人魔:囚われの潜入員でした!
2本目です!
主人公・・・またまた面倒ごとに巻き込まれる予感です。
そして、主人公の目の前に現れたのは・・・。
次話投稿は一週間以内です!
ニュルゥリ・・・ジメッとした建物の壁を這いずり回りながら、各部屋を調べていく。
いやぁ、最近本当に面倒ごとに巻き込まれる事が普通になりつつある・・・それも、どんどん規模が大きくなっている気がするのは気のせいじゃない筈だ。紛争やら戦争やらの国の陰謀に巻き込まれるのは本当に勘弁して欲しいもんだ。
恐らく聖都の関係者であろう『聖戦士』の男の部屋に誰かが入った隙に俺も侵入したんだけど・・・かなり事態は深刻なようだ。
話を詳しく聞いてみれば・・・うん、俺の把握力じゃ詳しくは話せないけど、「魔族を誘拐したよ。殺して、晒して、人間と不和を生むよ」ってな感じらしい。
部屋に入った男は直ぐにでも殺そうと言っていたのだが、聖都からきたであろう男が二日ほど懺悔の猶予をやりましょう・・・なんて言っていたから、まだ大丈夫なんだろう。
しかし、折角人間と上手くいっているこの都市でそんなことが起こってしまったら、きっと魔族は人間を信用しなくなってしまうだろうし、最悪魔族と人間がまた対立してしまうかもしまう。
そうなってしまう前に未然に防がなければならないわけで、俺は直ぐに紙をギルドに転送したんだけど、多分本格的に動き始めるまでに二日か三日程かかるだろう。
「まぁ、事が起きそうなら、それまでにどうにかして食い止めなくちゃならないんだけどね」
『それについても、もう指示は貰っているのよね?』
一夜明けてから自分の体の中に転送されてきた書類には、もしもの事があれば独自の判断にて行動を開始するようにと記されていた。
どうしても組織で動いているとあれば、後手に回ってしまう可能性がある。だから、事が起きて全てが手遅れになってしまう事態を防ぐ為に、個々の判断で動いていいとの事だった。
でだ・・・現状ニュルニュルと這い回っているのは、相手の人数やら何やらを把握する為で、様々な部屋を見て回っていたからだ。
周囲掌握で粗方探し終わったかな・・・と、ふぅと一息付いて帰路についたわけだ。帰路と言いつつ、牢屋に戻るのは不服だけどね。
そして、牢屋へと戻る途中、ある一室に目が止まる。見た目は普通の部屋であるが、その扉には鍵が掛けられており、よく見てみれば魔法も掛けられている事がわかる・・・俺達が捕らえられている牢屋よりやけに頑丈だ。
周囲掌握を起動させ、部屋の奥を調べてみるとそこには一人の人が囚われている事が分かった。
このアジトでは誘拐された魔族達は、俺たちが囚われている場所の近くに纏めて囚われている。だというのに、その人質とは別に拘束されているその人物・・・いったいなぜ別室なのかがよくわからなかったんだけど、その人のクラスを見てその理由がはっきりとした。
ルキナ:『暗殺者』(LV27)
称号
毒殺者
暗器使い
短剣使い
暗がりに潜む影泳者
外道
偽善者
飼い犬
HP:671
MP:192
STR:721
VIT:319
AGL:861
MGI:219
LUC:9
LV上限:50
スキル:忍び足、影埋、暗器乱打、催眠、自己暗示
エクストラスキル:なし
魔法:アイテムブースト
クラスは『暗殺者』・・・説明するまでもなく、闇に潜んで敵を殺すプロの殺し屋だ。
しかし、その『ルキナ』って人は部屋の中できつく拘束されているようで身動きが取れずにいるようだ。
・・・恐らく、俺達がアジトに潜入する前に、潜入しようとした人なんじゃないかな?
扉の前で立ち止まり、ジッと扉を見つめ中の様子を探る・・・捕らえられている人に動きはなく、意識を失っているのか眠っているのかよくわからない。
さて・・・中の人からなんとか情報を聞きたい。ここに潜入しようとした潜入員なのか、ここについて知っていることはないかを聞ければ、カナード様とギルドの人達により正確な情報を流せるかもしれない。
しかし、この扉を無理に壊しでもすれば音でばれてしまうだろうし、上手く鍵穴を壊せても巡回の人に壊れた鍵穴がばれてしまえば、誰かがこのアジトに潜入しているとばれてしまうかもしれない。
ならどうするかって話なんだけど・・・まぁ、あれしかないよね。
「鍵がなければ造るまで」
自分の指先を液状の触手にして、扉の鍵穴に差し込んでゆく。液状になった指先は鍵穴をニュルゥリと進んで行き、中の形状へと適合していく。
そこに魔力を流し込み、扉の鍵に書けられた魔法を解除する。
差し込んだ触手は魔力に反応して硬くなり、そのまま横に捻るとカチャリと扉の鍵が外され、扉がゆっくりと開いた。
と、その直後、視界の先の人物が振り返りざまに何かをこちらに投げたのがわかった・・・10cm程の細い針が、暗闇の中鈍色に光りながら一直線に俺の目前にまで迫ってくる。
間一髪それを触手で払いのけた瞬間、次は視界いっぱいに靴底が映り込む・・・暗器を投げてそれを振り払うことで一瞬視界が途切れた瞬間に、跳ね起きて蹴りを放ったのだ。
拘束されていると思ったんだけど、拘束具は既に外されていて、恐らく扉が開くのを今か今かと待ち構えていたんだろう。
そして・・・扉を開けた俺を、このアジトのメンバーだと間違ってしまっているのだろう。そう冷静に判断した瞬間、顔面に蹴りがめり込み、そのまま俺の頭部は弾け飛んで後方へと散乱する。
その隙に開いた扉から飛び出ようとする人の手足を触手で掴み、宙吊りにしてもといた場所へと戻した。
・・・この身体の特徴なんだけど、レベル差が開いていると物理攻撃を全て無効にすることができるらしい。レベル差が開いていなければ普通にダメージを受けてしまうけど、この人の攻撃であれば問題ない。
「なっ!?」
「お、落ち着いて、俺は・・・」
そう言いかけた所で、腹部から飛び出した針で貫かれ、またも言葉を発せなくなる・・・頭吹っ飛ばされるわ、口を針で貫かれるわ、ずいぶん新鮮な体験をして・・・いや、残酷な体験をしているなぁ。
痛みは全く感じないけど、モコモコと自分の頭部が映える感触を味わうというのは、気分がいいものではない。
というか、捕らえられてるってのにこの武器はいったいどこから出したんだ?
「クソッ!」
「お、俺は味方だから落ち着いて! この街の領主様とギルドから依頼されてきたんだ!!」
「な・・・」
そこで漸く捕らえられていた人物の顔を見ることができた・・・女性だ。
20歳くらいの女性は全身がしなやかで、とても先程の跳躍や蹴りを放てるとは思えない。
と・・・女性の腹部からツーッと血が流れる。まさかと思い、小さな穴の開いた衣服を開けると、腹部に小さな穴が開いており、そこから血が流れ出している。
・・・なるほど。自分の体内に暗器を隠していたってことかぁ・・・って馬鹿か!?!?
精霊魔法を唱え、女性の腹部を回復させる。
青い光が女性の身体を覆い尽くし、腹部どころか身体のいたるところを回復させる・・・どうやら、
「えっと、落ち着いていただけましたでしょうか?」
「・・・・・・・・・」
触手で掴んでいた手足を解き、女性を・・・ルキナさん?を解放する。
ルキナさんは自分の体を確認した後、ジロリと俺を睨んだ後、後ろに開かれている扉を見た後、フゥと息を吐いて、再び俺を睨む。
しかし、先程の様に殺意や戦意というものは感じられず、唯々警戒されているみたいだ。
普通なら、人の身であれば死んでしまったであろう攻撃をかましてきたことについて説教をしたい所ではあるが、不用意に部屋に入った俺も俺だろう・・・不問にする。
「改めて、えぇっと、Aランク冒険者ユガです。この街の領主様から、攫われた魔族達を救出して欲しいって言われてきたんだけど・・・貴方は俺達の前に送られた人?」
「・・・」
「あのぉ・・・」
「・・・」
うん。どうやら相当警戒されているようだ。
攻撃してこないのも、攻撃手段がないからかもしれないし・・・まだ敵だと思われている可能性もある。
まぁ、当然か、数々の侵入者が次々に捕らえられている最中、俺みたいな奴が侵入してるってのはおかしいだろう。つまり、同業者を装った敵かもしれないから、警戒されてるってことか・・・。
しかし、俺からは殺意や敵意が感じられず、彼女もどうすればいいかわからないってとこか。
・・・うーん、相手の警戒を解こうにも、握手や拍手でどうにかこうにかできるわけでもないし。こんなときどうすればいいのか全くわから・・・なくもないか?
そういえば、アンネさんとこの街に来る最中になんだか色々商談について聞いた気がする。その中に交渉術や相手の懐を探る術なんかがあったはずだ。
やってみるしかなさそうだな。
「わかりました。では、俺から情報を開示します。ここは聖都と繋がりがあります。どうやら誘拐した魔族達を殺して、それを人間になすりつけるのが目的みたいです」
そう告げた途端、彼女から凄まじい殺気が放たれる。おぉう・・・成る程ね『魔族達を殺す』っていう部分でこの凄まじい殺気が放たれたな。
・・・うん。おかしい。
俺達より前に此処に侵入を試みた人達の目的は、全部『聖都と繋がりがあるかどうか』を調べるだけであり、魔族が殺されるどうのこうので殺気を出すのはおかしい。
つまり、彼女は別の筋からの侵入者ってことかな?
そして、殺されていないってことは余程、何か理由があるのかもしれないな。
意外とアンネさんから教えてもらった交渉術は使えるかもしれない・・・。
「それについてですが、俺は人質が捉えられている場所を知っています。そして、救出を行う準備も現在進めている最中です・・・ですが、今現状では情報が少ない為、こちらもあまり行動できない状態なんですよ」
「・・・」
何かを考えるそぶりをした女性は、もう一度俺の顔を覗き込み、フゥと一息ついて口を開いた。
「何が聞きたい?」
「・・・そうですね。貴方の素性はおそらく話しにくいとおもいます。なので、このアジトについて知っていることを話していただきたい」
女性は『素性』という言葉に反応したが、すぐに目を伏せて話し始める。
「ここのアジトはこの街の全ての組織と繋がっている・・・とは言っても、貴方が言った『聖都』に対しての繋がりだけどね。全ての組織が今魔族を誘拐して殺して、人間との不和を図ろうと計画しているわ」
・・・まじか。
カナード様もギルドもどこか一つの組織に聖都が絡んでいると言っていたのに、まさかの全組織が絡んでいるらしいぞ。一応みんな潜り込ませてはいるけど、かなりまずいな。
「その中でもこの組織が一番大きく、聖都との直接的な取引を一番多く交わしているのがここよ。私はその魔族を解放しに来たのだけれど・・・忌々しい聖都の『聖戦士』に見つかって捕縛されたのよ」
なるほどね。他の組織も関わっているけれど、元締めはこの組織である可能性が高いってわけか。
それに気づいたルキナさんは、誘拐された魔族を解放しようと組織に乗り込んだはいいものの、聖都から来た『聖戦士』って奴に見つかってしまって捕らえられたのか。
聖戦士ってのがよくわからないけど、カナード様やギルド長から聞いたのは聖騎士だったよな?
まぁ、似たようなもんだろう。
「・・・私に話せるのはここまで、それじゃあ人質の場所を教えてもらおうかしら?」
・・・・・・・・・ここで、アンネさんなら、「なんのこと? 私は情報を開示するって言っただけで、貴方にも情報を開示しろとは、言ってないわよ。だから私はこれ以上話さなくていいわけよね?」と言って、更に交渉を長引かせて相手の素性を探り出せるんだろうけど、俺にはそこまで胆力はない。
だけど、今行動に移られても困る。
「俺達の目的は聖都からやって来た奴の尻尾を掴まないといけないんだ。だから、今騒ぎを起こされても困る・・・できれば、俺達と一時だけでもいいから行動して欲しいのですが、どうでしょう・・・か?」
「・・・」
凄く怖い顔で睨んできているんだけど・・・ま、まぁ、急いでいる人を止めたらこうなるのはわかるけど、そこまで怒らないでもいいじゃない・・・。
「足並みを揃えれば一気に敵の誘拐した人達を解放できるかもしれませんし、足並みを揃えれば一人よりも安全に助け出すことができるかも知れませんよ?」
「貴方と私だけでどうしろっていうの?」
「俺の他にも侵入した奴がいるので、外との連絡でも・・・ほらこの通り、転送印のついた紙も持っていますから」
「・・・」
ルキナさんは俺の顔をじっと見つめた後、仕方ないかとばかりにため息を吐き、コクリと首を縦に振る。
「ルキナよ。事情は言えないけれど、ある魔族を解放する為に、ここにきているの・・・目的を果たしたら去るわ」
「改めましてユガです。転送印のついた紙を渡しておきますので、これで何かあったら俺に連絡を送ってください」
やはり、ルキナさんは唯の正義感でここに誘拐された魔族を助けようとしてるわけじゃない・・・まぁ、『暗殺者』のクラスについている人が正義感だけで動かないだろうとは思っていたけど。
ここに捕らわれた誰かを救出する任務を受けているのだろう・・・それも秘密裏にって事は、何か理由があるのだろう。
もしかて誘拐した子供を更に誘拐しようとしてるんじゃとも思ったけど、先ほどの話で殺気を飛ばすって事は、殺されることに『怒り』を感じている。つまりは、殺し等でもなく、売る目的であったにしてはそこまで怒る事はないだろう。
「できるだけ、決行は早めて欲しい」
「たぶんですけど、早くて明日にでも行動を起こします。おそらく全部の組織が一斉にパニックになるので、その隙にでもまたここに来ます」
「・・・えぇ。わかったわ」
ルキナさんと話した後、部屋を後にして俺は元の・・・はぁ、牢屋へと戻っていった。
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side???
「うぅ・・・僕たちどうなっちゃうの?」
「クソッ・・・動けねぇ」
「俺達、ここで死ぬのかなぁ」
「人間共が・・・クソッ!!」
牢屋の中で何人もの魔族が蹲っている。
魔族は大人から子供まで様々な種類の魔族が囚われており、そのどれもが泣き言を言い、悪態を吐き、恐怖で体を震わしながらジッとしている者達がいる。
「大丈夫・・・きっと助けが来る筈だから、皆元気を出して」
しかし、そんな中で、一人だけ気丈な言葉を吐く一人の魔族の姿が伺える。
顔は人のそれであるが、所々が鱗で覆われており、一番の特徴は小さな身体にみあわない太い尻尾が生えている・・・。竜人族の少女は、牢屋の中で絶望に打ち拉がれている魔族達へ、諦めるなと言葉を投げかける。
それに悪態を吐く魔族はいない・・・少女が捕らえられ、此処に運び込まれた当初は、希望論を吐く少女に悪態を吐く者もいたが、少女の正体を知ってからは、魔族達の心の拠り所となっている。
彼女の言葉に励まされた魔族達は、半ば諦めながらも少しの希望を胸に抱き、牢屋の外を見つめ続ける。
しかし、現実は無情だ。
ガチャリと扉が開き、牢の中へと誰かが侵入する。
・・・ニヤリと微笑んだ男が牢屋の中を見渡す。
その男は片手に教典を持ち、腰に細剣を差している・・・その男の正体はこの牢屋にいる誰もが知っている。
「不浄なる魔物血族よ。お前達の穢れた血・・・不浄な魂を浄化する為、お前達の命でもって神に浄化を願うのだ」
「ふざけやがっ」
「喋るな。下郎」
男の語りに、魔族が怒声を上げようとした次の瞬間、その魔族の肩から赤々とした血が吹き出し、光輝く短剣が突き立っていた。
「がぁあ!?」
「うるさいですね。もう一本」
ザクッと音を立ててもう一本の短剣が肩に刺さる・・・肩からはまた真っ赤な血液が流れ出るが、先程の様に苦悶の声は上がらない。
ジッと男を見つめ、痛みを堪える少女の姿がそこにはあった。
「・・・気に入らないな」
「・・・」
「子供だからって容赦しませんよ? まぁ、後ろのよりは静かで良いですけどね。その心意義に免じて・・・まずは貴方を殺しましょうか」
男はわかっている・・・この少女が此処に捕らわれている者の希望であることを。
グルリと見渡し、他の魔族達の表情が絶望に満ちていることをいち早く察知した上での提案であった。
そんな事を許せる筈がないと、声をあげようとした魔族へ少女は振り返り、ニコッと笑って見せる。
その表情に全員が・・・唇を噛み、少女の死を覚悟した。
「チッ、ゴミ共が人間様を不快にするとはなぁ・・・いっそのこと全員殺してしまっても良いんだぞ」
「・・・」
男へと振り返った少女は、また男の目をジッと見つめ続ける。
それが気に障ったのか男は少女の顔面を力任せに殴り付ける。軽い少女の身体はしかし、吹き飛ぶことなく、男の拳打をその身で受け止めた。
「苛つきますね・・・いいでしょう。貴方が死を前にして苦悶に歪む様を見ると致しましょうか」
男は少女の髪を掴み、強引に牢の外へと連れ出す。
そして、男は少女を牢獄の外へと連れ出した・・・。
少女の瞳は取り残された魔族達を見つめ、諦めるなと告げていた。
やがて、男と少女の足音が牢から離れ、完全に消える。
「チクショー!! なんで、あの娘がやられなきゃ行けねぇんだ!?」
肩から血を流す魔族が叫ぶ。
そして、無機質な牢獄の天井を睨み付け、叫んだ。
「魔王よ! てめぇの娘を早く助けに来やがれ!!」
その叫びは、虚しく虚空へと消えていった。
謎の暗殺者ルキナ現る・・・そして最後に現れた竜人族の少女はいったい?
次回も乞うご期待です!!
ハーピー観察日記
1:赤ちゃん守り隊、赤ちゃんを泣かせる。爪なしが説教をしていた。
2:モミジ様の水浴びを覗こうとした不届き者を処罰。
3:シロタエ様が冒険者を連れてこられました。
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何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
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