現状:殴りあったら解決でした!
主人公チートの予感・・・
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周囲に砂塵が舞う。砂塵は踊り狂い、落ちることはない。
踏み抜かれた大地は元の形状を忘れ、凹凸にその姿を変容させている。
ただ一つ、この世界のどんな戦場にも無い、景色が広がっていた。
倒れ尽くすのは数えるのも馬鹿らしい魔を介す者達。
その者達の表情には浮かぶは・・・苦悶?絶望?憎悪?
そのどれにも当てはまらない、地に伏した屍のそれらは誰一人として、笑っていない者などいない。
折れた意志と木剣が彼等の情を考えさせる。
そこに種族などという壁は存在せず、隔たりはない。
誰もがぼろぼろであり、体に幾重もの傷を刻み、もはや立てるものなど一人もいなかった。
いや、唯一人その戦場にて陽の光を一身に浴びているものがいる。
其の者の周りには幾体もの屍が一つの山を築き上げている。
木剣の数々が、壮絶な戦いを物語る屍の数々が、彼の存在を否定する中で悠々と存在している。
その肩に、青銀の髪と羽を携え、深い青を覗かせる碧眼の精霊を乗せた彼は戦場を見渡し、風の音に紛れながら声を紡ぐ
どうしてこうなった・・・と
「どうしてこうなった」
『悪乗りしすぎたわ。反省ね』
うむ。成果はあったのだ。
いや、充分すぎる程実ってしまった。
そう。簡単に言えばこの惨状はわざと引き起こしたものであり、事故で起こったものだった。
俺の考えはこうだ。「言葉を心に届かせる」であったのだ。
俺の煽り文句に、ディーレの練り上げた魔力が乗せられ、俺の声を耳にしたものは一種の洗脳状態に陥る。
自分の内に巣食ったものを吐き出し、友情を結ぼうとしたのだが・・・ここで思わぬ事態が起きた。
自爆した。・・・そう自爆したのだ。
自分の声を自分で聞いて俺も一種の洗脳状態に陥った。
挙句の果てに起きたのがこれ。
俺の声に洗脳された俺は、ぶっ飛んだ状態になった。
結果、「言葉で理解できないなら拳で語り合え」になってしまったのだ。
両者共に狂乱状態である。
ゴブリンとコボルドは激突しあい、激しく木剣を交差させた。
勿論俺にも飛び火したさ。真っ先に飛び込んできたコボルド達を薙ぎ払い、ハルウ達と共にコボルドに殴りこんだのも覚えている。
すると出てきたのが、会議室にいたコボルド達だった。
やはり他のコボルド達とは比べ物にならないほどに強い。木剣と木槍で巧みに攻撃してくる三体、無手のコボルドはこちらが意識を外した隙に攻撃を仕掛けてくる厄介なものだった。
ハルウも俺を下ろし、戦闘に入っている。
周りでは、コボルドとゴブリンによる激しい剣戟が繰り広げられている。
しかし、ここだけは次元の違う戦闘を繰り返している。
ハルウ、ナーヴィ、モミジ、ユキ&俺対上位コボルド四体は周囲の者を巻き込んでいる(主に俺の魔法)。
コボルド達は俺に近付きたくても、ハルウ達がそうはさせじと果敢に攻勢に出るため攻め倦ねている。
コボルド達も中々の腕前だ。
刀を振るうコボルドは、攻撃の要となりナーヴィでさえ近づくことをためらっている。
背後からゴブリンに近づかれても、気配を読み取り、直ぐ様攻撃へと転じる。
短い木剣を持ったコボルドは刀コボルドのサポートに回っている。
なんといってもこのコボルド守備が堅い。一度刀コボルドが他のゴブリンに気を取られ、隙を見せたところをハルウが襲ったが、見事に短い木剣で防いでみせた。
恐らく小太刀コボルドだろう。
木槍を持った女コボルドは、間合いの外からの攻撃を行っている。
近づこうとしたなら、バックステップで距離を取られ、こちらが引くと詰めてくる。槍の間合いをしっかり理解している者の動きだ。
無手の女コボルドは先に言った通り、隙を伺い攻勢に転じるコボルドだ。
しかし、なんといってもフットワークが軽い。ナーヴィやハルウ、モミジの壁を潜り抜けて、こちらに攻撃を仕掛けてくる。ユキの警戒がなければ避けるのは非常に難しい。
俺はハルウ達に経験を積ませるため、後方からの魔法援護のみに徹している。
流石のコボルド達も無傷とはいかないようで、ハルウとナーヴィの爪で切り傷が増えている。無論それはハルウ達にも言えることであり、ハルウ達も体中に傷を負っている。
そして、戦局が動いた。小太刀コボルドが膝を突いたのだ、その隙をモミジが勢いをつけた体当たりで弾き飛ばす。かなりの距離を飛ばされ、小太刀コボルドは沈む。
そして、モミジも沈んだ。
小太刀コボルドに意識を向け攻撃を行った時に、無手のコボルドと薙刀コボルドの協力攻撃をモロに食らったらしい。
そして、次に刀コボルドが膝を突く。ナーヴィがそれを隙と判断し飛び掛かるが、刀コボルドは驚く程の速さで、飛び掛ったナーヴィの下を潜り、背後から一太刀を浴びせる。
なるほど。わざと膝をついたようだ。
ナーヴィはその一撃にも耐えてみせたが、横合いから突き出された木槍に弾かれ地に伏した。
ナーヴィが倒れたことにより、戦況は一気にこちらの不利になる。
ハルウやユキがそれに耐えきれるはずもなく、数分後には両者共に地に伏した。
相手コボルドは傷を負いながらもまだ健在だ。
「よくぞまぁ、俺のペットを倒し、よくぞここまで来たもんだよ。だけど、俺はそうはいかないぞ」
うむ。ノリノリである。
ラスボスの安っぽいセリフになったが気にしない。
ディーレさんもワクワクしながら自分の出番を待っている。
「さぁ、お前たちの全力見せてみろ!!」
コボルド達は一斉に俺に飛びかかった
そして、これだ。気づけば孤高の英雄である。
自分の洗脳が解けたのは、ほんとついさっきなのだ。
まぁ覚えてはいる。
多数の触手でコボルド達の攻撃をいなしながら、ディーレさんが面白い提案をしたのだ。
『私いつもあなたの魔力を練ってばかりでつまらない』
と言い出したのだ。
というのも、ユニークスキルの精霊権限は俺の命がある限り、ディーレさんを具現化し続けることが出来るそうなのだ。
それを行って、肩に精霊を顕現させると、コボルド達の体が金縛りにあったように動きを止める。
それは俺の仕出かした行動に驚き固まっているようだ。
そして、俺はノリノリで・・・
こんなことくらい俺には余裕だぞ、とか言ったような気がする。
その後は、かつてないくらいにご機嫌なディーレさんと、俺との飽和攻撃の始まりだった。
「フハハハハハ、死に晒せえええぇぇぇ!!」
「汚物は消毒ってやつなのかしら?」
ゴブリンやコボルドも関係なく、精霊魔法の餌食となっていく。
コボルドとゴブリンの悲鳴、けたたましい破砕音、逃げ回る際に大地を踏みしめる足音を鮮明に思い出してしまった。
すると、コボルドとゴブリンが協力し、俺に襲い掛かってきて、返り討ちにした。
そして今に至るのである。
いつの間にか到着していたホブゴブリン達も、訓練場の前で唖然としている。
そりゃそうだ、訓練場からかなり外れた集落まで破砕音が聴こえてくるなど、普通は有り得ない。
「私は知らないわ。あなたに乗っただけだもの」
「連帯責任だと思うんですよ、ディーレさん」
それからは、大変だった。
ホブゴブリンと非戦闘員のゴブリンの方々と一緒に、負傷者|(全員)を均等に地面に並べ、俺がディーレさんと協力して治癒魔法をかけていったのである。
全員に治癒が行き渡るのに、かれこれ数時間はたった。
既に日は落ちて、全員寝ている時間だ。
訓練に参加していた犬と小鬼共は治癒魔法を掛けて、ケガが治っても起きることはなかった。
相当疲れがたまっていたようだ。
ボスホブゴブリンはある程度予想はしていたようだが、まさかここまでの惨状になるとは思っていなかったようだ。
俺も少々疲れてしまったので、眠ることにする。
明日はどうなるのやら、いや・・・どんな訓練をしてやろうかと心底楽しみにしながら、意識が闇の中へと吸い込まれていった。
私は犬である。
名前はまだない。
コボルドの集落で生まれ、何でも藁の上でビャービャー泣き喚いていたらしい。
私は特異種だった。
生まれた時に手に持っていたのは、槍のようで槍ではない武器。
長い柄の先に反りのある刀身、刀身は80cm程とやや長め、身幅が広く反りが大きい、巴型の薙刀である。
薙刀は、斬撃の特化された長柄武器であり、主な用途は振り回すことにある。
集団戦には向かないが、こと「一対多数、一対一」に於いては無類の強さを発揮する。
私はコボルドの中でも、突出した力を持っていた。
生まれ持っての特異な武具を所持していたのは集落の中でも、私を含めて四人しかいなかった。
剣とは違う、反りの入った刀身を持つ「刀」を所持している若いオスコボルド。小太刀を所持している、老年のオスコボルド。鉄甲を嵌めた、一見無手のメスコボルドだ。
それぞれ、私とは違った強さを持ち、コボルド四強の座を欲しいままにしていた。
鍛錬は欠かさずやってきた。一人でジャイアントマンティスを殺せるようになった。
仲間たちを守る力を持った・・・はずだった。
私達はオークの強襲に手も足も出なかった。
いくら倒しても、どれだけ屠り去っても、オークたちは私を振り切り仲間達を踏み砕く。
堪らなく悔しかった、涙を流してどれだけの血を流そうとオーク達を撃退した。
私たち四人と他のコボルド達で必死に応戦したが、結果は無様なものだった。
唐突に現れた一体の特異種に私達は成す術がなかった。
族長は我先にと逃げ去り、コボルド達は終わりが見えない争いに疲弊しきっている。
「姐さん。俺達が殿を務める。逃げてくだせぇ!!」
「そんなことできるわけない!お前達を残して行ける訳ないだろう!」
「姐さん・・・ここであんたが死にゃぁ、死んでいった仲間達の無念、どうするんですかぃ?」
「それはッ・・・!?」
遠くの方で戦っている、私と同じ三人の仲間も、コボルド達に後退するように、説得されている。
刀を振りオークをなぎ倒しながら、彼はそのコボルドたちに激昂している。
彼の性格なら、仲間を見捨てて後退など出来るはずがない。
仲間の必死の説得を、捲し立てるように自分の声でかき消していく彼だったが、唐突に糸が切れたように沈む。
小太刀のオスコボルドが彼の首元へ、手刀を振り下ろしていたのだ。
老齢のコボルドは後退を決め、私達を死なすまいとしているようだ。
目に涙を浮かべ、老齢のコボルドは私に視線を送り、前線を放棄した。この集落の上の者として正解の選択なのだろう。それが散っていった仲間達の報いになることもわかるだろう。
しかし、納得はできないのだ。
オーク達の猛攻を防ぐ仲間達の姿を脳裏に焼き付けんと、後退しながらも後ろを振り返り、戦場を凝視する。
私も、鉄甲コボルドも、オーク達に背中を向け、仲間達に背中を向け走り去る。
「ハッ!!逝く前に姐さんの背中を見れて良かったぞ!!」
軽口を叩きながら、私達に後腐れがないように、気丈に振る舞う仲間達だが、あいつらは嘘が下手くそなのだ・・・尻尾が垂れ下がっていたのだから。
そして、私達はオーク共に惨敗し、新たな拠点に逃げ帰ったのだ。
そして、ホブゴブリンも同様の被害にあったことを知り、同盟を組んだ。
族長と族長に与するコボルド達は、同盟など愚かと言い放っていたが、オーク達の恐怖が脳裏をよぎり、刀コボルドが下した同盟を飲んだ。
そして、今に至るわけだ。
ホブゴブリン達曰く、作戦会議室?とやらだそうだ。
作戦の概要は聞いていたが、よりその作戦の成功を確固たる物にすべく、助っ人を呼び込んだという。
他種族と聞いて、私たちは眉を顰めるしかなかった。
ホブゴブリンとの同盟の話が出た時に、族長が言い放ったのはゴブリン以外との同盟は断固として認めない。
もし協力体制を組むのなら、お前達は大地に腹を向けろと一喝された。
大地に腹を向ける・・・つまり、死ねということと同義だ。
私達は裏切る事などはしないが、族長の古い考えはこの戦争では足を引っ張る。
自分より上の存在を敵に回す恐怖をまだ分かっていないのだ。
我先にと逃げ出した族長は、私達が体験した死地を、見てもいないのだから当然だろう。
私達は全員、現族長に良いイメージはない。
前の族長は仲間を率先して守り、未熟なコボルドを庇って命を落としたのだ。
今の族長は私達という手駒を操る無能でしかないのだ。
しかし、族長の言葉は絶対であり、私達は異議を唱えることができない。
そして、集落のボスだというホブゴブリンが帰って来た。
恐らく、ゴブリン達の言う強い協力者なのだろう。
北部に生息する魔物なのか、はたまたホブゴブリンの特異種なのか、私達が入り口を注視していると最初に入ってきたのは珍妙な色をしたスライム。
しかし、恐らくこれは余興なのだろう、スライムの特異種を出した後にきっと上位の魔物が現れる・・・・・・ことはなかった。
ホブゴブリン曰く、この赤いプルプルとした魔法も攻撃もまともな物がない最弱種族が、強力な力を持った協力者なのだと言う。
あぁ、合点がいった。このボスは仲間が殺されすぎて頭がおかしくなっているのだ。
目の前で何人もの仲間が殺され、自分の無力に嘆き、絶望し、最弱種族にさえ縋り付く現実逃避を行っているのだろう。
この作戦会議の前日に、協力者の配下になろうなどと言い出しておいたホブゴブリンがこの有様だ。
この最弱種族の配下になれなど・・・正気であったのなら、同盟を組んでいるとは言え、私の薙刀が黙っていない。
周りは失望に俯き、私も興味を失い、鋭い視線をホブゴブリンに投げかけようとした。
しかし、次に起こった状況に目を丸くする。
「先程も話したとおり、この方が我等に協力してくださるスライム様です」
「どうぞ、よろしく」
そう。スライムが喋ったのだ。
私達のような、亜人に寄った魔物なら、会話をすることは可能である。
しかし、スライムやオークといった知能のない者達は、会話することはもちろん、意思疎通を行うことすらできないのだ。
そんな、スライムが喋っている事実に驚くが、相手は特異種である可能性が非常に高い。
この森で、赤いスライムなど目にしたことがないからだ。
ほかのスライムと違った特異な点は「知能」なのだろう。
そう考えると、別段驚く程のことでもない。
所詮はスライムであり、最弱種なのだ・・・。
しかし、東部の主マンイーターを倒し、ジャイアントマンティス15匹を倒すなどありえる話ではない。
いくら知能を持っていたとは言え、相手は数も上、諸々のステータスから考えてもスライムは大幅に下である。
報告ではウルフもいたらしいが、それでも勝てる見込みなどない。
よっぽど、心理的ショックがひどいのだろう、そんなありえない光景を幻視するとは・・・
一歩間違えれば私達もああなっていたかもしれないのだ。
戦場で散っていった仲間のためにも、今は精神を病んでいる場合ではない。
話は平行線の一歩を辿るが、ここでスライムが思わぬ提案をする。
自分は公の立場では協力しないが、乱入し勝手に暴れて協力するという。
それならば、報告もごまかせる・・・
しかし、よく頭の回るスライムだ。私より知能が高いのでは・・・いやいやスライムに遅れを取るなど有ってはならない。
そう思っている合間に会議は集結し、やはり族長の決定に不満を持つ、皆は不機嫌な顔をしながら、外に出る。
行く先は訓練場である。
「本当にこれでいいんだろうか。俺達は確実に滅びの一途をたどっているのではないか・・・」
ふと、リーダーが弱音を漏らす。
らしくない反応に、私を含めた他のコボルドもキョトンとする。
「急にどうしたのだ?」
「ゴブリン達は、他者の協力を得て、より良き未来を考えている・・・俺たちは目先の戦争に囚われ、剰え古いしきたりに囲われているんだ。俺も族長に忠誠を誓った身だ、今更裏切ることはできぬ。だが、族長の間違いを指摘できぬ俺も情けないな・・・」
コボルド全員が一気に暗い表情へと一転する。
今回の戦争で私たちは死ぬ。そう誰もが信じて疑わないのだ。
相手のオークは今の私達ではどうしようもないくらいの強者である。
コボルドの戦闘員全員で掛かったとしても、半分も削れずに終わるだろう。
雑魚だけで四苦八苦している現状では、到底勝つことなぞできるはずがない。
そして、族長を止めることができぬ己の弱さも痛感しているのだ。
「仕方ないよ。私達は最後まで誇りに生きるんだ。そして仲間の思いと共に果てよう」
「そうじゃな。この爺も最後の華は戦場にて散らすとしよう」
お互いに自嘲の笑みを浮かべながら、各々訓練場のあちこちへと移動していく。
私も適当なコボルド五体を相手取り、木槍で相手取っている。
訓練を開始して、30分程経過した時、なにやら訓練場の入り口付近が騒がしくなった。
会議室にいたスライムがウルフの上に乗った状態で、五体のコボルドになにやら挑発されているのが見えた。
あの五体のコボルドは族長派であり、古式の考えを優先する者達だ。
口が悪いが、腕前だけは保証する。ウルフやスライムでは手も足も出ないだろう。
逃げ帰るか、オロオロとするかの二択に分かれるだろう。
帰りかけたところを私が手を差し伸べよう・・・
と考えた時だったのだ。
「そうだな。自分より上の者に媚びへつらうお前らの様な、腐った目を持っている奴にはそう見えるだろうな。」
そのスライムの一言が、訓練場の剣戟に支配された領域に深く遠くに響く。
ピタッと空気が止まったように音が止まり、思考を空白が染め上げる。
何を言ってくれているのか・・・その意味を理解するのに数秒の時間を有した。
沸々と湧いてくる怒りが身を焦がし始める。
木剣の軋む音がその空間を支配し、ザワザワと毛が逆立ち、激情に身を任せ始める。
「まぁ、お前ら程度の者を下っ端にする奴は、俺の足元にも及ばないだろうな」
「お前らの様な上位者に尻尾を振る犬風情が付け上がるな。」
「全員が愚かだと言っているわけじゃない。だけど、間違いなくお前達はザコボルドだよ」
その言葉が、開始の合図となった。
コボルド達は手に木ではない、抜き身の剣と槍を構える。
最初に襲い掛かったのは、剣の持つコボルドだ。
茶色のしっぽに白いラインが入っているこのコボルドは、コボルドの中でも「剛剣」と言われている。
攻撃は最大の防御といった考えであり、剣を高く振り上げる。
そして・・・剣と同時に高く高く跳ね上がったのだ。
10mくらい上に飛び、ドシャッという音と共に地面に打ち付けられる。
次に若干、緑みがかった毛を持つコボルドは、「技」に秀でている。
小手先の技とも言われているが、戦闘ではその技の特性から、結構厄介なものだ。
獲物は槍であり、ここでも技が発動される。
槍を短く持ち、横薙ぎに振るう。
その瞬間に持ち手を緩めると、槍が伸びたように前に突き出る。
それに対応できるはずもなく、真っ二つ・・・になることもなかった。
ウルフがバックステップでそれを避けると同時に、後ろに控えていた別のウルフが、体に魔力を貯めた状態での体当たりを、槍コボルドに直撃させた。
槍コボルドは後続の別のコボルドを巻き込みながら、錐揉み状態で吹っ飛ばされていく。
それに動揺した二体のコボルドは対応に遅れ、大きな隙を曝け出す。
それに、あのスライムが待つはずもなく、喉に鋭利な蝕手が突きつけられる。
・・・・・・・・・私達はただ呆然とするしかなかった。
最弱種であるスライムに彼等が、為すすべもなく踏み潰されるなど、通常起こりえない現象がそこにあったのだから。
「何者だ?奴は・・・俺たちは夢でも見ているのか?」
「あぁ、私達もきっとあのホブゴブリンのようにおかしくなったんでしょう。」
私も、刀コボルドもその光景を、只眺めるだけしか出来なかった。
場を静寂が包み、スライムを乗せたウルフが一歩一歩、大地を踏みしめ、全員の視線が集まった所で歩みを止める。
「さぁ、お前ら・・・ホブゴブリンから俺に教官を頼まれているわけだけど、なにか異議のあるものはいるか?」
コボルドもゴブリンもお互いに顔を見合わせ、ゴクッと唾を飲み込む。
ウルフの背に体を預けたスライムの声は、不思議と心の奥底に響き、周囲に響き渡る。風に声が乗り、遠くまで響き渡るような・・・まるで精霊力が込められているのではと思わせるほど、その声は自然と心に届いてくるのだ。
さっきまでの怒りはどこえやら、尻尾は力なく垂れ下がり、彼らの目に浮かぶのは畏怖の念。
得体の知れない強大な力を持つスライムが、体に薄らと魔力のオーラを纏う。
暗く、どす黒いオーラがスライムの体を這い回り、その顔?には不適な笑みを浮かべている様に見える。
そして次に発せられた言葉に、場の空気は一変したのだ。
「よろしい。お前達は今からクソ虫だと思え!!今のお前たちはオーク共の餌にしかならん。そんなお前達を二日で鍛え直してやる。生きていることが地獄のような時間を諸君らにプレゼントしよう!!」
『ウフフ♡』
スライムの言葉は、体の奥底へと沈み込み、不安を駆り立てる。
コボルドはもちろんのこと、ゴブリン達もその、スライムの妙な威圧と迫力で気圧されている。
笑い声のようなものが聞こえたが・・・気のせいだろう。
スライムの側で控えるウルフ達も、その体をフルフルと小刻みに揺らし、主の言葉を一つも聞き漏らさんと集中している。
「先も言ったように、足元に転がっているようなザコボルドばかりでないと俺は切に願っている!!お前らを口ばかりではない一流の兵士へと育て上げてやろう。恐怖も、憎悪も、差別的な感情さえ、全てを「信頼」へと変えてやろう!!」
「悔しかったろう。あんな性欲豚如きに蹂躙される自分に嘸かし腹が立っただろう。信頼した仲間が、永遠を誓った者の亡骸が、お前達に全てを託したのだろう!!」
あのスライムの一言で、この場にいる全ての者達の心の中に、感情の炎が咲き乱れる。
ある者は「闘志」を漲らせ、ある者は「悔しさ」に身を任せ、ある者は「スライムへの言葉に聞き入っている」
「今のお前らは、託した者の全てを無駄にしかできないクソ虫だ!!だが俺が鍛え直してやろう、絶望と悔しささえ塗り替える苦痛の最果てへと誘ってやろう!!それを越えたとき、俺達に恐れるものはない!!」
その場にいる、全ての者に決定的な瞬間が訪れたのはこの時だ。
スライムの言葉に魔力の波が発生し、それを訓練場一杯に満たすように、その声を張り上げる。
仲間たちを奪われた悔しさが、絶望が、彼らの怒りへと昇華されていく。
その手に抱く木剣に、赤い模様を刻みながら彼らは、体を振るわせる。
「なんじゃろうのぉ・・・この体の底から溢れ出る、とうに消し去ったはずの感情を呼び覚ますものは」
「あのスライム、不思議。あのスライムに不思議と従いたくなる」
それぞれ思い思いの感情がゆらぎ、それが魔力の奔流となり、大気に打ち出された感情はもはや爆発寸前までに至る。
木剣と木槍を強く握り締め、今は亡き仲間たちに思いを馳せ、彼らは一心にスライムを見つめる・・・。
それは宛ら主を見つめているような視線を向けて
「さぁ、お前達・・・準備はいいか?」
「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」
それ以降は、私達も覚えてはいない、ただひたすらに己の力を行使し、全力でぶつかったことは覚えている。
あの、スライムに・・・いや、あの方に私たちの全てをぶつけたのだ。
足元にも及べないであろう、あの魔王と見紛う事なき絶対の強者に、私達は突貫したのだ。
私を含めた全コボルドに、始めて心に深く刻み込まれた思い。
「仕えたい」といった感情が私達を突き動かしたんだろう。
現族長に忠誠を誓ってしまった私達はこの訓練が終われば、族長の意志に従うことになる。
でも、せめて今だけはこの意思あるスライムの胸を借りることとする。
では、いざ尋常に、勝負!!
無双が入ってまいりました!
早く女の子描写書きたいな・・・あ、女コボルド・・・
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想なども気軽にどしどし送ってくださいね!
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