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幕間:二人の英雄でした!

沢山のブックマーク、評価、感想ありがとうございます。


帝王、そして騎士長です!!


次話投稿は一週間以内です!

 ---------------帝都:ダミーボアでした!


 side : 皇帝


 ダミーボアよりも遥かに大型の魔物・・・マーダーボアの群れが狭い洞窟の中に密集している。

 片足を軽く上げ、大きな蹄で地面を軽く蹴ると、固い地面がいとも容易く抉られる。

 ブルルと嘶き、白い蒸気を口元から発し、血走った目はぎょろぎょろと僕とヴァンク・・・いや、我と騎士長を舐め回す様に見ている。


 マーダーボア達は今か今かと我々に飛び掛かろうと息巻いている。

 やがてマーダーボア達は獲物を見定めたのだろう。全てが我の元へと視線を注ぐ・・・成る程、弱そうな奴から食いつこうという算段か。

 騎士長と我を見比べれば、どちらが弱そうなのかなど一瞬でわかる。体も小さく、筋肉もあまりついていない。騎士長と見比べてみれば、どちらが弱いのかは一目瞭然なのだ。


 腰の剣は既に手元に引き抜かれており、油断なく構えてはいるがA-ランクであるマーダーボアに付け焼き刃である俺の剣技など児戯に等しいだろう。

 それも、こんな一般の兵士に配布されているような剣を振るった所で、あのマーダーボアの体毛に阻まれてポッキリと折れてしまうだろう。


「・・・まぁ、聞くまでもないとは思うが、後ろは任せてもいいのですね?」


 騎士長の彼の意見はもっともだ。普通王は戦わない・・・戦うのは兵士や騎士、将軍、貴族の諸氏がお飾りとして出撃するだけであるだろう。

 王は頭脳で動き、国を纏めるのが仕事だ。


 だが、我が帝国はそうではない。

 いや、我はそうでない・・・自分の力のみで這い上がり邪魔なものは実力と策略で排除してきたのだ。泥を啜りに啜り、他者を踏み台に他者の血で足を染め上げ・・・身を血に濡らし這い上がってきたのが我だ。

 目上であろうが、身内であろうが邪魔であれば容赦しない。


【渇血】の名を背負い、我の忠臣である七爪を持って、この国を支配し強国とせしめたのだ。


「問題ない」


 マーダーボアが雄叫びをあげる。

 けたたましい叫び声が洞窟中に広がり、大地が脈動すると同時に一匹のマーダーボアが我に襲い掛かる。


 しかし、俺の心には波風一つ立たず、どの様にして目の前のデカブツを排除してやろうかと冷静に考え込んでいる。


 最近は戦場に降り立つことがなく、来る日も来る日も書類整理で色々と溜まっていたのだ。折角七爪達を参加させ、隙あらば我も参加しようと思っていた王国との演習も、あちらの事情で流れてしまった。


 そして仕事があらかた片付き、こんな機会に恵まれたのだ。

 折角の機会だ・・・ド派手にやってしまいたいではないか。


 っと、考え込んでしまっていると、マーダーボアが今から剣を振るっては間に合わない距離にまで迫っていることに気付く。


「近づかれたか・・・まぁ、手始めに、準備運動と行こうか」


 BUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!


 マーダーボアの巨体が我に直撃するかと思われた直後、巨大なマーダーボアの体を丸々飲み込んだ巨大な火柱が立ち上る。

 掌サイズの火の粉が彼方此方に飛び散り、火の奔流が薄暗い洞窟内の天井まで伸び上がり、薄暗い洞窟内を赤々と照らし出した。


 パチンッと指を鳴らすと、マーダーボアを飲み込んでいた巨大な火柱は嘘の様に消え去り、元の薄暗い洞窟へと戻る。

 だが、そこには先程まで威勢良く突進を仕掛けてきたマーダーボアの姿はない。


「丸焼きにしようと火力を調整したつもりだったのだが・・・まさか灰すら残らないとは思わなかったな」


 構えていた剣の先から青白い魔力が漏れ出し、次いで自分の身体を魔力の残滓が渦巻いている事に気付く。

 剣を触媒にして発された『魔法』はたったの一撃でマーダーボアをこの世から抹消してしまった。


 普通の魔法使いならば扱う事のできない中級の魔法・・・例え扱えたとしても魔力の欠乏により立つ事すらままならなくなるだろう。

 この魔法を行使できるとすれば、余程才能のある魔法使いの者だけであるだろう。


 しかし・・・これでさえ、準備運動だ。


「よし、魔力の調節は終わった。マーダーボアの勝てる見込みはもうないな」



 マーダーボアは今の出来事を見て驚愕している。

 我を食い殺そうとしていた気概は何処へやら・・・だが、そこも間合いだぞ。


「複合魔法『ヘルズストーム』」


 水の刃が形成され三匹のマーダーボアの周囲へと放たれる・・・通常であればこの魔法は直接相手に叩き込む低級魔法である。

 しかし、水刃はそのままマーダーボアの周囲を飛び回り、それはやがて勢いを増し目にも留まらぬ速さでマーダーボアの周囲を飛び交い始める。


 飛び回っていた水刃はやがて収束し始め、中に囚われたマーダーボアへと接近し始める。


 そして初めて、中に囚われたマーダーボア達は焦り始める。水刃から逃れようと中心へと身を寄せるが、巨体のマーダーボア三匹が上手く身動きを取れる筈もない。


 そして、一匹が水刃の渦を突き破ろうと突進する。そして外に脱出したマーダーボアは・・・細切れに切り裂かれ、それが一体なんだったのかさえもわからないオブジェクトとかしていた。

 残りの二匹も同様に、水刃により息絶えた。


「複合魔法『ライトニングブレイズ』」


 その惨状今まで見守っていたマーダーボア達が一斉に突進する。

 総勢八匹ものマーダーボアの突撃は、まるで狂気としか思えない程の壮絶さだ。しかし、己へ迫り来るマーダーボアを一瞥し、淡々と魔法を発動する。


 ニヤリと口角が歪み、剣先から放たれた一条の雷光が放たれる。それはマーダーボアの一匹を刺し貫き、同時にマーダーボアの体を燃え上がらせる。

 しかし、突進しているのはまだ七匹、一直線に放たれる貫通型の魔法では効率が悪い。


 だが、その直後刺し貫き燃え上がっているマーダーボアの身体が膨らみ、爆発する。

 中からは膨大な熱量の火焔が散布され、それに触れたマーダーボア達は同様に燃え上がり爆発する。


 群れをなしていたマーダーボアは、一瞬にして灰も残さず黒い影だけを地面に残すのみとなった


「さすが『魔弾鏖殺』と言われているだけはあるな」

「この程度なら、何度でもできるさ」


 圧倒的なまでの魔法の才。この世に生を受け、王族として何不自由のない生活を・・・送ったことなど一度もなかった。


 愛妾との間に生まれ、正妻に生まれたどの兄弟よりも全てが上であり、故に疎まれ蔑まれ利用され・・・そして、最後には母親を殺され、先代の王が危篤となり彼は命を狙われる事となった。

 愛妾との子などに王位継承権はない。しかし、彼の才能は兄弟の地盤を揺るがしかねない程に強大であった。


 そして・・・【渇血】が誕生した。


 兄弟の謀略に巻き込まれ、全てを失いかけた彼は・・・全てを利用した。自分を信じた者を、自分に着いて来た者を。

 年を経て、彼を自分の才能を振るった。有能なものを集め、小さな頃から『利用する為』に育てたスラム育ちの才ある者達を飼い慣らし、自分に着いてくる有能ながらも低位の貴族を引き連れ、クーデターを起こし、兄弟を殺した。


 彼の血塗られた歴史は、彼に『力』の有用性を強く印象付けた。

『力』さえあれば、自分を虐げる者などいなくなる・・・と。


 そんな彼にかかれば、この程度のことなど造作もないのだろう。


「お前の方も終わったのか?」

「王国騎士長を舐めて貰ったら困るな」


 騎士長の背後には一太刀で葬られたマーダーボア達の残骸がうずたかく積まれていた。

 我と同じ様な一般の兵士が使うような剣だというのに・・・使い手が違えばこうも差が出るものか。


「多分大丈夫だとは思うが・・・早くユガ達の元へ戻ろうか」

「【渇血】と呼ばれているにしては、情が入れ込んだみたいだな」

「ふふふ・・・利用できるものは利用する。その為には恩を売っておかないといけないからな」


 闇の様に暗い微笑みと引き攣った笑みだけが、薄暗い洞窟の中に残った。






 ---------------帝都:賊の討伐でした!


 Side 騎士長


「アアアアアァァァァァ!!!」

「遅いな」


 松明の光に彩られた薄暗い闇の中を、真紅の血液がまるで噴水の様に吹き出し、地面をしとどに濡らしていく。


 剣と剣が鍔競り合う音が響き、次いで肉が切り裂かれる音と人があげる悲鳴がこだまする。

 ジャリッと幾つもの足音が響き、その中心にはたった一人の剣士が剣を携えながら立ち竦んでいるだけだ。


 やがて、その剣士は、はぁと溜息を吐くと、構えていた剣を面倒臭そうに肩に乗せてつまらなそうに己を取り囲む有象無象へと目を走らせる。


「なんだ・・・弱者には剣を振り翳し、俺の様な強者には弱腰とは話にもならんな」

「ぜ、全員で囲んでやっちまえ!!」


 剣士の周りを取り囲んでいた賊は、剣を構え一斉に飛び掛かる。


 剣士は肩に預けていた剣をゆっくりと降ろし、飛び掛かって来る賊共を一瞥する。

 そして至極つまらなさそうに、先程と同じ様に、されど剣速だけは格段に吊り上げて一人ずつ斬り伏せていく。


「・・・はぁ、ユガの様に俺を燃え上がらせる歯ごたえのある奴はいないのか? まぁ、それはどうでもいいとして、お前がそんな様でどうするよ・・・」


 屍体が散乱する洞窟の横穴の一つ・・・その一番奥には鎖で雁字搦めにされた巨漢の姿が映し出される。

 ・・・だが、その巨漢の姿は面妖の一言に尽きる。口のまわりからは髭が伸び始め、筋骨隆々であり、眼前に立つ剣士よりも遥かにガタイの良い存在だ。


 しかし、その偉丈夫な体つきに当然似合う筈もない、ボロボロになったきついショッキングピンクのドレス。顔にはべったべたに塗りたくられ、時間経過によってひび割れを起こした化粧。


「『エリーザ・ローラ』・・・、いや、元王国騎士長『エバンディス・ローランド・バンジット』」


 巨漢はその言葉にピクリと身体を動かし、鎖をミシミシと軋ませながら自分の眼前に立つ剣士へと視線を向ける。


「あんた・・・なんで私の前世を知っているのよ」

「俺は現王国騎士長『ヴィンセント』だ。あんたの妻から名を聞かされた時は流石に驚いたな。敵国を恐怖のどん底にまで陥れた『兇鋼王』ともあろう者が・・・まぁ、ある意味では今でも恐怖に陥れてはいるな」


 エリーザ・ローラ・・・その正体は、昔王国の名を背負った最強の座に、十数年もの間座していた王国騎士長である。

『兇鋼王』・・・全身を包むフルプレートメイル、自分の身長を超えた大斧『バンディッド』を振り回し戦場を駆けた騎士。


 万を相手にたった五十人で突撃し、相手の被害は約半数の五千人・・・そして、自分達の被害はたったの三人という驚異的な戦果を残した英雄だ。


「現王国騎士長ねん・・・。まさかユガちゃんについていたのはこんな大物とは思わなかったわん。私も焼きが回ったものね・・・この私があの程度の賊に遅れを取るとはね」


 騎士長・・・ヴィンセントは剣を振り翳し、エリーザの体を雁字搦めにしていた鎖を切り落とす。


 エリーザを起こそうと手を伸ばし・・・そして振り返り、剣を振り抜いた。


 闇を切り裂き、飛来するのは人の頭程もある棘の付いた鉄の球体。


 遠心力と力任せに振り抜いた剣は、飛来する鉄球・・・モーニングスターを弾き返し、それを放った者の元へと返した。


「不意打ちとは、やはり賊らしい戦い方だな」

「チッ、面倒くせぇな。今ので死んでくれりゃぁ面倒もなかったって言うのにヨォ。やかましい剣戟が聴こえてくるから起きちまったじゃねぇか」


 エリーザに負けず劣らずの巨漢・・・その手にはモーニングスターを携え、鎖で繋がれた鉄球部分を片手に持ち、それを上空に放り投げ、もう片方の手の元手を思い切り振りかぶり今度はエリーザを狙った一撃を放つ。


 無論、それはヴィンセントによって防がれる。


「ッ!?」


 しかし、その直後、眼前にモーニングスターを振りかぶっていた筈の巨漢の姿が写り込む。巨漢の男は腕を振りかぶり、拳打を叩き込む。


 ヴィンセントはなんとかそれをいなすことに成功するが、続いてくる両手での拳打の嵐・・・そして拳をふりかぶると同時に蛇の様にうねり、横合いから飛来するモーニングスターとの三重攻撃がヴィンセントを襲う。


 怒涛の猛攻にそれでもヴィンセントは剣で受け流し、体を捻る事で避け、モーニングスターは避け、弾き、或いは重い一撃をガントレットのみで受け止める。


「チクショー・・・あいつみたいな戦い方しやがって、ウゼェんだよ!!! あいつさえいなければ、俺が序列一位だったってのによ!!!」


 巨漢の男は喋りながらも攻撃の手を緩めない・・・それどころか、拳速は徐々に速さを増し、ヴィンセントを追い詰める。


 これ以上は下がれない。

 これ以上後退してしまえば、エリーザへと被害が及んでしまう。


「はぁ、恐らく幹部クラスか・・・捕虜が欲しかったのだがこれでは仕方ないな」

「はぁ? 何を言って」


 ヴィンセントの瞳に闘志がたぎる。


「スキル:『號牙刃衝』」


 剣が黄色の光に包まれ、剣の刀身から幾つもの魔力の牙が生え、巨漢へと振り下ろす。

 牙が巨漢に襲い掛かり、咄嗟に身を引いた巨漢であったが、剣から魔力の顎が巨漢へと襲いかかる。


 モーニングスターを振りかぶるが、柄の部分と鉄球を結ぶ鎖が牙によって断ち切られ、アギトは巨漢へと食らいついた。


「ガッ・・・アッ・・・グッ・・・くそが!!!」

「ほぅ。これを食らってもまだ、立ち上がるか? まだ楽しめませてくれそうだな」


 ヴィンセトは眼前に立つ、牙によって至る所を食い破られた巨漢の姿を確認する。


「死ねや!! エクストラスキル:『万死暴爆』


 エクストラスキルの言葉に、ヴィンセントは振り抜いていた剣を眼前に構えなおし・・・なおし・・・なお?


 ヴィンセントの手に握られている筈の剣がない。


 そして


「隙だらけネェェェエェン」


 巨漢の男の背後に崩れた化粧顔の大男が剣を携えて立っていたのだ。


「ナッ・・・」


 ズドン・・・なまじ剣の立てる音ではない破砕音が響き渡り、俺の眼前に立っていた筈の巨漢の男が・・・左右に泣き別れとなる。

 切り口から噴出した膨大な血液はエリーザを赤く染め上げ、もはや化け物を通り越して魔王にしか見えなくなってしまった。


「油断は大敵よん・・・」

「・・・どこが焼きが回っただ。いつの間に俺の剣を取ったんだ」

「まだまだ、剣の腕は現役なのだけど・・・もう人の悪意を読む事ができなかったのよ。その時点で私は終わり、次代に託したってわけよ。それに、私と貴方が本気で戦ったところで、私は貴方の髪の毛一本斬る事は敵わないわね。貴方遊んでいたでしょう?」

「・・・」

「まぁ、いいわ。早く娘さんをって言いたいけれど、その様子じゃユガちゃん達が助けているのでしょう・・・それじゃあ、指輪探しに付き合ってくれるかしら? 結婚指輪なのよぉん」

「はぁ・・・付き合おう」


 何処かげんなりとしたヴィンセントとスッキリした様なエリーザは、指輪を求めて洞窟内を散策し始めた。


魔法使いの帝王様と、色々と散々な目にあった騎士長さんでした。




宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!

遠慮なくこの物語を評価して下さい!!


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。

(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)


感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!

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