで、頭の悪さは
メガロは夜な夜な繁華街に繰り出しては、酒場で浴びる様に酒を煽っているおかげで顔がとてつもなく広い。今回もその無駄に広い顔を利用して、街中の高ランク冒険者共をギルドに呼び出すようにウチが命令したのだ。
「話は軽く聞いていたが・・・夢であって欲しかったぜ」
「こうなった以上、あんた達にも力を貸してもらわなけりゃならないんだ。ウチらと一緒に前線で戦ってもらうよ」
「『狂牛の銀斧』の姉さんが戦ってくれるのであれば、俺達も少しは楽になるってもんかね」
「馬鹿言ってないで、早く準備しな!!」
無限に湧いて出てくる軽口を切って捨てて、ヘラヘラと笑っている冒険者達に一喝する。
『狂牛の銀斧』・・・このギルド唯一のAランク冒険者パーティー『煌角の皇』のリーダー、戦牛人の『メフィ』の二つ名であり、ウチの不名誉な二つ名である。
と言っても、つい最近Aランク冒険者になったばかりであり、
「メフィ・・・魔法薬をありったけ持ってきたけど、これを配ればいいのかい?」
「そうだね。今回の戦いは普通じゃないからね・・・特に低ランク冒険者を中心に回しな」
いつの間にかウチの傍に立って、ポーションの瓶をくるくる回しているのはウチのもう一人のパーティーメンバー、蛇人族の『マネィ』だ。見た目はヒョロヒョロでありひ弱ではあるが、ウチやメガロなんかとは大違いだが、それもそのはず・・・マネィは魔法が扱えるため、魔法を主体とした戦闘を行うからだ。
ウチらが前衛を務めている間、マネィが補助魔法を扱いウチらの戦闘を援護する。マネィは攻撃魔法を行使する事はできず、補助魔法のみ行使することができる・・・その補助魔法はかなり有用なもので、ウチらには欠かせない存在だ。
マネィは魔法を行使する職業柄、街の道具屋の連中に顔が知れている。今回の戦闘でギルドもかなりの数のポーションやらの魔法道具を買ってはいるが、それでも心許ないだろう・・・その分はウチら高ランク冒険者でまかわなければならない。
そうなれば、マネィのコネで少しでも魔法道具を安く仕入れる事ができるであろうから、それを頼んでおいたのだ。
「まさか・・・氾濫だなんてね」
「ウチは6年前に一回経験があるけどね。かなり凄惨だったよ」
その時の光景を思い出す・・・ダンジョンから止めどなく溢れ出す魔物の群れ、幾重にも築いた防衛戦が突破されて逃げ遅れた冒険者から魔物の餌に成り果てていく。
当時低ランク冒険者であった自分が見た光景は凄惨そのものであった・・・魔物と魔族が入り乱れた屍の群れと火の海と化したダンジョンが脳裏を過る。
と、そんなことを考えた時、ギルド館内の奥からひとりの魔族が姿を表す・・・それはこの場にいる誰もが知っている魔族であった。
「ギルドマスターのオズモンドだ。今回発布された緊急依頼の件はすでに貴殿らに伝わっている事と思う」
その鋭い眼光に冒険者達全員が息を飲み、話を止める。
その威圧感は現役の頃から衰えを知らない・・・『睥睨せし厳羊』の二つ名を持つ元Sランク冒険者。依頼で負った怪我から一線を退いたと聞いたが、その存在感や威圧感はSランクのそれである。
「緊急依頼に変更点がある。今回の依頼であるが、氾濫ではなく・・・ダンジョンのアンデッド化の恐れがある」
その一言にギルド館内の全ての冒険者が言葉を失くし、驚愕の表情のまま固まってしまった。
ダンジョンのアンデッド・・・思いもしなかったその言葉に、私を含め全ての冒険者の額からは冷や汗が溢れ出し、その異常性と凶悪性に高ランク冒険者の息が止まる。
低ランク冒険者達はダンジョンのアンデッド化とは一体何なのかを知らず、オロオロしたまま私達とギルドマスターの顔を見返している。
冗談であってほしいという感情と、どうするのかという思いがごちゃ混ぜになり・・・一切の思考回路が停止し、続くギルドマスターの言葉に耳を傾けることしかできない。
「ダンジョンのアンデッド化はカナード様の進言であり、氾濫と思われた位置のダンジョンの消失、哨戒に当たらしていた私兵の全滅、今回の魔力共鳴のダンジョンの異常から見ても間違いはないだろう・・・低ランクの諸君にも簡単に説明しておこう・・・」
ギルドマスターから紡がれる言葉に、低ランクの冒険者たちはみるみる内に顔を青褪めさせていく。そりゃそうだ・・・Aランクのウチらですらなんの考えも浮かばず、驚愕するしかできずにいるのだから、それが低ランク冒険者ともなれば恐怖するしかなくなるだろう。
どう考えても戦力不足、この街の全ての冒険者達を集めたところで全滅は必至・・・もはやそれは討伐や防衛でなく、『戦争』という名の戦闘になるだろう。
「以上だ」
ギルドマスターの言葉が言い終わった直後、裏手から続々とギルド職員が飛び出し依頼書を全て回収し、掲示板に張り出されていた緊急依頼を剥がし、新たに作られた緊急依頼を張り出した。
『ギルド緊急依頼:ダンジョンの討伐』
その張り紙を呆然と見上げ・・・ギルドマスターの言葉が紡がれる。
「私が全体指揮を行い、陣頭指揮を『煌角の皇』に託す」
ウチらが陣頭指揮か・・・光栄な事だが、どう考えてもアンデッド化したダンジョンを制圧する指揮なんぞとれる筈もなく、ウチが直々に出張ったところで返り討ちに合うのが関の山だ。
お国柄援軍すら期待できず、ウチら冒険者のみでダンジョンを相手取る・・・笑えない冗談だ。
「本気で言っているのかい? 正直この街を放棄して逃げ出す算段を取る方が良いと思うけどね」
「・・・何も考え無しと言うことではない。その為に助っ人も呼んだのでな」
助っ人、その言葉に誰もが首を傾げる。この国と友好を結んでいる国はない・・・それは誰もが知る事実だ。
人間の住まう世界からは、聖都がこの国を敵視している事によって友好を結べはしない。ウチら魔族の世界では、まず他の国に肩入れすることはまず無いと言ってもいい・・・だと言うのに、助っ人とはいったい誰の事だ?
非公式であるが、友好を結んでいる竜人達が一番の線ではあるが、噂ではつい先日あちらでも同様の事態が起きたと聞いている。
では・・・。
いったい誰なんだ、とギルドにいる全ての冒険者が頭に疑問符を浮かべている時にそれはギルドの門扉を開けて現れた。
「紹介しよう。人間の国から先日来訪したAランク冒険者パーティー『ユルバーレ』だ」
たった今ギルドに入ってきた者を見て、皆がポカンと口を開けたまま止まっている。無論、例外なくそれに私も含まれている。
そんな間抜け面を晒すのも無理はないだろう・・・ギルドマスターともあろう者が助っ人を呼んだと言うのだから、身の丈5m程の化け物の様な冒険者、または賢者の様な叡智を宿している様な冒険者を想像していたというのに、そこに入ってきたのは一見すれば見目がいいだけの普通の冒険者のパーティーだ。
いや、普通とはいったもののこの街では同種の魔族を見たことはないし、異様ではあるのか。
額から二本の角を生やした私と同じくらいの身長の魔族・・・胡乱げな目をして、ヘアースタイルに一切気も配っていないようなざんばらな長い髪、しかし見目は非常に整っておりギルド内にいる男の冒険者を虜にしている・・・ふくよかな胸は、戦牛族のウチとためを張れる程に大きく、何故か悔しさが込み上がってくる。
ただ、見目や胸に目が行きがちではあるが、少し閉じられた拳は硬く、豆が出来て潰れた跡がいくつも確認できる。相当な鍛錬を積んできている証だ。
そしてもう片方には、長い反りの入った剣・・・確か刀?と言ったか。竜人がよく使っているそれを帯刀し、ギルド館内の冒険者に一切目もくれずギルドマスターだけを見据えて歩いている。
・・・その様子に、幾人かの冒険者が身動ぎする。それもそうだろう・・・一度も目を合わされないと言うその態度からは、小物には興味がないと言う意思がハッキリと伺い取れるのだから。
男の魔族は切れ長の瞳に非常に整った顔立ち・・・女であれば誰もがかっこいいと呟いてしまうだろう。体のラインからして相当鍛えていることがわかり、無駄な筋肉の一切がなく絞れるだけ絞り、付けれる分だけ付けたという生粋の武人の身体つきだ。
そしてその中央に白いローブを着ているのは・・・ローブに隠れていてよく見えないが、金色の髪を靡かせたおそらく女。華奢な体つきであり、両側に立つ二人を見れば見劣りする気もするが、魔法使い・・・なのか?
「我々の協力が必要と聞いて馳せ参じた」
「ご協力痛み入る。改めて紹介させてもらおう・・・Aランク冒険者パーティー『ユルバーレ』だ。ここにいるものが知っているかどうかはわからんが、『金色』の二つ名で呼ばれている」
その言葉に、ギルド内にいた『人間』の冒険者がザワザワと騒ぎ始める。
「一体あのパーティーは何なんだい?」
「あ、あぁ、姉御・・・人間の街でつい最近頭角を現したパーティーだよ。噂じゃアンデッドベヒーモスを一撃で倒したとか、ダンジョンの氾濫で出てきた地龍と一対一で打ち倒したとか」
それを聞いて眉を顰める・・・恐らく噂に尾ひれがついているのだろう。
とてもではないが、アンデッドベヒーモスを一撃で倒すなんて、ましてや地龍を一人で倒せる冒険者なんている筈がない。
アンデッドベヒーモスはBランク冒険者パーティーが複数集まって漸く倒せる様な相手だ・・・Aランク冒険者であれば倒せるだろうが、それを一撃なんて眉唾もいい所だ。それこそ、地龍に対して一対一で挑んだなんて無謀どころか自殺行為でしかない。
・・・と、考えているのだが、ギルドマスターが推薦した人物なのだ。あながち間違いではないだろう・・・噂は行き過ぎであれど、その噂は当たらずも遠からずであり、その力量は目を見張るものがあるのだろう。
だがしかし、相手はアンデッドダンジョンなのだ。Aランクパーティーが一つ増えた所で、彼我の戦力は変わらないも同然だ。
全滅が少し遠退いたくらいで、さほど変わりはない・・・。
「『煌角の皇』と同様に『ユルバーレ』に陣頭指揮を取って貰う。左方と右方で別れてもらう予定だが」
「・・・必要はねぇよ。俺ら『煌角の皇』だけで充分だ」
ギルドマスターが陣頭指揮をウチらと『ユルバーレ』に与え、これから展開する作戦を告げようとした直後、聞きなれた馬鹿の声がギルドマスターの声を遮る。
その瞬間、ユルバーレの冒険者パーティーは声がした方向へと目を向け、そこに立っている馬鹿へと視線を向ける。
「お前らが誰だか知ったこっちゃねぇが、このギルドで大きな顔すんじゃねぇよ」
聞きなれた声の正体は予想通り・・・額に青筋を浮かべたメガロであった。それに帯刀した魔族はメガロへと視線を向け、その言葉に続けて言い返す。
「お前達の力量では力不足だ。我々の力を拒めば、容易に全滅するだけだ」
「てめぇ・・・言うじゃねぇか」
メガロが周囲の制止を振り切り、帯刀した魔族の前へと躍り出る。
完全に頭に血が上っており額には青筋が浮かんでいる。あぁなってしまったら気絶でもさせない限りあいつは止まらない。
「頭に乗るのも大概にしやがれ!!」
「お前が『煌角の皇』か? ならば言わせて貰おう・・・お前達では役不足だ。無駄死にするくらいなら下がっていろ」
「テメェ!!」
帯刀した魔族が言い切るや否や、メガロの豪腕が振りかざされる。
帯刀した魔族もそれに瞬時に反応して腰の刀に手を掛けている。
ドゴンッ!!!!
と鈍い音が響くと同時に、そこに広がる光景に誰もが愕然とする。
「やめて」
「コクヨウもぉ、抑えてぇ」
片方に立っていた角を生やした女魔族は帯刀していた魔族の刀の柄に手を添えて、抜刀を抑えている。
帯刀した魔族・・・コクヨウと呼ばれた魔族はバツが悪そうな表情で顔を背け、女魔族はニコニコと笑っている。
「チッ・・・クソッ!?」
だが、一番異様なのはその前で繰り広げられているそれだろう。身長が人一人分も違うのではないかと思われるほどに差が開いているローブを着た女が、振り下ろされたメガロの腕を片手で掴んで制止させているのだ。
メガロは困惑しながらも掴まれた手を振りほどこうと力を入れるが、腕を掴んだ女の手はいっこうに離れる気配がない。
冒険者達が唖然とするのも尤もだ・・・どうみてもメガロよりも遥かに細っこい女が大砲の様に太い腕を掴み、それを振りほどこうとしてもほどけず躍起になるなんて異常のなにものでもない。
「て、てっめぇ、ガッッッ!?!?」
「いい加減にしな! このポンコツ!!」
そろそろ収拾をつけようと床を蹴って跳躍し、メガロの後ろから全力の手刀を放ち昏倒させる。
こうでもしないとこのバカは止まらないんだから仕方がない。
「ウチの者がすまない事をした。許して欲しい」
くたばったバカを肩に背負い、目の前に立つ女へと視線を向ける相変わらずローブを目深に被っているせいで顔が見えないが、キョトンとした様子でウチを見つめている。
「貴方が、『煌角の皇』のリーダーさん?」
「あぁ、メフィだ。お前さんはユルバーレのリーダーでいいのかい?」
ローブを着た女はコクリと頷いた・・・やはり、こんな小動物のような少女があのメガロの豪腕を止めるなんて想像もできないな。
「此方もごめんなさい。私の仲間達が失礼しました」
「いやいや、元はと言えばこのバカが悪いんだから気にしなさんな・・・陣頭指揮はあんたんとことウチらのとこでいいね?」
「それについては、私から後程話しましょう」
ギルドマスターはそう告げると、ウチらとユルバーレを奥へと誘導する。
ユルバーレの三人はそそくさとギルド館内の奥へと消えて行き・・・ローブを被った女はくるりと振り返り、ぺこりと頭を下げる。ローブからチラリと見えたエメラルドの瞳が覗き、冒険者達を見渡すとさっとうつむきパタパタと足早に奥へと消えていった。
未だに呆気に取られたまんまの冒険者達を後に残して、ウチらはされるがままにギルド館内の奥へと消えていった。
「アンデッド化したダンジョンに・・・『ユルバーレ』? なんかわからなくなってきたぞ」
嵐の去ったギルドは呆然とする冒険者で埋め尽くされていた。
ハーピーの観察日記
1:エリーザ様、里のあらゆる女性の寸法を測って・・・うわ!? こっちに来た!!
2:ハーピーが逃げ出すも全てエリーザに捕まりました。
3:森で魔力共鳴・・・地面が揺れる。
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
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