幕間:ギルド嬢①でした!
多くのブックマークありがとうございます!
ちょっと一休み幕間投稿です!!
今回は『ギルド嬢』さんについてのお話です。
ギルド嬢とは一体誰なのか・・・なんとなく予想がついている方もいらっしゃるかと思いますが、是非お楽しみください!
次話投稿は一週間以内です!
いつもと変わらず、慌ただしく人々が行き交う場内・・・どこからともなく響いてくる喧騒に、ここが如何な場所かということを如実に物語っている。
ガシャガシャと鎧やら剣やらが五月蝿く音をたて、ドタドタと行き交う人の足音が響いてくると、喧嘩っ早い連中が踏んだやら踏んでないやらおで祭り騒ぎ・・・。
油と汗が入り交じった場内の匂いになれるまでに相当な時間を要し、ひ弱な者がその中に入ろうものなら一気に目の敵にされかねない。
ビリッと掲示板から紙が破れる音が聞こえると、何人かの人間が受付へと足を運ぶ。
そして、またビリッビリッと次々に掲示板から紙が破られ、受付には長蛇の列が出来上がる。
「俺が先に並んでたんだクソが!!」
「知るか!! てめぇがボサッと突っ立ってから悪りぃんだよ!」
「てめぇ、その依頼は俺が先に目をかけてたもんだ! 寄越しやがれ!!」
「ふざけんなクソ野郎! 早い者勝ちだ」
「おい貴様! それは我々が受注する依頼だ」
「うるせぇな。文句があるのならかかってきな」
目まぐるしく状況が二転三転と変貌するギルド館内は、冒険者達の熱気と威圧で騒然となる。
人の喧騒が嵐のように吹き荒れるギルド館内を治める筈のギルド職員の数が圧倒的に足りない。
そこら中の問題を片付けに回っているギルド職員、寄せては返す波の様に止まることのない受付業務に追われる職員、堆く積まれた書類を片しに掛かる職員、何をすれば良いのかわからず放心状態に陥る素人職員・・・ギルドで雇われた人間は地獄の様な忙しさにその身を焦がす事となってしまった。
そして、ある一角で冒険者同士の諍いが発生し、それに対応しきれず両者が抜刀する。
最早職員だけでは、全ての事態に収拾がつかなくなってしまってしまい、刃傷沙汰が起きる・・・その瞬間。
ギィィィッとギルド館内の奥の扉が開かれる。
重苦しい音が喧騒に包まれるギルド館内に驚くほどに響き渡り、誰もがその扉を開け放った人物へと視線を注ぐこととなる。
長く美しい髪を後ろで一つに括り、ギルド館内を見渡す眼は切れ長で細く、美しいと感じるまでに真っ黒の瞳が騒ぎ声を出していた冒険者達を捉える。
ピンッと延びた背筋、ギルド職員を示す衣服を身に付け、その胸元に光る『見習いのバッジ』が嫌に似合っていない。
小柄な身体に内包されたその妖艶さと美しさは、ギルド館内全ての冒険者達の視線を釘付けにする。
優雅な足取りで受付を越え、今まさに腰に吊るした剣を引き抜こうとしている者達の側を通り掛かる・・・それだけで男達は剣を納め、そのギルド職員が通る為の道を作り出す。
二手に別れた冒険者達の間を闊歩する最中、ジロリと睨まれた冒険者達は次々と萎縮し、すごすごと自分の作業へと移っていく。しかし、先程の威勢はなりを潜め、列を乱していた冒険者達は一斉に綺麗に整列する。依頼書を奪い合っていた連中は、その依頼書を元の場所に戻し、他の依頼を探し始める。
「ハッ! お前ら、こんなクソ職員一人に何をビビってやがる!!」
しかし、中にも例外というものは存在する。四人の冒険者達は、職員の行く手を遮り、チャキチャキと肩に掛けた剣を弄び悪態をつく。
回りの冒険者達は驚いた様な目をその冒険者達に向け、あるものはアチャーッと額を押さえ、あるものはそそくさとその場所から離れ、あるものはニヤニヤとした表情でその冒険者を見守っている。
「・・・あまり騒々しくしないでくださいませんか? ここは冒険者ギルドであり、依頼を承る場所です。騒ぎたいのなら酒場にでも行かれては如何でしょう?」
「はぁ? お前らは俺ら冒険者様の受ける依頼を黙って受け取りゃいいんだよ!」
「騒々しいと言う言葉が聞こえなかった様ですね。何度も言わせないでいただけますか?」
「貴様!!」
四人の冒険者達は女性職員を取り囲む様に四方を固める。その内のリーダー格であろう一人が女性職員の前まで歩みより、その偉丈夫な身体を折り曲げて威圧するように告げる。
「見目が良いからって、俺達が容赦すると思ったら大間違いだぞテメェ」
「依頼を受けるなら受けるで礼儀と言うものがあります。それに欠いた発言や行動は慎んでください。そして、遊んで欲しいならこの仕事が済んでからにしていただけないでしょうか? 貴方達の様な普通の・・・いえ、若干下位に属する冒険者を相手にしている時間はないのですよ」
その一言に四人の冒険者の空気が変わる。額に青筋を浮かべ、今少しでも刺激すると暴発してしまいかねない状況に、女性ギルド職員が最後の一撃をお見舞いする。
「もっと、強くなってから出直しなさい」
ペチンッとリーダー格の男の頬を叩き、女性職員は嘲笑いながら相手の横合いを通りすぎようとする。
・・・が、次の瞬間、鞘を剣が走る音が響き、そして剣が引き抜かれる事はなかった。
その鞘から伸びる剣を誰かが止めていたのだ。
「そこらへんにしとけや。お前、『ギルド嬢』に殺られなかっただけでもよかったと思っときな」
「どけっ!! あの女殺してやる。邪魔するなら貴様も」
その瞬間、剣を止めた男の胸元に光るプレートが視界に入る。Bランクを示すプレートにさすがの男も尻込みする。
「な、俺が止めるってことはそれ以上に『ギルド嬢』はやべぇんだって」
Bランクのプレートを下げた男は、抜刀されかけた剣をそのまま鞘へと押し戻し、後ろで殺気立つ者へとやめとけやめとけと手を振った。
「チッ、腰抜けどもが・・・ギルドなんかに腰を引きやがって、飼い主の程度が知れる」
ピタリ・・・・・・・・・一瞬にして、場が静寂に包まれる。
女性職員の歩みが・・・時が止まったかの様に静止する。身じろぎしない女性職員は、そのまま背中を見せながら、男達へと声をかける。
「いい度胸をしていますね。我が主人を侮辱するとは・・・本当にいい度胸をしていることと存じます」
しかし、その声色は先ほどのような余裕を感じさせる声色とは程遠い。冥府より出でる地獄の門番が如く、怒気を孕んださっきとともに吐き出された言葉は、その場に留まっていた冒険者達へと降り注いだ。
その場にいた冒険者達は皆「飼い主とは『ギルド長』のことだ」と叫び出したかっただろう・・・しかして、己の身体に叩きつけられる凄まじい殺気と、黒く染まった瞳の色、額から伸びた二本の角に、恐怖のあまり声を出すことがかなわなかった。
そして、『ギルド嬢』を知っている者達は皆一様にこう思ったのだ「あぁ、やってしまった」と。
彼女が初めてギルドへ赴任し、二日目の出来事だ・・・彼女『シロタエ』と名乗ったそのギルド職員の独裁ギルドが生まれたあの日の事だ。
その日までは誰もが見目麗しいギルド職員であるという事だけを認識していた・・・ともすれば、ギルド嬢を口説き倒そうとする者もいたくらいだ。
彼女の注意を聞くものなど一人もいなかった。
そして、ある冒険者が一つの過ちを起こしたのだ。
「静かにしてくださいませんか? 私にも仕事が残っていますので」
「まぁまぁ、そんな事はほっといて俺と付き合ってくれよシロタエちゃん。ほら、見ろよ! 俺はCランク冒険者なんだぜ、いいところ連れてってやるからヨォ」
「私は主人と配下以外とはそのような事は致しませんので」
「あぁ、『そんな奴ほっといて』俺と遊びに行こうぜ。『俺なんかより弱い奴』と君は合わないって」
・・・あの日、ギルド館内で起きた惨劇が再び繰り返されようとしているのだ。
「『飼い主の程度が知れる』・・・? お前たち人間に我らが主人の何がわかるというのかしら? 私たちが崇拝し崇高する主人を人間如きが知ったような口を聞いて許されると思っているのかしら? 下手に出ていれば人間は付け上がるという事はよく知っていますが、主人の言いつけを守ろうと怒りを堪えていましたが、我らが主人を侮辱されて堪えるというのは無理な話・・・しかし、静かにしろと言って聴かない貴方達に言葉での制裁は不可能」
クルゥリと女性職員が振り返り、無表情のその顔にハイライトが消え、死んだ瞳が四人の冒険者へと降り注がれる・・・因みに、剣を押し戻したBランクの冒険者はいつの間にかギルド嬢の射線から消えていた。
四人の冒険者はギルド嬢へと剣を引き抜き、構える・・・が、その剣の鋒は恐怖のあまりにぶれて焦点があっていない。
「その身をもって己が『愚』を知れ」
その瞬間、ギルド嬢・・・シロタエから一気に膨れ上がった殺気が爆発する。殺気の奔流とは裏腹にふわりと空中に舞い上がった、麗らかな女性職員の姿が一瞬にして掻き消える。
次の瞬間には一番後ろに立っていた男の目前へと出現し、ギルド館内に響き渡る程の爆音が響き渡る。
バチィィィイィィイイィイィィィイィン・・・遠心力と急接近した勢いそのままに振り切られた平手打ちが男の顔面を正確に捉え、首が180°回転する。ゴキンという鈍い音が遅れて響き渡ると同時にどさりと男が床に沈む。
それに気づき、後ろへ振り向いた冒険者達の視界にシロタエの姿は映らない・・・。
「私はこっちにいますよ・・・よそ見はいけないわね」
左にいた男の後方から音が響いたと同時に、急に視界が反転しまたも男の首が180°回転し、意識が消え行くと同時にシロタエの喜悦に染まった表情が脳裏に焼きついた。
「う、うああああぁぁあぁぁぁぁああぁぁ!!!!!」
それを見たリーダー格の男が引き抜いた剣を振り翳し、力のままに横薙ぎに振るう。力任せに振り切られた剣は、空気を断裂させる凄まじい音を残し、銀線を宙に残すに終わる。
その刃は何も捉えることはなく、虚空を切り裂くに終わる。
「・・・あ、飛ん」
リーダー格の男の方にいた男が空中に身を踊らせたシロタエの姿を認めた直後、首が180°回転し、また同様に床に突っ伏し鈍い音が館内に響き渡る。
一瞬の出来事が三人の尊い命を犠牲にし、『ギルド嬢』の観劇の舞台の幕を開かせたのだ。
手をパッパと振り払い、フゥと息を吐いたシロタエは最後に残ったリーダー格の男へと瞳を向け、ニコリと今までにない微笑みを向ける。
細められた目は・・・されど薄眼を開けており、途轍もない不気味な笑みへ昇華している。
「さて、残るは貴方だけですね。リーダーとしてご覚悟はできているのでしょう」
「あ・・・あ・・・」
「シヌカクゴワデキテイマスカ?」
バタンッとリーダー格の男が恐怖のあまり意識を手放した。
あまりにも呆気ない幕引き・・・しかして、壮絶と言わしめんばかりの一連の騒動に、周囲で見守っていた冒険者達の顔色がみるみる内に青褪めて行く。
カナンギルド最強のAランク冒険者パーティー『風の導き』、ベヒーモスを倒したとされるパーティー『孤高の魔法剣士』・・・それに続く推定Sランク?『ギルド嬢』のシロタエは街の冒険者であるのなら知らぬ者はいない。
男達はつい先日他の都市からこの街に流れ着いた流れの冒険者であった。だからこそ、この街の掟である『ギルド嬢には逆らうな』を知らなかったのだ。
しかし、まだ良かった。
もし、あの冒険者がタブーを『二言』発していたならこの程度では済まなかっただろう・・・『三言』発していたならば想像を絶する惨状が繰り広げられるだろう。それ以上は考えたくもない。
あの日、『そんな奴ほっといて』『俺なんかより弱い奴』の『二言』を言い放ったあの冒険者の姿を今だに見た者はいない。
なんの警告もなく胸倉を掴みあげ、意識もないというのに無言で殴り続けた彼女の姿を、その日『依頼更新日』で集まっていた冒険者達は見ていたのだ。
止めに入った冒険者を片っ端から殴り倒し、それに激高した冒険者達がギルド嬢へ襲い掛かり、全てが返り討ちにあい、死屍累々の墓場と化したギルド館内の惨状を知っている者は少なくない。
偶々街に戻ってきていた『孤高の魔法剣士』の・・・確か、『サミエラ』だったかが止めに入っていなければ、あの惨状はそれ以上に凄惨な事態になったであろう。
「配下を纏めるリーダーがそれでどうするのですか? まぁいいでしょう・・・」
ギルド嬢は四人の冒険者の足首を掴み、ギルドの奥へと引っ張っていく。
そして戻ってきた彼女は受付へと戻り、筆を取って書類にサインを施していく。その上司顔負けの圧倒的な書類捌きもさることながら、今まで殺気を迸らせていたと思えない程に飄々とした彼女の姿に誰もが口をぽっかりと開け、彼女を凝視する。
黙々と作業を進める彼女の背後にゆらぁりと、人影が現れる。
「シロタエちゃん。あの奥に放り込んだ人達は何?」
「ゴミ・・・もとい冒険者です。教育がなっておりませんでしたので仕置をしたまでです」
「・・・前もあったわよね? 我慢するって約束じゃなかった?」
「だから殺しまではしていませんよ?」
「・・・取り敢えず、ちょっと奥に来てもらっていい?」
「はい」
カナンギルド副マスターに連れられ、ギルド嬢はギルドの奥へと連れられていった。
殺してないんだ、という冒険者達のどこか間違った安堵感がギルド館内を包み込み、ギルドでは冷静に礼儀正しくしなければならないという掟が作られた日であった。
冒険者達が何も言わず、受付に一列で綺麗に並んでいる姿、慌てず騒がず依頼を受けている様は、他の都市から来た冒険者達を呆気に取っていた。
しかし、このカナンではそれが掟・・・『命が惜しくばギルド嬢には逆らうな』、掟を知らぬ者がいれば被害が出ぬよう冒険者で手を取り合って伝えあおう・・・もし事が起きてしまったなら、見守ろう。
今日もカナンギルドは平和?である。
次週は出来れば二部あげたいなと思っていますが・・・『ギルド嬢①でした!』の続きと本編の方をあげる予定です。
あくまで予定なので、仕事の方が忙しくなってしまった場合は・・・次次週に持ち越しということで宜しくお願い致します。
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!